魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百二十二話『それぞれが進むべき道は…』

『邪龍戦役』が終局し、それぞれの勢力は事後処理をしていた。

 

特に人間界で起きた『666』との戦闘は一部メディアで取り扱われたりもしたが、それぞれの神話勢力下で色々と手を回したり、神の御業によって自然を回復させるなど超常的な力をもってして一般人の記憶からも『何か大変なことが起こってた』という認識程度に落とし込むのが精一杯だった。

というもの以前、絶魔勢の各次元世界に敢行したフィライトでの戦争映像の効果もあって、完全には払拭出来ていないのだ。

 

なので、人間界…地球では一般人でも一部ネット界隈では別次元世界は実在するなどという話題で沸騰していたりもする。

もちろん、一部で沸騰してるだけで一般人全体で見れば、極僅かなものではあるものの、そういった話題が出てきているのも事実であった。

また、次元世界の存在を認知している異形界隈もまた隠蔽するのに一苦労している。

 

此度の戦いで、失った者も多いが、ちゃんと希望が育っていたことも判明した。

 

明星の白龍皇『ヴァーリ・ルシファー』。

燚誠の赤龍帝『兵藤 一誠』。

次元辺境伯にして覇王『紅神 忍』。

紅の冥王『神宮寺 紅牙』。

次期海王『海斗・アトランタ・アクエリアス』。

 

次世代の若者達の中でも特に注目を集める5人の名が挙がる。

 

イッセーとヴァーリはそれぞれ邪龍最強格のアポプスとアジ・ダハーカを単騎で撃破し、冥界では新たなる超越者候補として認識されている。

さらにイッセーには上級悪魔への昇格の話もあった。

悪魔に転生してからたった1年足らずで上級悪魔へと昇格するのは異例中の異例なことだ。

 

先の戦いでは上記の2人のサポートに徹していた忍と紅牙の注目もそれなりに高い。

それぞれ眷属の駒を持ち、先の戦いでは量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧の討伐に多大なる貢献をしていた。

 

そして、海斗。

邪龍戦役とは直接関わりはないものの、忍を通じて地球の各神話勢力に対して、隣接する次元世界『ブルートピア』の『ネオアトランティス王国』代表として正式な和平を結ぶために動き出す。

忍が間を持った結果、次元世界『フィライト』に続く第二の認識次元世界として各勢力との和平同盟に加入することになる。

 

 

 

そうして事後処理は続いていき、邪龍戦役が終結してから実に数日が経った頃のこと。

 

「これで確認できる範囲でエクセンシェダーデバイスは全て出揃ったことになるな」

 

明幸家の居間で忍がこの場に集まった紅牙と海斗に向けてそう言っていた。

 

「そうなるな」

 

紅牙が静かに頷く。

 

「俺の陣営にはアクエリアス、スコルピア、キャンサー、ピスケス」

 

忍の陣営に4機。

 

「俺のところにはサジタリアスとヴァルゴがいるな」

 

紅牙の陣営の2機。

 

「俺のレオと、薫さんのライブラ」

 

海斗の陣営に2機。

 

「そして、明確に敵に属しているのがカプリコーンとタウラス。特に勢力には属していないはずのアリエスとジェミニ」

 

敵勢力に2機、所属不明が2機といった具合だ。

 

「う~ん…俺はいまいちピンときてないけど…揃ったからと言って、どうにかなるのか?」

 

そこに海斗が首を傾げながら質問する。

 

「それは俺も思った。揃ったから、どうだと言うんだ?」

 

それに紅牙も同調し、忍を見る。

視線を向けられた忍の答えは…

 

「いや、俺も知らん」

 

言い出しておいて、わかっていなかったらしい。

 

「「おい」」

 

紅牙と海斗が揃ってツッコミを入れるが…

 

「時空管理局でロストロギア指定の代物ってのは前にフェイトから聞いたが、それらが集まったからと言って何かが起きる訳でもないだろ?」

 

忍はあっけらかんと答える。

 

「当事者として、その辺どうなんだ?」

 

そして、チェーンブレスレットを取り出してアクエリアスに尋ねる。

 

『そうですね。私達としてもこうして再び集まることが叶うとは思いませんでしたので…』

 

『そだね~。僕ら自身も再集結するなんて思ってもみなかったし』

 

『うむ。こうして再び同胞に会えるのは実に久しい』

 

このようにエクセンシェダーデバイス達自身も口を揃えて集まることはないと思っていたらしい。

 

「まぁ、半分以上が味方陣営にいるのはいいとして…残りの4機だな」

 

紅牙が残りの4機について言及する。

 

「カプリコーンは確実に敵対する。ノヴァの野郎が持ってる以上、今のところは完全な敵だ」

 

「絶魔勢とかいうのの首魁か…」

 

「あぁ…そして、ロンドの奴が所属してる陣営だ」

 

「………………」

 

それを聞いて海斗の表情が一瞬だけ怒りに染まるが、すぐに深呼吸して平静を取り戻す。

 

「確か、タウラスの選定者も敵だったな?」

 

「あぁ。次元間で活動する密猟者らしい。昔、萌莉が世話になったらしくてな…どっちも俺の敵には違いない」

 

紅牙の問いに忍は苛立ちを隠そうともせずに答える。

 

「なら、所属不明のジェミニやアリエスは?」

 

場の空気を変えるために海斗が質問すると、忍が微妙な表情をする。

 

「アリエスに関しては近くにいるのだろう?」

 

「まぁ、一応は…」

 

続いた紅牙の問いにも微妙な顔のまま答える。

 

「雅紀さんとは、アレからまともに話せてないんだよな。あの人も3年生で、大学部に確か進学のはずなんだけど…」

 

正月の集会のことを言っているのだろう。

忍も何度か暇を見つけて接触しようとしたのだが、ことごとく無視されている。

 

「根が深そうだな」

 

「まぁ、これも俺が解決しないといけないことなんだよな…」

 

敵対しているにしても、所属不明の機種にしても、なんだか忍の負担が大きいようにも感じる。

 

「じゃあ、ジェミニは?」

 

残るジェミニの所在を聞くが…

 

「そいつは…俺も知らないんだよな」

 

忍は首を横に振った。

しかし…

 

「俺は先日遭遇した」

 

意外なことに紅牙は遭遇したらしい。

 

「会ったのか?」

 

忍が尋ねると…

 

「あぁ。邪龍戦役の最終盤戦…俺はヨーロッパに向かっただろう? そこで、少しばかりな」

 

「どんな感じだった?」

 

「ふむ、なんと言ったらいいものか…」

 

「?」

 

以前、冥界で遭遇した時のことを知らない海斗は首を傾げていたが…

 

「奴は…」

 

紅牙はあるがままを伝えることにした。

 

………

……

 

それは、邪龍戦役の最終盤戦の時。

ヴァーリがアジ・ダハーカと死闘を繰り広げていた頃のことだ。

 

「また随分と派手にやっているらしいな」

 

氷と刃の世界から離れ、量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧の鎧に向かい、紅牙は砲撃の雨を降らしていた。

 

そんな風に移動しながら戦っていると…

 

『ん? マスター、ヴァルゴ以外のコアドライブパターンを感知したよ?』

 

「なに?」

 

この時、紅牙もエクセンシェダーデバイスを保持する者がすぐには思い浮かんでなかった。

敵だったら厄介と考え、サジタリアスが示した地点へと急行した。

 

そこで、紅牙が見たのは…

 

「サニィブラスター!」

 

双子座を象った白銀の鎧を身に纏った1人の男だった。

 

「現世の神!?」

 

天使と悪魔のハーフにして神クラスの力を持つとされ、双子座のエクセンシェダーデバイス『サンシャイン・ジェミニ』の保有者…『現世の神』の異名を持つ男『グレイス・ゼムナシオ』がグレンデル型の量産型邪龍を太陽の如き砲撃で打ち倒していた。

 

「? お前は…」

 

だが、以前冥界で遭遇した時よりも、どこか冷静というか落ち着いた雰囲気を纏っていた。

 

「(どっちだ?)」

 

天使の人格なのか、悪魔の人格なのか…?

紅牙は警戒しながらもグレイスの様子を窺った。

 

「サニィボム」

 

すると、グレイスはサニィスフィアを1個、紅牙の背後に向けて放ち、爆発させていた。

 

「!?」

 

紅牙が慌てて振り返ると、そこには量産型邪龍の屍が転がっていた。

 

「油断が過ぎる」

 

そう言ってグレイスは、その場から立ち去って次の戦場へと向かってしまった。

 

「………………」

 

呆気にとられた紅牙もすぐに別の戦場へと駆け付けることになった。

なので、それ以降…グレイスがどうなったのかはわからない。

ただ、あの戦いで死んだというのはあり得ないだろう。

 

………

……

 

「そんなことがあったのか…」

 

「あぁ…」

 

グレイスが暴れていた当時を知る忍と紅牙からしたら、その落ち着きようが気になって仕方なかった。

 

「話を聞いてる限りだと…少なくとも敵ではない?」

 

「楽観視は出来ないがな」

 

海斗がそう言うと、紅牙が否定気味に呟く。

 

「今の天界と冥界の体制を考えると…どう扱っていいのか、まだ手探りなのかもしれないな」

 

「奇跡の子、か…」

 

海斗はアリアの姿を思い出す。

ネオアトランティスでの一件の後、アリア自身が自ら告白してきた事実だ。

それと彼女自身に宿る血と神器についても…。

 

「悪魔との混血はそれなりに多いらしいが、天使との混血は正に奇跡に等しいレベルで少ないみたいだからな」

 

「それに…あれだけの力を持っているんだ。戦役時に出し渋る余裕もなかったんだろう」

 

「それでヨーロッパ方面に駆り出されたのか?」

 

「推測の域を出ないけどな」

 

そんな感じで他愛のない話をしていると…

 

「世界は…これから、どう動いていくのかね?」

 

「さぁな…」

 

「………………」

 

忍が漏らした一言に紅牙も海斗も明確な答えを返さなかった。

いや、返せなかった、というのが正しいか…。

 

しばらく沈黙した時が居間に流れた後…

 

「今日はありがとな。わざわざ来てくれて」

 

「気にするな。改めて確かめておきたかったからな」

 

「俺も今日は一応オフだったからね」

 

紅牙と海斗が帰宅するらしく、忍が見送りに玄関まで来ていた。

 

「じゃあな」

 

「あぁ」

 

「またね」

 

こうして3人は別れる。

しかし、それぞれの行く道はもう決まっていた。

 

忍は絶魔勢の野望を阻止するため、更なる高みを目指すために…。

 

紅牙は冥族の未来を確かなものとし、自らの贖罪のために…。

 

海斗はブルートピアの更なる発展のため、平和な世界を築くために…。

 

世界に希望を紡ぐため、若者達の道は続く。

 

 

 

そして、物語は新たな舞台へと移行していく。

激動する今の時代において、強者達の宴もまた…始まろうとしていた。

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