魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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18.卒業式のランクアップ
第百二十三話『一時の平和』


邪龍戦役が終局し、2月も下旬になった頃のこと。

『666』との戦いに旅立ったトップ陣を失った各勢力は代替わりとなり、新体制が敷かれつつあった。

 

その中で、各勢力の首脳陣から重大な発表がなされた。

 

『レーティングゲーム国際大会』。

和平協定に加盟している全勢力を巻き込んだレーティングゲームの大会が開催されるのである。

 

その発表に各勢力は大騒ぎだ。

だが、この時期にやるからこそ意味もある。

『666』との戦いに隔離結界領域へと向かった魔王や主神クラスといった者達の穴を埋めるべく、各勢力は後進を育成する時間が圧倒的に足りない。

次世代の者達による新体制も確立しつつあるが、それでも弱体化しているのには変わりない。

そこでどこかしらの勢力が他の勢力を攻め込んでみたら…その勢力が取り込まれる、もしくは壊滅的な被害を被る可能性だってある。

その可能性を極力避けるため、和平を進める過程で溜まっていたガス抜きを『レーティングゲーム』という名の代理戦争を行うことで発散させるのも目的の1つであった。

 

だからこそ、この国際大会の開催が決定されたのだ。

 

 

 

まぁ、それはさておき、そんな2月の暮れから3月初頭には高校生にとって年度最後の壁…そう、期末テストがあった。

それは駒王学園も例外ではなく、D×Dに参加していたり、色々と抱え込んでいた学生組もテストを受けていた。

そして、期末テストを終えた学生達は部活に勤しんだり、テスト明けの解放感もあって遊びに行ったりとしている中…

 

D×Dに所属する…というよりも異種族関係の者達はというと…

 

「いよいよ俺達も進級か」

 

旧校舎のオカルト研究部の部室にある程度の人数が集まっていた。

 

「色々あったからな」

 

イッセーの呟きに忍が肩を竦めながら答えると、この場にいる海斗に視線を向ける。

 

「海斗は国の方はいいのか?」

 

「今は宰相に任せてある。王位を継ぐなら、最低限学園は卒業しておこうかなってね」

 

「となると、まだ1年はこっちにいるのか?」

 

「まぁ、基本的にはね。他にも色々とやることがあるけど…」

 

そんな風に話し合っていると…

 

「そっちも気になるけど、イッセー君はこっちにも注意してね」

 

「あぁ、悪い」

 

木場に注意され、イッセーも部活内の話に戻る。

 

「来月からの新入生もそうだけど、他にもこちら関係でルフェイさん、九重さん、トスカ、ベンニーアさん…」

 

「俺の方からも領明やオルタ、シンシアなんかも正式にここに通うことになったな」

 

「こちらからも唯と奈緒が留学生扱いで来る予定だよ」

 

木場の説明に加え、忍と海斗からもそんなことが伝わる。

 

「随分と賑やかになりそうだな」

 

それを聞いてイッセー達も苦笑していた。

 

そうした明るい話題から、少し暗い話題も挙がったが、皆概ねいつも通りと言えた。

そして、話題は…

 

「そういえば、イッセー君も上級悪魔に昇格するんだって? 俺んとこに儀式の招待状が来たぜ?」

 

「俺の方にも早速招待状が届いたよ」

 

「マジか~。もう外堀は完全に埋められてるな…」

 

忍と海斗の言葉にイッセーがそんなことを言う。

 

「? 嬉しくないのか?」

 

「嬉しいのは嬉しいし、光栄なんだけどな」

 

どこか歯切れの悪いイッセーにイリナが声を掛ける。

 

「なんだか、複雑そうよね?」

 

「まぁ…そう見られてるのなら、そうなんだろうな…」

 

この1年で起きた数々の出来事。

頭では理解していても、心の奥底ではまだ咀嚼しきれていない。

イッセーは、そんなことを吐露していた。

そんなイッセーをアーシアが言葉で癒していた。

 

そんな時だ。

 

コンコン。

 

部室のドアを叩く音がして、全員が訝しげにそちらを向く。

 

「失礼します。ここに会長が…って、やっぱりいた」

 

一年生らしき男子生徒が書類を持って入ってくると、ゼノヴィアを見つけて溜息を吐く。

 

「黄龍か。どうした?」

 

「どうした? じゃないですよ。例のレポートが纏まったので、確認してください」

 

「あぁ、わざわざすまない」

 

「(黄龍? それにこの匂いは…)」

 

今のやり取りで忍は男子生徒の名前と纏っている空気に敏感に反応していた。

その間にも黄龍と呼ばれた男子生徒は物珍しげにイッセー達を見る。

 

「そういえば、皆との挨拶はまだだったか?」

 

それに気づき、ゼノヴィアが声を掛ける。

 

「えぇ、いつか紹介してくれると言って、そろそろ一月です。会長」

 

「すまんすまん」

 

ゼノヴィアが黄龍に謝りながら隣に立つと、彼を紹介する。

 

「こいつは、うちの生徒会に所属する書記で一年生の…」

 

「百鬼勾陳黄龍です。皆さんのお噂は色々と伺っています」

 

ゼノヴィアの言葉を引き継ぐ感じで、黄龍が挨拶する。

 

「ここでお会いするなんて珍しいですわ」

 

「百鬼くん、こんにちは」

 

「……コーチン、仕事?」

 

「よっ、いつもの三人組。あと、塔城。その呼び方とイントネーションはやめてくれって…名古屋コーチンみたいで嫌なんだよ」

 

一年生組がそんな風に会話していると…

 

「百鬼…五大宗家の筆頭。しかも名前から察するに次期当主か?」

 

忍が単刀直入に尋ねる。

 

「はい。まぁ、現状では、と言いますか。実は4年前に先代の『黄龍』が白龍皇や幾瀬 鳶雄さんとの事件で色々ありまして…」

 

なんとも歯切れが悪そうに黄龍は答える。

その後もゼノヴィアが黄龍はアジュカの元で残る神滅具『蒼き革新の箱庭』と『究極の羯磨』の捜索も手伝っているということを明かした。

その直後…

 

「赤龍帝の兵藤 一誠先輩」

 

姿勢を正してイッセーに一礼する黄龍は…

 

「あ、あぁ。なんだい?」

 

「実は俺…あなたを目標にしているんです。『赤い龍』の神滅具を宿しながらも、その身はごく普通の一般男子高校生だった。けど、あらゆる凶事が降りかかろうとも、全て乗り越えてきた。俺も…あなたのように運命に逆らうだけの力を得たいと思って生きてます」

 

イッセーを真っ直ぐとした眼で見てそのような想いを伝えていた。

 

「お、大袈裟だって。俺は、目の前に毎度訪れる理不尽を、仲間と一緒に振り切ってきただけだからさ」

 

「それが凄いことなんだと思いますよ。兵藤先輩、俺…あなたに山ほど教わりたいことがあります。もし、何かあったら遠慮なく言ってください。俺もあなた方の力になりますので。アジュカさんも、きっと許してくれるはずです」

 

そんな会話を横で聞きながら…

 

「イッセー君は人気者だねぇ~」

 

忍が出されたお茶をすすりながら和やかに言う。

 

「イッセー様が上級悪魔になるということは、それだけ注目が高いということですからね。これからも、様々な方達がイッセー様の元に訪れると思います」

 

忍の呟きにレイヴェルがそのように補足する。

 

すると…

 

コンコン。

 

再び部室のドアからノック音が響き、そこからリアスが現れる。

 

「イッセーはいるかしら?」

 

「え、俺?」

 

「えぇ、あなたにお客さんが来ているの。駒王町の地下まで付き合ってちょうだい」

 

「? 悪ぃ、ちょっと行ってくるわ」

 

リアスの言葉に首を傾げながらもイッセーが皆に一言断ってから席を立つ。

 

「わたくしもご一緒しますわ」

 

赤龍帝のマネージャーとしてレイヴェルも同行するみたいだ。

 

「早速、その来訪者かね?」

 

イッセー達が出て行った後、忍が何気なく呟いた。

 

「上級悪魔…と言っても、イッセー君の人気を考えれば、既に出てきてもおかしくはないかもね」

 

木場も忍の呟きに同意していた。

 

………

……

 

次の休日。

 

イッセー達オカ研メンバーを中心とした団体は、悪魔関係者に関連する無人島へと小旅行に赴いていた。

事の発端は、先日の兵藤家の夕食時、イッセーの父親が釣りに関する話題が持ち上がって熱弁した結果、急遽決まった企画だ。

参加メンバーはお馴染みのイッセー達オカ研メンバーに加え、紅神眷属、神宮寺眷属、海斗達、そしてヴァーリチームの面々だ。

なかなかの大所帯である。

 

「よ~し! 釣るぞ! わからないことがあったら、俺に聞いてくれ!」

 

『おおっ!!』

 

引率も兼ねてるイッセーの父親がそのように言うと、周囲からも声が上がる。

 

「お腹が空いたら言ってちょうだいね。色々と用意してきたから」

 

浜辺の一角でパラソルを開いて陣を敷いたイッセーの母親がそのように言う。

それに付き合うのはリアスや朱乃、智鶴、ユウマなどといった面々だ。

 

そこからは各個様々なグループに分かれて釣りを楽しむことに…。

 

ゼノヴィアとイリナが釣り勝負をするべくアーシアを連れていったり…。

 

後輩組(小猫、ギャスパー、レイヴェル、領明、オルタ)の釣り模様に便乗し、魚を美味しく頂こうと画策する黒歌がいたり…。

 

ウェットスーツを着て海に潜り、銛で魚を取ろうとするロスヴァイセに対抗して、秀一郎が海パン一丁で素潜りして素手で捕まえようとしたり…。

 

美猴がフェンリルに噛まれたり…。

 

木場がトスカに海を見せていたり…。

 

そして…イッセー、ヴァーリ、忍、紅牙、海斗の5人で連れ立っての釣りが始まったりと…。

 

とにかく、平和な時間を過ごす。

 

 

 

そんな中、注目株5人の釣りはと言うと…

 

「おっ、早速一匹目か」

 

ヴァーリが最初に釣り上げていた。

ちなみに場所は陣のちょうど反対側に位置する磯部で、少しだけ間隔を開けて5人並んで釣り糸を垂らしている(右から順番に紅牙、ヴァーリ、イッセー、忍、海斗といった感じだ)。

 

「ぬぅ~…こういうのは性に合わん…」

 

どこかじれったそうに紅牙が竿の先を見つめる。

 

「紅牙。あまり殺気立つな。まぁ、その魚がこちらに来るなら何も問題ないが…」

 

「なんだと!?」

 

ヴァーリの言葉に紅牙が驚いて大声を出す。

 

「……あと、大きい音も厳禁だ。魚が驚いて逃げる」

 

それをヴァーリが注意する、というなんとも珍しい光景だ。

 

「やけに詳しいな?」

 

「アザゼルによく連れてこられたんでね」

 

「そっか。先生も釣りしてたって言ってたっけ」

 

「堕天使の長が釣りか…」

 

「あまり想像できないかも…」

 

イッセーとヴァーリの会話に忍と海斗が想像しようとするも、出来なかったりと…。

 

『………………』

 

しかし、そのアザゼルの話題になった途端、全員が黙りこくる。

 

「もうすぐ、上級悪魔昇格の儀式か」

 

しばらくしてヴァーリがイッセーに話題の水を向ける。

 

「あぁ、明後日だ」

 

イッセーの上級悪魔昇格の儀式は日本時間では平日であり、当日は学園を休むことになっている。

関係者全員のスケジュール的な問題で、その日しか合わなかったらしいのだ。

 

「明後日は紅神眷属を代表して、俺だけが参加するけどな」

 

「俺も似たようなものだ」

 

「俺もかな?」

 

その話題を聞き、忍、紅牙、海斗もそれぞれ答える。

 

「……ぶっちゃけ、あんまし実感がないんだよな」

 

過去に例のないほど注目を集めるイッセーの上級悪魔昇格の儀式。

冥界のメディアだけでなく、各勢力も注目していて招待を受けているところもある。

 

「当然だろう。君は冥界を何度も救った英雄だ。冥界だけじゃなく、各勢力からも注目されてもなんらおかしくはない。なに、儀式なんてすぐに済むさ。そして、こんなものをいただく」

 

ヴァーリは自らの釣り竿を一旦横に置いてイッセーに近寄ると、懐から丸めた羊皮紙を取り出して見せる。

そこには悪魔文字で難しい文章が書かれていたが、ある一文にイッセーの目は留まった。

 

『汝、ヴァーリ・ルシファーを最上級悪魔とする』

 

「ッ!?」

 

「なんだなんだ?」

 

イッセーが何も言わないものだから、他の3人も何事かと釣り竿を置いて見に来る。

それで仲良くヴァーリの最上級悪魔になったことを知ると…

 

「なに!? お前、いつの間に!?」

 

「わ~お…」

 

「今更感すらあるんだが…」

 

「お、おい、マジかよ!?」

 

紅牙、海斗、忍、イッセーの順にヴァーリに声を掛ける。

 

「一度は断ったんだが、これもアザゼルの遺志と聞かされてな。秘密裏にだが、受けさせてもらった」

 

何事もないようなことを言ったヴァーリに対し…

 

「ぷっ、あっはははは!」

 

それを聞いてイッセーは大笑いしていた。

 

「実感がない? 俺もだよ。そんなものだ。特に君の場合はかなり特殊でもある。悪魔となって僅か1年未満での昇格だからね。そして、それは君の身に降りかかった出来事の数や質もそうだ」

 

そこでヴァーリはイッセーの身に降りかかった出来事を列挙していく。

半分くらいは忍も関与していたこともあるので、忍も自らの頬を指で掻いていたが…。

 

「こんな歴史が変わるほどの出来事が1年の間に何度も起こるなんて、例がほぼないだろう。俺達は、そんな時代を生きているんだな。それを生き抜いてきたら、当然格が上がるなんてことも起きるだろう。下級、中級の酸いも甘いも味わい尽くす前に上級へと昇ったんだ。戸惑いが強く、心が追い付かなくても仕方ないことさ」

 

そんなヴァーリの言葉を、イッセーは…

 

「……なんか、アザゼル先生みたいな言い方だったぞ?」

 

笑いながらそう言っていた。

 

「……そうか」

 

ヴァーリがそう返すのを見て、残る3人も微笑ましそうに自分達の釣り竿の元に戻る。

 

そんな感じに再び無言の釣りの時間となったのだが…

 

「「ところで」」

 

不意にイッセーとヴァーリが口を揃えて声を出す。

 

「……言えよ」

 

「出るのだろう?」

 

「レーティングゲームの大会か? どうすっかね…そっちは当然…」

 

「あぁ、出る。君が出ずともね。これは好機だ。既に登録済みの選手の中には神クラスが何柱か確認している。誰にも迷惑をかけずに、それも公式に神に挑めるなど、このチャンスを逃す手はない」

 

そう言いながらもどこか戦闘狂らしい好戦的な笑みを浮かべ…

 

「これで昂らなかったら嘘だろう?」

 

ヴァーリはそう言っていた。

 

「……そっか。そっちの3人は?」

 

話に耳を傾けていた忍達にも話題を振ると…

 

「俺は出る予定だ」

 

紅牙が率先して参加表明していた。

 

「う~ん…実を言うと、俺も出てみたいけど…周りがなかなか首を縦に振ってくれなくてね。それに人材不足の問題もあるし」

 

海斗の方はちょっと参加が難しそうだと言っていた。

 

「俺も出るかな。神クラスと戦えるなら、絶魔の神とやらとぶつかった時の演習にもなるしな」

 

忍はレーティングゲーム大会というよりも、その先で待っているだろう絶魔との戦いを見据えて動いているようだった。

 

「そこで兵藤 一誠。君のチームと戦えたらと思ったら…これ以上ないものになると思っているのだがね。それは既に参加を表明している曹操やサイラオーグ・バアル、デュリオ・ジェズアルド、紅神 忍、紅牙も同じ思いだろう。あの温厚な幾瀬 鳶雄ですら自らが『王』となって参加する予定らしいからね」

 

「………………」

 

それを聞き、イッセーは自らの思いを馳せる。

 

「君は変わった。性欲に正直なところは変わっていないが、それでも君の瞳には女以外にも欲しいモノが出来たと、そう言っているようにも見える」

 

「………………」

 

イッセーが押し黙っていると、ヴァーリが今日一の引きを見せ、大物である魚を見事に釣り上げる。

 

「だが、まぁ…今日の釣りは俺の1人勝ちだな」

 

そう言って片付けを始めるヴァーリは…

 

「それと、俺の所にも君の儀式に関して招待状が来ている。気が向いたら、見に行くよ」

 

「そりゃ、ど~も」

 

頭を掻きながらイッセーがそう言って天を仰ぐ。

 

「(わかってる…俺だって、俺だけのチームで…)」

 

その強い想いはふつふつと、イッセーの中にこみ上げていた。

 

………

……

 

その頃…

 

「やれやれ…些か計画が狂いましたね」

 

邪龍戦役を経て、ノヴァが変異フロンティアの中で困ったように首を振っていた。

 

「ですが、着実に多次元世界への干渉が始まりつつあります。まぁ、それもまだ微々たるものですが…」

 

わざとらしく溜息を吐き、報告にあった案件の書類を手にする。

 

「それにしても、レーティングゲームの国際大会ですか…」

 

そこにはレーティングゲーム国際大会に関する報告がある程度書かれていた。

 

「破壊神シヴァもバックにいるとなると、些か厄介ですね…」

 

しばし、眼を閉じて思考の海へと潜る。

 

「………………」

 

そして…

 

「いいでしょう。茶番…というわけでもないでしょうが、この企画に乗ってあげましょうか」

 

ノヴァの中で考えがまとまったのか、そんなことを言う。

 

「ふふふ…例の計画と同時進行になりますが…まぁ、いいでしょう。そろそろ彼等も堪え切れない頃でしょうしね。たまには宴に参加するのも一興ですかね」

 

そんなことを呟き、自室として使っている部屋から出るノヴァは…

 

「それに…『彼等』の初陣にはもってこいでしょう…」

 

暗く黒い笑みを浮かべていた。

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