魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百二十八話『13番目のエクセンシェダーデバイス』

『燚誠の赤龍帝』チームと『雷光』チームとの試合。

それは圧倒的なパワーによって盤上を覆した燚誠の赤龍帝チームの勝利に終わった。

その際、イッセーは朱乃への想いをバラキエルに伝え、真にハーレム王を目指すことも声高らかに宣言してみせたのだ。

 

この試合の後、評論家の厳しい意見は変わらなかったが、一つ新たな意見が付け加えられた。

『彼らは多くのチームにとって単純明快な恐怖(パワー)である』、と。

 

それから数日後、今後の対戦カードの発表が行われていた。

その中でも特に注目されたのが…

 

『紫金の獅子王』サイラオーグ・バアルチームvs『天帝の槍』曹操チーム。

 

『燚誠の赤龍帝』兵藤 一誠チームvs『天界の切り札(ジョーカー)』デュリオ・ジェズアルドチーム。

 

『紅神眷属』紅神 忍チームvs『刃狗』幾瀬 鳶雄チーム。

 

『紅』神宮寺 紅牙チームvs『明星の白龍皇』ヴァーリ・ルシファーチーム。

 

以上、4つの試合だ。

 

力の体現者たるサイラオーグと技の天才である曹操との一戦。

冥界の英雄たるイッセーと天界のジョーカーであるデュリオの一戦。

ここまで沈黙を保ってきた忍と紅牙もそれぞれ刃狗チームとヴァーリチームと当たることになった。

 

この組み合わせが発表された時の会場はかなりの歓声が上がっていたようだ。

 

だが、忍にはもう一つ気になる組み合わせもあった。

 

『ディストピア』ノヴァチームvs『ソーナ・シトリー』ソーナ・シトリーチーム。

 

絶魔勢と冥界の若手チームという組み合わせの一戦だ。

ノヴァが一体どのような戦法を取るのか…特殊ルールにもよるだろうが、これでノヴァの出方がわかるというものだ。

試合の日は、先に挙げた4つの試合よりも比較的早い段階で行われるらしい。

 

しかし、この時の忍達はまだ知らない…。

この試合前に行っていたノヴァの下準備を…。

 

………

……

 

注目の試合があったとしても、それまでの間には当然ながら細々(こまごま)とした試合はある。

 

様々なフィールド、ルール、対戦相手。

勝つチーム、負けるチーム。

 

そうして大会が進んでいく中…。

 

遂に忍が注目するカードの試合の日となる。

シトリー眷属vs絶魔勢の試合だ。

 

『さぁ、本日もアザゼル杯の一戦が始まろうとしています! 本日の対戦カードは、魔王レヴィアタンの妹にして「若手四王」の一角、ソーナ・シトリーチームと、謎のベールに包まれたディストピアチームの一戦だ! それでは、早速ルールの選定といきまっしょう!!』

 

悪魔の実況がテンション高めに宣言していく。

 

「………………」

 

「ふふふ…」

 

忍からある程度の話を聞いていたソーナが警戒しながらノヴァを見ているが、ノヴァはそれを軽く流していた。

 

『今回のルールは……おっと、ダイス・フィギュアに決定しました!』

 

会場の観戦室の一室には忍の姿もあった。

 

「ダイス・フィギュア。以前、イッセー君達とサイラオーグ・バアルとが戦ったルールか」

 

ルールを聞きながらも、忍はノヴァの姿に注視していた。

 

「(ずっと身を隠してきたはずのノヴァが、この場に姿を晒す。どういうつもりだ?)」

 

『なお、ディストピアチームには駒価値が3以上の選手しかいないようなので、ダイスが2の場合でも振り直しとなります。また、互いの王の価値ですが……ソーナ選手が6、ノヴァ選手が7ということになりました』

 

忍が思慮している間にも実況が駒価値や細かなルールを説明していた。

 

『では、互いの陣地への移動を!』

 

「あなたの所業は紅神君から聞いています。油断はしませんよ」

 

「ふふふ…狼さんですか。では、彼にも改めて見て頂きましょう。我ら絶魔の力を…」

 

一言だけ、王同士が言葉を交わした後、互いの陣地へと向かい、ソーナとノヴァが台座の前へと立つ。

 

『ダイス・シュート!!』

 

実況の合図と共に2人が、ダイスを振る。

 

『出た目はソーナ選手が2、ノヴァ選手が3…合計は5!』

 

出た目が決まり、互いの陣地が隔離されて選手の選定に入る。

 

「(いきなり戦車が出れる数値。匙君を出してもいいが…ソーナ先輩の陣地で最大戦力である匙君を出すのはまだ早い。となると、ルガールさんか? もしくはベンニーアさんや巡さんと、駒価値が低い仁村さんか、火照君だったか? を出す可能性もあるが……ノヴァ側が誰を出すかで話は変わってくる。新規の2人はともかく、残る六天王は全員が禁手に至ってる。それだけに厳しいかもしれないな…)」

 

忍がそのようなことを考えていると、出場選手が決まったのか…バトルフィールドに選手が転送される。

 

『ソーナ・シトリーチームからはルー・ガルー選手! 対するディストピアチームからは…ジン・マドロックス選手!』

 

「いきなりジンのやつか…」

 

森林のバトルフィールドで対峙するルガールとジン。

 

『………………』

 

『あ゛ぁ゛?』

 

無口なルガールに殺気をぶち当てるジンといった構図だが、ルガールは冷静にジンを観察していた。

 

『では、第一試合。開始!!』

 

審判の開始の合図でジンが早速動く。

 

『オラァ!!』

 

ジンが大振りな拳でルガールを殴りに行く。

 

『………………』

 

ルガールの方は冷静に狼男へと変身すると魔法で身体強化を行い、ジンの大振りな拳を避ける。

 

が…

 

ズガァンッ!!!

 

避けたジンの拳はルガールの後ろにあった木々を纏めて吹き飛ばしていた。

 

「ジンはイッセー君やサイラオーグ・バアルと同じく格闘系のパワータイプ。それが戦車枠なんだ。このくらいはしてくるだろうが…あいつの真価は…」

 

ジンの攻撃を見て忍も冷静に分析していた。

 

『パワータイプか。ならば…!』

 

一方でジンの戦闘スタイルを察したルガールの対応も早かった。

ジンとの肉弾戦を避け、魔法戦へと移行したのだ。

 

『チッ』

 

それを受け、ジンはあからさまにうざったそうな舌打ちをする。

しかし、いくら魔法を受けたところで…。

 

『あぁ~っと! ジン選手! ルー選手の攻撃に防戦一方か!?』

 

実況が場を盛り上げようと声を発した次の瞬間…

 

『…死ね!!!』

 

ゴォォ!!!

 

ジンの怒りが表れたかのような業火がジンから巻き起こると、周囲の森林に燃え移り、それらを灰塵に帰すかの如く燃え盛り始める。

 

『これは…!?』

 

『だぁー…チマチマチマチマ、鬱陶しいんだよ!!! 戦車ならこれ(・・)でこいや!!!』

 

驚くルガールを見ながらジンは己の右拳を握り、一直線にルガールに向かう。

 

『っ!?』

 

その攻勢に一瞬だけ反応が遅れたルガールだが、両腕をクロスしてそこに防御魔法を何枚か重ねて守りに徹する。

しかし…

 

『そんな柔い薄皮で、俺を止められると思うな!!!』

 

バリンッ!!

バリンッ!!!

バリンッ!!!!

 

ジンの拳はルガールの防御魔法をまるで紙くずのように割っていき、ルガールのクロスした両腕を捉える。

 

『ッ!!?』

 

『そんな程度の腕で、俺の戦場に立つなや!!!!』

 

ジンの拳がルガールの狼男と化した強靭な肉体を軽々と吹き飛ばす。

 

『がっ!?』

 

後方で燃え盛っていた巨木に背中から激突したことで、意識が刈り取られたのか、バトルフィールドからの退場エフェクトが発生する。

 

『そこまで! ソーナ・シトリーチーム、戦車一名の脱落を確認。勝者はディストピアチーム、ジン・マドロックス選手です』

 

審判が高らかに宣言を下す。

 

『決まったぁぁぁぁ!!! 此度のダイス・フィギュア! 初戦を制したのはディストピアチームだ!!』

 

実況の声に会場は場の雰囲気に流され、歓声を上げる。

 

『………フンッ』

 

その声が聞こえたわけでもあるまいにジンは鼻を一鳴らししてから消えていくルガールに背を向けた。

 

「やはり、ほぼノーダメージか…」

 

そんなジンの挙動を見て忍は別の視点から分析を行っていた。

 

「(ジンの真価は、単純な火力パワーファイターバカではなく、その異常な修復(・・)能力にある。回復なんて生易しくはない。あいつは、傷を負っても瞬時に修復しちまう。そんな能力を持って死なないのは、奴がそれだけ濃い妖力、ないし魔力を持ってるからだ。そして、それはきっと禁手にも反映されているはず。今回は禁手にはならなかったが…いや、そもそも今更能力を隠す必要性もない、か)」

 

このアザゼル杯に出場した以上、能力は運営側にも割れているはず。

それに公開しなくても勘の良い者や忍のように接触してる者からしたら、情報は出回っているとも言える。

だが、まだ忍達も知らない情報は確かにある。

ノヴァも神を相手にアレ(・・)を隠し通すには無理があるだろうから、おそらくは運営側には提示しただろう。しかし、公の場で披露したことはない。それを晒した時、忍達は…いや、エクセンシェダーデバイス達は何を思うのか…?

 

『さぁ、続いていきましょう! ダイス・シュート!!』

 

忍の考察中もゲームの状況は続き、次なるダイスが振られる。

 

『出た目の合計は、ソーナ選手が6…ノヴァ選手は5! つまり、合計11までの選手が出られます』

 

「これはまたデカい目が出たな…」

 

この結果を受け、両陣営が作戦会議を始める。

 

「(流石にお互い女王はまだ温存だろう。だが、ソーナ先輩側も厳しいか。出てくるとしたら、初期メンバー組か? いや、由良とベンニーア、巡のダブル騎士で攻める方法もある。少なくとも、絶魔勢相手に一人一人で当たっては、自殺行為にも等しいのはルガールさんのことで分かったはず。あいつらはそれだけ危険なんだ)」

 

忍が次の展開を考察する中、両陣営の出るメンバーが決まったらしく、遮蔽物のない平原のバトルフィールドに複数の転移陣が現れる。

 

『え~、ソーナ・シトリーチームからは戦車の由良 翼紗選手、そして騎士の巡 巴柄選手とベンニーア選手が出てきました。11という大きな目をフル活用してきましたね』

 

「(やはり、堅実に取りに来たか。問題は、ノヴァの奴がどういう組み合わせで六天王をぶつけてくるか…このルール、確か連続出撃はできなかったから、ジンは必然的に除外か。となると…向こうも戦車と騎士、或いは僧侶で…)」

 

そう考えていた忍だったが、実況からの声に思考を中断した。

 

『おっと! ディストピアチームからは転移陣が一つしか出ていません! そして、そこから現れたのは…なんと、ディストピアチームの女王(・・)リヴァーレ(・・・・・)選手だ!!』

 

「………なに…?」

 

実況の思わぬ言葉に忍は、バトルフィールドを注視する。

 

『………………』

 

そこには蒼い髪をポニーテールに結い、黒い瞳を持った可愛らしくも綺麗な顔立ちの女性が蒼い装飾が施された漆黒のドレスを身に纏って佇んでいた。

おおよそ戦いとは無縁そうな雰囲気、第一印象を持ってしまうが、ディストピアチームの…それも女王枠なのだ。油断大敵というやつだろう。

 

「女王枠…つまり駒価値は9。駒価値2以下がいないノヴァのチームにとって最大値でないとディー達とも組ませられない。それを今切ってきただと!?」

 

まさか、ここで女王を出してくるとは予想だにしなかったので、忍も動揺してしまう。

だが、これは逆にチャンスとも言える。得体のしれない女王枠…その実力の一端を垣間見ることができるのだから。

 

『それでは第二試合。開始!!』

 

両選手が出揃ったところで、審判が試合開始を告げると共にシトリーチームが動き出す。

 

『先手必勝! いくら女王枠だとしても一人で出てきたのならチャンスありですぜぇ!』

 

そう言っていきなり飛び出したベンニーアが死神の鎌でもってリヴァーレを強襲する。

 

『巴柄!』

 

『わかってる!』

 

ベンニーアに合わせて巡も自らの得物を持って前に出て、由良がいつでも二人を守れるように人工神器を構える。

 

『………………』

 

しかし、一向に動きを見せないリヴァーレ。

 

『『(取った!!)』』

 

一瞬で背後に回り、死神の鎌を振るったベンニーアと前から斬りかかる巡の斬撃がリヴァーレに肉薄した、次の瞬間…

 

ガキンッ!!!

 

まるで鉄と鉄とがぶつかり合うような音がした。

 

『『『なっ!?』』』

 

リヴァーレの背中に突如として現れた機械翼にベンニーアの死神の鎌は阻まれ、同じく突如として現れたコブラの頭を模した"何か"によって巡の持つ光と闇が混在した日本刀の刀身は噛まれて止まってしまう。

その光景にシトリーチームの三人は唖然としてしまった。

 

『がら空き、ですよ?』

 

そして、いつの間にか両手に持っていた二挺のライフルの銃口を未だ硬直しているベンニーアと巡に向けるリヴァーレ。

 

『ッ!! 間に合え!!』

 

由良が人工神器の盾から精霊の力を借りて生み出した光の盾を二枚、今まさに撃たれようとしていた二人に向かって全力投球した。

戦車のパワーによって投げられた盾は寸でのところで二人とリヴァーレの間に差し込まれる。

 

『ラピッドシュート』

 

それでもリヴァーレは引き金を引くのを止めず、そのままライフルから低出力の魔力弾を掃射した。

 

『うおっ!?』

 

『きゃああ!?』

 

その掃射にベンニーアと巡は少なくない衝撃を受けながらも光の盾で守られながら吹き飛ぶ。

しかし、光の盾はその八割を損壊させていたので、少なからぬダメージが二人に入っていた。

 

『ベンニーア! 巴柄!』

 

由良が二人の元へと駆け寄ろうとするが…

 

『スナイパーシュート』

 

自然な動作で二挺のライフルを前後に合体させたリヴァーレは由良に狙いを定める。

 

『っ!?!』

 

由良も即座に反応して盾を構えるが、思いの外重い一撃に足で地面をガリガリと削りながら後方へと無理矢理押し返されてしまう。

 

「なんだ、アレは…?」

 

観戦室から様子を見ていた忍は、リヴァーレの戦い方に違和感を覚える。

 

「(機械系の技術…ノヴァが絡んでるならデバイス技術か? いや、しかし…今見た限りだと、突然現れたようにしか見えなかった。どういうことだ?)」

 

何かからくりでもあるのかと、注視していてもよくわからなかった。

 

『まだ、続けますか?』

 

唐突なリヴァーレの問い。

それは、『これ以上続けても結果は変わりないのだから、さっさと降参しろ』とでも言っているような気がした。

 

『『『………………』』』

 

その問いに三人は悔しそうな表情を浮かべながらも、武器を降ろす選択をした。

 

『あら、残念』

 

とてもそんなことは考えていなさそうな笑みを浮かべながらリヴァーレは言葉を漏らす。

 

『せっかく絶望の淵に叩き込んで差し上げようと思いましたのに』

 

まだ何か隠してたような口振りに三人は白旗を挙げるのだった。

 

『それまで! 勝者、ディストピアチーム女王、リヴァーレ選手!』

 

三人に戦意がないと判断した審判によって第二試合も終了を告げる。

 

「ここまで一方的とは…」

 

ソーナも実力者であることには変わりない。しかし、相手が悪い、なんてことはざらである。特にこのレーティングゲーム国際大会では神クラスとだって戦うのだ。神を打ち倒す者がいても、それは限られた者達だけであろう。

 

「(決してソーナ先輩達も弱いわけではない。だが、それでも…)」

 

そうこうしながらも第三試合のダイスシュートが行われる。

 

『出ました! 最大値! 12の目が出たぞーーー!!!』

 

実況も場を盛り上げようと頑張っているが、これではまるで消化試合のようになってしまっている。

 

「12。ここまでくれば、ソーナ先輩は匙君を出してくるか。そのサポートに残りの僧侶と仁村さんを出すかもしれないが…」

 

問題はノヴァも出てきそうというとこだ。

ノヴァの駒価値は7。ギリギリ戦車枠と共に出ることができる数値でもある。

 

『さぁ、ここで出場するのは…シトリーチームは僧侶の花戒 桃選手、草下 憐耶選手、そして兵士の匙 元 士郎選手と、仁村 留流子選手ですね!』

 

匙を主軸としてそのサポートを固めた編成だろうか。

そして対するディストピアチームは…

 

『これは…! ノヴァ選手自らが出る模様です! それに付き従うのは戦車(・・)ヴァイクル(・・・・・)選手だ!!!』

 

実況の言う通り、転移陣からノヴァ、その傍に控えるように膝をつく蒼い装飾が施された漆黒の鎧を身に纏った短めの白髪に紅い瞳に凛々しめの雰囲気の顔立ちをし、全体的に線が太めで筋肉質な青年…ヴァイクルの姿が現れる。

そして、王自らの出陣に会場が湧く中…。

 

「ノヴァ…」

 

忍は観戦室から警戒度を引き上げてその様子を見ていた。

 

人数的には2対4と一見不利に見えるが、ノヴァとヴァイクルの実力が未知数な以上、数的有利はあまり取れていないようにも見える。

 

『それでは第三試合。開始!!』

 

審判の掛け声に匙は即座に禁手状態となり、他のメンバーも人工神器を展開する。

 

『ふふふ…ヴァイクル、あなたはあの兵士の娘の相手をしてあげなさい。私はヴリトラさんの相手をしましょう』

 

その様子を見ながらノヴァがヴァイクルに指示を出す。

 

『……御意』

 

ノヴァの命を受け、ヴァイクルが立ち上がる。

見るからに重装備、かつ戦車という駒の特性からスピードはあまりないものと考えるが、その分攻撃力と防御力が高いことは予想される。ただ、リヴァーレと同じく丸腰なのが気になるところだが…。

 

『うわぁ…イケメンなのに、バチクソ悪役騎士じゃん。あんなのと戦わないとなんですか~?』

 

仁村が心底嫌そうな表情で先輩達に尋ねる。

 

『仕方ないでしょ。元ちゃんがあっちの首魁を相手しないとなんだから』

 

『その分、私達もフォローするから頑張って』

 

『悪いが、仁村。あっちの騎士っぽい戦車は任すぜ。紅神には悪いが、俺があの首魁を倒す…!!』

 

先輩達にも色々と言われてしまったため、肩をがっくりと落としながら仁村も覚悟を決める。

 

『目覚めなさい、カプリコーン』

 

『………………』

 

そして、ノヴァもカプリコーンを呼び出すが、当のカプリコーンの反応が薄い。

 

『カプリコーン?』

 

その様子を見て忍の右手首に下げられたアクエリアスが怪訝そうに呟く。

 

『カプリコーン、アーマーフォーム』

 

『………了解』

 

山羊座のエクセンシェダーデバイスがノヴァの身に纏われたことで、互いの準備が整ったのだろう。

 

『行くぜ!!』

 

匙が先陣を切って飛び出す。

 

『………………』

 

それを迎撃…するのではなく、仁村を標的としたヴァイクルがその横を素通りする。

 

『うぇぇえ!? マジですか~~!?』

 

匙をガン無視したヴァイクルの行動に驚きながらも人工神器を展開していた仁村は高速移動で、ヴァイクルを翻弄しようとする。

 

『ふふふ…それでは龍王の絶望。味合わせていただきましょうか』

 

『やれるもんならやってみろ!!』

 

そう言ってノヴァもカプリコーンの装備の一つ『リデュースパイラル』を構えて匙を迎え撃つ。

 

 

 

しかし、王が出陣したのだから早々に決着が着くかと思われたこの第三試合だが…。

 

『オラオラ、どうしたどうした?!』

 

『………………』

 

カプリコーンを身に纏ったノヴァはいつもの笑い声すら出さず、匙の攻撃に対して防御に徹していた。

 

理由は単純。

カプリコーンが固有魔法で削り取り、吸収できるのは魔力だけ。龍気主体の匙との相性は思いの外悪いのだ。

そして、匙が操るのは呪詛の籠った黒き炎。

いくら炎への耐性を持っていても、じわじわと呪いが侵蝕していく。

さらにヴァイクルには仁村を中心に僧侶二人がサポートしていることもあり、未だ撃破には至っていない。

そもそもヴァイクルもノヴァの命に実直に従って仁村のみを目標としているのだ。

そういった経緯もあってか、両陣営共にまだ撃破者は出ていない。

最悪、この第三試合で王のノヴァを撃破することができれば、シトリーチームの勝利となる。

 

『(いける! このままいけば、呪いの効力で倒せる!!)』

 

そう確信していた匙だった。

 

『(紅神にはホント悪いが、ここで絶魔の首魁を倒させてもらうぜ!!)』

 

僅かな光明を見た匙だが…。

 

『仕方ありませんね…』

 

ノヴァはそう呟くと共に…

 

『カプリコーン。眠りなさい』

 

『っ………待ってください、マスター。私はまだ…』

 

どこか怯えた様子でカプリコーンがノヴァに進言するが…

 

『カプリコーン』

 

『っ…』

 

『二度は言いませんよ?』

 

『は、はい…』

 

すると、カプリコーンは自分から待機状態へと戻ってしまった。

 

「? どういうことだ?」

 

その様子に観戦室にいた忍も訝しげになる。

 

『なんだなんだ? 絶魔の大将。もう降参すんのか?』

 

『ふふふ…いえ、思いの外、善戦したあなたに敬意を評し…そして、これを見ているだろう彼等(・・)にも見てもらおうと思いましてね』

 

『見せる? この期に及んで何をだよ?』

 

匙の質問にノヴァは邪悪な笑みを浮かべ…

 

新たな同胞(・・・・・)を…』

 

チャリン…

 

そう言ってノヴァが取り出したのは…『蛇遣座のシンボルと六芒星の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のブラックコーラルを携えた白銀色のチェーンブレスレット』だった。

 

『バカなッ!!!!!』

 

それを認知した瞬間、アクエリアスが今までにないくらいの絶叫を上げた。

 

「アクエリアス!?」

 

その絶叫に忍も何事かとアクエリアスを見る。

 

『そんなはずはありません!! 我々は…我々は、12機です!! 新たな同胞など……!!!』

 

「新たな同胞? エクセンシェダーデバイスが新たに造られたとでもいうのか?」

 

『いいえ…いいえ!! そんな…アレは…あの技術(・・・・)は、とうに失われたはずです!!! なのに、同胞だなんて…まさか…まさか、そんな!!!』

 

「(あのアクエリアスがここまで動揺する。一体何なんだ…エクセンシェダーデバイスってのは…)」

 

アクエリアスから目を離し、改めてノヴァの方を向くと…

 

『さぁ、目覚めなさい。新たに生まれし13番目のエクセンシェダーデバイス。その名は…「ディスロード・アスクレピオーズ」』

 

ノヴァの静かなる詠唱によってチェーンブレスレットから黒き魔力粒子が溢れ出し、ノヴァの身体に新たな白銀の鎧が身に纏われる。

額にヘッドギア、胸部に六芒星の紋章を象ったブラックコーラルを嵌め込んだプロテクター、両肩に肩当て、両腕に篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着したシンプルな装いの姿となっていた。

 

『大仰なことを言っといて、随分とシンプルな格好じゃねぇの』

 

演出のわりに大したことはないと思った匙だが、妙な悪寒を感じていた。

 

『ふふふ…』

 

とはいえ、別に呪いを解呪したわけでもなく、今もノヴァは呪いを受けた状態にある。

ここからどう形勢を逆転させるのか…?

 

『ヴァイクル。本来の姿(・・・・)を見せなさい』

 

『御意』

 

ボァ!!

 

ノヴァの一言にヴァイクルの足元から蒼炎が立ち昇り、その姿が変貌していく。

 

『な、なんだありゃ!?』

 

突然、ヴァイクルの姿が人の身から、まるで『ワニの背に剣状の針を背負っているような、機械仕掛けの合成獣』の姿となる。

その姿に匙達が驚く中…

 

『ヴァイクル、絶魔武装』

 

バキンッ!

 

ノヴァが続けて言葉を発すると、ヴァイクルという機械仕掛けの合成獣がいくつのかのパーツに分解され、ノヴァの纏う鎧の左肩にワニの頭部が武装化したユニット、右手にワニの尻尾が武装化した大剣、腰部に剣状のパーツがスカートアーマーのように10基、両足に重装甲型の足具が装備される。

その姿は見るからに重装備といった感じであり、機動力はあまりないような印象を与える。

 

「ドライバーデバイスか…!」

 

その様子を観戦室から見てた忍はヴァイクルの正体をいち早く見抜く。

 

「コンセプトとしては…射手座に近いのか…?」

 

射手座もまた専用のドライバーを運用するタイプなので近いと感じていたが、あっちと違い、ヴァイクル自体はドライバーデバイスとして完成しているように見えた。

どちらかと言えば、忍が持つことになったブラッドシリーズに近いかもしれない。

人に化ける機能は不可解だが…。

 

『……旦那のレグルスみたいなもんか?』

 

匙は匙で、今のノヴァの状態をサイラオーグと似たような感じで捉えていた。

 

『まぁいいか。的が一つになったのなら、このまま押し切る!!』

 

妙な悪寒を感じつつも、攻勢の姿勢を崩さない匙はそのままノヴァに突貫する。

 

『ふふふ…絶望の海に沈みなさい』

 

ブォォ!!

 

ノヴァの装備した足具から魔力が噴射し、一気に加速しながら匙に向かう。

 

『!?』

 

思わぬ加速に匙も回避行動を取るが…

 

『ヴァイクル』

 

『捕捉』

 

匙から見て右側…つまるところノヴァの左肩にはワニの頭部が武装化した『アリゲーターヘッド』があり、それが大口を開き、匙の胴体に噛みつく。

 

『ぐがっ!?』

 

思ってもみない攻撃に匙が苦悶の声を上げる。

しかも機械に呪いは効かないので、ノヴァとしても問題はない。

 

『元ちゃん!!』

 

『元士郎先輩を放せ!!』

 

そこに花戒の魔力攻撃、仁村の飛び蹴りがノヴァに襲い掛かるが…

 

『カプリコーン。相手をして差し上げなさい』

 

『はい』

 

待機状態に戻ったはずのカプリコーンを再び呼び出し、2人の攻撃を受け止めさせる。

 

『2人共、一旦離れて!』

 

そこに草下の援護が入るが…

 

『ソードスレイヤー、展開』

 

ヴァイクルの電子音に合わせ、スカートアーマーと化してた剣状の装備が展開し、草下の仮面を的確に砕いていく。

 

「スコルピアのフライヤー!?」

 

ソードスレイヤーと呼ばれた装備は蠍座の装備に酷似していたので、思わず忍も声を上げる。

 

『さぁ、あなたの呪詛と私の絶望の炎。どちらが強力か…勝負しましょうか?』

 

ボアァ!!!

 

その言葉と共にノヴァの特異魔力変換資質『蒼炎』が発動する。

 

『こ、こんな炎…俺の黒炎…で……がぁあああああ!!?!!?』

 

蒼炎に当てられ、匙の脳裏に己の一番見たくない絶望の光景が広がりだす。

 

『ふふふ…無傷とはいきませんでしたが…私の勝ちのようですね?』

 

蒼く燃え盛る炎の中から撃破のエフェクトが発生する。

 

『元ちゃん!!?』

 

『あとを追わせてあげましょう。カプリコーン、ヴァイクル』

 

『……ブラスト』

 

『ファイア』

 

タンクモードへと移行したカプリコーンと、アリゲーターヘッドからの砲撃が残りの3人に襲い掛かる。

 

『そこまで。勝者、ディストピアチーム』

 

審判の宣言にノヴァは邪悪な笑みを浮かべたまま、中継用のカメラを見て…

 

『エクセンシェダーデバイスを持つ方々。そして、エクセンシェダーデバイス達よ』

 

「っ!」

 

『ッ!!』

 

『戦慄し、喜びなさい。あなた達に、新しいお仲間ができたんです。この誕生を祝福してはいかがでしょう?』

 

そう言い残し、ノヴァはその場から陣営へと戻る。

 

『ふざけるな!! 何が祝福だ。我々の…我々の業(・・・・)を、増やしておいて…なにが祝福だ!!』

 

「アクエリアス…」

 

アクエリアスの悲痛な叫びに忍は何も言えずにいた。

 

 

 

そして、その後の試合の展開だが…ソーナが投了したことで、ディストピアチームの勝利が確定した。

 

ノヴァの挑発にも似た発言。

アクエリアスの動揺。

忍は、味方陣営にいるエクセンシェダーデバイスを持つ者を集めて事の真相を聞こうと決意するのだった。

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