魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百三十話『紅神眷属チームvs刃狗チーム~神に連なる狼と狗~』

エクセンシェダーデバイス達から聞いた彼等の秘密。

それは今現在、味方陣営では選定者達の間でしか共有されていなかった。

13番目のエクセンシェダーデバイスを造ったノヴァがそこまで事情に精通しているかまでは不明だが、少なくともコアドライブを造り出す仕組みについては知っていそうではあるが…。

 

ともかく、混乱を避けるべく選定者達はこのことは口外しないようにしていた。

 

 

 

そうした事案もあったり、アザゼル杯の試合も細々かつどんどん消化が進んでいるが、なんだかんだと春が過ぎる頃合いになり、駒王学園では球技大会が行われる時期になっていた。

 

「目指せ優勝です!」

 

『おお~!!』

 

という隣のBクラスの掛け声を聞き…

 

「はぁ、まったく騒々しい」

 

Aクラスの担任になった雲雀は少し頭を抱えていた。

 

「ですが、球技大会とやらで負けるのも癪です。我々も勝利を目指します」

 

いつものクールな態度ながらもその言葉の節々には熱い何かが宿っているようにも感じた。

 

(雲雀さんの闘争心に火が点いたか…)

 

イッセー達と離れ、Aクラスに所属することになった忍は若干の苦笑を浮かべていた。

 

ちなみに三年生へ進級してからのクラス分けの際、学園側の配慮もあってAクラスには忍や海斗といった眷属の駒や次元辺境伯関係の人物達、Bクラスにはイッセーを中心にしたグレモリー眷属関係の人物達、そしてCクラスには匙を始めとしたシトリー眷属関係の人物達がそれぞれ固まっており、有事の際はすぐに集まれるようにとの配慮がなされていた。

 

あと、補足しておくと先のレーティングゲームでノヴァの蒼炎に当てられ、己の最も恐れる絶望の光景を見た匙だったが、ヴリトラと同化していることで得た呪いに対する抗体とも言える耐性によって奇跡的に堕天使勢力の治療によって回復しており、今もしっかりと登校している。

しかし、その後遺症は若干残っているのか、ソーナ先輩を見たり会ったりすると若干の精神不安定状態に陥っているのだが、それもじきに落ち着くだろう………多分、おそらくは。

 

………

……

 

そういった日常が繰り広げられている中、アザゼル杯でも動きがある。

 

今度対戦する都合上なのか、イッセー達『燚誠の赤龍帝』チームはデュリオ率いる『天界の切り札』チームとの会合を行っていた。

それと並行して同じく会合していたのは、忍達『紅神眷属』チームと鳶雄さん率いる『刃狗』チームであった。

ちなみに紅牙率いる『紅』チームとヴァーリ率いる『明星の白龍皇』チームは王同士が旧知の間柄というのもあるが、互いに手の内をあまり見せたくないのか、会合はしていない。

むしろ、紅牙もヴァーリも相手がどのような手でくるか知らない方が戦い甲斐があると判断しているのかもしれないが…。

 

また、補足情報として通常のレーティングゲームでも、今回のアザゼル杯でもチームの監督を雇うことが可能であり、『天界の切り札』チームの監督は、現レーティングゲーム7位をキープしているプロプレイヤー『リュディガー・ローゼンクロイツ』が務めていたりもする。

その監督も今回の会合に遅れて参加するとのことだった。

 

一方で…

 

「こうして顔を合わせて話すとなると、初めてですかね?」

 

「そうなるね、紅神君」

 

明幸の屋敷の大広間で、『紅神眷属』チームと『刃狗』チームの顔合わせが行われていた。

 

対面しているのは『紅神眷属』チーム側からは忍、智鶴、雲雀の3名と、『刃狗』チーム側からは幾瀬 鳶雄さんと…

 

「は~、武家屋敷っぽいとは聞いてたけどよ。本物の極道の家とはな」

 

「なんか変に緊張するね~」

 

どこかヤンキーっぽいワル系のイケメンと、アップにまとめた髪が特徴的な美人さんだった。

ちなみに『刃狗』チームの3名は鳶雄さんは刃、イケメンは白猫、美人さんは鷹を連れていたりもする。

 

今回、忍達の会合では3人ずつの代表で行われるらしい。

実を言うと、忍と鳶雄さんは例の教会のクーデターで少し顔を合わせた程度で、ちゃんとした話は今回が初めてだったりする。

 

「まずは自己紹介から済ませようか」

 

「はい」

 

鳶雄さんの提案を忍も了承する。

 

「なら、言い出しっぺの俺から…幾瀬 鳶雄。刃狗チームの王だ。そして、こっちが相棒の刃だよ。それでチームメイトの…」

 

「鳶雄が先に名乗るなら、こっちからだよな? 俺は『鮫島 鋼生』。刃狗チームの戦車枠だ。で、こいつは『白砂』。よろしくな」

 

「あたしは『皆川 夏梅』だよ~。こっちは相棒の『グリフォン』。よろしくね~。あ、ちなみにあたしは騎士枠だからそれなりには速いよ~?」

 

といった感じで刃狗チームの挨拶が終わると…

 

「これはご丁寧に。私はしぃ君の女王で、今回のチームでも女王を務めさせていただきます、明幸 智鶴です。よろしくお願いしますね」

 

「智鶴の挨拶が先になりましたが、紅神眷属チーム、王の紅神 忍です」

 

「……今回、正式な眷属ではありませんが…参加させていただくことになりました。紅崎 雲雀です。此度は騎士での参戦になります」

 

智鶴からの紹介を皮切りに忍と雲雀も名乗る。

 

「D×Dでは先のクーデター以外で一緒になる機会が少なかったからね」

 

「そうですね。結局、邪龍戦役でも俺達は日本、皆さんはヨーロッパ方面にいましたし」

 

「それだけでなく、俺達は基本裏方が専門だし、君達のような表で活躍するようなことはしなかったからね」

 

「でも、その裏方がいてこそ…こちらも動けていましたから、お互い様ですよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

鳶雄さんと忍がそのような会話を繰り広げていると…

 

「着物の着付けって難しくない?」

 

「慣れればそんなことはありませんよ」

 

「そういうもん?」

 

「はい」

 

今も着物姿である智鶴に興味を持ったのか、夏梅が気さくに話しかけていた。

 

「~♪ 狼の大将は両手に花なだけでなく、どっちも良いもん持って…」

 

「燃やしますよ?」

 

「おぉ、怖い姉さんだな…」

 

(この男…軽薄なわりに肝が据わってますね)

 

鋼生が雲雀の胸元に視線を向けていたが、雲雀の冷たい視線(殺気)にさらされていたが、鋼生は自然体を崩しておらず、そのことについては雲雀も感心していた。

 

「オーソドックスなルールになるか、特殊ルールになるかはわからないけど…いずれにしてもお互いに全力を尽くそう」

 

「はい。胸を借りるつもりで挑ませてもらいます」

 

「ふふ、お手柔らかにね」

 

忍のそんな宣言に鳶雄さんは微笑んで応えていた。

 

そうして小さな会合は静かに終わりを告げていた。

 

………

……

 

『紅神眷属』チーム・大会登録メンバー

王-紅神 忍

女王-明幸 智鶴

戦車-カーネリア

戦車-オルタ

騎士-流星 朝陽

騎士-紅崎 雲雀

僧侶-神宮寺 フレイシアス

僧侶-紫牙 領明

兵士『3』-暗七

兵士『2』-紅 夜琉

兵士『3』-紅崎 緋鞠

 

-----

 

『刃狗』チーム・大会登録メンバー

王-幾瀬 鳶雄

女王-ラヴィニア・レーニ

戦車-鮫島 鋼生

戦車-七滝 詩求子

騎士-皆川 夏梅

騎士-チームのエージェント

僧侶-チームのエージェント

僧侶-チームのエージェント

兵士-チームのエージェント

残りの兵士枠は未定

 

………

……

 

・『紅神眷属』チームvs『刃狗』チームの試合当日

 

遂にやってきた試合。

この日は他にも紅牙率いる『紅』チームとヴァーリ率いる『明星の白龍皇』チームの試合もまた行われることになっていた。

日付的にはイッセー達とデュリオ達の試合の数日前となる。

 

(紅牙とヴァーリの試合も気になるが…今は目の前の鳶雄さん達との試合だな)

 

冥界のスタジアムの控室で、忍は意識を切り替えていた。

 

(さて、初戦ということもあるが…一体どんなルールになるかな…?)

 

武者震いにも似た震えを覚えつつも、試合のルールが気になる。

 

コンコン。

 

「紅神選手、そろそろ入場してください」

 

ノックもそこそこに係員が控室の忍に声をかけてきた。

 

「はい、わかりました」

 

そう係員に返すと…

 

(現状、人数的にはこっちの方が若干有利。しかし、向こうには長年培ってきたチームワークがある。状況によってはいつひっくり返されてもおかしくはない、か)

 

少しだけ思考の海に潜り、すぐに浮上する。

 

「さてと…それじゃあ、行こうか。みんな」

 

あれこれ考えるのは後にし、忍は此度のチームメンバーに声をかける。

 

「はい」

 

「待ちくたびれたわ」

 

「わかりました」

 

「ま、やるからには勝ちたいけど」

 

「………………」

 

「頑張りましょう」

 

「……うん」

 

「ま、程々にね」

 

「ん~…もう時間?」

 

「ほら、シャキッとしなさいよ」

 

今回のメンバーは眷属の駒と絵札から選定されているが、例外的に雲雀だけは絵札を貰っているだけの状態にある。ちなみに他の正規眷属組や一部の身内は特別観戦室で応援することになっている。

 

そうして両チームのメンバーがスタジアム内に姿を現すと…

 

『さぁ!! 今日も絶好のゲーム日和だ。他の会場に負けないくらいの声援を頼むぜぇぇぇ!!』

 

『おおおおおおお!!!』

 

実況の声に反応して観客も大いに盛り上がる。

 

『さて、今回のルールはルーレットによって決まるぜ!! 何が出るかは、お楽しみってやつだ!!』

 

「ルーレット形式か…」

 

「さてさて…何が当たるかな?」

 

忍と鳶雄さんがそれぞれルーレットに目を向けると同時にルーレットが回り出し…そして、止まる。

表示されたのは…。

 

『おっと! こいつぁ良い! このアザゼル杯の新型特殊ルール、「ユグドラシル・クライム」だぁぁぁぁ!!!』

 

『ユグドラシル・クライム』

アザゼル杯におけるオリジナルの特殊ルール。

擬似世界樹の存在する縦に広大なフィールド内で競われる競技。

選手達は擬似世界樹の頂上を目指して進軍することになり、登る方法は樹の周りに張り巡らされた螺旋階段を使うか、飛行能力を用いるか。

また、螺旋階段以外にもフィールドの各所には休憩と戦闘するための浮島も複数用意されている。

勝利条件は、先に頂上に辿り着くか、もしくは相手の『王』を撃破する二通りである。

なお、兵士の昇格はフィールドの中間地点を通過しなければならず、そこまでは自力なり何なりで中間地点を越えなければならない。

 

実況から簡潔な説明を聞かされ、両チームはフィールドにある擬似世界樹の根元に転移させられる。

 

………

……

 

刃狗チームの反応…

 

「え、これあたしに有利じゃない?」

 

「夏梅を先行させておくのも手かな?」

 

「その間、狼の大将たちの妨害と行こうじゃねぇか」

 

刃狗チームはそのような会話をしていた。

 

「せめて夏梅の護衛に1人は欲しいところだね」

 

「だったら…」

 

何やら悪い表情を作りながら夏梅が呟く。

 

 

 

一方で、紅神眷属チームの反応は…

 

「フェイトを入れなかったのは、失敗したかな?」

 

「義兄さん、その分は私が頑張るって」

 

紅神眷属チームもまた同じような作戦っぽいが…。

 

「そっちは任せるわ。こっちはこっちで愉しむから」

 

「ま、一人でも先に頂上に着けばいいなら、私らは攻めるわね」

 

「そうね。向こうも妨害してくるだろうし、しっかりお迎えしないとね」

 

カーネリア、朝陽、暗七の三名が若干戦闘寄りなことを言い始める。

 

「まぁ、相手の王を撃破するのも手だが…さてはて…」

 

そう簡単にいくものか?

 

(最悪、王同士がぶつかるかな…)

 

最悪の事態を想定しつつ、忍達も作戦を詰めていく。

 

 

 

そうして作戦会議の時間も終わり…

 

『さぁ! 時間だ!! 目指せ、頂上!!! もしくは打倒「王」!! ユグドラシル・クライムの開始だぁぁぁ!!!!』

 

実況の叫びと共に試合が始まった。

 

………

……

 

スタートの合図直後、両陣営から三つの影が空と階段を猛スピードで駆け上がっていく。

 

刃狗チームからは夏梅が相棒のグリフォンこと『窮奇』に乗って空を駆ける。

紅神眷属チームからは忍と夜琉の義兄妹コンビが螺旋階段を駆け上がっていく。

 

ただ、螺旋階段を駆け上がる忍と夜琉よりも空を駆ける窮奇の方が若干だが、速い。

 

「やはり、空を飛ぶ相手に地道じゃ埒が明かんか。夜琉!」

 

「なに!?」

 

突然呼ばれ、困惑する夜琉に忍は…

 

「壁走りに自信は?」

 

「え? なくもないけど………まさか!?」

 

「そのまさかだ! 続け!!」

 

言うが早いか、忍は螺旋階段からコースを外れ、擬似世界樹の壁走りの要領で駆け出し始めた。

 

「ちょっ!? 義兄さん!?」

 

慌てて夜琉もそれを追うが、忍ほど軽快にとはいかなかった。

 

『おぉっと!! 紅神選手! 擬似世界樹を直に登り始めたぞ!?』

 

『空を飛ぶ皆川選手に対抗するためですかね? しかし、それがいつまで保つものか…』

 

実況と解説がそのように話している間も、忍はスピードを緩めずに擬似世界樹を駆け上がっていく。

 

『全っっっ然、止まらねぇな!?』

 

『いやはや…これは驚きました』

 

などと言っている間にも、忍は夏梅を視界に捉えていた。

 

「もう少し…っ!!」

 

そこで忍は『ある匂い』に気付く。

 

「ふっふっふ~。残念だけど、ここから先は通行止めだよ!」

 

「そういうことだね」

 

グリフォンの背から二つの影が飛び出し、それが忍へと襲い掛かる。

 

「鳶雄さん!! 刃!!」

 

忍の言う通り、グリフォンの背から飛び出したのは鳶雄さんと刃であり、奇しくも『王』同士の激突になってしまった。

 

『あぁっと!! ここで「王」同士の激突か!!!』

 

『なるほど。相手の一番速い選手は王であると同時に最大戦力ですからね。それに自分達も王を切りましたか』

 

『こうなると、紅神眷属チームの次点で速い選手が、刃狗チームの最速枠との争いになるが…!!!』

 

『空と地…駆ける場所が違う上に、既にそれなりの距離がありますからね』

 

そんな実況と解説の会話をよそに…。

 

「先発の二人に任せるしかないとはいえ…」

 

「あの2人以上の速度を出せる方法がね」

 

螺旋階段を上がる緋鞠と暗七がボヤいていた。

 

「スコルピアちゃんとキャンサーさんなら空も飛べるけど…」

 

『あの速度に対抗するとなると、私では難しいかと』

 

『………かと言って、あの速度はマスターの身が心配…』

 

智鶴の言葉にキャンサーとスコルピアがそう返す。

ちなみにいずれもジェットフォームとステルスフォームで智鶴と領明を乗せ、空を飛んでいる。

 

「あの娘が昇格で騎士になれれば、或いは…」

 

冥王化した雲雀が翼を広げながら頭上を見る。

 

「問題は、やっぱり距離ね」

 

「相手は元から速度に長けていて、それが騎士の特性も得て強化されているのなら…今のメンバーでは忍さんか夜琉さんしか対抗できませんけど…」

 

朝陽とシアがそう言うと…

 

「夜琉さんも十分速いと思いますが…?」

 

黒い翼を広げて空を飛んでいたオルタが首を傾げる。

 

「相手が悪いってだけよ」

 

そんなオルタに暗七が答える。

 

「さてと…坊や達が先行しちゃったのは仕方ないけど、少しでも戦力は削って援護に行かせないようにしないとね?」

 

カーネリアが視界に入ってきた相手チームのメンバーを見ながら光の槍を手にする。

 

「ま、こっちはあのじゃじゃ馬が先に着けば勝ちだからな。せいぜい邪魔させてもらうぜ?」

 

白砂こと『檮杌』を従えた鋼生を筆頭に残る刃狗チームの面々が紅神眷属チームと対面する。

 

『こちらはこちらで戦いの幕が上がろうとしてるな!! だが、最も注目すべきは皆川選手と紅選手の競争かぁぁぁぁ!!!』

 

実況が夏梅と夜琉による競争に注目しているとカメラもまたそちらを捉える。

 

「うわ~…めっちゃ注目されてるよ…」

 

夜琉は夜琉で若干の気負いが見えるが…

 

「このまま行くよ、グリフォン!」

 

夏梅は特に気にした様子もなく、頂上を目指している。

 

「あんまし人目に晒されるのは慣れないんだけど、そうも言ってられないか。っと、そろそろ真ん中は越えたはずだから…昇格(プロモーション)騎士(ナイト)! ついでに黒豹解禁!!」

 

そう愚痴りながらも自らの持つ解放技…黒豹型の妖怪の力を解き放ち、さらに騎士に昇格したことで得た速度を利用し、擬似世界樹の表面を駆け上がる。

 

『おぉっと! 紅選手が急加速した!?』

 

『これで次点の速さですか。紅神選手がいかに規格外か…赤龍帝とは違った恐ろしさですね』

 

「まだまだ、これから!! 『瞬煌』ッ!!」

 

実況と解説の声を聞き流しながら、夜琉もまた内包した四つの力を身に纏い、炸裂させた力を足に流し込み、更なる加速を見せる。

 

「嘘!? この状況で追っついてくるの?!」

 

その状況に夏梅も目を見開いて驚くが…。

 

「でも、負けないよ~!!」

 

「こっちだって義兄さんの期待を受けてるんだから!!」

 

互いに叫びながら、夏梅を乗せた窮奇と夜琉がぶつかりながら頂上を目指すデッドヒートを見せる。

 

「なかなかやるね、彼女。まさか、夏梅と張り合うとは」

 

「伊達に俺の義妹(いもうと)じゃないんでね」

 

大鎌を手にした鳶雄さんと小さな剣を咥える刃に対峙した忍は皇鬼から譲り受けた神威を手にしながらそう言い合う。

 

「しかし、不思議だ。並みの刀なら問題なく、斬れる(・・・)んだけどね。その刀には相当強い念がこもっているようだ」

 

鳶雄さんは興味深そうに忍の持つ神威に視線を向ける。

 

「そう簡単に折られても困るってもんですよ。こいつは…今は亡き世界の皇の生涯に寄り添った…ただ一振りの刀なんですから…」

 

皇鬼のことを思い出しながら、忍は懐から二つのビー玉を取り出す。

白銀と純白のビー玉。

それ、すなわち…。

 

「『真狼』、『武鬼』、解放…!」

 

ピン、っと指でビー玉を弾くと共に、忍の髪が黒の混ざった銀髪、右は琥珀のまま、左が真紅の瞳になり、その額からは二本の角が生え、髪と同色の毛並みをした狼の耳と尻尾が生え、両腕には皇鬼双腕が出現し、首には十色の数珠が巻かれた姿を化す。

 

「なら、こちらも行こうか、刃」

 

忍の姿を見た鳶雄さんもまたその力を解放する。

 

「人を斬れば千まで啼こう」

 

「化生斬るなら万まで謳おう」

 

「暗き闇に沈む名は、極夜を移す紛いの神なり」

 

「汝らよ、我が黒き刃で眠れ」

 

「愚かなものなり、異形の創造主よ」

 

呪文を唱え終わると同時に鳶雄さんを中心に暗黒のオーラがその場を支配し、鳶雄さん自身もまた六尾の犬のようなフォルムを持った黒い人型の獣になる。

 

禁手(バランス・ブレイカー)、『|夜天光の乱刃狗神《ナイト・セレスティアル・スラッシュ・ドッグズ》』」

 

対峙する狼と狗…。

どちらも出自を異なるとは言え、『神』に連なる系譜である。

 

片や、地球とは異なる星の神の眷属でありながら神の亡骸を喰った狼の祖を持つ存在。

 

片や、神をも斬り伏せる、擬いものの狗神の名を持つ存在。

 

それが今…ぶつかる。

 

ブンッ!!

ガキンッ!!!

 

暗黒のオーラの中、互いの移動音と刃がぶつかり合う音のみが響く。

中継用のカメラが追い付けない程に加速した忍と鳶雄さん、刃の戦いに、イッセー達のような派手さはない。

あるのはただ…斬るか、斬られるか…そのどちらかだ。

 

(下手に戦術殻を使っても斬られるだけ。なら、このまま神威で何とかするか)

 

(さっきよりも斬れるはずなんだが…やはり、あの刀には強い想いが込められているんだろうね)

 

刀と大鎌、剣による剣戟の乱舞は永遠とも刹那とも感じられる中、忍と鳶雄さんは互いにそのようなことを考えていた。

 

鳶雄さんと刃のコンビネーションは抜群の一言で、あらゆる角度や死角から忍を攻め立てている。

しかし、忍は理力の型の応用である数瞬先の未来予知により、それらをことごとく回避しながらも反撃を仕掛ける。

だが、その反撃も鳶雄さんに迫れば刃が、刃に迫れば鳶雄さんがそれぞれを守る形で防いでいき、反撃の隙を突いて逆襲することもある。

それでも、忍もまたその逆襲を時に空中を蹴り、時に魔法で無理矢理軌道を変えるなどして回避し続ける。

 

そうした攻防を互いに神速の域で続けていた。

 

(決めきれない、か…)

 

(まさか、これほどとは…)

 

忍は焦りではないが、決めきれないことに内心で嘆き、鳶雄さんは忍の実力を想像よりも過小評価していたのだと実感していた。

 

(これが…最強の人間候補。その一角か)

 

(だけど…今回は、こちらの勝ち(・・)、かな?)

 

忍は以前どこかで聞いた『最強の人間』候補の話を思い出している一方で、鳶雄さんは少しだけ視線を上に向けた。

 

すると…

 

『ゴォォォォォル!!!』

 

「!?」

 

「………」

 

実況の絶叫に忍はハッとし、鳶雄さんは静かに戦闘態勢を解き、刃もまたそれに倣って剣を影の中に落とす。

 

『先に頂上に到着したのは…皆川選手だぁぁぁぁ!!!!』

 

『紅選手も最後まで粘ってましたが、やはり空を飛べる相手には分が悪かったのでしょうね』

 

『よって今回のユグドラシル・クライム! 勝者は、「刃狗」チームだぁぁぁぁ!!!』

 

『うおおおおおおお!!!』

 

その宣言に会場の方は大いに湧いていた。

 

「負け、か…」

 

遅れて忍も解放陣と臨戦態勢を解く。

 

「少し視野が狭まってたかな?」

 

そんな忍の様子に鳶雄さんが声をかける。

 

「かも、しれませんね…」

 

忍もそう答えながら苦笑していた。

 

「今回は俺達が勝ったけど、勝負は何が起こるかわからない。君達もまだまだ伸びる可能性を秘めてるからね。俺達も負けないように頑張るよ」

 

「はい。もしリベンジの機会があるのなら、本選でそれを果たしたいです」

 

「そうだね。お互い、本選に進めるように勝ち残らないとね」

 

そう言って鳶雄さんは右手を差し出す。

 

「はい!」

 

忍も鳶雄さんの手を握り、力強く頷く。

 

 

 

こうして紅神眷属チームの初戦は敗北で終わった。

同じテロ対策チームに所属していたとしても、アザゼル杯では本選に進むために競い合う者同士。

こうして勝敗を競い合う以上、勝つチームもあれば、負けるチームもある。

別に殺し合いをしているわけではない。

しかし、それでも本気で勝ちにいく者達もいる。

これは、そういう非日常的な一幕でもある。

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