魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百三十一話『紅チームvs明星の白龍皇チーム~紅の冥王、新たな一歩を踏み出す~』

『紅神眷属』チームと『刃狗』チームの試合が行われていた日。

同じく『紅』チームと『明星の白龍皇』チームの試合が行われていた。

 

今回のお話は、その数日前から始まる。

 

………

……

 

試合の数日前のこと。

エクセンシェダーデバイス達の衝撃的な告白を受けてからも少しだけ時間が経っていた。

 

紅牙は特に学園に通ってるわけではない。

一応、年齢的には大学生くらいではあるのだが、忍の浄化を受けるまでずっと復讐のために生きていたため、そういった学生時代を経験したことがなく、今さらそんな経験もするのも癪だと考えている節がある。

元々学生だった忍達とは考え方が根本から異なるのだ。

 

そんな紅牙は今、三大勢力の一角、悪魔陣営の管轄で罪を償うべく活動していた。

かつては復讐の対象であった悪魔の手を借り、過去の罪を償うため、同じ冥族である同胞の未来のため…。

 

(何故、俺はこんなことをしているんだろうな…?)

 

悪魔が発行している雑誌で、モデルみたいなことをしていた。

 

女性のような綺麗な顔立ちをしているが、肉体的にはれっきとした男性の細マッチョ系な紅牙。

しかし、髪は長めで、肉体美という観点ではスタイル抜群とも言える。

そこに注目した、とある悪魔のプロデューサーが冥族との交流を今後積極的にPRするためにも紅牙を広告塔に採用したのだ。

さらに紅牙はアザゼル杯にも出場し、次元辺境伯である忍と同様に眷属の駒を所持していて、さらにはテロ対策チーム『D×D』にも参加しているので、話題には事欠かない。

登録してもなかなか試合をしなかったため、プロデューサーから心配されもしたが、初戦は同じく今大会の注目チームの一角、『明星の白龍皇』チームなのも話題性をさらに上げるには十分だった。

 

しかし、一度はテロに加担した身。

いくら政府の許しを得ても、雑誌のモデルとして人気を博そうと、国際大会にエントリーしたとしても…その業は未だに残っている。

それを自覚しているが故、紅牙はこういった仕事終わりの交流会には参加せず、基本は駒王町のマンションで自ら謹慎しているかのような生活を送っている。

もちろん、仕事のミーティングには出席しているし、打ち合わせなどもしっかりとしている。

但し、打ち上げなどプライベートに近しいことには徹底して参加しないのだ。

 

それが、今現在の神宮寺 紅牙の日常とも言えた。

 

「お疲れさまでした」

 

そして、この日も冥界でのモデル仕事が終わったので、打ち上げには参加せずに地球へと帰還しようとする。

 

「お疲れ、紅牙ちゃ~~ん!」

 

が、そこに紅牙を推してるプロデューサーが顔を出す。

 

「プロデューサー、何かあったのか?」

 

プロデューサーの登場に、紅牙は短く質問する。

 

「ん~、特に緊急案件はないかな。強いて言うなら…プライベートなお誘い?」

 

「何故、疑問形なんだ。悪いが、俺は…」

 

「わかってる、わかってるから。けど…ちょこっと仕事のお話もあるのよさ」

 

「む…」

 

仕事の話と言われれば、紅牙も身動きを鈍らせざるを得ない。

 

「すぐに終わるからさ。ちょこっとだけ付き合ってよ、ね?」

 

「………………わかった。今回だけだぞ?」

 

プロデューサーには頭が上がらないらしく、紅牙も諦めたように折れる。

 

「さっすが、紅牙ちゃん! 話がわかるね!」

 

少し馴れ馴れしい気もしないでもないが、紅牙はそんなプロデューサーと共に近くのカフェに向かう。

そうして、カフェの適当な席に着くと…。

 

「それで? 用件はなんだ?」

 

「もう! 相変わらずのせっかちさんだね」

 

「どうにもこういうのは、な…」

 

「硬派だねぇ。でもま、そこが紅牙ちゃんの魅力の一つでもあるのか?」

 

「知らん」

 

「ふぅ…わかったわかった。一つ確認したいことがあったから呼び出したんだ」

 

「確認したいこと?」

 

「そ。ズバリ、紅牙ちゃんが今回の国際大会で優勝した際の『願い』について、だ」

 

「………………」

 

普段は見せないプロデューサーの真面目な言動に、紅牙も背筋を伸ばした。

 

「願い、か」

 

「そ。そのことについてはあんまり公言してないじゃん? 担当のPとしては、ちょっと気になってね。やっぱ、冥族と悪魔との関係解消?」

 

という風にプロデューサーが聞くと…

 

「冥族と悪魔との和解は徐々にだが、受け入れられている。だが、まだわだかまりもあるのも実情だ。それをあらゆる力を使って解消させる、わけにもいくまい。そんな力を使って手に入れた平穏はいずれ破綻する」

 

意外にもそういった願いを持っているわけではなさそうだった。

 

「ふ~ん? じゃあ、紅牙ちゃん達の願いは?」

 

「俺達チームの…いや、俺の願いは………」

 

最後の方に小さく呟いた言葉がプロデューサーに届いたのか…。

 

「えっ…それマジ?」

 

そんな反応をしていた。

 

「…………おかしいだろうか?」

 

「いやぁ~、ソレ(・・)を願いにするのは…ちょっとおかしいというか。まぁ、叶うだろうけど…既に叶ってるような…?」

 

「? どういう意味だ?」

 

「アハハ、こいつマジかよ…」

 

珍しくプロデューサーも乾いた笑いと素の反応を見せる。

 

「話はそれだけか? なら、帰る」

 

「はいはい。ごちそーさん」

 

「? 自分の分の代金くらいは払うが?」

 

「そういう意味じゃねーよ! まぁ、コーヒー代くらいは持つけどさ」

 

「今日のプロデューサーは意味がわからんな」

 

「わからなくてケッコーで~す!」

 

そんな一幕もあり、紅牙の日常は過ぎていく。

 

………

……

 

『紅』チーム・大会登録メンバー

王-神宮寺 紅牙

女王-八神 はやて

戦車-織上 秀一郎

戦車-ザフィーラ

騎士-シグナム

騎士-ヴィータ

僧侶-シャマル

僧侶-リィンフォースⅡ

兵士『1』-天宮 早紀

兵士『1』-葛原 沙羅

兵士『1』-水杜 紗奈

兵士『2』-栄崎 藍香

兵士『3』-音無 翔霧

 

-----

 

『明星の白龍皇』チーム・大会登録メンバー

王-ヴァーリ・ルシファー

女王-フェンリル

戦車-ゴグマゴグ

戦車-猪八戒(現)

騎士-アーサー・ペンドラゴン

騎士-沙悟浄(現)

僧侶-黒歌

僧侶-ルフェイ・ペンドラゴン

兵士『5』-美猴

残り3枠分は未定。

 

………

……

 

『紅』チームvs『明星の白龍皇』チームの試合当日。

 

忍達『紅神眷属』チームと鳶雄さん達『刃狗』チームが特殊ルール『ユグドラシル・クライム』で試合をしていた日。

別会場で紅牙達とヴァーリ達の試合も行われていた。

そして、気になる試合の特殊ルールはというと…。

 

『おっと、これは長丁場になりそうだ。「ワンデイ・ロング・ウォー」に決まりました』

 

『えぇ、会場にいる皆様も視聴者の皆様もこの長丁場、どうぞごゆるりと観戦してください』

 

という実況と解説の悪魔による会場の観客や視聴者へ長丁場に備えるように言っていた。

 

「確かにこれは長丁場になりそうだ」

 

「フッ、君と一日中戦えるとはな」

 

「ま、接敵すればな?」

 

対峙していた紅牙とヴァーリが軽口を叩き合っている。

あと、別に一日中戦えるわけではない。

 

「そういや、知らない面子も増えてんぜぇ?」

 

「そういや、そうにゃね?」

 

今更ながら美猴と黒歌が兵士枠で登録している藍香や翔霧を見る。

 

「噂の白龍皇のチームか。正直、しんどい」

 

「あはは…まぁ、確かに」

 

この時の藍香は髪を三つ編みにして眼鏡をかけており、対する愛想笑いを浮かべる翔霧は"男装"で藍香に寄り添うような立ち位置にいた。

 

「恋人なんでしょうか?」

 

「ふむ?」

 

ルフェイがそんな風に首を傾げている横で、アーサーが翔霧への違和感に首を傾げる。

 

(翔霧の正体知ったら、だいたい驚くだろうな…)

 

秀一郎は秀一郎で翔霧の正体が知られた時の反応を予想して苦笑いを浮かべている。

 

「ところで、あの少女達はいないのかい?」

 

「流石にお前達相手に場数が足りん連中を登録するほど、こちらも余裕があるわけではない」

 

「ほぉ? ならば、新参の二人は大丈夫だと?」

 

「少なくとも…時限式持ちの正規兵士二人とまだまだ素人の毛の生えた正規僧侶よりは、な」

 

この発言を聞かれたら、その正規組に色々と抗議されそうではある。

 

(あの三人とこいつらを比較されてもな~)

 

紅牙とヴァーリの会話を横で聞いてた秀一郎がそんなことを考えているが…

 

(つか、ヴァーリ。お前、こいつらが誰か知ってんじゃねぇのか?)

 

大会登録メンバーの名前は出てるわけだし、秀一郎はかつて鳶雄さん関係にも繋がっていた。つまり、藍香と翔霧のことも知ってそうだが…ヴァーリはそんな素振りを見せていない。

 

(覚えてない? いや、こんな猫被りと男装女子を忘れる訳が………いや、戦闘狂なこいつなら、ワンチャンでガチ忘れしてる?)

 

秀一郎がやや悶々とした心情のままだが、説明やら何やらを終えたのか…

 

『さて、お待たせしました! それでは試合の開始だ!!』

 

実況が高らかに宣言し、両陣営の足元に転送魔法陣が展開される。

 

「では、向こうで相対しよう」

 

「ま、今回に限っては一日縛りにあいつらを呼ばなくて正解だったか」

 

という呟きと共に、両陣営はゲームフィールドに転送される。

 

………

……

 

『紅』チーム陣地。

 

「さて…一日という特殊ルールの中でも最大時間を誇るものにぶち当たってしまったな」

 

「こんなだだっ広いフィールドを索敵ねぇ。流石は一日を試合で潰すだけのことはある」

 

紅牙の言葉に秀一郎がうんざりしたように呟く。

 

「リィン、サーチ魔法なら使えますです!」

 

「うちとユニゾンすれば、もう少し広い範囲を調べられるけど?」

 

というリィンとはやての提案だが…

 

「いや、やめておこう」

 

「どないして?」

 

「向こうには黒歌……いわゆる妖怪の猫又がいる。索敵は向こうに一日の長があるだろう」

 

「ネコマタ?」

 

紅牙の説明にリィンが猫の耳を生やした女の人を想像する。

 

「さっきいたろう、ナ行が"にゃ"になってた女が」

 

「あぁ! あの人ですか!」

 

紅牙の補足にリィンも合点がいったのか手をポンとする。

 

「で、話を戻すが…猫又にも色々と種類がいるらしく…奴はその中でも稀少部類に入る『猫魈』と呼ばれる存在でな。まぁ、種族に関しては話半分で聞いてくれればいい。問題は、奴が仙術を使えることだ」

 

「センジュツ?」

 

今度はヴィータがオウム返しに聞く。

 

「そうだな。簡単に言えば、紅神が扱っている五気の内、気を使って行う術式のようなもの、と捉えればいい。まぁ、あの猿…美猴も現孫悟空を名乗っているのだから使えるだろうが…」

 

「「ふむふむ…?」」

 

紅牙の解説にリィンとヴィータがわかったようなわからないような、微妙な相槌を返す。

 

「…この際、相手の手の内は構わない。捕捉されるまでの猶予は?」

 

シグナムが一向に進まない会議を進めようと聞くが…

 

「既に勘付かれてるだろうな」

 

「一日とは言え、あいつらのスタイルは基本攻め入ることだからな~」

 

あっけらかんと紅牙と秀一郎が言う。

 

『ならば…迎撃か?』

 

今回、戦車枠で登録されているザフィーラが尋ねる。

 

「そうだな。移動に多少は時間がかかることを考えて…各自、相手取る奴を決めておけばいいか」

 

ザフィーラの問いに紅牙はそう答える。

 

「戦力を鑑みて…ヴァーリの相手は当然、俺がしよう」

 

「あんまり王同士で戦ってもらいたくはないが…ま、現状あの白龍皇と張り合えるのは紅牙くらいか。なら、俺はあのゴグマゴグの相手かね? あんな大物…なかなかバトれねぇしな」

 

紅牙はヴァーリ狙い、秀一郎も秀一郎で古代兵器相手に戦車対決をするつもりらしい。

 

「では、私は…あの剣士を受け持とう」

 

シグナムが迎撃相手にアーサーを指名する。

 

「わかった。アーサーは任せるが…奴は『最強の人間』候補の一人だ。油断はするな」

 

「『最強の人間』?」

 

「ヴァーリ達が議論している、『人間の中で最強は誰なのか?』というものがある。その候補の一人が、アーサー・ペンドラゴンという聖王剣『コールブランド』の担い手だ」

 

「ふむ…」

 

それを聞き、シグナムの表情が静かに引き締まる。

 

「シグナムのやつ、いつになくやる気じゃねぇか」

 

『気持ちはわからんでもないがな』

 

そんなシグナムを見てヴィータとザフィーラがそのように評する。

 

「栄崎と音無。お前達は現西遊記トリオの相手を任せる」

 

「へぇ、二対三で戦えっての?」

 

「現西遊記、ね。手強そうだけど?」

 

実際にまだ戦ってないが、藍香と翔霧が紅牙に挑発的な視線を送る。

 

「お前達の連携なら問題ないはずだ。どう戦うかはお前達に任せる」

 

「……いいわ。今の雇い主のオーダーを聞きましょう」

 

「オッケー。藍香となら問題ないよ」

 

というわけで、藍香と翔霧は現西遊記トリオを相手取ることになった。

 

「紅牙様! ボク達は!?」

 

そこで今まで声を出さなかった早紀が聞いてきた。

 

「お前達は……………………黒歌とルフェイの僧侶コンビをなんとしても足止めしろ」

 

しばし熟考した紅牙は冥王三人娘にそのようなオーダーを出す。

 

「わかりました!」

 

「でも…黒歌さんとルフェイさん…」

 

「嫌な予感しかしな~い…」

 

早紀が元気な反面、沙羅と紗奈が表情を暗くする。

 

「ってことは…あたしとザフィーラは、あのでっかい犬か?」

 

『尋常ならざる気配を感じたが…?』

 

「犬…紅神にも言えることだが、あいつらの前でそれは禁句だぞ? まぁ、その話は今はいいか。そして、やつの場合、北欧神話が生んだ神殺しの狼…それがフェンリルだ。生半可な相手でないのは確かだ」

 

紅牙の前情報を聞き、ヴィータが不敵に笑う。

 

「はんっ、神殺しだかなんだか知らねぇが、あたしが撃ち砕いてやるよ!」

 

『ならば、我はヴィータのサポートに徹しよう』

 

ヴィータを十全に戦わせるべくザフィーラもサポートに徹するという。

 

「頼む。残る八神達だが…全体指揮と遊撃を頼みたい」

 

「まぁ、王が前に出る以上は私がやらなきゃだもんね~」

 

ある程度わかっていたことだが、はやても紅牙のオーダーに頷く。

 

「一日の時間があるとは言え、基本はおそらく迎撃戦だ。向こうのチームの方針は基本攻めだが…個々人の技量もチームワークも高いから油断はするな。各個撃破できるなら、できる内にやっておいた方がいい」

 

最後に紅牙がそのように締め括り、『紅』チームは一時、リラックスタイムに入る。

長丁場の試合になるのなら、ずっとピリピリしていてもしょうがないとの判断であった。

 

………

……

 

それから約二時間は動きがなかったものの…。

 

しかし、それは唐突に始まった。

 

「真正面から、か」

 

妖狐状態で瞑想していた紅牙が小さく呟く。

リラックスするために瞑想していたわけではなく、紅牙も紅牙で独自に索敵を行っていたらしい。

無論、試合とは言え、戦いである以上、ある程度の緊張感を持っていたわけだが…。

それがこの瞑想しながらの索敵なのだろうが…。

 

「総員、迎撃態勢! 先に話した通りの布陣で迎え撃つ! 以降の指揮は八神に任せる! 八神、後は頼む。特に早紀達は八神の指示をよく聞くように!」

 

「なんでボク達だけ指名?!」

 

「日頃の行いだろうな…」

 

紅牙の指示出しに早紀が反応すると、秀一郎が苦笑する。

 

「八神。すまないが、あいつらを頼む。必要なら介入しても構わん」

 

「それはええけど…大丈夫なん?」

 

「黒歌もルフェイも油断していい相手ではない。まぁ、ヴァーリの所にいる連中で油断していい相手なんぞ一人もいないが…あいつらだけだと、どうにも特攻しそうでな…」

 

「そうやなくて…紅牙君のことなんやけど…」

 

「俺?」

 

はやての心配は三人娘ではなく、紅牙の方であった。

 

「あの、ヴァーリって人? 物凄く強いんでしょ?」

 

「そうだな。少なくとも、きっと俺の全力を軽く受け流すくらいには強いだろうな」

 

「だったら、無理せんと…」

 

「言いたいことはわかる。今の俺だってそのくらいの判断はできると思っていた」

 

「過去形なんやけど?」

 

「いざ奴を前にすれば、俺がやらなきゃならんだろうよ。それに…」

 

「それに…?」

 

「この程度で逃げるようでは、義弟に笑われる」

 

そう言った紅牙の表情は獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「っ…//」

 

女性みたいな顔が獰猛な笑みを引っ付けているのだから、はやても若干顔を赤くする。

 

ちなみに紅牙のこの表情も会場や中継に映っていたらしく、会場が黄色い声援で埋め尽くされ、中継を見ていた女性も顔を赤くしていたとかどうとか…。

あと、男性の方にも新たな扉を開きそうになった者がいたようないないような…危ないラインだったとか…?

 

ともかく、紅牙は後の指揮をはやてに任せて前線へと赴く。

 

『制限時間一日という長丁場を想定してましたが、僅か二時間足らずで戦闘が始まったぁぁぁぁ!!! ゲホッ、ガホッ!?』

 

飯でも食べてたのか、軽食片手に実況が声を張り上げる。

当然、咳き込むが…。

 

『いやはや、早いですね~』

 

同じく解説も優雅に食事しながら観戦を続けていた。

 

 

 

・戦車対決~秀一郎vsゴグマゴグ~

 

「オラァ! 行くぜ、デカブツゥゥゥッ!!!!」

 

シュティーゲルを装着した秀一郎がゴグマゴグに向かう。

 

『-----!!』

 

ゴグマゴグもそんな秀一郎を迎撃すべくその巨大な拳を振り下ろす。

 

「っしゃらくせぇぇぇぇ!!!!」

 

秀一郎はその巨大な拳の振り下ろしを、回し蹴りで迎撃し…

 

「うぉぉりゃああああああ!!!!」

 

ガンッ!!!!

 

見事、打ち上げ(・・・・)やがった。

 

『ぶふっ!?!?』

 

『んぐっ!?!?』

 

それを見ていた実況と解説も食事を噴き出すか、のどに詰まらせる。

 

「まだまだぁぁ!!!」

 

回し蹴りの勢いのまま、さらに遠心力を加え…

 

「ブレイズ・ブロー! アクセル!!!」

 

カシュッ!!

 

シュティーゲルからもカートリッジが消費され、その分の魔力強化と魔力変換資質『炎熱』による一撃をゴグマゴグの腹部らしき箇所に打ち込む。

 

『-----』

 

しかし、ゴグマゴグの巨体は微動だにしなかった。

 

(想像以上に(かって)ぇぇぇ!!?)

 

古代兵器のクソ硬い表面装甲に秀一郎も表情をやや歪めている。

 

しかしながら…

 

ゴトッ…!!

 

ゴグマゴグの装甲表面の一部…具体的には秀一郎に殴られた腹部の箇所…が熱によって微妙に融解しつつも拳による一撃の衝撃で地面に落ちる。

 

『ご、ゴグマゴグ選手の装甲が…爛れて落ちたぁぁぁぁ!?!?』

 

『ゴホッ、ゴホッ…す、凄まじい一撃ですね…』

 

実況が慄いた表情で絶叫し、解説も咳き込みながら表情を引き攣らせていた。

 

「へっ…通る(・・)なら、問題ねぇ!!!」

 

今の一撃で攻撃が通ることがわかった秀一郎は、誇張ではなく全身から魔力を放出させ、それを炎と雷に変換して纏い始める。

 

「この試合。長丁場なのは承知の上だが…道連れ上等で相手してもらうぜ、デカブツ!!!!」

 

ゴグマゴグ戦後のことは考えていないという意思表示なのか…それとも単に熱くなってるだけか。

真意はともかく、秀一郎はゴグマゴグを相手に一歩も退かないというスタンスを示していた。

 

『-----』

 

ゴグマゴグはそんな秀一郎の方を向き…

 

ビィィィ!!!!

 

無情にもビームを放つ。

 

「!?!?」

 

いきなりビームをブッパするとは秀一郎も予想だにしなかったのか、反応が遅れた…

 

ピシャアアァァァァ!!!

ビュオッ!!!

 

のだが、突如として突風が秀一郎の身体を吹き飛ばし、落ちてきた落雷がビームを防ごうとしたものの即座に突破される。

という現象が引き起こされた。

 

「………けっ…貸し一つずつかよ…」

 

その現象に対し、秀一郎は小さく呟きながらそれを引き起こした人物達を見る。

 

(自業自得)

 

(油断大敵)

 

藍香と翔霧が現西遊記チームを相手取りながら秀一郎にそんな視線を送っていた。

 

((でも、これで貸し一つ))

 

(ね)

 

(だね)

 

そして、互いをチラ見しながらウインクしてみせる。

 

(ほんっとにあいつらはよぉ…)

 

ガシガシと頭を掻いた後…

 

「ったく…後で何を要求されるんだかなぁぁぁ!!!!」

 

突風の勢いで炎が増し、ビームを防ごうとして散っていた落雷の残滓をシュティーゲルから吸収して自らの雷を強化し、空気を蹴ってゴグマゴグへと再度突撃を仕掛ける。

 

秀一郎、藍香、翔霧…この三人の息はピッタリなのだ。

それは互いに離れていた期間が長くても変わらない…絆の証でもある。

 

 

 

・風神雷神コンビvs現西遊記チーム

 

秀一郎が油断し、それを助けた藍香と翔霧だが…

 

「へいへい! 俺っち達を相手によそ見とは余裕だねぇぃ!!」

 

美猴が如意棒を伸ばして翔霧を狙う。

 

「よそ見? いえ、これも一つの連携よ?」

 

藍香が雷神で斬り上げを行い、如意棒の軌道を逸らす。

 

「ま、そもそも数の不利なんて大した問題じゃないし、ね?」

 

さらに流れるような動きで、翔霧が逸れた如意棒を掴むと…

 

「風に乗り…」

 

「稲妻走る」

 

「「風衝雷波(ふうしょうらいは)」」

 

そう言葉を紡ぎながら、藍香は如意棒の下側に雷神の刀身を滑らせ、翔霧は優しい風を纏わせた握った手を横に滑らせる。

 

「あぁ?」

 

その行為に意味も分からず、美猴が首を傾げていると、本来なら有り得ないことだが…如意棒がまるで風に流される(・・・・・・)かのように後ろに控えていた現沙悟浄と現猪八戒へと向かい…

 

「ちょっ!? 早く如意棒、引っ込めて!?」

 

その違和感にいち早く気付いた現沙悟浄がそこから離れながら言うが、時すでに遅く。

 

「????」

 

ピタッ…

 

現猪八戒に如意棒が触れた瞬間…

 

ピガガガガガガ!!!!

 

「「あばばばばば!??!」」

 

美猴と現猪八戒が突如感電する。

 

「何が起きたの!? いえ、何をしたの?」

 

それを後ろから見てた現沙悟浄が藍香と翔霧の二人を見る。

 

「手品のタネを教える手品師がいるかしら?」

 

「あはは。ま、簡単に手の内を話すほど私達もお人好しでもないしね~」

 

そう言って藍香は刀の峰に指を滑らせ、翔霧はまるで演武でも演じているかのように華麗な、それでいて軽やかなステップを踏んでいた。

その姿、まるで風神と雷神の巫女、或いは天女と表現すべきか?

 

「ていうか、あなた、誰ですか?」

 

そして、現沙悟浄が翔霧を見ながらもっともな疑問を口にする。

 

「え? 私、ずっといたけど?」

 

「男装してね…」

 

その質問に首を傾げる翔霧の横で、藍香が呆れたように漏らす。

 

「え゛っ?」

 

『『えええええええ!?!?』』

 

その言葉に現沙悟浄だけでなく、実況と解説も驚きの叫びを上げ…さらには視聴者からも驚きの声が聞こえてきそうだった。

 

「嘘でしょ!?」

 

現沙悟浄が思わずといった感じで叫ぶ中…

 

『これは、確かに輪郭が…しかし、その…』

 

『このスタイルで男装したと!? どうなってんだよ、女の身体って!?』

 

『それはセクハラ発言になりますよ~』

 

会場のスクリーンに今の風神を起動させている翔霧の姿と、フィールドに転送される前の男装時の翔霧の姿が表示されて比較されているのか、実況と解説がそんなやり取りをしていた。

会場や視聴している女性陣からも確かに実況へのブーイングがありそうだが…

 

『と、ともかく…他の戦況はどうなってるんでしょうか?』

 

(逃げましたね)

 

実況の逃げの一手に解説が生温かい目を向けつつも、確かに他の戦況も気になると他のモニターを見てみると…

 

『おっと、これは…?』

 

あるモニターが目に留まる。

そこに映っていたのは…

 

 

 

・騎士対決~剣の騎士vs聖王剣の担い手~

 

「「………………」」

 

互いに得物を鞘に収めた状態ながらいつでも抜刀できるように剣の柄に右手を添え、睨み合うシグナムとアーサー。

 

片や、炎の魔剣と称されし剣型デバイス。

片や、最強の聖剣。

 

様々な出自は異なれど、互いに騎士の枠で出場している剣士同士。

 

たまに無人世界で軽い手合わせをしたことはあれど、互いに本気で打ち合ったことはない。

しかし、今のこの状況下においてはゲームという名目上、互いのチームを勝たせるために全力を尽くさねばならない。

 

そう…互いに敵同士である以上、全力を出せる建前は既に用意されている。

 

「いざ…」

 

「…参る!」

 

ギィンッ!!

 

瞬きの間に互いの剣が交差する。

 

「「………………」」

 

言葉は交わさず、互いに互いの一挙手一投足を観察し、得物である剣を振るう。

 

その様はまさに剣戟の舞い。

だが…

 

「一つ…よろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

一旦の鍔迫り合いの間にアーサーがシグナムに問う。

 

「何故、他の形態になさらないのですか?」

 

シグナムの愛剣レヴァンティンの機能…デバイスの変形機構は訓練の際にも何度か使っている。

しかし、今のシグナムは剣形態のみで戦っているのだ。

それを些か疑問に感じたアーサーが問い掛けた、という形だろう。

 

「確かに、連結刃だけでも使えば戦いは有利に進めれる。だが…これでも剣士の端くれだ。今の自分の全力が貴殿にどこまで通用するのか。少し試したいのだ。最強の人間の候補者よ」

 

「あくまでも候補ですよ。ですが、そうですね。確かに剣士は剣で語らうべきでしょう。今回は長丁場のゲーム内容ですが…あなたの気が済むまではお相手して差し上げましょう」

 

「感謝する」

 

その言葉を最後にアーサーとシグナムの剣戟は激しさを増していくのだった。

 

『こりゃ玄人好みのカードだな!! 実況してもいいが、俺は別のとこに行くぜ!!』

 

そうして実況が次に観戦すべくカードを吟味していると…

 

『おっと、なんだこりゃ?』

 

そこに映っていた光景とは…?

 

 

 

・ザフィーラ&フェンリル ~狼同士の語らい~

 

『ふむ、そうなのか。貴殿も苦労しているようだな』

 

『………………』

 

そこには向かい合っている狼達がいた。

 

『わかる。わかるぞ。皆、我々の事を正しく狼だと認識していない』

 

『(コクコク)』

 

ザフィーラの言葉にフェンリルが力強く頷いていた。

 

『紅神も嘆いていたが…何故、皆は狼を犬と勘違いするのだろうか?』

 

『!!』

 

『ふむ。確かに、今の世に狼自体が少ないというのもあるのだろうな』

 

『!、!!』

 

『増やすと言っても、それでは家畜と同じではないか? できるなら自然と増えてほしいものだが、それもまた難しいか』

 

『……』

 

『む? ご子息達か。確か、今は紅神のところに厄介になっていると聞いたことがあるが…ふむ。よければ話を通しても…』

 

『!、!』

 

『まぁ、紅神がいるから大丈夫だとは思うが…周囲の目もある。何も知らない一般人からしたら、我等は"大型犬"らしいからな。実に悲しいが…』

 

『!!』

 

『あぁ、我も苦労している。昔はこの姿で主を背に乗せたこともあったが…一時期は友人のように子犬のような姿になったこともあった。それも周囲の目を気遣っての事だが…大いに悩まされたな』

 

『………………』

 

『貴殿ほどではないさ』

 

という感じに最初こそ戦闘していたのだが、ザフィーラがフェンリルの言葉を理解してしまったが故に、互いの立場や近況を話し合ってしまっていた。

ちなみにヴィータはこの会話に加わる勇気がなかったのか、空気を読んだのかは知らないが、この二匹が話し合い始めた頃にちょっと横にいたが、理解が及ばずはやての方に合流しに行ってしまっていた。

 

『で、伝説の神殺しが…語り合ってる、だと!?』

 

『う~む…これはこれで貴重なシーンかもしれないですが、他が殺伐としてる分、なんとも和やかですね…』

 

実況解説もこの状況に何と言っていいものかといった感じだった。

 

『と、とりあえず、他だ、他!!』

 

玄人好みの剣士対決と、和んだ狼の語らいを尻目に実況は他の映像を見渡す。

そして、目をつけたのは…

 

『そういや、この組み合わせを忘れてたぜ! 王対決!!』

 

そう、紅牙とヴァーリの戦闘映像だった。

 

 

 

・紅牙vsヴァーリ ~紅の冥王と明星の白龍皇~

 

「フッ…紅牙。君の眷属達もなかなかやるじゃないか」

 

「まぁ、この結果は俺としても嬉しい誤算というやつだ」

 

そんな風に会話を交してはいるが、互いに冥王状態と通常禁手状態で炎弾と魔力弾を撃ち合い、激しい弾幕を張っている。

 

「特に彼女達を引き入れていたことには些か驚きだったが…」

 

「彼女達? 栄崎と音無のことか?」

 

「あぁ。そういえば、昔少しだけ会ったことがあったのをさっき思い出してね」

 

「ほぉ?」

 

というのも、さっきゴグマゴグのビームブッパから秀一郎を助けた光景を見た際、微かに覚えていた記憶が蘇ったらしい。

 

「ただ、今は昔話よりも、この戦い楽しまないとな!」

 

「結局はそこか、戦闘狂のドラゴン魔王が!」

 

弾幕戦が一層激しくなっていく中で…

 

(互いにまだ様子見といったところだが、あいつを相手にいつまで温存できるかは不明。しかも配分を誤れば、こちらはすぐに呑まれる。あいつはそれだけの相手だ。ならば…!)

 

紅牙はヴァーリとの差を感じつつも、頭の中では冷静に戦況を分析していた。

故に…

 

「サジタリアス!」

 

『ほいほ~い。やっと出番かい?』

 

「あぁ。すまんが、お前のコアを借りるぞ」

 

『まぁ、相手が相手だからね~。いいよ~』

 

そんなやり取りをしつつ、即座にサジタリアスを起動して身に纏い、コアドライブの魔力を用いて弾幕を強化していく。

 

コアドライブの無尽蔵とも言える魔力供給によって戦線を維持する。

一枚目の手札を切ることになるが、魔力量や龍気の総量や出力はヴァーリの方が上、その状態での戦線をこれ以上維持するには切らざるを得なかった。

初手から使う手もあったが、それだとペース配分や魔力管理が雑になりやすい可能性もあったため、ある程度の"慣れ"が必要だと判断し、ここでサジタリアスの起動に踏み切った。

 

紅牙がサジタリアスを起動したのを見て…

 

「フッ、それは悪手だ」

 

ただ、ヴァーリの神器の力は…力を半減させ、その半減した力を吸収すること。

この弾幕戦の合間もヴァーリは紅牙の炎弾の魔力を殴る蹴るなどしてその魔力を吸収していたのだ。

無尽蔵とも言える魔力供給を可能とするコアドライブとの相性は最悪である。

しかし…

 

「それはどうかな?」

 

「?」

 

そのように言って不敵な笑みを浮かべる紅牙にヴァーリは首を傾げる。

 

そうしてまたしばらく弾幕戦を繰り広げていると…

 

『! ヴァーリ!』

 

「む?」

 

突然のアルビオンの声にヴァーリは何事かと意識をそちらに向ける。

 

『力をセーブしろ。でなければ、いつぞやの赤龍帝との相対した時の二の舞いになるぞ』

 

「なに?」

 

ヴァーリが怪訝な表情で自らの光翼を見ると、いくらか明滅していた。

 

「これは…!」

 

「流石に相方は気付いていたか」

 

この異変の正体、それは単純な力の吸い過ぎである。

 

以前、イッセーもやったことだが、アレは短時間に力を吸う力を急上昇させて起こしたキャパオーバーであり、その場凌ぎな上に、アレからヴァーリも成長していることからキャパの限界値も上昇していることを踏まえてもそう簡単に起こりうることはない。

 

だが、今回に限っては限定的な条件が揃っていた。

その一つがコアドライブだ。

ヴァーリはサジタリアスの起動を悪手と言ったが、実際はそうでもない。

 

無尽蔵の魔力供給源、コアドライブ。

魔力は何も魔法にのみ使うわけではない。

ただ、散布して周囲の魔力濃度を故意に引き上げることだってできる。

今回の紅牙の狙い目はそこにある。

 

周囲の魔力濃度を上げ、自らが撃ち出した魔力弾の"魔力密度"を底上げする。

そうすることで、撃ち出した魔力弾はヴァーリの思った以上に濃いものとなり、半減して力を吸収したとしても思った以上に吸収率を上げてしまう。

結果、ヴァーリは知らず知らずのうちに自らの許容限界近くまで力を吸いこんでしまっていた。

 

「! やってくれるね。紅牙!!」

 

「悪いが、力量差は理解している。故に小細工ぐらいさせてもらう!!」

 

そう言い合って互いに距離を開くと…

 

「アルビオン、白銀になる!」

 

『この状況で、正気か!?』

 

ヴァーリの言葉にアルビオンが驚く。

 

「紅牙も色々と策を練っているようだ。なら、それを真正面から全て叩く!」

 

『……わかった。お前の好きにすればいい』

 

「フッ…つくづく俺は赤い系統の色と縁があるらしい!」

 

そう笑い、ヴァーリは自らの白き鎧を白銀の鎧へと変化させる。

 

「ギアが上がったか…」

 

それを見て紅牙は若干の焦りを覚えつつも…

 

「アームドドライバー、全装備!」

 

待機させていたアームドドライバーを全て装備し、サジット・ファルコンを構える。

 

「サジットブラスター!!」

 

サジット・ファルコンから放たれた魔力砲撃は一直線にヴァーリへと向かう。

 

「ふんっ!」

 

ヴァーリはその砲撃を難なく直上へと殴り飛ばす。

 

(やはり、だたの砲撃では無理か)

 

コアドライブの出力もあって強力な砲撃であったものの、白銀の鎧を身に纏ったヴァーリに対してはまだ"火力不足"のようだった。

しかもヴァーリにはまだ上の形態…魔王化も控えている。

紅牙にも解放形態があるとはいえ、それらを十全に使ったとしても勝ち目は薄いと言わざるを得ない。

 

(俺にも…"もっと先"へと進める力があれば…)

 

そこで思考にチラつくのは…異常な進化を遂げている今代の二天龍であるイッセーや目の前のヴァーリ…そして、義弟の忍の姿であった。

 

二天龍に関しては欲望にひたむきでありながら努力を重ねていたり、戦闘狂なりの心境の変化などがあったりでそれらの要因が予想外の方向に進化した形を取っている。

それに対し、忍の進化は様々な外的要因もあるが、その身に混入した異物をも取り込み、さらには師事していた者の背を見たりと、本人の努力と色々な要因が絡み合った結果とも言える。

 

その三人と比較してしまうと…紅牙には冥王としての血脈、狐の力、そしてエクセンシェダーデバイス。

この三つの要素のみしかないとも言えた。

 

(これでは、何者にもなれない半端者だな…)

 

紅牙の思考がだんだんと負の面に陥っていくのがわかる。

 

(奴等には、俺にはない願いや信念を持っている。その、差か?)

 

こう言ってはなんだが、紅牙は超常であるこの世界においては、割と平凡とも言える生まれだ。

混血が当たり前の冥族においてはそれが普通だし、両親が殺されたなんてこともままあることではある。

その影響で、復讐に身をやつしていたが、今は贖罪のために己を捨てて身を捧げている。

 

しかし、それでは…イッセーやヴァーリ、忍、海斗…果ては自らの眷属であるユウマにも届かないのかもしれない。

彼らにはあって、紅牙にないもの。

それがわからぬ限り、紅牙は先に…未来には進めないかもしれない。

 

(だったら、このまま…いっそ、投了してしまった方が……)

 

紅牙の瞳から光が抜け落ちそうになった、その時…

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇ!!!」

 

突如として紅牙とヴァーリの間に入ったヴィータが己の相棒であるグラーフアイゼンを振るってヴァーリを強襲する。

 

「む?」

 

紅牙の異変に気づいていたものの、そのまま戦闘を続行しようとしたヴァーリは魔力障壁を展開してその一撃を防ぎ切る。

 

「紅牙君!!」

 

そこにはやても合流し、紅牙の元へとやってくる。

 

「八神か。指揮と、あいつらの面倒はどうし…」

 

紅牙がはやてに質問しようとすると…

 

パァンッ!!

 

はやての手が紅牙の頬にクリーンヒットした。

 

「………………?」

 

何をされたのか理解できず、ぼんやりとしていると…

 

「ヴィータ! 悪いけど、そこな魔王さんを足止めしとって!!」

 

「お、おう!」

 

いつになく怒気を含んだはやての命令にヴィータは戸惑いながらも従う。

 

「いくぜ、ルシドラ(・・・・)ぁぁ!!」

 

「なっ!? 何処でそれを聞いた!?」

 

ヴィータの言葉にヴァーリが珍しく狼狽するのが伝わってくる。

ヴァーリはすぐさまこの眷属内で古い付き合いのある秀一郎(未だゴグマゴグと交戦中)を横目で睨むが…

 

「あん? おめぇ、確か魔王ルシファーでドラゴンなんだろ? だったら縮めてルシドラで十分だ!!」

 

「ぬぐぅぅ…」

 

ヴィータの素直な言葉に何故か精神的ダメージを負うヴァーリ。

 

余談だが、この中継の録画映像を後から見た刃狗チームの面々はにっこりしたり、ゲラゲラと爆笑してたとか。

 

 

 

一方で。

 

「紅牙君。今、何を考えとったん?」

 

「今はヴァーリ達との…」

 

パァンッ!

 

再び紅牙の頬にはやての平手が飛ぶ。

 

「もう一度聞くで? 何を考えとったん?」

 

「………………」

 

有無を言わさぬはやての怒気に紅牙はしばしの沈黙の後…

 

「投了を、考えていた」

 

「………………」

 

それを聞いてもはやては黙って続きを促すように睨む。

 

「俺には、奴らほど高い志があるわけではない。未来を望んではいるものの、それを描けていない。そんな俺がこれ以上、戦っていても…」

 

紅牙のネガティブ発言に…

 

「バカ…紅牙君は大バカやで!」

 

はやてが怒鳴る。

 

「………………」

 

はやての言葉に返す言葉もない紅牙。

 

「紅牙君にだって願いがあるやろ? そのためにも頑張ってみてよ…」

 

(俺の、願い…)

 

はやての目に涙が溜まるのを見ながら紅牙は先日のプロデューサーとの会話を思い出す。

 

『俺の願いは…いつか平和になった世界を、未来の子供達に見せること、かな?』

 

その後、プロデューサーには微妙な顔をされていたが…

 

「……そうか。答えは、もうそこにあったのか」

 

紅牙の瞳に活力が戻っていく。

 

「紅牙君?」

 

はやてが怪訝そうな表情を浮かべていると…

 

「ありがとう、八神…いや、八神 はやて」

 

「え…?」

 

フルネームとはいえ、下の名前を呼ばれたのは初めてかもしれなかったはやては少し驚く。

 

「それと、すまなかったな。これは詫びと礼だ」

 

「!?///」

 

その流れで冥王の力を解放すると、背中から現れた翼で自身とはやてを包み込むように覆うと共にはやての唇に自分の唇を軽く重ねる。

 

「続きはまた後で」

 

「つ、つつつつ、続き!?///」

 

重ねた唇をすぐさま離しながら紅牙はそう伝え、色々とパンク寸前なはやてはその言葉に動揺する。

 

「まずはこの試合、改めて全力を尽くす」

 

そう呟いてヴィータと交戦中のヴァーリの元へと飛翔する。

 

「………………///」

 

その場にはしばし硬直したはやてだけが残った。

 

 

 

そして…

 

「くっ!?」

 

「俺を相手によく保った方だが、これまでだ」

 

ヴァーリがヴィータを撃破(テイク)しようとした時…

 

「バーニング・サジットブラスターッ!!!」

 

紅の炎そのものがそのまま砲撃と化したような一条の砲撃がヴァーリへと一直線に迫る。

 

「ほぅ?」

 

その砲撃を後退しながら避けたヴァーリは興味深そうに砲撃を撃ってきた者を見る。

 

「待たせたな、ヴァーリ」

 

それはもちろん、冥王状態かつサジタリアスを身に纏った紅牙だ。

 

「ふふっ、さっきとは別人のような気迫じゃないか。自分の女王に叱咤されて目が覚めたようだ」

 

「実際その通りだからな。返す言葉もない」

 

そんなことを言い合いながら二人は互いの間合いを測る。

 

「では、改めて宣言しておこう」

 

「ふむ?」

 

「俺はこの試合を全力で戦い抜き…八神 はやてと必ず添い遂げると!!」

 

「………うん?」

 

まさかの宣言にさしものヴァーリも首を傾げた。

 

『『『『えええええええええええ!?!?』』』』

 

その宣言には実況や会場にいた者、視聴者、別の場所で戦っていた秀一郎達も驚きの声を上げる。

 

『こんな宣言、赤龍帝の試合だけで十分ですよ』

 

解説が呆れたように呟く。

 

「て、てっめ!? はやてに言い寄るとかどういうことだ、ゴラァ!!」

 

紅牙の後ろにいたヴィータが怒りのあまりグラーフアイゼンを振りかぶっていた。

 

「試合が終わったら話はいくらでもできる。その時に聞いてやる」

 

さすがに同士討ちを避けるべくそう言って紅牙は前に飛び出す。

 

「冥王スキル『グラヴィタス・イフリート』!」

 

コアドライブの魔力を利用して周囲に炎と重力の球体が無数に広がる。

 

「紅牙の十八番…!」

 

それを見てヴァーリが笑う。

 

本来なら物量で押し切る戦法を得意とするのが紅牙だ。

しかし、今回は…

 

「バーニング・サジットブラスター、ヴァリアブルシフト!!」

 

炎球の一つを持ち、それをサジット・ファルコンに装填し、砲撃として撃ち出す。

さらに今撃ち出された砲撃はヴァーリに向かう途中で枝分かれしながら拡散していく。

 

「この程度の砲撃くらい…」

 

そう言ってヴァーリが迫る砲撃群を高速移動で回避する。

 

だが…

 

ギュインッ!!

 

回避したはずの砲撃が軌道を変えてあらゆる角度からヴァーリに再び迫ってきていた。

 

「なに!?」

 

咄嗟に防御態勢を取るヴァーリに砲撃が直撃していく。

 

「これは…」

 

しかし、ヴァーリのダメージは軽微であり、すぐさま今の攻撃の考察をしていた。

 

「やはり、そう簡単には貫けんか」

 

紅牙も紅牙で次弾装填を行い、再度砲撃を繰り出していた。

 

「ならば貫けるまで射るまで!」

 

「ちっ…」

 

矢継ぎ早に放たれる砲撃の雨にヴァーリも珍しく舌打ちしながら砲撃雨を殴り飛ばしていく。

 

これがコアドライブによる魔力供給に紅牙の物量戦術、そして砲撃魔法が噛み合った結果。

白銀の鎧を身に纏ったヴァーリを相手取っても引けを取らない領域への昇華。

紅牙が吹っ切れて前へ…未来へと進む意思を貫かんとする、その覚悟。

 

それらが重なり合った今、紅牙もまた次のステージへと足を踏み入れた。

 

「最高だ。最高だよ、紅牙!!」

 

ヴァーリのテンションも上がっていく。

 

「これなら、こちらも全力を尽くせる!!」

 

「上等だ! 俺も今の俺の全てをぶつけてやる!!」

 

そう叫び合いながら持てる力の全てを出し尽くさんとばかりに衝突する紅牙とヴァーリ。

 

 

 

そうして十数時間という長い時間の中で一人また一人と撃破される者が出る中、最後まで立っていたのは…

 

『よ、ようやっと決着が着いたぁぁぁぁ!!!』

 

『まさか、本当にこの十数時間を戦いに費やすとは…』

 

『滅多にないレアケースだが、この試合はここに決着だ。勝者は……』

 

そして、スクリーンに映し出されたのは…

 

「がはっ…」

 

「くっ…」

 

地面に大の字になって倒れて血反吐を吐く紅牙と、その横で膝をつきながらも右の拳を突き上げる魔王化(・・・)しているヴァーリ。

 

『「明星の白龍皇」チームだ!!!』

 

『『『『うおおおおおおおお!!!!』』』』

 

観客や視聴者も興奮のあまり歓声を上げる。

 

「負け、か…」

 

「だが、良い時間を過ごせたよ」

 

そう言いながらヴァーリは紅牙に突き出していた右手を差し出す。

 

「………………」

 

しばしその右手を見た後、その右手をがっしりと掴む。

 

「……次は負けん。と言いたいが、次があるかは怪しいか」

 

「君にしては弱気な発言じゃないか」

 

「レートの問題もあるからな」

 

紅牙の言う通り、今回のアザゼル杯には通常のレーティングゲームと同じようにレートによるポイント管理もあるので、決勝トーナメントに進められる上位16チームに入るためにはただ勝つだけではいけないのだ。

 

「ま、それよりも先にしなきゃならんこともあるがな」

 

そう言う紅牙の表情は、どこか憑き物が取れたように晴れやかなものだった。

 

「そうか」

 

それを見たヴァーリは笑っていた。

 

 

 

こうして『紅』チームと『明星の白龍皇』チームの試合は、ヴァーリ達の勝利で終わった。

 

ちなみに同日に行なわれていた紅神眷属チームと刃狗チームの方が早く終わったため、何人かはこの試合を見にきていたそうだ。

例の宣言を生で見られることはなかったが、録画映像を見て…特にシアはかなり驚いていたらしい。

 

ただ、負けた紅牙には試合後に更なる試練が待ち受けているわけなのだが…それはまた別の機会に。

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