魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第十一話『囚われた狼と紅蓮の焔と蠍の想い』

非公式のレーティング・ゲームが終わり、早一日が経とうとしていた。

 

イッセーはライザーとの戦いで負った傷を癒したものの、その意識は未だに目覚めてはいなかった。

リアスはアーシアを残して他の眷属と共に冥界へと旅立ってしまった。

 

しかし、被害に遭ったのはイッセーだけではなく、明幸組でも事件が起きていた。

突如として現れた謎の少女と共に消息不明となった智鶴を捜しに忍は夜中からずっと走り回っていた。

もちろん、組員も総出で智鶴を捜すために情報収集を行っていた。

 

「(何処…何処にいるの! ちぃ姉!)」

 

夜中から走り回ってるせいか、少し目の下にクマが出来ていた。

ちなみにネクサスも装備済みで、駒王学園の制服姿で探し回っている。

途中、何度か補導されそうになったが…一瞬だけ銀狼の力を使って逃げ切っている。

 

捜す範囲は駒王町から海鳴市まで幅広かった。

少しでも匂いがすれば一発なのだが、転移されてしまったためにその匂いも追う事が出来ないでいた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

そして、今は海鳴臨海公園で膝に手を置いて息を切らしながら少し休憩していた。

 

そこへ…

 

「し、忍君? どうかしたの?」

 

私服姿のフェイトが現れていた。

 

「ふ、フェイト、さん…」

 

「どうしたの? こんなに息を切らして…」

 

心配するフェイトをよそに…

 

「この人…知りません、か…?」

 

忍は一枚の写真を取り出して、フェイトに見せる。

今の忍には智鶴を捜すことしか頭になかったようだ。

 

「(わっ…綺麗な人…でも…)」

 

そこに写る優しい笑みを浮かべた女性を見てフェイトも少し驚いた。

 

「う~ん…見てはいないけど…どうかしたの?」

 

写真を返すと、詳しい事情を聞こうとする。

 

「っ、はぁ…(フェイトさんなら…いいか…)」

 

人手は多いに越したことはないと判断した忍は…

 

「実は…」

 

昨日起きた事情を話そうとしたのだが…

 

ブォンッ!

 

臨海公園を中心に周囲一帯の景色がいきなりセピア色のような光景に変わる。

 

「これは…封鎖領域!?」

 

フェイトは驚いたように周りを見回す。

 

「な、なに…?」

 

忍も周囲の様子に警戒する。

 

ギンッ…ズズ…ズズ…

 

すると入口の方から剣を引き摺るような音が聞こえてくる。

 

「あれは…?」

 

フェイトが音のする方を見ると、そこには白銀色の鎧を着込んだ女性がこちらに向かって歩いてきたのだ。

 

「っ!?」

 

そして、そこで忍はある匂いを気づく。

それは良く見知った匂い…いや、何処にいても忘れはしない、忍にとっては馴染んだ匂い…。

 

「ちぃ…姉…?」

 

そう呟いてみると…

 

「しぃ君。み~つけた…♪」

 

紫のバイザー越しに見えるその瞳はとても空虚であった。

 

「あの人が…忍君の捜してた? でも、これって…」

 

忍の近くにいたフェイトは謎の鎧を纏い、剣を持った』女性が忍の捜してた人物だと悟るが、鎧の反応を見て困惑していた。

 

「しぃ君…誰かな? その女の子は?」

 

目聡くフェイトの姿を見つけると、その瞳から殺気が放たれる。

 

「ちぃ姉! ちぃ姉こそ何処に…それにその鎧は…!?」

 

「しぃ君。質問に答えて…その女の子は誰なの?」

 

忍の問いには答えず、智鶴は質問を続ける。

 

「フェイトさんは…僕を助けてくれた恩人だよ。僕に魔法を教えてくれたし…」

 

埒が明かないと見た忍は素直にそう答えると…

 

「そう…あなたがしぃ君を戦いに巻き込んだのね?」

 

あらぬ方向へと話が飛んだ。

 

「え? ち、違います! 忍君は…」

 

まさかの解釈にフェイトも否定しようとするが…

 

「問答無用!」

 

そして、いきなり大剣を振りかざして一足にフェイトへと斬りかかっていた。

 

「なっ!?」

 

いきなりのことにフェイトも自身のデバイス『バルディッシュ・アサルト』を起動させて大剣を防ぐ。

 

「フェイトさん!? ちぃ姉?!」

 

その光景に忍もネクサスを起動させると、智鶴を羽交い絞めにした。

 

「やめてよ! そんなのちぃ姉らしくないよ!」

 

必死で止めようとする忍であったが…

 

グサッ!!

 

「がぁっ!?」

 

智鶴の後頭部から垂れ下がっていたユニットが器用に動くと、その先端から紫色の二等辺三角状の刃が形成されて忍の背後から突き刺す。

 

「しぃ君は…私が守るからね。だから今は眠っててね…」

 

そう呟くのを聞いて、忍はこれが智鶴の手によることだと悟った。

 

「ちぃ、姉…な、んで……」

 

ぐったりした様子で忍はその意識を飛ばしていた。

 

「忍君!!?」

 

それを見てフェイトも忍を助けようとしたのだが…

 

「私の邪魔をしないで!!」

 

「くっ!?」

 

その咆哮と共に大剣を一閃すると、フェイトはその勢いのまま吹き飛んでしまった。

 

「しぃ君…」

 

吹き飛んだフェイトに目もくれず、智鶴は忍を抱き抱えて目の前に円状の門を作り出す。

 

「ずっと…私が守ってあげるからね」

 

そう言い残し、忍を抱えた智鶴は門の向こう側へと消えていった。

 

「一体何が…それにあの魔力反応は…」

 

残されたフェイトは智鶴の纏っていた鎧と魔力が気になったのか、すぐに自分の住むマンションへと駆けていった。

 

………

……

 

忍が智鶴に連れ去られて数時間が経った頃…

 

とある研究所にて忍と智鶴の姿があった。

 

「(ここは…?)」

 

忍は意識を取り戻したものの体を動かせない状態だった。

それは連れ去られた時に刺された刃から毒を注入されており、それによって意識を取り戻しても体が動かせないようになっていたからである。

 

「しぃ君…」

 

智鶴はそんな忍の隣のベッドで寝ており、その傍らには蠍座のシンボルとゲイト(サークル状の門)の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のガーネットを携えた白銀色のチェーンブレスレットが無造作に置かれていた。

 

「(ちぃ姉は…一体どうしたっていうんだ…)」

 

そう考えていると…

 

「やっと眠ったか」

 

そこへ壮年な男性がやって来た。

 

「初めまして、紅神 忍君。私はシャドウというしがない研究者だ。ちなみに周囲からの私の評価はマッドサイエンティストだそうだ。自分でもそう思うよ」

 

そう言って男性…シャドウは軽い自己紹介を忍に行っていた。

 

「先に謝っておこう。私は君の血液を採取し、分析した。そして、さらに最近入手した変わった血液サンプルを2種類ほど君の中へと注入してしまったよ」

 

「(なっ!!?)」

 

自分が意識不明の間にそんなことをされていたので、忍は酷く驚いていたが体が動けないのでシャドウを殴れも出来ない。

 

「君の血液データは非常に興味深かった。なにせ、"人間の血液が一滴たりとも入っていなかった"のだから」

 

その事実を聞き…

 

「(…………………は?)」

 

忍は一瞬頭の中が真っ白になった。

 

「正確に言えば、動物的遺伝子と人型の妖怪遺伝子が見つかったと言える。片方は覚醒してるようだが、もう片方はその片鱗が現れ始めたところかな? しかし、新たに投与した血液がどのような作用を引き起こすか未知数だからね。非常に興味深く楽しみではある」

 

忍の様子を気にも留めず、シャドウは喋り続ける。

 

「(ちょっと待てよ…僕は…人ですらない? 狼は知ってたけど…人型の妖怪? じゃあ、僕は一体…それになんだよ、血液って…ふざけないでよ!)」

 

忍の中の怒りがふつふつと煮えたぎり始める。

 

「しかし、不思議なものだ。人の血を持たない君がリンカーコアと呼ばれる魔法機関を宿している。実に興味深いサンプルだよ。一体君は何なんだろうね?」

 

そう言った瞬間…

 

カッ!!

ボアアアア!!!

 

忍を中心にして紅蓮の焔が巻き起こる。

 

「っ!? しぃ君!?」

 

熱波によって目覚めた智鶴が忍に近寄ろうとしたが…

 

「アンタ、死ぬ気? こんな熱量じゃ近づけないよ」

 

部屋の外で待機していただろう少女が腕を変異させて智鶴とシャドウを紅蓮の焔から守っていた。

 

「ふざけるな…」

 

低い声が室内に響き…

 

「ふざけるなよ…!!」

 

憎悪に満ちた瞳をシャドウに向け、焔の中で忍の姿が歳相応の青年の姿へと成長していく。

心なしか忍の背中から紅蓮の翼が生え、髪と瞳も変化したような陽炎状の幻覚が見えた。

 

『バリアジャケット再構築』

 

その変貌にネクサスがバリアジャケットを新調する。

新調されたバリアジャケットは上に紅いシャツを着て、下に黒い長ズボンを穿き、その上からロングコート状の黒衣が羽織られ、両手にはOFGを着け、両足にはコンバットブーツを履いた姿である。

 

「僕は…"俺"は…テメェの実験動物なんかじゃねぇ!!!」

 

ゴアッ!!!

 

そう叫んで紅蓮の焔を纏った拳を少女に守られていたシャドウに向けて突き出すと…

 

ジュワッ!!

 

「ぐっ!!?」

 

少女の変異した腕を突き破ってシャドウの胸を貫いていた。

 

「…………死…いや、命とは…あっけないものだな」

 

それを最期の言葉にシャドウは紅蓮の炎に包まれながら絶命した。

 

「しぃ君…」

 

その光景を見て智鶴は忍を呆然として見ていた。

 

「ちぃ姉…帰ろう。俺達の家に…」

 

そう言って智鶴に手を伸ばす忍だが…

 

「どうして? どうしてしぃ君は戦うの? 私が守ってあげるのに…」

 

悲しそうな表情で智鶴はそう言う。

 

「俺が戦うのは…ちぃ姉…あなたを守りたいから…いつまでも守られてばかりは俺も嫌なんだよ」

 

忍は決意に満ちた言葉と眼で智鶴を見ていた。

 

「しぃ、君…」

 

焔が部屋を包む中で、智鶴は一筋の涙を流す。

 

「俺はもう…小さな忍じゃないんだ。戦える力もある…だから守らせてほしい」

 

その言葉を受け…

 

「私は…しぃ君と…」

 

自然と忍の手を取る智鶴だった。

 

「あ~あ…こんな所で見せつけられてもな」

 

少女が呆れたように2人の様子を見ていた。

 

「とりあえず、逃げるか」

 

「…はい」

 

「私も逃げさせてもらうわ」

 

こうして少女も研究所から脱出することになった。

 

結果…研究所は忍が発生させた焔によって炎上し、内部の資料はほとんどが失われ、被験体となっていたモノもそのほとんどが燃え尽きてしまっていた。

 

「はぁ…これでまた1人か」

 

燃え盛る研究所を見て少女は一人ごちる。

 

暗七(あんな)ちゃん…」

 

少女…暗七のことを心配する智鶴は…

 

「家に来ない? 暗七ちゃんにはお世話になったし…それに行く当てがないなら私が何とかするよ?」

 

そう言っていた。

 

「…………そうね。ドクターもいなくなったし、自由の身でも謳歌しようかしらね」

 

暗七はそれを承諾した。

 

こうして明幸組にまた1人、居候が増えるのであった。

 

しかし…

 

「(シャドウ…アンタは一体俺の中に何を入れたんだ?)」

 

忍は激情のままにシャドウを殺したことを後悔していた。

 

果たして、忍の中に投与された血液とは…?

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