魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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5.夏色雪原のサーヴァント
第二十話『夏休みと眷属の駒』


七月も中旬を過ぎようとしていた夏の頃…。

駒王学園や私立リディアン音楽院は夏休みに突入していた。

 

その間に兵藤家にちょっと…どころでは済まないような変化が起きた。

なんと地上6階、地下3階という豪邸に"リフォーム"されてしまっていた。

それもこれもリアスの眷属悪魔(女性限定)で兵藤家に住むことが魔王名義で決定してしまい、やむなく改築…というか増築されてしまったのだ。

 

ちなみに図面で言えば…

1階は客間とリビング、キッチン、和室。

2階はリアスとアーシアの部屋がイッセーの部屋を挟み込む形になっているらしい(隣同士で部屋内を行き来可能)。

3階はイッセーの両親の部屋、書斎、物置など。

4階は朱乃、ゼノヴィア、小猫などの部屋。

5階と6階は全体的に空き部屋が多く、ゲストルームになるらしい。

屋上には空中庭園あり。

地下1階は広いスペースの部屋(トレーニングルームや映画鑑賞も可能)に大浴場もある

地下2階は丸々室内プール(温水にもなる)。

地下3階は書庫と倉庫。

さらにエレベーターも完備している。

 

無駄に豪勢である。

あと、近所の人達も穏便に好条件の土地と引き換えに引っ越しをしたらしい…。

恐るべし、グレモリー家…。

 

まぁ、それはそれとして…

 

グレモリー眷属は夏休みを利用し、新米悪魔の顔見せやら修行やら何やらがあって冥界へと行くことになった。

そして、何の因果か…明幸組(忍、智鶴、カーネリア、暗七、クリス)にも魔王から招待状が届いていた。

 

こうしてグレモリー眷属+明幸組の冥界行きが決定してしまった。

 

………

……

 

異世界への移動を列車で体感した後、一行はグレモリー領へと足を踏み入れていた。

 

「へぇ~、ここが冥界か」

 

「マジかよ…空が紫一色とか…」

 

「あら? 知らなかった?」

 

「地球暮らしが長いんだから知らなくて当たり前じゃない」

 

人間を含めた人選の明幸組は色々と問題があるのだが、悪魔印の特殊な腕輪を装着しているので何とか平気だったりする。

但し、忍やカーネリア、暗七は例外で装着してるのは智鶴とクリスのみであった。

ちなみに翼は歌手としての仕事、響は補習だったりして地球に残っている。

 

「これが本当の地獄巡りなのかしら…?」

 

「冗談に聞こえないわよ…」

 

智鶴の言葉に暗七が答えていた。

 

「しかし…魔王からの招待状なんてね。差出人の魔王は誰だか書いてないの?」

 

カーネリアが暇そうに忍に尋ねていた。

 

「うん。不思議なことに書いてないんだよね。ただ、匂いからして知らない人なんだけど…」

 

招待状を改めて見る忍は招待状から微かに香る残り香を嗅いでいたが、サーゼクスともセラフォルーとも違うという。

 

「はぁ? そんなもんであいつらについてきたのかよ? ホントに大丈夫なのか?」

 

クリスが怪訝そうに言ってみるが…

 

「そういうあなたこそ、ちゃっかりついてきてる辺り、よほど暇だったのかしら?」

 

カーネリアがクスクスと笑う。

 

「べ、別にいいだろ! どうせ、暇だったんだからよ!」

 

図星を突かれて逆ギレしてしまったクリスだが、カーネリアはそんなのどこ吹く風と受け流していた。

 

「やれやれ…」

 

そんなみんなの様子を見て忍も苦笑していた。

 

………

……

 

後日、若手悪魔が集まる場が魔王領にて設けられた。

いずれも家柄と実力が高いと目されるグレモリー眷属、シトリー眷属、バアル眷属、アガレス眷属、アスタロト眷属、グラシャラボラス眷属の次期当主陣である。

但し、グラシャラボラス眷属に限っては先日お家騒動があっらしく、次期当主とされていたモノが不慮の事故死のために新たな次期当主候補になっていた。

 

そして、その中には何故か忍の姿もあった。

 

「(何故、俺までこの場に…)」

 

もちろん、厳格な空気の場であったため忍も青年モードでいるが…如何せん理由がわからないでいた。

ちなみに忍はどの眷属にも属していないため、目立つことこの上なくさっきからチラチラと不可解な視線を向けられているが、敢えて気にするまでもないと壁際に陣取っていた。

 

「(あの匂いがする。やはり、相手は魔王。知らないのは2人だが…どちらかと言えば…)」

 

忍は視線だけを魔王席の一つ…現ベルゼブブの座っている席へと向けていた。

そこに座っているのは妖艶な雰囲気を纏ったなんともミステリアスな感じのする美青年だった。

 

「…………」

 

そんな忍の視線に気づいているのか、現ベルゼブブも少し含み笑いを浮かべて忍を見ていた。

 

「(……俺の視線に気づいてて敢えて何も言わないか。流石は魔王ってことか…)」

 

忍がそんな考えをしている間にも、若手悪魔達は上級悪魔のお偉いさん達から色々な説明やら何やらを受けていた。

 

「さて、話も長くなってしまったが、もう少し付き合ってほしい。本日はもう1人のゲストをお呼びしていたが、長いこと放置してしまったね。紅神君」

 

その言葉に会場の注目が忍へと集中した。

 

「(ここで俺の話題かよ…)」

 

忍はそう思いながら呼ばれた手前、壁際にいるのも失礼かと考え、リアス達のいる場所より一歩手前まで歩いていく。

 

「彼の名は紅神 忍君。先日の会談で我々を守ってくれた1人だ。そして…彼は冥族であるらしい」

 

ザワザワ…

 

冥族という単語が出てきて上級悪魔達がざわめき出す。

 

「(冥族…元々の血なのか、それともシャドウに投与された血なのか…正直、俺もわからないんだよな…というか、そもそも記憶が曖昧なんだよな。物心ついた時にはもう智鶴と一緒にいたような気がするし…)」

 

以前、シャドウに捕まった際に投与されたという血液サンプルのことを思い出し、自分の出生の謎に今更ながら疑問を抱く忍だった。

 

「静まりたまえ」

 

サーゼクスの言葉にざわめきも治まる。

 

「彼は先日まで自分が冥族であることを知らなかったようだ。それに彼にはありのままを話す必要がある」

 

そこからサーゼクスは冥族について知ってることの全てを話した。

冥界に住む同じ種族であること、冥王と称される力を持つこと、旧魔王派が行った事とは言え、彼らを辺境へと追いやったこと…。

 

「以上が、我々悪魔側から見て言える、冥族のことだ。正直、すまないと思っている。同じ冥界に住む種族としてこのようなこと…繰り返してはならないとも…。また、詳しいことが知りたいならアザゼル辺りに聞いてもいいかもしれない。彼なら客観的な意見も聞けるだろうからね」

 

話の後、サーゼクスはそう締め括っていた。

 

「………………」

 

忍はしばらく考えた後…

 

「正直、そういう実感は湧きません。俺が本当に冥族なのか…自分でもわからないですし…何よりその言葉は俺よりも…その辺境に追いやったっていう冥族の人達に言ってください。俺は…別にその人達の代表って訳でもないんですし…」

 

その忍の言葉に…

 

「貴様! 魔王様に向かってなんて口を…!!」

 

上級悪魔の1人が忍に文句を言おうとした。

 

「いや、その通りだね。君にこんな話をしても彼らに直接私の口から言わねばならないことだったね」

 

しかし、サーゼクスは忍の言葉を受け入れていた。

 

「そういうことなら私にお任せ☆」

 

ただ、外交担当というこの人(セラフォルー)に任せて大丈夫なのかは…また別の話な気がするが…。

 

「それともう一つ。君に渡したいものがあるという人物がいるんだよ。そもそも彼を呼び出した張本人が彼なんだが…」

 

そう言ってサーゼクスは困ったような表情をしながら同じ魔王席に座る人物へと視線を向けた。

 

「アジュカ・ベルゼブブだ。君の話はサーゼクスから聞いてるよ。冥王の狼君」

 

そう言うとアジュカは懐からケースを取り出すと、魔法陣に乗せてそれを忍の元へと運んでいった。

 

「これは…?」

 

忍はケースを受け取りながら怪訝な顔をする。

 

「まぁ、開けてみたまえ」

 

そう促されて、ケースを開けてみると…

 

「…チェスの駒?」

 

そこには無色透明のチェスの駒一式がズラリと並んでいた。

 

「それは…!?」

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)!?」

 

「ベルゼブブ様!? 何故、悪魔でもない者に駒を与えるのですか!?」

 

まさかの事態に上級悪魔だけでなく、若手悪魔やその眷属達も驚いていた。

唯一サイラオーグ・バアルのみは驚いた様子を見せなかったが…。

 

「アジュカ。これは一体…?」

 

アジュカの行動に流石のサーゼクスも知らなかったようで、説明を求めていた。

 

「まぁ、落ち着けって。俺が彼に渡したのは確かに悪魔の駒に似てるが、似て非なるモノさ。その駒を使ったって別に悪魔へと転生する訳じゃないしね」

 

皆の驚く顔が見れて嬉しかったのか、アジュカは面白そうにそう告げた。

 

「似て非なるモノ?」

 

サーゼクスの問いにアジュカは軽く頷き…

 

「そうさ。その名もズバリ『眷属の駒(サーヴァント・ピース)』。サーゼクスから冥王の狼君の話を聞いてから冥族専用の調整を施した特殊な駒さ。設計図は悪魔の駒を流用してるが、中身は全くの別物。それを使用しても悪魔や冥族になるわけじゃない。だって冥族の生態って正直俺も把握してないからね。けど、駒を使えばどんな種族でも自分の眷属に出来てしまう。冥王を名乗るなら臣下くらいいないとね」

 

簡単にそう説明してみせた。

 

「悪魔転生以外は悪魔の駒とそう変わらないように聞こえるが?」

 

その場にいる者達が抱く疑問をサーゼクスが代弁する。

 

「まぁ、そうだな。転生以外はそんなに違いは無い。つまり、将来的には"冥王もレーティング・ゲームへの参加権を得る"ってことになるかな? あと、悪魔の駒とは規格が違うからトレードも出来ないしな…」

 

サラッととんでもないことを言ったが、アジュカは構わず続けた。

 

「それから悪魔の駒と同様に眷属の駒にも特性があるから人選は的確かつ慎重にね。ただ、変異の駒(ミューテーション・ピース)みたいバグは確認されてないからそこも気をつけてもらいたい。それと、眷属の駒はそれがプロトタイプだからどんな反応を見せるかわからない部分もあるけど、そこは君次第でなんとでもなるだろうさ。まぁ、そんなとこかな」

 

言うだけ言ってアジュカは楽しそうに周りの反応を伺っていた。

 

「……これは…なんとも…」

 

流石のサーゼクスも頭を抱えていた。

 

「ふふふ、面白い趣向だろ?」

 

アジュカの一言に誰も意見する事が出来なかった。

 

こうして、忍は眷属の駒という代物を魔王から直々に与えられてしまったのだった。

 

………

……

 

魔王や上級悪魔のお偉いさん方との謁見後…

 

「まったく、ベルゼブブ様にも困ったものね」

 

グレモリー領に戻ってきたリアス達は忍に渡されたケースを見ていた。

 

「ほぉ、そいつが現ベルゼブブの作ったっていう新しい駒(ニューピース)か?」

 

そこへアザゼルがやってきてケースの中身を見た。

 

「アザゼル。あなたは知ってたの?」

 

「一言面白いもんが出来たとは聞いてたが、まさかこんなものとはな」

 

リアスの問いに答えながらアザゼルが王の駒を持ち上げる。

 

「とりあえず、こいつに魔力でも込めりゃ起動するんじゃないか?」

 

そう言って忍に投げ渡す。

 

「簡単に言いますけど…どうなるかわからないんですよ?」

 

「いいじゃねぇか。物は試しっていうだろ?」

 

「…………」

 

少し不満はあったものの納得はしたようで、忍は自身の魔力を王の駒へと流し込んでいた。

 

すると…

 

カッ!

ドクンッ!

 

一瞬の閃光と共に王の駒が忍の体へと入り込むと、それに呼応するようにして他の駒が無色透明から虹色に輝きを持った白銀色の駒へと変化してしまった。

 

「これで後はお前さん次第ってことだな。しっかり眷属を選べよ。ま、選ぶ必要も無さそうだがな」

 

忍の周囲を思い出してアザゼルは笑う。

 

「さて、それはそうと時間が無い。明日から各自修行に入るぞ!」

 

翌日からハードな修行がグレモリー眷属を待っていた。

 

そして、忍は眷属に誰を選ぶのか…?

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