魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第二十二話『吹雪の園と出会いと水瓶座』

謎の転移陣で忍とイッセーは地球や冥界とは異なる世界にやってきてしまっていた。

 

その世界とは…

 

~???~

 

「ぶぇっくしょんっ!!」

 

なんと雪と氷で覆われた世界であった。

しかもご丁寧なことに吹雪まで吹雪いている。

そのためかイッセーは盛大なくしゃみをして、ガタガタと見るからに寒そうである。

ちなみにイッセー、翌朝には山に戻るつもりだったのでジャージ姿で寝ようとしていたりする。

 

「イッセー君。大丈夫?」

 

そんなイッセーとは対照的に忍は平然としていた。

忍も寝巻仕様の半袖に短パンという夏だから涼しげな格好をしているのだが…こと、この世界に関して言えば、自殺行為も甚だしい格好である。

にも関わらず、忍はケロッとしていた。

 

「お前は寒くないのかよ!!?」

 

イッセーの必死の言葉も…

 

「う~ん…ちょっと肌寒いくらいかな?」

 

軽く流されてしまった。

 

「それで済む寒さか!?」

 

イッセーの言葉は正しいだろう。

 

「そうは言っても…ここが何処かも分からないのに無闇に歩いても、ねぇ?」

 

忍の考えも正しいだろう。

いくら忍の嗅覚が急激に発達したとは言え、この吹雪の中では簡単に匂いも辿れない上に簡単に遭難してしまうだろう。

 

「困ったな…」

 

そう言いつつも何が起こるかわからないので青年モードへと変化している。

 

そんな時だった。

 

ザッ…ザッ…

 

微かに雪を踏む音が聞こえてくる。

 

「(誰か来る?)」

 

忍は静かに警戒する。

 

「忍、どうした?」

 

イッセーはまだ気づいてないようだった。

 

「そこに誰かいるのですか?」

 

吹雪の中から白いローブを深めに被った声からして少女らしき人物がやってきた。

 

「あなたは?」

 

忍の問いに…

 

「私は…旅の者です」

 

少女は少し考えたような素振りを見せてからそう答えていた。

 

「……寒くないのですか?」

 

そして、当然の疑問として薄着の忍に尋ねる。

 

「えぇ、不思議なことに大丈夫なんです」

 

「…………」

 

平然とそう答える忍に少女も少し呆気に取られていたが…

 

「…あの、お連れ様は?」

 

「え?」

 

そういえば、とイッセーの方を見てみると…

 

「………ね、眠い……」

 

雪に埋もれて今にも寝そうになっていた。

 

「イッセー君!?」

 

すぐさまイッセーの元に近寄ると…

 

ベシベシベシベシ!!

 

胸倉を掴んで持ち上げると、気を少し纏った往復ビンタを浴びせる。

 

「痛ってぇえ!?」

 

あまりの痛さに復活するイッセー。

 

「こんなとこで寝たら死ぬから!?」

 

「だからってお前! ちったぁ手加減しろよ!!」

 

「手加減なんかしたら逆に意識が朦朧としそうなんだぞ?!」

 

そんな言い合いをしてるくらいに元気なら問題ないだろう。

 

「あの…」

 

そこへ白いローブの少女が2人に近付き…

 

「近くに小さな集落がありますから、そこへ行かれてはどうですか?」

 

親切心からそう言っていた。

 

「集落って…村かなんかがあるんですか!?」

 

それを聞いてイッセーが食いつく。

 

「じゃあ、あなたもそこから?」

 

「は、はい。別の場所に移動しようとここまで来ました」

 

イッセーの勢いから少し下がりつつ忍の問いに答える。

 

「よっしゃ、ならさっさと行こうぜ!」

 

寒さを凌げる場所なら何処でも良いらしく、イッセーは少女が来たっぽい方角へ向けて走り出した。

 

「あ、イッセー君! すみません。情報をありがとうございました」

 

そう言って忍もイッセーを追いかけるために走り出していた。

 

「あっ…」

 

少女は何か言おうとしたらしいが、それが忍やイッセーに聞こえることはなかった。

 

………

……

 

それからしばらくして…

 

「シア」

 

少女の前に1人の男が現れた。

 

「兄さん…」

 

少女は男…『神宮寺 紅牙』のことを兄と呼んでいた。

 

「気は済んだか?」

 

その言葉に『シア』と呼ばれた少女は悲しそうな面持ちで兄を見て…

 

「兄さん、本当に攻めるんですか? 相手は悪魔でも堕天使でもないんですよ…?」

 

それは復讐の相手が違うということを言っている。

 

「それくらいわかっている」

 

「だったら…!」

 

兄の言葉にシアは止めさせようとするが…

 

「だが、悪魔を滅ぼすには勢力を拡大する必要がある。他種族を支配して悪魔へと攻勢を仕掛ける。これはその第一歩なんだよ」

 

紅牙は非情にもそのような選択をしていた。

 

「そんな…」

 

「お前も冥族の一員ならば覚悟を決めろ。明朝、雪女共の里へと仕掛ける」

 

そう言って紅牙はシアに背を向けていた。

 

「(お願い…誰か、兄さんを止めて…)」

 

そんな兄の後姿をシアは悲しそうに見つめていた。

 

………

……

 

一方、忍とイッセーは…

 

「なんでこうなるのかな?」

 

「俺が知るかよ!」

 

集落に辿り着いた途端、身柄を拘束されてしまっていた。

そして、一番立派な武家屋敷のような建物の地下にある牢獄へと幽閉されてしまっていた。

 

「それにしても…イッセー君、気づいた?」

 

「あぁ…」

 

忍の問いかけにいつにも増して真剣な表情でイッセーは…

 

「女の子しかいなかったよな! しかも皆美人揃いだったし!」

 

ちょっと興奮気味にそう答えていた。

 

「うん。妙に殺気立っていたというか、なんだか戦の前の…………は?」

 

思わぬ返答に自分の予想とは全然違うことを考えていたイッセーに"冗談だよね?"という眼を向けていた。

 

「しかも皆白い着物を着てたから体のラインがクッキリしてて…」

 

しかし、忍の視線に気づかないのか煩悩全開の返答を続けていた。

さらに言えば、涎も垂らしていたが、あまりの寒さに凍り付いていたりする。

 

「……………」

 

あまりにも残念な反応に忍は頭を抱えていた。

 

「でも着物っておっぱい押し潰してたよな…それがネックなんだよな。着崩してるならまだしも……って、どうかしたのか?」

 

忍が頭を抱えてるのを見てやっと意識を忍に向けた。

 

「イッセー君はブレないね。そうじゃなくて…この集落の雰囲気だよ。まるで決戦前夜みたいな…鬼気迫るとか、ピリピリした感じがしないかってこと!」

 

「あ~、そういや何か妙に気迫があったな…なんでだ?」

 

「それを一緒に考えようってことなんだけどな…」

 

「おぉ、そういうことか」

 

ポンと手を叩いて納得するイッセーを見て忍は先行きが不安になっていた。

 

「しっかりしてくれよ」

 

そんなことをしていると…

 

ギィィ…

 

重量感のある扉が開く音がしてきた。

 

「「………」」

 

2人はそちらに意識を向けると、1人の女性が2人の閉じ込められた牢の前までやってくる。

 

「あなた方が遭難者…ですか?」

 

その女性はどこか妖艶な雰囲気を纏っていながらもキッチリと着物を着こなし、凛とした面持ちで2人に尋ねていた。

 

「遭難…と言えば、そうなんですが…」

 

忍がそう答えると、しばしの沈黙がその場を支配した。

 

「忍、それ狙ってねぇよな?」

 

「え? 何が?」

 

「いや狙ってねぇならいいんだけどよ…」

 

「?」

 

イッセーの言葉の意図がわからず、忍は首を傾げていた。

意外と天然な部分があるのかもしれない…。

 

「コホン…」

 

女性が咳払いを一つする。

 

「えっと…俺達は、その…本当は冥界にいたんですけど…なんでか知らない内にここにいて…」

 

それを聞き、イッセーが答えようとする。

 

「転移陣で強制的に、な」

 

それに忍も付け加える。

 

「冥界…ということはあなた方は悪魔なのですか?」

 

冥界という言葉に反応して女性がさらに質問する。

 

「俺は…その、人間から転生した悪魔でして…」

 

「俺は違います」

 

イッセーはそう答え、忍はキッパリと否定していた。

 

「そうですか。なら、単刀直入に聞きましょう。あなた方は彼らの仲間か何かですか?」

 

女性は冷たい視線を2人に向けて直接的なことを聞いていた。

 

「彼らとは?」

 

イッセーを少し見てから忍が逆に聞いていた。

 

「冥王と名乗る若者…名を神宮寺 紅牙と言っていましたか」

 

「紅牙だって!?」

 

その名を聞いて忍が驚く。

 

「知っているのですか?」

 

「知ってるも何も…あいつとは一度戦ったことがありますから…」

 

あの時に見せた紅牙の憎悪の眼差しを思い出して忍は表情を険しくする。

 

「確か、あいつも禍の団だったよな?」

 

そんな忍にイッセーも確認を取っていた。

 

「あぁ…冥王派だったか。しかし、解せん。あいつは悪魔や堕天使に憎悪を抱いてるはずなのに…なんだってこの集落に攻勢を仕掛ける必要が…?」

 

忍の疑問に答えたの女性だった。

 

「彼らは我々に降れという折を伝えてきました。つまり、彼らの軍門に降って我々の力を何かに利用するつもりなのかと…」

 

それを聞き…

 

「そこまでして冥界に復讐したいのか、紅牙…」

 

「ただのやつ当たりじゃねぇか!」

 

忍は複雑な心境を抱き、イッセーは怒りを覚えていた。

 

「あと、この集落には女性しかいないようですが…大丈夫なんですか? もしよろしければ俺達も手を貸しますが…」

 

そう言う忍だが…

 

「ご心配は無用です。ここは雪女の里。里の問題は里で解決致します」

 

そう言って女性はその場を去ろうとするが…

 

「そういえば、あなた…その格好で寒くはないのですか?」

 

今更ながら忍の姿を見てそう聞かずにはいられなかったようだ。

 

「えぇ…なんでだか、不思議と寒くはないですね。むしろ心地良いとさえ思えてます」

 

その答えに…

 

「そうですか…」

 

女性はそれだけ呟き、地下から出て行こうとする。

 

「(まさか、ね…)」

 

その際、忍の事をチラリと見てから地下を出て行ってしまった。

何を思ったのだろうか?

 

………

……

 

こうして牢獄で一夜を過ごした2人を置いて事態は動き出してしまった。

 

ドゴンッ!!

 

「のわっ!?」

 

地上から聞こえてきた爆音で目が覚めるイッセー。

 

「始まったか…」

 

既に起きていた忍は牢獄の檻へと手を当てると…

 

「はぁ…!!」

 

冥王に覚醒した際に目覚めた魔力変換資質『炎熱』を用いて鉄格子を軟らかくすると、ぐにゃりと変形させて人一人が出られる抜け穴を作っていた。

 

「よし、これで出れる」

 

「そんなこと出来るんなら最初からやれよ」

 

忍の行動イッセーは苦言を呈す。

 

「無用な騒ぎは避けたいからな。それにこんな状況なら勝手に抜け出して加勢したって問題ないだろ?」

 

「加勢するつもりだったのな…」

 

「嫌ならここで待っててもいいけど?」

 

忍の言葉に…

 

「冗談。ここで逃げたら男が廃るってな!」

 

イッセーはそう言っていた。

 

「(それに体動かせばちっとは寒くなくなるかもだし、何より雪女の里ってのが良い! 誰かとお近付きになれるかもしれないし…)」

 

但し、内心では欲望全開であった。

 

「じゃ、行くぜ?」

 

「応ッ!」

 

牢獄から脱獄(?)した2人は地上へと向かった。

 

 

 

2人が地上に出ると、既に戦闘が始まっているらしくそこかしこから爆音が響き、悲鳴も聞こえてくる。

 

「ふむ…血の匂いはそんなにしない。捕縛してるのか?」

 

外の匂いから忍はそう判断していた。

 

「(が、あまり好ましくない匂いもしない訳じゃないが……嫌な気分だ…)」

 

戦場の中で微かに混じる男と女の匂いに顔を顰めてもいた。

 

「どこの組織にもバカはいるもんだ…」

 

「何言ってんだよ?」

 

「こっちの話。それよりも紅牙を捜して止めないとな…」

 

そう言うと集中して紅牙の匂いを探し出す。

 

「…………こっちか!」

 

「あ、おい、待てって!」

 

一回しか戦ったことはないが、そこは超学習能力の恩恵でその匂いは記憶しており、比較的早く見つけることが出来たのである。

 

ただ…

 

「(紅牙だけじゃない。これは…もう1人、誰かいる?)」

 

紅牙だけじゃなく知らない匂いも混じっていた。

 

 

 

武家屋敷から離れてしばらく走った頃、2人は教会の近くまでやってきていた。

 

「ここからか?」

 

そう呟くと、周囲を警戒しながら教会の様子を窺うべく物陰に隠れていた。

 

「いかないのかよ?」

 

「まずは情報収集。ちゃんと警戒しろよ?」

 

イッセーにそう釘を刺すと、教会の方を見る。

 

そこでは…

 

「くっ…」

 

昨夜、忍とイッセーの元へと訪問してきた女性が左二の腕から血を流しており、その左二の腕を右手で押さえて膝を屈して目の前にいる紅牙を見上げていた。

 

「ここまでだ。降伏するなら今の内だぞ?」

 

その紅牙は手刀を女性に向けてそう言い放っていた。

しかし、その姿は神が金色、瞳がサファイアブルーへと変化しており、頭からは狐の耳と臀部から九本の狐の尻尾を生やしていた。

そして、その後ろには悲痛な面持ちの少女が立っており、白いローブを纏っていた。

 

「(彼女は…まさか、昨日の…!?)」

 

親切な人だと思っていたが、まさか禍の団の一員だったとは到底思えなかった。

それに疑問も残る。

 

「(テロに組していながら何故あんな表情を…? 彼女は何か、迷ってるのか…?)」

 

様子を見ながら少女…シアの表情を見て色々な可能性を考え始める。

 

「兄さん。やっぱり、こんなことをしても…」

 

「黙ってろ! 俺達には力が必要なんだ! 奴らを葬るための力が! そのために他種族を支配する。昨日も言ったはずだ!」

 

「でも…そんなことをしても一族のみんなは…!」

 

激しく力を求める紅牙にシアも必死に食い下がるが…

 

(くど)い!!」

 

バシッ!

 

そう言うと、紅牙は九つある尻尾の一本でシアの頬を叩いていた。

 

「きゃっ!?」

 

それを受けてシアは倒れてしまう。

 

「いくら実の妹でもこれ以上の進言は許さん! 黙って俺に従っていればいいんだ!!」

 

怒声に近い声音で言い放っていた。

 

それを見て…

 

プチンッ…

 

忍の中の何かが切れて…

 

「紅牙ぁぁぁぁッ!!」

 

一瞬で銀狼へと変身した忍は一足に跳び、上空から紅牙を狙って急降下をしていた。

 

「貴様は!? 何故ここに?!」

 

忍の登場に紅牙も驚き、尻尾で己を包むようにして防御態勢を取る。

 

「っ!!」

 

それを見て着地点を女性の前に変更すると…

 

「乗ってくれ!」

 

「あなた、その姿は…っ!?」

 

女性は驚いたように忍を見るが…

 

「いいから早く!」

 

忍の勢いに負け、忍に背負う形で乗っかる。

 

「逃がすか!!」

 

それを察知した紅牙が尻尾を操って捕縛しようとするが…

 

「ブリザード・ファング!」

 

中距離拡散型砲撃で迎撃すると…

 

「掴まって!」

 

背中の女性にそう言うと、今度はシアの元へと移動し…

 

「あ、あなたは昨日の…?!」

 

「話はあとで…今は…」

 

そう言ってシアをお姫様抱っこで抱えると、一気にイッセーの元へと戻ってくる。

 

「忍、お前って奴は…!」

 

イッセーは友人の無茶な行動(と、ちょっと羨ましい格好)にちょっとした怒りを覚えていた、

 

「悪い。ちょっと熱くなった…」

 

そう自嘲しながら2人を降ろすと、紅牙から守るようにして立つ。

 

「イッセー君、2人を頼む。俺は紅牙を…」

 

「頼む、ってな。俺、防御とかあんま得意じゃねぇんだぞ?」

 

実際のところ、イッセーは防御よりも攻撃に特化している。

 

「それならそれで戦いようはあるでしょ? 要は近づく前に殴り飛ばせばいいんだよ」

 

それを聞き…

 

「お前って…意外と人使いが荒いよな…」

 

イッセーは苦笑混じりに答えていた。

 

「かもな…」

 

そう言ってる間にも紅がこちらに向かってくる。

 

「じゃあ、頼んだぜ!」

 

そう言うと、忍は紅牙へと向かっていった。

 

「(忍…それにあの姿…やっぱり、あの子は…)」

 

その一連の行動を見て女性は忍に対して何か確信を持ったようだった。

 

 

 

「何故、貴様がここにいる!!」

 

「こっちが聞きてぇよ!!」

 

紅牙の攻撃を避けながら忍は隙を見て紅牙に近付いて格闘戦を仕掛ける。

しかし、尻尾によってそれらを(ことごと)く防がれてしまう。

 

「(ちっ…ネクサスやファルゼンがないから決定打に欠ける!)」

 

実際問題、忍にはデバイスが無い状態では決定打を持っていなかった。

 

「ちょこまかと…犬は犬らしく、遠吠えでも吠えてろ!」

 

「テメェも犬だろ!」

 

その言葉にカチンと来たのか、そう言い返していた。

 

「俺は天狐だ!」

 

「そうかよ! 俺も狼なんだよ!」

 

このやり取りだけ見るなら、変なところでプライドが高いという共通点を持った似た者同士な気がしないでもないな…。

 

「埒があかん! 我が名は紅冥王!」

 

九尾の姿から一瞬にして紅冥王へと変化すると…

 

「グラヴィタス・イフリート!!」

 

冥王スキルを発動させ、周囲に紅の焔と重力場の球体を出現させた。

 

「以前は邪魔が入ったが、今回はそうはいかんぞ!」

 

いくつかの球体を操り、忍へと攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ!」

 

それを回避しようとするが…

 

「なっ!?」

 

体が重力に引っ張られてしまい、回避する方向とは別方向へと進んでしまい、そこに設置されていた焔の球体に焼かれてしまう。

 

「ぐああ!?」

 

「冥王スキルにすら目覚めていないお前が俺に勝てると思うな!!」

 

そう言うと複数の黒い球体を操って忍を手足を引き寄せ、拘束するようにしてしまった。

 

「焼死しろ!」

 

いくつかの焔の球体を手元に集めると、火炎放射器のように高温の焔を忍へと叩きつけていた。

 

「ぐあああああ!!?」

 

紅蓮冥王に覚醒したとは言え、まだ焔の扱いには慣れていないらしく忍は紅牙の放つ焔に苦しんでいた。

 

「忍?!」

 

それを見たイッセーは…

 

「忍を放しやがれ! ドラゴン・ショット!!」

 

魔力の波動を放っていた。

 

「ふんっ!」

 

それに対して紅牙は黒い球体を操り、ドラゴン・ショットの軌道を無理矢理に変え…

 

ゴバンッ!!

 

「がはっ!?」

 

忍の背中へと当てていた。

 

「げっ!? そんなのありかよ?!」

 

自分の攻撃を利用されて慌てるイッセー。

 

「(なら…!)」

 

それを見た忍は…

 

「ぶ、ブリザード…ファング…!!」

 

固定された両手から中距離拡散型砲撃を放つ。

 

「無駄だ!」

 

それを紅牙は黒い球体を操って軌道を逸らしていく。

 

「まだ、だ…!」

 

再びブリザード・ファングを放つと…

 

「無駄だと言っている!!」

 

同じようにして防がれるが…

 

「(ここだ!)ハウリング・バスター…!!」

 

口から中距離単発型砲撃を明後日の方向へと放つ。

 

「ふんっ、気でも狂ったか」

 

「おいおい、忍!?」

 

嘲笑う紅牙と、慌てるイッセーとは裏腹に…

 

「違う…これは…!?」

 

シアだけは忍の意図を読んでいた。

 

すると…

 

チュドンッ!!

 

「なっ?!」

 

忍が明後日の方向へと放っていたハウリング・バスターが"紅牙の背中へと直撃"していた。

紅牙の意識が途切れた瞬間に、忍は重力場から逃げ出して距離を置いた。

 

「お前がイッセー君の攻撃を利用したのを見て俺も利用させてもらったぜ?」

 

そう言って忍は笑って見せた。

 

忍は紅牙の操る黒い球体をブリザード・ファングによってある程度操らせ、その逸らした球体の角度や配置を瞬時に計算し、それらを逆利用して紅牙の背後を突いたのだ。

 

「バカな!?(あの短時間で俺の冥王スキルを逆利用するなんて…!?)」

 

紅牙は驚愕の面持ちで忍を見ていると…

 

「兄貴が妹を殴るんじゃねぇよ…!」

 

瞳孔が縦に鋭くなりながらそれだけを強く言っていた。

 

その時だった。

 

『お見事です』

 

バンッ!!

 

その声と共に教会の扉が開く。

 

「っ!?」

 

「なんだ!?」

 

「まさか…」

 

皆の視線が教会内へと注がれると、そこには水瓶座を象った様な白銀の像が教会内の祭壇前に安置されていた。

 

「あれは…古い時より我が里に祀られていた白銀の水瓶像…」

 

女性がそう呟いた瞬間、忍が近くに似たような存在があることを思い出した。

 

「エクセンシェダーデバイス?!」

 

忍がそう叫ぶと…

 

『如何にも。我が名はブリザード・アクエリアス。あなたの愛と知恵に感銘を受けました。今日よりあなたを我が主と認めたいと思います』

 

そう答えると、水瓶座の像はバラバラに分離すると一直線に忍の元へと向かい…

 

ガシャンッ!

 

額にヘッドギア、胸部に氷の結晶型の大きなサファイアが嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、両腕に分かれた水瓶を象った特殊篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれの部位へと装着していった。

 

『あなたのお名前は?』

 

「し、忍……紅神 忍だ」

 

『忍様。今日からよろしくお願いいたしますね』

 

「あ、あぁ…」

 

あまりにも急な展開に忍も頭がついていけなかった。

 

「そんなこけおどしに!」

 

いち早く正気を取り戻した紅牙が再び拘束しようと忍へと黒い球体を飛ばすが…

 

『無駄です』

 

一定の距離を置いて球体はぴたりと止まってしまい、それ以上先に進めないでいた。

 

「なに!?」

 

『我がシステムの一つ。ストリームオーラシステムの前ではいくら強大な魔法でも軽減してみせましょう』

 

丁寧な口調で物凄い宣言をする。

 

「ならば、これならどうだ!!」

 

再び紅の焔を火炎放射のようにして放ってきた。

 

「っ!?」

 

『シェライズ』

 

忍が両腕をクロスしてガードの構えを取ると、アクエリアスが新たなシステムを起動させる。

その瞬間、忍の目の前にバリアタイプの魔法が発動したようになり、紅牙の火炎放射を完全に防いでいた。

 

「これは…?」

 

『対属性魔法専用の特殊防御魔法です。種類としましてはバリアタイプに該当しますね』

 

「つまり、紅牙にしたら相性最悪のエクセンシェダーって訳か…」

 

それを聞いて忍は小さく呟いた。

 

『そういうことになりますね。しかし、忍様はエクセンシェダーをご存じで?』

 

「まぁ…蠍座が近くに、な」

 

『それはそれは…久しぶりに彼女に会えるのですね』

 

何とも穏やか…と言うよりかはマイペースな管制人格であるが、今は戦闘中である。

 

「話は後だ! 今は紅牙を止める!」

 

『御意に』

 

そう言って忍は紅牙に向かっていく。

 

成り行きとは言え、知らない地にて水瓶座のエクセンシェダーデバイスに認められた忍…。

果たして、紅牙との勝負の行方は…?

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