ライブ会場での武装組織『フィーネ』の宣戦布告から一週間が過ぎようとしていた。
その一週間の間にイッセー達も帰還したのだが、若手悪魔の1人『ディオドラ・アスタロト』が地球側に渡っており、イッセー達が到着するや否やアーシアに求婚していた。
しかもディオドラはアーシア宛てに手紙やら物やらを送りつける始末。
そして、季節は夏から秋へと移り変わり、学園も新学期へと突入する。
そんな中、リディアン音楽院では新校舎へと移転してから最初の大きなイベントとして学祭が控えていた。
一方の駒王学園もまた体育祭の準備を入っていた。
さらにイッセーや忍のクラスにイリナが転校してきた。
しかもイリナは天界が悪魔や堕天使の技術を用いた転生天使システム『
『御使い』はトランプを参考にしており、四大セラフと他のセラフメンバーの天使が主となるKの位置につき、その下の
ちなみにイリナはミカエルのAであるという。
そうこうしている間のこと、忍は緒川と共に海鳴市の一角に出来たというヤクザのアジトへと赴いていた。
ビルの三階当たりのフロア前に来ると…
「ここですか?」
「えぇ、情報が確かならば…」
忍は緒川に確認を取ると…
バンッ!
アジトのドアを蹴破る。
「なんじゃ、テメェらは!?」
下っ端らしき男が忍と緒川の登場に怒鳴り声を上げる。
「ピーピー騒ぐなよ。この辺りが明幸組の縄張りと知っての狼藉かい?」
そう言って忍は鋭い視線で周囲を見渡す。
ちなみに緒川に倣って青年モードの忍は黒いスーツを着ていた。
「明幸組ぃ~? 聞かねぇ名だなぁ!」
下っ端は忍に拳銃を向けながら威圧するような態度を取る。
それを見て他の連中も拳銃やらドスを持ち出して忍と緒川を取り囲む。
「はぁ…」
それを聞いて忍は溜息を吐いてしまった。
「お手伝いしましょうか?」
「いえ、こういう輩を放置してしまったこちらの不手際なので、俺が片付けますよ。それよりも風鳴さんに連絡をどうぞ」
「わかりました」
そのようなやり取りを見せられて苛立ちを覚えたのか…
「ふざけてんのか! 構わねぇからやっちまえ!!」
この中で一番偉そうな男がそう叫ぶ。
「成り上がり風情が、ちゃんと筋通してから出直してこいや!!」
そう言った瞬間…
バキッ!ドゴッ!ボキッ!
数分足らずで全員をぶちのめしていた。
「ったく、人の島で好き勝手やりやがって…もう少し仁義ってもんを重んじろってんだ」
そう吐き捨てると、忍は緒川の方へと歩いていく。
緒川は忍がヤクザもどきを叩きのめしてる間に、金庫を破って中にあった封筒の中身を見ていた。
「いやはや、忍君がいてくれて助かりました。でも学園はよかったんですか?」
「ん~…体育祭の準備や種目決めがありますけど…まぁ、何とかなりますよ」
苦笑混じりに忍はそう答えてみせた。
「それよりも何かわかりそうですか?」
「えぇ」
こうして特異災害対策機動部二課は次の行動に移るのだった。
また、その場に転がる連中を病院送りにした後、二度と明幸組の島(駒王町並びに海鳴市付近)に近付かないように"話し合い"をしてから解放させたという。
実際、それ以降そいつらを目撃した住民はいなかったという…。
………
……
…
その夜、緒川と忍の掴んだ情報により、とある沿岸近くにある廃病院へとシンフォギア装者が向かっていた。
バックアップ役として忍も同行していた。
その廃病院で彼らを待っていたのは制御されたノイズであった。
しかもそれを操っていたのは行方不明となっていたウェル博士であった。
彼はソロモンの杖を既に白衣の下に隠し、ノイズを操っての命を張った自作自演によってソロモンの杖をまんまと奪取して武装組織『フィーネ』と合流していたのだ。
さらにシンフォギア装者達は何故だかシンフォギアの出力低下に見舞われ、ノイズ相手に苦戦を強いられていた。
「この妙な匂いのせいか?」
装者でない忍だけは魔法を使って確実にノイズを屠れるが、院内に充満する匂いを察知する。
「あなたはやはり鼻が良いらしいですね。この前はノイズ襲撃と軍の基地に向かって正解でした。あなたも鼻も複雑な匂いには対応しきれていないのですからね!」
「ちっ…痛いとこを突く…」
ウェル博士の言葉に忍は何も言い返せないでいた。
「それにしても…これは奇遇なんですかね? 新しいスポンサーの元にも狼の名を持つ方がいるんですよ」
ウェル博士の言葉に…
「スポンサーだと!? 世界に宣戦布告しておきながら、そのようなものが…!」
翼が驚いたような声を上げながらも否定しようとするが…
「それがあるんですよ。次元の壁を越えた先にね」
そう言った瞬間…
ガゴンッ!
突如として天井を突き破って何者かが現れる。
「よぉ、ドクター。面白い匂いがしたから来てやったぜ?」
その人物とはボサボサした黒髪と琥珀色を狂気に光らせた残忍な印象を与える野性的な顔立ちをして男だった。
「ちょうどあなたの話をしてたとこですよ、邪なる狼殿」
「そうかい。で、こいつら全員殺していいのかい?」
ウェル博士と話す男の出現に全員が警戒をする。
「なんだ、この…血で血を洗ったような、とても濃い血の匂いは…!?」
男の出現と共に感じる血の匂いに忍は顔を顰めていた。
「その表現は適切じゃねぇな。俺は今まで血肉を啜ってきたんだよ。ま、数なんて数えたこたぁねぇがよ」
忍の言葉が聞こえたのか、男はそう言っていた。
「血肉を啜る、だと!?」
「どういう意味だ!」
男の表現に翼とクリスは嫌な予感を感じていた。
「文字通りの意味さ。俺は弱い奴を殺してはそいつらの血肉を食い漁ってきたのさ!」
その言葉に忍、翼、クリスは顔色を変える。
「な、なんかかなりヤバそうな人が来ちゃったけど…」
響もニュアンスでとても不快な気分になっていた。
「やるしかねぇだろ!」
そう言ってクリスが腰部アーマーからミサイルを発射しようと展開するが…
「ぐっ?!」
「クリス!?」
シンフォギアからのバックファイアによる負荷でクリスの体を蝕む。
「このぉ!」
ズドドド!!
チュドンッ!!
無理してミサイルを撃ち出し、廃病院の壁や天井などを吹き飛ばす。
「はっ! 面白れぇじゃねぇか!」
ノイズは吹き飛ばす事が出来たものの、男とウェル博士は健在。
さらに一匹のノイズが何かの入ったケージを持って飛び去っていた。
「この空気があいつらに悪影響を出してるって訳か。なら、俺はそっちの小僧の相手でもしてやるか!!」
そう言うや否や男は忍の懐へと瞬時に移動すると…
「おらぁ!!」
ゲシッ!!
「がっ!?(は、速い!?)」
忍が追い付けない反応速度で男は忍を蹴り上げると…
「おらおら、どうした!?」
空中に舞った忍を追撃するようにして胸部への跳び蹴り、のけ反った瞬間に背中へと膝蹴り+腹部への肘落とし、さらに頭を捕まえての連続顔面膝蹴りなど、容赦ない攻撃による空中コンボを繰り返していた。
「かっはっ!? ぐぇ?!」
バリアジャケットを纏っているはずの忍だが、それを容易に打ち破る男の重い一撃をまともに喰らい続け、意識が朦朧とし始めていた。
「弱ぇ弱ぇ! 弱過ぎだろ!!」
そう叫ぶと同時に最後の仕上げとばかりに踵落としを脳天に決めて廃病院へと落とす。
「がっっ!?!?」
瓦礫に埋もれながら忍はあちこちが打撃による痣だらけとなっていた。
「おいおい、これで終わりか? うちの大将を退けたって言うから期待してたのによ」
呆れたように男は忍を踏みつけると…
「ぐ、ぁ…!?」
忍も朦朧とした意識の中で反撃をしようと手を伸ばすが…
バキッ!!
「ぐあああ!!?」
伸ばした手を踏みつけ、あらぬ方向へと曲がりながら腕の骨が折れ、その痛みに忍も絶叫する。
「しっかし、この小僧の匂い…どこかで…」
男は忍を見ながら何かを思い出そうとしていた。
男が忍に気を取られてる間に翼は飛び去ったノイズを追い、響はウェル博士の身柄を拘束していた。
クリスはバックファイアの影響もあって悔しそうな表情で忍の方を見ているだけだった。
翼が海上へと跳んだのに合わせ、特異災害対策機動部二課の仮設本部(潜水艦)が急速浮上して足場となって追いつく事が出来た。
しかし、そこにマリアが介入し、ケージを回収されてしまう。
さらにそこへウェル博士の救出にシュルシャガナの装者『月読 調』とイガリマの装者『暁 切歌』も参戦し、ウェルとソロモンの杖を奪還されてしまう。
「お~お~、やっと来たのかよ」
その様子を遠目に見ていた男は面白そうにそう呟いていた。
「お、前は…何者、だ…?」
銀狼の証である銀色の髪と、真紅の瞳へと変化させながら忍は男に問う。
「おっ? まだ意識がありやがったのか? そうだな、冥途の土産に教えてやるよ。俺は邪狼。流しの傭兵で戦争屋さ…」
そこまで言うと、忍の姿を見て…
「ん? 待てよ、この匂いと姿……っ! そうか、そういうことか! アハハハハハ!!!」
ふと何かを思い出したように高笑いを始める邪狼。
「そうか! この同族の匂い…俺以外ではもう"あいつ"しかいねぇ!!」
嬉々として笑い出すと邪狼は忍の胸倉を掴んで持ち上げると…
「テメェ、"狼牙"のガキか! そうかそうか…そりゃあ、色々混じってて気づかない訳だ!! だが、間違いねぇ!! あいつは生きてやがった! そして、このガキを誰かに孕ませやがったのか!!」
新しい玩具を見つけた子供のように邪狼は高笑いを続けていた。
「(狼、牙…? それが俺の…だが、何故こいつが…同族…?)」
朦朧とした意識では上手く考えが纏まらないでいた。
「あの"出来損ないの弟"が!! だが、いいぜいいぜ!! あの野郎が生きてたってことは俺に取っちゃデカい情報の一つだ! その礼にお前を喰らってやるよ!!」
そう言うと、邪狼は忍を空へと放り投げ、自らの爪を鋭く尖らせて獲物を狙う狩人のような目で忍に狙いを定める。
「(ま、まずい…!?)」
忍がやられると感じた時だった。
「させるかぁ!!」
仮設本部から飛び出した影が邪狼へと向かっていく。
「あぁ!?」
その気配に苛立ちを覚えたような声を出しながら邪狼はその影を受け止める。
「人間?」
そして、その匂いに顔を訝しめる。
「彼をやらせはせん!」
その影は弦十郎であった。
「たかが人間如きが、俺の邪魔をするな!!」
邪狼はそう言って弦十郎の蹴りを弾き飛ばすと…
「邪狼のおっさん、残念だが時間切れだ」
邪狼のすぐ近くに転移陣が現れると1人の年若い男が現れる。
「ちっ、秀一郎か。何の用だ?」
邪狼は男を知っているのか、舌打ちをする。
「はぁ…いくら傭兵がフリーだからって勝手に動かれても困るんだわ。俺の立場も狭くなるし…」
「知ったことか! 俺はあの小僧を食い殺すまでは止めないぞ!」
空中に投げた忍は弦十郎によって既に回収されていた。
「まぁまぁ、そう言いなさんなって…お楽しみは後に取っておくの一興だぜ?(ま、このおっさんの趣味にはついてけねぇけどさ…)」
内心で悪態を吐きながら秀一郎と呼ばれた男は邪狼にそう言ってみた。
「…………ちっ…まぁいいだろう」
秀一郎の登場で興醒めになったのか、邪狼は珍しく爪を引いた。
「そいつに伝えておけ。次に会うまでにもっと強くなって俺を楽しませろ、とな」
「ほんじゃま、そういうことで」
そう言い残し邪狼と秀一郎はその場から転移で消え去っていた。
ウェル博士達も逃亡してしまい、その行方はまたもわからなくなってしまった。
また、重傷を負った忍だったが、アーシアの治療で傷は完治したものの己の弱さに心を痛めていた。
さらに邪狼の残した言葉も忍を苦しめていた。
力を求めれば紅牙のような復讐者になってしまうかもしれないという葛藤もあったからだ。
果たして、忍はこれからどうするのか…?