魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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7.異世界動乱のラグナロク
第三十三話『記憶と異世界と情勢』


二つの事件は収束した。

しかし、それらは後味の悪いモノであった。

 

 

冥界での騒動もまたアスタロト家の次期当主が死亡したことやイッセーの暴走、禍の団の目的などを垣間見た結果に留まり、実質的な被害は最小限に抑えられたといえる。

その成果か、禍の団・旧魔王派は弱体化の一途を辿ることとなった。

 

それと同時期に起きた地球で『フロンティア事変』と呼ばれることとなった、フロンティアでの一件。

ナスターシャ教授は月の軌道を修正した後、消息不明。

ウェル博士は今までの行動から軍に連行された。

マリア、調、切歌の3人も逮捕・拘束された。

しかし、米国政府は捜査への協力を頑なに拒否し続けたために事件の真相は闇へと葬られることとなり、逮捕されたF.I.S.メンバーは国連主導の特別保護観察下に置かれることとなった。

 

しかし、それと同時に爪痕も深かった。

それは謎の変異を起こしたフロンティアと、紅神 忍の消息が不明となったことである。

 

前者に関しては何者かによる介入が示唆されているが、具体的にどのような人物なのかわからないでいた。

後者は前者の次元転移の余波によって邪狼の遺体と共にどこかの次元世界に飛ばされた可能性を示唆されている。

 

また、後者の案件は紅神眷属に大きな亀裂を生み、一部の者は生気を失ったかのような状態に陥ってしまっている。

 

だが、運命の歯車は止まらない。

新たな出会いと、事象が…別の次元世界で巻き起こるのであった。

 

………

……

 

~???~

 

「……………………」

 

とある村の宿屋の一室で1人の青年が深い眠りについていた。

その顔…特に右目の部分は布で覆われており、まるで死人のような感じだが、ちゃんと息はしているので安心してほしい。

 

と、そこへ…

 

「今日も良いお天気ですよ」

 

小柄な少女が青年の眠る部屋へと入ってきた。

入ってくると、カーテンを開けて陽の光を部屋の中へと入れ、窓を開けて空気も循環させる。

 

「いい加減、目を覚ましてください。もう一週間近く眠ってるんですから…」

 

そう言いながら青年の頬を軽く濡れタオルで拭くと、花瓶に新しい花を挿す。

 

すると…

 

ガチャッ…

 

「エルメス、そいつの様子はどうだい?」

 

銀髪長身の女性が新たに入ってきた。

 

「あ、お母様。それがいつも通りです」

 

エルメスと呼ばれた少女は青年の容体を報告する。

 

「はぁ~、なんだってこんな坊主を拾っちまったんだか…」

 

溜め息を吐き、頭を掻きながらエルメスの母親らしき女性は一週間前のことを思い出す。

 

………

……

 

~???・一週間前~

 

「前線は徐々に後退…だいぶ近くまで押し寄せられてきたか。ここが落ちるのも時間の問題かもしれないねぇ…」

 

夜の街。

村の外で陣を構えている天幕で戦況に関する資料を読んでいたエルメスの母親こと『シルファー・ファリウム・イーサ』は椅子に体を預けて仰け反るようにして夜空を見上げていた。

 

「くっそ…兵の練度からして帝国の方が上。しかも最近じゃ訳の分からん兵器まで持ち出してくる始末だし…」

 

しばらくそうやって考えていると…

 

「だぁ~~!! あったま痛ぇ~~!!」

 

考えが纏まらなかったのか、髪を掻き(むし)るような行動に移る。

 

そんな時であった。

 

キラッ!

 

夜空を引き裂くような白銀の流星が三つほど流れているのが見えた。

 

「こんな時に流星か。なんか願いでも叶うんなら、この戦況を一変出来るような一手をあたしに授けておくれよ」

 

眼を閉じてそんなことを言いながら、シルファーは"どうせ、もう消えてるだろうけどな"と思っていた。

そして、再び眼を開けると…

 

「………あれ?」

 

流星は消えるどころか…

 

ヒュゥゥゥウウ………チュドーンッ!!!

 

次第に大きくなると、天幕の頭上を通り過ぎて近くの森に落下したのであった。

 

「星が…墜ちた…?」

 

その光景にシルファーは眼をパチクリと瞬かせていた。

 

「シルファー様!?」

 

そこへ騎士甲冑を着込んだ老兵が飛び込んできた。

 

「大変です! 星が墜ちました!」

 

何ともそのままの報告に…

 

「見りゃわかるわ!」

 

流星が墜ちるのを見ていたシルファーは怒鳴り返していた。

 

「すぐに被害確認! それと同時にあたしが調査に向かうから、何人か付いてきな!」

 

「ハッ!」

 

老兵はシルファーに敬礼すると、その場から飛び出していた。

 

「…………あたしが変な願い事したからかな?」

 

1人になると、シルファーは独り言のように呟いていたが、すぐに思考を切り替えて調査の支度をしていた。

 

 

 

で、流星が墜ちた地点へと向かうと…

 

「なんじゃ、こりゃ…」

 

そこにあった光景を見てシルファーを始め、彼女についてきた数人の兵士達も驚いていた。

 

流星落下の衝撃で出来たであろうクレータを中心にして木々が倒れているのは…まぁ、普通だと言っておこう。

問題はクレータの中心部にいる存在である。

中心地点には右目から血を流し、あちこち傷だらけの青年が1人倒れており、その周辺には袈裟型に体を上下に分断されて焼け焦げたような遺体があった。

しかも、それらの近くにはアクセサリーっぽいものも数点散らばっている。

 

「死んでんのか?」

 

そう言ってザザーっとクレータの中心部へと降りる。

 

「シルファー様!?」

「危険です! お戻りを!」

 

兵士たちの制止も聞かず、シルファーは青年の元へと近寄って脈を測る。

 

「こっちは生きてるが…どうも右目が潰れてるらしいな…(それに、微かだが魔力を感じる…? まさかな…)」

 

青年が生きてることを確認した後…

 

「こっちは完全に死んでるな。しかも燃え尽きてやがる」

 

見るも無残な男の両断された焼死体を見て断言する。

 

「?」

 

しかし、ちょっとした違和感を抱いたシルファーは焼死体の上半身部分を触ると…

 

「こりゃ、また…一体どうしたらこんな状態になるんだ?」

 

そこには奇跡的に琥珀色の瞳を持つ右目の眼球だけが綺麗な姿を保っていた。

 

「死んで…いや、微かにだが何らかの力が付与されてるな。上手くしたらこっちの坊主に使えるか…?」

 

右目の眼球を調べた後…

 

「至急、高位の医療官を呼びな! これから移植手術としゃれ込もうじゃないのさ!」

 

こうして遺体に遺されていた右目の眼球を青年の右目に移植することとなり、村にある医者の家へと緊急搬送された。

移植手術は無事成功したものの、青年は一向に目覚める様子はなかった。

遺体の方も運ばれたが、既に手遅れだったので埋葬を進言された。

しかし、シルファーの判断で一先ず棺の中に数個の結晶と共に保管されることとなった。

また、アクセサリーっぽいモノは神官に預けられたものの詳細はわからなかった。

故に現在はシルファーの計らいで、青年の眠る部屋に置かれている。

 

それが一週間前の出来事である。

 

………

……

 

~青年の眠る部屋~

 

「あれから一週間。眠り王子は未だ目覚めぬか。もうじき敵の軍勢が来るってのに…」

 

シルファーは苦々しい表情をしながら窓の外を見る。

 

「お母様、村の人達は?」

 

エルメスは村の人達のことが気がかりらしい。

 

「全員…と言いたいけど、ここに残るって連中が多くてね。出来るだけあたしが出張って時間を稼ぐか、なんとか撤退させたいけど…最近の帝国は一兵卒までうちの兵士の倍の強さがあるからねぇ。そこだけは凄いって思えるんだが、如何せん数も多いんじゃ…正直、キツイね…」

 

「そう、ですか…」

 

母の言葉を聞き、エルメスも表情を曇らせる。

 

「そう暗い顔をすんな。あたしの娘なんだからしっかりしなよ」

 

わしゃわしゃとエルメスの頭を撫でながらシルファーはそんなことを言う。

 

「お、お母様…子供扱いしないでください!」

 

エルメスはそう言って抗議するが…

 

「子供だよ。あたしにとっては唯一の、大切な娘だからね」

 

シルファーはそう言って大切な娘を抱き締めていた。

 

「お母様…」

 

しばらくエルメスを抱き締めていたシルファーは…

 

「うっし、気合入った! んじゃま、気張ってくるよ。エルメス、もしも防衛線が突破されたら…城に逃げな。あとで必ず追いつくからよ」

 

なんとも死亡フラグ全開な発言を残して部屋を後にした。

 

「お母様…お気をつけて…」

 

エルメスはそんな母の背中を見送るので精一杯だった。

 

………

……

 

~???~

 

『狼夜兄さん!!』

 

『狼牙!!』

 

そこでは2頭の狼…片や白銀の毛並みと真紅の瞳を持ち、片や漆黒の毛並みと琥珀色の瞳を持っている…が対峙していた。

 

「(これは…?)」

 

場所は吹雪が吹き荒ぶ森の中であり、その近くを遠くから見るようにして青年…忍はその様子を見ていた。

 

『何故だ! 何故、罪のない人間まで食い殺す必要があるんだ!!』

 

白銀の狼…『狼牙(ろうが)』は漆黒の狼へと叫ぶ。

 

『そんなのは自然の摂理だ。強き者が弱き者から奪う…所詮は弱肉強食!』

 

漆黒の狼…『狼夜(ろうや)』は狼牙の言葉を一蹴する。

 

「(誰かの、記憶…?)」

 

忍はそれが過去の出来事だと本能的に察していた。

 

『どうしてわからねぇ! 俺らみたいな希少種、どうせ人間共の見世物か、実験材料になるだけだ。なら、その前に俺達が奴等を狩るんだよ!!』

 

『そんなのは間違ってる! これまで通りにひっそりと生きてけばいいじゃないか!』

 

『だが、現にこうしてバカな連中が俺達目当てに群がってきやがる! もう俺の我慢は限界なんだよ!』

 

2頭の意見は既に分かれている。

 

『俺は狼夜兄さんと争う気はない!』

 

『さっきも言ったろうが! 自分の意見を貫き通したいなら俺に勝ってからにしやがれ! 半人前が!!』

 

こうして2頭の狼は争い続ける。

同族で唯一の兄弟なのに…彼らは己の信念や欲望を賭けて争い続けた。

 

すると、2頭の狼が争っていた光景から一変…真っ暗な空間へと変わる。

 

「……今のは……」

 

真っ暗な空間の中で1人佇んでいると…

 

「俺の記憶。その欠片だ」

 

忍の背後から声が聞こえる。

それはさっきまで聞こえていた、漆黒の狼の声…。

 

だが…

 

「邪、狼…?」

 

振り返ってみれば、そこには人間の姿をした邪狼がいた。

 

「そいつは傭兵になった時に勝手に決めた名前だ。俺の本名は狼夜だ」

 

しかし、その邪狼…いや、狼夜は現実で見た時よりも幾分か落ち着き払っていて、ギラギラとしていた狂気も微塵に感じられなかった。

 

「俺は…?」

 

「死んじゃいねぇから安心しな。ここはお前の深層世界で、俺はそこに残留思念として残ってるみたいなもんだ」

 

忍の不安気な表情に狼夜はそう答える。

 

「お前の最後の一太刀…霊力も加味してたからな。霊力とは浄化の力も秘めてる力だ。その影響か、お前の霊力の質が予想以上だったのか、わからんが…俺の狂気が吹っ飛んじまってな。仕方ねぇから俺の右目をくれてやったのさ」

 

そう簡単に説明しながら自分の右目を指す。

 

「右目を…」

 

「しっかし、妙な深層世界だな。狼牙と雪女の匂いの他に冥族だったか? その他にも…吸血鬼? なんだってこんなもんまで匂うんだ? お前、ハーフのはずだろ? って、あのイカレ科学者に変な血を入れられてたっけか。それが冥王と吸血鬼で、その片鱗が現れ始めたってとこか?」

 

深層意識でのことなので、狼夜にも忍の事情は多少把握してるらしい。

 

「冥王…吸血鬼…」

 

「なんだぁ? 随分、淡白な反応じゃねぇか。お前、頭でも打ったか?」

 

自分の頭を指で小突きながらそう言う狼夜の言葉に忍は自らの手を見る。

 

「わからない…俺は…」

 

「おいおい…マジで記憶喪失とか言うな?」

 

冗談とばかりに狼夜は言うが…

 

「記憶…? 俺は…一体…」

 

「こりゃ…マジ、みたいだな……てか、なんでさっき俺が邪狼だってわかったんだよ…」

 

忍の反応を見て狼夜も頭を掻きながら諦めたように呟くと同時にそんな疑問も思い浮かんだ。

 

「まぁ、細かいことはいいか。お前は…確か、紅神 忍とか言ってたな」

 

「紅神、忍…それが俺の名…」

 

狼夜の言葉に忍は自らの名を噛み締める。

 

「そうだ。そして、お前なら…真なる狼を継げるはずだ」

 

「真なる狼…?」

 

狼夜の言葉に忍は首を傾げる。

 

「そうだ。速度の銀と力の黒…それを合わせろ。そうすれば、お前は…」

 

言葉を最後まで言うことは叶わず…

 

「っと、時間切れか。あいつらはお前に託すから有効に使いな。あとは…とにかく、生きろ。俺の分までな…甥っ子」

 

その言葉と共に真っ黒な空間が徐々に光に満たされていく。

 

「っ…!!?」

 

光に満たされた時、忍の意識は現実へと戻っていく。

 

………

……

 

~???・宿屋の一室~

 

「お母様…」

 

エルメスは窓から外の様子を見ているが、ここからではよく見えないでいた。

 

その時である。

 

ピクッ…

 

青年の指先が少しだけ動き…

 

「………っ…」

 

微かな息音と共にゆっくりと眼が開いた。

 

「ここ、は…?」

 

忍の声が空気に乗って聞こえたのか…

 

「ぇ…?」

 

エルメスは一瞬、間の抜けた声を出すと振り向く。

 

「「…………」」

 

しばしの間、紫色の瞳とサファイアブルーの瞳が交差する。

 

「はっ!? お、起きたんですか?!」

 

だが、すぐに正気に戻ったエルメスは忍の元に駆け寄る。

 

「ここは…何処だ? 俺は…ずっと眠っていたのか…?」

 

そう言いながら忍は上体を起き上がらせる。

 

ズキッ!

 

「っ…くっ…!?」

 

右目を含め、体の節々が軋むような感覚に襲われていた。

 

「まだ動いてはダメです! そんな状態じゃ…」

 

エルメスが忍の体を押さえようとした時だった。

 

『ウオオオオオオオッ!!!』

 

外から龍のものらしい咆哮が聞こえてくる。

 

「お母様!?」

 

慌てて外を見るエルメスの眼に一部血に染まった銀色の体躯と龍鱗、エメラルドグリーンの瞳を持ったドラゴンが地上に向けてブレスを放とうとしていた。

 

「何が…起こってるんだ?」

 

轟音に近い咆哮を聞き、忍も軋む体を引き摺って窓へと近寄ると…

 

「ッ!!」

 

窓から見える光景を見て即座にエルメスを押し倒すようにして伏せる。

 

「きゃあ!? な、なにを…?!」

 

エルメスが驚くと同時に…

 

ゴオオオオッ!!

バリンッ!!!

 

ブレスによる衝撃波が周辺を巻き込み、窓のガラスを割っていた。

 

「きゃああああ!!?」

 

その衝撃を受け、エルメスも堪らず悲鳴を上げる。

 

ガタッ!!

 

その衝撃によって近くのテーブルに置かれていた複数のアクセサリーが忍の目の前に落ちる。

 

「これは…?」

 

そのアクセサリーを見て忍の脳裏にあるヴィジョンが蘇る。

 

「ネク、サス…」

 

『音声認証、確認』

 

忍の声に反応してネクサスが一時的に起動する。

 

「そんな…神官達もわからないと言っていたのに…どうして?」

 

その光景にエルメスは自分を押し倒す忍へと視線を向け…

 

「あなたは…一体…?」

 

そのような疑問を口にする。

 

「俺は…自分の名前以外、よくわからない…」

 

正直な答えを口にすると、エルメスから退いてアクセサリーを拾い…

 

「だが、助けてもらった恩には報いなければ…」

 

そう言って忍はアクセサリーを右腕、左手首、腰部へと装着していき…

 

ピ、ピ、ピ…

 

『Standing by』

 

左手首のブレスレットのカバーをスライドさせて000を打ち込むと電子音が鳴り響く。

 

「だから…ここで待っていてほしい」

 

そして、ENTERキーを押すと…

 

『Complete』

 

バリアジャケットが形成されていく。

 

「…………」

 

右目にあった布もバリアジャケット形成で剥がれ落ちると…

 

スッ…

 

ゆっくりと右目が開き、琥珀色の瞳が露となる。

 

「右目が…見える」

 

痛みこそ残るものの右目が見えることを確認すると…

 

「そうか。俺は本当にアンタの…」

 

ガラスに微かに映る自らの右目を見てそう呟く。

 

「あ、あの…一体、これは…?」

 

目の前で起きた出来事に困惑するばかりのエルメスだった。

いや、実際に目にしても信じられないのだろう。

一週間も眠っていた人が突然起き、アクセサリーを身に着けたと思ったら一瞬で服装が変化したのだから…。

 

「すまないが…事情は後で話そう。君の母上というのを助けてあげないとね」

 

そう言うと忍は残りのアクセサリーを手に持ち、窓へと足を掛ける。

 

「ど、何処へ…?」

 

「言ったろ。君の母上を助けに行くと…あの龍からは君と似た空気を感じる。だから、あの龍に加勢しようと思うよ」

 

それを聞き…

 

「む、無茶です! 帝国兵に病人のあなたが敵う相手ではありません!」

 

エルメスはそう伝える。

 

「帝国? 何処かと争っているのか?」

 

名前とデバイスの知識以外の記憶がほぼ無い忍にとってこの世界の情勢はよく分からなかった。

 

「知らないのですか?! ここはイーサ王国の南東にある村です。今、帝国はイーサ王国の1/3を占領し、この村のすぐそこまで迫っています。お母様はそれを押し止めようとして…」

 

「なるほど。つまりは絶対に負けられないと……なら、見過ごす訳にもいかないか…」

 

エルメスの言葉に一回だけ頷いてみせると…

 

「あの…」

 

エルメスが何か言う前に…

 

「では…また後程に…」

 

そう言い残して忍は窓から外へと飛び出す。

 

「あっ!?」

 

今更だが、ここは二階ある。

そこの窓から外に出るとは、そこから落ちることになるのでエルメスは咄嗟に眼を背けたが…見ない訳にもいかず、少しずつ眼を開けると…

 

「……え…?」

 

そこにはエルメスが想像した光景ではなく…

 

「…………」

 

ベルカの魔法陣を足場に空中を跳ぶ忍の姿があった。

 

「あ、あの人は…一体…??」

 

予想外の光景にエルメスは眼をパチクリさせていた。

 

 

 

『グゥ…!!』

 

血に染まる銀の龍と化したシルファーは劣勢を強いられていた。

 

「あの龍は女王だ! 討ち取れ!」

 

「「「おおおおおッ!!」」」

 

敵将の号令でシルファーの周りに帝国兵が群がる。

 

『調子に乗るなぁッ!!』

 

尻尾で薙ぎ払おうと体を回転させるが…

 

「防御陣! 並びに封印陣を敷け!」

 

灰色の結晶体が帝国兵からシルファーの周りに投擲され、それを敵将の側に控えていた魔導師らしき人物が杖を翳して結晶体に秘められた魔力を解放し、幾重にも防御陣を敷いていた。

 

『ちっ! こんな障壁如きに!!』

 

帝国の物量を活かした防御陣の破壊に手間取っていると…

 

「封印せよ!」

 

そこへさらに乳白色の結晶体を障壁に投げ付ける。

 

『しまっ…!!?』

 

魔力障壁の中に乳白色の稲妻が走り、それがシルファーの体を拘束し、シルファーを龍の姿から人間体の姿へと封じ込めてしまう。

それと同時に障壁もまた硬度を増しながら縮んでいく。

 

「くっ…殺すなら殺しな。見世物に成り下がるつもりも、アンタらの慰み者になるのも御免だからね」

 

血で赤く染まる騎士甲冑を身に纏いながらも強気な姿勢と気迫を見せる。

 

「流石は弱小国をここまで率いてきた女王だ。ならば、潔くここで散るが良い!!」

 

そう言って敵将は銀色の結晶体を自らの剣の鍔の部分に装填すると、銀色の魔力を帯びた刀身をシルファーに向ける。

 

「死ね! 女王シルファー!!」

 

「くっ…!(エルメス…すまねぇ…)」

 

シルファーが死を覚悟した時だった…

 

ガキンッ!!

 

敵将の剣は何かに阻まれるような音と共に防がれていた。

 

「な、に…っ!!?」

 

「は…?」

 

敵将とシルファーの間に割って入るようにして現れた第三者に敵将は驚き、シルファーは何が起きているのかわからないでいた。

 

『コアドライブ、正常稼働。シェライズの効果も安定してますよ。我が主』

 

そこにいたのはバリアジャケットの上からさらにブリザード・アクエリアスを装着した忍であった。

 

「そうか。対属性魔法とはよく言ったものだ」

 

『はい。しかし、大丈夫ですか? 病み上がり、しかも記憶も完全には戻っていないのでしょう?』

 

「問題ない。俺の内側から何か強いモノを感じるからな」

 

『流石は我が主。記憶を失ってもその信念や心までは失ってはいないのですね。奥方様達もお喜びになるでしょう』

 

「? 何の話だ?」

 

『それは後程。今は…』

 

「あぁ…この場を乗り切ろうか」

 

アクエリアスとのやり取りの後、眼前で棒立ちになっている敵将を睨む。

 

「き、貴様! 何者だ!!?」

 

忍の視線で正気に戻った敵将は忍に怒鳴りつける。

 

「通りすがりの狼だ。別に覚えなくてもいい。お前は今ここで果てる奴だからな」

 

忍が敵将にそう告げると…

 

「何が通りすがりの狼だ! 邪魔者めぇぇ!!」

 

忍の言葉に激高した敵将が剣を忍へと振り下ろすが…

 

「遅い…!」

 

ギンッ!!

 

敵将よりも速い動作でファルゼンを起動させると、敵将の剣を弾き飛ばし…

 

「き、貴様…?! 一体どこからそんな剣を…!!?」

 

敵将が驚いてる合間に…

 

「はぁ…!!」

 

ザシュッ!!

 

返す刀で敵将の体を一思いに斬り裂く。

 

「があああっ!?!?」

 

絶叫と共に敵将の体が上下に分断されると、絶命してしまう。

 

「ファルゼン、モード・斬艦刀」

 

敵将が絶命したのを確認すると、ファルゼンを斬艦刀へと変形させて肩に担ぐ。

 

「死にたくなければこの場から去れ…!!」

 

ゴアアッ!!

 

忍から放たれる殺気の混ざった気迫が周囲の帝国兵に向けられる。

 

「う、うわああああ!!?」

 

帝国兵の1人が忍の気迫に耐えかねて逃げると、それが伝染したように帝国兵が次々と逃亡していった。

しばらくして、その場には忍とシルファー以外の者はいなくなった。

残ったのは味方の者らしき屍と武具の山である。

 

「酷いな…」

 

そう呟くと忍はその場で少しの間、黙祷を捧げると…

 

「はぁ!!」

 

バリンッ!!

 

シルファーを閉じ込めていた防御陣の上部を斬艦刀のファルゼンで打ち砕くようにして破壊する。

 

「お前さんは…目覚めたのかい?」

 

傷口を押さえながら立ち上がると、忌々しげに防御陣を蹴り壊して忍へと話し掛ける。

 

「えぇ、一応は…」

 

ファルゼンを元の日本刀形態へと戻すと、そのまま地面に突き刺して杖代わりにする。

 

「病み上がりのくせに無茶するからだよ。というか、その鎧や服は何なんだい?」

 

「その話は後でします。今は死者達を弔いましょう」

 

忍は見ず知らずの王国兵を弔うことを優先しようとしていた。

 

「………わかったよ」

 

忍の言わんがしてることもわからんでもなかったので、防衛に回していた大多数の兵士によって同胞達を丁重に埋葬することになった。

 

………

……

 

それから時間は過ぎ、夕刻となっていた。

 

「ふぅ…すまないね。誰ともわからない遺体を埋める手伝いまでさせちまって」

 

宿屋の一室にてシルファーはタオルで汗を拭いながら向かい側に座る忍に礼を言っていた。

 

「いえ…この国を守ろうとした人を足蹴りするような真似は出来ませんから…」

 

同じくタオルで汗を拭いながら忍はそう答える。

 

「そうは言うが、アンタは別にこの国の人間じゃないんだろう? 無理して厄介事に首を突っ込むだけ野暮ってもんじゃないかい?」

 

女王としての立場からシルファーは忍にそう尋ねる。

 

「あなた方には助けてもらった恩があります。それだけではダメですか?」

 

そんなことを忍は真っ直ぐ言う。

 

「女王から見りゃ、ただのお人好しだが…あたし個人としては嫌いじゃないよ。改めて礼を言うよ。死した同胞の為に埋葬を手伝ってくれてありがとよ」

 

シルファーはニカッとした笑みでそう答える。

 

「お母様、そろそろ…」

 

「それもそうだな。本題に入ろうか。アンタは結局何者なんだい?」

 

シルファーの隣に座るエルメスに言われ、忍の素性を聞く。

 

「名前は紅神 忍。忍が名前で、紅神がファミリーネームになる。すまないが、何者については記憶が無くて思い出せない」

 

「記憶喪失ってやつかい?」

 

「そう考えてもらって構わない」

 

「そのわりにはハキハキしているような…」

 

忍の言動からエルメスはとても記憶喪失とは思えなかったらしい。

 

「見た目だけさ。内心、混乱してばかりだ。ここが何処かもわからないし…世界事情なども詳しくない」

 

『そもそもこの世界自体の情報もありませんし、何よりも我が主はこことは異なる世界の出身ですから…』

 

忍の言葉を補足するようにアクエリアスが言葉を発する。

 

「だ、誰!?」

 

「あたしを助けた時も聞こえた声だね。この声は何なんだい?」

 

エルメスは声の発生源を探そうとキョロキョロと見回し、シルファーは忍に問い質す。

 

「これです」

 

そう言って回収されたアクセサリーの一つ、水瓶座のシンボルと氷の結晶の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサファイアを携えた白銀色のチェーンブレスレットを机の上に差し出す。

 

「なんだい、これが喋ったってのかい?」

 

忍の行動にシルファーは睨んでみせる。

 

『えぇ、そうなりますね』

 

サファイアが発光信号のように点滅しながら声を発する。

 

「ふぇ!?」

 

「……どういうカラクリなんだい?」

 

『この世界ではあまり馴染み無い存在の魔法道具…のような認識でよろしいかと』

 

「"あまり"というか"全く"無い気がするけどねぇ…」

 

アクエリアスの言葉にシルファーはそう答える。

 

『かも知れませんね。私の名はブリザード・アクエリアス。我が主のエクセンシェダーデバイスです。デバイスというのは別の次元世界…ミッドチルダ他、多数の次元世界で魔導師という存在が使う魔法の補助装置と考えていただきたいのです』

 

アクエリアスは苦笑すると、デバイスのことを簡潔に説明する。

 

「魔法補助にしては随分としっかりとした意思みたいなもんがあるように見えるけどねぇ?」

 

『それは我々、エクセンシェダーデバイスが特殊な存在だからです。もちろん、人格型や非人格型などの種類はありますが、基本的なデバイスは個人向けに開発されているものを含めても汎用性や使い勝手の良くするために人格搭載型を採用する場合が多々あります。非人格型でも所有者が優秀ならば人格搭載型にも引けを取らないと思いますが…』

 

アクエリアスの説明を受け…

 

「言ってることの意味がわからなくて、こっちはちんぷんかんぷんだよ」

 

「(コクコク)」

 

シルファーもエルメスも理解できていないようであった。

 

『それは致し方ないかと…この世界はおそらく管理局も把握していない次元世界のはずです。専門的な知識は時空管理局から聞いた方がもっとわかりやすいと思います』

 

「そうなのか」

 

アクエリアスの言葉に忍が相槌を打つと…

 

「さっきから気になってたんだが…管理局とか、次元世界ってのはどういうものなんだい?」

 

「それは私も気になりました」

 

シルファーとエルメスは忍に視線を向けて尋ねるが…

 

「……アクエリアス、頼む」

 

『御意です、我が主。もしかしたらこれも記憶が戻るきっかけになるかもですし、私が説明させていただきます』

 

そこからアクエリアスは多次元世界のこと、それぞれの次元世界を管理・維持するミッドチルダの機関『時空管理局』のことをシルファーとエルメスに説明した。

 

「世界は一つじゃないと…別次元にいくつもの世界があって、そこにはいろんな奴らが住んでると…」

 

『簡単に纏めるとそうなりますね』

 

「私達の住むこの世界も次元世界の一つでしかない…」

 

その事実にシルファーもエルメスもまだ実感が湧かない様子だった。

 

『はい。そして、我が主は地球という星のある次元世界からここへ飛ばされてしまったのです。また、一緒に邪狼という者も次元転移に巻き込まれたはずですが…』

 

「邪狼…いや、狼夜伯父さんか…その人は?」

 

忍がそれを聞くと、シルファーは一言"ついてきな"と言い、忍とエルメスを伴って宿屋の外へと出る。

そして、教会の裏手にある墓地へと回り、そこで一つの棺の前までやって来た。

 

「ここに一応、保存してるよ」

 

そう言ってシルファーは棺を指差した。

 

「……………」

 

忍は静かに棺の前まで移動すると、中身を見ていいかどうかシルファーに視線で尋ねる。

シルファーはその視線にコクリと頷き、それを確認した忍は中身を開けた。

 

「………伯父さん…」

 

そこには見るも無残な上下に分断された焼死体が安置されていた。

 

「その邪狼とか言う奴は…見つけた時には既に息絶えてたよ。で、奇跡的に無事だったそいつの右目をアンタの潰れてた右目に移植したのさ。どういう関係かわからなかったから保存しといたけど…どうする? よかったらここの墓地にでも埋葬して…」

 

シルファーが言い終わる前に…

 

「その必要はありません」

 

ゴアアア…!!

 

そう言うと、忍は右手から紅蓮の焔を噴き出し始める。

 

「おい、何を…?!」

 

慌てるシルファーを余所に…

 

「この場で火葬します。そして、残った遺灰は俺が預かります。いつか然るべき場所へと還す時の為に…」

 

忍はそう答えていた。

 

「いいのかい? そいつはアンタの…きっと、身内なんだろ?」

 

「だからこそです」

 

忍の決意は固いらしく、棺の中へと右手を入れて邪狼の遺体を燃やしていく。

 

しばらくして邪狼の遺体が灰と化した後、忍は遺灰を集めて小瓶の中へと入れて懐にしまった。

 

「(こいつ…魔力石無しに焔を生み出してた。なら、魔力持ち? だとしても一体何者…?)」

 

シルファーは忍の一挙一動を見て何かしら思うところがあったようだ。

 

「(ま、今考えても仕方ないか…記憶が無いんじゃ追究も難しいしな…)もういいのかい?」

 

そんな考えをしつつ忍に尋ねる。

 

「えぇ…今度はこちらがこの世界について聞きたい。彼女から簡単に聞いたところ、戦の真っ最中のようだが…」

 

そう答えると、忍はこの世界につ置いての情報を聞く。

 

「そうさね。一回戻ってから話すさ、地図もあった方が色々とわかりやすいだろ?」

 

「助かります。ネクサスにも位置情報を記録しておきたいので」

 

そう言いながら3人は宿屋へと戻る。

 

 

 

「これがこの世界の地図だ」

 

宿屋に戻った直後、シルファーはテーブル一面にこの世界の地図を広げて忍に見せた。

 

「これが…」

 

「そう…アンタらの言うこの次元世界、フィライトの世界地図さ」

 

シルファーが広げた地図をネクサスにスキャンさせながら忍は色々と尋ね始める。

 

「まず主要な国は?」

 

「フィライトの名前の由来になる四つの国があってね」

 

そう言ってシルファーがまず指差したのは地図の中心地にある大陸であった。

 

「ここがこの世界、最大の国家『フィロス帝国』。独裁政治で国を動かしてる軍事国家でもある嫌な国さ」

 

嫌悪感を露にしながらシルファーは吐き捨てるように言う。

 

「帝国の現皇帝『ゼノライヤ・スペル・フィロス』様は世界制覇を掲げており、各国に無条件降伏を要求しています」

 

シルファーから引き継ぐようにしてエルメスが付け加える。

 

「エルメス。あんな奴は様付けなんてしなくていいよ」

 

「しかし、同じ皇族なわけですし…無下にしては…」

 

「真面目が度を過ぎるのも問題ね」

 

そんなやり取りを見て…

 

「(この2人…本当に親子なんだろうか?)」

 

忍はそんなことを思っていた。

 

「まぁいいさ。とにかく、フィロス帝国の連中は降伏しない国に対して侵略行為を始めた。それがこの戦争の発端とも言えるね」

 

そう言った後、今度は指を南の方へと動かす。

 

「次はラント諸島。簡単に言えば、複数の島が密集してる地域さ」

 

そこには数々の島が立ち並んでいた。

 

「ここは基本的には島がベースなのですが、島には様々な種類がありまして。例えば、火山島や密林しかない島など極端な島が多く、そのせいか海流も安定してません。そのため、ラント諸島の人々は海洋種と共に生活していて心を通わす術を持っているとも言われています。それとラント諸島は有数のリゾート地としても有名でして…」

 

「ま、帝国の侵略が始まる前には何度か行ったけどね。今じゃ殆ど行けないからね」

 

「また、ラント諸島が首都を置いているのは外洋に一番近いこの島になります」

 

そう言ってエルメスは最南端の島を指差す。

 

「あと、海流が安定しないせいか、帝国の艦船も無闇には近づけないらしく、この海域自体が自然の要塞と化しており、帝国の侵略を防いでいるのが現状です」

 

「なるほど。確かに周囲の島で入り組んだ海域になっていて攻略に手間取りそうだ」

 

エルメスから情報を聞いた忍の見立てを聞き…

 

「(戦慣れしてる? いや、戦術眼か戦略眼に長けてるのか? ともかくそういう頭の回転はそこそこあるらしいな…)」

 

シルファーは忍の潜在的な能力を測ろうとしていた。

 

「次はトルネバ連合国。多数の部族が寄り集まって出来た国と思ってくれ」

 

シルファーは思考を一時中断すると、西側の大陸へと指を動かす。

 

「トルネバ連合国は魔力石の種類が豊富で、さらに独自に騎乗隊を組織しているので、帝国とも互角に渡り合っています。他にも部族同士が協力し合い、常に移動していることから場所の特定が困難な点もあって帝国との戦いを優位に保っているとか…」

 

エルメスはそう付け加えるが…

 

「ですが、最近では帝国の新兵器によって敗戦の方が多いと聞きます」

 

さらにこうも言っていた。

 

「魔力石?」

 

「そいつは後で説明するよ。最後は我が国、イーサ王国だ」

 

忍の疑問を後回しにしてシルファーは東北にある小さな大陸に指を移動させた。

 

「ここは…自国ってこともあるけど、自然が豊かでね。気候も比較的安定してるから作物も結構取れるんだ。あたしはこの自然や民を救いたいが為に帝国に挑んだんだけど…まぁ、うちと帝国じゃ何から何まで質が違くてね。今じゃ、国土の1/3が占領されちまった。情けないこった」

 

頭を掻きながらシルファーは自分の不甲斐無さを悔やむような発言をする。

 

「国王はどうしたんだ?」

 

「あ~、あいつは…数年前に崩御してね。今じゃあたしが国を引き継いでるようなもんさ」

 

それを聞いた忍は

 

「そうか。すまない、悪いことを聞いた…」

 

素直に謝罪の言葉を口にしていた。

 

「気にすんな。もう過ぎたことさ」

 

シルファーはあっけらかんと答える。

 

「で、さっきの魔力石、だったか? それは一体どういうモノなんだ?」

 

話題を変えるため、忍はさっき出てきた『魔力石』の事を尋ねる。

 

「こいつは実物を見せた方が早いね」

 

そう言ってシルファーはビー玉程度の大きさをした結晶体を忍に投げ渡した。

 

「これが…?」

 

結晶体を興味深く観察する。

 

「あぁ、そいつが魔力石さね。言っちまえば、大気中の魔力を結晶化して作り上げた代物さ」

 

「大気中の魔力を結晶化…そんな技術もあるのか」

 

「この世界じゃ大昔からある技術の一つさ。この魔力石によって人間たちは独自の魔法文化を築いてきた。まぁ、あたしやエルメスみたく元から魔力を持つ存在もいるけどね」

 

「この世界に魔力を持つ人間は…?」

 

「基本的にはいないよ。エルメスみたく人間と異種族のハーフとかクォーターとかなら話は別だけども…」

 

「だからこその魔力石なのか」

 

「そういうこった」

 

忍とシルファーがそんな会話をした後…

 

「あの、お母様。紅神様に属性の事も話さなくてはいけないのでは?」

 

エルメスがシルファーに確かめるように尋ねる。

 

「あ~、それはアンタに任せるよ。良い機会だから説明がてら自分でも考えてみな」

 

「あ、はい」

 

そこからはエルメスが説明を引き継ぐことになった。

 

「魔力石には属性があります。属性はわかりますよね?」

 

「えぇ…炎熱、電気、凍結があるはずですが…?」

 

「はい。それはもちろんなのですが、この世界…おそらく紅神様の言う次元世界でも確認出来るかも知れませんが……では、その三つの他に流水、疾風、大地、閃光、闇黒、天空、幻影、虚無、創造、破壊、重力、空間、強力、鉄壁、鮮血、森緑、有毒、封印、裂斬、速度といった全23種もの属性があるのです」

 

「23種!?」

 

あまりの多さに忍も驚いてしまう。

 

「はい。自然界に属するものから概念的に属するものまであります。また、誰しも必ず一つは得意な属性を持つことがあり、これを私達は『先天属性』と言います」

 

「先天属性、か」

 

「はい。魔力石にも属性が反映されています。魔力石の属性は色によって判別することが可能なので、後でお教えしますね」

 

「あぁ、頼む」

 

こうして記憶を失った忍は異世界『フィライト』で起きている動乱の中へと身を投じる第一歩を踏んでしまうのだった。

 

………

……

 

~???~

 

「ふふふ…フロンティアの完全掌握ももう少しで完了しますね」

 

次元世界『フィライト』へと続く次元の狭間では異質な変貌を遂げようとするフロンティアが漂っていた。

 

「それにしても、まさか邪狼さんが死亡するとは……まぁ、そうでなくては困りますが…」

 

その中では黒ローブが忍と邪狼の戦闘データを見返していた。

 

「まぁ、良いデータが取れたと言っておきましょう。その代価として試作品の一つ…いえ、三機でしたか…を手放すぐらい大目に見ましょう。どうせ、起動もままならないはずですし…」

 

そして、別の画面に視線を向けると…

 

「量産型ドライバーの開発は順調。近い内にロールアウトして彼の国にでも渡しますか。今度の機体は先の試作品のデータと私のエクセンシェダーデバイスを基にしてますからね」

 

そこには地球の戦闘機でも模したかのような3種類の機体が数多く生産されている光景があった。

 

「大半の機材は持ち込んだとは言え、流石フロンティア。大掛かりな生産も可能とは…やはり、手に入れて正解でしたね」

 

そう言うと、黒ローブはまた別の画面へと視線を移す。

 

「覚醒はもうしばらく掛かりそうですね」

 

その画面には禍々しい上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ石像が鎮座していた。

 

「全ての生命に絶望を……ふふふ…」

 

果たして、何が起ころうというのか…?

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