魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第三十四話『真なる狼の覚醒』

忍が異世界『フィライト』で目覚めた頃…

 

『フロンティア事変』から事態が収まりつつある地球では…

 

~地球・明幸組~

 

「………………」

 

智鶴は部屋のベッドで両足を抱え、そこに顔を埋めるようにして塞ぎ込んでいた。

部屋の窓はカーテンを閉め切っていて、ドアも完全施錠しているので誰も入れないという徹底振りである。

飯もろくに食べていないというから、やつれて衰弱しているのではないかと…。

 

部屋の外には当然そんな心配をする人達…組員の方々の他、シアや萌莉、フェイトという常識のある紅神眷属もいる。

 

ちなみに残りの眷属はと言うと…

 

「重症ねぇ…」

 

「重症よね…」

 

「重症過ぎ」

 

「重症だよな…」

 

カーネリア、暗七、吹雪、クリスの順に智鶴の今の状態を嘆いていた。

というか、全員一致で重症扱いとは…(まぁ、間違ってはいないが…)。

 

「女王があんな状態じゃこの眷族も瓦解かしらね?」

 

「王不在の眷属…これからどうなるのかしら?」

 

カーネリアと暗七が今後の方針について考えていると…

 

「そういえば、一つ聞きたいんだがよ」

 

そこへクリスが挙手する。

 

「なにかしら?」

 

カーネリアがそれを聞く。

 

「眷族の駒って、確か悪魔の駒の類似品なんだろ? 眷族とか死んだ場合、所持者の駒ってどうなるんだよ?」

 

「そういや、オリジナルの駒がどうなるか知らないわね」

 

クリスの質問に吹雪も不思議そうに首を傾げてカーネリアの方を見る。

 

「私もそこまで詳しくないのだけどね。確か…アザゼルの話だと、駒の持ち主が死んだ場合、その持ち主が主の元に駒だけでも帰すという強い意志を持ってるなら、駒は主の元に戻る現象が稀にあるらしいわ。但し、その場合…駒の機能が失われて二度と使用できないとか……まぁ、これは王の駒以外での現象だから王の駒の持ち主…つまりはその眷族の王がそうなった場合にどうなるのかまでは知らないけど…」

 

カーネリアの思い出し説を聞き…

 

「つまりは死んだらそれまでってか?」

 

吹雪がそう尋ねる。

 

「かもねぇ…」

 

カーネリアも専門外の事なので何とも言えないようで曖昧に答えていた。

 

「だったら、王が死ねばその眷属の駒自体が機能停止になるんじゃないかしら?」

 

「そうなのかしら?」

 

「あたしに振られても知らねぇよ…」

 

暗七の推測にカーネリアはクリスに聞くが、当然ながらクリスにわかるはずもなく…

 

「けど、可能性はなくはないだろ?」

 

唯一吹雪はそんなことを呟いていた。

 

「仮にそうだとしたら…私達に宿っている駒の機能は止まっていない。皆も感じてるでしょ?」

 

暗七の言葉に3人は頷く。

 

「だったら、忍は…」

 

「まだ生きてる…!」

 

「その可能性は高いわね…」

 

「問題は何処でのうのうと生きてるかよね」

 

忍生存の可能性が出てきたことで自然とやる気に満ちるクリスと吹雪、そんな様子に感化されたのか少しだけ笑みを浮かべる暗七、それとは逆に不敵な笑みを浮かべるカーネリア。

 

女王がその機能を停止していても他の眷属達が希望を見つけ出そうとしていた。

 

………

……

 

一方、その頃…

 

異世界『フィライト』。

フィロス帝国に対して構築したイーサ王国の前線野営基地の天幕の一つでは…

 

「俺に…そんな人がいるのか?」

 

『はい。忍様には将来を誓い合った奥方様がいます。また、それを巡る関係もありますのでお気をつけた方がよろしいかと…』

 

忍がアクエリアスから自身の過去について聞いていた。

 

「どういう意味だ?」

 

『簡単に言いますと、主に好意を寄せる女性は多数いるということです』

 

「………………」

 

それを聞いて忍は頭を抱えた。

 

「一体何をしたんだ、俺は…?」

 

『あなたはあなたの心のままに動いたのです。その結果、誰かを引き寄せる。あなたにはそういう素質があるのですよ』

 

「そういうものか?」

 

『そういうものです』

 

一通りの話が終えると…

 

「軍議か…俺が出てもあまり意味があるとは思えないのだが…」

 

イーサ王国の軍服を身に纏った忍は姿見で自分の姿を確認する。

 

『仕方ありません。この国の状況は劣勢であり、この国…特にシルファー様やエルメス様に恩のある主はこの状況を見過ごせないのでしょう?』

 

「それは、まぁ…そうなんだが…」

 

そう言いながらネクサスの各種装備、ファルゼン、アクエリアスを身に着けていく。

 

『この世界で少しでも見聞を広めるのも良いものかと思いますよ。今後の為にも…』

 

「今後、か……それにはまず記憶が戻らない事にはな…」

 

最後に邪狼の残した三機を軍服のポケットへと仕舞い込む。

 

「結局、これの起動法も分からずじまいか…」

 

ポケットに入れた三機のことを考えながら天幕から出る。

 

『記録では何らかの結晶を用いて起動させていましたが…』

 

「まさか、魔力石とでも言いたいのか?」

 

アクエリアスの言葉に忍は眉を顰める。

 

『先日の会話から、可能性が一番高いと思いますが…』

 

「それだと疑問も残る。何故、デバイス技術のないこの世界で魔力石を用いたデバイス起動の技術なんてあるんだ?」

 

『ごもっともな疑問です。考えられる可能性は二つ』

 

「帝国が偶然にも独自に作り出したのか、それともこの世界に裏で介入している奴がいるか…」

 

『でしょうね。ですが、邪狼にその三機が渡されたことから後者が濃厚かと…』

 

「そうだな」

 

そうこうしてる内に軍議が行われる予定の大きな天幕に着いてしまった。

 

「ともかく今はこの場…いや、この状況を打開するか」

 

『主の御心のままに』

 

忍は意を決して天幕の中に入った。

 

「失礼する。紅神 忍、ただいま参上し…」

 

忍が最後まで言い終わる前に…

 

「はぁっ!!」

 

1人の兵士が忍に剣で斬りかかってきた。

 

「……っ!!」

 

それを忍は反射的に避けると共に兵士の剣を持つ腕を取って背後へと回した。

 

「ぐっ!?」

 

「いきなり何の真似だ?」

 

忍は斬りかかってきた兵士の腕を折らないギリギリのところで維持して問い質す。

 

すると…

 

「はぁ…ったく、これで文句ないだろ?」

 

シルファーが呆れたような声音で周囲のいる将や軍師といった少数の臣下に向けて言葉を発していた。

 

「ふむ…確かに使えそうではあるな」

 

「ただの一兵卒をぶつけただけでは何とも…」

 

「だが、今は猫の手も借りたいからの。贅沢は言ってられんよ」

 

言いたい放題だが、どうやら忍を試すテストだったらしく、それを認識した忍は兵士の腕を放していた。

 

「お前は下がってよいぞ。あとはこちらで処理する」

 

「は、はい…」

 

臣下の1人に言われ、兵士は落とした剣を拾うと鞘に収め、敬礼してから天幕を後にした。

 

「悪いね。アンタを試すような真似して」

 

「別に…余所者は信用できない。もっともな理屈だ」

 

シルファーの言葉に忍はそう返す。

 

「まぁ、そう言うなって。とにかく、今は軍議に移ろうじゃないか」

 

仕方なくシルファーの言葉に従い、忍は軍議の末席に座ることとなった。

 

「知っての通り、この間は忍の迫力にビビった帝国兵が敗走したことで勝ったようなもんだが…まだまだ小さな勝利に過ぎない。だから、今回は敵前線基地になってる我が砦を奪還する」

 

シルファーの言葉に軍議の場がざわめく。

 

「一応、聞くが…相手の兵力とこちらの兵力の差は?」

 

通常、砦の攻略には相手の三倍の兵力が必要だと言われている。

 

「ざっと三倍近いさね」

 

が、どうにも普通が通用しない程に追い詰められているらしかった。

 

「圧倒的に不利じゃないか」

 

忍がそうぼやくと…

 

「貴様! 陛下に対して無礼だぞ!」

 

臣下の1人が忍の発言に噛み付く。

 

「事実を言ったまでだ」

 

「貴様ッ!」

 

武官らしい臣下の1人は自身の得物である大剣に手を伸ばそうとするが…

 

「やめんか!」

 

シルファーの怒鳴り声で武官はその手を止めた。

 

「忍、お前さんも言葉を選んでくれ。ただでさえ砦攻略ということでピリピリしてるんだから」

 

シルファーは呆れたような口調で忍を咎める。

 

「だから無謀だと言っている。どうやってその砦とやらを攻略するんだ?」

 

「それをこれから考えるんじゃないのさ」

 

忍の反論にシルファーはそう答えた。

 

「…………なら、一つ提案する」

 

その答えを聞き、忍は一つの決心をする。

 

「なんだい?」

 

「俺一人でその砦に潜入させてもらう」

 

それは大胆と無謀が紙一重の提案であった。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

帝都の中心地にそびえ立つ城。

その謁見の間にて帝国を支配する現皇帝『ゼノライヤ・スペル・フィロス』に黒ローブが謁見していた。

 

「これがお前が献上するという新たなカラクリか?」

 

そう言ってゼノライヤは手に持った掌サイズの三角形の頂点にそれぞれ宝石を取り付けれるような装飾を施した独特な形状のエンブレムをいろんな角度から見る。

 

「えぇ…名は『シュトーム』。魔力石三つを原動力として別の姿へと変貌し、武装の位置によって名称が変わる代物です」

 

黒ローブがそう説明すると…

 

「そうか。では、誰かに使わせてみろ」

 

ゼノライヤは黒ローブに向けてエンブレムを投げつける。

 

「では、親衛隊か、精鋭クラスの1人に渡して実験してみましょうか?」

 

「そこまでのモノなのか?」

 

黒ローブの言葉にゼノライヤは挑発的な口調で尋ねる。

 

「それを確かめるのでしょう?」

 

「ふん…いいだろう」

 

その後、ゼノライヤと黒ローブは謁見の間を後にして城の訓練場に移していた。

 

「陛下」

 

訓練場に現れたのは漆黒の騎士甲冑を身に纏い、腰に2本の剣を帯刀した騎士であった。

 

「ギル。確か、親衛隊に新たに入った者がいたな?」

 

「………(コクリ)」

 

『ギル』と呼ばれた騎士が頷くのを確認すると、ゼノライヤは黒ローブに視線を投げつける。

 

「そいつにこれを試させてみろ。我が軍の新戦力になるかもしれない兵器だそうだ」

 

「必ず新戦力になると思いますが…」

 

苦笑でもするかのように黒ローブはギルにシュトームを手渡す。

 

「…………」

 

ギルもまた不審な眼差しで待機状態のシュトーム…つまりはエンブレム…と黒ローブを視線だけで交互に見る。

 

「モノは試しと言う言葉がありますよ?」

 

その言葉に(渋々)従い、ギルは新米の親衛隊員を呼び出すとシュトームを渡していた。

 

「えっと…これをどうすれば…?」

 

新米の親衛隊員は困惑した表情で隊長のギルを見るが…

 

「……………」

 

詳細を知らないギルは黒ローブに視線を向ける。

 

「では、まず魔力石を…属性はなんでもいいので三つ、エンブレムの頂点に付けてください」

 

「はぁ…」

 

黒ローブに言われる通りに親衛隊員は適当な属性の魔力石をエンブレムの頂点に装着させていった。

 

「そしたら、空中に放り投げながら"セットアップ"と告げてください。そうすれば、起動しますので…」

 

「「…………」」

 

ゼノライヤとギルは黙って事の成り行きを見ている。

 

「せ、セットアップ」

 

皇帝と親衛隊隊長に見られているということもあってか、少し緊張気味に親衛隊員はエンブレムを空へと放り投げると…

 

カッ!!

 

エンブレムが光り輝き、三つ球体へと分割され、空中にこの世界では馴染みのない機械で出来た鳥…戦闘機が三機出現した。

 

「ほぉ、これが…」

 

「………面妖な…」

 

ゼノライヤは興味津々に、ギルは警戒を強めて三機の戦闘機を見上げていた。

 

「な、なんだ!? 装飾品が変なモノになった?!」

 

そして、起動させた当の本人はあまりの出来事にその場に座り込んでしまった。

 

「変なモノとは失礼な。これはれっきとした兵器です。そうですね…簡単に言えば、飛竜隊やグリフォン部隊などが無くとも空を制圧出来る兵器と考えていただきたい」

 

黒ローブの言葉にゼノライヤは笑みを零し、ギルは眉を顰め、親衛隊員はギョッとしたような表情を浮かべていた。

 

「ふふふ…まぁ、覚えるよりも慣れろとも言いますし、早速それらを鎧のように装着していただきましょうか」

 

その後、黒ローブの指南によって新米親衛隊員はシュトーム戦闘における最初の被験し…もとい修得者となった。

 

そして、訓練場から場内に戻る途中での事…

 

「ギル。奴には単独任務を与える」

 

「……単独?」

 

ゼノライヤとの一歩後ろからついているギルはその言葉に疑問符を浮かべる。

 

「あぁ、イーサ王国の前線基地で小さいが妙な動きありと報告があってな。それを確かめさせるためにあいつを送り込む。もちろん、シュトームとやらの実戦テストも兼ねてな」

 

ゼノライヤの言葉に…

 

「……御意。すぐに…」

 

ギルは足を止めると、そう言い残してその場から逆戻りしていた。

 

「それと…」

 

ギルがその場から去ったのを確認してから一緒に移動していた黒ローブへと声を掛ける。

 

「はい。シュトームの件なら既に量産化を進めております。今回はざっと150機分を提供させていただきますよ」

 

黒ローブはそう言ってのける。

 

「随分と気前が良いな。何かあったか?」

 

予想よりも多い提供数にゼノライヤも少々驚いていた。

 

「はい。良い製作所を入手しましたので…近々、さらに提供させていただきますよ。それに機体自体は少し大掛かりですが、持ち運びには便利ですので…」

 

それはフロンティアのことを言っているのだろうが、黒ローブは肝心な部分をはぐらかしていた。

 

「なるほど。確かに起動させるまでは騎士甲冑にでも忍ばせておけるからな」

 

「はい。それに部隊によって機体は特定させておけば問題ないかと…」

 

「ならば、もう数百機は欲しいところだな」

 

「ふふふ…ご心配なく、次の献上時にはその倍近い数を用意しますよ」

 

「楽しみにしているぞ。それと…俺の"デバイス"とやらも完成させておけ」

 

「もちろんです。陛下に量産型を使わせる気は毛頭ありませんよ」

 

「期待している」

 

その会話の後、ゼノライヤは己の執務室へと入り、それを見届けた黒ローブは黒と蒼の混じり合った焔の転移陣でその場から消え去っていた。

 

だが…

 

「(腹の底では何を考えているのかわからんが…まぁいい。利用できる内は利用してやるさ。この戦争が終わるまでは、な…)」

 

執務室で仕事をするゼノライヤは内心でそう考えており…

 

「(ふふふ…流石はあの若さで皇帝に即位した方だけのことはあり、優秀ですね…)」

 

フロンティアへと帰還した黒ローブもまたゼノライヤの優秀さを称賛すると共に…

 

「(ですが、それ故に御しやすいですね。やはり若さと経験は重要と言うことですか…。ともあれ、この次元世界全体を巻き込んだ戦争が継続すれば、私の計画も案外早く軌道に乗るかもしれませんしね)」

 

ゼノライヤのことを完全に見下していた。

 

「(なにより、彼が絶望する姿をますます見たくなりましたよ……ふふふ…)」

 

そして、そう考えながら邪悪な笑みを浮かべていた。

 

皇帝と黒ローブの思惑は別のところでいがみ合っているようであった。

 

………

……

 

~地球・駒王学園~

 

フロンティア事変やディオドラとの一件から一週間と少し経った日の放課後。

 

「忍がいなくなってもう一週間近くも経っちまうのか…」

 

オカ研の部室でイッセーが片手腕立てをしながら独りごちる様に呟いていた。

 

「智鶴もあれからずっと塞ぎ込んでるみたいだし…」

 

とても他人事とは思えないらしく、リアスはこの一週間の間に何回か明幸組の屋敷へと訪問していたが、面会する余地がなかったのだ。

 

ちなみにこの一週間近い期間の間に体育祭も催されたのだが、それにも当然と言っていいのか欠席してしまっていた。

忍共々体調不良による長期休暇ということで何とか凌いでいるが、いつまでも続けるわけにもいかないだろう。

 

「今でも屋敷に滞在してるメンバーで彼女の様子を見ているんだろう?」

 

ゼノヴィアがそう口にした。

 

「えぇ…カーネリアはともかく、暗七さん、吹雪さん、フレイシアスさんが様子を見てくれてたかしら?」

 

ゼノヴィアの疑問に智鶴の様子を見てきたリアスがそう答える。

 

「早く見つかんねぇかな、忍の奴…」

 

友人を心配するのは当然と言える。

 

「彼を心配するのも大切だけど…私達にもやらなければならないことがあるのよ?」

 

「わかってます。俺達2年生が修学旅行に行く前に学園祭の出し物を決めないとですよね…」

 

リアスの言葉にイッセーはそう答える。

 

「それもありますけど、イッセー君には私とデートしていただきますわ」

 

が、そこに朱乃の言葉も重なる。

 

「(そうだった。ディオドラとの戦いの時にそんなこと言ったんだっけ…)」

 

あの時は小猫に半ば誘導される形で言わされたものの約束を無下に出来ないのがイッセーなので、いつまでも暗いことばかりを考えても仕方ないという朱乃の意見もあってイッセーと朱乃の休日デートが決まった。

 

当然ながら、そんなことを聞いて他の女性陣が殺気立たない訳がないのだが…。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国領内~

 

イーサ王国の南西、フィロス帝国が占領し、敵の前線基地として機能している砦が見える崖に人影が三つ。

 

「何故、あなた達までついてくる?」

 

その一つは当然、作戦を立案した張本人である忍である。

しかし、この作戦は単独での潜入を目的としていたのだが…

 

「細かいことは気にするな。それとも、あたし達がいたら何か不都合でもあるのかい?」

 

「す、すみません…ですが、証人がいないと皆さん、納得しないと思いまして…」

 

残る二つの影はこの国の要とも言っていい女王シルファーと王女エルメスであった。

 

ちなみに砦の死角の崖に陣取り、さらには物陰に隠れるようにしながら3人は話しているので、見つかる心配は今のところない。

 

「そういう問題じゃない。言い出しといてなんだが、この作戦は危険なんだ。そんな作戦に何故、あなた達が…女王と王女が同伴するんだ?!」

 

シルファーの言葉に忍は思わず少し大きな声を出してしまった。

 

「あんま大声出すんじゃないよ。死角とは言え、何処に敵がいるのかわからないんだからね」

 

「くっ…」

 

正論を言われて忍は悔しそうだったが、すぐに平静を取り戻すと…

 

「それよりもなんでエルメスなんだ? 彼女は非戦闘員のはずだろう?」

 

そんな反論を口にしていた。

 

「こいつはあたしの娘だよ? 龍の血を半分受け継いでんだ。自分の身くらい自分で守れるさ」

 

「が、頑張ります…!」

 

「(果てしなく不安だ…!!)」

 

そんな親子のやり取りを見て忍はエルメスに危害が無いよう守り抜こうと心の中で決めた。

シルファーに関しては先の戦闘で龍の姿になっているのを見ており、その戦闘能力の高さを認識しているから問題ないと忍は判断しているが、一応は女王なので護衛対象には変わらないと内心で溜め息を吐いていたりする。

 

「で、具体的にはこれからどうすんだい?」

 

忍が提案したのは単独での砦への潜入と奪還であり、具体的な計画は信用されていないという自覚もあったので説明しなかったが、"必ず落とす"という条件で臣下達も頷いていた。

もっとも臣下達は"どうせ、無理だろう"、"逃げるか、敵に寝返るに決まっている"などと言いたい放題だったらしい。

そのため、監視役兼見届け人としてシルファー自らがその様子を見ると言い始めた。

しかし、それは当然ながら臣下達に却下される方向だったのだが、シルファーはエルメスを連れて無理矢理忍に同行したのだった。

 

「はぁ…もういいです」

 

忍は大きな溜め息を吐いた後、作戦概要を説明することにした。

 

「砦への潜入ですが…あの塀を登ろうと思っています」

 

そう言ってまずは周囲を隔てるように聳え立つ砦の城壁を指差す。

 

「アレでも一応は城壁並みの高さだよ? しかも身内のあたしから言わせれば、限りなく垂直さ」

 

そんなシルファーの言葉に…

 

「足場さえあれば問題ありませんから…」

 

忍はそう答える。

 

「あ、もしかしてあの時の…」

 

そこでエルメスは最初に忍が見せた魔法陣の上を跳ぶ姿を思い出す。

 

「そういうことです。魔法陣を足場にして迅速に砦の中に潜入します」

 

エルメスの反応に頷くと…

 

「なるほど。魔力持ちならではの方法って訳かい」

 

シルファーも合点がいったようだ。

 

「話を聞く限り、この世界の人間に魔力はないから感知される危険性は薄いと思っている。魔力の概念はあってもそれを探知する装置を個人単位で持ってるとは考えにくいしな…」

 

「だが、相手は帝国なんだよ? あまり油断もしない方がいいと思うよ」

 

忍の説明にシルファーが疑問と共に忠告を投げかける。

 

「それはわかっている。だからこそ迅速に…それこそ相手の探知よりも早く砦に潜入する必要があるからこそ単独での行動にしたかったんだ」

 

「なるほど。けど、来ちまったもんは仕方ないからね。あたしらも潜入するよ。それにアンタも内部に詳しいのがいれば安心だろ?」

 

忍の苦言もシルファーによって一蹴されてしまう。

 

「……わかった。確かに案内は必要か。元はこちら側の砦なのだし…」

 

「そういうこった」

 

不承不承といった感じで忍もシルファー達の同行を承諾した。

 

「で、潜入した後は?」

 

「頭を潰し、可能な限り敵兵を拘束する。せっかくの砦なんだ…血で汚すこともあるまい…」

 

シルファーの問いにそう答えながらチラリとエルメスを見た。

 

「…………」

 

ガシッ!

 

その視線に目聡く気付いたシルファーは忍の首をホールドする。

 

「あの、お母様?」

 

「悪ぃ、ちょいと借りてくな」

 

そう言い残して忍を引き摺るようにしてエルメスから距離を取ると…

 

「お前さん、エルメスと結婚する気はないか?」

 

いきなりそんなことを言い出す。

 

「………はっ?」

 

唐突過ぎて忍も間の抜けた返事をしてしまう。

 

「いやね。あの娘ってば、今年で17にもなったってのに男っ気が全然無くて困ってたんだよ。しかも今は戦時中で見合いの一つも出来やしない。しかもあの娘ってばあたしの後を追って反帝国戦力にはいる始末だし…そこら辺のバカな連中に渡すのも癪だし…」

 

娘想いの良い母親であるには違いないが…言ってることはなかなかに酷い。

 

「だからって何故、俺になる? しかも結婚が前提とか…」

 

言われた本人からしたら困惑するのは当然である。

 

「理由が必要かい?」

 

「当たり前だ。自分で言うのも嫌だが、どこの馬の骨ともわからない人間で、記憶もない。しかもアクエリアスの話では将来を誓い合った人までいるらしいんだぞ?」

 

「そいつは初耳だね。だが、まぁ…なくも無い話じゃないか…」

 

シルファーは忍の言葉を聞くと、そんな感想を抱いた。

 

「そうさね……アンタは…多分、エルメスぐらいの歳だろ? そのわりに落ち着いてるし、いざって時の度胸もある。戦いの心得も少なからずあって…顔もまぁまぁ良い部類だろうさ。それに眠ってる間、エルメスがお前さんの世話をずっとしてたし…なによりもこのあたしが許してんだ。だからエルメスをアンタの嫁さんにする。これはあたし的には決定事項だね」

 

忍が欲するだろう理由をシルファーなりに考え、そう伝える。

 

「おい…」

 

忍が何か言いたそうに声を掛けようとするが…

 

「ま、それはともかくアンタに想い人がいるのは手痛い部分だね。もうちょっとあの娘にも積極性があればねぇ…」

 

やれやれと言わんばかりに忍を解放するとエルメスのいる方へと戻っていった。

 

「なんなんだ、まったく…」

 

そう愚痴りつつ忍も戻る。

 

「お話は済んだのですか?」

 

戻った早々、エルメスが声を掛けてくる。

 

「あぁ、問題ないさね」

 

「………あぁ…」

 

シルファーの切り替えの早さに呆れながらも忍も軽く頷く。

 

「ここで待ってなくて大丈夫か?」

 

「はい。私も王女。覚悟は出来ています」

 

決意に満ちた眼差しでエルメスはそう答える。

 

「ボソッ(変なところで似ているな…)」

 

それを見て忍はぼそりと血は争えないと思った一言を呟く。

 

「はい?」

 

「なんでもない。行くぞ」

 

そして、作戦行動へと移るため、3人は崖から移動を始めた。

 

………

……

 

一方、フィロス帝国の前線基地と化した砦内部の司令室では…

 

「まさか、親衛隊の方が直々に来られるとは思いもよりませんでしたよ…」

 

「僕も驚いています。単独任務でこちらに飛ばされることになるとは…」

 

前線指揮官らしき老兵と親衛隊の騎士甲冑を身にい纏った若き騎士が話していた。

 

その親衛隊員とは、先日シュトームを受領した新米隊員であり、既に前線基地まで赴いていた。

これもまたテストの一環として巡航形態のシュトームで空からやって来たのである。

 

「しかし、驚きましたよ。面妖な機械の鳥でやってきたのですからな」

 

「申し訳ありません。ですが、アレは我が方の新戦力となると陛下直々に賜ったモノなのです」

 

「ほぉ、あの鳥が…一体どのような性能を…?」

 

老兵も親衛隊員の言葉に興味津々に尋ねると…

 

「それは…」

 

親衛隊員が答えようとした時だった。

 

バタバタ…!

 

「ほ、報告します!」

 

1人の兵士が慌ただしく司令室に駆け込んできた。

 

「何事だ?」

 

老指揮官が兵士を睨みながら問い質す。

 

「し、侵入者です!」

 

「侵入者? その程度、お前達で対処しろ」

 

老指揮官はそう断じるが…

 

「し、しかし! 侵入者はイーサ王国の女王と王女、それと先日の戦闘で現れたという男の3名でして…」

 

そのような兵士の報告を聞き…

 

「なんだと!?」

 

老指揮官は驚いた。

 

「女王自ら攻めてくるとは…いや、しかし…王女とその男も一緒とは…正気の沙汰とは思えない…」

 

老指揮官は頭を抱えていると…

 

「現在、侵入者3名は我が方の兵士を撃退しながらこの司令室へと進行中のこと!」

 

兵士からさらにそのような情報が持たされた。

 

「ちっ! 戦力を集中させろ! たかが3人、恐るるに足らずだ!」

 

そう言って老指揮官が兵士を向かわせようとしたら…

 

「僕も出ましょう」

 

親衛隊員も席を立っていた。

 

「新兵器の威力を持って敵を拘束し、その男とやらを倒す光景をご覧にいれますよ。陛下もきっとそれを望まれて僕をここに派遣したと思いますし…」

 

そう言って新米隊員は待機状態のシュトームに魔力石を装着しながら司令室から出ようとする。

 

「ならば、見せてもらおうか。その新兵器とやらの実力を…!」

 

その親衛隊員の背に向かって老指揮官はそう声を投げつけていた。

 

「言われずとも…」

 

そう短く答え、新米の親衛隊員は戦場へと赴くのだった。

 

………

……

 

「くそっ! 言ったそばから見つかるとは!」

 

「世の中、そう上手くはいかないもんだねぇ」

 

「のんびり言ってる場合か!」

 

砦の食堂を舞台に、敵兵を撃退しながら忍とシルファーが会話する。

 

何故、3人は見つかったのかというと…

 

「ご、ごめんなさい! 私が失敗したばかりに…」

 

エルメスが防御魔法を展開しながら謝っている。

 

そう、砦の城壁を魔法陣による足場形成で跳び登って侵入するまでは良かったのだが…。

忍とシルファーは見事な着地をしてみせたものの、エルメスは魔法陣から足を滑らせてしまい、忍がそれを助けるべく抱き抱えながら砦の一室に突入してしまった。

そこは砦の食堂であり、今まさに食事中の敵兵達に見つかってしまい、そこで忍は室内を凍結させて敵兵達を無力化。

しかし、ちょうど食堂に来たばかりの敵兵数名を逃してしまい、武装した敵兵が忍達を迎撃するために動き出して現在に至る。

 

「気にするな。誰にでも失敗くらいある」

 

「随分とエルメスには甘いんだね。あたしが失敗してもそう言うのかい?」

 

忍の言葉にシルファーはそう聞くと…

 

「その時は耄碌したと言ってやる」

 

「なにをぉ!?」

 

そんな会話をしながらもしっかりと敵兵を迎撃してるから余裕を感じる。

 

「しかし、室内での戦闘は苦手だ…」

 

「そりゃ、アンタが格闘技に慣れてないからだろうね。剣の太刀筋や魔法のキレは良いのにもったいない」

 

「……対策を考えておかないとな…」

 

シルファーの言葉に忍も悔しく思うも、その対策を練ることを考えていた。

 

「お母様、忍様…数が多過ぎます!」

 

「頭を潰したいところだったが…流石にこのままでは出てこんか…」

 

「どうすんのさ?」

 

次々と食堂に雪崩れ込んでくる敵兵達にエルメスとシルファーが忍にこれからの行動を尋ねる。

 

「シルファー女王、ここの司令室は?」

 

「そうさね。ここからなら…天井を打ち抜いて行けば……って、まさか?!」

 

忍の意図に気づき、シルファーは忍の方を見る。

 

「一気に叩く!」

 

そう叫ぶと共に忍は…

 

「ブリザード・ファング…」

 

中距離拡散砲撃を天井に向けて放つと同時に、拡散させた無数の砲撃が天井の一点に集まり始めていく。

 

「エクシードッ!!」

 

そして、収束された球体に向かい、忍は魔力を収束した右腕を叩き込む。

 

ドゴオオオオンッ!!

 

それと共に収束された球体から氷属性の収束型砲撃が一つの濁流と化して天井を突き破っていく。

 

 

 

天井を突き破る収束型砲撃は…

 

ゴゴゴゴゴゴ!!

 

震動と轟音を立てていき…

 

「な、なん………!!?」

 

司令室にした老指揮官を巻き込み、司令室自体を氷漬けにしてしまっていた。

 

 

 

司令室が凍り付いたのを匂いで感じたのか…

 

「よし…これで後は敵を薙ぎ払えば……って、あれ?」

 

忍が食堂へと眼を向けると、そこにはシルファーとエルメスが防御魔法を張っているだけであった。

収束型砲撃の余波なのか、凍てつかせた食堂を覆う氷がさらにその強度を増したようにも見える。

 

「なんなんだい、今の砲撃は…? あたし達の軽いブレスに近いかもしれないね」

 

「凄い…」

 

防御魔法の表面も軽く凍る程の砲撃をした後では誰も近づけないのだろう。

 

しかし…

 

「ちっ…この程度で逃げ出すとは…なにをしているんだ」

 

そこに司令室を出た新米の親衛隊員が現れる。

 

「お前は…?」

 

敵兵とは違う身なりと雰囲気に忍も警戒を高める。

 

「僕はゼノライヤ皇帝陛下に仕える親衛隊の一員だ。君が噂の男か…」

 

そう言って親衛隊員は忍に敵意を向けている。

 

「どんな噂か知らないが、やるというなら相手になる」

 

「ならば、ちょうどいい。我が軍の新兵器、その最初の犠牲者にしてやる!!」

 

そう言うや否や親衛隊員は待機状態のシュトームを忍に向けた。

 

「それは…?!」

 

「セットアップ!」

 

前方に放ると共にエンブレムがその姿を3機の戦闘機へと変貌する。

 

「帝国の新兵器か!?」

 

「機械の鳥!?」

 

「デバイスか!?」

 

シュトームの存在に忍達3人も驚く。

 

「(これの存在を知っているのか? まぁいいさ。倒してしまえば同じこと!)」

 

そんな考えをしながら親衛隊員は3機の戦闘機に指示を出す。

 

「シュトーム、モード・ベータ!」

 

親衛隊員の言葉を聞き…

 

バキンッ!

ガシャンッ!

 

3機の戦闘機はバラバラとなりて親衛隊員の体に鎧状にして装着されていき、武装もまた各部位に装着していく。

 

「(狼夜伯父さんの使っていたモノと同系統か?!)」

 

そう思い、無意識の内にポケットに手を伸ばしていた。

 

『(これで確信出来た。アレは我々のデータを基に開発されたものだ。そして、コアドライブの代わりに魔力石を使っている)』

 

そんな中、シュトームの存在によってアクエリアスは確信を得ていた。

 

『我が主よ。"彼ら"を目覚めさせるにはやはり魔力石が必要だと確信しました』

 

アクエリアスはその結論を忍へと報告する。

 

「そうか。なら、今は目の前の敵を倒す!」

 

そう言ってシルファーとエルメスを巻き込まないように食堂から出ようと後退しながら…

 

「アクエリアス、セットアップ!」

 

ネクサスのバリアジャケットの上にアクエリアスを装着する。

 

バゴォンッ!!

 

装着すると共に凍り付いた壁を突き破って外に出る。

 

「逃がすか!」

 

親衛隊員が背部の機械翼を広げて忍を追う。

 

「ブリザード・ファング!」

 

後退しながら中距離拡散砲撃を放つ。

 

「無駄だ!」

 

ヘッドギアからHMDがバイザー状に現れて親衛隊員の目元を覆い、忍の放ったブリザード・ファングの弾道を予測してその弾幕を回避する。

 

「なに?!」

 

まさか、全部回避されるとは思ってもみなかった忍も驚きを隠せずにいた。

 

「魔力石を持たずして魔法行使! 貴様、人間ではないな!」

 

そう言って機械翼を鞘代わりにして収納されていた片刃の大剣を片方引き抜き、忍に斬りかかる。

 

「人が少なからず気にしてることを…!!」

 

その斬撃をファルゼンで受け止めながら忍はそう返す。

 

「(気にする…? 俺が? いつから…?)」

 

だが、咄嗟に言った一言に忍自身が困惑してしまっていた。

 

「僕を目の前に余所見とは良い度胸だ!」

 

そう叫ぶと共に腰部左右で折り畳まれていた砲身が忍に向けて伸び…

 

「くらえ!」

 

チュドンッ!!

 

至近距離で収束された高威力の砲撃が炸裂する。

 

「ぐぁっ!!?」

 

アクエリアスに守られているとは言え、ファルゼンで大剣を受け止めて懐ががら空きになっていた忍はまともにくらってしまう。

 

「忍!」

 

「忍様!?」

 

穴の開いた壁からシルファーとエルメスが顔を出す。

 

「女王陛下と王女様はそこで見ていただきます! モード・ガンマ!」

 

バキンッ!

 

武装の位置が変更されてシュトームの仕様が近接戦から砲撃戦となる。

 

「照準セット! 舞え、星屑よ!」

 

ズドドドドド!!

 

親衛隊員の言葉をキーに両肩に装備された機械翼から無数の魔力レーザーがミサイルのようにシルファーとエルメスへと降り注ぐ。

 

「ちっ!」

 

「っ!?」

 

2人が防御魔法を張る前に…

 

「アクアボール・バリアシフト!」

 

バスケットボール並みの大きさをした水の球体が2人の元へと飛来し、バリア状に展開されて魔力レーザーを防ぎ切る。

 

「ふんっ…そんなに死に急ぎたいのか?」

 

そう言って親衛隊員は水の球体の飛来した方角を見る。

 

「悪いが、死ぬつもりは毛頭ない」

 

そう言う忍の姿は銀狼へと変貌していた。

 

「なんだ、その姿は? 犬か何かか?」

 

親衛隊員の言葉に…

 

ピキッ!

 

「俺は狼だ!」

 

そう叫ぶと共に忍は激昂しながら高速移動を開始する。

 

「っ?! 速い!」

 

HMDから全方位に対しての警告音が鳴り響く。

 

「狼影斬ッ!」

 

その警告音の通り、全方位からの斬撃かと錯覚させるスピードによる斬撃が親衛隊員を襲い掛かる。

 

「ぐぅっ!?」

 

シュトームの装甲にはファルゼンの刃による傷が少し付いただけで大したダメージにはなっていないようだ。

だが、斬撃の衝撃は確かに親衛隊員の体にダメージを与えていた。

 

「(くっ…速さだけじゃダメか!)」

 

それでも忍はその結果に満足していないようであった。

 

「(何が足りない…俺には、何が…!!)」

 

忍が高速移動しながら考えていると…

 

「これしきの事でぇ!! モード・アルファ!!」

 

バキンッ!

ガシャンッ!

 

再度、武装の位置が変わりその性能が変化する。

近接特化でも、砲撃特化でもない…万能形態へと…。

 

「いくら速かろうと、動きさえ予測できれば対応出来る!」

 

両足側面に配置変えされた魔力収束キャノンと魔力レーザー装備からほぼ全方位に向けて砲撃と魔力レーザーが照射される。

 

「くっ!? 見境無しか!?」

 

その砲撃に忍も思わず足を止めて防御を固めてしまった。

 

「そこか!」

 

腰部から二挺のライフルを取り外すと、右側のライフルを前にして前後連結させて忍へとその銃口を向ける。

 

「ガンマ・バーストショット!!」

 

ギュオオオオッ!!

 

一点に集中された重火器からの収束砲撃が両足側面の砲身から放たれる砲撃と共に忍へと向かう。

 

「っ!?」

 

『ストリームオーラ、最大稼働!』

 

ドゴオオンッ!!

 

ストリームオーラによって砲撃の威力を軽減することに成功したものの、収束砲撃は忍へと直撃してしまう。

 

「ぐわあああぁぁぁぁっ!?」

 

予想以上の威力に忍は城壁に背中から衝突し、一瞬だけ意識を手放してしまう。

 

 

 

その刹那の時間のこと…。

 

『速度の銀と力の黒…それを合わせろ。そうすれば、お前は…』

 

フィライトに来てから一週間後に見た深層世界の中での出来事…その中で言い放っていた狼夜の言葉が蘇っていた。

 

「(速度の銀は、銀狼…なら力の黒とは…?)」

 

そんなことを考えていると…

 

『何年振りだろうな…俺、本来の力を解放したのはよッ!!』

 

フラッシュバックするように邪狼との戦闘で見た、忍の銀狼に似た黒き狼の姿をした邪狼の姿を思い出す。

 

「(力の黒とは…アレ? だが、どうやって…)」

 

そして、再び深層世界での狼夜の言葉と、現実世界で狼夜の遺体の前でシルファーから告げられた言葉で思い出す。

 

『仕方ねぇから俺の右目をくれてやったのさ』

 

『その邪狼とか言う奴は…見つけた時には既に息絶えてたよ。で、奇跡的に無事だったそいつの右目をアンタの潰れてた右目に移植したのさ』

 

狼夜から託された…右目の存在を…。

 

「(右目…?)」

 

狼夜の右目…琥珀の瞳を持った、新たな右目…。

 

「(そうか。銀も黒も元は同じ…その血を俺は宿している。そして、銀は体が覚えていて、黒も右目が覚えてるはず……なら、俺の中の黒の血を呼び覚ますことで銀と黒が混ざり合う…)」

 

そこまで考え、忍の意識は刹那の時間から現実へと帰還する。

 

 

 

「忍様!!」

 

「っ!?」

 

エルメスの声と共に正気に戻った忍は目の前に迫る片刃の大剣の切っ先から顔を逸らして避ける。

 

「ほぉ、アレを避けますか。流石の反応速度ですが、もうあなたは詰んでいますよ?」

 

そう言う親衛隊員の言葉通りに忍の首元には刃の備わった左腕が突き付けられていた。

 

「あの一瞬でここまで迫るとは…恐ろしい性能のデバイスだな…」

 

そう言って忍は親衛隊員を睨む。

 

「真に素晴らしきはこのシュトームの性能をここまで引き出した僕の実力ですが、ね!」

 

親衛隊員はその言葉と共に右手に保持する片刃の大剣と左腕を鋏を分解するような動作で引き抜こうとする。

 

「っ!!」

 

ギィィンッ!!

 

その瞬間、忍は自分の顔面ギリギリにファルゼンの刀身を迫り出させると引き抜く際の斬撃を防ぐ。

 

ドンッ!!

 

それと同時に忍は親衛隊員の腹部を蹴って距離を開ける。

 

「くっ…! 悪足掻きを!!」

 

親衛隊員が忍の方を見ると…

 

「…………」

 

忍は眼を閉じて精神統一をしていた。

 

「はっ、遂に観念したか?」

 

親衛隊員はそう言いながら少しずつ忍に近付いていくが…

 

「(違う。忍の体に色んなもんが渦巻いてる…!)」

 

「(忍様…一体何を…?)」

 

シルファーとエルメスは感じていた、忍の中から目覚めようとする"何か"の存在を…。

 

「(真なる狼…俺はそれが何なのかわからない。だが…)」

 

ド………ク………ンッ………

 

徐々にだが、忍の鼓動が脈動となりて周囲に鳴り響く。

 

「何かは知らないが、無防備とは良い度胸だ!」

 

しかし、そんなことを気にしない親衛隊員は忍の目の前までやってくると…

 

「そのまま果てろ!!」

 

上段に構えた片刃の大剣を一気に振り下ろそうとした。

 

「(託された力を使い、俺は…守ってみせる…!)」

 

カッ!!

 

忍の目が再び開いた時…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

膨大な魔力、気、霊力、妖力が忍から放たれ、忍を中心にして黒が混ざったような白銀の柱が空へと立ち昇る。

 

「うぉっ!?」

 

その余波によって親衛隊員が吹き飛んでしまう。

 

その光の柱の中で…

 

「(そうだ…俺には、帰るべき場所がある。俺の帰りを待ってる人達が…いるんだ!!!)」

 

ドクンッ!!!

 

一際大きな鼓動の脈動音は…彼の体内に眠る王の駒を通して次元の壁を超える。

 

………

……

 

~地球・明幸邸~

 

それは突然の事だった。

居間に集結していた智鶴以外の眷属達。

 

ドクンッ!!!

 

「「「「「「「ッ!?!?!?」」」」」」」

 

突如として紅神眷属の全員が、その身に宿した眷属の駒から力強い鼓動を感じたのだった。

 

「今のは…?」

 

「確かに感じました…」

 

「眷族の駒が…反応したってことは…」

 

「そういうことよね」

 

「だろうぜ」

 

「なら…やっぱり!」

 

「えぇ…」

 

萌莉、シア、吹雪、暗七、クリス、フェイト、カーネリアの順に反応を示していると…

 

ダッダッダッダッダッ!!

 

廊下を走る音が聞こえ…

 

「しぃ君は…生きてる!!!」

 

居間に飛び込んできた智鶴はそう叫んでいた。

その姿はやつれており、身なりもボロボロであり、とても人前に出すような状態ではなかった。

 

「そんな格好で坊やと会う気?」

 

クスリと笑うカーネリアが茶化すように微笑む。

 

「そんなことはどうでもいいの! しぃ君が…しぃ君が…!!」

 

「お、落ち着いて、ください…?!」

 

そんな智鶴を抑えようと萌莉が奮闘する。

 

「ったく、忍の事になるとこれかよ」

 

「けど…けど、安心しました…」

 

クリスの言葉を肯定しながらシアも涙を流していた。

 

「問題は何処にいるかよね」

 

「私が何とか捜してきます!」

 

吹雪の言葉にフェイトが身を乗り出す。

 

「職権乱用じゃないかしら?」

 

「緊急時ですから。それに彼にはちゃんとしたお礼もまだしてないって人がいますし…」

 

暗七の忠告にフェイトはある人物を思い浮かべていた。

 

「だから、その人と協力して捜してきます」

 

「そ、じゃあ、そっちはよろしく。こっちはこっちで何とかするから…」

 

カーネリアはフェイトに忍捜しを押し付けて智鶴の方を見る。

 

「私もお手伝いします…!」

 

そう言ってシアもフェイトに同行することになった。

この中ではフェイトの次に多次元世界に対しての知識がある人物だろうからと言う理由もある。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国南西部~

 

忍の姿が銀狼からさらに変化していた。

変化と言っても髪の色と、狼の耳と尻尾の毛並みが白銀から黒の混ざった白銀色へと変わっただけだ。

瞳は右は琥珀、左は真紅という特に変わった様子はなかったが、瞳孔は縦に鋭くなっている。

 

「これが…真なる狼…」

 

自らに起きた変化を体で感じながら忍はファルゼンを横薙ぎに一振りする。

 

バリンッ!

 

すると空に立ち昇っていた光の柱が砕け散り、粒子状となって周囲一帯に粉雪の如く舞い散っていた。

 

「綺麗…」

 

その光景を見てエルメスは素直にそう呟いていた。

 

「これが忍の本来の力か…?」

 

忍から溢れる波動を肌で感じたシルファーは鋭い目付きで忍を見る。

 

「くっ…たかだか色が変色したくらいで!」

 

ズドドドドド!!

 

前後連結した火器を分離させると左手のライフルで忍を狙い撃つ。

 

だが…

 

「……………」

 

忍は理力の型による数秒先の未来予知と魔力の匂いを頼りにライフルの魔力弾を最小限の動きで回避しながら親衛隊員へと近づいていく。

 

「何故だ?! 何故、当たらない!?」

 

その事実に親衛隊員は酷く狼狽していた。

 

「黒影斬ッ!」

 

そんなことは気にせず、忍は黒く染まった魔力斬撃を親衛隊員へと放つ。

 

「くっ!?」

 

親衛隊員はそれを回避するが…

 

「悪いが、これで終わりにさせてもらう!」

 

ブンッ!!

 

忍の姿がその場から消える。

 

「消えた!?」

 

親衛隊員が周囲を見回すもHMDには『Lost』という文字が表示されるだけだった。

 

「違う。ありゃ、高速移動してんだ!」

 

「お母様には見えるのですか?」

 

「いんや、見えん」

 

「えぇ?!」

 

「だが、あいつのこれまでの行動から考えたら…」

 

そんなエルメスの疑問にシルファーはそう結論付ける。

 

「バカな! そんなことがあり得るはず…」

 

「あるんだな、これが…」

 

そう言って親衛隊員の背後に忍が背中向きで現れる。

 

「貴様!? いつの間に…」

 

親衛隊員が驚きながらも忍を後ろから斬りかかろうとしたら…

 

「お前はもう…終わってる。狼影斬の強化系、『瞬狼斬』によって…」

 

ズシャアッ!!

ブシャアアアッ!!

 

その言葉と共に親衛隊員の腕から血が噴き出す。

 

「がああぁぁぁっ!!??」

 

それを合図にしてか、親衛隊員の体中から次々と斬り傷が現れて血を噴き出す。

 

「ぼ、僕が…こんなところでぇぇ…!!!」

 

最後の足掻きとばかりに片刃の大剣を振り下ろすが…

 

「……じゃあな」

 

斬ッ!!

 

親衛隊員が振り下ろす前に忍が振り向き様にファルゼンによる一閃を叩き込む。

 

「ぐわあああああっ!?!?!?」

 

それを最後に親衛隊員は後ろ向きにして血の海に倒れ込む。

 

「…………」

 

親衛隊員が倒れた後、待機状態へと戻ったシュトームを忍は回収する。

しかし、その表情は晴れやかというよりも曇っていた。

 

「戦争だとしても…また、人を殺したか…」

 

そう静かに呟く忍だった。

 

「(ありゃ、1人で溜め込むタイプかね…)」

 

そんな忍の様子を見てシルファーは忍の危うさを感じ取っていた。

 

 

 

その後、砦はイーサ王国側に取り戻すことに成功した。

 

この結果に臣下達は驚きと共に畏怖の感情を忍に向けていた。

シルファーとエルメスが勝手について行ったとは言え、ほぼ1人で作戦を成功させてしまったのだから無理もない。

 

そして、忍は新たな力…いや、本来の力とも言える力を引き出すと共に自らの記憶を思い出していた。

思い出したはいいのだが…智鶴が病んでないか…既に病んでる気もするが…。

それが気がかりでならなかったという…。

 

ともかく、この勝利を手にイーサ王国の反撃が始まろうとしていた。

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