魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第三十五話『再会と帰還と決断』

~地球・駒王学園~

 

忍の生存が眷属の駒から伝わってきた翌日に智鶴は登校していた。

 

「智鶴!? もう大丈夫なの?」

 

智鶴が登校したことにクラスメイトのリアスも驚いていた。

 

「えぇ…まだ、ちょっと本調子まではないけど…いつまでも学園を休んでもいられないから…」

 

身なりはしっかりとしてるもののこの一週間でだいぶほっそりとしてしまったような気さえする。

 

「そんな状態で体が持つの?」

 

同じくクラスメイトの朱乃も心配そうに智鶴を見る。

 

「平気よ。大丈夫だから」

 

そして、2人は思う。

 

「「(智鶴が復活したということは紅神君の方に何か進展があった? しかも良い方向で…)」」

 

智鶴が復活した=忍の無事が確認された可能性が高い、という事だろうと…。

凄いのか酷いのかわからない認識の仕方をされているが、事実はその通りなのであるから否定しようも無いが…。

 

「ともかく、大丈夫ならこっちもひと安心よ」

 

「はい、これ。智鶴がいない間のノートですわ」

 

「ありがとう、リアスちゃん、朱乃ちゃん」

 

そう言って朱乃からノートを受け取る。

 

が…

 

「『イッセー君とのデート計画』?」

 

ノートの表紙にはそう記されていたため、智鶴も小首を傾げてしまった。

 

「あら、間違えましたわ。こっちです」

 

スッと智鶴の持つノートと別のノートをすり替える。

 

「朱乃? 参考までに聞いておきたいんだけど…」

 

心なしか滅びの魔力が滲み出そうな雰囲気のリアスが朱乃に問うた。

 

「なんでしょうか? "部長"」

 

クラスメイト達の手前、朱乃はニコニコした笑顔のままだった。

 

「この件は…放課後にでも話しましょうか」

 

「はい、部長」

 

リアスと朱乃の視線が重なると微かに火花が散り、背後に龍虎の幻影が見えそうだった。

ちなみにリアスが虎で、朱乃が龍だったりする。

 

「あらあら…」

 

そんな2人の様子を困ったような笑みで見つめる智鶴であった。

 

………

……

 

~ヴェル・セイバレス艦内~

 

現在、次元航行中のヴェル・セイバレスはフェイトやシアの内部にある眷属の駒の反応を頼りに航海している途中であった。

 

忍の生存が判明した後、フェイトはまず衛星軌道上で待機していたヴェル・セイバレスに向かい、ゼーラにセイバレスによる次元航行と、同乗の許可を得ようとした。

そこにシアも加わり、多次元世界での人探しに協力を仰いでみた。

 

普通、真っ当な人間ならば、駒から感じる波動を頼りにした人探しなど手伝うはずもない。

いくら執務官権限でも職権乱用に繋がるからだ。

 

だが…思いの外、ゼーラを説得するのは簡単であった。

何故ならゼーラは以前に一回忍と会っており、その青年がどのような変貌を見せたのか気になったからである。

それに規則違反は今に始まったことでもないので、何回重ねようと気にした様子もなく、艦を動かしたのだった。

そして、あわよくば忍をスカウトして特務隊の質を底上げしたいとも考えているらしい。

 

そんなゼーラの思惑とは別に、1人の騎士がフェイトとシアを艦内の休憩室に呼び出していた。

 

「で、あいつは見つかりそうなの?」

 

その騎士は休憩室のソファーに座りながらそう尋ねた。

この人物こそ、フロンティア事変での対邪狼戦闘時に忍やフェイトと共闘した騎士…朝陽である。

 

「多分……いえ、きっと見つけてみます」

 

珍しく強い口調でシアが朝陽の問いに答える。

 

「うん。彼との繋がりは確かにまだあるんだから、きっと見つけられるよ」

 

シアの言葉にフェイトも頷く。

 

「一体、どんな根拠があるんだか…」

 

朝陽は朝陽で怪しそうな視線を2人に向ける。

 

「それにしても執務官殿は仕事は良いの? この件以外にも色々とあると思うんだけど…」

 

「そ、それは…確かに私一人だと大変ですけど…地球には少なからず縁があるし、その地球が大変なことになってるなら出来るだけ穏便に済ませるのが一番なのよ」

 

朝陽の鋭い指摘にフェイトは少し表情が引き攣っているようにも見えるが、そう答えていた。

心なしか、自分に言い聞かせるようにも聞こえるが…。

 

「はっ、物は言い様よね。まぁいいわ。とにかく、あいつをちゃんと見つけなさいよ。こちとら文句の一つも言えやしてないんだから…!」

 

何故か不機嫌な朝陽は言うだけ言って休憩室から出ていってしまう。

 

「なんだったのでしょうか?」

 

「さ、さぁ…?」

 

残された2人はが互いに顔を見合わせて首を傾げていると…

 

「「フェイトちゃ~ん」」

 

朝陽と入れ替わるようにして新たに2名ほどの人物が休憩室に入ってきた。

 

「え…? シャーリーに…なのは?!」

 

それはフェイトの無二の親友の1人『高町 なのは』と、フェイトの執務官補佐『シャリオ・フィニーノ』だった。

 

「な、なんで2人がここに…?」

 

2人の存在にフェイトは驚いているが…

 

「それはこっちの台詞だよ~」

 

「フェイトちゃん、最近局の方で見ないと思って…それで最近の行動をユーノ君やクロノ君に聞いてみたの」

 

それはなのはやシャーリーも同じであったようだ。

 

「(そういえば、前にエクセンシェダーデバイスについて聞いたっけ…)」

 

エクセンシェダーデバイスについては資料がほとんど無かったな、というのが印象的だった。

 

「それでそれで? フェイトちゃんの彼氏君てどんな人なの?」

 

そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。

 

「か、かかか、彼氏って!? べ、別に忍君はそういう、あれじゃ…////」

 

「うわぁ…フェイトちゃんが動揺してる」

 

フェイトの動揺の仕方になのはもビックリしている。

 

「うぅ…なのはまでぇ~////」

 

「あの…フェイトさん、こちらは?」

 

フェイトと話してる2人についてシアが尋ねると…

 

「あ、ごめん。こっちは私の親友の高町 なのはと、私の補佐のシャリオ・フィノーニ。なのは、シャーリー、この人は…」

 

「初めまして、私がシャリオ・フィノーニ。気軽にシャーリーって呼んでね♪」

 

フェイトがシアを紹介する前にシャーリーがシアの手を取って自己紹介していた。

 

「私は高町 なのはです。えっと…」

 

シャーリーの勢いに苦笑しながらもなのはも自己紹介した。

 

「あ、私は神宮寺 フレイシアスです。名前が長いので、どうぞ『シア』と呼んでください」

 

互いの自己紹介が終わると…

 

「フェイトさんとは、共に忍さんの僧侶となっております」

 

即行でシアが僧侶の事を打ち明けた。

 

「「僧侶?」」

 

シアの発した『僧侶』という単語になのはとシャーリーは同時に首を傾げる。

 

「え~っと…何から説明したらいいのか…」

 

フェイトが説明に困っていると…

 

トクンッ…!

 

「「っ!」」

 

微かに駒の反応が強くなったような気がして2人は互いの顔を見合わせる。

 

「フェイトさん!」

 

「うん!」

 

2人は急いでブリッジへと駆け出す。

 

「ちょ、フェイトちゃ~ん!?」

 

それを追うようにしてなのはとシャーリーもブリッジへと向かう。

 

 

 

ヴェル・セイバレスはフィライトの存在する次元世界の衛星軌道上へと出ていた。

 

「ほぉ、この次元世界にいるのか?」

 

「はい」

 

艦長席に座るゼーラの問いにフェイトが頷く。

 

「しかし、この次元世界は未だ我々の手が行き届いていない宙域でもある。無用な争いを避けるため、艦は衛星軌道上で待機する。捜すなら降りる必要があるが…」

 

「構いません。忍君は先の邪狼討伐戦で多大な貢献をした人物です。その人がいるのなら捜すべきです」

 

「ふ、フェイトちゃん…」

 

執務官とは言え、相手は准将…親友が物動じしない対応になのはも驚きの連発であった。

 

「若いな…」

 

ゼーラはフェイトの言葉を一蹴するが…

 

「こちらからは流星を出す。あいつも何か言いたそうだったからな…」

 

そう言ってゼーラは朝陽へとフェイト達への同行するようにとの指示を簡素だが、正式な指令書として朝陽へと送っていた。

 

「先ほども言ったが、ここは我々にとって未開の地だ。くれぐれも穏便に事を進めるように」

 

そんなゼーラの言葉に…

 

「ありがとうございます!」

 

フェイトがお礼を言って即座に転移装置のある部屋へと向かった。

 

「失礼しました」

 

シアもゼーラに一礼してからフェイトの後を追う。

 

「流れ的に私達も行かないとかな?」

 

「なのはちゃんは行けるけど、私はほら…裏方専門だし…」

 

ブリッジに残ったなのはとシャーリーがそんな会話をしていると…

 

「………通信確保用に一部屋使っても構わん。ついでだから"勝手に調査もしても仕方ない"が…」

 

これは"せっかく未開の地に来たのだから調査の一つもして来い"というゼーラの命令だろう。

これ以上、命令違反をしたら特務隊もそろそろ解散させられる可能性も高いから…(もう手遅れかもしれないが…)。

 

「…わ、わかりました。捜索のついでに情報収集もしてきます」

 

ゼーラが苦手なのか、なのはがぎこちなく答える。

 

「あくまでも"勝手に"、だぞ?」

 

「そんな念を押されなくても勝手にしますって」

 

ゼーラの一言にシャーリーが軽い感じで受け答えした後、2人もブリッジから転移室へと向かった。

 

「…………アザゼル。俺だ」

 

なのは達も去った後、ゼーラはアザゼルへと通信を送っていた。

 

 

 

そして、転移室では…

 

「で、一体何処に転移しようっての?」

 

先に来ていた朝陽が軌道上から読み取った地表の地形データを見ながらフェイト達に尋ねる。

 

「ちょっと待ってください」

 

シアが一歩前に出て地形データに手を翳す。

 

「…………」

 

それから眼を閉じて手に意識を集中させること数十秒…。

 

「ここです。きっと、ここに忍さんがいます」

 

シアが指示したのは東北の大陸、その南西部に位置するイーサ王国の対フィロス帝国前線基地であり、忍が取り戻したあの砦に近しい場所であった。

 

「私はこっちでバックアップしてるから、皆気をつけてね」

 

シャーリーが転移位置の座標を装置に入力しながらフェイト達を見送る。

 

「じゃ、さっさと行くわよ」

 

一足に転移装置の上に立つ朝陽と、それに続くようにフェイト、シア、なのはの順に装置に登る。

 

「いいよ、シャーリー」

 

「お願いします」

 

「はいはい、ほんじゃま転移開始っと」

 

フェイトとシアの言葉を合図に転移装置の魔法陣が起動し、4人をフィライトの地へと転移していった。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国南西部~

 

再びイーサ王国の前線基地の拠点として機能している砦では…

 

「ほい、アンタにはこれをやるよ」

 

司令室でシルファーが忍に一冊の本を手渡していた。

 

「これは…?」

 

忍がペラペラとページをめくってみるが、全く読めない。

 

「古代に伝わってた体術を記したっていう古文書らしいけど…あたしら以外に魔力を持った人間もいなかったしね…」

 

なんだか忘れてた記憶を思い出すような口調で言う。

 

「つまり、この世界の人間にとっては無用の長物だと?」

 

そんな忍に疑問に…

 

「まぁ、そうなるさね」

 

シルファーも頷いた。

 

「しかし、とても読めるようなものではないが?」

 

ざっと見た忍はそんな素直な感想を抱いた。

 

「あぁ。実際、翻訳しようにもこの世界の文字じゃないっぽいんだよね。だからこの世界の古い文字で解読しようにも無理でね」

 

しかもシルファーは臆面もなくそう言い放つ。

 

「おい…じゃあ、なんでそんなことを知ってるんだ?」

 

シルファーの言葉に忍は不安を覚えてそう聞かずにはいられなかった。

 

「あん? そんなのその本に絵が描いてあるからそれを元に昔の学者共が推測したんだろ。それが今に伝わったってだけだろうさ」

 

我存ぜぬと言いたいばかりにシルファーはそう答えた。

というか、なんてアバウト且つ適当な答えだろうか…。

 

「そんなものを俺に渡すな!」

 

いっそ投げ捨ててやろうかとも思う忍だった。

 

「おいおい、そいつは一応王都の宮殿から取り寄せた大事な資料なんだからぞんざいに扱うなよ」

 

「ぐぬ…」

 

それを聞いて投げ捨てるのを止めた。

 

「とにかく、アンタに預けるから好きに活用しな。ま、活用できればの話だけどね」

 

なんとも言えない言葉を聞いた後のことだった。

 

「へ、陛下!」

 

1人の兵士が司令室に駆け込んできた。

 

「何事だい!」

 

「侵入者です!」

 

その報告にシルファーも忍も警戒を高める。

 

「なんだって!? 数は!」

 

「4人です! しかも女性だけの編成でして…」

 

「ったく、一体何処のもんだい? 侵入経路は?」

 

シルファーが兵に尋ねると…

 

「それが、不明でして…」

 

「不明? どういうこったい?」

 

「それが…侵入者を発見した兵の言葉を借りれば…突然、現れたとしか…」

 

突然現れたという単語に引っ掛かりを覚えるシルファーと忍だったが、忍が匂いによる索敵を行うと…

 

「(この匂いは…まさか…!)」

 

覚えのある匂いを感じた忍は司令室から飛び出すように出ていく。

 

「あ、おい! しの……」

 

あまりの速さにシルファーの声は忍には届かなかった。

 

「あいつの速度は尋常じゃないねぇ…」

 

忍の速度にしばし唖然とするシルファーだった。

 

 

 

一方、砦内の訓練場では…

 

「ったく、来て早々になんだっていうのよ」

 

そう言う朝陽が既にデバイスを展開して臨戦態勢に移行していた。

要は場所が場所だけに朝陽達は武装した兵達に囲まれてしまっているのだ。

 

「あの、出来るだけ穏便に…」

 

「刺激するような真似は避けた方がいいんじゃないかな?」

 

「戦時中だったんでしょうか? かなり空気がピリピリしているような…」

 

フェイトとなのはが朝陽を止めようと声を掛ける。

シアはシアで周辺に漂う戦の空気を感じ取っていた。

 

「貴様ら! 一体何者で、何処から来た!」

 

1人の兵士がフェイト達に向かって問い質す。

 

「(ここは管理外世界…下手に情報を開示して混乱させても…)」

 

フェイトがこの状況をどうするか考えていると…

 

「全員、武器を降ろせ!」

 

その場になのは以外の3人にとっては懐かしい声が響いた。

 

「紅神隊長! しかし!」

 

兵士達が道を開けながらその人物に抗議しようとする。

 

「大丈夫、俺の知り合いだ」

 

が、その人物は警戒もせず、フェイト達の前へと出る。

 

「あと、いつから俺は隊長になったんだ? まったく…」

 

困った様に頭を掻きながら改めてフェイト達を見ると…

 

「久し振り、でいいのか? フェイト、シア」

 

そこには右目に傷を負い、瞳が琥珀に変わっている以外は何処も変わっていない『紅神 忍』がいた。

 

「忍君!」

 

「忍さん!」

 

フェイトとシアの2人は忍へと勢いよく抱き着いていた。

 

「おっと…」

 

それを忍はしっかりと受け止めると…

 

「朝陽も来てたのか」

 

朝陽の方に視線を向けた。

 

「アンタに文句も言えてなかったからね。それを言いに来ただけよ」

 

そう言って朝陽はふんっ、とそっぽを向く。

 

「う~ん…なんだか違和感が…」

 

知り合いに異性同名の人がいるだけになのははちょっとした違和感に襲われていた。

 

「彼女は?」

 

見知らぬ人物の存在に首を傾げながら忍はフェイトとシアに尋ねる。

 

「あ、私の親友の1人で、高町 なのはって言うの。なのは、彼は…」

 

「(親友、か…そういえば、あいつは元気かな?)」

 

フェイトの"親友"という言葉に忍は古い記憶を呼び起こしていた。

 

「忍さん?」

 

「あぁ、すまない」

 

シアに声を掛けられて意識を現実に戻す。

 

「初めまして、紅神 忍です」

 

「あ、こちらこそ初めまして、高町 なのはです」

 

初対面同士、自己紹介をしていると…

 

「あの、紅神隊長? 私達はどうしたら?」

 

「訓練に戻ってろよ。あと、そのまま走り込んどけ!」

 

「はっ!」

 

その受け答えを最後に兵士達は武装を装備したまま走り込みを始めてしまった。

 

「はぁ…で、なんだってお前達がこの世界に?」

 

忍はフェイト達にこの世界に来た理由を…

 

「忍君こそ…その、右目は…?」

 

「それにこの世界で何をしているんですか?」

 

「つか、なんなのよ?」

 

フェイト達は忍にこの世界の事をそれぞれほぼ同時に聞いていた。

 

「……とにかく、この国の女王様の所に案内するか…」

 

結論、シルファーの元へと連れて行くことになったのだった。

 

………

……

 

あの後、忍はフェイト達をシルファーの元へと案内し、この世界の情勢と忍がこの世界にやって来た経緯を説明した。

フェイト達はフェイト達で管理局や多次元世界の話、さらには悪魔や天使などの存在の情報も説明していた。

あと、忍とアクエリアスの憶測も話題の一つとして挙がっている。

 

「多次元世界ってのも色々あるんだねぇ…」

 

話が終わった後、シルファーは盛大な溜め息と共にそんなことを言う。

 

「しかし、気になるわね。このデバイス技術を帝国だかに渡した存在ってのが」

 

朝陽は忍が回収したデバイス…シュトームを見てそう呟く。

 

「私は悪魔とか天使が本当にいたことに驚いてるんですけど…」

 

なのははフェイトや朝陽が悪魔や天使について認識し、尚且つそれを話題にしても全然驚いていないことの方がビックリらしい。

 

「人間社会ではあまり正体を露見することがありません。むしろ、それを隠して生きてる方が多いんですよ?」

 

「俺やシアもその1人だしな」

 

シアと忍もなのは達と何ら変わらない人間の姿をしていてもその性質はかなり異なっているので、そう答える。

 

「事実は小説よりも奇なり、って意味が良くわかった気がするよ…」

 

その答えを聞き、なのははなんだか脱力している。

 

「それにしても、大気中の魔力を人為的に凝固・加工させ、それを扱える技術があるなんて驚きです」

 

フェイトは純粋にフィライトに伝わる魔力石による魔法文化に興味を抱いているようだった。

 

「ま、大昔に確立された技術だからね。私らはそれを使い、発展させて今を生きてる訳だし…」

 

「それでもその技術も今じゃ…」

 

先程聞いた帝国の話を思い出し、フェイトは悲しそうな表情をする。

 

「戦争に使われている。しかも多次元世界の認識のないこの世界でデバイスへの転用にも使われている」

 

その先は忍が引き継ぐようにして言う。

 

「厄介さね…」

 

「あぁ…敵の全貌が全く見えん…」

 

帝国を裏で強化しているだろうモノの存在は推測出来るが、その意図までは全く読めないでいた。

 

「「…………」」

 

忍の真剣に考える横顔にフェイトとシアは揃って見惚れていた。

 

「へぇ…」

 

朝陽もまた忍の表情に少し意外な反応を示していた。

 

「陛下。悪いが、俺は一度地球に戻ろうかと思う」

 

そこで忍は決意したようにシルファーにそう告げていた。

 

「おいおい、これから反攻だってのに、アンタが欠けちゃ…」

 

「すまないとは思っている。だが、俺にも俺の事情があるんだ」

 

忍の眼は本気であった。

 

「まぁ、それを言われちまうと…この世界のことにこれ以上、アンタを巻き込むわけにもいかないけどね…」

 

困った様にシルファーはそう答えた。

 

「エルメスには…陛下から伝えてくれ。その方が…きっと、ダメージが少なくて済む」

 

この場にいないエルメスへの説明をシルファーに任せようとした忍だったが…

 

「そいつは…ちっと無理かもね…」

 

「………そうだな」

 

シルファーと忍の視線が部屋の扉へと注がれる。

 

「っ…」

 

タッタッタッ、と走り去るような音が聞こえてきた。

 

「いつからだと思う?」

 

走り去った足音を聞きながらシルファーが忍に尋ねる。

 

「そうだな…多分、最初からじゃないか?」

 

「だろうね~」

 

忍の答えにシルファーはあっけらかんと頷く。

その会話でフェイト達も誰かが聞いていたと悟ってしまう。

 

「あの、だったら早く追わないと…」

 

「平気でしょ。そこの2人のどっちかが何とかするだろうし…」

 

フェイトが先程の話を聞いてたであろう人物の心配をしていると、朝陽が忍とシルファーを見てそう言う。

 

「だってさ」

 

シルファーは完全に忍に丸投げにする気だった。

 

「ったく、アンタの娘だろうに」

 

「娘だからさ」

 

「ちっ…」

 

仕方ないと言いたげに忍は部屋から出ていこうとする。

 

「あ、忍君」

 

「ほっときなさいよ」

 

忍を追おうとするフェイトに朝陽がそう言う。

 

「それで、シルファー陛下?」

 

なのはシルファーに話し掛けると…

 

「別にさん付けで構わないよ。あたしもそっちの方が気楽さね」

 

シルファーは笑いながらそう言う。

 

「じゃあ、シルファーさん」

 

「なんだい?」

 

「シルファーさんは…その、フィロス帝国の事をどう考えているんですか?」

 

真面目な表情でなのはがシルファーに聞くと、フェイトや朝陽もそちらに意識を向ける。

 

「そうさね。帝国の世界制覇ってのは今のゼノライヤの代になってから始まったことだからね。けど、ここ最近になって急激に軍備が増強してるのが気掛かりでね…。あたしはともかく、民に対してはいい迷惑だ。それを止めたいってのが正直な本心さ。だからこそ、対帝国を掲げたものの…ご覧の通り劣勢でね。戦後の復興も考えないとなんだろうけど…今は勝つ見通しも無いからね…」

 

「そうですか…」

 

「兵に無理させてるのはあたしもわかってんだけどね。如何せん戦力差があり過ぎて話になりゃしなかったね。それでもあたしについてきてくれる兵のことも考えると…引くに引けないのさ。あたしはあいつからこの国を託されてるからね」

 

シルファーはそういうと窓の方に移動して外の様子を見る。

 

「出来れば、忍にはエルメスの伴侶になってほしかったんだけどねぇ~…」

 

「「ダメです!!」」

 

シルファーの言葉にフェイトとシアが同時に声を上げると共に…

 

「ふざけんな!!」

 

何故か朝陽まで怒鳴っていた。

 

「え…?」

 

「な、流星さん?」

 

思いもよらない声にフェイトとシアが朝陽を見る。

 

「なっ!? い、今のは違うから! 別にそういうアレじゃないし!」

 

剥きになる辺り、少し怪しい気もするが…。

 

「やれやれ…素直じゃない娘もいるんだね。あいつも気苦労が絶えなさそうだ」

 

そう言ってシルファーは外にいる忍とエルメスを見ていた。

 

「やっぱり、惜しいねぇ~」

 

そんなことを心底思いながら苦笑していた。

 

 

 

エルメスを追って部屋から出た忍は…

 

「エルメス!」

 

忍の速度を振り切れるはずもなく、エルメスは簡単は捕まった。

 

「な、なんでしょうか?」

 

そう言って忍に背を向けるエルメスの声は…心なしか少し悲しみを含んでいるように聞こえた。

 

「さっきの話を聞いていたろ? 俺は一度地球に…」

 

「聞きたくありません!」

 

忍が話そうとするも、エルメスは耳に手を当ててそれ以上は聞きたくないというポーズを取る。

 

「忍様がいなくなるような話など…聞きたくないです!」

 

どうやらエルメスの中で忍という存在は確固たるモノに昇華しつつあるうようだった。

 

「人の話は最後まで聞け。俺は何もこの世界に二度と戻らないとは言っていない」

 

忍は困った様にそう言っていた。

 

「え…?」

 

忍の言葉にエルメスはキョトンとしてしまう。

 

「地球に戻るのは…俺の大切な人や友人達に会って俺の無事を知らせるためと、調べ物をしたいからだ。それにこのまま見過ごす訳にもいかないだろう。正直、戦争に加担する気はないが…帝国の背後にいるだろう奴、もしくは奴らを野放しにする気はないからな」

 

そう言って忍はエルメスの手を取る。

 

「ぁ…///」

 

「それに、命の恩人を見捨てるような薄情者になりたくないしな」

 

「忍様…」

 

その言葉を聞き、エルメスの眼に溜まっていた涙がツーッと頬を伝って落ちる。

 

「泣くなよ。これが今生の別れって訳じゃないんだからな」

 

そう言って忍はエルメスの涙を指で軽く払う。

 

「はい…!」

 

これで問題ない…はずだった。

 

「(あれ…? でも、いま大切な人って…)」

 

忍の言葉の中にあった『大切な人』というワードに気づき…

 

「……………」

 

また、どんよりとした表情になりつつあった。

 

「あ、あれ?」

 

その様子に忍も困った表情になる。

 

忍の失言によってエルメスはまたも悲しい表情になるのだった。

 

その後、エルメスをシルファーに任せ、忍はフェイト達と共にヴェル・セイバレスへと転移した。

そこで忍はフェイトの補佐であるシャーリーと軽い自己紹介を交わし、ゼーラとも顔を合わせていた。

そして、ヴェル・セイバレスは進路を地球へと向けたのだった。

 

………

……

 

~地球・明幸邸~

 

「しぃ君!!」

 

地球へと帰還した早々、忍は智鶴に思いっ切り抱き着かれていた。

 

「ただいま、智鶴。ちょっとやつれたか?」

 

智鶴の抱き着きに対して慌てることもなく、しっかりと受け止めながらそんなことを聞いていた。

 

それを見た眷属達は…

 

「なんか、雰囲気違くない?」

 

「前よりも大人びいたかしら?」

 

「つか、その右目はどうしたんだよ!?」

 

「こ、琥珀、色…?」

 

「というよりも彼女がやつれた原因は坊やにあるのにね…」

 

約一名を除いて忍の変化に驚いていた。

 

「ま、話せば長くなるんだが…」

 

それから忍は…智鶴に抱き着かれた状態で…先のフロンティア事変時での最後の戦いからフィライトで見聞きしたことを眷属達に話して聞かせた。

 

そして、今後の方針として…

 

「俺は…フィライトへと渡り、あの戦争を止めたいと思う」

 

忍はそう告げていた。

 

「別の次元世界…その争い事に首を突っ込むつもり?」

 

「あぁ」

 

カーネリアの問いに忍は真っ直ぐ答える。

 

「でも…私達には学園での生活もあるのよ?」

 

「第一、戦争を止めたいって簡単に言うけどよ…話を聞く限り、無謀過ぎんだろ?」

 

忍の言葉に智鶴とクリスが待ったをかける。

 

「それに…戦争ってことは私達にも人間を殺せってことを覚悟させるつもりなの?」

 

「人外同士との戦闘で死力を尽くすのは別にいいけど…人間相手ってなると話は別よ」

 

2人に続き、暗七も吹雪も否定的な意見をする。

 

「それでも…既に俺の手は血で汚れてる」

 

ドーナシークから始まり、シャドウ、邪狼、フィロス帝国の敵将、親衛隊員などと忍はこれまでの戦いの中でその命を絶ってきた。

 

「人外も人間も命あるモノには違いない。それでも俺は目の前で救える命を守るためにそうしてきた。だから、後悔だけはしないようにしたいんだ」

 

「しぃ君…」

 

忍の言葉に…

 

「わ、私は…し、忍、さんに…さ、賛成、です…」

 

この中では最も戦いに否定的なはずの萌莉が忍の意見に賛成する。

 

「萌莉?!」

 

「マジかよ!?」

 

「これは意外ね」

 

萌莉の賛同に眷属の大半が驚いていた。

 

「……………」

 

もちろん、忍も少なからず驚いていた。

 

「わ、私は…た、戦いが…い、嫌、です……け、けど…忍さんが…ほ、本気、だっていうのは…よ、よく…わかり、ます、から…」

 

視線が集中しているためか、気恥ずかしくなってもじもじとそう言う。

 

「そうですね。忍さんが抱えているモノは少しでも私達も一緒に背負っていかないですからね」

 

萌莉に続き、シアもまた賛同する意思表示をしていた。

 

「……そう、ね。だって…私達は、しぃ君が大好きだもんね」

 

そう言って女王たる智鶴も否定派から賛同派へと意思を変更した。

 

「はぁ!? 誰が誰を好きだって!?」

 

「大好きとかじゃないし!?」

 

智鶴の『忍が大好き』という言葉に盛大な反発を見せるクリスと吹雪…

 

「ちょっと、私を巻き込まないでくれる?」

 

暗七もその辺りはまだわからないようであった。

 

「私は…ノーコメントね」

 

カーネリアに関しては好きとも嫌いとも言っていない。

 

「わ、わわわ、私は…その…えっと…////」

 

「ち、智鶴さん…そんな恥ずかしいことを…////」

 

「なんだか、顔が熱い…////」

 

萌莉、シア、フェイトの3人は特に否定はしなかった。

 

「俺が一番気恥ずかしいんだがな…」

 

やれやれと言った風に肩を竦めた忍は改めて皆の顔を見回すと…

 

「あと、もう1人の騎士候補を見つけた。相手がどう思ってるかはわからないが、俺は"彼女"をスカウトしたいと思う」

 

その言葉に…

 

「「また女か!!」」

 

そう叫んでクリスはイチイバルのガトリングガン(BILLION MAIDEN)を、吹雪は氷の爪を忍の顔に突き付けていた。

 

その後、忍もまた学園に復帰し、イッセー達と無事に再会することになったのだった。

右目には簡易的な魔法で傷を隠し、カラコンを使って紫色に見せていた。

もちろん、琥珀色になった右目のことはオカ研や一部の関係者に伝えている。

 

こうして忍は学園生活というひと時の休息を得ることになるのだが…。

その間にも忍は己がやるべきことを考えていた。

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