~地球・明幸邸~
忍が復帰して最初の休日のこと。
忍は智鶴に心配をかけた罰として彼女を一日デートに連れて行くことになっていた。
また、別の休日には他の眷属ともデートすることになっていたりする。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってきます♪」
私服姿の忍と智鶴が揃って玄関を出ようとする。
智鶴は嬉しそうに忍の腕に自分の腕をからませてピッタリとくっついている。
「「「いってらっしゃいませ! 坊ちゃん! お嬢!」」」
しかし、ただのデートの見送りに組員が揃って挨拶ってどうなのさ?
「行ったわね」
「行ったな」
忍と智鶴が出かけて数分後、吹雪とクリスが私服の上にいつの時代かと思えるトレンチコートを羽織った出で立ちで玄関前に立っていた。
ご丁寧にハットにグラサンも着用している。
「あの…やっぱりやめませんか?///」
そこに似たような出で立ちで恥ずかしそうにしているシアが玄関の中に隠れるようにして吹雪とクリスに言う。
「(コクコク…)////」
同じ格好をさせられた萌莉もまたシアに同意するようにして顔を真っ赤にして頷いていた。
「何言ってんだ! あいつらがどういうデートするか気にならねぇのかよ!」
「さっさと行くわよ。これじゃあ、見失っちゃうじゃない!」
そう言ってクリスはシア、吹雪は萌莉の手をそれぞれ引っ張って玄関から出るのだった。
「バカらしい…」
「よっぽど暇なのねぇ~」
暗七とカーネリアに関しては私服のままトレンチコートを羽織った4人の背を見送っていた。
ただ、どちらも黒を基調に地味というか暗めの色の服を着る傾向にあるので、他の4人ほど目立った服装とは言えない。
「そういえば、あの金髪ちゃんは?」
カーネリアはフェイトの姿が見えないことに首を傾げていた。
「フェイトなら忍に頼まれて何処かに行ったわよ。何か調べ物がどうとかって…」
暗七は忍から聞いていたことをカーネリアに伝える。
「そう。で、あなたはいかないの?」
「はっ、冗談。尾行するくらいなら服でも買いに行くわよ」
カーネリアの言葉にそう返す暗七だった。
「行く気は満々なのねぇ~」
「……うるさい」
自分の失言に気づき、暗七はそっぽを向いて自分の部屋へと戻る。
「ふふ…」
その様子にカーネリアは自然と笑みを零していた。
だが、その瞳には少々退屈の色が滲んでいた。
そして、デートするのは何も忍だけではなかった。
「(朱乃さん、めっちゃ可愛いんですけど…!!)」
イッセーと朱乃がデートをしてました。
朱乃は普段とは打って変わって今どきの女の子風…というイッセーと比べて同い年か年下に見えるくらいの服装と雰囲気を醸し出していた。
但し、その背後にはリアスを始めとしたグレモリー眷属が各々(木場を除く)変装して尾行していた。
何処も似たようなもんだな…。
「(可愛いけど…背中に刺さる視線が痛い…!)」
こうして2人でショッピングを楽しんでいると…
「あら?」
「え?」
「ん?」
「まぁ…」
イッセーと朱乃ペア、忍と智鶴ペア、遭遇。
それに伴い…
「「「「えっ…」」」」
「「「「あ…」」」」
「これはまた大所帯な…」
両ペアを尾行してた集団も団体遭遇した。
で、結局は…
「いやはや…まさか、ダブルデート風になるとは…」
「いや、こっちも驚いたわ。忍と明幸先輩もデートしてたんだな」
朱乃と智鶴が服選びをしてる間、男同士の会話をしてる訳でして…
「で、お前は気づいてんのか?」
「もちろん。ただ、ああなると不自然さ全開になるけども…」
チラッと近くのティーラウンジの方を見ると、そこには変装集団がティーラウンジの一角を陣取り、唯一変装していない木場が忍やイッセーに向かって苦笑しながら平謝りしていた。
「確かにな…」
「木場君には悪いことしたかな…?」
「てか、そっちは全員同じ格好なんだな…」
「そっちもギリギリ危ないと思うけどね」
互いに苦笑していると…
「イッセー♪」
「はい?」
朱乃がイッセーの手を取ると…
「リアス達を撒いちゃいましょっか♪」
「えぇ!?」
そのまま驚くイッセーを引っ張って何処かへ走り出してしまった。
それを追って変装集団の片割れが急いで追おうとしていた。
「あらあら、朱乃ちゃんったら…」
ニコニコした笑顔で智鶴は忍の隣に戻ってくる。
「(大丈夫かな? この先って確か…)」
この先にある町の区画の匂いを感じ取り、忍は少し不安になっていた。
「(それに……なんか、物凄く濃い力の匂いを複数感じるんだが…)」
結果、忍の予感は的中していた。
その後、リアス達を撒いたイッセーと朱乃は…まぁ、大人の休憩所地帯に入ってしまったわけで…。
そこではなんと、北欧の主神『オーディン』、そのお付きの
………
……
…
~時空管理局・無限書庫~
その頃、フェイトはというと時空管理局の次元航空部隊の本部にある一施設『無限書庫』へとやってきていた。
「ユーノ、また調べ物をお願いしても構わないかな?」
無限書庫の司書長であるユーノにフェイトが尋ねると…
「いいけど、今度はなんだい?」
「うん。この本の文字なんだけど、調べられるかな?」
そう言って渡したのは以前シルファーが忍に渡した古文書であった。
「また随分と古そうな本だね。それに中身も結構古そうだ…調べるのはちょっと一苦労しそうだよ?」
数ページだけ見てユーノもちょっと困った表情をしていた。
「それでもいいよ。あと、可能なら翻訳した文字をデータにしてほしいんだけど…」
「う~ん…調べるのに時間が掛かるくらいだから、何とかしてみるよ」
「ありがとう、ユーノ」
果たして、古文書の中身とは…シルファーの言う通り体術に関するものなのか?
「しかし、こんな年代物。どこで手に入れたの?」
「ちょっと知り合いに頼まれて…」
「あぁ、なのはも言ってた彼氏さん?」
どうやらこの情報は身内中に広まっているのかもしれない。
「ち、ちが…!?////」
慌てて否定しようとするが…
「ははっ。じゃあ、僕は作業に入るよ」
そう言って魔法陣を展開して古い資料から漁り始めるのだった。
「(逃げられた!?)」
文句を言う前に作業に入られてしまい、フェイトは何も言えなかった。
………
……
…
~地球・兵藤家~
オーディンとの遭遇により、デートは中断。
その場に居合わせてしまった紅神眷属も兵藤家に召集されてしまった。
但し、グレモリー眷属と違って紅神眷属は全員揃ってはいない。
「いやはや、デカいのが揃っておるのぉ~」
最上階のVIPルームへと案内されたオーディンの視線は女性陣の胸(特に大きい人)へと向けられていた。
「先生。とりあえず、噛み砕いていいですか?」
VIPルームで合流してきたアザゼルに忍はそう尋ねる。
「北欧の主神相手によく言ったな。相手は神だぞ?」
アザゼルは面白半分で煽ると…
「神だろうとなんだろうと、自分の最愛の人達をそんな眼で見られたら誰でも殺意を覚えます。少なくとも俺は…」
「(いや、俺も腹は立つんだけど…そこまではちょっと…)」
忍がそう答えるのを聞いて、イッセーは心の中で少し複雑な心境だった。
「ほっほっほっ、なかなか言いよるわい。小僧、名はなんという?」
オーディンは笑いながら忍の名を聞く。
「紅神 忍。真なる狼を継ぐ者だ」
「真なる狼?(はて、どこかで聞いたような…)」
忍の言葉を聞き、少しだけ眉を顰めるオーディンだった。
「あぁ、伯父はそう言っていた。ま、俺も意味まではよくわかってないが…」
「そうかの…(ま、思い出したらその時にでも話せばええか…)」
そう言った後、オーディンはアザゼルの案内で夜の街へと繰り出すのだった。
お目付け役としてロスヴァイセも同行したようだが…。
「あんなのが主神と総督とは…」
オーディンたちが退室した後、ぼそりと忍がそう漏らす。
「忍…お前、雰囲気変わったよな…」
「自分でも驚く程にな。それだけイベント目白押しだったのさ」
2年生になってからの自分に降りかかった状況を思い出す。
「イッセー君も気をつけた方がいいよ。ただでさえ龍は力の化身で色々と惹き付けるんだから…」
「あ~…そうかもな。けど、俺は俺だからな…」
忍の言葉にイッセーはそう答える。
「……イッセー君はそのままの方がいいかもね」
「それには同感かな」
そんなイッセーの反応を見て忍と木場が苦笑混じりにそう言っていた。
「じゃあ、リアスちゃん。私達はこれで…」
智鶴がリアスへと挨拶をしていると…
「えぇ。あ、智鶴。今度、お兄様が紅神君に用事があるそうなのよ」
何かを思い出すようにリアスがそう言う。
「? そうなの?」
「えぇ、詳しい内容は私も分からないのだけれども…出来れば眷属も揃ってくるようにって…」
そんな会話を最後に、紅神眷属は兵藤家を後にするのだった。
その後、兵藤家では朱乃とバラキエルの間で不穏な空気が流れてしまったらしい。
親子の間に何が起きたのか…?
また、その日の夜に紅神眷属はグレモリー眷属と共に日本滞在中のオーディンの護衛に入るようにアザゼルから要請があり、忍はそれを承諾していた。
………
……
…
翌日。
グレモリー眷属はとあるイベントの主役として冥界へと赴いていた。
そのイベントとはグレモリー家主催の握手会とサイン会であった。
イッセーをモデルとした『乳龍帝おっぱいドラゴン』のイベントである。
そのついでとして忍を含めた紅神眷属も魔王領へと出向いていた。
「随分と近代的な様相だな…」
魔王領にある冥界(悪魔側)の首都『リリス』。
そこに忍達は招待されていた。
今は迎えのリムジンの中で外の様子をみんなして眺めていた。
「空の色や海が無いってことを除けば人間社会に近いのかしらね」
忍の感想に智鶴も頷いていた。
「これが…悪魔の社会」
「ま、私達とは発展の仕方が違うわよね」
冥族のシアが周囲に圧倒されるのを見て、堕天使のカーネリアもそう呟く。
「普通に地獄め巡りしてるけど…あたしら、大丈夫だよな?」
「た、多分…」
人間であるクリスや萌莉は別に心配をしていた。
「しかし、魔王が悪魔でもない俺に一体何の用なんだか…」
「前の眷属の駒みたいなことかな?」
「それにしたって俺だけを呼べばいいだろうに…」
前回は若手の集まりに際して忍1人で呼び出され、アジュカ・ベルゼブブから眷属の駒を受け取っていた。
しかし、今回は眷属も呼ばれたのには何か理由があるのだろうか?
「(妙に嫌な予感しかないが…)」
忍は不安な気持ちを抱いていた。
そうして、忍達は一際大きな高層ビルの最上階へと案内されていた。
「ここにサーゼクスさんがいるのか…?」
最上階の部屋に入りながら周囲の匂いを探っていると…
「やぁ、久しいね。狼君」
部屋の中央のテーブルの席に座るアジュカの姿があった。
「アジュカ・ベルゼブブ…!?」
「ん~、その"また、アンタか!?"という表情はなかなか新鮮だね」
忍の反応を面白がるアジュカだった。
「アジュカ。お客人に対してそれは失礼だろ?」
その向かい側の席にはサーゼクスの姿もあった。
「いいじゃないか。知らない仲でもない訳だしな」
「親しき仲にも礼儀あり、だったかな? 日本の諺にも奥深いものがあるんだぞ?」
親しいも何も忍とアジュカは一回しか会ったことが無いんだが…。
「………で、俺を…俺達を呼び出したのはどういったもので?」
ツッコミを入れようかと一瞬迷ったものの、忍はスルーを選んで2人に用件を聞いていた。
「眷族の駒の調子を見たくてね」
それに答えたのはアジュカだった。
「眷族をそれなりに増やしてるようで何よりだ。それに眷属側の駒の様子も見たくてね」
眷族の駒を受け取ってから数か月が経ってる。
創造者からしたら自らが開発したモノの途中経過を気にするのはおかしくはない。
「まぁ…それは俺も気にしてないって訳じゃないからいいんだが…」
忍がそう答えると…
「では、早速」
答えた瞬間にアジュカは目の前に魔法陣を複数展開し、さらに人一人が潜れそうな魔法陣を忍の足元に展開すると、それを上昇させて忍の体内にある駒のデータをスキャンし始める。
「…………」
同じように紅神眷属の全員の駒をスキャンしていくと、それぞれのデータがアジュカの手前に展開されていた魔法陣に表示されていく。
「ふむふむ…ほぉ、これは興味深い」
アジュカは興味深そうにデータを見詰める。
「それで、問題はあったのか?」
サーゼクスが尋ねると…
「結論から言えば、問題ない。正常に機能しているよ」
「(何故、結論から言った?)」
アジュカの物言いに忍は何故か不安を覚えていた。
「もっと詳細に語るなら、とても面白い。狼君の王の駒から他の駒へと彼の力が流れている。力と言っても、その特性は駒によって大きく異なっている」
「どういうことだ?」
いまいち状況が分かっていないサーゼクスが忍達に代わってアジュカに尋ねる。
「そうだな。まずはこれを見てくれ」
そう言ってアジュカは魔法陣の一つを拡大して正面へと移す。
そこには上部に忍の名前が表示され、その下に各種ステータスが表示されていた。
『紅神 忍
魔力:SS
気:SSS
霊力:AAA
妖力:SS
能力:真狼、紅蓮冥王、吸血鬼
戦闘スタイル:刀術、氷結系統の魔法』
駒を受け取ってから今までの経験を経て得た能力や技能、五気保有量が表示されていた。
「こんなことまで記録出来るのか!?」
忍が駒の情報量に驚いていると…
「ていうか、忍君の魔力保有量が凄い!?」
「元々、それだけの潜在能力があったのかしら?」
「いずれはEXクラスに届くかもしれないってことですか?」
フェイト、暗七、シアの順に五気保有量に対しての驚きがあった。
「? どういうこと?」
「あたしに聞くなよ…」
「さ、さぁ…?」
こういうことに疎い智鶴、クリス、萌莉は頭に?を浮かべていた。
「これは邪狼とかいう者の力を外的要因によって手にしたからかもしれないのが駒の情報からわかる。まぁ、いずれは自力でこの数値に辿り着いたかもしれないが…いやはや、実に興味深い」
アジュカは満足そうに頷いている。
「それで…彼の力が彼女達に流れているというのは?」
サーゼクスもまた忍の潜在能力に驚いているものの、アジュカに更なる説明を求めた。
「今度はこれを見てくれ」
そう言ってアジュカは忍のデータの表示された魔法陣の隣に別の魔法陣を展開した。
『明幸 智鶴
"魔力:A-"
気:S+
戦闘スタイル:合気道、エクセンシェダーデバイス(ディメンション・スコルピア)による空間系統魔法とオールレンジ対応の戦闘法』
リンカーコアを持たないはずの智鶴のステータスの中に魔力の項目があった。
「えっ!?」
「うそ…」
フェイトと暗七がかなり驚いていた。
「さらにこの兵士の場合は…」
そう言ってさらに智鶴の横にクリスのデータが表示される。
『雪音 クリス
気:C
"霊力:AA"
戦闘スタイル:聖遺物(イチイバル)による広域殲滅型の射撃戦』
「霊力?」
「てか、運動神経無さ過ぎ。よく戦闘出来てるわね」
クリスが自分の知らない項目に首を傾げていると、暗七がクリスのステータスを見て素朴な疑問を口にした。
「戦いと運動は全然違うだろ!」
「え~…」
クリスの反論に暗七も呆れていた。
こうして各自のステータスを見てみると、紅神眷属のほとんどは忍の影響を受けて何かしらの能力が強化されていた。
「このように彼女達は狼君の影響を駒を通して受けていて実に興味深い。今後、どうなるか赤龍帝の成長と同じくらい楽しみだよ。あと、残りの眷属もどういった顔ぶれになるのか…」
と、そこで…
「そうだ。狼君にはさらにサプライズを用意していたんだ」
何かを思い出したようにアジュカはパンと手を合わせる。
「あぁ、それは私から言おう。むしろ、本題はそちらだったんだがな」
サーゼクスも呆れたようにそう付け足す。
「サプライズ?」
サプライズという言葉に忍は眉を顰める。
「そう身構えなくてもいい。これまでの君の実績や経験を踏まえ、我々は君を各次元の橋渡しとして辺境伯に任命したい」
「言うなれば『次元辺境伯』ってやつだ。なに、上級悪魔のお偉いさんは俺達で説得したよ。本来なら悪魔でもない狼君を辺境伯にするのは色々と問題なんだが…冥族との橋渡しを条件に承諾させたよ」
サーゼクスに続いてアジュカもそう伝える。
「よく承諾されたな…」
忍は引き攣った顔で2人を見る。
「同じく冥界に住む同胞として冥族との和平もこれからの大きな課題だからね」
「元々は旧魔王派がしでかしたことなんだがな。それを狼君に押し付けるのも都合の良い話だよ…」
「それに外交はセラフォルーの担当なんだが、冥族との接点は忍君の方が良いだろうという彼女の判断もあるんだよ」
サーゼクスとアジュカが忍にそう説明していると…
「一応、聞いときたいんだけど…俺にメリットと拒否権はあるのか?」
聞けば聞くほど、完全に押し付けられそうな気がしてならない忍であった。
「もちろん、私達も君に無理強いさせるつもりはない。この話はあくまでも君の了承を得て初めて成立する話だからね」
「メリットだが…そうだな。これからは三大勢力が全面的にバックアップに入ること、君に爵位が発生して領地を得られること、君と君の眷属が今行われている若手レーティングゲームへの参戦などが挙げられるぞ?」
サーゼクスは拒否権の有無を、アジュカはメリットをそれぞれ伝える。
「(その代わり、俺に冥族との和平を結ばせ、禍の団との戦闘にも積極的に参加してほしいと…そういうことか?)」
忍は1人難しい表情で考え込んでいる。
「返事は今すぐにとは言わないよ。この話は皆でゆっくりと吟味してから答えを聞かせてほしい」
「ま、そういうのも含めて眷属の皆さんにも同席してもらったわけだけどね」
そう言って紅神眷属の顔を見渡す。
「……わかりました。熟考させてもらいます…」
その言葉を最後にサーゼクスとアジュカは自分達の仕事へと戻り、忍達も冥界から地球へと帰還をするのであった。
………
……
…
その数日後の夜。
忍は単独でグレモリー眷属に同行してオーディンの護衛に付き合っていた。
これにはちゃんとした理由があり、今も明幸邸で議論を交わしている眷属達の意見を如何に纏めるか、1人になって考えたいからである。
先日の次元辺境伯就任に関して紅神眷属の意見は半分に分かれていた。
智鶴、カーネリア、暗七、吹雪の反対派とシア、フェイト、萌莉、クリスの賛成派となっている。
反対派の意見は忍への負担である。
元は一般人として生活してきた忍にいきなりそんな大層な称号は荷が重過ぎる。
さらに冥族との和平とは言っても、悪魔からしたら身内の不始末を他人に任せるということであり、極道的にも許されたことではない。
よって、この話は断るべきだと…智鶴が強く言い、それに同意したのが意外にもカーネリアを始め、暗七と吹雪であった。
賛成派の意見は出来るだけ穏便に済ませれるならそれに越したことはないというものである。
爵位や領地はともかく、冥族と悪魔が和平を結ぶなら無駄な争いや戦いをせずに済むのではないかと…。
確かに冥族には悪魔への恨みはあるだろうが、中には平和を望む声もあるはずである。
だから、この申し出を受けてもいいんじゃないかと…シアは1人の冥族として珍しく意見を曲げなかった。
それを支持したのがフェイトやクリス、萌莉だった。
それぞれの意見を聞いた上で忍は1人で悩んでいた。
どちらの意見も見方を変えれば正しいのだろう。
その上で忍は決めなければならない。
「はぁ…」
八本足の巨大な軍馬『スレイプニル』が引く馬車の窓際で夜空を眺めている忍は自然と溜め息を吐いていた。
その中にはグレモリー眷属、アザゼル、オーディン、ロスヴァイセが乗っており、その外には空を飛べる木場、ゼノヴィア、イリナ、バラキエルが護衛として飛翔していた。
「若いのに年寄みたいな顔をするでないわい」
「ま、事柄が事柄だけに考え込むのは仕方ないだろうぜ」
事情を知るアザゼルとオーディンは忍にそう言っていた。
「忍。最近、上の空だけど…俺達にも話せないのかよ?」
事情を知らないものの友人として心配してるイッセーが忍に声を掛ける。
「ん? まぁ、時が来たらわかるよ。俺にも色々とあるからな」
苦笑いしながらそう答えた後、再び外を見ていると…
「っ!! 何か来る!!?」
馬車の隙間から漂ってきた空気の匂いを感じ取った忍が叫ぶのと同時に…
『ヒヒィィィィンッ!!』
スレイプニルの鳴き声と共に馬車が急停止する。
「なかなかに良い鼻を持っとるわい」
「そいつはどうも」
オーディンにそう答えると忍は素早くネクサスを起動させてその身の防備を固める。
「ほほぉ、これが異世界の魔法技術か」
それを見てデバイスに少なからず興味を持つオーディンだった。
そして、一行の前方にはオーディンが着用しているモノと似たような黒がメインのローブを身に纏う男性が浮遊していた。
「初めましてだ、諸君! 我が名はロキ! 北欧の悪神である!」
そう名乗りを挙げる男性は…北欧の悪神として有名な『ロキ』であった。
そこでロキはオーディンに対していくつか質問をぶつけ、オーディンはそれに答えた。
ロキの言い分は『
なお、禍の団とは無関係と言い放っていた。
対するオーディンの言い分は異文化交流を進めること。
北欧には頭の固い連中がいて退屈してるような事も言っていた。
それを聞いたロキは…
「なんと愚かな。では、主神殿…ここで黄昏を起こそうではないか!」
大胆にも宣戦布告をしてきた。
その瞬間…
ドガアアアアアッ!!
ゼノヴィアが先手必勝とばかりにデュランダルの一撃をロキに向けて放っていた。
「おいおい…」
「いきなりかよ!」
忍とイッセーがゼノヴィアに視線を向けると…
「いや、流石は神か…」
苦々しい表情をしてロキの方を見ていた。
「良い攻撃だったが…所詮は悪魔が振るう聖剣。神に届くはずもない!」
ロキは無傷であった。
「では、お返しをしようではないか」
そう言ってロキが手を突き出すと、自らの波動を集中させる。
「イッセー君!」
「わかってる!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
『JET!!』
次の瞬間には鎧を纏ったイッセーが背中から龍の翼を広げて馬車から飛び立ち、その後を忍も魔法陣を足場にして追う。
「部長!」
馬車にいるリアスに視線でプロモーションの許可を聞くと、リアスもそれに頷いてイッセーは駒を女王へと昇格させた。
「っと…そういえば、ここには赤龍帝がいたな。それに見知らぬ波動も感じられる。だが…」
ロキがイッセーと忍に視線を向けるが…
「神を相手にどこまで通用するかな!!」
突き出した手に集中させた波動を撃ち出す。
「行くぜ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoost!!!』
正拳突きの要領でイッセーは増加させた魔力を撃ち出す。
「ついでだ、これも受け取れ!」
その背後から忍はブリザード・ファングを撃ち出し、ドラゴンショットの射線上へと収束させていた。
ゴアアアアアアアッ!!!
忍はブリザード・ファング・エクシードの要領でイッセーのドラゴンショットを強化すると同時に凍結効果を与えていた。
「むっ!!?」
それを見たロキはマントを翻して防御の姿勢を取った。
ドガアアアアアアアッ!!!
忍とイッセーの合体魔力とロキの波動が盛大にぶつかり、勢いよく弾け飛ぶ。
キラキラ…!
弾け飛んだ波動は氷の粒子となって周囲に舞い散る。
見れば、ロキのマントから赤い煙が立ち上り、マントの一部が凍結していた。
「やってくれるではないか。特にそこの少年…」
ロキの視線が忍を捉える。
「赤龍帝の攻撃に合わせて自らの魔法を強化するとは…」
「赤龍帝のパワーバカさはよく知ってるんでね」
ロキの言葉を不敵に返す忍。
その間にも、馬車からリアスと朱乃も出てきて臨戦態勢を取る。
「やれやれ…主神よ。ただの護衛にしては物騒ではないか?」
「お前のような阿呆が来たんじゃ。結果的には正解と期待以上じゃったよ」
ロキはオーディンの返答に不敵な笑みを浮かべると…
「ならば、我が愛する息子を呼ぼうではないか!」
そう言ってマントを広げると空間が歪み、そこから灰色の毛並みをした巨大な狼が現れる。
「狼…?」
「また厄介なもんを連れてきおってからに…」
その狼の登場にオーディンも表情を歪ませていた。
「全員、あの狼に手を出すな! 奴は『
『----ッ!!?』
アザゼルの警告にイッセーを除く全員が戦慄していた。
「そんな!」
「マズイわね…」
「アレが…フェンリル…!」
「イッセー! ありゃ最上級クラスの魔獣だ! 神を確実に殺せる牙を持ってやがるから気をつけろ!」
「マジすか!?」
フェンリルの登場に誰もが驚いていると…
「ふふ…北欧の神以外には使いたくなかったが、相手が魔王の妹ならば少しは良い経験になるだろう。やれ!」
ロキがフェンリルにリアスを仕留めるように指示を飛ばした。
『オオオオオオオオオンッ!!』
それに答えるが如く、フェンリルは雄叫びと共に…
ヒュッ!!
一陣の風となってその場から消えた。
しかし…
『JET!!』
一瞬にしてイッセーがフェンリルへと追従すると…
バコンッ!!
ガキンッ!!
互いに一撃を与える形でイッセーとフェンリルは衝突していた。
「イッセー!?」
「イッセー君!?」
その衝突は一瞬であり、イッセーはフェンリルを殴り飛ばし、フェンリルの牙からリアスを身を挺して守っていた。
だが、その代償は大きく、イッセーの腹部に穴が開いていて口から吐血していた。
「赤龍帝…! 一瞬だが、確かに我が子フェンリルに追いついた。恐るべき潜在能力と言ったところか? だが、ここで始末すれば問題ない!」
そう言ってロキがフェンリルに指示を出そうとした時…
「させるかよ!!」
アザゼルとバラキエルが共に光の槍と雷光をロキへと放っていた。
「所詮は堕天使! 神たる我が身には無駄な攻撃よ!」
しかし、その攻撃はロキに大したダメージを与えるには至らなかった。
「なら、これでどうだ!」
忍がファルゼンを起動させると同時に斬艦刀へと変形させてロキへと向かって振るっていた。
「そんな大振りな攻撃、避けやすい!」
ロキはファルゼンの斬撃を軽々と回避する。
「ちっ…!」
すると…
『Half Dimension!』
フェンリルの周りの空間が大きく歪み始める。
そのせいか、フェンリル自身も動きが取れないでいた。
「この攻撃に匂いは…まさか!」
「無事か? 兵藤 一誠」
「ヴァーリ…!?」
そこに現れたのは白龍皇ヴァーリ・ルシファーであった。
「っ! これはこれは…白龍皇まで現れるとは…!」
ヴァーリの登場にロキも驚く。
「初めましてだ、北欧の悪神ロキ殿。俺の名はヴァーリ。貴殿を屠るために来た」
ヴァーリはその戦意をロキへと向ける。
「はっはっはっ! 二天龍が見られただけでも今回は良しとしよう! だが、忘れるな。この国の神々とオーディンが会談する時、再び邪魔をさせてもらう!!」
だが、ロキはそう言い残すとヴァーリの技から軽々と抜け出したフェンリルと共に消え去っていた。
その後、アザゼルやオーディン達がロキについて今後の対策を話した。
そこにはヴァーリチームのメンバーの姿もあり、アーシアと小猫によって回復したイッセーも合流した。
そして、ヴァーリ達の提案により、ヴァーリチームとの共同戦線を取ることになった。
………
……
…
ロキからの襲撃があった翌日から対ロキ戦に向けての対策が練られることとなった。
ロキとフェンリルの対策のため、アザゼル達はロキが創り出し、五大龍王の一角『
その一方で…
「……………」
忍は眷属と共に再び冥界へと訪問していた。
「しぃ君…本当にいいの?」
サーゼクスの元へ向かう忍の背中を見て智鶴はここまで来るまでに何度も確認してきたことを聞いてしまう。
「あぁ…清濁併せ呑むことも時には必要だと…昨日の2人を見て思ったんだ」
赤龍帝と白龍皇の2人が手を組むこととなり、今こうしてる間にも対策は練られている。
「だから俺は…冥族との懸け橋になる。そのためには…俺自身にも冥界での公の力が必要になる。そこが茨の道だろうと…幾多の苦悩が待っていようと…俺は、俺の道を進む」
そう言う忍の瞳には確かな信念が宿っていた。
「何度目の確認だよ…」
「忍って結構な頑固者よね」
忍と智鶴のやり取りを見ていたクリスと暗七が呆れたように呟く。
そして、サーゼクスの執務室で忍は辺境伯への地位を受け取ることを承諾していた。
「そうか。受けてくれるのか」
「あぁ…俺の守りたいもののため、俺達の未来を切り開くために…」
「わかった。では、君の事は今日にでも大々的に発表しよう。きっと冥界も混乱すると思うが、そこは私達に任せてほしい」
「了解した。その分、ちゃんと働かせてもらう」
「ありがとう、忍君」
そのような会話の後、忍は執務室を退室していった。
その日、冥界に住む悪魔達に向けて四大魔王からの発表がなされた。
その内容とは、アジュカ・ベルゼブブが試験的に提供した『眷属の駒』を持つ異種族『紅神 忍』へと辺境伯の爵位を授け、冥族との和平の道を進むことを…。
当然、悪魔達は混乱した。
悪魔でない者が爵位を持つなどとは前代未聞の事態である。
それでも悪魔達は敬愛する魔王達の決定に逆らわず、新たな辺境伯の今後の動きに注目していた。
古き時代からいる上級悪魔達もまた忍の就任に遺憾を感じつつも冥族との和平と魔王から言われてしまえば、強くは言えないのが現状であり、それで好転するなら御の字とでも考えているのだろう。
その混乱は悪魔だけでなく、各神話体系の勢力や禍の団などにも伝わり、特に勢力内でも中級や下級の存在には衝撃を与えたらしい。
勢力のトップや上級クラスの幹部には既に情報を伝えていたため、そこまで騒ぎにはならなかったが、それでも悪魔の勢力に外部から爵位を授けることへの行為には少なからず興味を持たれていた。
こうして忍は多次元世界で活動する『次元辺境伯』として悪魔界だけでなく、世界的なデビューを果たすのだった。