魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第三十七話『決戦前夜の死闘』

忍が次元辺境伯へと就任した翌日。

世界は未だ混乱していた。

 

~???~

 

「ふざけたことを…!!」

 

ドンッ!!

 

紅牙が自室の机に拳を叩き付ける。

 

「そう、カリカリすんなって」

 

それを脇から見ていた秀一郎が紅牙にそう言う。

 

「これがイラつかずにいられるか!!」

 

「おぉ、怖い怖い…」

 

紅牙の怒声に秀一郎も肩を竦める。

 

「が、確かに解せんな。悪魔ってのは血筋やら階級やらに対しては頭が固いって聞いてたけどな。なんか裏でもあんのか?」

 

「公表にもあったろ! 奴等は冥族との和平を進めるべく奴に地位を与えたんだ! どこまで我々の種族を見下せば気が済むんだ!!」

 

ボァッ!!

 

紅牙の怒りに合わせて真紅の焔が彼の拳から噴き出す。

 

「おいおい…こんなとこで発火すんなよ?!」

 

慌てて秀一郎が紅牙の焔を相殺する。

 

「で、浮足立ってる連中も少なからずいるんだが…どうする気だ?」

 

溜め息を吐いて頭を掻きながら秀一郎は紅牙に尋ねる。

 

「無論、奴を仕留める!」

 

「いやいや…確かにそうだけどよ。とりあえず、一回お前さんの故郷に戻ってお偉方と話したらどうだ? 悪魔との和平を受けるか否かをよ」

 

紅牙の答えにそう促す秀一郎だった。

 

「それが出来たらこんなテロ行為で苦労はせん!」

 

「まぁ、そりゃそうか。じゃあ、どうすんだよ?」

 

すると、紅牙はふと思い出したように…

 

「確か、北欧の悪神が動いていたな?」

 

「あぁ。確か、ロキの独断でな……まさか、それに乗じる気か?」

 

「あぁ…あの町に住んでいる奴なら必ず現れるだろう。そして、今度こそ決着を着けて魔王の首も取る!」

 

忍の周辺調査からそう推測した紅牙は復讐心と闘争心を燃やしていた。

 

「(やれやれ…こいつの復讐心、なんとか出来ねぇかね…?)」

 

その様子に秀一郎は内心で困った反応を示していた。

 

………

……

 

~フロンティア~

 

「ふふふ…悪魔も思い切ったことをしますね。実に面白い」

 

次元の狭間に漂っているフロンティアの甲板で黒ローブは悪魔の行ったことを笑っていた。

 

「それにしても、彼の地で真なる狼の血統が覚醒しましたか…」

 

黒ローブの目の前には黒と蒼の混じり合った魔法陣を展開し、そこにフィライトで覚醒した忍が映し出される。

 

「実に興味深い…。それに彼は元々冥族の血統にも通じていた。まぁ、彼も良くやってくれたということですかね…"シャドウさん"」

 

そう言って黒ローブは暗七の育て親にして忍の体内に謎の血液を注入した張本人たるマッドサイエンティスト『シャドウ』の名を口にする。

 

「彼は優秀でしたが…所詮は私の掌で踊る駒の一つに過ぎません。その彼が紅蓮とヴァンパイアの血液を彼に注いだことは想定外でしたが…結果的には良い方向に進みました。彼の中の冥王としての力はその片鱗を見せ、ヴァンパイアの特性によって多種族の血肉を取り込みやすくした。これは大きな成果です」

 

誰に言うでもなく、黒ローブの独白は続く。

 

「ふふふ…我が研究対象としては申し分がありませんね。あとは如何にして彼にこれを投入して差し上げましょうか?」

 

そう言って別の魔法陣を展開すると、その中に大型カプセルが表示される。

そのカプセルの中には全体的に人の形をしているものの、その頭部は龍、全身は鎧のような甲殻で覆われ、甲殻で覆われていない部位は龍の鱗が覆われている。

肢体は人間のものに酷似していて手は五指となっているが、足は前に三爪と踵に一爪という構造をしている。

さらに背中には一対二枚の龍の翼、臀部からは龍の尻尾をそれぞれ生やし、両腕の甲殻にはそれぞれ一対二本の大型爪が備わっている。

 

「さぁ…あなたも彼の糧となって私を満足させてください。(いにしえ)の種族…龍の血をその身に受け継ぎし人型戦闘種『龍騎士』」

 

黒ローブの言葉と同期するようにしてゴポリと音を立ててカプセルの中で空気が上昇する。

 

「さて、ロキも動いてることですし…この機に乗じて送り込むとしますか。どのくらい使えるかのテストもしたかったですし……ふふふ…」

 

そう言いながら黒ローブは魔法陣に魔力を流し込み始めた。

 

ゴポリッ…!

ゴゴゴゴゴ…!

 

そして、大型カプセルから培養液が排出され始めた。

 

………

……

 

~駒王町・兵藤家~

 

忍の辺境伯就任の報道から一日経った兵藤家では…

 

「まさか、紅神君が辺境伯だなんて…」

 

「魔王のくせに大胆なことをするな、お前の兄貴は…」

 

リアスやアザゼルも何とも言えない表情をしていた。

 

「少なくとも今回のロキ戦には参加しようと思ってる。冥族との和平やフィライトでの反攻はその後だ」

 

兵藤家で対ロキ戦の作戦会議をしてる中に、その忍の姿もあった。

 

作戦の大まかな流れはこうだ。

まず、会談の会場でロキとフェンリルを待ち構える。

ロキとフェンリルが来たらシトリー眷属の力でグレモリー眷属やヴァーリチーム、紅神眷属と共に採石場跡地へと転移させる。

そこでイッセーとヴァーリ…二天龍に忍を加えた3人でロキを相手にする。

残ったメンバーでフェンリルをグレイプニルを用いて動きを封じた上で、撃破する…というような感じである。

 

「神を相手に3人がかりか…」

 

「望むところだ」

 

「いやいや、結構なプレッシャーだからな!?」

 

忍とヴァーリの不敵な言葉を聞いてイッセーが慌てた様子で言う。

 

「まぁ、紅神は基本的にサポートを重視した動きをしてもらいたいのが本音だが…サポート役はもう少し適任なのもいるしな」

 

そう言いながらアザゼルは匙の肩を叩く…というか掴む。

 

「え…俺ですか!?」

 

まさかの指名に匙も酷く狼狽した反応を見せる。

 

「別に前線に出て戦えとは言わないが…お前の持つヴリトラの能力が必要なんだよ」

 

「ぶ、ヴリトラの…?」

 

匙が怪訝な表情でアザゼルを見る。

 

「ま、そのためにはちっとばかしトレーニングが必要だな。それに試したいこともある。というわけで、ソーナ。ちょいとこいつを借りてくぞ」

 

「それは構いませんが、どちらへ?」

 

匙の貸し出しを許可した会長がアザゼルに尋ねると…

 

「グリゴリの研究施設までな」

 

そう言って魔法陣を展開して転移の準備を始める。

 

「匙、気をつけろ。先生のしごきはマジで地獄だからな…俺もあんな目に遭ったし…」

 

「マジかよ!?」

 

イッセーの言葉を聞き、匙が顔面蒼白になる。

 

「はっはっは~♪ さぁ、いざ行かん!」

 

「た、助けてぇぇぇ!!?」

 

楽しげなアザゼルの声と、匙の絶叫を後に2人の姿は消え去ってしまった。

 

「匙、お前のことは忘れないぞ」

 

「別に死んだ訳じゃないでしょ…」

 

イッセーの発言に忍はツッコミを入れていた。

 

 

 

そして、残った一同も作戦へと向けて色々な準備を進めていた。

 

その中でイッセーは朱乃の生い立ちや昔の境遇をリアスやグレイフィアから聞き、アザゼルからもその詳細を聞いていた。

そこへヴァーリも合流して共に夢についての話などをしていた。

さらにオーディンも合流すると若さ故の可能性について可笑しそうに、そして嬉しそうに語っていた。

ただ、その際…ヴァーリの不用意な一言で、二天龍のプライドがさらに傷付くことになったのだった。

 

その一方で…

 

「眷属?」

 

「あぁ」

 

忍は戦力増強のため、朝陽と接触してもう1人の『騎士』として眷属に勧誘していた。

 

「詳しく話すと…」

 

忍は朝陽に眷属の駒について話した。

その母体となった悪魔の駒の事も含め、今の眷属やエクセンシェダーデバイスの事、異世界『フィライト』での出来事なども話していた。

 

「……ということだ」

 

忍の話を聞き…

 

「はっ…なるほどね。アンタ、そんなことするつもりなんだ」

 

朝陽はそんな反応を示す。

 

「まぁ、色々とあってな…」

 

朝陽の反応に忍は苦笑しながら言う。

 

「一つ聞いていいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「あたしがその眷族とやらに入って得られるメリットってなに?」

 

それを聞かれ…

 

「メリット、か。そうだな…」

 

少し考えた後…

 

「別に俺に仕えろとは言わない。俺は君のことも守りたいと思ってる。何故かと聞かれれば…ちょっと自分でも分からないんだが…ほっとけないんだ。危なっかしいというか、見てて一緒にいないとって思える。要は1人にしたくないんだ。朝陽はもっと人に頼ってもいいと思う。その頼る人間として…俺達が力になりたいと思ってる。あと、龍の近くにいるせいか、色んな戦闘も経験出来ると思うけど?」

 

忍はそう答えていた。

 

「なによ、それ。それがあたしのメリットだっていうの?」

 

呆れたような表情で忍を見る。

 

「やっぱり、ダメかな?」

 

言っててわかっていたのか、忍も苦笑しながら朝陽に尋ねる。

 

「………あたしはこれでも騎士よ? 自分の目で見たことしか信じないわ。けど、そうね」

 

そう言ってからしばし考え…

 

「アンタには邪狼との一戦の時の借りもあるし…いいわ、アンタの眷属にはなってあげる。けど、あたしはあたしで自由に動くし、あんま指図も受けないわよ? それにさっきの言葉が嘘だったら、ただじゃおかないから」

 

朝陽はそう答えていた。

 

「随分と都合の良い話だな」

 

「アンタの話程じゃないけどね」

 

互いに皮肉を言い合うと…

 

「わかったよ。でも、無茶だけはしないでほしい」

 

そう言うと忍は騎士の駒を朝陽に差し出す。

 

「さて、それはどうかしらね…」

 

朝陽はそれを受け取り…

 

トクン…

 

騎士の駒は朝陽の中へと溶け込んでいった。

 

こうして忍は新たな眷属として『流星 朝陽』を騎士とした。

果たして朝陽にはどういった影響が出るのだろうか?

 

………

……

 

会談を翌日に控えた日の夜にそれは起きた。

 

皆が寝静まった後、明幸邸の屋根の上で忍は1人夜風に当たっていたのだが…

 

「夜風に当たりに来ただけなのにな…何者だ?」

 

忍がそう言って視線を向けた先には…

 

『…………』

 

ボロボロのローブを頭から被った謎の存在…。

しかし、その中から溢れる殺気は間違いなく忍へと向けられていた。

 

「返答せずか。ここじゃ色々と問題だ。別の場所へ……」

 

そう言って忍が場所を移そうとした瞬間…

 

バコッ!!

 

「がっ!!?」

 

謎の存在は問答無用で忍の腹部を殴り…

 

『ウオオオオッ!!』

 

野太い咆哮と共に背中から"龍の翼"を広げ、そのままの状態で忍を打ち上げるようにして空へと舞い上がる。

その時、ローブも剥がれ落ちてその全貌が月明かりの夜に照らされる。

 

「な、んだ…!?」

 

そこにあったのは人間の肢体に近い肉体を持ちつつも頭部はドラゴン、その背や臀部からは龍の翼や尻尾を生やし、その体を鎧のような甲殻で覆った異形…。

黒ローブが『龍騎士』と呼ぶ存在であった。

 

「龍…ドラゴンか?! だが、この姿は…!?」

 

見慣れない姿のドラゴンに忍も困惑していたが…

 

「いい加減…離せ!!」

 

ゲシッ!!

 

龍騎士の肩を蹴ってなんとか距離を取るが…

 

「(くっそ…爪まであったのかよ…!)」

 

殴られた腹部から血が滲んでいた。

 

『グウウゥゥ…!!』

 

龍翼を羽ばたかせながら滞空する龍騎士は威嚇するように唸りながら、一気に忍へと詰め寄る。

 

「問答無用かよ…!」

 

そう言いながら足場として魔法陣を展開し、臨戦態勢に移る。

ネクサスやアクエリアスを部屋に置いてきたため、生身での戦闘となる。

 

「(こんなことなら格闘を本格的に習っときゃよかった…!!)」

 

今更、自分の格闘戦への対応力の低さに舌打ちをする。

 

『グオオオッ!!』

 

龍騎士は忍の顔面に向かって鋭い正拳突きを繰り出す。

 

「(こいつ…!?)」

 

龍騎士の正拳突きを紙一重で回避しながら忍は龍騎士の格闘戦能力の高さに驚く。

 

シュッ!

ツー…

 

回避はしたものの爪が接触したのか、頬に切り傷が生まれて血が流れる。

 

『ガアアアアッ!!』

 

忍が回避したのを確認した瞬間、龍騎士は口から焔の塊を吐き出す。

 

「なっ!?」

 

完全に虚を突かれた忍は火球をまともに喰らってしまう。

 

「くそったれが…!(見た目通り、龍の特性もあるってこたぁ…龍気も使えるはず…!)」

 

火球に焼かれた上着をすぐさま脱ぎ去ると上半身裸となる。

 

「(だが、なんだってこんな奴がここに…? なんだかピンポイント過ぎる気がするぞ…?)」

 

龍騎士を前にして、その裏で糸を引く存在が気になる忍であったが…

 

『グオオオッ!!』

 

ダダダダンッ!!

 

夜空の空気を蹴るようにしてジグザグに動くと忍の前へと再び詰め寄る。

 

「同じ攻撃を受ける程…"ドゴンッ!!"…がっ?!」

 

龍騎士が迫ってきた方向と同じ方向へと進もうとする忍だったが、龍騎士はそれを自らの体を回転させ、遠心力を加えた尻尾の薙ぎ払いで忍を吹き飛ばしていた。

 

「(尻尾まで巧みに使いやがるのかよ!!?)」

 

龍騎士の近接戦闘の幅の広さに内心焦っていた。

 

「(このままじゃ詰む! なら…)真狼、解禁!」

 

吹き飛ばされながらも真狼へと変身すると、再び足元に魔法陣を展開する。

 

「(相手は人間サイズの龍! 使える手は全て使わないと勝てない!)」

 

忍は今の自分を思い返していた。

 

真狼に覚醒したとは言え、未だ満足なスピードやパワーを発揮できないこと、紅牙に言われた『冥王スキル』にも目覚めてないこと、無意識に発動させたという吸血鬼のこと、ネクサスやアクエリアスといったデバイスがなければ戦う術が極端に減ること、イッセーのような決定打に欠けることなど…。

挙げればキリがないくらいに、忍は全体的なステータスを上げてはいるものの領域的には未熟・未完成とも言える。

 

そんな自分に腹が立ったのか…。

 

「……………」

 

拳を痛いぐらいに握り締めていた。

 

『グウウゥゥ…ッ!!』

 

そこへ龍騎士が迫ってくる。

 

「これぐらい1人で何とかしろってことかよ…!」

 

そう呟くと共に…

 

ブンッ!!

 

忍の姿が消えるように見える移動を行うが…

 

『ガアアアア!!』

 

その動きを捉えてるかのように口から火球を忍に向けて放つ。

 

「(まだだ…まだ遅い!)」

 

先日のロキ襲撃時、忍はフェンリルの動きを捉えることは出来なかった。

それでも無意識とは言え、イッセーはそれに対応してみせた。

それを思い返すようにして忍は自らの足に気を流し込む。

 

「はぁ!!」

 

その一方で両腕には魔力を纏わせて一気に龍騎士へと肉薄する。

 

「でりゃあ!!」

 

『ウオオオオッ!!』

 

バゴンッ!!

 

クロスカウンター気味に両者の拳が互いの顔面を捉える。

 

しかし…

 

「がっ…!?」

 

力の質が違い過ぎるのか、忍だけが態勢を崩そうとしていた。

 

「こ、の…!!」

 

崩れ際に気を流し込んだ足で蹴りを放つも…

 

バシンッ!!

 

確かに直撃したはずにも関わらず、龍騎士にダメージは見受けられなかった。

それどころか鎧のような甲殻に傷一つも付けられていなかった。

 

「(魔力や気の単体だけではダメだっていうのかよ…?!)」

 

その結果を見て忍は愕然とする。

 

『グオオオオッ!!』

 

ボアアッ!!

 

龍騎士の右腕に龍気が収束し、それが焔へと変換されていく。

 

「(まずい…!?)」

 

それを本能的に危険と察知した忍は魔法陣を幾枚も重ねるようにした上で両腕をクロスして防御態勢を取る。

 

『ウオオオオッ!!!』

 

バリンッ!!

 

しかしながら龍騎士の一撃は忍の防御魔法を容易に破壊し…

 

ドッガッ!!!

 

「ぐ、ぁっ!!?」

 

忍のクロスした両腕に叩き込まれた衝撃で忍は白目を剥きながら意識を一瞬失ってしまう。

 

………

……

 

~深層世界~

 

忍が意識を手放した一瞬の内に、それは再び起こる。

 

「弱いな、我が器よ」

 

ここは忍の深層世界…。

忍の目の前には腰まであるだろう輝きを放つ銀髪に血の滴ったような真紅の瞳を持ち、妖艶な美貌に真紅のドレスという風貌の美女がいた。

その瞳孔は獣のように縦に鋭く、八重歯も発達しているのか少し大きく鋭く尖っていた。

 

「アンタは…?」

 

(わらわ)は器や狼の言うところの吸血鬼。その化身よ。器の弱さに仕方なくこうして参上したまでのこと」

 

忍が美女に尋ねると、吸血鬼と名乗る美女は古風な口調でそう答える。

 

「会っていきなりそれかよ…」

 

その様子に呆れた様子で狼夜が忍の隣に現れる。

 

「伯父さん…」

 

いつの間にか現れた狼夜に忍も驚く。

 

「よっ、また随分とやられてるみてぇだな…中から見てたが、ありゃ闘争本能剥き出しな上に話が通じない相手だな」

 

肩を竦めながら狼夜は龍騎士のことをそう評す。

 

「妾の器になった以上、負けられても困るでの。そもそも力の練り方も散漫じゃ…何故、妾の力を用いぬ?」

 

吸血鬼は忍に指を突き付けて問い詰める。

 

「そう言われても…たった一回、しかも無意識にやったことをどう思い出せと?」

 

忍が吸血鬼になったのは一回。

邪狼との戦闘の最終局面で、一時的なものだ。

 

「ふぅ…ならば、仕方あるまい。ならば、少しだけ伝授しよう」

 

忍の態度に呆れたのか、溜め息を吐いてから吸血鬼は語る。

 

「器よ。お主の体内には四つの力が渦巻いておる。それはわかるな?」

 

「あぁ…魔力、気、霊力、妖力だろ?」

 

「うむ。それがわかっておるならば良い」

 

「(なんか小馬鹿にされてる気がする…)」

 

吸血鬼の物言いに怒りを覚えるものの、それを表に出さない忍だった。

 

「では、器よ。お主は何故、この四つを一つ一つでしか使わない?」

 

「え…?」

 

その言葉に忍は意表を突かれたように生返事を返してしまう。

 

「相手よりも質が劣るのであれば、それをどう補うのか…答えは簡単、力と力の足し算じゃ。しかし、それには相応の技量が必要となる。だが、器にはそれを可能とする素質がある」

 

吸血鬼はそう教える。

 

「つまり…魔力や気、霊力、妖力を掛け合わせろと?」

 

「そうじゃ。それを理解した上で、妾の吸血鬼としての力…その片鱗を己の糧にしてみせよ」

 

忍の言葉を肯定し、言うだけ言うと吸血鬼はその姿を暗闇へと同化しながら消え去ろうとする。

 

「お、おい!?」

 

「器よ。もっと高みを目指せ。そして、妾の力を掌握してみせよ」

 

そう言い残すと共に吸血鬼は完全に消え去ってしまい…

 

「時間だ。お前の意識も回復する」

 

狼夜の言葉と同調するように忍の姿が足元から消えかける。

 

「伯父さん! まだ、聞きたいことが…!」

 

「また話してやるよ。俺がいるってことはまだ完全には真なる狼を継げてないのかもしれねぇしな…」

 

その言葉を最後に忍の意識は回復するのだった。

 

………

……

 

「ッッ!!? かはっ?!」

 

忍の意識が戻ると共に防御態勢が崩されて吹き飛ばされていた。

 

「(四つの力を、一つに…)」

 

刹那の時で語られた吸血鬼の言葉を思い返して忍は自らの内にある四つの力を感じ取るべく意識を集中させる。

 

「(魔力と気は問題ない。問題は霊力と妖力…)」

 

魔力と気は普段から使っているからか、容易に感じ取れたものの…霊力と妖力の感知には少し時間が掛かるようであった。

 

『ウオオオオッ!!』

 

その間にも龍騎士は忍へと迫る。

 

「ちぃっ!(思い出せ…あの時の感覚を…!)」

 

忍は邪狼との戦闘、その最終局面を思い出そうとしていた。

 

『ガアアアアッ!!』

 

龍騎士の打撃を回避しながらあの時の感情を思い起こす。

 

「(激情に呑まれるな…力は確かに欲しい。が、激情に任せたら大切なものまで破壊してしまう…)」

 

邪狼戦で感じた激情を抑えながら自らの心身に問いかける。

 

すると…

 

ヒュッ!

スッ!

 

自然と力が抜けていき、龍騎士の攻撃を軽々と回避するようになっていく。

 

「(俺は決めたんだ。守るために力を欲すると…)」

 

そして、目の前に龍騎士とは異なる影…銀髪紅眼となり、背中から蝙蝠の翼を広げる自分の姿が忍を鋭い眼光で見詰める。

 

「(吸血鬼…なれるか?)」

 

そう思った瞬間、影が頷いたような気がした。

 

『ウオオオオッ!!!』

 

龍気を纏った右腕の渾身の一撃が忍へと迫るが…

 

バシッ!!

 

忍の右手に"妖力"が纏われ、それを容易に受け止める。

 

バサァ!!

 

そして、背中から蝙蝠の翼が広がると同時に忍の髪と瞳も銀髪と真紅の瞳へと変化した。

 

「これが吸血鬼…そして、妖力か」

 

妖力を力へと変質させて己の腕力を底上げしていた。

 

『グウウウウッ!!?』

 

予想以上の力に龍騎士も驚き、拳を引っ込めて忍との距離を稼ぐ。

 

「今ので大体は把握できた。霊力の使い方は今後の課題だが…一先ず出力は出来るな」

 

吸血鬼の覚醒に伴い、霊力の出力のコツも把握したようだった。

 

「もう、遅れは取らん」

 

そう言うと蝙蝠の翼を羽ばたかせて龍騎士へと接近する。

 

『ガアアアアッ!!!』

 

龍騎士もまた龍の翼を広げて忍へと向かう。

 

「(出力した力を同調させ…)」

 

忍は妖力を中心に魔力、気、霊力の四つを掛け合わせて両腕へと纏い始める。

 

「(打撃に用いる!)」

 

『グオオオオオッ!!!』

 

シュッ!!

バコンッ!!

 

再び忍と龍騎士の拳がクロスカウンター気味に互いの顔面を捉える。

 

「ぐっ…!!?」

 

『ガァッ!!?』

 

が、今度は互いによろける結果になる。

つまり、忍の拳が龍騎士の甲殻や龍鱗に対して相応の力を与えるようになったということである。

 

「(いけるか…!)」

 

それを文字通り肌で感じた忍は攻勢に転じた。

 

「はぁッ!!」

 

四つの力を合わせた蹴りを龍騎士の腹部へと叩き込む。

 

『グガァツ!!?』

 

それによって龍騎士は口から緑色の血を吐き出す。

 

ペチャ…

 

その吐血の一滴が忍の口元近くに付着する。

 

「………」

 

無意識の内にペロリと緑色の血液を舐め取った瞬間…

 

ドクンッ!!

 

「ッ!!?」

 

忍の体に強烈な電流が走った様な衝撃が襲った。

 

「(なんだ…? 今のは…?)」

 

その衝撃に忍自身も戸惑っていたが…真紅の眼光で目の前の龍騎士を見ると…

 

"血を貪り、喰い尽くせ"

 

そのような感情が忍の中で沸々と湧いてきていた。

 

「(な、なにを…?!)」

 

自分の感情に戸惑いを隠せないでいた。

 

"血を吸え…新たな力をその手にするために…"

 

「(新たな、力…?)」

 

目の前で威嚇している龍騎士を見ながらそんなことを考えていた。

その吸血衝動とも言えるモノは強く激しく、忍の理性を簡単に溶かしていった。

 

「うがあああああ!!!」

 

獣染みた咆哮を放ち、忍は龍騎士へと一直線に飛翔する。

理性を失った獣はその本能に従い、行動を起こす。

 

『グオオオオッ!!!』

 

それを攻撃と捉えた龍騎士は迎撃行動へと移る。

 

しかし…

 

ガキュッ!!!

 

『???』

 

一瞬の出来事で龍騎士も何が起きたかわからなかった。

しかし、事実として…龍騎士の突き出していた右腕が"肩からもぎ取った様に失っていた"。

 

ガキ…バリ…グシャ…

 

その直後に聞こえる、異様な咀嚼音…。

 

『----』

 

龍騎士が振り返ると、そこには…

 

「が…んぐっ…」

 

ごきゅりっ…!

 

"龍騎士からもぎ取った右腕を捕食し、それを呑み込む忍の姿"があった。

 

『----ッ!!!??』

 

その光景を見て龍騎士の本能が警告音を発する。

 

"こいつは危険"だと…

 

それを感じ、逃げようとした矢先…

 

「逃げんなや…仕掛けたのはテメェだろ?」

 

忍の速度が勝り、龍騎士の背後から羽交い絞めにして捕らえた瞬間…

 

ガブリッ!!

 

その首筋に鋭い牙を打ち立て…

 

ゴキュリ…ゴクゴク…!

 

その血液を飲み始めたのだ。

 

『ガアアアアッ!!!??!?』

 

その龍騎士の咆哮には闘争本能は微塵もなく、ただただ恐怖の色だけが色濃くなっていた。

 

「テメェの力…俺が貰う…!!」

 

『ギャアアアアッ!?!?!?!』

 

その言葉を最後に龍騎士は…。

 

………

……

 

明幸邸の中庭に吸血鬼姿で降り立った忍は…

 

「お、俺は…」

 

月夜に照らされた忍の姿は…上半身裸の吸血鬼状態で…体中が緑色の血塗れになっていた。

 

「うっぷ…!!」

 

自らの行いを思い出したのか、口元を押さえて吐き気を我慢する。

 

「(俺は……何をしてるんだ…?)」

 

しかし、吐き気は一向に止まる気配を見せず、中庭で膝から倒れる形になる。

 

「しぃ、君…?」

 

忍の気配に勘付いたのか、智鶴が中庭までやってくる。

てか、よく最初の咆哮で目覚めなかったよな…。

 

「----ッ!!??」

 

「しぃ君!?」

 

忍の様子が変だとわかった途端に忍に近寄っていた。

 

「どうしたの?! これ、血…?」

 

忍の状態に困惑した様子であった。

しかし、それも無理もないはずである。

 

「なにがあったの!?」

 

聞いても答えられない……否、答えれないだろう…。

 

「(俺は…俺は…)」

 

ドクンッ…ドクンッ…!!

 

動悸が激しく、今にも倒れそうなのに…皮肉にも自己嫌悪によって意識を保ってしまっていた。

 

すると…

 

ドガッ!!

 

「っ!?!」

 

後頭部に強い衝撃が走り、忍の意識を強制的にシャットアウトさせてしまう。

 

「しぃ君!? 誰!」

 

忍が倒れたのを見てスコルピアを起動させようとするが…

 

「落ち着きなさい。私よ」

 

そこにはカーネリアが立っていた。

 

「カーネリアさん!?」

 

「なんだか坊やの様子が尋常じゃなかったから強制的に気絶させたのよ。話は明日にでも聞けばいいし…もう遅いでしょ?」

 

智鶴に文句を言われる前にカーネリアはそう言って忍を指差す。

 

「それよりも…それ、どうするの?」

 

「もちろん、洗います!」

 

「魔法を使うって選択肢はないのかしら?」

 

とにもかくにも智鶴とカーネリアの2人掛かりで忍を部屋に運んだ。

忍に付着した龍騎士の血液はシアを起こして魔法で洗い流し、瓶の中へと回収していた。

回収した血液は調べてもらうために後日アザゼルの元へと送られることになった。

 

今後、龍騎士を捕食してしまった忍の身には何が起こってしまうのか…?

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