魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第三十八話『決戦×因縁・神と冥王の黄昏』

オーディンと日本神話の神々との会談当日。

 

時刻は夜。

それぞれのチームが準備の最終確認を行っている中…

 

「………………」

 

顔面蒼白で前日よりもげっそりとした表情の忍が会談の行われる高層高級ホテルの屋上の一角で座っていた。

 

「(最悪のタイミングだ…龍気が得られたのは嬉しい誤算だが、その代償が高くついた気がする…)」

 

前夜に起きた龍騎士との戦闘が未だに尾を引いていた。

 

「しぃ君、本当に大丈夫なの?」

 

そんな忍を心配して智鶴が常に側へと寄り添う。

 

「忍、さん…」

 

顔色の悪い忍の顔から出る汗を萌莉がハンカチで拭き取る。

 

「あら、白龍皇じゃない」

 

すると、そこへヴァーリが近づいてくる。

 

「君の中に俺達とは異なる龍の波動を感じる。一体、昨日何があったのか聞きたいんだが…?」

 

「流石に敏感だな…話せば長くなるからいずれ機会があったら話すよ」

 

顔面蒼白のまま忍はそう答えた。

 

「ふむ、そうか。では、機会があれば聞かせてもらうとしようか」

 

ヴァーリは少し残念そうに呟くと、チームの所に戻っていった。

 

「(あんな体験を話すのは…もう少し時間がいるしな…)」

 

そうこうしてる間にも会談の時間となる。

 

「来たか」

 

「(周囲の匂いが変わった…!)」

 

ヴァーリの呟きと同時に忍も立ち上がる。

 

ブゥンッ!!

 

空間の歪みと共に大きな穴が開き、そこからロキとフェンリルが現れる。

 

「作戦開始!」

 

バラキエルの一言によってシトリー眷属がホテル一帯を包むほどの結界魔法陣を展開してロキとフェンリルを含めグレモリー眷属+イリナとヴァーリチーム、紅神眷属、救援にやってきたタンニーンとロスヴァイセを転移させる。

しかし、ロキはそれを感知していながらも不敵な笑みを浮かべるだけで抵抗の素振りを見せなかった。

 

が、転移の直前…結界内に異物が混入してしまっていた。

 

………

……

 

~採石場跡地~

 

「どうやら、招かざる客人も来たようだ」

 

ロキが混成チームとは違う方を見ると…

 

「紅神 忍ッ!!」

 

そこには紅牙の姿があった。

 

「紅牙?!」

 

「転移直前に何者かが来たのは感知出来たが…まさか、紅牙とは…」

 

紅牙の登場に忍達はもちろん、ヴァーリ側も驚いていた。

 

「よっ、邪魔させてもらうぜ?」

 

紅牙の背後には秀一郎も控えていた。

 

「禍の団…!」

 

「このタイミングで介入なんて!」

 

バラキエルとリアスが同時にヴァーリを見ると…

 

「いや、これは紅牙の独断だろう。今の禍の団で大きな派閥は英雄派くらいで、冥王派は数が少ないからな…それに先の一件で余計に殺気立ちそうな旧魔王派も行動しておらず、冥王派の内部事情もあるんだろう。そうした結果、トップである紅牙がロキとの一件に乗じて動くのは必然だろうな」

 

禍の団の内情に詳しいヴァーリがそう漏らす。

 

「幸いにも紅牙の狙いは1人だ。こちらは我々で何とかするとして…」

 

ヴァーリが視線を忍に向けると同時に…

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

イッセーのカウントダウンが終了し、赤龍帝の力が鎧として具現化する。

それと同時に女王への昇格も果たす。

 

「秀一郎。君も戦うのか?」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

そう聞きながら、ヴァーリもまた白龍皇の力を鎧として具現化させる。

 

「俺は…見届け人さ。冥王派が…ここで終わるのか、それとも…」

 

そう言って岩場に腰掛ける秀一郎の視線は復讐という憎悪の焔を纏った紅牙の背中へと向けられていた。

 

「そうか」

 

「今生の別れは終わったかね?」

 

秀一郎の答えを聞いたヴァーリにロキが話し掛ける。

 

「問題ない。別に今生という訳でもあるまいしな」

 

「爺さんの邪魔をさせっかよ!」

 

そう言ってロキの前に二天龍が立ち並ぶ。

 

「私の相手は二天龍か…! 素晴らしい! まさか、赤と白がこのロキを相手に共闘するとは! 実に愉快な気分だ。では、僭越ながらこのロキが二天龍を相手にする初めての者となろう!!」

 

ロキは二天龍が揃って相手になることを嬉々として受け入れていた。

 

「シア、いいな?」

 

気持ちを切り替え、忍は紅牙の前へと踏み出す。

 

「はい…私も覚悟は出来てます。ですから、どうか…兄を…止めてください!」

 

シアの言葉に…

 

「あぁ…任された。だから、そっちも任せたぞ!」

 

忍はシアの方へと振り向いて微笑みを浮かべた後、他のメンバーと協力してフェンリルとの戦いを任せる折を伝えていた。

 

「はい…!」

 

「行きましょう、シアちゃん」

 

ディメンション・スコルピアを起動させると共に即座に鎧として纏った智鶴がリアスの横に立つ。

 

「(しぃ君…お願いだから無茶だけはしないで…)」

 

心の中で祈りながらスティンガーブレードを両手で構える。

 

『行くぞ、小娘共!』

 

タンニーンの号令と共にイッセー、ヴァーリ、忍以外のメンバーがフェンリルへと向かう。

 

 

 

トップ会談から始まった忍と紅牙の対決も三度目になる。

 

「(ハッキリ言って気分最悪なんだが、そんなこと言って相手出来るような相手でもないしな)」

 

ロキ相手にも言えることだが、忍も腹を括る。

 

「ネクサス、ファルゼン、アクエリアス起動。真狼、解禁!」

 

ネクサスを起動させ、その上からアクエリアスを装着し、ファルゼンを右手に持って真狼を解放する。

アクエリアスは紅牙の焔と重力に対する強力な防衛策となる。

 

「新たな力か!」

 

真狼の姿を見て紅牙は戦意を剥き出しにしながら冥王となり、周囲に黒と焔の球体を展開する。

 

「だが、その程度で俺が怯むものか!」

 

そう言うと同時に焔の球体を数十単位で飛ばす。

 

「紅牙! いい加減にしろ! この戦いに何の意味がある!!」

 

アクエリアスに搭載されている固有魔法『シェライズ』をカーテン状に展開して紅牙の焔を防ぎながら忍が叫ぶ。

 

「意味はある! 次元辺境伯だか何だか知らないが、今更悪魔と手を取り合うなど…!! 貴様を血祭りにした後、次は貴様を指名した魔王を葬る!!」

 

そう叫んで紅牙は焔の球体を一点に収束して高熱の剣を生み出して忍に斬りかかる。

 

ギンッ!!

ジュワァァ!!

 

「話も聞かずに一方的に差し出された手を拒む気かよ!!」

 

それを忍はファルゼンの刀身に冷気を纏わせて防ぐ。

 

「差し出された時点で奴らが我等冥族を下に見ている証拠だろうが!!」

 

「同じ目線に立とうとしてるっていう考えはないのか!!」

 

そのような口論を繰り広げながら2人の剣戟は激しさを増していく。

 

 

一方の二天龍とロキの戦いはというと…

 

「行くぜぇぇ!!」

 

イッセーの突貫に合わせてヴァーリが空中を舞うようにしてロキへと向かう。

 

「来るがいい、二天龍!」

 

そう言ってロキは北欧魔術を展開していき、イッセーとヴァーリに向けて追尾性の高い攻撃魔法を放つ。

ヴァーリはその攻撃を回避していくが、イッセーは当たろうが構わず突撃する。

 

「まずは一発!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

イッセーの右手に龍気が集まり、その力を倍加させながら低空飛行からの渾身の一撃をロキを守る北欧の防御魔術を打ち破る。

 

「ふっ…」

 

バアアアアアッ!!!

 

そこへヴァーリが間髪入れずの北欧の攻撃魔術を掃射する。

掃射した瞬間、イッセーも慌てて後退する。

 

「(ヴァーリの野郎! でも、ハンパねぇ威力だな……これが俺のライバルかよ…!!)」

 

それを見たイッセーは改めてヴァーリの異常さを肌で感じてしまっていた。

 

だが…

 

「はははは!!」

 

宙よりロキの高笑いが聞こえ、イッセーとヴァーリはそちらを見る。

ロキのローブはいくらか破れていたものの、ロキ自身は無傷であった。

 

「(マジかよ、ヴァーリの攻撃でも無傷とか…流石は神様ってとこか?)」

 

そこでイッセーは秘密兵器を取り出すことにした。

 

「っ! それはミョルニル。いや、レプリカか。オーディンめ…そこまで会談を成功させたいのか…!!」

 

ロキはミョルニルの存在よりも、それを渡したオーディンに対して憤りを感じている様子であった。

 

「これでも喰らって大人しく眠ってろよ!!」

 

イッセーがレプリカ・ミョルニルを振るってロキを攻撃しようとするが…

 

ドオオオンッ!!

 

ロキはそれを避けてしまい、地面にクレーターが発生するに留まった。

 

「あれ…?」

 

思わず、イッセーは何度かミョルニルを振るってみた。

しかし、何も起こらない。

 

本来、ミョルニルは北欧の雷神トールの持つ伝説の武器であり、その槌には神の雷が宿っている。

イッセーに渡されたミョルニルはレプリカであるものの、本物に近しい力を秘めており、それに倍加した力を譲渡

することで対ロキ戦の切り札としたものなのだが…。

その神の雷が発生しないのである。

 

「ふははは」

 

そんなイッセーの姿を見てロキが苦笑する。

 

「その槌は力強く純粋な心の持ち主でないと真の能力は発揮しない。赤龍帝、貴殿には邪な心があるから雷も発生しないと見た。何よりも…重さは無く、羽のように軽いと聞くしな」

 

ミョルニルの追加情報を敵であるロキから聞いたイッセーは…

 

「(ま、マジか!?)」

 

邪な心に思い当たりのあるイッセーは酷く狼狽する。

 

「さぁ、そろそろこちらも攻勢に転じようか」

 

そう言うとロキは(おもむろ)に指を鳴らすと、それに合わせてフェンリルが前へと一歩踏み出す。

 

フェンリルへと向かっていたメンバーの内、リアスが手を挙げると…

 

「にゃん♪」

 

ブォォン…ッ!

 

黒歌が鳴くと同時にその周囲に魔法陣が展開されて地面から巨大で太い魔法の鎖『グレイプニル』が出現する。

それをフェンリルに相対する全員で掴むと、フェンリルへと投げつける。

 

「グレイプニルか! だが、無駄だ。その対策なら既に…」

 

バチバチバチ…ッ!!

 

ロキの言葉空しく、グレイプニルは意思を持ったかのようにフェンリルへと巻き付いていった。

このグレイプニルはダークエルフによって強化されているのだ。

 

『グオオオオオンッ…』

 

グレイプニルによってフェンリルも苦しそうな悲鳴を上げる。

 

「フェンリル、確保だ」

 

その様子を見てバラキエルが呟く。

 

しかし…

 

「ふむ…仕方あるまい」

 

そう呟くと、ロキは焦った様子もなく両腕を広げる。

 

ブゥンッ…

 

「スペックは落ちるが、それでも貴殿らを屠るには十分だからな」

 

その言葉と共に空間が歪み、そこから新たに2匹の狼が現れる。

 

『『ウオオオオオオオンッ!』』

 

その姿はフェンリルに酷似していた。

 

「なっ!?」

 

「そんな?!」

 

新たなフェンリルの登場にヴァーリと紅牙以外のメンバーが驚く。

 

「紹介しよう。スコルとハティ。フェンリルの子だよ。親よりも全体的なスペックは劣るが、神を屠る牙は健在だ」

 

ロキは2匹の頭を撫でた後、グレモリー眷属、ヴァーリチーム、紅神眷属、タンニーン、ロスヴァイセを指差す。

 

「お前達の父を捕らえたのはあの者達だ。その牙と爪で食い千切ってしまえ!」

 

ロキの言葉に従い、2匹の狼が疾走する。

 

『たかが犬風情が…!!』

 

そう叫びながらタンニーンが火球を吐き出す。

しかし、元龍王の火球を喰らっても2匹の狼は何事もなかったように行動している。

 

 

 

ただ…

 

「犬風情って言うなぁ!!」

 

忍が耳聡くタンニーンの言葉に怒りを覚えていた。

別に忍に向けられた言葉でないのだが…そこは同じ狼として譲れない何かがあるのかもしれない…。

 

ギンッ!!

 

その隙を突こうと紅牙も焔の剣で突きを放つが、忍はそれをファルゼンで受け止める。

 

「余所見とは良い度胸だな!!」

 

「そこを突きやがったテメェは姑息だろうが!!」

 

そんな怒鳴り合いをした後、互いに距離を取る。

 

「ブリザード・ファング!」

 

「バーニング・ブレイザー!」

 

距離を取った瞬間、忍は中距離拡散砲撃を、紅牙は焔の球体を媒介にした広範囲砲撃をそれぞれ放っていた。

 

ズドドドドド…!!

ジュワァァァッ!!

 

氷と焔がぶつかり合い、急激な温度差を生み出して氷の冷気を焔の熱気が水蒸気へと変換・発生させる。

そのせいか、ほぼ密閉された空間である採石場跡地の中で水蒸気が充満していく。

 

「ちょっと!?」

 

「これじゃあ、フェンリルが見えないじゃない!!」

 

忍と紅牙のぶつかり合いで他のメンバーに影響が出る。

 

「とんだ目暗ましを…!」

 

ロキもローブを翻して水蒸気の中へと身を隠そうとする。

 

「だが、好都合だ!」

 

ヴァーリがロキへと向かって飛翔する。

 

だが…

 

「っ!! 待て! そっちにフェンリルが!!」

 

忍の嗅覚がフェンリルを察知し、ヴァーリへと警告する。

 

「どうせ、子の方だろう? その程度でこの俺が…!」

 

そう判断したヴァーリがさらに加速すると…

 

「違う! 子供じゃない! そいつは!!」

 

ガブリッ!!

 

忍の警告空しく、ヴァーリがフェンリルに噛み付かれる。

 

「ぐはっ!? こ、こいつは…!!」

 

現れたのは子供ではなく、親であるフェンリルだった。

その体にグレイプニルの拘束は無かった。

 

「そんな! フェンリルの奴は確かにグレイプニルに…!!?」

 

イッセーはそう言って仲間の方を見るが、水蒸気でなかなか見えなかった。

 

「ふはははは! よくやったぞ、スコルにハティよ! おかげで白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

ロキが突風を発生させて水蒸気を晴らすと、そこにはグレイプニルを咥える2匹の狼の姿があった。

 

「ちっ! しくじったか!」

 

自分の起こしたアクションに対して忍が舌打ちする。

 

「ヴァーリッ!!」

 

すぐさまイッセーがヴァーリを助けようとフェンリルに向かうが…

 

ザシュッ!!

 

「ぐわぁぁ!?!」

 

前脚の薙ぎによってイッセーの鎧が容易に破壊されてしまう。

 

『これ以上はやらせん!!』

 

そこへタンニーンが加勢に入り、極大の火球を吐き出す。

 

『ウオオオオオオン!!』

 

しかし、フェンリルの咆哮に火球は消滅。

 

ビュッ!

ザシュンッ!!

 

次の瞬間にはヴァーリに噛み付いたまま、タンニーンを攻撃していた。

 

『ぐおおおっ!?』

 

その攻撃によってタンニーンの体は傷だらけとなっていた。

 

「ついでだ、こいつらの相手もしてもらおうではないか!」

 

そう言ってロキは足元から影が広がり、そこから体が細長いドラゴンが複数現れる。

 

『ミドガルズオルムも量産していたのかッ!』

 

それを見てタンニーンが吠える。

 

「そういうことだ」

 

ロキが不敵な笑みを浮かべて戦場を見渡す。

 

「混沌としてきたな。これが神々の争いならば黄昏になっていたものを…」

 

そして、残念そうにそう呟く。

 

「ロキ!!」

 

忍がロキに肉薄してファルゼンを振り下ろす。

 

ギィィィンッ!!

 

「ほぉ、さらにスピードを増したか? しかし、この内から感じられる波動…」

 

ファルゼンを魔法陣で防ぎながら忍の中から感じる力に対して興味深い視線を送る。

 

「この世のものとは思えない闘争心に満ちた龍の波動だ。一体何をその身に宿した?」

 

「…ッ!!!」

 

その問いに忍の表情が怒りに転じる。

 

「ふっ、まぁいい。残念ながら貴殿の相手は私ではないのだよ!」

 

そう言って魔法陣を力任せに押し出して忍を吹き飛ばすと…

 

「紅神ぃぃッ!!」

 

そこへ紅牙が飛び込んでくる。

 

「紅牙…ッ!!」

 

忍が紅牙と戦ってる合間にもグレモリー眷属+イリナとヴァーリチームはスコルとハティの相手をし、紅神眷属とタンニーン、ロスヴァイセは量産ミドガルズオルムの相手をしていた。

 

「防戦になってはダメよ。攻勢に出て!」

 

リアスが眷属に指示を飛ばし…

 

「これが紅神の言ってた戦いか。確かに管理局では経験出来ないわね!」

 

「そんなことを言ってる場合ですか!」

 

朝陽とフェイトが背中合わせになって短く言葉を交わすと、別々の量産ミドガルズオルムへと向かう。

 

「オラオラ!」

 

ヴァーリチームはたった3人であるにも関わらず、苦戦してる様子すらない。

 

「仕方ないか……兵藤 一誠」

 

そんな中、フェンリルに咥えられたままのヴァーリがイッセーに声を掛ける。

 

「………ロキは任せた。他も君の仲間と美猴達に任せる」

 

「お前、何を言って…?」

 

ヴァーリの言葉にイッセーが困惑していると…

 

「この親フェンリルは……俺が確実に屠る…!!」

 

そう言い放っていた。

 

「ふはははははっ!! これは滑稽だ! 白龍皇よ、一体どうやってそれを成す気だ! 」

 

ヴァーリの言葉にロキが高笑いをすると…

 

「天龍を…このヴァーリ・ルシファーを舐めないでもらおうか!!」

 

文字通り鬼気迫るような睨みをロキへと向けた後、ヴァーリはある言葉を紡ぐ。

 

『我、目覚めるは…』

 

『覇の理に全てを奪われし、二天龍なり…』

 

『無限に妬み、夢幻を想う…』

 

『我、白き龍の覇道を極め…』

 

『汝を無垢の極限へと誘おう…ッ!!!』

 

それは…イッセーも口にしたことのある言葉…

 

『Juggernaut Drive!!!!』

 

その音声と共にヴァーリの鎧が光り輝きながら徐々に変化していった。

ヴァーリは自らの意思で覇龍へとなろうとしていたのだ。

 

「黒歌!!」

 

「了解♪」

 

ヴァーリの言葉に黒歌はグレイプニルをヴァーリの側まで転移させると、さらにフェンリルごとヴァーリを別の場所へと転移させようとしていた。

 

「ヴァーリッ!」

 

イッセーがヴァーリに向かって叫ぶが、ヴァーリはイッセーを少し見ただけでその場からフェンリルと共に消え去ってしまった。

 

 

 

「(白龍皇が消えた? となるとロキの相手はイッセー君だけに…!)」

 

状況を匂いで察した忍は紅牙の攻撃を回避しながら思考を巡らす。

 

「(………一か八かでやってみるか…)」

 

そして、忍は一つの決意をしてからそれに賭けることにした。

 

「紅神ぃぃッ!!!」

 

紅牙は重力の球体を収束させていき、圧縮した高密度の重力場を球体状に形成していた。

それはさながらブラックホールのような作用を引き起こし、周囲のエネルギーを吸い込み始める。

 

『アレは危険です。超重力反応を検知。さながらブラックホールのような…』

 

その光景にアクエリアスからの警告が発せられる。

 

「シェライズ、最大稼働だ!」

 

『了解。コアドライブ、最大稼働』

 

周囲の魔力素を吸収し、胸にある氷の結晶を象ったサファイアが輝きを増す。

そして、各部からサファイアブルーの魔力粒子が放出し始める。

 

「はぁ…!!」

 

ファルゼンを眼前の岩肌に突き刺すと共に両腕を高く掲げてそのまま両手を組む。

 

「ジ・エンド・オブ・グラヴィタスッ!!!」

 

「シェライズ・シール・エクスキューションッ!!!」

 

両者、ほぼ同時に超重力魔法と対属性魔法砲撃を放った。

 

「(ここだッ!!)」

 

砲撃を放った瞬間、忍はファルゼンを持って一気に駆け出す。

 

ブオォォォッ!!!

 

砲撃よりも速く動いたためか、強烈な吸収力によって忍の体は黒い球体に引き寄せられる。

 

「(俺の中に眠りし霊力よ…どうか頼む。今この時、紅牙の奴を憎しみの連鎖から解き放つきっかけを…!!)」

 

そう願った瞬間…

 

ゴオオオオッ!!

キィンッ!!

 

黒き球体をシェライズが覆い、そこにフリストシールによる封印凍結も加わって無力化させていた。

 

「バカな?!」

 

その結果に紅牙が驚いた隙を見逃さず、忍が紅牙の刀の届くギリギリの間合いまで入り…

 

「その憎悪の連鎖をこの俺が断つ…ッ!!」

 

上段に構えたファルゼンの刀身に高密度の霊力が付加される。

 

「断浄閃ッ!!」

 

ザシュッ!!!

ブシャアッ!!

 

一刀両断の軌道で振り下ろすと共に霊力で練り上げられた斬撃がほぼ零距離で紅牙を襲う。

その時、切っ先が紅牙の胸に触れて切り裂き、多少の血を噴出させる。

 

「がああああああッ!!?」

 

忍の渾身の攻撃によって紅牙は岩肌の壁まで吹き飛んで激突する。

 

「紅牙…ッ!!」

 

それを見ていた秀一郎がすぐ紅牙の側まで走る。

 

「次は…!!?」

 

そう言って忍が皆の方を見ると、朱乃を庇ってバラキエルがハティによって噛み付かれて負傷してるのが見えた。

そこへイッセーが向かい、ハティを殴り飛ばしてバラキエルを介抱していた。

 

ちなみにスコルの方は…運悪くヴァーリチームの相手をしたばかりに右目、爪、牙をコールブランドを持つ剣士『アーサー・ペンドラゴン』によって抉られていた。

 

「ちっ…なら俺が相手するしかないか!」

 

倒れた紅牙を一瞥した後、忍がロキへと肉薄する。

 

「龍の波動を持つ者を立て続けに相手するのは大変だな!」

 

そう言うロキもまた忍へ向けて北欧の攻撃魔術を放っていた。

 

「その攻撃ならもう見た!」

 

忍は左をロキへと向けて"同じような魔術"を展開して迎撃する。

 

「ッ!? 我が北欧の魔術を?! 白龍皇が使ったのならまだしも貴殿も使うのか!?」

 

攻撃を迎撃されたのもそうだが、忍が北欧魔術を使ったことにロキは驚いていた。

 

「(俺も結構驚いてんだがな…)」

 

しかし、それは忍も同じことだった。

なんせ、ヴァーリから北欧魔術の本を少し貸してもらって読んだだけで、あとはこの戦闘の間にロキやヴァーリの使っていた魔術を見様見真似で行っただけなのだから…。

 

すると…

 

「誰だ、お前は!!?」

 

イッセーの方から素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

ロキとの戦闘中ではあったが、気になって耳を傾けていると…

 

「お、おっさん!!」

 

『なんだ、どうした!? また何か起きたのか!? また、乳関連のことか!?』

 

イッセーの声にタンニーンが反応し、そんなことを言い出す。

 

「乳神様って一体どこの神話体系の神さまだ!?」

 

…………………………。

 

イッセーの言葉に敵味方全員が間の抜けた顔になってイッセーを見る。

それはハティや負傷したスコル、量産ミドガルズオルムも同様だった。

 

『……ッ!! リアス嬢ぉぉ!! あいつの頭に回復をかけてやってくれぇぇぇ!!』

 

一拍を置いてタンニーンの絶叫が戦場に木霊する。

 

「イッセー! それは幻聴よ! どうしましょう、フェンリルの毒牙が頭にまで…!」

 

「イッセーさん、しっかりしてください!」

 

困った様子のリアスと、イッセーの頭に回復のオーラを飛ばすアーシア。

 

「ち、違うんです! 確かに朱乃さんのおっぱいから乳の精霊とかいうのの声がしたんです!」

 

そんなあり得ない弁明をすると…

 

「貴様…! うちの娘がそんな訳のわからないものを宿してるとでも言いたいのか!!」

 

当然ながら父親であるバラキエルがキレる。

 

「イッセー君…」

 

「「「「……………」」」」

 

忍を含んだ紅神眷属の何人かは白い目線をイッセーに送っていた。

 

『い、いや…みんな聞いてくれ。確かに俺にも乳の精霊とやらの声が聞こえる…。残念ながら、相棒は別の次元世界の神の使いを呼び寄せたらしい…』

 

ドライグの声が戦場に響く。

 

「バカな!?」

 

「そんな!」

 

「嘘だろ!?」

 

「ドライグまでダメージを!?」

 

しかし、そんなドライグの声もダメージを受けたせいだと思われている。

 

その後、イッセーに起きたことを簡潔に説明するなら…朱乃の本心を垣間見たことだろうか。

それによってバラキエルと朱乃は和解する第一歩を踏み出していた。

 

その結果…

 

バアアアアアッ!!!

 

イッセーの纏う鎧に備わる全宝玉から光が放たれ、レプリカ・ミョルニルから極大の光を発せられていた。

 

「これは…我等も知らない神格の波動を感じる…。異世界の、乳神? まったく、今回の赤龍帝は不思議が満載と見た!」

 

そう叫ぶと同時にロキはマントを広げて自身の影を拡大させると量産ミドガルズオルムを新たに複数出現させていた。

 

だが、その時…

 

ブオオオオオオンッ!!!

 

戦場に黒き炎が巻き起こり、ロキを含めスコルとハティ、量産ミドガルズオルムを覆い始めた。

 

『この漆黒の炎は…! 黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラか!?』

 

タンニーンが驚きの声を上げる。

 

「(ヴリトラ? となると匙君か!)」

 

忍がタンニーンの言葉をいち早く勘付く。

 

「(だが、この匂いは…)」

 

忍は考えるのを止めると、即座に行動に移す。

 

「くっ! なんだ、この炎は!? 体の自由が効かん! 特異な能力を持つ龍王がいたと聞いたことがあるが…まさか、こいつが!!」

 

ロキが黒き炎によって動きを封じられている間に…

 

「智鶴、ディメンションゲイトを頼む!」

 

「っ! はい!」

 

智鶴が忍の方を向いて魔法を展開する準備をする。

 

「フェイト、シア、俺に続け!」

 

両手の間に魔力を練り始める。

 

「了解!」

 

「はい!」

 

忍の言葉にフェイトとシアもまた魔力を練り始める。

それぞれ忍は氷、フェイトは雷、シアは焔の属性を付加させている。

 

「行くぞ! 三属性同時砲撃魔法!」

 

忍が叫んだ瞬間、フェイトとシアが同時にディメンションゲイトへと属性砲撃を放つ。

 

ブゥンッ!!

 

3人の放った砲撃魔法がディメンションゲイトに吸い込まれると共に黒い炎に包まれたスコルとハティ、量産ミドガルズオルムの周囲に小型のディメンションゲイトが出現し、砲撃の雨を降らせる。

 

「ディメンション・バスター、トリニティシフトッ!!」

 

この砲撃の雨と共にタンニーンやロスヴァイセの火球や砲撃も加わり、スコルとハティ、量産ミドガルズオルムは戦闘不能となり、残りはロキだけとなった。

 

「旗色は悪くなったか。では、今回はこのまま退散しようか」

 

そう言ってロキが黒き炎から抜け出すと空へと飛び上がる。

 

「待ちやがれ!!」

 

そこへ光輝くハンマー片手にイッセーがロキを追撃する。

 

「赤龍帝か。だが、残念。我は一時的に退却し、三度ここへと訪れ再び混沌を……」

 

そう言った瞬間…

 

ピシャアアアアッ!!!!

 

ロキを雷光が襲った。

それを放ったのはバラキエルと堕天使の血を一時的に覚醒させた朱乃の2人であった。

 

「がっ?! な、なにが…ッ!?」

 

いきなりのことに煙を上げて落下するロキ。

そこへ再び黒き炎が襲い掛かる。

 

「バカな!? これは先程解呪したはず!?」

 

再び黒き炎に捕らわれたロキに…

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

極大の光を放つミョルニルをイッセーが叩き込む。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『Transfer!!』

 

そして、当てた瞬間に増加させた龍気をミョルニルへと流し込んでその威力を極大まで引き上げる。

 

ドガガガガガガガッ!!!

 

その攻撃によってロキが崩れ落ちる。

 

「何故だ…聖書に記されし神が…何故、禁手なるものを…神滅具という神をも屠れるだけのものを消さずに残したのか…。そして、それを何故非力な人間などに持たせたのだ…?」

 

そう言い残しロキは完全に沈黙した。

 

 

 

こうしてロキとの戦いは終わった。

 

この戦いに乱入してきた紅牙と秀一郎の身柄は悪魔側が拘束。

 

量産ミドガルズオルムの軍団はロキと共に北欧へと連行されていった。

また、スコルとハティは何故だか知らないが、忍が引き取って療養させるとか言い出していた。

同じ狼として何か思うところがあったのか…?

というか、色々と問題にならないだろうか…?

 

あと、ヴァーリチームは知らないうちに退散しており、フェンリルも消息を絶っている。

ヴァーリ本人も相当な手傷を負ったはずだが…。

 

 

 

オーディンは会談に成功して無事に帰還した。

 

…のだが、護衛であるはずのロスヴァイセを置き去りにしてしまっていた。

そんな路頭に迷っていたロスヴァイセをリアスが最後の眷属として引き取ることになったとか…。

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