魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第四十話『同盟・ラント諸島の悲劇と決断』

~ラント諸島領内・遊覧船内~

 

「こちとら戦時中だってのにこの国は平和だねぇ…」

 

「滅多なことは言わない方がいいですよ。他にもお客さまはいらっしゃいますし…」

 

忍の不用意な一言を咎めるように隣に座るエルメスが周りを気にしてか困った表情で言う。

 

「とは言え、この国にもいつかは帝国の手が伸びる。この国の手っ取り早い攻略法は空路からの制圧だ。その術を手にした以上、数が揃い次第攻めてくるぞ?」

 

声のボリュームを下げながら忍は自らの見解をエルメスに言う。

 

「それは…」

 

忍の見解にエルメスも口篭もってしまう。

 

「しぃ君。あまりエルメスちゃんを困らせないの」

 

同じく忍の隣に陣取っている智鶴が忍に(たしな)める。

 

「それで…この人選はどういう意図なんだよ?」

 

前の席に座るクリスが忍の方を振り向いて尋ねる。

 

「対シュトーム戦を想定しつつ、外交的に役立ちそうなメンツを選んだつもりだが?」

 

「外交的に、ねぇ…」

 

忍の答えにクリスはエルメスに視線を投げ掛けた。

クリス的にはエルメス以外の発言力は低いだろうと考えているようだ。

 

「他の皆は大丈夫かな?」

 

クリスの隣に座るフェイトが砦での留守番を命じられた他の眷属の心配をしていた。

 

「問題ないだろう。陛下の言うことは聞くように言ってあるし…向こう側も無闇に兵を向けることもないだろうしな…」

 

「その根拠は?」

 

忍の言葉にクリスが疑問をぶつける。

 

「俺というイレギュラーな存在の帰還と、前回の戦闘で見せたシュトームを破壊しうる戦力を持ってることだ。よっぽどのバカか鬼才でもなければこのまま少し様子を見ると思う」

 

「その間に他の国と同盟を結ぼうってか…よく思いつくな…」

 

呆れたようにクリスは言う。

 

「陛下だって考えてなかったわけじゃないだろうさ。でも、他国を巻き込みたくなかったんだろ。戦火が広がれば無用な血を流す可能性だってあるし…」

 

「それなら…」

 

「だが…帝国はそんなことお構いなしに攻めてくる。その矛先がいつこの国やトルネバ連合に向くか。いや、トルネバ連合は既に交戦してるんだっけか」

 

この世界の情勢を思い出しながらエルメスに視線を向ける。

 

「はい。トルネバ連合国は独自の騎乗戦術を持った複数の部族が集まって成り立つ国で、基本的に部族間での交流がありつつ移動を繰り返してますから…帝国も彼らの補足には手間取ってるのだと思います」

 

「加えて一撃離脱の騎乗戦術だ。特定の部族を探し、それを撃破しようにもすぐに部族単位での移動を開始して撹乱行動も行う。帝国も苦戦する訳だ」

 

エルメスの説明に忍が自らの意見を付け加える。

 

「それなら先にトルネバに行きゃ良かったんじゃねぇの?」

 

クリスがそんな疑問を呟く。

 

「いや、トルネバは後回しだ。先にこっちを引き込んどいた方がトルネバとの交渉も上手く運びやすいと思うんだ」

 

そう言って遊覧船の向かう先…ラント諸島の首都が存在する外洋に面した島を見る。

 

「(さて…何とかしないとな…)」

 

これから忍の初になるだろう本格的な外交が始まる。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

「シュトームの配備状況は?」

 

「はっ…ラント諸島へ向けるための編成隊への配備は既に完了しております」

 

玉座に座るゼノライヤの問いに対して、その横に控えるギルがそう答える。

 

「では、明朝。空路にてラント諸島を制圧しに掛かれ。いくら天然の要塞だろうと空からの攻撃には脆かろう」

 

「……御意」

 

ギルがゼノライヤに背を向けて謁見の間を後にしようとした時だった。

 

「不満か?」

 

その背中にゼノライヤが声を掛けた。

 

「…………」

 

ギルは答えることはしなかったが、付き合いの長いゼノライヤには彼の纏う空気が少しだけ変わったのを感じていた。

 

ギルフォードは今まで剣のみに生きてきた生粋の騎士だ。

シュトームのようなカラクリで戦況が変われば騎士としては面白くないのだろう。

しかも黒ローブは量産したそれを帝国に流し続けている。

 

「安心しろ。最後に頼りになるのは己の力とお前の剣技だ」

 

「…………」

 

それを聞いてからギルは今度こそ謁見の間を出ていった。

 

「イーサ王国。果たしてどこまで俺のところまで迫れるかな?」

 

ギルが出ていった後、ゼノライヤは静かにそう呟いていた。

 

………

……

 

~ラント諸島・本島首都~

 

遊覧船から降りた忍一行は首都の街並みを見て歩いたり買い物したりしていた。

 

「って、これじゃあ観光じゃねぇか!?」

 

首都のとあるカフェにてクリスが大声を上げる。

 

「クリスちゃん、あまり大きな声を出しちゃダメよ?」

 

智鶴が周囲の人に頭を下げながらクリスを窘める。

 

「でも…どうして観光みたいなことを…?」

 

クリスの疑問にエルメスも忍に尋ねる。

 

「街並みを見ておきたかったのが一つ。もう一つは…」

 

注文したコーヒーを飲みながら忍は…

 

「さっきから俺達を尾行してる奴と話がしたいから、かな?」

 

そう言ってシルファーから渡されていた魔力石の一つをある方向へと向けて投げつけていた。

 

「ふむ…気付かれてたか」

 

魔力石を軽々と受け止めながらその人物は…昼間っから赤ワインを傾けていた。

 

「そんだけ強大な存在だとな…気付かない方がおかしいだろ?」

 

「(気付かなかった…)」

 

「(気付きませんでした…)」

 

忍の言葉にフェイトとエルメスがしょんぼりしたような雰囲気を醸し出す。

 

「ふふ、面白い少年だ」

 

その人物…オレンジ色の混ざった短い銀髪をオールバックにし、紅い瞳を持つ背が高く見た目の若い中年男性は席を立って忍達のテーブルへと向かう。

 

「初めまして、エルメス王女。わたくしがこのラント諸島の大統領を務めております、ミゲル・ガトランディと申します」

 

そして、エルメスの手を優しく包み込むと共に跪いて自己紹介をする。

しかし、不思議なことに回りの人物は特に驚いた様子がなかった。

 

「(また、とんでもない人物が釣れたな。周囲は殆ど無反応な上、護衛の1人もいないとなると…単に遊び回ってるのか、或いは…)」

 

忍は周囲の反応と、目の前の中年男性…ラント諸島の大統領『ミゲル・ガトランディ』を見据えて考え込んでしまった。

 

「他のお嬢様方も以後お見知りおきを…」

 

その隙にミゲルは他の4人にも紳士的な態度を取る。

 

「君もね」

 

但し、忍にはかなり軽い挨拶だけをしてだが…。

 

「(こいつ…絶対に女好きだ…)」

 

それを感じ取った…いや、確信した忍は深い溜め息を吐いてしまった。

 

「(ふむ…不思議な少年だ。様々な存在が混じってるようだが…)」

 

軽く挨拶してても忍の中に居座る"異常な存在"には気づいてるようだった。

 

「外でお話というのもアレですし、わたくしの執務室へ皆さんを案内しましょう」

 

ミゲルはエルメス王女の来訪に対し、そのように提案していた。

 

「それは助かる。こっちもそのつもりで来たからな…アポ無しってのは失礼だったろうからここで謝罪させてもらうが…」

 

それに応じたのは忍であった。

 

「君がこの集団のリーダーなのかい?」

 

忍が答えたのにミゲルは少なからず驚いていた。

 

「だったら?」

 

「随分と歳若い者を女王様は送り込んできたね」

 

「年の功、か…要件は大体の見当をつけてるらしいな」

 

「まぁね。伊達に何年も大統領はやってないからねぇ」

 

「(あわわ…)」

 

忍とミゲルの会話のやり取りをエルメスは内心ハラハラとしながら見ていた。

 

 

 

こうして忍一行はミゲルの案内によって大統領直轄区域にある大統領府(地球で言うホワイトハウスのようなもの)の彼の執務室へと特例として招待されることになった。

 

「それで…イーサ王国の王女様がわたくし共の国に何用かな?」

 

言葉は丁寧だが、その表情は国の長に座する者の厳格な面持ちをしていた。

 

「単刀直入に、我がイーサ王国と同盟を結んでもらいたい」

 

忍は真っ直ぐミゲルを見ると本当に単刀直入に要件を言った。

 

「やれやれ…やっぱりかい」

 

忍の言葉にミゲルは肩を竦めて困った様にしてみせる。

 

「残念ながら我がラント諸島は戦争には関与しない。それにいくら帝国が新型の兵器を使ってこようと自然の前には敵わないよ」

 

ミゲルはキッパリと言い切る。

 

「(シュトームの存在を知ってるのか?)」

 

ミゲルの物言いにそのような疑問が生まれる。

 

「ですが、帝国は我がイーサ王国やトルネバ連合国にも侵攻してきてるのは事実。いつこのラント諸島にも戦火が及ぶとも限らないんですよ?」

 

エルメスが王女としての顔でミゲルに言う。

 

「凛々しき姿もお美しいね。ですが、ご心配なく…例え空路を使用しても数に限りがある以上、わたくしが実力行使でお引き取り願いますからね」

 

笑顔で言うミゲルだが、その瞳は本気であった。

 

「数に限り、ね。果たしてどうかな?」

 

忍が横から口を挟む。

 

「どういう意味かね?」

 

忍の挑戦的な言葉にミゲルは忍を軽く睨む。

 

「シュトームの存在を知っていながら短慮してるように見えてね。実際に相対してないからわからないことだってある。情報も大切だろうが、情報だけじゃ決してわからないこともある」

 

忍もまたハッキリと言い切る。

 

「一理ある言葉だね。でも、心配無用さ」

 

「判断を誤れば、多くの民が被害を受ける。それじゃ遅いんだ」

 

「それ程のモノなのかい? 帝国の新兵器とやらは…」

 

「少なくとも空路経由での侵攻が予想される」

 

「海路が無理なら空路。当たり前のことだね。けど、空は地上よりも寒い。それほど長くは人の身は持たないと思うけど?」

 

「それすらも帝国は対策を講じてるはずだ」

 

ミゲルの言葉に忍も一歩も引かずに言い返す。

 

「確かに帝国ならそれくらいの技術を持ってそうだけどね。話し合いが通じない相手でもないだろう?」

 

「既に話し合いの段階を越えているからこそイーサ王国もトルネバ連合国も応戦の構えをしている」

 

「それがいけないんじゃないの? ゼノライヤ君だってそこまでの強行は…」

 

「しないと言い切れるのか?」

 

あくまでも平和的な交渉をする気のミゲルの物言いに今度は忍が尋ねる。

 

「………まぁ、侵攻してる以上、それは否定出来ないか」

 

しばし考える仕草をしてからミゲルはそう答える。

 

「話し合いを模索する姿勢は尊敬に値しますが…こと帝国に関して言えば、きっと無駄になる」

 

「その根拠は?」

 

忍の言葉にミゲルがその根拠を求める。

 

「ゼノライヤの世界征服という野心。それを増長させるように他次元からもたらされた技術。それを裏から支援しているだろう存在。そいつの思惑はともかく、ゼノライヤはそれすらも利用してるように見える」

 

「それこそ君の憶測ではないのかい?」

 

呆れたような表情でミゲルはそう言う。

 

「かもしれない。だが、タイミングが良過ぎるし、何よりもシュトームの配備率が速過ぎる」

 

「ふむ…」

 

ミゲルもその点については気になっているらしい。

 

「仮にその支援とやらがあり、ゼノライヤ君が積極的にそれを利用しているとしよう。だから、どうしたんだい?」

 

「なに…?」

 

ミゲルの言葉に忍は言葉を失う。

 

「別にそれでこっちが被害を被ってる訳じゃないし、何よりも彼らがここまで辿り着くなんて空路以外では有り得ないんだよ? だったら座して帝国がこちらと手を取り合うのを待てばいいじゃないか」

 

そんなミゲルの言葉に…

 

「楽観的過ぎる! さっきも言ったが、戦火が広がってからじゃ遅いんだぞ!」

 

机をバンッと叩いて忍は身を乗り出すようにしてミゲルに言い放つ。

 

「だから、そんな心配はないんだって…」

 

ギロッ!

 

「言ってるだろ?」

 

ミゲルの瞳孔が獣のように鋭く縦になると圧倒的な威圧感が忍達を襲う。

 

「「「「っ!?」」」」

 

今まで黙って成り行きを見ていた女性陣はその威圧感にビクリと体を震わせるが…

 

「……………」

 

忍だけはその威圧感に屈せず、ミゲルと同じように瞳孔が縦に鋭くなって睨み返していた。

 

「へぇ、君も同類なのかな? それにしては色々と混じってるみたいだけど…」

 

ミゲルは感心したように言いつつも、"忍の中に眠る存在達"に興味を抱いていた。

 

「では、同盟の交渉は決裂。お嬢さん方とゆっくりお茶でも楽しみたかったけど…残念ながらお引き取り願おう。あぁ、滞在に関してはご自由にどうぞ。ここで世界が平和になるのを待てばいいし…」

 

その言葉を最後にミゲルとの交渉は幕を閉じた。

ミゲルはあくまでも傍観者であり続けると言っているようなものだが、いつ帝国が仕掛けてこないとも限らない。

それ故か、忍達は大統領府から出た後、宿を取って一晩を明かすことにした。

 

事態はその翌日に動くとも知らず…。

 

………

……

 

翌日、ラント諸島本島上空にて…二個小隊ほどの機影があった。

 

「総員、シュトーム装着後は速やかに制圧行動に移れ」

 

クルーズモードのシュトームの上部に乗る上官が部下達に対して命令していた。

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

それに部下達は一斉に敬礼すると…

 

「行くぞ、チェンジ・アルファ!」

 

上官がシュトームを装着する。

 

「チェンジ・ベータ!」

「チェンジ・ガンマ!」

 

それに続いて部下達も各自それぞれの得意な形態へとシュトームを装着していた。

 

「難攻不落の自然要塞と称されていたラント諸島も空からの奇襲には抵抗も出来まい」

 

上官がゆっくりと降下しながら呟く間に、部下達は次々と首都に向けて降下していった。

 

 

 

上空のシュトーム部隊が降下し始めた頃…

 

「来たか…」

 

忍は宿屋の窓から顔を出し、上空から漂う微かな魔力の匂いを探知していた。

 

「来たって…まさか?!」

 

「あぁ…おそらくは帝国だろう」

 

クリスの驚きに忍は首を縦に振る。

 

「しぃ君、どうするの?」

 

そこに智鶴が尋ねる。

 

「俺達だけでも迎撃する……にしても市街地だとな」

 

そう言って忍は窓から見える街の様子を見る。

 

平穏。

そんな言葉がピッタリな程に日常的な風景が広がっていた。

あと少しでその平穏も破られてしまいそうだというのに…。

 

「空で迎え撃つにしても…飛べるのは俺とフェイトだけか…」

 

スコルピアのジェットフォームも飛行能力があるにはあるが、その場合だと智鶴がスコルピアを纏って戦えないというデメリットがある。

そのため、単純な飛行戦力は忍とフェイトに限定される。

クリスをジェットフォームに乗せて移動砲台にするという手もあるが…その分、忍とフェイトが抜けられたら無防備な街に被害が出ることになる。

 

3人を空に上げて街に降ろさないように迎撃するか、智鶴とクリスを地上に残して住民を守らせるか…。

忍はその二択で悩んでいた。

 

が、時間も少ない現状、躊躇してる暇もなく…

 

「智鶴はクリスと地上で待機。スコルピアとイチイバルで後方援護と降下してきた敵の無力化を頼む。俺とフェイトは空に上がって出来るだけ多くの敵を迎撃する」

 

忍はそう決断していた。

 

「あの…私は…?」

 

名前を呼ばれなかったエルメスが忍に問う。

 

「エルメス…悪いが、君はここに残っていてほしい」

 

「何故ですか?!」

 

「君は王女という身分だ。簡単に戦場に連れて行くわけにはいかない。以前は仕方なかったかもしれないが、今回はそういもいかなかい。ここは自国ではなく他国の領地なんだ。そんな場所で君が戦ったら問題になる」

 

「そ、それは…」

 

エルメスは王女という立場上、忍の言い分に反論する事が出来なかった。

 

「いいから、君はここで待っているんだ(こんな汚れ仕事は、本来なら俺だけで十分なんだがな…)」

 

智鶴、クリス、フェイトをチラッと見た後に巻き込んでしまったことを後悔してもいた。

 

「(後悔しても既に遅い、か…)……出るぞ!」

 

そう言って忍はネクサスを起動させると共に、窓から外へと飛び出す。

 

「吸血鬼、解禁!」

 

飛び出した瞬間、吸血鬼の力を解放して背中から蝙蝠の翼が出現する。

 

「し、忍君! それはかなり目立つから!」

 

そう言って追ってきたフェイトも既にバルディッシュを起動させて飛行魔法を使っているから目立つと言えば目立つが…。

 

「そうも言ってられんだろ。フェイトはスピードで攪乱してくれ。俺は力で押し切る!」

 

「もう…了解!」

 

何か言いたそうなフェイトであったが、忍の指示通りにするらしい。

 

 

 

「隊長! 下方から魔力反応が二つ来ます!」

 

「なに…?」

 

部下の報告に隊長格は眉を顰めた。

 

「ガンマ隊、誰でもいいから機影の姿を報告せよ!」

 

隊長格の言葉にガンマ形態の隊員がドルイドシステムで向かってくる二つの反応を確認する。

 

「っ!? 隊長! 例の狼と思われますが、報告にあった姿と微妙に異なります!」

 

「なんだと…?!」

 

部下の報告に隊長格もドルイドシステムを使って向かってくる機影を確認した。

 

「間違いない…奴だ! だが、どうしてこの国にいる!」

 

報告書にあった変身能力だと察し、服装も特徴的だったこともあって隊長格はすぐにそれが忍だと推察した。

 

「もう1人、見馴れん女もいるが…あいつの仲間か?」

 

忍の後ろから空を飛ぶフェイトの姿にも気付き、そう推察する。

 

「だが、たった2人! 恐れるに足らず! このまま降下を続行! 奴等が仕掛けてきても市街地へ降りろ! 何としてもラント諸島を制圧するのだ!!」

 

「「「「「「ハッ!!」」」」」」

 

隊長の号令に部下達は降下の速度を上げる。

 

 

 

「っ! 忍君!」

 

「気付かれたか!」

 

シュトーム部隊の降下速度が上がったことにこちらも気付く。

 

「フェイト! 砲撃で足止めだ!

「わかった!」

 

そう言って互いに魔法陣を展開すると…

 

「リフレクト・ミラージュ!」

 

忍が散弾式の魔力球を放つと、その魔力球が薄いガラスのようなモノへと変化する。

 

「プラズマ・スマッシャーッ!」

 

そこへフェイトが雷属性の砲撃を放つ。

 

その結果。

 

カッ!!

 

魔力ガラスを経由して雷属性の砲撃が拡散し、さらに魔力ガラスに反射したりして拡散型砲撃へとなってシュトーム部隊へと向かった。

ちなみに拡散した砲撃は魔力ガラスを経由する際に補填されるので砲撃が細長くなっていようと威力は維持したままとなっている。

 

「っ! アルファシールド展開!」

 

それを見てか、隊長が部下に指示を出して即座に対応してみせた。

 

「ちっ…対応されたか!」

 

「忍君! 街に…!」

 

忍とフェイトの魔法を防御しながらも十数名が忍とフェイトよりも下へと降下してしまっていた。

 

「クリスの弾幕に期待するしかないか…こっちはこっちの仕事をする!」

 

「うん!」

 

まだ視界内にいる敵に向かって忍とフェイトは直進する。

 

「来るか、化物め! 奴等に我等帝国の威光を知らしめよ!」

 

「「「ハッ!」」」

 

隊長の号令に近くにいた部下達が目標を首都から忍とフェイトに移行する。

 

「(近接特化と遠距離特化が数人、それに隊長格が1人か…早く片付けたいが…)」

 

忍は目の前の敵を分析しながらも街の方を気にする。

 

「(智鶴、クリス…無茶はするなよ!)」

 

出来る限り早く片付けようと忍は加速する。

 

 

 

一方で、街の方では…

 

「人間相手に撃つことになるなんてよっ!」

 

そう愚痴りつつクリスがイチイバルのシンフォギアを纏い、クロスボウが変形したガトリング砲と、腰部装甲から射出する小型ミサイルでシュトーム部隊を迎撃していた。

 

「なんなんだ、あの女は!」

 

「俺が知るかよ!」

 

ガンマ部隊がクリスの足止めによって空中でミサイルの迎撃をしている。

 

「堅気の人間を相手にそんな物騒なモノを向けるなんて!」

 

そう言う智鶴はスコルピアを纏い、スティンガーブレードでベータ部隊と剣戟を繰り広げている。

但し、智鶴自体の戦闘力は女王の駒で底上げされているとは言え、訓練された兵士を相手にするのには少し厳しいかもしれないが、そこはスコルピアの性能で何とか補っている状態とも言える。

 

「こっちの女も妙な鎧を纏ってる!」

 

「たかが小娘共が邪魔をするなッ!」

 

それに応戦する形でシュトーム部隊の兵達は無差別に攻撃を仕掛けてくる。

 

ズドドドドドドッ!!

 

そのためか、街にも被害が出始めていき、黒煙が上がり始める。

 

「きゃあああああ!!?」

「な、なんなんだ!?」

「帝国が攻めてきたんだ!?」

 

平和だった街の雰囲気もガラッと変わり、混乱とパニックが渦巻く。

 

「クリスちゃん! 絶対にこれ以上は降下させないで!」

 

「んなこと、わかってるけどよ…!」

 

いくらシュトームを纏っているとは言え、人間相手に引き金を引くことにクリスは若干の迷いがあった。

 

そして、その迷いが悲劇を呼ぶことになる。

 

「(あの女、俺達の武器しか狙ってない?)」

 

クリスの攻撃パターンを読んだ1人のシュトーム兵が一気に降下を開始した。

 

「あの野郎…!」

 

あくまでも武器破壊を目的とした照準のまま、その降下してきたシュトーム兵へと向ける。

 

「(やっぱりか! 行動さえ読めれば後は楽だ!)」

 

その動きにアルファシールドで射線上の武器を守りながら降下を果たす。

 

「っ!!?」

 

弾幕を抜けられたことにクリスの表情が一気に青褪(あおざ)める。

 

「懐にさえ飛び込めば!」

 

そう叫びながら両腕側面に装備されたベータウインガーをトンファーのように使ってクリスに襲い掛かる。

 

「くっ!?」

 

その攻撃をガトリング砲を盾にすることで何とか防ぐものの、弾幕が完全に止まってしまう。

 

「今だ!」

 

その隙を突いて残りのガンマ部隊も続々と降下を開始した。

 

「しまった…?!」

 

これで小隊の半数近くが街に降下してしまったことになる。

 

「クリスちゃん!?」

 

「おっと、テメェの相手は俺だ!」

 

クリスのフォローに行こうとした智鶴も1人のシュトーム兵に行く手を阻まれてしまった。

 

「ぐっ…!?(しぃ君…)」

 

智鶴とクリスがそれぞれ足止めをされている間に大半のシュトーム兵は首都の制圧活動に移行していた。

その影響で街のあちこちから黒煙が昇り始め、人々の悲鳴が聞こえる。

 

「きゃああああっ!!?」

「うわああああっ!?!」

「怖いよ、ママぁぁ…」

「た、助けて…この子だけは…どうか!」

 

その凄惨な悲鳴を聞き…

 

「(あ、あたしのせいで…また、こんな…!)」

 

クリスは地球でのノイズ被害と今現在ラント諸島で起こってることを重ね合わせてしまい、自分を責め始めてしまう。

そのためか動きが散漫になりつつある。

 

「もらった!」

 

その隙を突き、シュトーム兵がクリスの首を狙う。

 

「しまっ…!?」

 

クリスが回避しようにも遅過ぎた。

だが、そこで人間の防衛本能が働き…

 

ズドドドドドッ!!

 

シュトーム兵にガトリング砲の銃口が向けられて斉射してしまう。

 

「がっ!!?」

 

「ぁ…」

 

その斉射はシュトーム兵の胴体を貫き、その命の灯を撃ち消してしまう。

 

「ぁ…あ、あぁ…」

 

生の人間を殺した感触にクリスは手を震わせ、ガトリング砲を落としてしまう。

 

「あ、あたし…殺した…ノイズじゃねぇ…人間を…!!」

 

己の手を見ながらクリスはその場にへたり込んでしまう。

 

 

 

その瞬間、上空では…

 

「っ!?(クリス!)」

 

クリスの異変に駒を通して忍が感知すると…

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン! セットアップ!」

 

三つのエンブレムを魔力石と共に地上に向けて投げていた。

今まで魔力石を使わなかったために起動出来なかった狼夜の形見であるデバイス『ブラッド・イーグル』、『ブラッド・タイガー』、『ブラッド・ドラゴン』を初めて起動させていた。

 

「お前達、クリスのフォローを頼む!」

 

それだけ言うと次のシュトーム兵へと斬りかかっていた。

 

『命令受諾』

 

『了解』

 

『これより行動に移る』

 

忍の命令に三機のドライバーは地上へと降下した。

 

 

 

一方で智鶴は…

 

「くっ…!」

 

逃げ遅れた人々を守るべく、シュトーム兵と交戦していた。

 

「早く! こちらです!」

 

その後ろではエルメスが懸命な避難誘導をしていた。

戦いに参加できなくても何か出来るのではないかと出てきていたのだ。

 

「(しぃ君は…ずっとこんな苦しい想いを1人で背負ってきたんだ…)」

 

シュトーム兵を迎撃しながら智鶴は如何に忍が背負い込んできたのかを身に染みる想いで感じていた。

 

「(しぃ君は…1人じゃないんだよ?)」

 

そして、そんな考えが頭を過ぎっていた。

 

 

 

上空での戦闘は終わりつつあった。

 

「残りはアンタだけだ!」

 

アルファを纏った隊長を前に忍はファルゼンの切っ先を向けていた。

忍は己の手が既に血で汚れていることを自覚しているためか、シュトーム兵を容赦なく斬り捨ててその命を奪っていた。

 

「くっ…化物め…」

 

隊長はベータブレードとガンマライフルを抜くと忍に向かっていく。

 

「フェイト! ここはもういいからお前は智鶴のフォローを頼む!」

 

「うん、わかった!」

 

忍の指示でフェイトがその場から後退すると…

 

「ブリザード・ファング!」

 

忍は隊長を迎撃すつように中距離拡散砲撃を放つと同時に突撃を仕掛ける。

 

「この程度!」

 

アルファシールドから魔力バリアを発生させてブリザード・ファングを防ぎながらガンマライフルを忍に向けて魔力弾を発砲する。

 

「っ…!」

 

左手にシールド魔法を展開して魔力弾を防ぎながら間合いを見計る。

 

「(決める…!)」

 

そして、僅かな瞬間を見出すと同時に…

 

ヒュッ!

 

ファルゼンをさらに高くに投げた後、ミッションバックルからヴェルメモリーを抜き取る。

 

「血迷ったか!」

 

これが好機と見て隊長がベータブレードを構えて忍に肉薄する。

 

チャキッ!

 

そこへ放り投げたファルゼンが忍の手元に戻り、その拍子にヴェルメモリーを柄に装填することで斬艦刀を形成する。

 

「ファルゼン…モード・斬艦刀」

 

「うおおおおっ!!」

 

忍と隊長の影が交差する。

 

隊長の剣を上体を後ろに逸らすことで回避しつつ忍の斬艦刀は擦れ違い様の隊長の胴体を完全に捉える。

 

「がっ!!??」

 

「『断切牙(だんせつが)』ッ!!」

 

そう叫びながら力任せにファルゼンを振り抜き…

 

ズシャッ!!

ブシャアアアッ!!

 

肉の引き千切れる音と共に隊長の体が真っ二つになり、大量の血が噴き出しながら外海の方へと落ちていく。

 

「……………」

 

静かに佇んでいると…

 

「この匂いは……やっとご登場ってとこか?」

 

風に漂い、下から感じる強烈な存在感と匂いを感じ取りながら忍もまた降下した。

 

 

 

そして、忍が地上から感じた存在とは…

 

「………………」

 

圧倒的な存在感を放つミゲルが一歩、また一歩と地上に降りたシュトーム部隊へと歩を進めていた。

 

「やれやれ…まさか、彼の言った通りになるとは…」

 

その存在感とは裏腹に困った様な表情を浮かべていた。

 

「仕方ないな。少し、付き合ってもらおうかな?」

 

次の瞬間…

 

ドガッ!!

グシャッ!!

バキッ!!

ブチッ!!

 

様々な打撃音や怪音が響き渡った後には屍の山の上に立つミゲルの姿があったという…。

 

こうしてラント諸島、首都攻防戦の幕は閉じたのだった。

 

………

……

 

「…………」

 

戦後、クリスは1人放心状態であった。

その周りには忍が贈ったドライバー三機が警戒態勢を取っていた。

 

「クリスちゃん…」

 

「クリスさん…」

 

その様子を遠目から智鶴とエルメスが見ていた。

 

「俺が行かないと、だよな…」

 

そこへ忍がやってきてクリスの元へと歩いていく。

 

「あ、しぃ君…」

 

一瞬、止めようとも思った智鶴だったが、ここは忍に任せるようだった。

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン。ご苦労だったな…」

 

ドライバーを軽く一撫でしてから忍はクリスの隣に座る。

 

「なんだよ…」

 

口では平気な風を装っていても、いつもの強気な空気は感じられなかった。

 

「すまない…」

 

「ッ!!」

 

忍が謝った瞬間…

 

パァンッ!

 

乾いた音がその場に響いた。

 

「…………」

 

「…ざけんな……なんでお前が謝んだよ!」

 

それはクリスが忍の頬を思いっきり叩いた音であり、それを皮切りにクリスの感情が爆発する。

 

「あれはあたしがやったことだ! 生きるために相手を殺した! それだけだ! なんでそれでお前が謝んだよ!」

 

そう言いながらもクリスの両目には涙がいっぱいに溢れていた。

 

「クリス…」

 

「うっせぇ! 喋んな! お前に指図されることは何も…!!」

 

最後まで言い終わる前に忍がクリスの体を抱き締める。

 

「本当にすまない…お前達に十字架を背負わせる気は無かった。こんな形で背負わせてしまい…本当にすまないと思ってる」

 

「だから…謝んな!! それと…放せ…放せよぉ…」

 

ポカポカと忍から放れようとクリスは抵抗するが、男と女の力の差は歴然である。

 

「すまない……でも、いいんだ。泣き叫べば…俺がその十字架を一緒に背負ってやるから…」

 

そう言って忍はクリスを力一杯に抱き締めていた。

 

「うわああああああ!!」

 

クリスは忍の胸で泣き叫んでいた。

 

………

……

 

クリスとの一件の後、忍はミゲルと再交渉を行っていた。

 

「これが帝国のやり方だ。気楽に待ってくれるような相手じゃないんだ。俺達は早く戦争を終わらせたい。平和を待ち望む民の為に…それがシルファー陛下の願いでもあり、意志だ」

 

そんな忍の言葉に…

 

「…………わかったよ。同盟を結ぼう。こんな戦い、早いとこ終わらせないとね」

 

しばらく考えた後、ミゲルもそう答えていた。

 

「信用してもいいんだな?」

 

「あぁ…ここまでされると流石に、ね…」

 

そう言うミゲルの瞳は怒りを含んでいた。

 

「わかった。これからよろしく頼む」

 

「こちらこそ…」

 

こうしてイーサ王国はラント諸島との同盟を結ぶことに成功した。

 

「あぁ、そうそう…お嬢さんは泣かせるもんじゃないよ?」

 

「わかってるつもりだが…どうもこういうのは不慣れでな…」

 

「やれやれ…若者よ。そのくらい頑張ってみせるのが男の甲斐性だよ?」

 

「なんだか釈然としないな…」

 

真面目な話から一変、男同士でそんなことを話していた。

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