修学旅行も数日後に迫った日のこと。
「魔王が、俺に?」
「あぁ、親善の証としての第一歩だってよ」
忍は同行することになっている紅牙に眷属の駒の入ったケースを渡していた。
「これが眷属の駒か…少数精鋭による制度を冥族にもやれとでも言いたいのか?」
ケースを受け取りながら紅牙はそう言っていた。
「流石にそこまでは考えていないだろう。冥族には冥族の習慣があるんだ。それを守るための力を貸してくれるだけと割り切った方が良いと思うぞ?」
「はぁ…お前がそう言うと何故か甘く聞こえてならん。が、今回ばかりはその考えに同意してやる」
そう言って紅牙は中身を確認する。
中には忍と同じように王の駒を含めた一式が揃っていた。
「(しかし、解せん。俺が得た情報では"悪魔の駒に王の駒なんて無かった"はずだが…?)」
紅牙は王の駒を見ながらそんなことを考えていた。
「? どうかしたか?」
そんな紅牙の様子を怪訝に思ったのか忍が尋ねる。
「いや、なんでもない」
ボオォォッ!!
そう言って紅牙は自らの魔力を焔と共に駒へと流し込み、駒を体内へと取り込んでいた。
その後、紅牙の持つ眷属の駒は紅蓮の焔の如き色の駒へと変色していた。
「ある意味、俺らしい色か」
紅牙が眷属の駒を起動させてから数分後…。
「お待たせ~☆」
スーツ姿のセラフォルーがやって来た。
「(流石にコスプレはしないか…)」
セラフォルーの姿に忍はホッと一安心していた。
「それじゃあ、行きましょうか☆」
そう言って転移魔法陣を展開する。
ちなみにセラフォルーの同行者兼護衛は忍と紅牙以外に智鶴、シア、朝陽の3名が同行することになっていた。
………
……
…
~冥界の辺境・冥族の集落~
「到着~☆」
集落の中央に位置する広場に転移陣が現れると、そこから外交官一行が姿を現す。
「ここが…」
「あぁ…俺達、冥族の集落だ…」
そう言って紅牙が前に出て辺りを見回していた。
そこには
「(人の気配は…するが、どうもあまり歓迎ムードでもなさそうだな)」
忍は周囲の空気の匂いを嗅いで状況を軽く分析していた。
「狼君、そんな険しい顔しちゃノンノン☆ 私達は外交に来てるんだから☆」
セラフォルーは横チェケしながらそう言う。
「そんなノリの軽さでいいんですか?」
「このくらい明るくないと外交役なんてやってけないよ☆」
「(そういうものか…?)」
セラフォルーの言葉に忍は少し表情を緩めた。
「で、話し合いって言っても向こうは誰が代表になるのかしら?」
あまり事情に詳しくない朝陽がそんな言葉を投げつける。
「この地で代表となれば…おそらく…」
紅牙が何か言いかけた時だった。
「待たせた。魔王レヴィアタン」
低い声音での言葉が前方より聞こえてきた。
「っ!」
「ぁ…」
その声に紅牙とシアの表情が固まる。
「紅牙?」
「シアちゃん?」
忍と智鶴が2人の心配をしてる間に前方から言い様のない威圧感が迫る。
「「っ…?!」」
「(な、なんなの…この威圧感は…?!)」
「これは…もしかして…」
全員が声のした方に振り向くと、そこには…
ザッ…ザッ…ザッ…
こちらに向かって歩いてくる真紅の短髪、鋭い目付きに黒い瞳、渋くて壮年な顔立ち、外見からでも見て取れる筋肉質な肉体とそこに刻まれた数々の傷痕を持った、和装っぽい服装の隻眼隻腕の男の姿があった。
その左腰には鞘に収まった剣が帯刀されている。
「焔帝…」
「朱堕、さん…」
セラフォルーと紅牙が静かにそう呟いていた。
「(焔帝…?)」
忍は目の前の人物から発せられる威圧感に気圧されそうになるものの何とか踏み止まっていた。
「冥族代表、『
「いえいえ、そんなことは無いよ。私達も今さっき来たところだし☆」
冥族の代表で朱堕と名乗った男に対し、いつもの軽いノリでセラフォルーが前に出て対応していた。
「(この威圧感の中、いつもの調子で振る舞ってる…)」
「(流石は魔王か…)」
その様子を後ろから見ていた忍と紅牙は内心で改めて魔王というのが凄いのだと実感した。
「それで…そっちの若者共は? 記憶違いでなければ、そこにいるのは神宮寺の倅達のはずだが…?」
そう言って朱堕は忍達の方を見る。
「それに、確か神宮寺の倅達はお前達悪魔に対するテロ活動を行ったと聞く。それが何故一緒に行動している?」
鋭い眼光を紅牙とシアに向けながらセラフォルーに尋ねる。
「っ…」
「ぁ、ぅ…」
朱堕に睨まれ、畏縮した様子の紅牙とシア。
「それはですね…」
セラフォルーがフォローする前に…
「紅牙は俺との勝負に負けた。その際に復讐に染まってた魂を俺が霊力で軽減させたんだ。それにシアは元から優しい性格だからテロ活動も否定的だった。そんな2人を俺や魔王が保護したんだ。そして、冥族と悪魔が和解するために行動で示そうとしてるんだ」
忍が紅牙とシアの前に庇うように立つと、そう言い放っていた。
「貴様は…?」
朱堕の眼光が忍1人に定まる。
「(っ…)紅神…忍。俺も冥族の血を引いている…」
内心で恐怖を噛み砕き、そう名乗っていた。
「紅神? 聞かない名だな。本当に冥族なのか?」
「なら、証拠を見せる」
朱堕の疑念に答えるべく、忍は冥王の力を解放しようとする。
「よ、よせ、紅神! お前があの姿になるのは…!」
忍の意図を悟った紅牙が止めに入ろうとするが…
「はぁ…!!」
ボアアアアッ!!
忍の足元から紅蓮の焔が渦を巻きながら舞い上がる。
「っ…!!」
その焔を見て朱堕の目の色が変わる。
「忍さん、ダメェ!」
シアの叫びも空しく…
バサァ…!
「…………」
背中から紅蓮の4対8枚の翼を広げ、髪と瞳も焔髪灼眼へと変化した忍の姿が焔の渦の中から顕現する。
「これが…俺が冥族だという証拠だ」
そう言って視線を朱堕の方へと向けると…
「…………」
さっきよりも鋭い視線を忍へと向けていた。
「(っ…プレッシャーが増した…!?)」
なんで威圧感が増したのか、忍は理由がわからなかった。
「何故、貴様が"その姿"になれる?」
ゴアアアアッ!!
朱堕もまた紅蓮の焔を足元から出現させると渦を発生させてその中に身を投じる。
ただ、朱堕の焔は忍の焔よりも一回り大きく、熱量もかなりあったが…。
バサァ!!
そして、焔の渦の中から紅蓮の4対8枚の翼が広がると、焔が散って朱堕の姿を露にする。
「なっ…!?」
その姿に忍が絶句する。
「…………」
そこには紅蓮の翼に加え、髪と瞳が炎髪灼眼へと変化した朱堕の姿があったのだから…。
「紅蓮、冥王…?」
「そうだ。俺は紅蓮冥王を継ぐ家系の"一人息子"。そして、この血は娘達に継がれている。ならば、貴様のそれは一体なんだ?」
忍の呟きに朱堕が問いかける。
「こ、これは…」
忍が答えを言い淀んでいると…
「はいはい、そこまで~☆」
セラフォルーが2人の間に割って入った。
「もう、私達は何も戦いに来たわけじゃないんだから、そんな物騒な姿を早く解いてね☆」
「………」
バッ!
セラフォルーの言葉に従い、朱堕が元の姿に戻る。
「っ…はい…」
それを見て忍も慌てて元の姿に戻る。
「それじゃあ、改めてお話ししましょう?」
笑顔のままセラフォルーがそう促していた。
「わかった。ついてこい」
朱堕の先導によって会談場所へと移動を始める一同だった。
………
……
…
会談はその集落の村長が住んでいる洋館の一室で行われることとなった。
悪魔側の代表はセラフォルーに加え、護衛と後学も兼ねて忍と紅牙。
智鶴、シア、朝陽の3名は別室で待機している。
対する冥族側の代表は朱堕一人のみ。
護衛役として2人の女性が後ろに控えていた。
「って、緋鞠と雲雀さんじゃねぇか…」
朱堕の後ろに控えている2人の女性を見て紅牙が小さくボヤく。
「知り合いか?」
「昔馴染みで、どっちも朱堕さんの娘さんだ…」
忍の問いに紅牙が簡単に説明する。
「(さっき言ってた"紅蓮冥王を継ぐ娘達"ってことか…)」
忍はさっきのことを思い返していた。
「(もしかしたら…シャドウ絡みかも知れないな…)」
そこで忍は以前シャドウによって注入された2種の血のことを思い出した。
「(だが…一体どうやって…? シャドウは確か、"入手した"と言っていた。あの人を見る限り…シャドウや暗七がどうこう出来るような相手じゃない。つまり、"誰か別の人間があの人を…?")」
片方は吸血鬼、もう片方が目の前の人物の血だとしたら辻褄が合う、そう忍は考えていた。
「……というわけで、旧魔王派の勢力は弱体化しています。我々、現魔王派は冥族との和平を築きたいと考えているんです」
忍があれこれ考えてる間に会談は進んでいく。
「今更和平だなんて…信用出来ないわよ!」
朱堕の後ろで話を聞いていた女性の内、腰まで伸ばした白に近い桜色の髪を白いリボンでツーサイドアップにしていて、水色の瞳、幼さの残る可愛らしい顔立ちに小柄で華奢な体型の少女が声を大にして叫ぶ。
「静かになさい、緋鞠。今は会談の最中よ」
それをもう片方の女性、背中まで伸ばした白に近い桜色の髪、切れ長の眼に紫色の瞳、凛とした雰囲気を有した綺麗な顔立ちで、大人の女性を思わせる抜群のプロポーションの体型の女性が少女に釘を刺す。
「でも…雲雀姉様!」
「緋鞠。二度は言わないわよ?」
「うっ…」
「失礼しました。話の続きをどうぞ」
少女『
「(相変わらず怖ぇな…)」
そのやり取りを見て紅牙の表情が引き攣る。
「娘が失礼した。しかし、娘の言にも一理ある。我々は長い時を悪魔に虐げられてきた。無論、俺のような者が悪魔と対峙してきたが、それでも多くの冥族は悪魔に対して良い印象を持っていないだろう。中には悪魔に一方的にやられること自体に不満を募らせ、我慢の出来なかった者もいたようだが…」
そう言って朱堕は紅牙に視線を向ける。
「ぐっ…」
その言葉が自身を指してることを察し、紅牙が唸り声を上げる。
「自覚があるようだな」
「まぁまぁ、若い頃なんてそんなものですよ☆」
他人事のようにセラフォルーがフォローする。
「(この人は現在進行形で色々と突き抜けてる気がするが…)」
意識を現実に戻した忍はセラフォルーを見てそんなことを考えていた。
「一つ、伺っても…?」
意を決して忍は尋ねることにした。
「なんだ?」
「その眼や腕は…悪魔にやられたものなんですか?」
その問いによって場の空気が凍り付く。
「そう見えるか?」
「いえ…少し気になっただけですから…」
朱堕の返しに忍はそう答える。
「………数年前だ。白銀の鎧を纏った者との戦闘で失った。そいつからは悪魔特有の波動は感じられなかった。しかし、奇妙な技を操る奴だったことは覚えている」
朱堕は忌々しそうな表情で答えていた。
「白銀の、鎧…(まさか、エクセンシェダーデバイス…?)」
「心当たりでもあるのか?」
忍の反応に朱堕は問い質す。
「い、いえ…直接的にはありませんが……白銀の鎧についてはもしかしてと……他に変わった点はありませんでしたか?」
「ふむ…そうだな。そういえば、変わった武器を持っていた。山羊の頭でも模したような手持ち武器だったか…それがどうした?」
それを聞き…
「っ…山羊座のエクセンシェダーデバイス…」
「エクセンシェダーデバイス?」
ついつい口に出してしまったため、エクセンシェダーデバイスについての話を朱堕達にも話すことになった。
「そのような代物が…なるほど。道理で常軌を逸していたわけだ」
「そいつが父様を…」
話を聞いて朱堕は少しだけ納得し、緋鞠は敵意を剥き出しにしていた。
「どんな奴かまではわかりませんが…そいつは山羊座に認められた存在。エクセンシェダーは例外なく厄介な代物ですから…」
そんな忍の物言いに…
「それにしても…話を聞く限り、そちらにも既にいくつか所持してるように聞こえますね」
雲雀は冷たい目付きでそう尋ねていた。
「は、はい。俺は水瓶座。控室にいる1人が蠍座を所持してます」
その視線に忍は素直に答えてしまう。
「つまり、既に3機が確認されていると…」
雲雀がそう呟く。
それからまた和平について議論したものの、冥族側の悪魔側への不満が強いせいか、なかなか進展しないまま休憩ということになった。
………
……
…
「はぁ…フィライトでも実感したが、交渉事は緊張するな…」
宛がわれた部屋でお茶を飲みながら忍が溜め息を吐く。
「お疲れさま、しぃ君」
その両隣には智鶴とシアが陣取っていた。
「兄さん、どうかしましたか?」
テーブルの向かい側で突っ伏している兄にシアが尋ねる。
「あ? いや、あの姉妹が朱堕さんの護衛に就いてたからよ。俺は別の意味で疲れたわ…」
突っ伏しながら紅牙は答える。
「姉妹…? もしかして、雲雀さんと緋鞠ちゃん?」
シアはすぐに紅崎姉妹のことだとわかったようだ。
「他に誰がいんだよ。あ~、相変わらず怖いこと怖いこと」
「もう、兄さんは…そんなこと言ってるとまた怒られるよ?」
「別に此処にいる訳じゃないからいいんだよ。実際、怖いのは事実だろ?」
そう言った矢先…
コンコン…
部屋がノックされる音が聞こえ…
「どうぞ~☆」
セラフォルーが入室を許可する。
「失礼します」
紅牙の言った怖い人…雲雀が入室してきた。
「ぶぐっ!?」
身を起こしてちょうどお茶を飲んでいた紅牙が一気に
「おい、紅牙…」
目の前にいた忍に被害が及んでしまう。
咄嗟に智鶴とシアの前に薄い氷の壁を張ったので、そちらに被害は出ていないが…。
「ゲッホ、ゴッホ…!? ず、ずまねぇ…」
口元を押さえながら紅牙も謝る。
「神宮寺 紅牙、それにフレイシアス。お久し振りですね」
「シ~ア、久し振り♪」
雲雀の後ろからひょっこり緋鞠が顔を出す。
「雲雀さんに、緋鞠ちゃん!」
2人の来訪にシアが驚き、席を立って緋鞠の元に近寄っていく。
「(紅牙やシアと親しいのかな?)」
その様子を見ながら忍はそう考える。
ついでに魔法で紅牙が噴き出した茶で濡れた顔や服を乾かす。
「お初にお目にかかります。私は紅崎 雲雀。正式な挨拶がまだでしたので、こうして出向きました」
そう言って雲雀は直立不動の体勢から一礼する。
「同じく、紅崎 緋鞠よ」
緋鞠は雲雀よりも簡単な挨拶をする。
「これはご丁寧に。私は明幸 智鶴と申します。本日はしぃ君の付き添いでやってきました」
やんわりとした口調で智鶴が挨拶を返す。
「……流星 朝陽」
「紅神 忍だ」
朝陽は端的に、忍も名乗ってなかったのを思い出して挨拶を返す。
この中で雲雀と緋鞠が知らなそうな3人が挨拶する形となった。
「名乗っていただき恐縮です」
そう答えてから雲雀はその冷たい視線を紅牙に向ける。
「それで神宮寺 紅牙。何か釈明はありますか?」
その様子からさっきの話が聞こえてたという事実が明らかとなる。
「し、釈明も何も、事実だろ!」
動揺しながら紅牙はそう答える。
「そうですか。なら、テロリストの一員として悪魔と戦ってきた経験とやらを見せていただきましょうか」
「げっ!?」
雲雀の言葉を聞いて紅牙は明らかに嫌な反応を示す。
「ついでです。そこのあなたも魔王の護衛のようですから、どの程度の実力があるのか計ってさしあげます」
そう言って雲雀は視線を紅牙から忍に向ける。
「え、俺?」
「他に誰がいるのですか?」
忍の疑問に、当然と言わんばかりに即答する。
「よろしいですか? 魔王レヴィアタン」
そして、最後にセラフォルーに尋ねる。
「面白そうだから、オッケ~☆」
セラフォルーは二つ返事で承諾してしまった。
………
……
…
こうして忍達は洋館を出て、洋館の裏手にある少し開けた場所へと移動したのだった。
「1人ずつでは時間がもったいないですから…2人がかりできなさい」
忍と紅牙と対峙した雲雀はそう告げる。
「(凄い自信だ。いや、それほどまでの実力があるのか…)」
忍は雲雀の言葉に対し、本能的に嫌な汗を背中に浮かべていた。
「紅神。雲雀さんはマジで強いからな…俺も何度叩きのめされたことか…」
半ば諦めたような雰囲気で紅牙が忍の本能を確信へと変える一言を告げる。
「しぃ君、無茶だけはしないで…」
「(どのくらいの実力か計らせてもらおうかしら…)」
「忍さん…」
忍の心配をする智鶴とシアをよそに朝陽は雲雀の実力を計ろうとしていた。
「(シア?)」
シアの反応に緋鞠は少し首を傾げていた。
「さぁ、何処からでもかかって来なさい」
そう言って帯刀していた剣を引き抜く。
「最初から飛ばしてくぞ!」
言うが早いか、紅牙は即座に冥王と化していた。
「(最初から冥王に!? それほどまでなのか!?)」
隣にいる紅牙が冥王と化したのを見て忍も驚き…
「真狼、解禁!」
それと同時に忍も真狼の力を解放した。
「…………」
雲雀は直立不動で、剣も下を向けたまま待っていた。
「(嘘だろ…萌莉から少し叢雲流をかじらせてもらってっけど…隙がねぇ!?)」
ただ立ってるだけのはずなのに雲雀からは隙らしい隙を見つけられないでいた。
「先制、行くぜ!」
しかし、紅牙は隙が無いことがわかっていながら突貫しようとする。
「待て、紅牙!?」
慌てた様子で忍が制止するも、それを聞かずに紅牙は雲雀の周りに火炎球を複数配置する。
「(ちっ…なら、合わせるか!)」
それを見て忍も高速移動を開始し、雲雀の周りを旋回するように駆ける。
「ブレイズ・スティンガー!」
「ハウリング・バスター!」
雲雀の周りに配置された火炎球から針状のレーザーが放たれ、忍の右手からも砲撃が放たれる。
「…………」
静かに剣を振り上げて…
閃ッ!!
一回転するように一閃を放つと、剣圧のみでそれらの攻撃を弾き飛ばす。
「
さらにもう一回転することで剣の軌跡の後に焔を発生させ、その焔が環状の斬撃となって忍と紅牙に襲い掛かる。
「「ッ!!?」」
それを忍は身を屈めながらスライディングする要領で、紅牙は翼を広げて飛び上がるようにしてそれぞれ回避していた。
「その程度ですか?」
たったそれだけの攻防で雲雀は冷たい視線を忍と紅牙に向ける。
「っ! まだ…!」
先に動いたのは今度は忍だった。
「ブリザード・ファング!」
掌から放たれた拡散型の極細レーザー砲撃は一見無軌道に見せながらも雲雀に襲い掛かるが、それはフェイクであり、本命は雲雀に襲い掛かるレーザー砲撃の二割が周囲に一点集中していって出来上がった二つの球体にあった。
「紅牙!」
紅牙の名を呼び、球体の一つに忍が走る。
「っ! あぁ!」
忍の意図に気付いた紅牙がもう一つの球体の元に飛翔した。
「ダブル…!」
「エクシードッ!」
そして、2人して魔力を纏った拳で、ほぼ同時に球体を殴ると共に小型の収束砲撃が放たれ、二つの砲撃が別方向より雲雀へと襲い掛かる。
「
その攻撃に驚くこともなく、雲雀は淡々とした動作で焔を媒介にして分身体を作ると、二つの砲撃を受け止めてみせた。
受け止めた後、分身体は陽炎のように砲撃と共にスッと消えていまった。
「(読まれてた!?)」
忍は自分の攻撃が読まれていたことに驚きを隠せないでいた。
「頭の回転はそれほど悪くないようですが、私からしたらまだ甘いですね」
雲雀はそう切り捨てるが…
「(それでも姉様に対してあの攻撃…しかもあの紅牙を使うなんて、普通はなかなか出来ないわよね…)」
観戦していた緋鞠は忍に関心を持ち始めていた。
「(なら、次は…!)」
ギッ!
忍の瞳孔が縦に変化すると同時に真狼から吸血鬼の姿へと変化する。
「なっ?!」
「ふむ…」
その変身に緋鞠は驚き、雲雀は少しだけ眉を動かしてみせた。
「はぁ…!」
妖力を両腕に纏わせると同時にそこへ魔力と気をミックスさせる。
「
その拳を地面に叩きつけると、小規模な地割れが発生してそこから魔・気・妖の三種の力がミックスされたエネルギー柱が発生した地割れに沿って間欠泉のようにして幾重にも出現して雲雀へと迫る。
「姉様!」
「このくらい騒ぐほどでもありません」
緋鞠の叫びに雲雀はそう答えるが…
「(とは言え、これがフェイクの可能性もある訳ですが…)」
そう思いつつも目の前から迫る妖泉華に向かい、焔へと変換した魔力斬撃を放つ。
ギィンッ!!
妖泉華と焔の斬撃がぶつかった瞬間…
「グラヴィティ・ブレード!」
「
雲雀の左右より忍と紅牙がそれぞれファルゼンと重力球を刀剣状に圧縮した剣を持って斬りかかっていた。
「(やはり、先ほどのはフェイク。本命は左右からの挟撃)」
剣を地面に突き刺すと、両手をそれぞれ忍と紅牙の方へと向け…
「
紅蓮の焔で形成したボウリングのボール並みの火球を放っていた。
「くそっ!」
紅牙は火球を重力剣で斬り払うと同時に二の太刀は厳しいと判断して離脱する。
しかし…
「ッ!!」
ゴアアアッ!!
忍はファルゼンを盾にして紅蓮砲をまともに受けてしまい、黒煙が広がっていた。
「しぃ君!?」
「忍さん!?」
「紅神!?」
忍の行動を見て智鶴、シア、紅牙が驚くも…
「(わざと受けましたね)」
「(勢いを殺したらあっちみたいに一回仕切り直す必要がある)」
「(だからって姉様の攻撃を受けるなんて…)」
雲雀、朝陽、緋鞠は冷静に忍の行動を分析していた。
「(となると、次はこのまま…)」
雲雀が迎撃のために剣を引き抜こうとした瞬間…
バサァッ!!
黒煙の中から"紅蓮の翼が広がり"…
「
物凄い加速と共に"紅蓮冥王と化した忍"が跳び蹴りを雲雀に放っていた。
「ッ!?」
攻撃は予測していたものの、"忍の姿"を見て初めて驚きの表情を見せた雲雀は…
「ぐっ…!!?」
少し遅れてガード態勢を作って忍の跳び蹴りを防いでいたが、力が入ってなかったせいか数メートルの距離を地面を滑りながら吹き飛んでしまう。
「な、なんで…」
緋鞠もまた雲雀が攻撃を受けて吹き飛ばされた衝撃よりも忍の姿の方が衝撃的だったようだ。
「(今の加速は…紅神の冥王スキルか?)」
紅牙は紅牙で、今見せた忍の加速が忍の冥王スキルではないかと考えていた。
「(今のは…?)」
当の忍も自分の加速に驚いていた。
「いいでしょう。私も少し本気を出さなければならないようですね…」
キッと忍を睨む雲雀がそう言うと、紅蓮の焔が足元から発生しようとしていた。
「(マズい!?)」
雲雀の言葉を聞き、紅牙が慌てていると…
「何をしてるのですか?!」
第三者の声が介入していた。
声のした方を見ると、そこには肩まで掛かるくらいの銀髪、黒い瞳、優しそうな印象を与える端正な顔立ち、体の線はわりかし細く見える男性が立っていた。
「あなたは…?」
声の主に智鶴が代表して尋ねていた。
「僕は『グレイス・ゼムナシオ』。最近になってこちらでお世話になってる者です。それよりも…こんな場所で戦闘だなんて、何を考えているんですか?!」
グレイスと名乗った男性はそう言って近くにあった草木の状態を確かめていた。
「可哀想に…こんなに焼けてしまって…」
さっきの攻防で焼けてしまった花を優しく撫でていた。
「………
そう言うと雲雀は戦闘態勢を解き、地面に突き刺していた剣を鞘に収めてしまった。
「紅神 忍。あなたのその力…後で詳しく聞かせえてもらいます。拒否権がないことを忘れずに…」
そう言い残して雲雀はその場から立ち去ろうと歩き始めてしまった。
「あ、姉様。待って!」
それを慌てて追いかける緋鞠だったが…
「じゃあね、シア。それとアンタ! あたしにも説明なさいよ!」
一回振り返ったと思ったらそう言い残していた。
「アンタって…俺のことか?」
「他に誰がいんだよ」
そう言葉を交わしながら2人も元の姿へと戻る。
「まったく、自然は大切にしなくてはならないというのに…」
困ったようにグレイスはそこにあった草木の手入れを始めていた。
「なんか、すみません…」
グレイスの行動を見ていた忍は自然と謝ってしまった。
「いえ、僕も余計な口出しをしてしまったようですし…でも、危ないことはしないでください。この子達にも命は宿っているのですから…」
「は、はい。気を付けます」
グレイスの言葉に忍は素直に頷いた。
「紅神。そろそろ俺達も戻るぞ」
「あぁ、わかった。では、グレイスさん。また機会があれば…」
紅牙に呼ばれ、忍はグレイスに一言挨拶してからその場を後にする。
「えぇ」
グレイスもそう答えると、草木を手入れを続ける。
しかし、忍達がいなくなって数分が経った頃…
「うっ!?」
グレイスは突然頭を両手で押さえて苦しみだす。
「だ、ダメです…で、てこないで、ください…!」
独り言のように呟いた後…
「ああああああああ!!!」
バタンッ!
叫び声と共にグレイスはその場で倒れてしまった。
ひょい!
しかし、すぐさま両手を使って起き上がる。
"そこにあった花を踏み潰して"…。
「ったく、無駄な足掻きをしやがって」
その口調はさっきと違い、粗暴な感じとなっていた。
「素直に"俺に体を明け渡せばいいものを"」
そう言いながら懐から双子座のシンボルと太陽の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のトパーズを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出した。
「おい、"ジェミニ"。さっき反応があったな?」
『あぁ、この反応は…アクエリアスとスコルピア。水瓶座と蠍座だ』
チェーンブレスレットから返答がくると、グレイスはクククと笑い出す。
「2機とは僥倖じゃねぇか。早速、頂きに行くとするか」
そう言ってグレイスはチェーンブレスレットを掲げ…
「サンシャイン・ジェミニ、起動しろや!」
その瞬間、黄金の光がグレイスを包み込み…
パァンッ!!
光が弾けると共にグレイスの体には額にヘッドギア、胸部に太陽の紋章を象った大きなトパーズを嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、右腕に表面に日の出と共に姿を現す天使の絵が刻まれた篭手、左腕に表面に日没時の太陽の上に座り込む悪魔の絵が刻まれた篭手、腰部にプロテクター、両足に足具がそれぞれ装着されていた。
「さぁ、祭りの始まりだ!!」
………
……
…
『『っ!?』』
「アクエリアス?」
「スコルピアちゃん?」
会談を再開するために移動していた時のこと、突然としてアクエリアスとスコルピアの2機が光りだし、それに気づいた忍と智鶴が驚いたように2機を取り出す。
『マスター! 双子座が急接近してきます!』
『これは…既に持ち主が、いると推察します…』
「なに!?」
2機の報告に忍が驚くと同時に…
バリィンッ!!!
廊下の窓を突き破って白銀の鎧を着た者が侵入する。
「ッ!!」
それを見て忍と紅牙はセラフォルーの前に、朝陽も智鶴とシアの前にそれぞれ守るように出ていた。
「テメェらが水瓶座と蠍座を持ってんだな?」
その声を聞き…
「っ?!」
「お前はさっきの…!?」
忍と紅牙は目の前の人物を確認すると…
「現世の神?!」
後ろのセラフォルーもかなり驚いた様子でその人物の異名を叫んでいた。
「グレイスさんが、現世の神!?」
その叫びを聞いて忍はさらに驚いていた。
「あぁ? 魔王がいるじゃねぇか。冥族に何の用だ?」
さっきまでの優しそうな雰囲気ではなく、粗暴で好戦的な雰囲気を醸し出しながらセラフォルーに尋ねていた。
「ここには和平を申し込みに来たのよ☆ そういうあなたもどうしてここに?」
逆にセラフォルーが尋ねると…
「俺はエクセンシェダーデバイスをかっぱらう為に来たのよ!」
グレイスはわかりやすい返答をしていた。
「エクセンシェダーデバイスを集めるとでもいうのか? その理由は?」
忍の疑問には…
「目の前に"力"があるならそれを欲するが、人の業だろうが! まぁ、俺は天使と悪魔のハーフだが…!」
バサァ!!
そう答えると共に右側に5枚の天使の白き翼と左側に5枚の悪魔の黒き翼を広げてみせた。
「さぁ、大人しく渡すか。それとも抗って奪われるか…好きな方を決めな!!」
ここにエクセンシェダーデバイスを巡る戦いが始まろうとしていた。