魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第四十三話『否定されし絆、暴走する龍騎士』

冥族との和平交渉を成功させるべく、再び朱堕との会談へと向かう途中のこと。

双子座のエクセンシェダーデバイス『サンシャイン・ジェミニ』を持つ天使と悪魔のハーフ『グレイス・ゼムナシオ』が忍と智鶴が所有する水瓶座と蠍座のエクセンシェダーデバイスを奪取しようと襲撃してきた。

 

「そんな欲に駆られた意志を持ちながら堕天してないなんて…!」

 

セラフォルーはグレイスが堕天していないことに対して驚いていた。

 

「(そういえば、よくイリナさんが堕天しそうになるってイッセー君が漏らしてたっけ?)」

 

転生天使ですら欲を持ちそうになると堕天しそうになるのに、目の前にいるグレイスの天使の翼は一点の穢れもない真っ白であった。

 

「はっ! "表"がいんのに堕天なんぞするかよ!」

 

「("表"…?)」

 

グレイスの言葉に忍を含め数名が反応する。

 

「ともかく、死にたくなけりゃさっさとエクセンシェダーデバイスを渡しな!」

 

グレイスは残忍な笑みを浮かべるとそう言い放つ。

 

「はい、そうですか。と渡せるものかよ!」

 

そう言うと忍もアクエリアスを起動させていた。

 

「ははっ! そう来なくちゃな!!」

 

忍の返答を聞き、グレイスは一気に距離を詰める。

 

「っ?!(速い…!)」

 

ガシッ!

 

詰め寄ると同時に忍の顔面を掴み…

 

「オラァ!!」

 

ズガンッ!!

 

壁を突き破るようにして忍の体を叩き付けると、そのまま外へと出て地面に向かって勢いよく落下する。

 

ズドンッ!!

 

「がっ!?」

 

背中から地面に激突したため、一瞬だけ息が詰まる。

 

「まだまだぁ!!」

 

ズザアアアアアッ!!

 

「っ!!?」

 

地面に叩きつけながら忍を引き摺るようにしてダメージを蓄積させていく。

 

「しぃ君を放しなさい!!」

 

そこに堪忍袋の緒が切れたらしい智鶴がスコルピアを纏い、スティンガーブレードをグレイスに向けた状態で上階から飛び降りる。

 

「おっと!」

 

忍の顔面から手を放すと同時に…

 

ゲシッ!!

 

忍を蹴り上げて智鶴の方へと吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

「しぃ君?!」

 

慌ててスティンガーブレードの構えを解くと、忍を抱き留める。

 

「はぁ!!」

 

その横から朝陽が飛び出し、ヴェルセイバーを起動させて斬りかかっていた。

 

「甘い!」

 

朝陽の斬撃を真剣白刃取りの要領で指のみで受け止めてみせた。

 

「なっ!?」

 

まさか、指で受け止められるとは思ってもみなかった朝陽は一瞬動きを止めてしまう。

 

「デイライト、起動!」

 

『サニィスフィア、生成』

 

すると、その隙にトパーズイエローの魔力粒子が一点に集中し、直径20cmくらいの球体『サニィスフィア』が出来上がる。

 

「しまっ…」

 

『朝陽ちゃん!?』

 

セイバーの悲鳴も上がる。

 

「朝陽!」

 

智鶴に抱き留められたまま両手を組んでサファイアブルーの魔力をチャージする。

 

「(間に合え!)」

 

『バリアライズシステム、稼働』

 

ドォンッ!

 

サファイアブルーの魔力が忍から放たれると…

 

キュインッ…

 

それが朝陽を包み込む。

 

「オラァ!!」

 

それと同時にサニィスフィアの加わった一撃が朝陽の腹部に直撃する。

 

「かはっ!?」

 

ドゴォンッ!!

 

勢いよく吹き飛ばされた朝陽は洋館の壁に激突する。

 

「朝陽さん!」

 

シアが飛び降りて朝陽の元へと駆け寄る。

 

「ふむ…今一瞬、俺の攻撃が軽減されたな?」

 

朝陽を殴った時の手応えに違和感を覚え、グレイスはジェミニに尋ねる。

 

『アクエリアスの固有魔法だ。アレは対属性魔法に絶大な効力を発揮する。俺の固有魔法は炎熱も含んでいるから対象になったんだろうさ』

 

ジェミニは冷静にそう答える。

 

「なるほどな。面白い固有魔法じゃねぇか」

 

バキッ、ボキッ、っと指を鳴らしながらグレイスは邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「なぁ、アクエリアス。お前もあいつの固有魔法を知ってたりするのか?」

 

グレイスとジェミニのやり取りを見て忍はアクエリアスに尋ねた。

 

『はい。ジェミニの固有魔法は空間設置系誘導制御型射撃魔法で、システムはそれを活かすことに特化した仕様になっています。我々は互いの仕様を知っていますが、散り散りになった後にエクセンシェダーデバイス同士が邂逅する例は少ない上、このように争う場合もあることなど想定していませんでしたから…』

 

「そう、だったのか…」

 

アクエリアスの説明に忍は目の前のグレイスを見る。

 

「だからと言ってこっちの邪魔されて黙ってられっかよ」

 

忍の隣に紅牙が降り立つ。

 

「しぃ君!」

 

智鶴はテイルユニットから次元刀を取り出すと、それを忍に投げ渡していた。

そして、智鶴もスティンガーブレードを構えて忍の隣まで移動する。

 

「平気よ。ボソッ(ありがと…)」

 

シアの介抱から復活した朝陽が智鶴の横に移動する。

 

 

 

「まったく…何事かと来てみたら一体何が起こってんのよ?」

 

セラフォルーのいる上階の廊下に朱堕達がやってくる。

 

「一言で言うなら…現世の神、降臨☆ かしら?」

 

セラフォルーの単純明快な説明に…

 

「現世の神。噂に聞く天使の悪魔のハーフか」

 

「"神"と称するには(いささ)か邪悪な気がしますが…」

 

朱堕と雲雀はグレイスを見てそんな感想を抱いていた。

 

「そんな相手に4人で大丈夫なわけ?」

 

他人事のように緋鞠は戦いの様子を眺めていた。

 

 

 

「頭数揃えても結果は同じだが…いいぜ。束になって掛かってこい!」

 

そう言うと同時にグレイスは一足に駆け出す。

 

「何度も同じ手を食らってたまるかよ!」

 

忍はすぐさま左手に妖力を練って前方に蜘蛛の巣を展開する。

 

「あぁ? なんだ、こりゃ?」

 

粘着性の高い蜘蛛の巣に四肢を取られ、グレイスは勢いを殺されて拘束される。

 

「ディメンションゲイト、展開!」

 

智鶴の目の前にゲイトが開き、グレイスの周りに無数の小型ゲイトが展開される。

 

「ハウリング・バスター!」

 

「ブレイズ・スティンガー!」

 

忍と紅牙が同時にゲイトに向かって砲撃魔法を放つと…

 

チュドドドド!!

 

小型ゲイトから無数の砲撃が雨のようにグレイスに降り注ぎ、土煙が舞っていた。

 

「(この程度で終わるほど相手は甘くない!)智鶴! 朝陽!」

 

「はい!」

 

「言われなくても!」

 

忍の合図で三方向より一斉にグレイスへと斬りかかっていた。

 

ブチッ!!

 

しかし、何かを引きちぎるような音と共に…

 

「サニィボム!」

 

ゴオオッ!!

 

三つのサニィスフィアが斬りかかった3人の至近距離で爆発した。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃああ!?」

 

「っ!!」

 

その爆発の熱量に忍達は一旦退かざるを得なかった。

 

「この程度か?」

 

土煙の中から"ほぼ無傷"のグレイスが悠々と歩いてくる。

 

「マジ、かよ…」

 

1人、後方で見ていた紅牙がグレイスの状態を見て唖然としていた。

 

「次はこっちからだ。ジェミニ!」

 

『コアドライブ、出力上昇。サニィスフィア、大量展開』

 

グレイスの周りに大量のサニィスフィアが展開される。

 

「数の勝負なら負けねぇぞ!」

 

紅牙も冥王へと化すと同時に大量の焔と重力の魔力球を展開する。

 

「俺と撃ち合いで勝負する気か? 身の程を弁えな!!」

 

そう言った瞬間、グレイスの周りに展開されたサニィスフィアが一斉に紅牙へと向かう。

 

「はぁ!!」

 

それに対抗するようにして紅牙も焔と重力の魔力球を撃ち始めた。

 

しかし…

 

ギュインッ!!

 

「なにっ?!」

 

紅牙の弾幕はグレイスのサニィスフィアによって簡単に打ち砕かれてしまっていた。

 

「質が違うんだよ! 質が!!」

 

グレイスの言う通り、これは質の違いによるところが大きい。

紅牙は自身の魔力を糧に魔力球を生成したのに対し、グレイスはジェミニのコアドライブの恩恵による無尽蔵とも言える魔力を球体に注ぎ込んでおり、グレイス自身の魔力はほぼ使っていない状態ながら質の高い魔力球を生成しているのだ。

 

「くっ…!」

 

紅牙もそれを悟るとすぐさま回避行動に移行する。

 

「無駄だ!」

 

その瞬間、グレイスは全方位にサニィスフィアを解き放っていた。

 

「広域殲滅型か!?」

 

「っ!」

 

紅牙の叫びを聞き…

 

「アクエリアス! コアドライブ最大稼働と同時にシェライズを広域散布!」

 

忍がアクエリアスへと指示を出す。

 

『了解です! コアドライブ最大稼働! シェライズを広域拡散型にして散布シフトします!』

 

パアアア!!

 

アクエリアスの胸部にあるサファイアが輝き、各部からサファイアブルーの魔力粒子が濁流のように放出される。

 

「ついでだ! アクアフィールドシステム、及びフリストシールシステム起動!」

 

さらに忍はアクエリアスに搭載されたシステムを起動させるように指示する。

 

『っ!? しかし、この状況ではマスターへの負担が!!』

 

「いいからやれ!」

 

そんなアクエリアスの忠言を無視して忍は実行を強要する。

 

『は、はい! アクアフィールド形成、並びにフリストシールシステムを稼働させます!』

 

忍の強い言葉に押されてアクエリアスも指示を実行する。

 

サファイアブルーの魔力粒子の一部が水へと変化し、忍を中心に広大な水面が広がる。

 

『目標、サニィスフィア群!』

 

「ブリザード・ファング・エクゼキューションシフト!!」

 

バシャンッ!!

 

そう叫んで水面を殴ると同時に…

 

ギュオオオオッ!!

 

全方位に放たれたサニィスフィアに向かって水面から冷気を纏った水弾が打ちあがり、サニィスフィアを相殺していく。

 

 

 

それを洋館の二階から見ていた朱堕達は…

 

「ほぉ、あの数を捌くか」

 

「これがエクセンシェダーデバイスの性能というわけですか。なるほど、大したものです」

 

朱堕はグレイスの放ったサニィスフィア群を捌いてみせた忍に、雲雀はエクセンシェダーデバイスの性能にそれぞれ関心を示していた。

 

「(それにしても…)」

 

朱堕は視線を忍に向けたまま考える。

 

「(奴は何者だ? "紅神"という冥族に記憶はないのは確かだ。しかし、奴がなってみせたのは間違いなく冥王。しかも俺の家系である紅蓮冥王だ。紅蓮冥王は例外なく『紅蓮の焔』をベースにした冥王スキルを発現する。それ故か一族の者は焔以外の属性が苦手な傾向にある。しかも氷という全く正反対の属性を操るなどと…)」

 

そこまで考えて朱堕は先ほど雲雀からの受けた報告を思い出す。

 

「(複数の解放形態を持っている、か。雲雀が確認しただけでもイヌ科系、吸血鬼、そして紅蓮冥王の三つ。冥王スキルに関しては不明だと聞いているが…神宮寺なら何か知ってるかもしれんな…)」

 

朱堕がそのようなことを考えている横では…

 

「(紅神 忍。何故、力を解放しないのですか? 相手が相手なだけに出し惜しみしてる場合でもないはずですが…)」

 

雲雀は先の模擬戦のことを思い出していた。

 

「(最後の一撃を受けた時、彼から感じたのは確かに"五気"。本来ならあり得ないことですが、私も緋鞠も持たない力の波動…つまり、アレは"龍気"。ということは彼はまだ何かを隠している。それを何故出さないのか…理解に苦しみますね)」

 

雲雀は忍が無意識の内に発揮した力の波動を感じ、それと同時に疑問を抱いていた。

 

 

 

忍がサニィスフィア群を相殺した直後…

 

ズキリッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

忍は激しい頭痛を感じて頭を抱え込む。

 

「キャパオーバーか。だが、雑魚にしてはなかなかやるじゃねぇかよ!」

 

忍の様子を見てグレイスはそう言う。

 

「エクセンシェダーデバイスは使用者の精神力や神経なんかのキャパシティにも左右されるからな。俺は平気だが、お前は明らかに俺の攻撃に合わせるべく自分のキャパ以上のことをしたんだ。その反動を受けてもおかしくないわけだ」

 

残忍な笑みを浮かべながらグレイスは忍へと近付き…

 

「がら空きなんだよ!!」

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?」

 

忍の腹を思いっきり蹴って後方へと吹き飛ばす。

 

「しぃ君?!」

 

その光景を見て智鶴がキッとグレイスを睨む。

 

「なんだ? そんなにそいつのことが大事なら籠ん中にでも入れて飼っとけや!」

 

そう言うとサニィスフィアを手の中に作り出すと…

 

「そら、守ってみろ!」

 

サニィスフィアを砲撃へと変換して忍へと撃ち込む。

 

「ッ!!」

 

智鶴は目の前にゲイトを作り出すと、一気に加速してその中へと入り…

 

キュインッ!

 

忍の前へと移動し、忍を庇うようにして背中で砲撃を受ける。

 

「あ、ぐっ…!?」

 

その熱量と衝撃に苦悶の表情を見せる。

 

「っ?! 智鶴!?」

 

「しぃ君…大丈夫…?」

 

しかし、それでも智鶴は忍の前では優しい微笑みを見せる。

 

「女だからって俺は容赦しねぇぞ!!」

 

ドオォォッ!!

 

言葉通り、グレイスは手を緩めることはせずにサニィスフィアを再展開すると続けざまに智鶴へと砲撃を食らわせていく。

 

「ぐっ…あぁ!? きゃっ?!」

 

いくらスコルピアの鎧で守られていようと衝撃と熱量によるダメージがどんどん蓄積していく。

 

「だ、ダメだ……やめろ…」

 

目の前で最愛の人が傷つく様を見せつけられ、忍の中でどす黒い感情が湧き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"殺せ…"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍の理性が限界に達した。

 

 

 

「いい加減にしろ!」

 

「このっ!!」

 

「もう、見てらんないわよ!」

 

グレイスの容赦ない攻撃に紅牙と朝陽、洋館二階から飛び出した緋鞠の3人が同時に仕掛けていた。

 

「邪魔なんだよ! ジェネシス・オーラ!!」

 

ゴオオオオッ!!

 

グレイスから聖魔混濁のオーラが放たれると、向かってきた3人を阻むようにして防ぐ。

 

「はぁッ!!」

 

そして、オーラを膨張させて爆発させると、その勢いで3人を吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

「ちっ!?」

 

「くっ!?」

 

それぞれ三方向に吹き飛び、洋館の壁や岩場、木々といった障害物に背中から衝突する。

 

「さて…そんじゃあ、続きと洒落込(しゃれこ)もうぜ!!」

 

そう叫んでグレイスが再び忍を庇う智鶴へと砲撃を放った時…

 

バシンッ!!

 

忍の方から伸びた黒い影によって砲撃の軌道を逸らしていた。

 

「あぁ?」

 

その光景に怪訝な表情で忍の方を見ると…

 

「グウゥゥゥ…」

 

低い(うな)り声と共に"龍の尾"が忍の方から伸びて智鶴を守っていた。

 

『マス、ター…?』

 

アクエリアスも主の身に何が起こったのか理解出来ない様子だった。

 

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアッ!!!!」

 

その咆哮と共に忍から濃密な龍気が柱状となって天まで立ち昇り…

 

ゴゴゴゴゴゴ…!!

 

周囲一帯に地響きを轟かせていた。

 

「しぃ、君…?」

 

目の前で()える忍を智鶴は呆然と見る。

 

バッサァ!!

 

柱の中で忍の容貌が変化していき、先ほどグレイスの砲撃を弾いた龍の尾に加え、背中から1対2枚の龍の翼が生え、アクエリアスを強制的に解除したかと思えば、その代わりに鎧のような甲殻が忍の体を覆っていき、顔には龍の頭部を(かたど)ったような仮面が目元を隠すようにして装着された出で立ちとなっていた。

そして、仮面の眼に当たる部分は真っ赤に染まりきっており、内側にある忍本来の眼球もまた紅く染まり、瞳は理性を完全に失っていた。

 

「なんだ、テメェ…その姿は?」

 

ピクリと眉を動かしたグレイスが目を細くして忍に問いかける。

 

「ガアアアア…!!」

 

「もはや言葉もない獣か」

 

忍の反応を見てそう称した。

 

「紅神!?」

 

「なによ、あれは…!?」

 

今まで見たこともない忍の姿に紅牙と朝陽が戸惑いの声を漏らす。

 

「荒ぶる、龍…?」

 

その姿に緋鞠はそう呟いていた。

 

 

 

その光景を同じく見ていた洋館二階のメンツは…

 

「これが…龍気の正体…!」

 

「龍気…だと!」

 

「これはあたしも知らなかったわ…?!」

 

それぞれ差異はあれど、それでも忍の変化には一様に驚いていた。

 

 

 

そして…

 

「どうも、その女がテメェの"アキレス腱"みてぇだな」

 

忍が変身したのは智鶴が傷ついたからだと察したグレイスはそう言い放つ。

 

「私が…しぃ君の…?」

 

忍の変身を目の当たりにしてからグレイスの言葉を聞いたため、智鶴はその場に両手をついて俯いてしまう。

 

「自覚がなかったのか? どっちもどっちだが、守りたいのなら籠に入れて飼い殺しちまいなッ!! それが一番楽な選択だ。一緒にいようとするから気持ちが擦れ違う。互いに傷つけ合う。傷を負ったのを自分のせいだと錯覚する。それを補おうと相手の意思を無視して行動する。その繰り返しだ! お前らはその典型とも言える考えの甘い一組だ」

 

「そんなこと…!」

 

グレイスの言葉を否定しようと智鶴は顔を上げて振り向くが…

 

「何が違う? 現に見ろ! 奴はお前が傷つくのに耐えられず力を暴走させた。その前も奴が傷つくのに耐えられずにお前が盾になった。これは現実なんだよ!!」

 

即座にグレイスが現実を示した。

 

「っ!!?」

 

それを聞いて智鶴は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けて愕然とする。

 

「所詮は子供のお遊びなんだろ? テメェらの信頼や絆なんぞまやかしに過ぎないんだよ!!」

 

「あ、ああ…」

 

グレイスの言葉に智鶴はイヤイヤするように首を振りながら頭を抱える。

 

「いやあああああああ!!」

 

智鶴の叫び声と同時に…

 

「ガアアアアッ!!!!」

 

忍が咆哮と共に尋常でない速度でグレイスに肉薄する。

 

「はっ! 怒ったのか? だが、テメェの攻撃なんぞ…」

 

それに対してグレイスはバックステップで回避しようとしたが…

 

クルッ!

ブンッ!!

バシンッ!!

 

「ぐっ!?」

 

忍は一回転した遠心力を利用して尻尾による打撃をグレイスの顔面に決めていた。

 

「野郎…!」

 

その一撃が気に食わなかったのか、グレイスの目の色が変わる。

 

「あんま舐めた真似してんじゃねぇぞ、小僧!!」

 

サニィスフィアを自分の周囲に再展開する。

 

「デイライト・バスターシフト、フルバーストだ!!」

 

ズドドドドドッ!!

 

再展開したサニィスフィアから無数の砲撃を忍へと撃ち出す。

 

「グオオオオッ!!」

 

シュウゥッ!!

 

忍の両腕に龍気が収束すると…

 

ヒュドドドドッ!!

 

高速拳打によって砲撃を殴ってグレイスの方へと打ち返していた。

 

「ちっ!」

 

サニィスフィアを掌に瞬間展開すると、それを打ち返された砲撃に当てて相殺していた。

 

「(まさか打ち返してくるたぁ、予想外だ。しかも技のキレも増してきたか? 龍のような姿をした人型…どっかの文献で見たような…)」

 

グレイスが何かを思い出そうとしてる間にも…

 

「ガアアアアッ!!」

 

理性を失った忍は両腕の甲殻から龍の爪を伸ばし、グレイスへと飛び掛かっていた。

 

「ちっ、人がせっかく考え事してんのにお構いなしか!」

 

そう言うとグレイスはサニィスフィアを一点に集中させて一本の剣を作り出す。

 

「サンライト・ソード」

 

それを左手に持つと、右手には光力で生み出した黄金の光の槍を作り出していた。

 

ギィンッ!!

 

忍の龍の爪を受け止めた瞬間…

 

ビキッ!!

 

サンライト・ソードと光の槍に僅かな亀裂が入る。

 

「なに…っ?!」

 

そこで初めてグレイスの表情に驚愕の色が滲み出ていた。

 

「(デイライトを固めた剣と、俺の光力で固めた槍だぞ!?)」

 

その事実に驚いていると…

 

「グアアアッ!!」

 

その隙を突いて忍は口から龍気で練り上げた火球を吐き出した。

 

ボムッ!!

 

「ッ!!?」

 

その火球を顔面に受け…

 

ゲシッ!!

 

反射的に忍の腹を蹴って距離を稼ぐ。

 

「クソが!!」

 

顔を焼かれたものの、サニィスフィアを焼けた顔面に押し当てる。

 

ジュワァァァ…!

 

すると、見る見るうちに焼けた個所が修復されていく。

 

「ジェミニ、デイサクリファイス起動だ!」

 

怒りに顔を歪めたグレイスはジェミニに指示を出す。

 

『犠牲にする数は?』

 

「10だ!」

 

『はいよ。サニィスフィア、形成』

 

グレイスの周りに10個のサニィスフィアが再展開される。

 

「まだ出せるのかよ!」

 

その光景に紅牙が地面を殴りながら吐き捨てるように言う。

 

『吸収』

 

ギュイイィィ…!!

 

が、展開されたサニィスフィアは胸部のコアドライブユニットに吸収されていった。

 

「あいつ、何を…?」

 

セイバーを地面に突き刺して立ち上がる朝陽も怪訝な表情を浮かべていた。

 

『還元』

 

ドォンッ!!!

 

次の瞬間、グレイスの魔力が跳ね上がり、トパーズイエローのオーラを纏った姿となる。

 

『オーバードライブ』

 

「こいつを使うのは別世界の幻獣級の魔獣以来だ。光栄に思うんだな!」

 

ブンッ!!

 

そう言うとグレイスの姿が残像を残して消えたようになる。

 

「グオオオオッ!!!」

 

ブンッ!!

 

忍もまた自らの足に龍気と"妖力"を纏わせると同時に姿を消す。

 

「あの状態でも龍気以外の力を使えるのか!?」

 

忍が消えた瞬間を見ていた紅牙が驚いたように叫ぶ。

 

ギンッ!ギンッ!ギンッ!

 

拳や蹴りがぶつかり合う甲高い音が発生知すると共に、その光景が残像となって残る。

その光景は複数の同一人物が同時に闘っているようでもあった。

 

「(複数の力を同時に行使することで俺のパワーとスピードに随従してくる、だと?!)」

 

その事実にグレイスもまた驚愕を覚えていた。

 

「ガアアアアッ!!」

 

その間にも忍は妖力に加えて気も四肢に追加してパワーとスピードのギアを上げていく。

 

「(この俺と同等以上に渡り合えるだと…? ふざけんなッ!!)」

 

忍の随従に怒りをさらに深めたグレイスは…

 

「ジェミニ! サクリファイスの追加だ!」

 

『今の状況での追加はあまり勧められないが?』

 

「構わん! さらに10個追加だ!!」

 

グレイスにはグレイスの意地と誇りがあった。

 

悪魔の父に天使の母が犯されて生まれたが、母は堕天せずに自分を生み落した。

それでも母の愛情は素直に嬉しかったし、相反する力を持っていようとそれは変わらなかった。

しかし、そんな母も同じ天使達から疎ましく思われていた。

そして、"粛清"と称して人間の狂信者は天使である母をグレイスの目の前で殺したのだ。

その光景に絶望し、悪魔としての人格が目覚めてその場にいた人間を皆殺しにした。

 

その日を境にグレイスの魂は引き裂かれたように二つの人格を持つようになった。

天使としての慈しみに満ちた心優しく穏やかな人格。

悪魔としての命をどうとも思わない凶悪で残忍な人格。

二つの人格は互いを知覚しながら別々の思いを抱いていた。

 

天使の魂は悪魔の魂にこれ以上の罪や業を背負ってほしくないと…。

 

悪魔の魂は天使の魂を堕天させないため、犯してきた罪を背負う覚悟を…。

 

しかし、それを互いに知る機会はなく、いつも反発するようにして肉体行使の権利を抑え込んだり奪ったりしてきた。

 

『デイサクリファイス、追加犠牲10。吸収、還元』

 

そして、目の前に迫ってきた龍の力を操る少年に言いようのない苛立ちを覚えていた。

 

「うおおおおっ!!!」

 

ドオオオンッ!!

 

グレイスの纏うオーラの質がさらに増していった。

 

「(俺は負けるわけにはいかん! 表のために…母を守れなかった俺自身のために!!)」

 

肉体にどのような負荷が掛かっても厭わない、その覚悟がグレイスにはあった。

 

「グオオオオッ!!!」

 

対して忍は右腕を天に向かって掲げると、龍気と共に霊力を収束していき…

 

ボアアアッ!!!

 

紅蓮の焔をその右腕に纏わせる。

 

「サンシャイン・ゴッド・アンド・デビル…!!」

 

それを見てグレイスも最大の一撃で迎え撃とうと右手に光力、左手に魔力を纏わせてから両手を組み、その上からトパーズイエローのオーラをコーティングして狙いを忍へと定める。

 

「グウウウ…!!」

 

燃え盛る右腕を低くし、左手で狙いをグレイスに定めて正拳突きの構えを作る。

 

「「「「…………」」」」

 

「「「…………」」」

 

誰もが息を呑む静寂の中…

 

「しぃ、君…」

 

智鶴が忍の名を呼び、涙が零れ落ちた瞬間…

 

バッ!!

 

忍とグレイスが同時に動いた。

 

「破ぁぁぁッ!!!」

 

ゴオオオオッ!!

 

グレイスは魔力粒子を推進剤として組んだ両手を突き出すようにして突撃する。

 

「ガアアアアッ!!」

 

対して忍は地面を蹴った反動のみで突撃し、正拳突きを放っていた。

 

"キュオオオンッ!!"

 

その瞬間、紅蓮の焔が巨大な鳥の姿となってグレイスへと向かって飛翔していた。

 

「ッ?!」

 

ゴオオオオオオッ!!

 

グレイスと忍の一撃がぶつかり合い、激しい衝撃波が周囲を襲った。

 

「なんて威力だ…!」

 

「この一帯を消すつもり!?」

 

「それは流石に笑えないわね…!」

 

防御魔法を展開しながら紅牙達は2人の衝突を見ていた。

 

「くっ…オオオオオオオッ!!!」

 

思わぬ技の出現に少しだけ押されていたグレイスだが、すぐに持ち直して押し返す。

 

「グガアアアアアアッ!!!」

 

押し返されても霊力と龍気を体内から捻り出して焔の鳥に力を注ぎ込む。

 

すると…

 

ピシッ!!

 

グレイスの両手から全身を覆うようにして纏っていたオーラに小さな亀裂が入る。

 

「っ?!」

 

「グオオオオッ!!!」

 

その音を聞き逃さなかったのか、忍は一歩、また一歩と踏み出していく。

 

「ぐっ…この程度の亀裂如き…!」

 

それに対抗すべくグレイスは自らの光力と魔力を高めていく。

しかし、ここでグレイスは自らの状態を忘れていた。

 

『グレイス、止せ! 今そんなことをすれば…!』

 

ジェミニが慌てたように制止しようとしたが、時既に遅し。

 

バリィンッ!!

 

「なっ!?」

 

今のグレイスはジェミニのシステムによってオーバードライブ状態を維持していた。

しかし、そこに更なる力を込めようとした結果、オーラがグレイスの力に耐え切れず自壊。

そこへ剥き出しとなったグレイスの肉体に忍の放った焔の鳥が襲い掛かる。

 

「ぐっ…おおおお!!?」

 

その焔の鳥の突撃を受け、グレイスは後方へと吹き飛ばされる。

 

ズゴオオンッ!!

 

「がっ!?」

 

巨大な岩場に背中から激突した拍子に裏の意識は真っ黒となった。

 

「グウゥゥ…」

 

しかし、忍は未だ理性を失ったままであり、グレイスの息の根を止めようと近付こうとしていた。

 

と、そこに…

 

ガシッ…

 

「もう止せ、紅神。勝負は着いた。これ以上、お前が手を汚す必要はない」

 

紅牙が忍を止めに入っていた。

 

だが…

 

バシッ!!

 

「ぐっ!?」

 

忍は尻尾で紅牙の頬を殴ると、そのまま紅牙の方へと歩いて行った。

まるで、"新たな獲物を見つけた"かのように…。

 

「グウゥゥ…」

 

「っ…紅神!」

 

「ガアアアアッ!!」

 

紅牙の声が聞こえないのか、忍の咆哮が木霊する。

 

「いい加減、目を覚ましなさいよ!!」

 

朝陽がセイバーを振りかぶって忍を奇襲する。

 

ガシッ!

ブンッ!!

 

しかし、忍は朝陽の掴んで智鶴の方へと投げ捨てていた。

 

ズザアァァァッ!!

 

「くっ…!」

 

地面を滑るように背中から吹き飛ぶが、すぐさまセイバーの柄頭を地面に叩きつけると態勢を立て直す。

 

「アンタもいい加減に泣いてないであいつを止めるのを手伝いなさいよ!」

 

朝陽が智鶴にそう言うが…

 

「私と…しぃ君の…絆…嘘、なんかじゃ…」

 

グレイスに言われた事が余程ショックだったのか、うわ言のようにブツブツと呟いていた。

 

「ッ!!」

 

それを聞いた朝陽は…

 

パァンッ!!

 

智鶴の頬を思いっきりビンタしていた。

 

「っ?!」

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

「朝陽、ちゃん…?」

 

朝陽の怒声に殴られた頬を押さえて智鶴は朝陽を見上げる。

 

「アンタとあいつがどれだけの期間を一緒に過ごしてきたのかあたしにはわからない。けど、これだけは言えるわ。あんな奴の言うことを真に受けてあいつとの絆を信じられないようじゃ、アンタは女王失格よ! あいつの隣にいる資格なんてないのよ!!」

 

「---っ!!?」

 

朝陽にズバリ言われて智鶴はさらにショックを受けるが…

 

「なんであいつがあんな姿になってるかわからないの!? アンタの心を踏みにじられたから、自分達の絆を否定されたからじゃないの!?」

 

それでも朝陽は言い続けた。

 

「アンタが傷ついたようにあいつだって傷ついてんのよ! それを押し殺してまで暴走したあいつがバカなのは…アンタを本気で大切に想ってるからじゃないの!? そんなバカをアンタが助けないでどうすんのよ!?」

 

「朝陽、ちゃん…」

 

「あたしだってあのバカのことが放っておけなくて、あんな愚直なバカが愛おしく想ってる! あの戦車(カーネリア)はともかく、他の連中だって少なからずあいつを想ってるし、今の状況を見たら助けたいと考えるはずでしょうが…!!」

 

朝陽の眼には知らず知らずの内に涙が溜まっていた。

 

「それなのに、アンタは自分一人が傷ついたようなことを言って今のあいつのことを見てないじゃない! 見てみなさいよ!!」

 

朝陽に言われて智鶴も忍を見る。

 

 

 

「ガアアアアッ!!」

 

「ちぃっ!!」

 

大量の龍気を放出しながら紅牙を追い詰めようとしていた。

しかし、その顔…仮面の下には"紅い筋"が顎下に向かって伸びていた。

 

 

 

「しぃ君が…苦しそうに、泣いてる…」

 

今の忍の姿を見てそう呟く。

 

「それがわかったんならやることは一つでしょうが!!」

 

朝陽の言葉に智鶴が立ち上がる。

 

「しぃ君…」

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

朝陽と智鶴が同時に忍へと駆け出す。

 

「(完全に出遅れました…)」

 

元々、後方支援型のシアはそれを見てることしか出来ず、さらに朝陽に出番を持ってかれた形になってしまっていた。

 

「(というか、朝陽さん。やっぱり、忍さんのことを…)」

 

今のやり取りで朝陽がやっぱり忍のことが好きなんだと改めて確信を得ていた。

 

 

 

「グオオオオッ!!!」

 

龍気を纏った右腕を振り上げると、紅牙に向けて振り下ろしていた。

 

「重力、反転!」

 

紅牙は自らの背中に重力球を配置すると、その性質を反転させて空へ飛び上がった。

 

と、そこへ…

 

「しぃ君!」

 

智鶴が忍の目の前に飛び出していた。

 

「グウゥゥ…!!」

 

智鶴が目の前に来ても今の忍は唸り声を上げるだけ…。

 

「しぃ君。ごめんなさい…私、私…」

 

「ガアアアアッ!!」

 

忍が智鶴に手を挙げそうになった時…

 

「ブレイズチェーン!」

 

ガキンッ!!

 

シアのバインド魔法が忍の体を拘束する。

 

「グガアアアアッ!!」

 

バキンッ!!

 

しかし、そう簡単に止められるものではないらしく、すぐにバインド魔法を引きちぎるように粉々にしてしまう。

 

「しぃ君だって、辛かったんだよね。私達の過ごしてきた時間を否定されて…だから、そんな風になってまで…私を守ろうとしてくれたんだよね?」

 

そう言いながら智鶴はそっと忍を抱き締める。

 

「ガアアアアッ!!」

 

ガブリッ!!

 

「っ!?」

 

そんな智鶴の無防備な首筋に忍は大口を開けて噛みつく。

下手をすれば最愛の人をその手で殺してしまうほど、強く深く噛みついていた。

 

「智鶴さん?!」

 

「アンタ!?」

 

シアと朝陽が忍を止めようとするが…

 

「大丈夫…大丈夫だから…」

 

智鶴はそんな2人を制止する。

 

「だって…このくらいの痛み、しぃ君が味わった痛みに比べれば…平気だから…」

 

そう言いながら智鶴は忍の頭を優しく撫でていた。

 

「だから、ね? もう…泣かないでいいんだよ。しぃ君…それと、ありがとう。私のために…泣いてくれて…」

 

その一言が伝わったのか…

 

「グ…ガア…」

 

忍の口は自然と智鶴の首筋から離れていった。

 

「私も…もっと頑張って、あなたを支えるようになるから…だから、しぃ君も…一人で背負わないで…私達にもあなたの業を背負わせて…」

 

「…チ…ヅ…ル…」

 

「しぃ君……ん」

 

忍が言葉を発した後、智鶴はそっと自らの唇を忍の唇に押し当てていた。

 

シュウゥゥゥ…

パァンッ…

ビキッ…バキンッ!

 

それを合図にしたかのように忍の体を覆っていた甲殻がオーラと化して弾け、仮面もまた砕け散るように消えていた。

 

「ぅ…ぁ…」

 

龍気が霧散していくと共に龍の翼や尾も消滅し、元の姿となりながら智鶴にもたれ掛かるようにして忍は倒れた。

 

「よかった…しぃ、君…」

 

それに安心したのか、智鶴もまた意識を手放していた。

 

 

 

その様子を洋館二階で見ていた大人達は…

 

「予定外の邪魔が入ったが、和平の申し入れ…受け入れよう」

 

「父上?」

 

「あら、またなんでそういうことに…?」

 

朱堕の突然の決断に雲雀を始め、セラフォルーも驚いていた。

 

「我等冥族は種の繁栄のために多種族とも混じってきた。今更、悪魔共と交流しようが気にする必要もないと考えただけだ」

 

「それなら…」

 

「ただし…」

 

セラフォルーが何か言う前に朱堕が忍の方を見て一言…

 

「あの若造に監視をつけさせてもらう。雲雀、緋鞠と共にその監視につけ」

 

朱堕の忍を見る眼は…明らかな不安と危険視…そして、期待であった。

 

「……わかりました、父上」

 

少しだけ考えた素振りを見せて雲雀も承諾した。

 

「じゃあ、これで冥族とも歩み寄れるようになったわけね☆」

 

横チェキしながらセラフォルーは嬉しそうにしていた。

 

 

 

余談だが、忍によって気絶させられたグレイスの身柄はセラフォルーの呼んだ悪魔たちによって確保された。

そして、忍は力を使い果たしたように倒れ、智鶴も出血が酷かったので転移魔法ですぐさま冥界の病院に運ばれたのだった。

幸いにしてどちらも命に別状はなかった。

ただ、智鶴は輸血で何とかなったものの、忍は力の使い過ぎのために修学旅行の前日まで目を覚まさなかった。

 

そして、その影響なのか…フィライトでのトルネバ連合国との同盟計画と、駒王学園の修学旅行が同時に始まろうとしていた。

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