魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第四十四話『修学旅行初日・深層世界と京都での出来事』

修学旅行当日。

場所は東京駅のホーム。

 

「……………」

 

未だ意識がハッキリしないかのように忍は自分のクラスが集合してる地点から少し離れた場所で棒立ちしていた。

 

それも致し方ない。

忍が目覚めたのは修学旅行前日の夜。

それから冥界から急いで明幸の屋敷に戻ってきたのが本日の明け方。

修学旅行の準備は智鶴や萌莉がしてくれたおかげで、屋敷に着いたと同時に駅へと向かったのだが…。

おかげで意識が未だ定まっていない状態にある。

 

バシッ!

 

「何ポカンとしてるのよ?」

 

と、そこへ忍の背中を叩きながら尋ねる"駒王学園の制服を着た緋鞠"がやって来た。

 

「いや、痛いんだが…というか何故君が此処に?」

 

「あたしだけじゃなわよ?」

 

「はい?」

 

緋鞠の言葉に意識が追いつけていない。

 

「紅神 忍、紅崎 緋鞠、あまりウロウロしないように」

 

"スーツ姿の雲雀"が2人に注意をしていた。

 

緋鞠は生徒、雲雀は教師として駒王学園に編入していた。

目的はもちろん、"忍の監視"。

あの和平交渉での件で危険視された忍はまた暴走しないとも限らない力を持つ者として朱堕からの和平条件として忍の監視を提示した。

修学旅行中は参加しているグレモリー眷属、及びシトリー眷属、イリナ、アザゼルなどが中心になって行われることになり、それ以降も同じような編成で行われることとなっていた。

さらに朱堕は自分の娘2人を監視役としても送り込んでいた。

 

「…………ダメだ。状況が理解出来ない…」

 

忍はほぼ寝起き状態なため、頭の回転が極端に低下していて今の状況を把握出来ないでいた。

 

「(目が覚めたらもう修学旅行の前日で…冥界から地球に帰ってきたのが明け方…智鶴や萌莉が用意してくれたから、今ここにいるわけで……というか、俺はいつの間に意識がブラックアウトしたんだ?)」

 

…………色々と致命的である。

 

「そろそろ新幹線が来るぞ~。さっさと乗り込む準備しろよ」

 

アザゼルの声で忍は緋鞠と共にクラスへと戻るのだった。

 

そして、新幹線に乗り込む駒王学園2年生の一行。

 

………

……

 

新幹線に乗り込み、出発してから十分くらいが経った頃…。

 

「なんだろう…この居心地の悪さは…?」

 

忍は何故か教員…アザゼルの隣の座席に座っており、その向かい側の席には雲雀とロスヴァイセが陣取っていた。

元々はイッセーの隣だったが、こうして呼び出しを食らっていたのだ。

 

「仕方ねぇだろ。冥族との和平交渉で起きた件は俺も聞いてるが、お前さんの中に眠る龍が問題なんだ」

 

「龍、ですか…」

 

いまいちピンとこない忍は自分の手を見る。

 

「そうそう。前にお前さんの体にこびりついてた緑色の血の解析が出来たから、ついでにその詳細も放そうと思ってな」

 

「あいつの…」

 

忍にとってはまだ記憶に新しく苦いものである。

それを思い出したのか、忍は口元を手で押さえる。

 

「正直、難航してたんだが…ある奴からの情報提供があってな。それで判明したことだが…」

 

「ある奴?」

 

アザゼルの言葉に疑問を抱く。

 

「現世の神だ」

 

「っ?! あの人が…」

 

草木を大事にする表と、激闘を演じた裏…その両方の存在を知った忍はグレイスに対して複雑な感情を抱いていた。

 

「あぁ、あいつは多次元世界を渡り歩いてたみたいでな。その中にお前の力に酷似した種族が太古の昔にいたようなんだ」

 

アザゼルは携帯端末を取り出しながら画面に魔法陣を展開して詳細を説明する。

 

「種族名は『龍騎士(りゅうきし)』。その名が示す通り、龍に連なる一族だ。外見は頭はドラゴンで体は人間、背中や臀部から龍の翼や尻尾を生やしており、龍気を鎧のような甲殻状に形成して纏っていたとされている。これは仮面以外、神宮寺達の報告にあった通りだな」

 

「俺が…"喰った"奴もそんな感じでした…」

 

「喰った、か…何が起きたんだ?」

 

「アレは…ロキ戦の前日のことでした」

 

それから忍はロキ戦前日に起きたことを先生陣に話していた。

 

「んな大事なことをずっと黙ってたのか!?」

 

アザゼルが声を荒げて忍に問いただす。

 

「言う機会がなかっただけです。それにあの出来事はそれだけ鮮烈で…正直、心の整理に時間が必要でした」

 

苦虫を噛み潰したような表情で忍は答える。

 

「あ~、まぁ…お前の若さからしたらそりゃ当然そうなるか…」

 

アザゼルは仕方なさそうに嘆息する。

 

「だとしても言わなかった事実には変わりありません。第一、何者かの声が聞こえたというのも妙な話です」

 

冷淡な声音で雲雀が会話に割り込む。

 

「いや、あり得ない話じゃないぞ。特に単体、もしくは複数の力を後天的に手に入れた奴に表れると聞くしな。イッセーも今は神器の中に入って歴代所有者の思念と対話を試みている最中だ」

 

雲雀の言葉にアザゼルはそう返す。

 

「噂に聞く歴代最弱の赤龍帝ですか」

 

「最弱だとしても歴代の中で最も力を理解しようとしてる大馬鹿だ」

 

話題がイッセーのことに傾いてきたので…

 

「……戻っていいですか?」

 

忍は自分の席に戻ろうとしていた。

 

「おっと、まだ話は終わってないぞ?」

 

席を立とうとする忍の肩を掴んで無理やり座らせる。

 

「まだ何か?」

 

「あぁ、さっきは龍騎士のことを話したが、問題はお前に付着してた血液の方だ」

 

「あの血に何か問題が?」

 

忍の質問にアザゼルはこう答えた。

 

「どうもクローニングしたような形跡があってな。もしかしたら今後も似たような奴が複数で攻めてくる可能性があるかもしれん」

 

「っ!」

 

アザゼルの言葉に忍と、横で聞いていたロスヴァイセの表情も強張っていた。

ただ、雲雀だけは眉一つ動かさなかったが…。

 

「ま、そういうことだ。今後も気を付けた方がいい。あと、今後のためにもイッセーみたくお前も自分の深層世界に潜ってみたらどうだ? 精神統一して内側に語り掛けるようにすれば案外すんなりいくかもしれんぞ?」

 

「……やってみます」

 

そうして忍がアザゼル達から解放されて元の席に戻ると…

 

「イッセー君?」

 

そこには眠るイッセーの姿があった。

 

「(意識がない。匂いからしてこれが神器の中に入ってるってことなのかな?)」

 

イッセーの様子を観察しながら隣の席に座ると…

 

「(俺も潜ってみるか…俺の深層世界とやらに…)」

 

忍もまた瞑目すると、意識を自身の深いところに向けていく。

 

………

……

 

~忍の深層世界・真狼の空間~

 

「む…?」

 

目を開けると、そこは満月の浮かぶ夜空が一面に広がる草原のど真ん中だった。

 

「ここが…俺の深層世界…?」

 

キョロキョロと周囲を見渡していると…

 

「正確にはお前の持つ解放形態に対応した空間だ。ここを含めて全部で"五つ"ある」

 

狼夜が満月を背に現れて説明していた。

 

「伯父さん!」

 

「よぉ、甥っ子。また、派手にやらかしたそうだな?」

 

ワシャワシャと忍の頭を撫でながら狼夜がニヤニヤと笑う。

 

「そ、それは…」

 

狼夜に言われて忍も何と言ったらいいかわからないでいた。

 

「ま、俺もお前ん中で見てたし、"あいつ"の封印にもちったぁ手を貸したわけだが…」

 

そう言って何処か遠くを見るような眼差しを満月の下に存在する四つの扉の内の一つ…厳重に鎖で縛られていくつもの南京錠で封印された扉に向ける。

 

「伯父さんが?」

 

「俺だけじゃねぇぞ? お前が"まだ目覚めてない氷の解放形態"も手伝ってくれた」

 

そう言って四つある扉の内、凍り付いた扉を親指で指していた。

 

「氷の、解放形態…? というか、いつの間に扉なんて…」

 

そんな忍の疑問に…

 

「わかりやすいだろ?」

 

カッカッカッ、と笑う狼夜だが…

 

「ただ、まぁ…あの吸血女王と紅蓮野郎は手を貸しちゃくれなかったが…」

 

はぁ、とため息を吐く。

 

「吸血鬼と紅蓮冥王…」

 

「ま、どいつも後天的に手にした力だからな。未だ全ては見せてないってことだろ」

 

そう言って鮮血のように真っ赤に染まった扉と、紅蓮の焔に包まれた扉を見る。

 

「しかし、かく言う俺も伝えきれてないんだが…」

 

やれやれといった感じで肩を竦めてみせる。

 

「あ、言っとくが俺はお前が本来持つ狼の化身に憑依したもんだからな? それと氷の解放形態も元からお前が持つ力の一つだ」

 

付け足すように説明する。

 

「俺が本来持つ力……狼と、雪女…?」

 

「そうだ。そして、お前の引いた血はただの雪女じゃない。わかるな?」

 

それを言われて忍は吹雪の存在を思い出す。

 

「冥族の血を引く雪女…」

 

「あぁ…俺の弟と、あの雪女娘の伯母…つまりは母親の姉との間に生まれたのがお前だ」

 

そう言うと、狼夜は忍の胸に人差し指を押し付ける。

 

「我等、狼としての誇りを忘れるな。お前はあいつの息子であり…この俺の甥なんだからよ」

 

「伯父さん…」

 

狼夜の言葉を忍は胸の中にしまう。

 

「お節介ついでに教えてやる。お前が紅蓮冥王時に冥王スキルを発揮出来ないのは、"既に一つ、冥王スキルを持ってる"からだ」

 

「俺に…冥王スキルが…?」

 

その事実に忍は驚く。

 

「氷から聞いた話だが、本来冥王スキルは一人につき一つが大原則だ。しかし、お前は後天的に紅蓮冥王の力を手にしてしまった。本来はあり得ないことらしい。しかし、お前は元からある氷の冥王ではなく、先に紅蓮冥王への変身能力を身につけてしまった。それが互いに弊害となって氷の冥王への変身が出来ず、紅蓮冥王になっても冥王スキルが扱えないことに繋がったらしい」

 

氷の冥王から聞いたことを忍に伝える。

 

「そんなことが…俺の体の中で…」

 

「解決法は…すまんが、俺には分からん。これ以上の話はお前自身から氷の冥王に聞くんだな」

 

そう言って凍て付いた扉を指す。

 

「けど…伯父さんにも聞きたいことが…」

 

狼夜の言っていた"真なる狼"…その本当の意味を知りたそうだった。

 

「今は目の前の問題から片付けてけ。俺なら逃げたりしないからよ。まずは冥王スキルの問題から片付けてこい」

 

そう言って狼夜は忍の背を押し出す。

 

「あ…」

 

押し出された忍は振り返って狼夜を見るが…

 

「行け」

 

そう言ってニヤッと微笑んでいた。

 

「わかった。けど、次こそ真なる狼について教えてくれよ?」

 

「おう、わかってる」

 

狼夜がそう答えると…

 

ガチャリ…

ビュオオォォォ…

 

忍は凍て付いた扉を開けて吹雪の中を進むように、その中へと消えていった。

 

「俺とお前の縁は固い…が、いつまでもこのままってわけにもいかないわな…」

 

狼夜は忍が去った後、満月を見上げながら静かに呟く。

 

「真なる狼…それをお前が知ったら、もう二度と俺との対話はなくなる。つまり、この夢も終わるってことだ」

 

そこまで言って狼夜は自分の髪をボリボリと掻く。

 

「ったく、もう死人だってのに未練がましくていけねぇや。死闘を演じた甥に対してこんなに肩入れするなんざ…俺もヤキが回ったんだな…」

 

やれやれと自分で自分の行動に呆れ果てていた。

 

「いや、わかってる。本来なら、ここにはあいつが居座って然るべきだ。俺がいつまでも居座っていい場所じゃない」

 

そう呟き、忍の去った扉の方を眺める。

 

「忍よぉ。"真なる狼"ってのはな…」

 

この場にいない忍に向け、音のない言葉を紡いでいた。

 

………

……

 

~忍の深層世界・氷の冥王の空間~

 

真狼の空間とは一変し、氷の冥王がいるとされる空間は一面が雪原に覆われており、曇天の空から雪が舞う白銀の世界となっていた。

 

「ここに…氷の冥王が…」

 

すると…

 

ビュオオォォォ…

 

一陣の吹雪が忍を襲う。

 

「くっ…」

 

吹雪を両腕でガードしながら凌ぐと…

 

「ようやく…お会い出来ましたね。我が君」

 

吹雪と共に現れたのは…背中から4対8枚の瑠璃色の翼を広げ、その身を白い着物で包んだ白銀の髪にサファイアブルーの瞳を持つ大和撫子然とした女性が佇んでいた。

 

「アンタが…氷の冥王…」

 

「はい」

 

忍の問いに柔和な笑みで答える。

 

「我が君。お話がございます」

 

「あぁ…伯父さんから事情は少し聞いた。俺には既に冥王スキルが存在するんだろ?」

 

氷の冥王の化身たる女性の言葉を察し、先に狼夜から軽い説明を受けたことを伝える。

 

「はい。我が一族…『蒼雪冥王(そうせつめいおう)』が司る氷雪の力を持っております」

 

「蒼雪冥王…」

 

女性…蒼雪冥王は頷きながらそう答えた。

 

「しかし、我が君は第三者によって吸血鬼と紅蓮冥王…その二つの力を後天的に手にしました。その後、我が君はかの吸血鬼の衝動で龍騎士をも取り込みました」

 

「よく俺の体が拒絶反応を出さなかったな…」

 

改めて言われるとそう言わざるを得なかった。

 

「それに関してましては…おそらく吸血鬼の力でしょう」

 

「どういうことだ?」

 

「古来より吸血鬼とは血を吸う種族です。それ故に多種多様な血を吸うことがあります。それを克服するために独自の進化を遂げ、血を取り込みやすい体質になったのでは…とわたくしは思います」

 

忍の疑問に対して丁寧な言葉と推測で答える。

 

「その体質が俺の体にも影響を及ぼし、紅蓮冥王や龍騎士の力を取り込んだと?」

 

それを聞き、忍は自分の体に起こったであろう変化を推測する。

 

「おそらく、ですが……しかし、能力まで体得するというのはわたくしも存じ上げません。詳しいことはあの吸血鬼に聞いた方がよろしいかと…」

 

「(謎が謎を呼ぶって感じだな、こりゃ…)」

 

蒼雪冥王の言葉を聞き、そう感じてしまっていた。

 

「(ともかく、今は目の前のことを考えるか…)俺は、蒼雪冥王になれるのか?」

 

正直、不安なのか…それが表情に出ながら忍は蒼雪冥王に尋ねていた。

 

「我が君。わたくしはいつでも力をお貸しします」

 

そんな忍の心を見透かすように、蒼雪冥王は忍の手を優しく包み込んでいた。

 

「わたくしの力は我が君のモノなのですから…きっと扱えるはずです。冥王スキル『アイス・エイジ』を…」

 

「『アイス・エイジ』…それが俺の…」

 

「はい。我が君だけの…」

 

蒼雪冥王の背後に陽炎のようにして、髪が白銀、瞳がサファイアブルーに変化し、背中から4対8枚の瑠璃色の翼が生えた姿の忍の幻影が現れた瞬間…

 

ゴオオオオッ!!

 

白銀の世界に紅蓮の焔が立ち昇る。

 

「「っ!?」」

 

忍と蒼雪冥王が同時に振り返ると、そこには…

 

ザッ…ザッ…ザッ…

 

「…………」

 

焔髪灼眼に4対8枚の紅蓮の翼を生やした若い男が雪原を歩いてくる。

 

「焔帝…朱堕さん?!」

 

その男の面影は現実世界で焔帝と称される男に酷似しており、おそらくはその若い頃の姿であることが窺える。

ただ、現実とは違って左腕があり、傷もほとんど無い状態であった。

 

「いいえ、アレは紅蓮冥王の化身です」

 

忍を庇うように蒼雪冥王が前に出る。

 

「貴殿が、我が半身の断片たる腕を…否、血を受け止めし者だな」

 

その眼光は現実のものと遜色なく忍を射抜く。

 

「あなたが何故ここに…! ここはわたくしが我が君から預かる空間と知っての狼藉ですか!?」

 

「俺の知ったことか。俺はただ力を託すに値する人間かどうか見極めるまで…!」

 

紅蓮冥王と蒼雪冥王の言い合いの後、紅蓮冥王は忍に向けて紅蓮の焔を放出する。

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

蒼雪冥王が紅蓮の焔を吹雪で相殺する。

 

「自らこの世界に意識を飛ばしてくるとは好都合。その意志の強さ、今ここで試させてもらう!」

 

バサリ、と翼を広げたかと思えば、紅蓮冥王は一直線に忍へと飛翔していた。

 

「我が君はやらせません!」

 

同じく翼を広げた蒼雪冥王が迎え撃とうとしていた。

 

「(まさか、これが弊害の原因じゃ…?)」

 

そんな2人の様子を見て忍はそう考えてしまう。

 

すると…

 

『………ぃ……ぉ…ぃ………き…………い、し…』

 

空間の外から声のような音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

その声に導かれるようにして忍の意識が遠退くような感覚が襲う。

 

「ちっ! 外部からの邪魔が…!」

 

「我が君。またお会いしましょう」

 

紅蓮冥王は舌打ちし、蒼雪冥王は戦闘中にも関わらず穏やかな表情を忍に向けていた。

 

「(これをどうにかしない限り…俺、冥王として完全覚醒出来ないかも…)」

 

そんなことを思いながら忍は現実世界へと意識を取り戻していくのだった。

 

………

……

 

~現実世界・新幹線の中~

 

「お~い、忍。起きろ~」

 

イッセーが忍の肩をユサユサと揺する。

 

「むぅ…?」

 

寝惚(ねぼ)(まなこ)で目覚めると、時間がそれなりに過ぎていたようであった。

 

「俺は…どのくらい寝てたんだ?」

 

「いや、俺が起きてた頃にはもう寝てたし…つか、いつの間に戻ってきてたんだと思ったわ」

 

「そうか…」

 

深層世界の中と現実世界での時間感覚の違いを実感しながらネクサスで時間経過を見る。

 

「(ざっと一時間弱、か。そんなに潜ってたのか…)」

 

そんなことを考えながらまだ冴え切っていない頭を回転させる。

 

「ちょっと、先生の所に行ってくるよ」

 

「ん? おう、また呼び出しか?」

 

「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」

 

イッセーに断わって席を立つと、忍は再び教師陣のいる席へと向かった。

 

 

 

忍が教師陣の席に到着すると…

 

「雲雀さん、聞きたいことがあります」

 

「何か?」

 

京都の案内本を閉じながら雲雀が顔を上げる。

 

「今までに冥王スキルを"二つ持った"人は存在しますか?」

 

「いえ、いません」

 

即答である。

 

「そ、そうですか…」

 

あまりの即答の早さに取り付く島もないと感じてしまった忍だった。

 

「その質問がどれだけ無意味なことか、冥族ならわかってると思いますが…?」

 

そして、鋭い視線を忍に向けていた。

 

「……失礼します」

 

それを言われると他に聞くことも無くなってしまったので、自分の席に戻るのだった。

 

そして、新幹線は京都へと到着するのであった。

 

………

……

 

「京都…独特の匂いがするな…」

 

新幹線から駅に降り、京都の空気を吸うと忍はそんなことを呟いていた。

 

「そうか? あんま変わりないと思うぞ?」

 

忍の発言に元浜が周囲の匂いを嗅いでみる。

 

「忍ってたまに俺達と感覚がおかしい時ってあるよな。やっぱ、アレか? 明幸先輩の家にいるからか?」

 

松田がそんなことを言う。

 

「智鶴の家は関係ないから……何というのかな? 京都って神秘的な雰囲気があるからさ。それを比喩してみた感じ?」

 

「なんで疑問形なんだよ!」

 

「でも、そう言われると何となくわかるようなわからないような…」

 

「お前もどっちなんだよ!」

 

男子陣がそんな他愛のない話をしている。

 

「ほら、男子。さっさとしないと午後の自由時間が無くなるわよ!」

 

そこに桐生からの招集が掛かる。

 

そして、駒王学園二年生一行は『京都サーゼクスホテル』という高級ホテルのロビーで点呼やら注意事項などの必要なことが行われた。

それからアザゼル、ロスヴァイセ、雲雀などから一通りの説明を受けた後に、各自部屋のキーを貰うことになった。

 

「イッセー、忍。お前らはこれだ」

 

ニヤニヤと笑いながらアザゼルはイッセーにキーを渡す。

 

で、イッセーと忍に割り振られた部屋というのは…

 

「こ、ここが…俺達の部屋…?」

 

八畳一間の和室であった。

しかも置かれているものは一世代くらい古い物が多い。

一緒に部屋を見に来ていた松田と元浜は大笑いしていたが…。

 

「これはこれで風情があって俺は好きだけどな…」

 

明幸の屋敷は和風なので忍は難なく受け入れていた。

荷物を置いて中央にあるテーブルに胡坐を掻いて座る姿は、何故か様になっていた。

 

「「「流石、極道の次期頭」」」

 

その姿を見てイッセー達は声を揃えてそんなことを言う。

 

「おい…」

 

智鶴との仲は既に周知となっており、未来の極道の頭としてのイメージがついて回っていたりする。

 

それからイッセー達の班は教師からの許可も得て稲荷伏見へと向かったのだった。

 

………

……

 

~京都・伏見稲荷~

 

「(気のせいか? 周囲の空気がピリピリしてる感じがする)」

 

班の皆と共に千本鳥居を抜けながら山登りをすること数十分。

忍は周囲の空気に過敏に反応していた。

 

「(それにこの匂い…とても歓迎してるとは思えない。何故だ? 少なくともこの辺りを統べる妖怪には話が通っていて然るべきだ。なのに、この空気は"よそ者を警戒する"ものだ。何か、起こってるのか?)」

 

そんなことを考えていると…

 

「悪ぃ、ちょいと先にてっぺんまで行ってみるわ」

 

イッセーがちょっとうずうずした様子でそう断りを入れてきた。

 

「(イッセー君一人だと何が起きるかわからないな…)俺も付き合うよ」

 

そう言ってイッセーの所へ向かう途中…。

 

「ボソッ(ゼノヴィアさん、イリナさん、イッセー君のことは任せておいて、皆のことをよろしく)」

 

小声でゼノヴィアとイリナにこの場を任せていた。

 

「ボソッ(? わかったが、どういうことだ?)」

 

「ボソッ(うんうん、どうかしたの?)」

 

2人の了承は得たが、どっちも不思議そうであった。

 

「ボソッ(まぁ、杞憂であってほしいとこではあるが…)」

 

「「???」」

 

忍の意図がわからず、ゼノヴィアとイリナは互いの顔を見合わせる。

 

「行くぞ、忍!」

 

「あぁ、今行く」

 

イッセーに呼ばれ、それに続くようにして忍も駆け出した。

 

 

 

走ること数分。

忍とイッセーは頂上らしき場所へと到着していた。

 

「社…?」

 

そこには古びた社があり、周りを木々が鬱蒼(うっそう)としていた。

 

「…………」

 

イッセーは社の前に立つと何やら願いをしていた。

 

「…………」

 

忍は別の意味で周囲を警戒していたのだが…

 

「イッセー君」

 

「なんだよ?」

 

願いをしてるイッセーの隣に移動したかと思うと…

 

「囲まれてる」

 

そう告げていた。

 

「はぁ!?」

 

イッセーも驚いて周囲に気を配らせると…

 

「マジか? てか、俺らなんかしたっけ?」

 

「いや、何もしていない。強いて言うなら、伏見に来てから違和感を覚えてた」

 

「それを先に言えよ!」

 

「松田君や元浜君、桐生さんがいたんだ。そう変なことは言えないだろ? せっかくの修学旅行なんだし…」

 

2人がそんな言い合いをしていると…

 

「お主ら、京の者ではないな?」

 

巫女装束を身に纏った小学校低学年くらいの小さな女の子が現れた。

ただ、金髪に金色の双眸の他に頭部に耳、臀部から尻尾が生えていた。

 

「この匂いと、あの毛並み。シアに似ている気がする。つまり、狐の妖怪といったところか?」

 

「んな冷静に分析してる場合かよ!」

 

忍の冷静さにツッコミを入れるイッセーだった。

 

「ええい! 余所者が、何をしておるか! 者共、かかれッ!」

 

狐少女の言葉に林の中から山伏の格好に黒い翼を生やした頭部が鳥の妖怪『天狗』と、神主の格好に狐のお面を被った軍団が大量に現れる。

 

「話し合いの余地はないのか?」

 

忍は対話の道を模索しようと尋ねるが…

 

「黙れッ! 母上を返してもらうぞ!」

 

狐少女は忍とイッセーを指さしてそう叫んだ。

 

「母上?」

 

「俺達、お前の母ちゃんなんて知らないぞ!?」

 

「何かの間違いじゃないのか?」

 

イッセーの言葉に同意するように忍も弁解するが…

 

「ウソを吐くな! 私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

興奮状態なのか、聞く耳を持たないらしい。

 

「忍、ここは京都だ。絶対に社を壊すなよ! あと、あいつらや周囲もな!」

 

「それはわかってるけど…腑に落ちないんだよ」

 

天狗が錫杖を持って襲い掛かってくるのを忍とイッセーは互いに素手で受け止めていた。

 

「何が腑に落ちないんだよ?」

 

「この状況が既に腑に落ちてない」

 

そう言うと忍は試しに龍気を出力し、それを両腕に纏わせて籠手状に形成していた。

イッセーも赤龍帝の籠手を出現させていた。

 

「(この程度なら龍騎士を解放した事にはならないのか)」

 

それを確認するように相手の武器のみを破壊することに集中していく。

 

「くっ…たった2人なのに、強い…!」

 

忍とイッセーの強さを見て狐少女は…

 

「撤退じゃ! しかし、忘れるでないぞ! 母上は必ず返してもらうからの」

 

そう言い残して狐少女達はその場から退いていったのだった。

 

「で、結局なんだったんだ?」

 

「また、何かありそうなのは確実だな…」

 

その後、班の皆と合流して伏見稲荷の観光を続けた。

しかし、少しピリピリした状態の忍とイッセーを松田や元浜が不審がっていたが…。

 

………

……

 

ホテルに戻った後、イッセーはアザゼルとロスヴァイセに稲荷伏見で起きた事の顛末を報告していた。

その報告を受け、2人共困惑した様子でアザゼルが再度確認を取るために動くとのことだった。

 

その後、夕食を終えて部屋でのんびりした時間を過ごしていると…

 

「よし、行くか」

 

イッセーが立ち上がって部屋の扉を静かに開けて左右を確認する。

 

「イッセー君。こんな時間に何しに行くのさ?」

 

ファルゼンの手入れをしながら忍が尋ねる。

 

「決まってるだろ。覗きだ!」

 

「声を大にして言うことじゃないと思うけど…それにきっと無駄だと思うよ?」

 

イッセーの返答に忍は呆れながら忠告を送る。

 

「無駄だとわかっていても男には行かなくちゃならない時があるんだよ!」

 

何故かカッコつけた風に言ってイッセーは部屋を飛び出していった。

 

「やれやれ…」

 

困った友人を持ってしまったと少なからず後悔しながらファルゼンの手入れに戻った。

 

が、しばらくして…

 

ピピピ…!

 

「む…?」

 

ネクサスに通信が入ったので、対応してみると…

 

『よぉ、俺だ』

 

アザゼルからだった。

 

「何か?」

 

『俺とイッセー達、それとお前達に呼び出しがかかった。近くの料亭に魔王少女さまが来てる』

 

「……予感的中か。すぐ行きます」

 

ファルゼンを待機状態に戻すと、一通りの装備を整えてホテルのロビーへと降りて行った。

 

………

……

 

・料亭『大楽(だいらく)

 

その個室でセラフォルーはアザゼル、イッセー達グレモリー眷属とイリナ、忍と萌莉の紅神眷属と紅崎姉妹を待っていた。

 

「ハーロー! 皆、この間振りね☆」

 

セラフォルーは着物姿だった。

さらに匙達二年生の生徒会メンバーこと、シトリー眷属も既に到着していた。

 

「(この面子が招集されたということは…)」

 

セラフォルーが追加注文した料理を食べながら忍の予感は確信へと変わっていた。

 

「魔王レヴィアタン。要件は早く申して頂戴。こちらも遊びに来たわけではないのだから」

 

料理をいくつか口にした後、雲雀がいきなり核心を突いていた。

 

「もう、雲雀ちゃんってばせっかちさんね☆ まぁ、大方の予想が出来てる人は雲雀ちゃんやアザゼルちゃんだけじゃないみたいだけど」

 

そう言って視線だけを忍に投げる。

 

「実は…この地の妖怪を束ねてる九尾の御大将が先日から行方不明らしいの」

 

セラフォルーの言葉にその場にいた全員の表情が険しくなる。

 

「(九尾…紅牙やシアの遠縁か?)」

 

そんなことを考える忍の横で…

 

「っ。それって…」

 

イッセーが稲荷伏見でのことを思い出す。

 

「おそらくはそういうことよね」

 

イッセーの反応を見てセラフォルーも頷く。

 

「ここの頭である九尾の御大将が拉致られたってことだ。関与したのは…」

 

「十中八九、『禍の団』よね」

 

アザゼルとセラフォルーの会話で皆も大体の状況を把握した。

 

「また、テロリストか」

 

「こんな時にまで出てこなくてもいいのにな」

 

「てか、お前ら…また厄介事に巻き込まれてんのか?」

 

「あはは、グレモリーの宿命なのかな?」

 

目をひくつかせる匙に木場が苦笑して答えていた。

 

「ともかく、この件は俺達大人が対処する。必要になったら呼ぶかもしれないが…お前ら子供は修学旅行を楽しめ。貴重で大事な行事だろ?」

 

アザゼルはそう言っていた。

 

「そうよ。皆、京都を楽しんでね。私もお仕事の合間を縫って楽しんじゃうから!」

 

セラフォルーもまた笑ってそう言っていた。

 

「あ、そうだ。ゼーラの野郎から忍に預かりもんがあったんだ」

 

思い出したようにアザゼルはポンと右手で左手を叩く。

 

「俺に?」

 

「おう。なんでも鹵獲した例のドライバーデバイスを改造した新しいデバイス機種だとか言ってたが…」

 

「えっ…?」

 

その説明を聞き、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「確か、ホテルの駐車場に停めてあるから後でお前達も見とくといいぞ」

 

「駐車場?」

 

それを聞いてもいまいちピンと来なかった。

 

 

 

それからセラフォルーと別れ、一行はホテルの駐車場にやってきていた。

 

「ま、百聞は一見に如かずってな」

 

そう言って駐車場のライトを点けると、そこには…

 

「こ、これは…?!」

 

白銀のボディに紅いラインの入ったSS(スーパースポーツ)タイプのバイクが鎮座していた。

 

「「「バイク!?」」」

 

グレモリー及びシトリー眷属の男陣が叫ぶ。

 

「それも忍用にカスタマイズされた専用機だ。ネクサスが起動キーになってるからちょいと試してみな」

 

「は、はい…!」

 

ちょっと興奮気味にバイクに跨ると、ネクサスにバイクの情報が表示される。

 

「あす、てり……アステリア…?」

 

『ネクサス、確認。起動』

 

ブロロロロ…!

 

バイク独特の音が駐車場内に響き渡る。

 

「おぉ…!」

 

初めて乗って起動させた感慨から感動すら覚えていた。

 

「そのまま走らせたいのも山々だが、今夜はもう遅い。運転はまた後日だな。それとほら」

 

そう言うと…

 

ピィンッ!

 

アザゼルが忍に2枚のメダルを投げ渡した。

 

「おっと…」

 

メダルを受け取ると、それぞれ眺めていた。

一枚は表に剣の絵柄と裏にⅦの文字、もう一枚には表に銃の絵柄と裏に盾の絵柄がそれぞれ描かれていた。

 

「そいつもアステリアの部品だ。詳しいことはアステリアから送られたデータを見ておくんだな」

 

「はい!」

 

嬉しそうに返事する忍はアステリアから降り、ネクサスを操作してエンジン部であるマナドライブを停止させた。

 

「てか、これ…本当にデバイスなんですか?」

 

今更のようにイッセーがアザゼルに尋ねていた。

 

「あぁ、待機状態への変形機構を省いたバイク型の新機種『ライディングデバイス』なんだとさ。そっちの技術はまだわからないが、なかなか面白そうだからな。今度、人工神器のデータと情報交換してもらおうかと思ってる」

 

アザゼルは心底楽しそうにそう言っていた。

 

こうして修学旅行の初日は終わるのであった。

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