魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

53 / 137
第四十七話『修学旅行最終日・帰還途中の深層探検』

修学旅行の最終日。

 

昨夜の大激戦後。

疲弊しきったグレモリー眷属+イリナ、匙、忍は一日寝たぐらいでは完全回復するには至らなかった。

しかし、それでも友人達と共にお土産屋巡りを敢行し、疲れた体に鞭打って京都タワーにも登っていた。

 

そして、京都から離れる時が来た。

京都駅には九重や八坂がグレモリー眷属をお見送りに来てくれた。

 

こうして三泊四日の京都での修学旅行は幕を閉じた…。

 

……のだが、帰りの新幹線の中…

 

「…………」

 

イッセー達が昨日の疲れから眠ってる横で、忍は深層世界の中へ入ろうとしていた。

 

「(イッセー君から感じたあの匂い…とても強い龍の匂いだった…おそらくは赤龍帝に関係したものだとは思うけど…)」

 

忍にネクサスの振動機能を利用して東京駅までの到着時間ギリギリまでの時間を深層世界で費やそうとしていた。

 

「(短時間ではあるが、俺もこのまま立ち止まってる訳にもいかない。深層世界で伯父さんに真なる狼の情報を聞き出す…!)」

 

そう決意し、意識を己の深い部分に向けていき、何度か経験した深層世界へと旅立つ。

 

………

……

 

~深層世界・真狼の空間~

 

「来たか…」

 

この空間の頭上に浮かぶ満月を見上げていた狼夜が小さく呟く。

 

「伯父さん」

 

その背に忍が声を掛ける。

 

「お前の中から大体のことは見てた。アレが赤龍帝か…噂に違わぬバカ野郎みてぇだな」

 

「そっか。伯父さん、イッセー君のことあまり知らなかったよね」

 

「噂だけなら聞いてたぜ。なんでも女の胸に執着する変な赤龍帝がいるってな。実際にその戦闘を見たことはないが、お前の中から邪神ロキとの戦いと昨日の戦闘だけは見た。あとはお前の友人としての側面を見てるくらいか」

 

背を向けたまま狼夜はそう告げる。

 

「だが、お前はそんな友人に対して思うところがあるんだろ?」

 

「……うん…イッセー君に新たな可能性に目覚め、赤龍帝を深く知ろうとしながら進化させた。しかし、俺は…自分の力を何一つ理解していない」

 

これまで忍が覚醒してきた解放形態はどれも上辺だけしか理解していないとも言っていい。

それだけ忍は己の中の力に目を向けず、通常形態での各種技能を高めていたことになる。

 

「真なる狼…蒼雪冥王…紅蓮冥王…吸血鬼…龍騎士…俺はその本質や能力を把握していない。いや、把握しようとしてこなかった。知ってしまったら…日常での何かが壊れるような気がして…一歩踏み出せなかったんだ…」

 

それは最近まで"人間"として生きてきたが故の未知なる存在に対する恐怖。

忍にとって明幸家で過ごしてきた月日は間違いなく、彼を"人間"としての常識や範疇を超えてはいなかった。

少々、環境は特殊だが…。

 

しかし、今では違う。

悪魔や天使といった超常の存在を知り、悪魔社会では次元辺境伯という肩書きを与えられ、眷属の駒や眷属の絵札、デバイスといった不思議なアイテムを手に入れ、一時(いっとき)は異世界に飛ばされた上にそこでの紛争に首を突っ込む始末。

 

「人間としての生活が…俺を躊躇させる……でも…イッセー君は…」

 

しかし、イッセーは違った。

悪魔に転生したとは言え、普段は人間としての生活を送りつつ夜は悪魔稼業を行い、時として戦いに身を投じていく。

その中で自らの中に宿った存在と相対し、それを知ろうとしたり、日々自らを鍛えるように様々な努力をし続けている。

最初はそうでなかったとしても、今ではちゃんとそんな自分を受け入れているのだ。

 

「それに比べて俺は…」

 

「…………」

 

忍に背を向けたまま話を聞いていた狼夜が(おもむろ)に振り向く。

 

「そうだな。お前は肉体的に成長したかもしれんが、精神的にはまだまだ弱い部分がある」

 

邪狼の時は敵として相対し、精神の中では良き理解者として忍を見てきた狼夜はそう評する。

 

「だったらいつまでも俯いてないで前を向きな。お前は進む以外の道を放棄したんだからよ」

 

そして、そう付け加えていた。

 

「前に進む以外の道を放棄した…?」

 

「そうだ。お前の道は既にお前自身の手で決められてる」

 

「俺自身が…決めた道…?」

 

狼夜に言われてもいまいちピンと来ない様子だった。

 

「前に言ってたな? "目の前で救える命があるなら、それを全力で守ると誓ってる"って…」

 

「ぁ…」

 

邪狼戦の時、朝陽を助ける際に発した言葉である。

そして、その誓いは智鶴以外の眷属を増やす時にシアに言った言葉でもあった。

 

「全てを守ろうなんて思わない。ただ、自分の大切な人達を守りたいから…自分の手の届く範囲で助けられる命があるなら、俺は全力でそれを守りたい。そう、思ったんだ…」

 

静かに、しかし確かな決意と覚悟を言葉にした…忍の心の奥底にある想いである。

 

「なら、それでいいじゃねぇか」

 

「伯父さん…?」

 

「それがお前の覚悟なら、それを体現出来るように極めてみせな。それがお前の進む道ってやつだ」

 

そう言ってから狼夜はいつの間にか手にしていた黒き刀の切っ先を忍の顔に向ける。

 

「だから、いつまでも俺達を怖がってんじゃねぇぞ? テメェが受け入れた力、テメェが糧にしてきた力を怖がるな。本当にあの娘共を守りたいなら、どんな手段であれ活用し、使いこなしてみせろ。そして、守ってみせな…お前が躊躇する原因となる日常と共にな」

 

「……ッ!!」

 

その言葉に忍は絶句する。

 

「テメェのダチが出来たことをテメェは出来ない道理はねぇだろ?」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべる狼夜。

 

「あぁ…そうだよな…そうだとも!」

 

ギィンッ!

 

何かに吹っ切れたのか、忍は狼夜の向けてきた黒き刀を手元に現れた銀の刀で弾く。

 

「ふっ…良い眼だ。それでこそ俺の甥!」

 

嬉しそうに言う狼夜は黒き刀を構える。

 

「今こそ話すぜ、真なる狼。その本当の意味を…!」

 

「応ッ!」

 

それに呼応するように忍も銀の刀を構える。

 

「真なる狼。その起源は地球とよく似た星にある。太古の昔、我等一族はその星の神の使者として人々に崇められてきた」

 

狼夜が一歩踏み出し、黒き刀を振るいながら語り出す。

 

「神の使者!?」

 

ギンッ!

 

それを忍は銀の刀で受けながら狼夜の言葉に耳を傾ける。

 

「そうだ。神の使者たる我等一族はその星で守護者として外敵から人々を守ってきた。だが…」

 

黒と銀の剣閃が繰り広げられる中で狼夜は語り続ける。

 

「我等の神は敵対する神の一柱との戦いによって討ち果たされてしまった。だが、我等の神とてただでは滅されなかった。敵対する神を石像として封印したのだ。しかし、それでも我等が神を失った事実には変わりなかった。神の加護を失った我等一族は次第に敵対する神の勢力によって劣勢を強いられていった」

 

「そんなことが…」

 

狼夜が太古の出来事を知ってることにも驚きだが、それ以上に内容が衝撃的だった。

 

「そんな中、一匹の狼が立ち上がった。そいつはあろうことか我等が神の屍を食した」

 

「神の屍を食った!?」

 

「あぁ。その結果、そいつは一時的にではあるものの神の如き力を得たが、それだけだった。そいつの健闘も空しく我等は敗北し、その星は壊滅してしまった。滅びゆく世界で、敵は我等一族の残党狩りを敢行してきた。多くの同胞がその残党狩りで命を散らした」

 

「……………」

 

斬ッ!!

 

「ぐっ!?」

 

ズザアァァァッ!

 

その事実を聞き、黒き刀の一撃を受けた衝撃で後方に吹き飛ばされてしまう。

 

「話にはまだ続きがある。構えろ!」

 

「は、はい!」

 

忍は銀の刀を構え直す。

 

「残党狩りを逃れた一部の狼達の中には神を食した狼もいた。その狼の発案によって残った一族は別の次元に逃げることにした」

 

「次元跳躍!?」

 

「神を食したことにより、神の知識を一部だが、そいつは垣間見たのさ。そして、別次元の事を知って跳躍する方法も知識の中にあった」

 

ギィンッ!!

 

互いの刀を振るい、鍔迫り合いに発展する。

 

「だが、次元跳躍の反応を敵は見逃しちゃくれなかった。残党狩りの襲撃を受ける中、数匹の狼達が次元跳躍に成功した。その中にそいつはいなかったが、そいつの血を受け継ぐ子を宿した雌がいた。その後、狼達は跳躍した先の世界の山奥でひっそりと暮らしていた」

 

「それから…?」

 

話の続きがあるだろうと察し、忍は続きを促した。

 

「それからしばらくし神を食した狼の子が生まれた。しかし、その子は不思議な能力を得ていた。後の世界で"霊力"と呼ばれる力だ。その力を用いてその子は山に入って怪我をした人間を治癒した。しかし、それがいけなかった…」

 

「その行為が過ちだったと…?」

 

「そう。その行為によって人間は我等が住む山に頻繁に来るようになり、遂にはその(ふもと)に街を作った。皮肉にも山に住まう神のような存在と崇められてな」

 

「…………」

 

「そして、月日は流れ…山に住まう神の信仰が薄れてきた時、一族に新たな命が二つ生まれた。それが俺とお前の父、狼牙。どちらも神を食した狼の直系に当たる黒き狼と銀の狼だ」

 

「俺にもその血が…?」

 

「そうだ。そして、俺と狼牙が生まれて成長する間、人間達が動いた。俺達の力が珍しかったのか、それとも単なる道楽かは知らんが…人間達は我等一族を狩りの対象にしたのさ。それによって俺と狼牙以外は皆死んでいった。以前見たかもしれないが、冬の季節に俺達が狙われてな。俺は人間共を食い殺すことで生き延びようとしたが、狼牙は違かった」

 

「山でひっそりと昔のように生きていこうと…」

 

「あぁ。そして、壮大な兄弟喧嘩の始まりだ。結果は俺が勝ち、あいつは何処かに消え失せた。しかし、あいつの血は途切れてなんかなかった。お前という存在がその証明だ」

 

そこで一度狼夜は説明を区切った。

 

「なるほど。俺達一族の起源はわかったが、結局"真なる狼"ってのはなんなんだ?」

 

ギンッ!

 

鍔迫り合いから互いに距離を取り合う。

 

「"真なる狼"ってのは神を食した狼が最期に遺した言葉からきている。神の知識の中に真なる狼に関するものがあったのだろう。曰く、『速度は銀の光と共に、力は黒き闇と共にあり、光と闇が交わる時に真の力が目覚めん。さすれば覇の理を以って神をも噛み砕く牙とならん』。俺がお前に力の黒と速度の銀を合わせろと言ったのはこれに由来する」

 

「覇の理…?」

 

その言葉に忍は首を傾げる。

 

「実際のところ…"真なる狼"の真の意味ってのはよくわかってねぇんだよな…言った本人は遠い昔に死んじまったし、生き残った俺達の中からそんな特異な存在は遂に出てこなかった。ただただ、代々魂に刻み込まれてきた言霊を伝え聞いてきただけだからな」

 

「そんな…!」

 

狼夜の言葉に忍は何か言いたそうだったが…

 

「だが、お前は違う。お前に流れる血は銀の方が濃いかもしれないが、ちゃんと黒も受け継いでいる。そして、それを掛け合わせたことで、お前は"真なる狼"になるための入り口に立ったのかもしれない」

 

忍の言葉を遮って狼夜は語る。

しかし、狼夜の体は足から徐々に光の粒子と化してきていた。

 

「っ!? 伯父さん!」

 

慌てて駆け寄ろうとするが…

 

「っと、そろそろ俺の役目も終わりってとこか? なに、俺はもう既に死んでて地獄に堕ちても仕方のねぇ身だ。気にするこたぁねぇよ」

 

そう言って狼夜は最後の一太刀の構えを取る。

 

「これで終いだ。せめてお前が介錯してくれや」

 

「伯父さん…でも…」

 

忍が躊躇していると…

 

「甘ったれんてんじゃねぇぞ!」

 

狼夜から殺気が溢れ出す。

 

「っ!?」

 

それに少しだけ気圧されるものの…

 

「頼むわ。甥っ子」

 

「ッ…!!」

 

殺気後に見せた狼夜の穏やかな笑みを見て、忍も覚悟を決めて上段の構えを取る。

 

「そうだ、それでいい。ここは本来、お前の場所なんだからよ…俺がいつまでもいる訳にはいかねぇんだよ」

 

忍が構えるのを見て満足そうに呟く。

その間にも狼夜は光の粒子と化していく。

 

「…………」

 

「…………」

 

しばし睨み合った後…

 

バッ!!

 

ほぼ同時に動いた。

 

「牙皇閃ッ!!」

 

「瞬烈斬ッ!!」

 

ギィンッ!!

 

一瞬の交差の後、互いに背を向けたまま狼夜は刀で横一閃を振り抜いた状態、忍は刀を振り下ろした状態でそれぞれ静止していた。

 

「「…………」」

 

数秒が過ぎた時…

 

「ぐっ…」

 

忍は刀を杖代わりにして体を支え…

 

「見事だ、忍」

 

狼夜は背中から草原に倒れる。

粒子化もかなり進んでいき、狼夜の体がうっすらと半透明になっていく。

 

「伯父さん…」

 

忍が狼夜に近づく。

 

「ったく、勝者がんな湿気た面してんじゃねぇよ」

 

そう言って黒き刀の切っ先を持つと忍に向ける。

 

「ほれ、受け取れ。お前はきっと二刀流の方が映えるだろ」

 

「………」

 

忍は狼夜から黒き刀を受け取ると、左手に持って構える。

 

「かかっ、やっぱりお前も二刀流が似合うな。流石は狼牙の倅だ」

 

忍の姿に狼夜は弟である狼牙を重ねていた。

 

「俺は…まだ親父も母さんも知らないから…そんなこと言われてもピンと来ないよ…」

 

自然と涙を流す忍の声を聞き…

 

「そうか…」

 

狼夜はそう答えた。

 

「…………もし、あのバカ弟に会ったら伝えてくれや。"悪かったな…先に逝ってるぜ"ってな」

 

「必ず…会って伝えます…」

 

「あぁ、頼むぜ」

 

すると…

 

「そういえば、俺達の神を殺した相手勢力を聞きそびれてた気がする。そいつらの名前は…?」

 

ふと今更のように忍は狼夜に尋ねる。

 

「全ての生命に絶望を与える存在…名は『絶魔(ぜつま)』」

 

「絶魔、か…」

 

「ま、もしそいつらに遭遇したら俺の…いや、俺達の祖先の分も纏めて倍返しにしてやれ」

 

「うん、わかった…」

 

そして、それから互いに言葉が無くなったのか、無言の時間が過ぎる。

粒子化もいよいよ最終段階に入ったのか、狼夜の輪郭がぼやけ始めていく。

 

「忍よぉ。お前はこれからも色んな苦難に遭遇するだろうさ。けどな、狼としての誇りを忘れずに強くなれ…守るもんをしっかりと守れるようにな」

 

「はい…伯父さん…!」

 

狼夜の言葉を忍は胸の中に刻み付ける。

 

「ふっ…あばよ」

 

それを最期の言葉に狼夜は完全な光の粒子となり、この空間から完全に消えたのだった。

 

「………っ…」

 

溢れてくる涙を噛み締め、忍は狼夜に黙祷を送っていた。

 

 

 

数分だろうか、忍はしばらくその場に留まり、狼夜に黙祷を送り続けた後…

 

「…………よし」

 

二刀の刀をその場に突き刺すと涙を拭い去り、気合を入れてから刀を引き抜いて忍は満月の下に存在する四つの扉に向かった。

 

「俺は俺のすべきことをやるよ、狼夜伯父さん…」

 

その決意を胸に忍は紅蓮冥王が待つであろう紅蓮の焔に覆われた扉を開け放つ。

 

「ほぉ、貴殿自ら出向いてくるとは…こちらから仕掛ける手間が省けるというもの」

 

そこは紅蓮の焔に覆われた世界。

何もかもが焼け燃える世界であった。

その中心で紅蓮冥王は仁王立ちし、目の前には剣が突き刺さり、その柄頭に両手を置いていた。

 

「冥族の大原則。それを覆しに来た!」

 

銀の刀を紅蓮冥王に向けながら忍はそう宣言した。

 

「冥王スキルのことか。笑止。一人の冥王が冥王スキルを複数持つなど…断じて有り得ん! それ以前に…」

 

紅蓮冥王は剣を引き抜くと同時に凄まじい剣気を忍に放っていた。

 

「俺が貴殿を認めていないのだからな…!!」

 

剣気と共に殺気にも似た気迫が忍を襲う。

 

「……ッ! これが…紅蓮冥王の重圧…!」

 

しかし、忍は一歩も退かない。

狼夜と交わした約束とも言えないような小さな言葉を胸に、忍は退く訳にはいかなかった。

 

「ほぉ、俺の剣気と気迫を受けて退かぬか。その意気や良し!」

 

そして、紅蓮冥王は剣を構えると忍を見据える。

 

「先日のような邪魔は入らぬ。今度こそ貴殿の覚悟を見極めさせてもらうぞ!」

 

そう言うと紅蓮冥王は構えた剣に紅蓮の焔を灯して斬撃を繰り出す。

 

ギンッ!!

 

それを忍は黒き刀で受け止めると同時に…

 

シュッ!!

 

一歩踏み出して何の迷いもなく銀の刀で突きを放ち、紅蓮冥王の頭蓋を狙う。

 

「むっ!!」

 

ギンッ!!

 

引き戻す剣で忍の刀を受け流すと、紅蓮冥王はバッとその場から飛び退く。

 

「……あの狼と何かあったようだな。刀に一切の迷いがない。何を悟った?」

 

忍がこの空間に来るには必ず真狼の空間を通ることを知っていたのか、何かあったのだと確信して尋ねた。

 

「俺が戦う理由と、大切な人達を守るための覚悟を…」

 

「…………」

 

それを聞き、忍の眼を真っ直ぐ見る。

 

「…………」

 

それを受け、忍もまた真っ直ぐと紅蓮冥王の眼を見ていた。

 

「……なるほど。貴殿の眼の奥から強き覚悟を感じる」

 

そう言った後…

 

「我が半身とは違った覚悟を持つ者よ。我が力を受け入れるか?」

 

忍に向かって(ひざまず)くとそんな問いを投げ掛けていた。

 

「受け入れる。その上で、俺は俺自身の内にある蒼雪冥王の力も発現させてみせる」

 

その問いかけに対して、忍はそう宣言していた。

 

「それが本当に可能だと思っているのか?」

 

「俺は雪女の血を引く男だ。雪女の常識から外れてしまった俺に今更種の常識なんて通用しない。それを証明してみせる!」

 

「……………」

 

忍の言葉を聞き、しばし考えた後…

 

「ならば、その可能性を示してみせよ。我は紅蓮冥王にして、これよりは貴殿の力が一柱となろう。冥王スキル『イグニッション・アグニ』。周囲の熱エネルギーを吸収し、自らの糧にする能力なり。その使い方、貴殿の応用力次第で様々な力に転換出来るだろう」

 

忍に己が剣を献上していた。

 

「イグニッション・アグニ…それが紅蓮冥王としての…俺の冥王スキル…!」

 

黒き刀を右腰に帯刀すると、献上された剣を受け取る。

 

ギュオオオッ!!

 

すると周囲の焔が剣に収束されていく。

 

「これで我が力は貴殿の物だ」

 

紅蓮の焔を収束した剣が忍と同化していく。

 

 

 

紅蓮冥王の剣と同化後…

 

「次は氷を説得するんだな」

 

「あぁ、そのつもりだ…」

 

そう答えて忍は一旦真狼の空間へと戻ると、凍り付いた扉を潜るのであった。

 

「蒼雪冥王。いるなら出てきてくれ」

 

白銀の世界の中、忍は彼女を呼ぶ。

 

「我が君…」

 

忍の呼び声に答えるようにして蒼雪冥王が忍の前に現れるが、その表情は悲しみと険しさが混ざり合っていた。

 

「何故です? 何故、我が君はわたくしの力よりも紅蓮冥王の力を得たのですか?」

 

それが蒼雪冥王の問い掛けだった。

 

「紅蓮冥王にも言ったが、俺は種の常識に囚われた存在じゃない。それはお前が一番よく知っているんじゃないか?」

 

「それは…」

 

蒼雪冥王だけでなく雪女の化身でもある彼女は言いよどむ。

 

「確かに俺は雪女の血を引いている。しかし、俺は男として生まれてきた。それがどんな理由を持つのかはわからない。けど、それならそれで俺は構わない。男だろうと女だろうと、俺は俺なんだからな」

 

ハッキリとした言葉を蒼雪冥王へ伝える。

 

「もし、女として生まれ育てられてきたらまた別の道もあったのかもしれない。けど、それだと智鶴や皆に出会うことがなかったかもしれない。そんなのは御免だ。俺は彼女達がいるからこそ戦えるんだ。彼女達を…守りたいからこそ戦いに身を投じることが出来る。それを伯父さんの言葉で再確認させられた」

 

「…………」

 

その言葉を蒼雪冥王は黙って聞く。

 

「その伯父さんはもういない。これからは俺自身のことは俺自身で解決していかないとならない。その第一歩として紅蓮冥王の力を得た。だが、俺は冥王の大原則を覆すため、蒼雪冥王の力にも目覚めてみせる。きっと俺になら出来るはずだ。俺は雪女の常識が通用しなかったからな」

 

そこで…

 

「本当に…そんなことが可能なのですか?」

 

蒼雪冥王は紅蓮冥王と同じような問いを忍に投げ掛ける。

 

「可能かどうかは問題じゃない。俺は必ず成し遂げてみせる。それだけだ!」

 

ブォンッ!!

 

忍の言葉がトリガーとなり、忍の周囲の雪が竜巻のように舞い上がる。

 

「これは…!?」

 

その現象に蒼雪冥王が驚く。

 

「俺は前に進む。二つの冥王の力を得て、新たな可能性を示してみせる!」

 

銀の刀を天に向けて掲げると…

 

ビュオオオオッ!!

 

銀の刀に舞い上がった雪が吹雪となって収束していく。

 

「(これが…我が君の覚悟…それに呼応するように周囲の力が我が君に収束していく…)」

 

その光景を見て蒼雪冥王は驚き、同時に忍が蒼雪冥王として覚醒を意味していた。

 

「我が君。わたくしの力を…どうぞ、ご活用くださいまし」

 

それを理解した途端、蒼雪冥王は跪いて忍に頭を下げた。

 

「わたくしは我が君の力が一つ、蒼雪冥王。冥王スキル『アイス・エイジ』。周囲の温度を下げ、熱を奪い去って凍結させる能力です。我が君ならば、相手や物体の活動を制限させることも可能でしょう」

 

「それが蒼雪冥王としての、俺の元来から持つ冥王スキル…」

 

その説明を受けながら忍の体内に銀の刀に収束していった吹雪が同化していく。

 

 

 

こうして二つの冥王の力を獲得した忍は吸血鬼の空間へと向かおうとした時だった…。

 

ヴヴヴヴ…!!

 

意識の外から振動が伝わり、意識が徐々に覚醒するのがわかった。

 

「時間か。次、ここに来た時には伯父さんはもういないんだよな…」

 

真狼の空間に浮かぶ満月を見て忍は独り言を呟く。

 

「………さようなら、狼夜伯父さん…」

 

改めて口にすると共に意識が現実世界へと浮上する。

 

………

……

 

『次は東京。東京…』

 

「………っ…」

 

車内アナウンスと共に忍は目を覚ます。

 

「もう、到着か…」

 

短くも長い時間を過ごしたような感覚に忍は頭を切り替える。

 

「んっ、ん~…」

 

横を見ればイッセーも目を覚ましたようだった。

 

「おはよう、イッセー君。そろそろ着くから降りる準備をしないとだよ」

 

そう言って準備を始める忍だった。

 

「おう、悪ぃな……って、お前、どうかしたのか?」

 

イッセーが忍の方を見ると、驚いたような声を上げる。

 

「どうかしたって、何が?」

 

当の本人は自覚がないようだった。

 

「お前…泣いてんぞ?」

 

「えっ?」

 

言われて初めて、忍は自分の目元を拭ってみる。

 

「………ホントだ」

 

深層世界での出来事が現実にも影響を及ぼしたのだろう、と忍は解釈した。

 

「何でもないよ。なんでも…」

 

「???」

 

穏やかに言う忍に訳が分からないといった感じにイッセーは首を傾げていた。

 

こうして修学旅行の幕は本当の意味で閉じたのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。