魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第四十八話『いざ、反撃の時』

修学旅行も無事終わり、次の行事は学園祭。

と行きたいところだが、それまでに忍達にはまだやらねばならないことがあった。

 

それは…

 

「三国同盟は成立した。となれば後は…」

 

「帝国に対する三国同時侵攻だね」

 

「いくら軍備を増強してきた帝国と言えど、三国を相手にするのは大変だろうからね」

 

「へへっ、腕が鳴るねぇ!」

 

フィライトにおけるフィロス帝国との決戦だった。

 

イーサ王国の王宮ではそれぞれの代表者が集まっていた。

イーサ王国からシルファーと忍、ラント諸島からミゲル大統領、トルネバ連合国からはトゥアルダスの族長であるガルドが出席していた。

 

「具体的な作戦だが…急な同盟だし、連携を取るのはかなり難しいと思う」

 

忍は今更ながらのことを言ってこの場にいる全員に同意を求めるように聞くと…

 

「同意だね」

 

「それはそうでしょ。それぞれの国によっては練度が異なるからね」

 

「足手纏いと組むのは御免だぜ」

 

国のトップ様方は好き放題に言う。

本当にこの同盟…大丈夫だろうか?

 

「…………」

 

その答えを聞いて少しだけ頭を抱えそうになるが、それを堪えて…

 

「そういう訳で、それぞれ独自に行動を起こしてほしい。連携が取れないなら取れないことを利用するまでだ」

 

忍はそう提案する。

 

「そういうことかい」

 

「まぁ、確かに連携が取れないこその強みがあるかな?」

 

「その方がこっちも動きやすいわな」

 

その提案に三者三様の反応を見せるが、概ね賛成っぽい。

 

「それぞれ帝国を囲むように国がある訳だから、それも利用して三方同時侵攻を実行したいと思う。開始時刻は合わせるとして日程は…」

 

作戦決行の日程の話をしようとすると…

 

「忍、そいつに関してはもう決めてあんのさ」

 

「伊達に情報収集は怠ってないからね。君がいない間にこちらも軍備の整えてある」

 

「つ~訳だ。作戦概要が決まったのならこっちはすぐにでも動き出せるぜ!」

 

同盟の立役者である忍が不在の間、トップ陣もただ待ってるだけではなかったようだ。

 

「作戦決行は二日後の明朝」

 

「朝日と共に帝国に仕掛けようじゃないか」

 

「それまでにテメェも準備しとけや!」

 

そう言うトップ陣に忍は…

 

「そのことなんだが…俺は単身で敵の本陣を目指そうと思う」

 

そんなことを言い出していた。

 

「「「っ!!?」」」

 

その言葉にトップ陣は揃って驚く。

 

「正気か、テメェ!?」

 

「帝都に乗り込むなんて無謀の中の無謀だよ?」

 

「忍。アンタ、ゼノライヤに単身で挑む気かい? いくらアンタでもこればかりは無茶が過ぎるよ?」

 

それぞれが忍の提案を否定しようとする。

 

「だが、この戦いを終わらせるには帝国の頭…つまりは現フィロス帝国皇帝ゼノライヤを倒す必要がある。三方向からの侵攻を囮にする形になるが、それでも俺は行くつもりだ」

 

だが、忍の意志は固く確実に1人で乗り込もうと考えていた。

 

「(何より…ゼノライヤの背後にいるであろう存在が知りたいんだが…)」

 

また、シュトームという量産型デバイスをこの世界に持ち込み、ゼノライヤを影から支援する謎の存在を突き止めたいという気持ちも持ち合わせている。

 

「しかしだね。流石に親衛隊を相手に君一人というのも危険が伴うんだよ? 僕の入手した情報によれば親衛隊の隊長以外はシュトームを持たされているというし…ゼノライヤや親衛隊長には専用のデバイスとやらがあっても不思議ではないのだよ?」

 

ミゲルがそのように言って忍を説得しようと試みる。

 

「そりゃどっからの情報だい?」

 

「それは企業秘密ですよ」

 

シルファーの呆れたような質問にミゲルはそう答えていた。

 

「つか、テメェ…どうやって帝都まで行くつもりだよ? まさか、あの機械仕掛けの馬じゃねぇだろうな?」

 

「そのつもりですよ」

 

「あんな騒音を撒き散らすようなやつで突っ込んだら恰好の的だろうが!」

 

ガルドはガルドなりの否定の仕方をする。

 

「問題ないです。射抜かれるよりも先に動くだけですから」

 

その否定をするりと回避した。

 

すると…

 

「はぁ…忍、もう一度聞くが…本気なのかい?」

 

シルファーが溜息を吐いてから確認のために忍に尋ねる。

 

「本気だ。俺一人でゼノライヤの元へ向かう」

 

「それをあの嬢ちゃん達が承諾するかね?」

 

「むっ…それは…」

 

そこで忍は言葉を詰まらせる。

 

「(こりゃ言ってないね)」

 

その反応を見てシルファーは確信する。

 

「ま、作戦開始まで一日の猶予があるんだ。それまでにちゃんと答えを決めることさね」

 

シルファーはそう忍に伝えていた。

 

「とは言え、時間も時間だから僕とガルド君は自軍での指揮をしないとね。答えは伝令鳥を使ってくれ」

 

「そうだな。ま、どっちにしろ、こっちはこっちで敵本陣まで食い破る気でいるが…!」

 

ミゲルは穏やかに、ガルドは闘争心剥き出しにそう言って席を立つ。

 

「じゃ、また二日後」

 

「この戦争を終わらせるために…」

 

「目指すは帝都!」

 

トップ陣がそう締め括ると、ミゲルは船で、ガルドはカリスに乗って自国へと帰っていった。

 

………

……

 

トップ陣の会議後…

 

「お嬢ちゃん達もそうだが、うちのエルメスにもちゃんと説明するんだよ」

 

シルファーは退室しようとする忍にそんなことを言い出していた。

 

「なんでエルメスにまで…」

 

忍はシルファーに振り返りながらそんな疑問を口にする。

 

「前にも言ったが、あたしゃ本気だよ? エルメスをアンタの嫁さんにするってね」

 

「まだ言うか!? 一国の王女を俺みたいな部外者に預けてもいいのか!?」

 

未だそのことを諦めてない様子のシルファーに忍は驚きながらそう反論していた。

 

「もう部外者じゃないだろ? アンタはこの国…いや、世界のために動いてくれてる。三国同盟なんてことをやったことでね」

 

「ただのお節介だ。それに首を突っ込んだのは俺の方からだし…」

 

シルファーの言葉にそう答えるが…

 

「それだけじゃないんだろ?」

 

「…………」

 

シルファーに指摘され、忍は押し黙る。

 

「何も恩義を感じてるのはアンタだけじゃない。あたしもアンタには恩義を感じてるんだよ。何度か命を救ってもらったからね。娘を悲しませずに済んだし…」

 

忍が目覚めた時、再び舞い戻ってきた時…そのどちらも忍はシルファーを助けていた。

 

「それにあたしも気になるのさ…ゼノライヤの背後にいる存在ってやつがね」

 

この世界の技術を転用して大量の兵器を生産して帝国に流した存在に対してシルファーは怒りを覚えていた。

 

「争いは前からあったし、魔力石を兵器に転用するなんてことも当然ながらある。それで戦争に発展したのはこの世界の出来事で仕方のないことさ。でもね、この世界の技術を別の世界の奴が好き勝手に使って被害が拡大するような…今のあたしらの技術じゃ到達出来ないような一線を画すような兵器を作り出した。そして、それを帝国に流して戦火を助長させるような手口。それがあたしは気に入らなくて許せないね」

 

そう言ってシルファーは部屋のテラスに出ると、城下を見ていた。

 

「民を平気で巻き込むような兵器を平然と活用するゼノライヤにも腹が立つが、それ以上に気に入らないのがそれをゼノライヤに送り続けながら表舞台に顔を出してこない、その"裏の存在"ってやつさ! この世界を引っ掻き回すだけ回して自分は高見の見物を決め込んでやがる!」

 

ダンッとテラスの柵に拳を叩き付けるシルファー。

シルファーは女王として、一人の人間(実際は龍だが…)として、ゼノライヤの背後にいる存在が気に入らない様子だった。

 

「陛下…」

 

その怒りを感じたのか、忍もどう声を掛けたものかと困った。

 

「見苦しいとこを見せたね。けど、これがあたしの本心さ。だからこそ、今回の作戦…あたしも機会があれば一気に帝都へと向かうからね。それだけは覚えておきな」

 

そう言うと、シルファーは自分も隙あらば帝都を目指す折を忍に伝えていた。

 

「それはそうと…いい加減、あの子の気持ちも汲んではくれないかね?」

 

「それとこれとは話が違うだろ」

 

話は打って変わるが、忍はキッパリと言い切る。

 

「アンタ以外に良い男がいないんだよ。貴族のボンボン共は根暗なのや目立ちたがりが多いし、将軍や兵士とかだと先立たれる可能性もあるから任せたくないし…そうなると実力あってしぶとく生き抜きそうで、何よりあいつを幸せに出来そうな奴はあたしの中じゃアンタくらいしかいないし」

 

「何気に酷い言われ様な気がするが…」

 

シルファーの言葉に棘がある様な気がしたが、忍はそれを無視することにした。

 

「第一、男があまり得意じゃないあの娘がアンタにはそれなりの好意を抱いてる。それだけでもあたしは十分に嬉しいんさね。あと、孫も見たい」

 

「おい、そりゃアンタの願望だろ」

 

願望まで口に出た辺りで忍も思わずツッコミを入れる。

 

「願望があるから頑張れる時もあるんさ」

 

忍のツッコミもなんのそのな反応で返すシルファーだった。

 

「はぁ…」

 

もう諦めて改めて部屋を出ようとしたところ…

 

「別にあたしは一番を望んでる訳じゃないよ。あの娘はどうか知らないけど…少なくとも、アンタの守りたいってのの中に入れて欲しいんさね」

 

「………そんなのはもう決めている。が、さっきも言ったが…一国の王女を、この世界の住民ではない俺の一存では決められん」

 

「なら、エルメスと一緒に考えればいいのさ」

 

「………失礼する」

 

そう言って忍は部屋を後にすると…

 

「期待してるよ」

 

その背にシルファーからの言葉が投げかけられた。

 

 

 

会議が終わって王宮を歩いていると…

 

「あ、忍様」

 

「エルメス…」

 

エルメスと遭遇した。

 

「会議は、もう終わったんですか?」

 

「あぁ、大体のことは決まった。二日後の明朝、帝国に対して三国同時に攻める」

 

エルメスには作戦概要を伝えてもいいと判断した忍はそう伝えていた。

 

「そう、ですか…」

 

基本的に争い事は好まないエルメスは表情を暗くしていた。

戦いが終わるということはわかっていても、それを終わらせるための行為もまた戦いであるからというのが悲しいのかもしれない。

 

「それと…俺はその際に単独で帝都に向かおうと思っている」

 

「えっ?!」

 

忍の言葉にエルメスは驚いて忍の顔を見る。

 

「ゼノライヤと雌雄を決する。それと同時にその裏に控えてる存在を暴きたいんだよ。そうすれば、この世界は当面の間、平和でいられるだろ?」

 

忍がそう言うと…

 

「平和になったら…忍様はどうなさるのです?」

 

不安そうな表情でエルメスが尋ねる。

 

「……俺は、地球でやらなくてはならないこともある。それに他の次元世界に干渉する場合もあるからな…」

 

それは遠回しにこの世界に頻繁には来れなくなる、もしくはもう来ないかもしれないという言葉であった。

 

「っ…」

 

それを聞いてエルメスの表情が一層暗くなる。

 

「………なぁ、エルメス。少し話をしようか」

 

そう言ってエルメスの手を握ると、忍はある場所へ向かった。

 

「え、忍様?」

 

突然のことに再び驚くエルメスだが、抵抗はせずに忍に従って一緒に歩いていくのだった。

 

 

 

王宮内にある庭園へと来た忍とエルメス。

 

「エルメスは…もしも、自分が王女じゃなかったらとか考えたことはないか?」

 

庭園内に入ってから少しして忍はそう切り出した。

 

「え…? 私が、王女じゃなかったら…?」

 

突然の質問にエルメスも困惑した表情を見せる。

 

「あぁ…もし、王宮じゃなく、城下にあるような普通の家に…シルファーと共にいるとしたらどうだ?」

 

「そんなこと、考えたこともありませんでしたが…そうですね…」

 

しばらくじっくりと考えてからエルメスは…

 

「きっと、今とは違った生活が待っているんでしょうね。私はあまり想像出来ませんが…それでもお母様と一緒なら、例え苦しくても楽しく暮らせるような気がします」

 

根が真面目なのだろうことが窺えるような、そんな風に答えていた。

 

「そうか…」

 

「でも…どうして、そんなことを…?」

 

忍が何故そのような質問をするのか、その意図がわからずに尋ねていた。

 

「君は…ここに来たばかりの、昏睡状態の俺をずっと看病し続けてくれたろう? それは…王女だからか? それとも、別の理由か?」

 

意地悪な質問をしている自覚はあるが、忍はそれを確かめておきたかった。

 

「それは…」

 

忍に問われてエルメスも困惑の色を強めると共に記憶を(さかのぼ)ってみる。

 

「…………」

 

忍は慌てずにエルメスの答えを待つ。

 

「最初は…その、兵士の皆さんと同じ感覚でした。意識不明の病人…でも、なかなか起きないので毎日確認するようになりました。酷い怪我もしていたので、心配だったのは確かです」

 

エルメスはゆっくりと語り出す。

 

「起きた時も、最初は驚いて……私、男の方と喋るのはあまり得意じゃなかったので…兵士の皆さんとも必要最低限の会話しかしませんでしたから……それで、いきなり押し倒されて、でもそれはお母様の咆哮の余波を察して助けてくれたんですよね?」

 

「あぁ。あの咆哮が聞こえた時、エルメスが窓の近くにいたのを見て危ないと思ったら、体が勝手に動いたんだ」

 

「男の人に押し倒されるなんて初めての出来事でしたから気が動転してしまって…その後、お母様を助けに行くと向かわれた時もかなり驚いたんですよ?」

 

「それは…すまないと思ってる」

 

「本当ですよ。いきなり窓から出て…飛び降りたのかと思ったんですから…」

 

あの時の出来事を思い出して苦笑するエルメス。

 

「それで…本当に劣勢だったお母様を救ってしまうんですもの。その上、亡くなった兵士の皆さんの埋葬まで…」

 

母を助けてくれただけでなく、見ず知らずの死した兵士達の埋葬まで行ってくれた忍にエルメスは深い感謝の念を覚えていた。

 

「その後、砦を奪還すべく一人で行動なさるとお母様から聞いた時は肝を冷やしました」

 

「それで君までついてくるとは思わなかったが…」

 

「あれは…お母様と忍様が心配で…他の皆さんも証人が必要だと聞いたので…」

 

他の皆さんとは今でもシルファーに付き従っている臣下達のことである。

今では忍のことも大部分の臣下達が認めているが、その功績の裏では陰口も叩かれていたり、一部の臣下達からは厄介者呼ばわりや未だ信用されていないのが現状である。

 

「(誰が焚き付けたのかは…明白だな)」

 

それを聞き、すぐさま彼女の母親の顔が思い浮かんだ。

 

「それでお母様と共に忍様と同行し、忍様の戦いぶりを拝見しました」

 

「あぁ…そんなこともあったな」

 

忍、シルファー、エルメスの3人で潜入した砦攻略戦を思い出す。

 

「あの時、忍様は何かに目覚められて、記憶もお戻りになられたのですよね?」

 

「あぁ、色んな事を思い出した」

 

「それで…忍様がフェイト様やシア様達と一緒に"地球"という場所に戻られると聞いた時、酷く胸が苦しくなって…気づいたら走ってました」

 

「…………」

 

それを忍が追いかけて説得した。

 

「自分でも驚きました。あの砦での戦いを見て、忍様の優しさに触れてから…忍様の事を考えると顔が熱くなったり、忍様に大切なお方がいると知った時も胸が苦しくなりました。これが、何なのか…最初に気付いた時は戸惑いました」

 

そして、忍を見上げながら…

 

「これが…恋、なんですか?///」

 

顔を赤くして尋ねていた。

 

「そうかもしれないな…でも違うかもしれない。エルメスはどっちがいい?」

 

「私は…恋、であってほしいです」

 

真っ直ぐ見つめ、ハッキリと言葉にする。

 

「だが、知っての通り俺には大切な…守りたい彼女達がいる」

 

「わかってます。ですが…」

 

エルメスが話す前に、彼女の口に人差し指をつけて言葉を遮る。

 

「っ!?////」

 

「話は最後まで聞いてくれ」

 

そこで忍は自分の気持ちも口にする。

 

「もちろん、その守りたい人の中には君も含まれている。君は俺にとって命の恩人であるが、それだけではなく一人の女性としての魅力も感じる心優しい女の子だ。そこに『王女』という肩書きは不要だろ?」

 

「ぁ…/////」

 

それを聞き、エルメスはさらに顔を赤くする。

 

「だが、この戦いが終われば君は平和な世になる次代の女王、もしくは王の伴侶とならなくてはならない。そんな君を…俺が歩む道に巻き込む訳にはいかないんだ」

 

しかし、忍はその気持ちを自分で押し殺そうと努力していた。

 

「そんな…!」

 

「わかってほしい。俺は…この先も戦いの道を歩むんだ。せっかく平和になる世で、俺についてきて再び戦いの中に身を置く必要はないだろ?」

 

そう忍は言うが…

 

「嫌です! 私は…忍様ともっと一緒にいたいです!」

 

珍しくエルメスが大きな声でそう主張する。

 

「しかし、君は一国の王女だ。しかも俺は別次元の人間で、そこへ帰らねばならない。君は故郷であるこの世界から離れることになるんだぞ?」

 

忍は最後のカードを切る。

 

「そ、それは…」

 

「(そう、それでいいんだ…)」

 

言いよどむエルメスに安堵する忍だったが…

 

「そ、それでも…それでも忍様がいないなんて…私は嫌です!」

 

「っ!?」

 

思いがけない言葉で忍は驚いた表情を見せる。

 

「確かに思い出深いこの国から去るのは…民を裏切ったような気持ちになって心が痛みます。ですが、あなたと一緒にいれないのは、もっと心が痛むのです!」

 

男と国を天秤にかけさせ、諦めさせるという…忍としても嫌なやり方をしたはずなのに、逆にエルメスに覚悟を持たせてしまったようである。

そして、エルメスが選んだのは国ではなく、男であった。

 

「私はどこまでもあなたの傍にいたいです。たとえ、あなたの一番でなくても…傍にいられるだけでもいいんです。お願いします…この戦いが終わっても、私を傍に置いてください…!!」

 

「…………」

 

そんなエルメスの言葉に言葉を失っていた忍だが…

 

「後悔…しないな?」

 

それだけ言うと、懐から戦車の駒を取り出す。

もしも…エルメスを眷属にするような事態が発生した場合、兵士よりも戦車にと忍は考えていたのだ。

 

「はい。後悔は致しません…!」

 

エルメスの決意も固かった。

 

「わかった。なら、君は今日から俺の眷属の一員になってもらう」

 

そう言って忍はエルメスに戦車の駒を差し出す。

 

「不束者ですが、どうかよろしくお願い致します」

 

エルメスはそう言って戦車の駒を受け取ると…

 

トクン…

 

戦車の駒が彼女の体内に吸収されていった。

 

「(これで残りの駒は兵士が5個。そして、絵札が7枚か…)」

 

これで兵士5個を除く眷属がほぼ揃ったと言えるだろう。

女王、戦車×2、騎士×2、僧侶×2、兵士×3と、フルメンバーまで後少しと言ったところである。

ただ、絵札に関してはその能力が未だ不明ということもあってか、いまいち使用する踏ん切りがつかない忍だった。

 

………

……

 

その後、エルメスが正式な眷属入りをし、別世界である地球にも行く決心したことを別室で待機していた他の眷属達に改めての紹介も兼ねて報告したところ…

 

「「「やっぱりか」」」

 

忍は異音同言のクリス、朝陽、吹雪から鋭い視線を向けられ…

 

「本当に王女様を眷属にしたのね」

 

暗七からも冷ややかな視線を向けられる。

 

「ぐっ…」

 

流石にあんな内容の交渉(?)を伝える訳にもいかず、忍はその冷たい視線に曝されるが…

 

「私がお願いした事ですから、どうか忍様を責めないでください」

 

エルメスが王女らしく(?)、そう言って忍を庇っていた。

 

「でも、これで兵士5枠以外は埋まったわね」

 

カーネリアが翼を広げて空中で寝そべりながらそう言う。

 

「王の坊や、女王の蠍お嬢様、騎士の特務騎士と古流剣士、僧侶の執務官と冥王ちゃん、戦車の私と異界の王女様、それに兵士のイチイバルと雪女に鵺。なかなかの異色揃いよね」

 

クスクスと可笑しそうに言いながらカーネリアは笑う。

 

「……それよりも、皆にも言っておくことがある」

 

カーネリアを無視して忍は先の作戦概要を伝えると共に、自らが単身で帝都に向かうことを話した。

 

「はぁ!?」

 

「また、無茶な…」

 

「1人で行くなんて、無謀にも程があるわよ!」

 

「しぃ君はどうして勝手に決めちゃうの?」

 

言った後は批難の嵐だった。

 

「だから、こうして意見を聞こうと言ったんじゃないか」

 

シルファーに言われなかったら勝手に行くつもりだったろうが…。

 

「ともかく、しぃ君一人にそんな危険なことはさせられません」

 

「同意見です。せめて私達も同行させてください」

 

智鶴とシアがそう言うと…

 

「しかしだな…俺にはアステリアがあり、後ろに一人くらい乗せられるが…それ以外となると、どうしても目立つし…」

 

忍は言い訳がましいことを言う。

 

「確かにそれは一理あるわね。良くも悪くも私達って目立つものね」

 

その言い訳にカーネリアが同意する。

 

「じゃあ、どうするのよ?」

 

暗七が皆の疑問を代表して言葉にすると…

 

「こうしたらどうかしら?」

 

カーネリアが案を出した。

 

その案とは…?

 

………

……

 

そして、二日後の明朝。

 

「これより、我々はフィロス帝国に向けて進撃する! これは侵略ではない! 帝国の侵略行為を止めるべく同志であるラント諸島、並びにトルネバ連合国との共同戦線である! 皆、これが最後の戦いと思って奮戦せよ!!」

 

王宮前の広場に集まった兵達に向けてシルファーが高らかに宣言していた。

 

「「「おおおおおおおっ!!!」」」

 

シルファーの宣言を受け、兵達も大声で応えていた。

 

「行くぞ! この戦いを以ってこの戦乱を終結させる!!」

 

その号令と共に兵達はフィロス帝国に奪われた我が国の領土へと出発する。

 

 

 

号令の後…

 

「で、忍達はどうするのか決めたのかい?」

 

専用の騎士甲冑を身に纏ったシルファーが玉座の間で忍達と戦い前の話をしていた。

 

「予定通り、"俺達"は帝都に向かう」

 

その言葉を聞き…

 

「腹は括った訳かい?」

 

シルファーがそう尋ねる。

 

「あぁ…」

 

「お母様、私…」

 

忍の言葉に続くようにエルメスが何か言おうとするが…

 

「そうかい。ま、それで悔いがないなら問題ないさね。忍、娘の事をどうかよろしく頼むよ」

 

それを遮るように言ってからシルファーは忍に頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。これから出陣する女王がそれじゃ締まらないだろ」

 

「だね…」

 

忍に言われてシルファーも頭を上げる。

 

「それでそっちの作戦は?」

 

話題を変えるように忍達の作戦を聞く。

 

「先発として俺と智鶴の2人がアステリアに乗って帝都に乗り込む。乗り込んだ後、ディメンション・スコルピアの力を使って眷属を呼ぶ。ただ、萌莉はこっちに残ってもらうことになるが…」

 

萌莉を残すのは、紅神眷属の中で唯一の非戦闘員と言えるからだ。

 

「お、お役に…た、立てず、す、すみません…」

 

シュンと縮こまる萌莉。

 

「気にするな。萌莉の剣は家族を守るためにあるんだろ?」

 

「は、はい…」

 

切っ掛けと覚悟さえあれば萌莉も剣士として前線に立つことが出来るだろうが、今はそれが難しい。

 

「ともかく、向こうで萌莉以外の眷属と合流してから、帝都の中央にあるという城を目指す。親衛隊は皆に任せるが…親衛隊長と皇帝ゼノライヤは俺が相手をする」

 

それだけ言うと準備したアステリアの方へと忍と智鶴が歩いていく。

 

「わかった。アンタ達の武運を祈るよ」

 

「そっちこそ、武運を祈る」

 

最後にそう言葉を交わすと、それぞれの戦場へと向かうのであった。

 

「これが…フィライトでの最後の戦いになることを祈る」

 

そう呟きつつ智鶴が乗るのを確かめてから、アステリアを発進させるのであった。

 

………

……

 

~同刻・ラント諸島~

 

「では、諸君。進軍を開始しようじゃないか。これから続くだろう平和への道と、平和な世になってからの国益のために」

 

「「「おおおおおおおお!!!」」」

 

ミゲルの号令と共にラント諸島の海軍も動き出す。

 

………

……

 

~同刻・トルネバ連合国~

 

「野郎共! 目指すは帝都! ゼノライヤの小僧の鼻をへし折ってやるぞ!!」

 

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

各部族の騎乗隊を率い、ガルドもまた号令を発していた。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

「ご報告します! イーサ王国、ラント諸島、トルネバ連合国の三国が一斉に攻めてまいりました!!」

 

帝都の城、その玉座の間にそのような伝令がやってきて、大臣達は騒ぎ始めた。

 

「まさか、こうも早く攻めてくるとは!」

「だが、たかだか三国が同盟を結んだところで…!」

「しかし、三方から同時に攻めてくるなど!」

「兵達をばらけて配備するしかあるまい!」

 

大臣達が騒いでいると…

 

「静まれ」

 

玉座に坐するゼノライヤは一言呟いただけで、シンと静まり返った。

 

「全軍を三分割にしてから各方面に向かわせよ。編成は将軍共に任せる。親衛隊はそのまま待機。帝都の守りを固めろ。わかったらテキパキ働け」

 

それだけ指示すると、蜘蛛の子を散らすように大臣や将軍達が玉座の間から出ていく。

 

残るはゼノライヤとギルフォードのみ。

 

「俺なら、奇襲の一つや二つは用意する。帝都を直接狙う輩がいてもおかしくはないからな」

 

独り言ちするように呟いていると…

 

「ふふふ…流石は陛下」

 

そこに蒼と黒の混ざり合った魔法陣が展開されると共に、その中から黒ローブが現れる。

 

「貴様か」

 

それをゼノライヤはさして気にした風もなく答える。

 

「陛下と親衛隊長殿のデバイスが出来たので持って参りましたよ」

 

そんな黒ローブの言葉に…

 

「ほぉ、ようやっと出来たのか。それともこの機会になるまで隠していたか?」

 

ゼノライヤはそう問いかけていた。

 

「ふふふ…それはご想像にお任せします」

 

のらりくらりとした態度で返す。

 

「まぁ、よい。して、その出来具合は?」

 

「陛下と親衛隊長殿のポテンシャルを引き出す最高の出来と申しあげておきましょうか。ご要望通り、シュトームとは違った趣向にしておりますので…」

 

ゼノライヤの問いに黒ローブはそう答えていた。

 

ここにきて皇帝と親衛隊長に黒ローブの作った新たなデバイスが渡る。

果たして、その性能とは?

そして、忍達は無事にこの戦いを乗り越えられるのか…?

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