魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第五十話『暴かれる多次元世界の現実』

三国同盟とフィロス帝国の決戦は各地でシュトームを相手にしていた。

そして、その一方で忍は眷属と共に帝都へと攻め進んでいた。

 

これはゼノライヤが死神ローブに背後から刺される少し前のこと…。

 

~次元の狭間・フロンティア~

 

「ふふふ…では、始めましょうか」

 

パチンッ!

 

黒ローブが指を鳴らすと同時に映像が流れる。

その映像とは、各地で起こる帝国軍と三国同盟の戦いの様子が映し出された。

 

「さぁ、拡散しなさい。全次元世界に向けて、ね」

 

その言葉と共にコントロールパネルを操作して各次元に向けてこの映像を流布し始める。

 

「ふふふ…時空管理局、冥界、天界、神の子を見張る者、各地の勢力の皆さま…あなた達はこの事態をどう対処しますか?」

 

黒ローブはフードの奥で口の端を少し上げながら嗤う。

 

………

……

 

~時空管理局・次元航行部隊本部~

 

「これは…!」

 

執務室にて黒ローブの流した映像を見て驚く時空管理局提督『クロノ・ハラオウン』。

 

『クロノ!』

 

すると内線通信魔法陣にユーノの姿が映る。

 

「ユーノか。見てるな?」

 

『うん。これは…何処かの次元の抗争映像だよね』

 

戦いの様子を見て2人は話し合う。

 

「フェイトの報告にあった次元世界の可能性は?」

 

『可能性は高いけど…でも、誰がこんなことを…?』

 

「わからん。映像はここだけなのか?」

 

『それが…』

 

ユーノは戸惑いながら映像の解析結果を伝える。

 

………

……

 

~時空管理局・地上本部内武装隊特殊任務対応執務室~

 

「ふむ…公共の電波すらジャックしての放送か」

 

ゼーラは報告を受けてからしばし考える。

 

「一体何処のどいつがこのような真似をするのか…。しかも他の次元世界でも同じような放送が強制的に流れているとか…」

 

そう言って机から立ち上がると窓へと移動し…

 

「少しばかり忙しくなるか」

 

目を細めて窓の外を見る。

 

………

……

 

~冥界~

 

「これが異世界の戦い…」

 

四大魔王が集まる場でフィライトでの戦争映像が流れていた。

 

「まさか、この場にも映像を流すとは…ここはトップシークレットな場なんだがね」

 

そう言ってアジュカが興味深そうに映像を眺める。

 

「もうアジュカちゃんったらそんなこと言ってる場合?」

 

「Zzz…」

 

「ファルビーもこんな時まで寝てないの!」

 

珍しくセラフォルーがキャラを捨てて対応してる。

 

「それよりも気がかりなのは…」

 

サーゼクスは民達の反応を気にする他にもう一つの気がかりがあった。

 

………

……

 

~天界~

 

「人間界にも同様の映像が…?」

 

ミカエルが下級天使からの報告を聞いていた。

 

「あらあら、困りましたねぇ~」

 

「人間達がこのような映像を見て何を思うか…」

 

他のセラフメンバーもその報告を聞いてそれぞれ思うところがあるようだ。

 

「ともかく、他の勢力と協力してこの映像の流布を止めなくては…発信源はまだ見つからないのですか?」

 

ミカエルは映像の配信を止めようと動こうとしているが、なかなか発信源が見つからないことに表情を曇らせていた。

 

………

……

 

~人間界(地球)~

 

世界規模で電波ジャックは地球でも起こっていた。

 

「なんだなんだ? 新作の映画か?」

 

「ていうか、前にもこんなことなかった?」

 

様々な放送局、ネット中継もまたフィライトでの戦争映像が流されていた。

それは奇しくも数カ月前に起きたフロンティア事変のマリアの放送にも似ていた。

しかし、その規模はその時よりも大きく、次元を隔てた別世界にも及んでいた。

 

それは授業中である駒王学園でも例外ではなかった。

突然、教室のテレビが点くと同時に映像が流れたのだ。

 

「(これって前に忍が言ってた、異世界の…?)」

 

その放送を教室で見ていたイッセーは驚きながらも前に忍が話していたことを思い出していた。

 

「(てか、なんだってこんな映像が…?)」

 

周囲の困惑した様子を観察しながらイッセーは思案してみるが、一向に答えは出ない。

 

「(確か、忍の奴もここで戦ってるはずじゃ…!?)」

 

それを見られたらマズいと考えたイッセーだが、どう行動していいものやら決めあぐねていると…

 

『ジ……あ……ジジ……テス…』

 

映像に混じって音声が聞こえ始める。

 

「なんか聞こえね?」

 

クラスの誰かがそう呟くと、誰もが耳を澄ましてみる。

 

『ふむ、流石に全次元世界に向けるとなると翻訳機能や音声の調整が大変ですね』

 

何やら映像とは不釣り合いなほど冷静な声音での愚痴が聞こえてきた。

 

『ともあれ、初めまして。全次元世界の皆さま』

 

画面の中、映像の隅に小さく黒ローブの姿が映し出される。

その背後には禍々しい上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ石像が映っており、黒ローブはその上半身に当たる位置の前に蒼と黒の混ざった魔法陣を展開し、その上に立っていた。

 

「ひっ…!?」

 

クラスの女子の何人かが映像の隅に出た黒ローブと石像を見て短い悲鳴を漏らす。

 

「全次元世界?」

 

黒ローブの言葉に一部の生徒達は意味不明そうな表情を見せる。

 

「(あの魔法陣の色は…!?)」

 

イッセーはイッセーでその魔法陣の色に驚いていた。

アレは冥界で忍と共にブリザード・ガーデニアに強制転移させられた時に見た魔法陣の色と同じだからだ。

 

「(イッセーさん?)」

 

「(イッセー?)」

 

「(イッセー君?)」

 

イッセーの僅かな反応に教会トリオが気づく。

 

『多次元世界。この言葉を知らない、もしくは"その存在を知りつつも上の人間によって教えられていない"人々にお教えいたしましょう。世界はあなた達が思っている以上に広く、そして複雑なのです。次元の狭間という境界線に区切られただけで世界は幾重にも存在します。あなたの知る世界だけが全てではないのですよ。今、"流している"映像のようにね』

 

手を広げるような仕草と共に黒ローブは告げる。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

その言葉に教室のイッセー達の顔色が変わる。

 

『多次元世界を認知している世界もあるというのに…その事実を知らない皆さんには同情を禁じ得ませんよ。まったく、これだから何処の世界の上層部や政府というものは信用出来ないのです。皆さんもそう思いませんか?』

 

「おかしいな、電源が切れんぞ」

 

教師がテレビの電源を切ろうと四苦八苦している中、黒ローブの言葉は続く。

 

『でも、ご安心ください。皆さんには今この瞬間、私がお教えして差し上げましたので…世界の見方が変わりますよ? 何しろ、世界には"人間という種"以外にも様々な種族が存在します。身近な存在としては…そうですね。悪魔や天使…伝説上の存在とされる者達ですが、意外にも皆さんの近くにいたりするのですよ?』

 

「何言ってんだ? あいつ」

 

「天使とか悪魔とか…そんなのファンタジーな世界じゃない」

 

黒ローブの言葉に生徒達はバカバカしいとばかりの反応を示していた。

 

「…………」

 

一部、笑っていない生徒(イッセー達)もいるが…。

 

『ふふふ…この話を信じないという方も多いことでしょう。ですが、事実です。これを御覧なさい』

 

そう言って映像がイーサ王国侵攻地へと移り…

 

『うおおおおお!!!』

 

そこで戦うシルファーの姿が映し出される。

 

『陛下! あまり前に出られては危険です!』

 

『んなこと言ってる場合かい! 一気に畳み掛けるよ!』

 

臣下の言葉を無視すると、シルファーが魔力の光に包まれていき…

 

『グオオオッ!!』

 

魔力光が肥大化すると同時にその中から白銀のドラゴンが姿を現す。

 

「なんだ、新手のCGか?!」

 

「あの女の人はどうしたの?」

 

「ど、どうせ、何かの演出でしょ」

 

その光景に生徒達はどよめく。

 

『彼女は一国の女王でありながら前線で兵達を先導する龍種であるのですよ。龍種とは、一般的にドラゴンと呼ばれる種族の俗称です。彼女はその龍種であり、人間とは異なる存在とも言えるでしょう』

 

人々の反応などわからない黒ローブはそのまま言葉を続ける。

 

『この世界の名はフィライト。ご覧の通り、今は戦争の中にありますが、もうすぐその抗争も終わりを告げます。首謀者であるフィロス帝国という国の皇帝が死去するからです。こんな風にね』

 

そして、次の瞬間…

 

『ザシュッ!!!』

『ッ!!??』

 

生々しい肉を貫く音と、それを受けるようにして腹部から刃が生えて(おびただ)しい量の血を流すゼノライヤの姿の映像へと切り替わる。

 

「きゃあああっ!!」

 

あまりにも生々しい映像に女生徒達の悲鳴が木霊する。

 

「うっ…ぷ…」

 

中には嘔吐感を必死で堪える生徒の姿もある。

 

『さぁ、これが現実なのですよ。この戦争が終わった後、次の戦場になるのはあなた達の世界かもしれませんよ? これぞ、次元間抗争、"次元戦争"の始まりです』

 

その言葉を最後に黒ローブの映像は切れた。

しかし、未だ画面はゼノライヤが貫かれた瞬間を映したままであった。

 

つまり…

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国侵攻地点~

 

「っ!? 陛下、アレを!」

 

『なんだい、まったく…!?』

 

臣下が空を指さすのを見て、そちらに視線を向けるとシルファーは驚く。

 

『ゼノライヤ…!』

 

そこには各次元に発信されている映像と同じものが空一面に映し出されていた。

つまりはゼノライヤが巨大な刃に貫かれている姿が…。

 

「へ、陛下!?」

 

「ぜ、ゼノライヤ様!?」

 

その光景に帝国兵もかなり驚いた様子であった。

 

『私は行くよ! この場は任せる!』

 

バサァ!!

 

勢いよく翼を広げるとシルファーはその場から飛び立ち、帝都へと飛翔するのであった。

 

『(忍…があんな真似するわけないか。じゃあ、一体誰がゼノライヤを…!)』

 

飛翔しながらシルファーは考えを巡らすが、答えは一向に出なかった。

 

………

……

 

~帝都城内・玉座の間~

 

「お前…!!」

 

忍が一歩前に出ようとするが…

 

『(ダメ、忍君はそれ以上動いちゃ…!)』

 

外で戦っているだろうフェイトからの念話が忍の脳内に届く。

 

「(フェイト? 何を言って…)」

 

『(今、どういう仕組みかわからないけど…忍君のいる玉座の間が空一面に映し出されてるの!)』

 

「(なに?!)」

 

フェイトの言葉に忍は確認しようとするが、城内の奥にいては外の状況がわからない状態であった。

 

『(さっきまで何ともなかったんだけど、突然空一面に魔法陣が現れたと思ったら…そこで誰かが大きな刃に突き刺さる映像が流れて…向こうの親衛隊の人達も混乱してるみたい)』

 

「(ゼノライヤが刺された瞬間を見たからか…?)」

 

『(多分…でも、他にどんなことが起きるかわからないから、出来るだけ忍君もそこから動かないで。忍君は今のところ映ってないから…)』

 

「(わかった。ありがとな、フェイト)」

 

『(う、ううん。別に私は…///)』

 

念話での会話を終わらせると、忍は目の前で起こる事態を観察しようとするが…

 

「……貴様ぁぁぁ!!」

 

ギルフォードが激昂したように残ったシュヴァリエ・ブレードを展開すると、死神ローブに向かって斬り掛かる。

 

ガキンッ!

 

それを双剣ローブが夫婦剣を両手に創り出してギルフォードの刀を防いでいた。

 

「……冷静だったなら私とも互角の剣戟を演じられたものを…」

 

双剣ローブは冷静な口調でそう言い放っていた。

 

ザシュッ!!

 

「……ぐっ!?」

 

防いだ方の剣とは逆の剣を斬り上げるようにして振るい、ギルフォードの胸部を抉る。

 

「っ…が…き、貴様ら、は……?」

 

苦しそうに口の端から血を流しながらまだ息のあるゼノライヤがローブ衆を問い質す。

 

「あれ、意外としぶといなぁ~」

 

そう言いながら死神ローブはグリグリと鎌で抉るように傷を広げていく。

 

「ぐぅ…がぁ…!!?」

 

死神ローブの行動にゼノライヤが苦悶の表情と声を出す。

映像として流れていることを知ってか知らずか、やり方がエグい。

 

「ま、どっちにしろ死神の鎌で突き刺してんだから、その内死ぬんだけどさ」

 

「はっ、所詮は貴様も人間だということだ。寿命には勝てん」

 

「ま、そういうことだよねぇ~」

 

「で、いつ暴れていいんだ? あぁ?」

 

「…………」

 

死神ローブの言葉に続くように後ろの4人も呟く。

 

「……では、そろそろ我等も正体を見せるとしよう」

 

頃合いと見たのか、双剣ローブが夫婦剣を消すと自らの手でローブを掴む。

 

「ほ~い」

 

「たるかったんだよな、これ!」

 

「ふんっ…」

 

「ひゃっはぁ~!」

 

「…………」

 

双剣ローブに倣うように残りのローブ衆も自らのローブを掴む。

 

バッ!!×6

 

次の瞬間にはローブ衆全員がローブを外していた。

 

そこには…

 

「いやぁ~、このローブって意外と暑かったんだよねぇ~」

 

文句を口にする死神ローブの正体は肩まで伸ばした灰色の髪、琥珀色の瞳、まだあどけなさが残るものの端正な顔立ちにゼノライヤを突き刺している死神の鎌とは対照的な全体的に線は細く華奢な体格をしていた。

要はまだ子供っぽく少年と言わざるを得ないような風貌だった。

 

「このくらい暑い内に入るかよ」

 

口の悪いローブ衆の1人は背中まで伸ばした白に近い灰色の髪、真っ赤な瞳、野性味溢れる端正な顔立ちに全体的な線は太めでそれに比例した筋肉量を持つ体格をしていた。

また、こめかみ部分には太く曲がりくねった角が生えており、純粋な人間ではないことが窺えた。

 

「そりゃアンタが熱いのに慣れてるからっしょ。こっちは慣れてないんだもん」

 

死神ローブに同意して文句を言うローブ衆の1人はうなじが隠れる程度の銀髪、紅い瞳、人形のように綺麗で整った顔立ちに肌は色白で線が細くて筋肉量も平均的な体格をしていた。

ちらりと見える八重歯は鋭く尖っていた。

 

「ぎゃあぎゃあとうるさい奴等だ」

 

その様子をうるさそうに横目で見るローブ衆の1人はくすんだ緑色の短髪、色素の薄い紫色の瞳、わりと整った渋めの顔立ちに体格相応の筋肉量を持ったガッシリ系となっていた。

さらに背中からは悪魔の翼を広げていた。

 

「…………」

 

今まで一切喋っていないローブ衆の1人は背中まで伸びたボサボサの白髪、藍色の瞳、獣人特有の縦に鋭くなった瞳孔、凛とした雰囲気の端正な顔立ちに無駄な筋肉のない痩身でシャープな体格をしていた。

忍の真狼形態と同じように頭からは髪の色と同じネコ科系の耳と、臀部からは同じく尻尾が生えていた。

 

「……やれやれ…」

 

呆れたように呟く双剣ローブの正体は背中まで伸ばした金髪、エメラルドグリーンの瞳、中世的で女性のような綺麗な顔立ちに線は細く見えるが、そのわりに引き締まった筋肉の持ち主であった。

左目は潰れているのか、眼帯を着用している。

 

約1人を除き、年齢からして10代半ばから20代前半くらいの若者が多かった。

 

「(どういう組み合わせだよ!)」

 

画面の外で忍がその匂いを嗅いで驚く。

 

「(どいつも人間…いや、1人は確実に人間だが、それ以外は全員"人間との混血"かよ!)」

 

ローブ衆の内、5人は人間の血も流れている混血であることが理解出来た。

 

「……では、名乗らせてもらう。私はこの中では純粋な人間で、名は『ロンド・スランディア』」

 

双剣ローブこと、ロンドが名乗るのを皮切りに…

 

「死神とのハーフ、『ディー・デグロス』」

 

「酒呑童子のハーフ、『ジン・マドロックス』」

 

「悪魔とのハーフ、『グリード・フロッカス』」

 

「吸血鬼とのハーフ、『クーガ・ブラスティ』」

 

「………ジュうじんトのハぁフ…『ジャガー・ストリックス』」

 

死神ローブ、額に角、悪魔の翼、八重歯が鋭い、獣耳と尻尾の順にローブ衆が名乗る。

 

その名乗りは映像向こうの人間達にではなく…

 

「(俺に向けて、だよな…これ)」

 

画面外にいる忍に向けたものであったが、それを知る者は少ないだろう。

 

何故なら…

 

「…名、など…聞いて、いない…! 貴、様ら、は…誰の、差し金……ぐっ!!」

 

「……ゼノ!」

 

この場には忍の他にゼノライヤとギルフォードがいるからである。

 

「まだ死なない? ホントにしぶといな~」

 

面倒そうにディーが呟くと…

 

「人間にしては大した生命力だが、些か目障りだ。ディー」

 

グリードが感心しながらも止めを刺すように促す。

 

「ほいさ♪」

 

それを簡単に了解すると…

 

ズリュリ…

 

死神の鎌をゼノライヤから引き抜くと…

 

「ぐっ…!」

 

鎌を引き抜かれ、傷口から大量の血を流しながら膝を着く。

 

「グッバイ、ゼノちゃん♪」

 

死神の鎌を大きく振りかぶり、その首を刎ねようとする。

 

「…ゼノ!!」

 

ギルフォードが叫ぶ中、鎌が振り抜かれようとした瞬間…

 

バキュンッ!!

 

一発の銃声が玉座の間に響き…

 

キンッ!!

 

「おろ?」

 

死神の鎌の軌道が逸れてゼノライヤの頭上の空を斬る。

 

「……邪魔立てするか、"狼"」

 

「………」

 

龍騎士時に被っていた仮面を模してバリアジャケットの追加アクセサリ的に作り出した目元を覆う白い仮面を装着した忍が右手にライト・フューラーを握って画面に現れる。

 

………

……

 

~地球・駒王学園~

 

「またなんか出てきたぞ!」

 

「狼って?」

 

忍の登場にまたクラスが騒めく。

 

「(忍!)」

 

その姿にイッセーは思わず立ち上がる衝動に駆られそうになったが、何とか堪えていた。

 

「(ダメだ! ここで動いたら俺が疑われる…それが皆にも迷惑になるかもしれないんだ…!)」

 

イッセーは悔しさに歯噛みしながら成り行きを見守るしか出来ないのであった。

 

………

……

 

~帝都城内・玉座の間~

 

「(一応、何があるかわからんから仮面を精製してみたが…どうするか…)」

 

勢いで邪魔したものの、ゼノライヤは倒すべき敵なので助ける義理はない。

つまり、これからのプランは無いに等しい。

 

「(しかし、こんな終わり方で納得出来ないのも確かだ!)」

 

その意志を示すようにシュヴァリエ・ブレードとライト・フューラーを構える。

 

「……あくまでも邪魔をするか」

 

それを見てロンドを含め、6人が臨戦態勢に移行するが…

 

「……とは言え、今回はお前への挨拶が目的だ。戦闘は極力控えたい」

 

「あぁ!? ふざけてんじゃねぇぞ、ロンド!!」

 

ロンドの言葉に一番反発したのはジンであった。

 

「血…人外の血…採取出来ないの?」

 

危ない発言をするクーガもまた凄く悲しそうな表情をする。

 

「……はぁ…少しだけなら"あの方"もお許しになるだろう。だが、少しだけだぞ?」

 

それだけ言うとロンドは後ろへと下がり、それと入れ替わるようにジンとクーガが前に出る。

 

「っしゃあ! 久々に骨がありそうなのが相手だ!!」

 

「ひゃはは。君の血、貰うね?」

 

明らかに戦闘狂と変質者という組み合わせである。

 

「(なんか嫌な予感しかしねぇな…)」

 

そんな考えをしながら相手の出方を見る。

 

「ほんじゃま、行くよ!」

 

クーガは赤色のミッドチルダ式魔法陣を足元に展開する。

 

「ブラッディ・チェーン!」

 

そして、徐に自らの手首を切ると血を流し、それが魔法陣と結び付くと血が鎖と化して忍に襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

それをシュヴァリエ・ブレードの刀身で受け、全身拘束の難を逃れるが…

 

「オラァ!!」

 

その隙に接近してきたジンが忍に殴り掛かる。

 

「ッ!」

 

ライト・フューラーを素早く空中に投げると、気と妖力をミックスして右腕に流し…

 

妖華撃(ようかげき)ッ!」

 

ジンの拳に対抗するようにして強化した己の拳を激突させる。

 

「ッ…(やっぱり、こいつも妖力使い…!)」

 

ジンの拳から伝わってくる妖力に眉を顰める。

 

「俺の一撃を受け止めるなんざ大したもんじゃねぇか…だが…!」

 

メリッ…ビキッ…!!

 

忍の拳が悲鳴を上げる。

 

「それだけだ!!」

 

「くっ!」

 

ジンが拳を振り抜く前に忍は右腕から力を抜いてジンの拳を受け流すと…

 

チャキッ!

 

空中に投げていたライト・フューラーを掴み取ると、その銃口をジンへと向ける

 

「(このまま撃てば…)」

 

ジンを殺すことになる。

また、罪を背負うことになるな、と忍は考えていた。

 

しかし…

 

「はっ! いいぜ、撃ってみろよ。それで俺が"殺せる"んならなぁ」

 

ジンは不敵な笑みを浮かべて忍を挑発していた。

 

「なに…?」

 

その意味がどういう意図がわからなかったが…

 

「後悔するなよ!」

 

バキュンッ!!

 

それと同時にライト・フューラーの魔力弾はジンの脳天を貫いた。

 

「(頭を吹っ飛ばしちまったな…)」

 

その結果を見ることもなく、忍はクーガ達の方を見ると…

 

「?」

 

だが、クーガ達は顔色変えずに事の成り行きを見ていた。

 

「(こいつら、仲間が死んだってのにどうして…)」

 

忍がそんな疑問を抱いていると…

 

ゴスッ!!!

 

「ぐふっ!?(なん、だ…!?)」

 

いきなり鳩尾に強烈な激痛が走ると共に、忍はその場から吹き飛ばされていた。

 

ギンッ!!

 

しかし、血の鎖で繋がれていたシュヴァリエ・ブレードを持っていたため、それほどの距離を吹き飛んだわけではない。

 

「(一体、何が…?)」

 

訳が分からず、前方を見てみるとそこには…

 

「ふぅ、相変わらず"死なねぇ"ってのも苦労するな」

 

頭を吹き飛ばされたはずのジンが、まるで"何事もなかった"ように拳を突き出していた。

 

「なっ?! どういうことだ!? 確かに手応えはあった!」

 

忍は驚いてそう叫ぶ。

いくら魔力弾でもアレだけの至近距離から撃てば致命傷になりえる。

それが無傷で殴ってくるなど…。

 

「言ってなかったか? 俺もロンドと同じ神器持ちなんだよ!」

 

「ていうか、俺ら全員が持ってんだけどね」

 

ジンの言葉の後、クーガがそう漏らす。

 

「神器持ちが…6人!?」

 

その事実に驚く忍だが…

 

「……付け加えるなら、全員が既に禁手を修得している」

 

今まで静観していたロンドがさらに驚愕の真実を告げる。

 

「なっ!?」

 

ロンドの一言でさらに驚く。

 

「……お喋りが過ぎたか。ジン、クーガ。撤退するぞ」

 

ロンドから反抗は許さないとばかりの静かな威圧感が放たれる。

 

「ちっ…!!」

 

「は~い…」

 

それを察知し、ジンとロンドも残りのメンバーにいる地点まで下がる。

 

「……では、さらばだ、狼よ。次に(まみ)える時には容赦はせん」

 

それだけ言うとロンド達は転移陣によってその場から消え去ってしまった。

 

ブツンッ!

 

それと同時に今まで次元世界中に流れていた映像の流布も停止する。

 

「…………」

 

忍がふらりと立ち上がると…

 

「がはっ…」

 

血の塊を吐きながらゼノライヤも力なく立ち上がっていた。

 

「……ゼノ」

 

それに肩を貸すようにしてギルフォードがゼノライヤを支える。

 

「ふ…無様、だな…貴様の…言った、通り…かも、しれ、ん…」

 

息も絶え絶えにゼノライヤは忍に言う。

 

「……同情はしない。それはお前の慢心が招いた結果だからな」

 

冷たく忍はそう言い切る。

 

「当たり、前…だ。だか、らこそ…貴様に、っ、一矢報いる…!」

 

カイザーソードを手にゼノライヤは最後の力を振り絞る。

 

「俺はこの無益な戦いに終止符を打ち、お前にその代償として引導を渡す。それだけだ…」

 

ゼノライヤの覚悟を受け取り、忍もまたライト・フューラーを解除するとファルゼンとシュヴァリエ・ブレードを構える。

 

「…ギル…最後、まで…付き、合って…くれ、る…か?」

 

「……無論だ」

 

ゼノライヤの言葉に頷くと、ギルフォードもまたもう片方の手で残ったシュヴァリエ・ブレードを構える。

 

「「「…………」」」

 

これで本当の決着が着き、フィライトで起きた負の連鎖が断ち切られるという場面。

緊張の面持ちで睨み合う忍とゼノライヤ&ギルフォード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼らに向けられた悪意は…まだ終わっていなかった。

 

ギュイイイイッ!!!

ズジャアア!!

 

「「ッ!?!?」」

 

今度は細長いドリルのような物体がゼノライヤとギルフォードの胸を背後から貫いていた。

ゼノライヤとギルフォードはそれを見て背後を見る。

 

そこには…

 

「ふふふ…なかなかの執念ですが、グリードの言う通り些か目障りですね。往生際が悪いと申しましょうか…もうあなた達の役割は終わっているのですよ?」

 

先端が山羊の頭を模したオブジェクトに角が特殊な刀身で形成された槍のような装備を持ち、そのような言葉を発する黒ローブの姿がった。

 

だが、意外なところから声が上がる。

 

『カプリコーン!?』

 

それは待機状態のアクエリアスだった。

 

「カプリコーン…山羊座か?!」

 

アクエリアスの叫びを聞き、忍も叫ぶ。

 

『お久し振りですね、アクエリアス』

 

その言い草はどこか淡白なものが含まれていた。

 

「き、貴様、ぁぁぁ!!!」

 

己の戦いを二度も穢されてゼノライヤは憎悪の視線を黒ローブに向ける。

 

「ふふふ…心地の良い視線ですね」

 

そう言う黒ローブのローブがひらひらと舞い始め、その下にある肉体を露わにする。

白銀の鎧の隙間から見える肌の色は病的なまでに白く、肉付きも程ほどといった感じの体格であった。

 

「ふふふ…私もそろそろ名乗っておきましょうか」

 

パチン、とローブのフックを外すと、ローブが脱げて後方へと飛び去っていく。

そこに現れたのはうなじが隠れる程度の蒼い髪と黒く濁った瞳を持ち、中世的で女性のような綺麗な顔立ちをしている男だった。

 

「(なんだ、この匂いは…!?!)」

 

男から漂うただならぬ気配と匂いに忍は顔を顰める。

 

「それ、が…貴様、の…本、性か…!!」

 

「えぇ」

 

ゼノライヤの問いに男は簡潔に答える。

 

「ふふふ…あなたの軍備増強を名目にしたドライバーの運用によって私の実験は大いに成功したと言えます。世界征服、戦争継続、軍備増強…まったく、この世界を見つけた時から面白いくらい私の想定通りに動いてくれて逆に面白味が無いくらいでしたよ」

 

「き、さまぁ、ぁぁぁ!!」

 

「……ぐふっ…」

 

男の言動にゼノライヤもギルフォードも憎悪の感情を増大させていった。

 

「いけませんね。私は"憎悪"なんかよりもあなた達の"絶望"が見てみたくてやってきたのですから、しっかりと絶望してください。私の掌で踊っていた哀れな皇帝さん」

 

そう言って男は…

 

ギュイイイイッ!!

 

ドリルのような刀身を回転させて傷を抉っていく。

 

「ガアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!??!!?」

 

「グガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?!?!?」

 

抉られる傷と摩擦によって2人は絶叫する。

 

「やめろ!」

 

見ていられないのか、忍は男に向かって魔力斬撃を放つ。

 

「無駄ですよ」

 

ギュイイイインッ!!

 

刀身の回転に合わせて魔力斬撃の魔力とゼノライヤ達のバリアジャケットの魔力が刀身に吸収されていく。

 

「なに?!」

 

『カプリコーンの固有魔法です。アレはどのような魔法や魔力攻撃でも所有者がそれを認識すれば任意の割合で削り取ってしまうものです。我等エクセンシェダーの固有魔法ですら対象に出来る厄介なタイプです』

 

驚く忍にアクエリアスが説明する。

 

「私にその程度の魔力攻撃は通用しませんよ。もっとも、魔法も大した効果はありませんが…」

 

そう言うと、男は両肩後部にある攻撃ユニットを分離させ、そこから巨大な爪を展開してゼノライヤとギルフォードの首を掴む。

 

「では、騎士様。自らの無力さを噛み締めながら絶望してください」

 

そう言って男は…

 

ブチッ!!

ブシャアアア!!

 

「ッ!!??!?」

 

容赦なくギルフォードの首を力任せに引き千切り、頭を失った首から大量の血が噴水のように噴き出す。

 

「……ゼ……ノ………………」

 

そして、首を強引に引き千切られたために僅かな間を想像を絶する苦しみと共にゼノライヤの名を呼びながらギルフォードは絶命した。

 

「ギ、ル……!!!」

 

目の前…それも手が届く距離で親友を失ったゼノライヤの喪失感は半端ではなかった。

 

「なんてことを…!!!」

 

忍はそのあまりの残酷さに嫌悪感を通り越して怒りを覚えていた。

 

「ふふふ…そうです。その表情。あぁ…良いですねぇ。目の前で友人を惨殺されるのをただただ見てるだけしか出来ない。これが絶望でなくてなんというのでしょうか」

 

忍の反応を無視してゼノライヤの呆然とした表情を見て硬骨な笑みを浮かべる男…。

 

「(こいつ…狂っていやがる!!)」

 

その残虐性を垣間見て身動きが取れなかった自分を叱咤すると、忍は一歩踏み出そうとした。

 

すると…

 

ズガアァァァァンッ!!

 

玉座の間の天井が崩れ、そこから人影が四つ降りてくる。

 

「忍!」

 

「ゼノライヤは…!?」

 

「っと、なんだいこの状況は?」

 

「うげっ…!?」

 

忍の後ろにシルファー、ガルド、ミゲル、ミュリアの順に着地し、目の前の惨劇に目を見張る。

 

「おやおや、これはまた良いタイミングで現れましたね、皆さま」

 

面白そうに男は新たな観客に挨拶する。

 

「年頃の娘さんもいるというのに酷い状況を作り出すものだね」

 

そう言ってミゲルがミュリアの前に入って視界を遮るが、些か遅い気もする。

 

「ふふふ…私はただそこの女王陛下のご要望通りに出てきただけですよ?」

 

「私の要望…?」

 

男の言葉に一瞬何のことかわからないシルファーだったが…

 

「言っていたじゃありませんか。私のやり方が嫌いだと…こそこそ裏から傍観してるようで気に食わないと…」

 

バカにしたような口調で男はそう語る。

 

「っ!? じゃあ、テメェが…!!!」

 

ゴオオオッ!!!

 

男の言葉を理解して龍気と共に殺気を男へと向けて放つ。

 

「これが龍種の怒りですか。なるほど、これは少々厄介そうですね」

 

近くにいる忍達ですら寒気を感じるシルファーの殺気を男は平然とした表情で受ける。

 

「では、そろそろ彼の後を追わせて差し上げましょか」

 

そう言うと絶望に染まっているゼノライヤの首を掴む爪の力を強め…

 

「自分の愚かさと絶望を抱いてお逝きなさい」

 

「やめ…ッ!!!」

 

誰の声だろうか、その声も届くこともなく…

 

ズシャッ!!

 

「ッ!!?!?」

 

ゴトッ!!

ブシャアアアッ!!!

 

爪が首を両断すると共にゼノライヤの頭が玉座の間に落ちて転がり、残った胴体からギルフォードと同じように血が噴き出す。

 

「オ……レ………ハ………………」

 

転がった頭の瞳から光が消えると、ゼノライヤの死亡が確認された。

 

「「「「「ッ!!?」」」」

 

その光景に誰もが息を呑んだ。

 

「ふふふ…」

 

ズリュリ…

 

二又の槍を遺体の胴から引き抜くと、男は顔に被った返り血を一舐めしてから…

 

「良い絶望でしたよ、ゼノライヤさん」

 

それだけ言うと、もう興味がなくなったのか…忍達に背を向けて立ち去ろうとする。

 

「待ちな!」

 

それに待ったをかけたのはシルファーだった。

 

「なんでしょうか、女王陛下?」

 

背を向けたまま男は立ち止まる。

 

「私らを前に無事に帰れるとでも思ってんのかい?」

 

その言葉を受け、忍やミゲル、ガルドは臨戦態勢を取る。

 

「私はあなた達の手間を省いて差し上げたのに…」

 

「手間だと!?」

 

シルファーは男の物言いに激怒しっ放しである。

 

「……君は一体何者なんだい?」

 

珍しく嫌悪感バリバリの表情を見せるミゲルが男に尋ねる。

 

「ふむ。そういえば、まだ名乗っていませんでしたか」

 

それを思い出したのか、男は振り返ると…

 

「私の名は『ノヴァ・エルデナイデ』。絶望の使徒、『絶魔(ぜつま)』にこの身と魂を捧げた者ですよ」

 

そう名乗っていた。

 

「絶魔、だと!?」

 

男…ノヴァの名乗りを聞いて忍が驚く。

 

「あなたはご存知のようですね。これも因縁ですかね」

 

そう言いながらノヴァは背に蒼と黒の混ざり合った転移魔法陣を展開する。

 

「まぁ、そう慌てなくもいずれは戦う宿命にあるのです。今は一時の平和を謳歌してください」

 

それを最後にノヴァは転移魔法陣から姿を消してしまう。

 

「ちっ…!」

 

そこに残されたのは…三国同盟の主要人と、悲惨な最期を遂げたゼノライヤとギルフォードの遺体だけであった。

 

こうしてフィライトでの戦乱は幕を閉じた。

しかし、その終わり方はあまりにも凄惨であり、お世辞にも後味が良いとは言い難かった。

 

それにフィライトにいた忍達は知る由もなかったが、地球を含め多次元世界を知らなかった次元世界は大なり小なりの混乱に陥っていた。

 

これがノヴァの言う『次元戦争』。

その幕開けなのかもしれない。

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