魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第五十二話『神宮寺 紅牙の憂鬱』

次元サミットから数日。

サミットに参加した代表者達は表立った行動には出ておらず、今はまだ時を待っていた。

事実を公表するにしても、それには当然ながら下準備というものが必要だからだ。

 

その一方で、駒王学園では学園祭の準備で(せわ)しなかった。

どの部活動もクラスも出し物の準備に勤しんでいた。

特に三年生にとっては最後の学園祭なので、その気合いの入り様は下級生達よりも数段高いだろう。

 

そんな中、我等がオカルト研究部も学園祭に向けての準備を行いつつ、それと並列してレーティングゲームへ向けての訓練も行っていた。

そして、その訓練には…

 

「ブリザード・ファング!」

 

「炎の聖魔剣よ!」

 

神速の貴公子と名高い木場と真狼と化した忍が高速戦闘を繰り広げていた。

 

場所はグレモリー領にある広大な地下訓練場である。

そこでは他にもイッセーを始めとしたグレモリー眷属が訓練をしているが、こうして忍達紅神眷属もたまに訓練に参加させてもらっているのである。

特に異常な成長速度を見せる忍と渡り合えるのは同じく常軌を逸した成長振りを見せる赤龍帝のイッセーやそのイッセーと毎日のように訓練している木場くらいなものであり、この3人に関しては両眷属を合わせても別格になりつつあった。

 

「相変わらず2人とも速ぇな…」

 

忍と木場の高速戦闘をイッセーは視認するのも難しく、2人がぶつかり合う瞬間に散らす火花や魔法の痕跡を見るのでやっとであった。

とは言え、イッセーも新たな能力の一つ『龍星の騎士』を長時間的に維持することが出来れば2人にも追いつくだろうが、基本的に殴り合いを想定したイッセーの戦法に装甲が極限まで薄くなった騎士の力はやや相性に難ありといったところだろうか…。

それでも体力消耗の軽減や回避のコツさえ掴めれば高速戦闘も夢ではないと思われる。

 

そして、ある程度の高速戦闘を終えた後のこと…

 

「紅神君は手数が多くなってきたよね。剣一つで相手にするには僕も少々心許なくなってきたよ」

 

「その分、剣の才覚では木場君の方が上だよ。俺は手数が多くなる度に学習しないとならないことも多くなるから、必然的にバランスを考えないとならない」

 

「そうだね。近接寄りではあるけど、紅神君はオールラウンダー。僕達の基準で考えるならテクニックを主軸にしつつもパワー、ウィザード、サポートにも転じることが出来る万能型かもしれないね」

 

「俺との相性もだいぶ悪くなってきたからな…」

 

忍と木場にイッセーも加わり、それぞれの戦闘スタイルについての会話をしていた。

 

「実際、忍ってどれだけのこと覚えたんだ? 最初は確か魔法だったよな?」

 

「う~ん…そうだね。確かに最初は魔法だったかな? それから剣…というよりかはほぼ我流の刀術で、後から叢雲流魔剣術を萌莉から指南してもらって少しは形になったかなと思う。烈神拳の古文書から体術は試してて、それに伴った五気の扱いを体で覚えてる最中。それと並列して銃の扱いも覚えないとならなくて…しかも双銃。あと、内に眠る力の制御と修得の内、狼と二つの冥王は己の力になって残る吸血鬼と龍騎士をどうするかが現状で大きな課題。そして、最近になって刀を二刀流で使い始めた、ってくらいかな?」

 

イッセーの問いに指折り数えてみる忍だった。

 

「改めて聞くと、凄く大変そうだよな…」

 

「そうだね。僕らはそれぞれの長所を活かす形で修行してるけど…紅神君はそうもいかなそうだもんね」

 

「それに加えて王としての知識や在り方なんかも必要なんだろ?」

 

そうイッセーが言った途端…

 

「王の在り方についてはイッセー君も将来考えないといけないことでしょ?」

 

「確かに、将来的に独立するならイッセー君も考えた方が良いかもね」

 

忍と木場から痛いようなことを言われてしまう。

 

「ぐぬっ…」

 

2人の言葉にイッセーが険しい顔をする。

 

「そ、それよりも…忍のもう一つの冥王の力ってどんなのなんだ?」

 

苦し紛れにイッセーは話題を忍の冥王の力について逸らす。

 

「そういえば、紅蓮の力はよく目にするけど氷の冥王とやらはまだあまり見たことないね」

 

仕方ないな、とばかりに木場もそれに乗ることにした。

 

「蒼雪冥王。俺が本来持つ冥王の力。俺が雪女の血を宿しているという証明でもある。確かに実際に現実世界でなったことはないか…」

 

深層世界の中で蒼雪冥王となった幻影を客観的に見たことはあるが、修得してからまだ使ったことはなかった。

 

「この際だからその力も交えて模擬戦をしようよ。実戦でいきなり使うのも危ないし…」

 

「そうだな。それにどんな能力を持ってるのかも気になるしな」

 

「確かに…じゃあ、少し付き合ってもらってもいいかな?」

 

忍の願いにイッセーと木場は快く頷く。

 

「蒼雪冥王、解放」

 

そう呟くと同時に忍の体が変化を起こす。

 

バサァ…!

 

背中から4対8枚の瑠璃色の翼が生え、髪は白銀、瞳はサファイアブルーへと変化した姿となった。

それと同時に心なしか周囲の気温が低下していくような感覚がイッセーと木場を襲う。

 

「寒ッ!?」

 

「気温が低下している? というよりも紅神君から冷気が溢れてるのか?」

 

木場の言う通り、よく見ると忍の髪から微かに白い冷気が地面に向かって降りていくような光景があった。

 

「雪女としての体質なのかもね。これがスキルにも活かされる気がする」

 

そう言って軽く腕を薙ぐと…

 

ビュオォォ…

 

軽い吹雪が巻き起こる。

 

「なんだ? 力が抜けて…」

 

「これが…紅神君のもう一つの冥王スキル…?」

 

その吹雪に当てられ、イッセーと木場の体に変化が起きる。

 

「あ、ごめん…」

 

そう言ってすぐさま忍は蒼雪冥王から元の姿に戻る。

それと同時に2人を襲った虚脱感が消え去る。

 

「もしかして、今のが…?」

 

「うん。俺のもう一つの冥王スキル『アイス・エイジ』。周囲の温度を下げることで凍結効果を発揮する。使い方によっては物体の運動能力を制限することも可能らしい」

 

木場の問いに忍はそう答える。

 

「正に氷河期を思わせるような冥王スキルなんだね」

 

「まぁ、ね」

 

その後、真狼、紅蓮、蒼雪の三種の能力を切り替えながら戦う忍、トリアイナのコンボを混ぜながら戦って体力回復に休憩を挟みながら戦うイッセー、様々な種類の聖剣、魔剣、聖魔剣を創り出しながら戦う木場といった具合にそれぞれ一対一の模擬戦を繰り広げていった。

 

………

……

 

忍達が訓練に励んでいる一方…

 

「……………」

 

駒王町にあるマンション(木場とギャスパーの住んでいる所と同じ)にて紅牙は悩んでいた。

 

「どうしろと言うんだ」

 

テーブルの上には未使用の眷属の駒が並べられていた。

未使用と言っても紅牙は未だ眷属を作っておらず、自身に宿る王の駒を除く15個全てが揃っている状態である。

 

「眷属、か…」

 

前の悪魔に対して強い憎悪の炎を燃やしていた頃の紅牙なら一蹴していただろう。

しかし、忍との戦いで彼の尋常じゃない浄化能力を秘めた霊力を受け、今では悪魔に対して多少批判的な考えを持つまでに治まっていた。

 

「一時は行動を共にしたからと、マリア達を勧誘するわけにもいかんだろうな…」

 

今でこそフロンティア事変と呼ばれる地球の事件でのことを思い出す。

 

………

……

 

約2ヶ月前のこと。

 

 

「ちっ…俺までコソコソする必要性はないはずだが…?」

 

ヘリの中で紅牙は舌打ちしながらナスターシャ教授を睨む。

 

「若き冥王。我々の計画に力を貸してくれて感謝します。ですが、あまり目立った行動は控えていただきたい」

 

ナスターシャ教授はそんな紅牙の睨みに怯みもせず、そう言い返す。

 

「ふんっ…俺達には俺達の目的がある。それを実行するのに貴様ら人間の力も必要だと考えたまでだ」

 

そう言って紅牙はナスターシャ教授に背中を向け、その場から退室しようとする。

 

「もし…」

 

退室しようとする紅牙の背にナスターシャ教授の言葉が投げかけられる。

 

「……?」

 

「もしも、私の身に万一のことがあれば、あの子達のことを頼めますか?」

 

それは余命の短いナスターシャ教授の遺言のような頼み事であった。

 

「………さてな。俺の知ったことじゃない」

 

そう言い捨てると、紅牙は部屋から退室する。

この時の紅牙は悪魔に対する憎しみで周りのことなどあまり気に留めてもいなかった。

 

紅牙が部屋から出ると、そこにはマリア、調、切歌の3人が佇んでいた。

 

「マムと何を話していたの?」

 

「今後の段取りだ。俺は冥界に戻って他の派閥に協力しなくてはならない」

 

マリアの問いに紅牙はそう答える。

ただ、後半の"他派閥に協力する"という部分はかなり不本意というか、心底嫌がってるようにも聞こえた。

 

「なんだか、心底嫌がってる様に聞こえたデス」

 

そのことを切歌が指摘すると…

 

「あぁ?」

 

ギロリと睨まれてしまった。

 

「ひっ!?」

 

それに驚いて切歌は調の背中に隠れてしまう。

 

「事実を言っただけで切ちゃんを睨まないで」

 

「そうよ。大人気ない」

 

紅牙の行動に調とマリアが紅牙を咎める。

 

「ちっ…」

 

舌打ちすると、壁にもたれ掛かり…

 

「お前達はこの戦いが終わったらどうする気なんだ?」

 

そんなことを訪ねていた。

 

「急に何なの?」

 

「いいから、答えろ」

 

マリアの方が年上なのだが、紅牙はそんなことはどうでもよさそうに聞く。

 

「そんなの知らないわ。良くて捕まって拘束されることくらいかしら? その後、どうなるかなんて私にはわからないわ。その覚悟無くしてこんなテロリスト紛いなことは出来ないもの」

 

「そうかよ。そっちのチビ共はどうなんだ?」

 

マリアの答えを聞いた後、紅牙は話の矛先を調と切歌に向けた。

 

「私は…切ちゃんと一緒なら捕まったとしても平気」

 

「あたしも調と一緒なら大丈夫デス!」

 

2人揃って似たようなことを言う。

 

「(はぁ…ダメだ、こりゃ…)」

 

紅牙は頭が痛くなってきた。

 

「聞いた俺がバカだったらしい。お前達みたいな閉鎖的な思考ではこの先も容易に想像が出来る」

 

そう吐き捨てると、紅牙は転移魔法陣を展開する。

 

「それはどういう意味かしら?」

 

紅牙の言葉が癇に障ったのか、マリアが鋭い視線を向ける。

 

「言葉通りの意味だ。今のお前達に未来など…」

 

そこまで言って紅牙は自分の言葉に疑問を抱く。

 

「(俺は今、何を言おうとした? 奴の影響か? クソが…ッ!!!)」

 

そして、たった数度の戦いで忍の影響を受けたことに気付き、ガンッと壁を叩き付ける。

 

「「っ!?」」

 

「い、いきなりなによ!」

 

突然のことにマリア達も驚く。

 

「うるさい! こっちには邪狼を送る。それで事足りるだろう!」

 

それを最後に紅牙は姿を消し、マリア達もフロンティアを浮上させる戦いに挑むことになる。

 

………

……

 

「今更どのツラ下げて会えというんだ」

 

そう言って背中から床に落ちるようにして寝転がる。

 

「マリアはフロンティア事変の英雄として政府の監視下で歌手活動。調と切歌は確か、今の二課の保護下でリディアンとかいう音楽院に通う準備をしていたか?」

 

思い出すようにしてアザゼルから聞いた情報を呟く。

 

「こんな世界でも比較的平和な日常を送っているのならそっとしておくべきか」

 

そう考えながら別の事を考える。

 

「秀一郎の奴は…悪魔に傭兵として雇われるようなことになってたが…今はどうしてるんだ?」

 

あの病室での一件以来、秀一郎とはすっかり疎遠となってしまっていた。

だから、今の秀一郎がどうなっているのかサッパリわからなかった。

 

「あいつになら遠慮なく戦車の駒を与えられるんだが…」

 

冥王派として共に活動していたこともあり、紅牙は秀一郎にはある程度の信頼を持っていた。

 

「ま、いない奴を当てにしても仕方ないか…」

 

そう言い捨てると、紅牙はまた別の事を思い出そうとするが…

 

「……ふわぁ~あ…眠…」

 

そのまま眠気に任せて寝てしまっていた。

そして、数日前の出来事を夢という形で見ることになる。

 

………

……

 

異世界ミッドチルダ。

そこに存在する時空管理局の地上本部の一角にある特殊任務対応室の執務室に冥界の病院から退院したばかりの紅牙はいた。

その日は奇しくも忍がフィライトでフィロス帝国に対して決戦を仕掛ける日でもあった。

 

「時空管理局の人間が外部の人間である俺に一体何の用だ?」

 

紅牙は目の前の机に座るゼーラに向かって問いかける。

 

「まぁ、待て。お前の他にも呼び出した者達がいる」

 

ゼーラがそう言うと…

 

コンコン…

 

「入れ」

 

ノックがするのを聞くとゼーラは入室するように促す。

 

「失礼します。八神三等陸佐以下二名。ただいま到着いたしました」

 

すると、扉から管理局の制服を着た『八神 はやて』が同じく制服を身に纏った『ヴィータ』と『シャマル』を連れて入ってきた。

 

「ご苦労。八神三佐」

 

「(女が3人?)」

 

ゼーラが呼び出したからには実力は本物なんだろうが、と紅牙は眉を(ひそ)めた。

ちなみに紅牙はアザゼルからの事前情報としてゼーラの実力主義振りはそれなりに聞いていた。

 

すると…

 

「少将、そっちの"姉ちゃん"は?」

 

紅牙の存在に気付いたヴィータが"容姿だけ"見てゼーラに尋ねる。

 

「あぁ?! 誰が女だ! 俺は男だ!」

 

が、女扱いされることを嫌う紅牙がヴィータの言葉に怒声を上げる。

 

「うぇ!?」

 

「え、ウソ!?」

 

「私も女の子だと思いました…」

 

声を聞き、紅牙が男だと認識したらしいが、どうも三人共紅牙を"女"と思ってたらしい。

 

「テメェら…!」

 

もはやキレ気味の紅牙は右腕から炎を噴き出そうとしたが…

 

「部屋で暴れるな」

 

ゼーラの一言で紅牙は一旦矛を収めることになった。

 

「ちっ…」

 

舌打ちすると近くのソファーに腰掛ける。

 

「えっと…シュトライクス少将。彼女…じゃない、彼は…?」

 

はやてが代表して紅牙のことをゼーラに尋ねると…

 

「今回の特務を行うためにお前達と組むことになる民間協力者だ。腕は確かだから安心するといい」

 

「特務に民間協力者を同行させるんですか?」

 

「そうだ」

 

はやての当然の疑問にゼーラは一言で返す。

 

「今回の特務はある次元世界の要人を影から守る任務だ。基本的には姿を見せず、護衛だと悟られぬように振る舞ってほしい、との依頼先からの通達だ。その要人は護衛などが好きではないらしいのでな」

 

「要人警護だぁ? そんなの専門業者に頼めばいいものを…」

 

ゼーラの説明に不満を持った紅牙の言葉に…

 

「ところがそうもいかない事情がある」

 

ゼーラはさらに説明を続ける。

 

「その要人を狙う組織があるらしい。その組織を突き止めるのも任務の一つだ。可能ならば気付かれないように処理しろ」

 

処理、という言葉に紅牙以外の3人が少し反応に困った。

 

「要人警護よりもそっちの方がまだマシか。組織を突き止めれば後は好きにしていいんだな?」

 

「構わん。護衛対象に手を出されなければな」

 

「わぁったよ」

 

そう言って紅牙は立ち上がると…

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「勝手に話を進めんなよ!」

 

シャマルとヴィータが声を上げる。

 

「なんだ?」

 

2人に声にゼーラが反応する。

 

「これが…特務隊の任務ですか?」

 

「そうだ。管理局も一枚岩ではない。それはお前達も重々承知の上だと思っているが…?」

 

はやての問いにゼーラはそう返していた。

 

「それは…」

 

「わかったのなら行け」

 

はやてが言い終わる前にゼーラが出ていくように促す。

そうして紅牙を含めたはやて達はゼーラの執務室から出ることになった。

 

………

……

 

~次元世界『ストロラーベ』~

 

ここは第84管理世界と呼ばれる時空管理局が管理・保護している多次元世界の一つである。

この世界には独自のネットワーク社会『パンドラネットワーク』が構築されており、それによって発展してきた世界である。

地球と比べて近未来的な要素が多く、人の意識と感覚をリアルタイムにネットワーク内へと移すことが出来る技術が確立されている。

 

『パンドラ・インダストリー』。

『パンドラネットワーク』のメインサーバーを有するストロラーベの一大企業。

民間ネットワークや軍事ネットワークとは別系統であるパンドラネットワークの基礎を構築したり、パンドラネットワークへの専用端末を開発することで世界規模の展開を見せており、今ではストロラーベの日常になくてはならない存在となった。

元々は小さなゲーム会社であったが、企業内で独自に開発していた技術のノウハウを活かしたネットワーク事業に移行したところ大成功を収めて一大企業へと登り詰めた。

現在は他の次元世界にパンドラネットワークを構築することを目標としている。

 

そんなネットワークの発達した次元世界に紅牙達は降り立っていた。

 

「今回の護衛対象はパンドラ・インダストリーの幹部だったか?」

 

ゼーラから送られた資料に目を通しながら紅牙がはやて達に尋ねる。

 

「そうみたいやね。しかも影ながら守る…結構大変そうやな…」

 

「いくら管理世界とは言っても、この世界では魔法は少し珍しいみたいだから極力控えるようにって資料には書いてますもんね」

 

はやてとシャマルがそう答えていると…

 

「ま、仕方ねぇよな。場所はわかってんだし、その周辺で変な動きがないか見てればいいからな…」

 

ヴィータもそのような見解を示す。

 

ちなみにはやて達は私服姿に着替えている。

管理局の制服姿でいたら何かありますよ、と言っているようなものだからだ。

 

「チビのくせによく任務の内容を理解している」

 

執務室での意趣返しのつもりか、紅牙がそんなことを言う。

 

「あんだと!?」

 

その言葉にヴィータは紅牙を見上げるように睨めつける。

 

「やるつもりか?」

 

その視線に見下ろすようにして睨み返して火花を散らしていると…

 

「2人ともやめんか!」

 

はやてが2人の間に割って入る。

 

「2人共、大人気ないで。こんなことで喧嘩なんかしんと仲良ぉして…」

 

2人のやり取りを見兼ねて仲裁している。

 

「けどよぉ、はやて…」

 

「ふんっ…」

 

ヴィータはともかく紅牙は聞く耳持たず…。

 

「こんな奴、ホントに使えるのかよ。特務隊は協調性に欠ける奴が多いって聞いてるけどよ」

 

そんなことを言うヴィータに…

 

「もう忘れたのか? 俺はお前達の言う民間協力者だ。俺は俺の好きにやらせてもらう」

 

そう言って目的地まで勝手に先行しようとする紅牙を…

 

「あ、ちょぉ待ちぃな………え~っと…」

 

はやてが呼び止めようとしたが、そこで互いにまだ名乗っていなかったことに気付く。

 

「……ちっ……紅牙。神宮寺 紅牙だ」

 

それを察し、紅牙が先に名乗る。

 

「紅牙君な。私は八神 はやて。よろしゅうな」

 

「シャマルです。はやてちゃんとは家族なので」

 

はやてとシャマルが先に挨拶を済まし…

 

「…………」

 

ムスッとしたヴィータにシャマルが自己紹介を促す。

 

「…ヴィータだ。シャマルと一緒ではやての家族だ」

 

それを聞き…

 

「……そうなのか?」

 

紅牙がキョトンとした表情で呟く。

 

「そうやで。ヴィータとシャマルの他にも3人いてな」

 

はやての言葉に…

 

「随分と似てない気がするが…」

 

3人を見比べての感想を漏らす。

 

「そこはほら気にしない方向で。そういう紅牙君の家族は?」

 

「……一つ下の妹が1人いるが、今はある奴に任せている」

 

そんなはやての問いに紅牙は忍の顔を思い出しながら答える。

 

「そうなんや。でも、紅牙君的には複雑なんとちゃう?」

 

「………あいつが決めたことだ。それに…俺も奴には借りがある」

 

多少の間はあったものの、紅牙は忍の事をそれなりに信頼していた。

それは互いに拳をぶつけ合ったり、"復讐"という負の渦から自らを救い出してくれたり、妹のために本気で怒っていたことを思い返すと敵であったにも関わらず、不思議とそんな風に考えさせられていたのだと実感させていた。

 

「…お喋りはここまでだ。さっさと対象の監視に行くぞ」

 

喋り過ぎたと言わんばかりに、紅牙はそそくさと歩いていった。

 

「なんだよ、あいつ」

 

「ふふっ、良い人みたいですね」

 

「そうやね」

 

呆れた表情のヴィータと微笑むはやてとシャマルも紅牙の後を追うのだった。

 

………

……

 

護衛対象を遠くから見守ること数時間。

これといった動きもなかったが、それは突然に起こった。

 

「これは…!」

 

「な、なんなん?!」

 

突如として様々な画面にフィライトでの戦争映像が流れたのだ。

そして、それに合わせるかのようなノヴァの演説による多次元世界や多種族の存在の公開、ゼノライヤの悲惨な最期…。

その一部始終がストロラーベでも流されていた。

 

当然ながらストロラーベでも混乱は起きた。

特に悲惨な最期を遂げたゼノライヤとギルフォードの映像がその混乱に拍車をかけていた。

 

「多次元世界はともかく…多種族って…それに天使と悪魔が実在するて…」

 

困惑するはやてに…

 

「何も不思議なことじゃない。人間に知られぬことなく生きていく術を持つ。それが次元を隔てた世界であってもだ」

 

紅牙はそう言い放っていた。

 

「こ、紅牙、君…?」

 

そんなことを言う紅牙をはやて達はまじまじと見つめる。

 

「お前、なんでそんな冷静なんだよ」

 

「紅牙君。あなたは…」

 

ヴィータとシャマルは映像を見てもあまり動じる様子の無い紅牙に何かを覚える。

 

「それよりもあの映像に感化されたのか知らんが、客のようだ」

 

そう言って紅牙は鋭い視線を明後日の方向へと向ける。

 

「っ!」

 

それを受け、シャマルが魔法で索敵を開始する。

混乱の中での使用なのであまり目立つことはないが、完全には無視される訳ではない。

 

「ヴィータ!」

 

「グラーフアイゼン!」

 

はやての声にヴィータがデバイスを起動させると同時に…

 

『封鎖領域、展開』

 

結界を発動して自分達と襲撃者達以外の人間を結界外へと除外させる。

 

「魔力反応、7つ! けど、何かしら? 魔力は魔力だけど、何か違うような…?」

 

魔力反応を感知するも、その違和感に困惑するシャマルを見て…

 

「魔力には2種類ある。俺やお前達のようにリンカーコアから魔力を得る『大気魔力』と、悪魔が元から保有している『生体魔力』の2種類だ」

 

「生体魔力?」

 

「そうだ。悪魔の発する魔力は大気魔力とは異なるからそれが違和感に感じたんだろう」

 

そう簡潔に説明する紅牙に対して…

 

「なんで、お前がそんなこと知ってんだよ!」

 

当然の疑問をヴィータが叫ぶと…

 

「世界はお前達が思っている以上に広いということだ。悪魔が相手なら遠慮はいらんか…」

 

そう呟くと…

 

「紅冥王の前にひれ伏せ…!」

 

ボアアア…!!

 

紅い炎が紅牙の周りから噴き出すと…

 

バサァ!!

 

次の瞬間、紅牙の背中から紅の4対8枚の翼が生え、髪と瞳が真紅とワインレッドへと変化していた。

 

「「「ッ!?」」」

 

紅牙の変化に3人は当然ながら驚く。

 

「(しかし、悪魔が別の世界に現れるものか? これは話を聞く必要があるが…素直に話すとも思えんか…)」

 

7人の悪魔を迎え撃とうとする紅牙はそんな考えを巡らせていた。

 

そして…

 

「何故、悪魔がこの世界にいる?」

 

会敵した瞬間、紅牙がそんなことを聞くが…

 

「裏切り者の元冥王派に話すことなど何もないわ!!」

 

悪魔の1人がそう叫んでいた。

その言葉で紅牙はある程度の予測を立てることが出来た。

 

「(裏切り者…つまり、こいつらは禍の団か…それならそれで多少の説明はつくが、それでも解せんことが多いか…)」

 

悪魔達の魔力弾を回避しながら紅牙はそのように考える。

 

「(………細かいことは後にするか)」

 

すると考えるのをやめた紅牙は攻撃に転じる。

 

「ブレイズ…!!」

 

そして、紅牙が攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

………

……

 

~現実世界・紅牙の部屋~

 

「誰だ!?」

 

何かの気配を感じて飛び起きようとしたのだが…

 

ガンッ!!

 

「~~ッ!!?」

 

テーブルの下で寝ていたことも忘れて飛び起きようとしたので膝を思いっきりテーブルの端にぶつけてしまっていた。

 

ガタガタ…

 

そして、その拍子に眷属の駒も床に転がり落ちてしまう。

 

「な、何事デス!?」

 

「…ビックリした…」

 

そんな紅牙の起き方にキッチンの方から紅牙にとっては意外な人物達がやって来た。

 

「お、お前達は…!?」

 

見覚えのある2人の姿に紅牙は驚きと同時に困惑を覚えた。

 

「月読 調、暁 切歌!? 何故、お前達が俺の部屋にいる?!」

 

そして、当然の疑問を口にする。

 

「何故って…」

 

調と切歌は互いに顔を見合わせた後…

 

「水臭いのデス。一時とは言え、同じ釜の飯を食べた仲。あの後どうなったか、こっちも気になったデス」

 

「…それで風鳴司令に聞いたらこの町にいるって聞いたからちょっと様子を見に来たの」

 

どうやら紅牙がマリアを含めた3人を気にしていたように調と切歌も紅牙を気にしていたようだ。

 

「それにしても鍵を掛けないで寝るなんて不用心デスよ」

 

「…いくらあなたが強くても油断が過ぎると思うな…」

 

「ぐっ…」

 

2人にそんなことを言われて紅牙自分の不覚を呪った。

 

「それよりもこれはなんデスか?」

 

「…チェスの駒?」

 

興味本位で床に散らばった眷属の駒の内、兵士の駒を手に取る。

 

「勝手に触るな。もし誤作動でも起こしたら…」

 

「…誤作動?」

 

「何のことデス?」

 

そう言って紅牙が2人から眷属の駒を取り上げようと駒に触れた時だった…

 

トクン…。

 

何をどう間違えたのか、兵士の駒が調と切歌の手から体内へと溶け込んでしまった。

 

「……………」

 

「…え?」

 

「い、今のはなんデスか!?」

 

その光景に紅牙は絶句し、調と切歌は驚いたように自分の体をペタペタと触る。

 

「ほ、本当に誤作動するとは…」

 

今起きたことに紅牙は頭を抱える。

 

「…どういうこと?」

 

「せ、説明を求めるデス!」

 

その後、紅牙は眷属の駒についての話をした。

それに伴い、悪魔社会での悪魔の駒制度の事も話した。

 

「…なるほど。私達はその眷属というものになってしまったと?」

 

「悪魔社会は凄いデス」

 

話を聞いた後、2人はそんな反応を示す。

 

「すまん。誤作動とは言え、お前達を俺の眷属にしてしまった。これは俺の不手際だ。駒を摘出できるよう魔王に頼む。それまでは我慢していてくれ」

 

そう言って紅牙は2人に深々と頭を下げる。

 

「…そこまでしてもらう必要はないかな」

 

「デスね」

 

が、紅牙が思っていた反応よりも随分と違う反応が返ってきた。

 

「なに…?」

 

その反応に紅牙も困惑した。

 

「…どんな形であれ、あなたは私達のことを案じててくれてた。その想いが駒から伝わってきたような気がする」

 

「そうデス。だからあたし達も紅牙を支えてあげるデス」

 

どうやら紅牙が駒に触れた瞬間、駒を通じて紅牙が密かに抱いていた想い(心配、不安、こちらの戦いに巻き込みたくない、安堵など)が2人に伝わったらしい。

 

「(そんなことまでわかるものなのか? って…)待て待て。それで何故、お前達が俺を支えることになる?」

 

その問いに…

 

「…あなたは1人で背負いすぎる傾向にある」

 

「それは誰かさんに似ていて、少しの間だけでも一緒にいたらわかるデス」

 

2人はそう伝えていた。

 

「マリアのことか。だが、俺と奴を一緒にするな…俺は1人でも問題ない。だから眷属なんぞ作る気はなかったんだ」

 

調と切歌が眷属となってしまった以上、そう言うしかなかった。

 

「…そういうところとかマリアにそっくり」

 

「だからほっとけないのデス」

 

「ぐぬ…」

 

これ以上、何を言っても無駄な気がして紅牙は言葉に詰まる。

 

「…マリアが私達のために頑張ってくれてるように私達も誰かのために頑張ってみたいの」

 

「マリア自身も紅牙のことは気にしてたみたいデスしね」

 

さらなる言葉の追撃が紅牙を追い詰めていく。

 

「……あ~、もう…勝手にしろ!」

 

基本的に深く考えることを得意としない紅牙はもう諦めるようなことを言った。

 

「というか、お前ら…キッチンで何をしていた?」

 

「…料理だけど?」

 

「男の一人暮らしなんてコンビニ弁当か、インスタントばかりと相場が決まってるのデス!」

 

「…………」

 

図星を指されて言葉を失う紅牙だった。

 

こうして、事故とは言え調と切歌を眷属に迎えてしまった紅牙であった。

これを機に紅牙も眷属集めに着手するのだろうか?

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