魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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10.異世界留学のスレイヤー
第五十六話『次元を越えた留学』


学園祭も終わり、次は中間テストが控えている中…

 

「俺が…留学?」

 

急に職員室に呼び出されたかと思うと、呼び出したアザゼルから留学のことを話され、忍はポカンとした表情を見せていた。

 

「あぁ、書類上は海外だが…実際は次元を越えてもらう」

 

職員室にはアザゼルしかいなかったため、特に問題はなかったのだが…

 

「え゛?」

 

言われた本人は訳が分からないような表情でアザゼルを見る。

 

「これはゼーラからの要請でな。お前には見聞を広めてもらうため、ミッドチルダにあるっていう魔法学校に行ってもらうことになった」

 

「ちょっ!? 待っ!!? えぇ!??」

 

いきなりのことに当然ながら忍は大いに困惑していた。

 

「良い機会だし、ミッドチルダ側の魔法技術を本格的に修得してこいや」

 

「んな無茶苦茶な…」

 

忍の力が抜けそうになると…

 

「ちなみに拒否権は無いぞ?」

 

「拒否すら許されない!? 中間テストはどうするのさ?!」

 

もっともな疑問が浮かび上がる。

 

「そんなもん行く前に受けてもらうに決まってんだろ? 安心しろ。お前の答案はこっちに帰ってきてから返してやるからお前の答案が盗み見られる心配はない。というか、テスト直前に留学した事と先んじてテストを受けたことを発表してやるから」

 

あっけらかんとアザゼルは言う。

 

「そういう問題じゃなくて!?」

 

「じゃあ、何が問題なんだよ?」

 

「留学自体に決まってるでしょうが!!」

 

急に言われても色々と準備というものが出来ないというものである。

 

「でも決まっちまったもんは仕方ないだろ?」

 

「決定事項だった!?」

 

本人の知らぬ間に決まっていたことに忍は軽い絶望感を抱く。

 

「てなわけだから明後日にテストを受けてもらうからな」

 

「早いな!?」

 

「ロスヴァイセも自分磨きに故郷に行っちまうし、こういうのは早い内が良いしな。あ、それとお前の眷属達にもちゃんと話とくんだぞ」

 

「何となく予想はしてたが、丸投げかよ!!」

 

こんな話、特に智鶴が病んでしまうのではないかと不安になる忍だった。

 

「自分の眷属くらい御してこそだぞ」

 

「丸投げしてきた奴に言われたくねぇ!!」

 

そう言ってアザゼルに殴り掛かるが、アザゼルはイスを滑らせて軽く避けていた。

 

「はっはっはっ、じゃあなぁ~」

 

そう言ってイスから立ち上がると、手をひらひらさせてアザゼルは職員室を後にしてしまった。

 

「この、バカ総督めぇぇぇッ!!」

 

そんな忍の叫びは職員室内を虚しく木霊した。

 

………

……

 

その夜。

アザゼルからの衝撃的な話を眷属達に話すため、急遽明幸邸に招集された紅神眷属…プラス紅崎姉妹。

 

「…という訳でして、何故か次元を渡って留学することになりました…はい…」

 

恐る恐るといった感じで、忍は正座して縮こまりがらも眷属達に事の詳細を話していた。

これじゃあ、まるで忍が怒られてるような感じだが…。

 

「しぃ君が…留学…?」

 

ピシャアァァァ!!

という効果音と背景に稲妻が走るようなイメージが智鶴の背後に見えたような見えなかったような…。

 

「しかも次元を渡るとか…アザゼル、本気だったのですね」

 

「姉様は知ってたんですか?」

 

雲雀の反応を見て緋鞠が尋ねる。

 

「まさか、テスト前に本当に留学の話を進めるとは予想だにしませんでしたが…一応、監視役として話は聞いてました」

 

平然と言ってのける雲雀に対し…

 

「あたしは知らなかったんですけど…」

 

緋鞠はそんなこと知らなかったようだ。

 

「あなたはテストに集中していなさい」

 

「うっ…」

 

駒王学園に入るため、事前に日本の勉強を雲雀に徹底的に叩き込まれて途中編入してきた緋鞠はこの中間テストで成績が明らかになるので気を抜けないのである。

 

「しかも行き先がミッドだなんて…先方もよく承諾しましたね?」

 

「それには同感。地球なんてまだ次元航行技術もないのに、そんなとこからの留学なんて"普通は"受け入れられないわよ?」

 

フェイトと朝陽も留学が確定してることに驚いていた。

特に朝陽は『普通は』という言葉を強調した。

 

「その辺はよくわからんが…シュトライクス少将がなんか手を回したんじゃないのか?」

 

「可能性は…まぁ、低くは無いでしょうね」

 

直属の上司のすることにいちいち疑問を持つ気はないが、今回ばかりは朝陽も何を考えてるんだか、と思わざるを得なかった。

 

「行き先の魔法学校の名前とかは聞いてないの?」

 

「留学の件だけで、その他は全っ然話してもらってねぇ…」

 

それを聞いてフェイトも困ったな、という表情をする。

学校名を聞けば、少しは調べることも可能なのだが、それすらも許さないのだろうか?

 

「で、あたし達はあたし達で忍不在のまま地球で生活しろってのか?」

 

智鶴が一番気にしているだろうことをクリスが尋ねる。

 

「た、多分、そうなるんじゃないか? 第一、留学がどのくらいの期間なのかも不明なんだし…」

 

ダラダラと汗を流しながら忍は微妙に智鶴から視線を逸らして言う。

 

「………ッ!!?」

 

ガッガッガッガーン!!

その言葉を聞き、遂に石化までしてしまった。

いや、どれだけ溺愛してるんですか?

 

「あらあら…困ったわねぇ~」

 

全然困った様子ではないカーネリアが面白そうにそんなことを口にする。

 

「良い機会です。明幸 智鶴は紅神 忍離れすべきです。いつまでもそのような浮ついた姿勢を叩き直すべきかと思います」

 

そう言ったのは…雲雀だった。

その言葉を聞き、一同が雲雀に視線を向ける。

 

「悪魔の駒でも重要な地位にいるはずの女王が、王に依存しっ放しというのも捨て置けない事案です。これを機に互いに距離を置き、自分を見つめ直すことを推薦しておきましょうか。特に女王の方は自分の立場を理解すべきです」

 

「一理あるわね」

 

雲雀の言葉に賛同したのは暗七であった。

 

「智鶴には悪いけど…この際、忍には留学の事にだけ集中して実力を上げてもらわないと…この前のゲームで見せたバアルの実力や赤龍帝の急成長振り。アレ以上の実力者はまだまだいるもの。それこそ神クラスの存在が…もし仮にそういうのと対峙した時、私達の中では忍だけが対抗策となりうるし、その忍がいない間の眷属を纏めるべき役目は女王にある。それを考えると、今の智鶴じゃ統率は無理よ。忍ばかり見てて私達の能力をちゃんと把握していないでしょ?」

 

「そ、それは…」

 

暗七に言われ、智鶴も強くは言い返せないでいた。

 

「別に永遠に別れろなんて言ってるんじゃないわ。距離が近過ぎるのが問題なのよ。だから、ここらでしっかりと公私や分別を付けてもらわないとね」

 

「うぅ…」

 

暗七の言い分に智鶴は唸り声を上げていた。

 

「それに…智鶴にはデバイスを使った戦術や魔法行使も視野に入れてもらわないと。せっかくの女王の駒もその特性が活かし切れてないんじゃ意味ないでしょ?」

 

「あ、それには同感かも」

 

「そういや、忍の駒を通してあたし達にも忍の持つ力が少し流れてるんだっけか?」

 

暗七の何気ない言葉に他の眷属達も自分の役目や忍から流れてくる力の事を思い出す。

 

「眷属がこの始末だもの。この際だし、忍がいない間に私達もレベルアップすべきなのよ」

 

今まで溜め込んでしたのかだろうか、暗七が珍しく熱く語り出していた。

 

「あたしは賛成」

 

「わたくしも賛成です」

 

「特訓とか、そういうノリは苦手なんだけどな…」

 

「頑張りましょう、クリスさん」

 

「眷属というチーム全体の底上げ、か…」

 

吹雪、エルメス、クリス、シア、フェイトは賛成のようだが…

 

「私は特に必要ないと思うんだけどねぇ…」

 

「あたしも」

 

単独行動が多そうなカーネリアと朝陽は参加しなさそうな雰囲気である。

 

「わ、私、は…その、お、お邪魔に…あらない、くらいなら…」

 

一番消極的なのは萌莉くらいだろうか。

 

「で、王と女王の判断は?」

 

半分以上が賛成してくれたことに少し喜んだ感じの暗七が忍と智鶴に向き直る。

 

「俺も賛成かな。言われて気付いたが、皆も少なからず力を持ってる。本当に助ける時に助けられるように俺も精進したいし、いつまでも守るばかりじゃ皆の技量を落としてしまう可能性だってあるし、それが実戦に響いたら洒落にならないからな…だったら、俺は俺のやれることをやってこようと思う」

 

忍も概ね賛成のようだった。

 

「し、しぃ君まで…」

 

忍が賛成したことに智鶴はちょっとショックを受けたようだった。

 

「智鶴。確かに雲雀さんや暗七の言う通り、俺達は一旦距離を置いてみよう。それで俺は自分の可能性を見つけてくる。智鶴は眷属の皆ともっと交流してその特性を把握してくれ。これからのためにも…」

 

忍はいつか来るだろうノヴァとの戦いを見据えていた。

 

「しぃ君と離れ離れは嫌……でも、しぃ君がそう言うなら…私も我慢して頑張ってみる…」

 

忍に諭されて、智鶴も折れる感じで承諾するのだった。

 

「それじゃあ、俺は留学の準備をしてくるよ。長旅になりそうだからな」

 

そう言い残し、忍は自室へと引っ込んでしまう。

 

忍が引っ込んだ後の居間では…

 

「うぅ…しぃ君が、行っちゃうぅ~…」

 

「ホントに大丈夫かしらねぇ~」

 

「はぁ…」

 

智鶴の様子にカーネリアが笑い、暗七が盛大な溜息を吐いていた。

 

一方で自室に引っ込んだ忍は…

 

「はぁ~…よかった…」

 

ドッと疲れたように壁に背を付けてへたり込んでいた。

 

「明後日にはテストか…眷属以外の学園の皆には別れも言えないけど、これが永遠ってわけでもないし、何とかなるか」

 

忍は独り言を零すようにそんなことを呟いていた。

 

が、まさか、あのような事態になろうとは…この時は誰も想像だにしていなかった。

 

………

……

 

あれから三日後。

忍は一日で全ての中間テストを消化し、留学の準備を進めてその時を待った。

試験後に聞いた話では試験翌日に出発を聞かされたからだ。

準備していたとは言え、急な留学もまだ公開されてはおらず、見送りも紅神眷属と紅崎姉妹、そして留学の件を進めていたアザゼルのみの構成だった。

 

「ヴェル・セイバレス経由でミッドチルダの首都クラナガン行きの次元航行便に乗り込むと…」

 

駒王学園の制服とは異なる白を基調にしたブレザーと紺色のスラックス姿の制服を身に纏い、大型のスーツケース二つをアステリアの後部タイヤの左右に挟み込むように縛り付け、その横に立つ忍が最終確認を行っていた。

 

「まるで密入国ね」

 

最終確認を聞いていたカーネリアが可笑しそうにそう言う。

 

「しょっ引いても文句は言われなさそうね」

 

その言葉に朝陽がそんな風に返す。

 

「やめてくれ…」

 

忍はホントにやりそうな朝陽にそう言ってアステリアに乗り込む。

 

「しぃ君。気をつけてね…」

 

智鶴は智鶴でやはりそわそわしながら見送りの言葉を紡いでいた。

 

「あぁ、留守を頼むよ」

 

最後に…

 

「ま、お前と入れ替わるように"ある奴"がこっちに来るんだが…お前は気にせず、魔法を修得してこい」

 

「"ある奴"?」

 

「あぁ、ちょっとばかり訳アリでな。そっちはイッセー達に任せるからお前はお前でしっかりな」

 

「はぁ…」

 

アザゼルの言う"ある奴"が気になったが、そうこうしてる間に忍の乗り込んだアステリアの真下に転移陣が展開される。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

パアァァ!!

 

一閃の閃光と共に忍はその場から姿を消した。

 

「行ったな」

 

空を見上げるアザゼルに…

 

「アザゼル。あなた、一体何を企んでるの?」

 

カーネリアがそんなことを尋ねる。

 

「何も。強いて言うなら…未来への投資さ」

 

「そう。でも、あまり坊やを巻き込まないことね」

 

「おう、怖い怖い。少しは色気づいてきたのか?」

 

「さてね…」

 

そんな不穏な会話を残し、一同は解散した。

 

………

……

 

その後、忍はヴェル・セイバレスを経由し、次元航行便に乗り込むことが出来たのだが…。

如何せん、荷物が荷物だけに色々と注目されてしまっていた。

 

「(ま、普通に考えたらバイクで行き来するなんて珍し過ぎるわな…)」

 

流石に待機状態がないことを説明し、アステリアがデバイスである証明書も特務隊から発行してもらっていたのでアステリアは無事に貨物置場送りになった。

 

「(次元航行か…超先史文明なら次元を渡る術もあったのかな?)」

 

次元航行便の中から外を眺めつつ、忍はそんな考えを馳せらせていた。

 

 

 

そして、予定通りに便がクラナガンの次元航行発着場に到着する、貨物区画からアステリアを引き取ってそのまま公道へと続く駐車場に案内された。

 

「確か、ホームで案内してくれる人と合流だっけか」

 

適当な駐車スペースにアステリアを停め、用心のためスーツケースに霊力を用いた簡易結界を張っておいてからホーム側へと入る。

 

「えっと…合流地点は…」

 

人の邪魔にならないよう壁際でネクサスを起動させると合流場所を確認する。

 

「東側の第13ゲートか」

 

現在地点を確認後、合流地点へと移動を開始する。

 

「(しかし、何処の世界も駅や空港みたいな場所は似通ってるんだな…)」

 

人の多さや混み具合などを比較してもそれほど大差ないように忍には見えた。

 

すると…

 

「紅神 忍さ~ん、いらっしゃいますか~?」

 

合流地点付近で忍の名を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 

「あの人かな?」

 

自分の名を呼ぶ女性の元へと素早く近づくことにした。

 

「紅神 忍さ~ん」

 

「はい。俺が忍ですが…」

 

そう言って忍は女性の所にやってきた。

 

「あ、紅神 忍さんですか?」

 

「えぇ」

 

忍の前にいる女性は、胸元まであるだろう黒髪を大きな赤いリボンでポニーテールに結い、茶色の瞳を持って少し幼さの残る可愛らしい顔立ちに、スレンダー以上、豊満未満な程良い肉付きをした標準的な体型をしていた。

そして、管理局の制服を着用している。

 

「(管理局の人だったよな…)」

 

「私は『ティラミス・イリス』三等陸士と申します。この度は紅神さんをご案内するようにとご命令をいただきました」

 

軽く敬礼しながらティラミスと名乗った女性は忍にそう挨拶していた。

 

「これはどうも。では、早速で悪いけど…俺が向かうべき留学先を教えてもらえませんか?」

 

ここまで何の情報も貰ってない身としてはさっさと情報が欲しいところであった。

 

「あ、はい。これから紅神さんはここクラナガンの郊外にある魔法学園『フィクシス魔法学園』に向かっていただきます。その道中の案内を私が任されています」

 

「そうなんですか。フィクシス魔法学園…」

 

やっと聞けた留学先の名を静かに呟く。

 

「それでは、行きましょうか」

 

「わかりました」

 

ティラミスの促しに頷き、忍はティラミスを連れてアステリアの元へと戻る。

 

「紅神さんってバイクに乗られるんですね」

 

アステリアを見てティラミスはそんな感想を口にする。

 

「この歳でバイク乗車はマズいかな?」

 

「免許を持っているなら問題ないかと」

 

「(ヴェル・セイバレスでこっち用の免許は貰ったから問題ないか…)」

 

軽い感じの会話をしながらアステリアに近寄る。

しかし、ここで困ったことが…

 

「あ…これじゃあ、スーツケースが邪魔になるか…?」

 

ティラミスを乗せるのにスーツケースが少し邪魔にならないか不安になっていた。

 

「このくらいなら大丈夫ですよ」

 

「う~ん…大丈夫、なのか?」

 

とりあえず、乗ってみることにした。

 

「窮屈じゃないか?」

 

ヴェル・セイバレスで受け取っていたヘルメットを被り、ティラミスにも予備のヘルメットを渡しながら背中越しに尋ねる。

 

「少し、きついですね…」

 

車体とスーツケースの隙間に足を入れ、忍の背中にぴったりとくっつく感じでティラミスはアステリアに乗っている。

 

「しばらくの辛抱…とは言え、あんまりきついとマズいか…規定速度内でさっさとフィクシス魔法学園まで急ぐか」

 

「ナビゲートは念話でしますので、指示通りに運転してくれれば問題ないです」

 

「了解した。じゃあ、行くぞ?」

 

ブルルルル…!!

 

そう確認してから忍はアステリアを起動させる。

 

こうしてティラミスの念話ナビゲートで忍は発着場の駐車場から郊外にあるというフィクシス魔法学園へと出発するのであった。

 

………

……

 

数時間後。

ティラミスに色々と案内してもらいつつ無事にフィクシス魔法学園へと到着していた。

それでも時刻は夕刻の下校時間になってしまったが…

 

「ここが、フィクシス魔法学園」

 

校門らしき場所の前でアステリアを停め、ヘルメットを脱いでフィクシス魔法学園を見る。

 

「はい。ここが明日から紅神さんが通うことになります。フィクシス魔法学園です」

 

そう説明しながらティラミスもヘルメットを脱ぎ去って髪を整える。

放課後の下校時間ということもあり、多くの生徒が忍とティラミスを注目しながら帰路についていた。

 

「(思ったよりも大きいな。駒王学園とは違った雰囲気と魔力の匂いがする…)」

 

学園から感じる魔力を匂いとして感知し、駒王学園と比較していた。

 

「紅神さん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

少しだけ呆けているように見えた忍にティラミスが声を掛け、忍が何でもないように答える。

 

「それにしても…」

 

「うん?」

 

「珍しい時期に編入するんですね」

 

「まぁ、色々あってな…」

 

ティラミスの素朴な質問を忍は曖昧に答えていた。

 

「色々、ですか」

 

「あぁ」

 

忍はそれ以上語ろうとはしなかったが…

 

「そうなんですか。頑張ってください」

 

何を勘違いしたのか、そのように励まされてしまった。

 

「え? あ、あぁ…ありがとう…?」

 

思わぬ返しにどう返したらいいかわからず、そのまま素で返答してしまった。

 

「また、何か困ったことがありましたらこちらに連絡してください。私に出来ることなら色々とサポートしますから」

 

そう言って互いの連絡先を交換することになった。

 

「あぁ、すまない。しかし、そこまで世話になるつもりは…」

 

「いえいえ、気にしないでください。きっと色々と苦労してきたんでしょうし…」

 

「(なんだか勘違いされてるような…)」

 

ネクサスにティラミスの連絡先を登録しながら今更なことを考えていた。

 

「ともかく、今日はありがとう。場所さえ把握できれば問題はない」

 

「それは良かったです」

 

そう言ってから夕暮れ具合を見て…

 

「もう暗くなるし、よかったら送っていくが?」

 

そう提案していた。

 

「そこまで気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ」

 

それをティラミスはやんわりと断ろうとしたが…

 

「いや、流石に女性1人をこのまま返すのは男としてどうかと思うし…このくらいはさせてくれ」

 

「そうですか? では、お言葉に甘えちゃいます」

 

忍の紳士的な発言にティラミスも素直に送ってもらうことにした。

 

「それじゃあ、またナビゲートを頼む」

 

「はい」

 

こうして忍はティラミスを送るべくアステリアを走らせたのだった。

 

………

……

 

ティラミスを送ってから用意されたマンションの部屋へと到着した頃にはすっかり夜になっていた。

 

「遅くなったな…」

 

部屋に入り、制服を脱いでハンガーに掛けた後、スーツケースの中から寝てもいいように適当な服装に着替えてから荷物の整理をし始める。

 

「飯は…当分の間は自分で何とかするしかないわな…」

 

当然のことながら忍は自炊の経験がない。

いつも智鶴が世話を焼いていたのが原因だが、それでも家庭科で習得した技術は健在だったりする。

だからこれと言って問題はないのだが…

 

「ここって、どんな食材があるんだろう?」

 

そこまで大差ないとは思うが、ここは異世界。

色々と不安な面もあったりするのだ。

 

「とにかく、買い物…は明日に回して今日は風呂入ってから体を解して寝るか」

 

整理を終えた忍は風呂に入ってから寝ることにしたのだった。

 

しかし…

 

「……………」

 

ベッドに横たわったはいいが、如何せん眠れなかった。

 

「こうして1人ってのもなんだか寂しいもんだな」

 

なんだかんだで周囲に女性陣が部屋別とは言え、屋根の下で共同生活を送ってる状態が続いたのだ。

いざ1人となると、妙に物静かに感じてしまっていた。

 

「(恵まれた環境か…当分はこの生活が続くんだし、早く慣れないとな)」

 

そう思って目を閉じて意識を深い所に持っていくような感覚で寝るように努めた。

 

………

……

 

翌朝。

 

「この世界での初登校か」

 

あまり寝付けなかった忍だったが、余裕を持ってアステリアを走らせてフィクシス魔法学園へと登校していた。

制服は少しだけ着崩している。

 

「ここに停めても問題ないかな?」

 

職員用の駐車場にアステリアを停め、スクールバックを手に教員室へと向かう。

 

その途中のこと。

 

「(この世界にも当然ながら部活があるんだよな…魔法も加味したものだろうか?)」

 

校庭や体育館などから聞こえる活気ある声や朝練の光景を見てそんなことを考えていた。

 

「(ま、とにかく俺は教員室に向かわないとな。さて、と…)」

 

匂いを頼りに場所を教員室を探していると…

 

「ちょっと、そこのあなた!」

 

忍の背後より声が掛かる。

 

「?」

 

何事かと思い、振り返ってみると…

 

「そう、あなたです!」

 

忍を指さす1人の女生徒がいた。

見た目は胸元辺りまで伸ばした桜色の髪と空色の瞳に可愛らしい顔立ちに、少しスレンダー気味だが、中身はそれなりに詰まってそうな体型をしたフィクシス魔法学園のセーラー服を着用した少女だ。

 

「……俺か?」

 

一応、周囲を確認してから自分を指さして尋ねる。

 

「他に誰がいますか!」

 

「まぁ、この辺には俺しかいないが…」

 

少女の言葉にそう返すと…

 

「あなた、見ない顔ですね。転入生か何かですの?」

 

まるで生徒全員を暗記してるような物言いである。

 

「ん。まぁ、そんなとこだ」

 

なので、忍も否定はしなかった。

 

「バイク登校とは…もしや不良的な何かですか?!」

 

「………何故そうなる?」

 

バイクでの登校を見られたためか、そのうような誤解を受ける。

 

「違うとでも?」

 

「少なくとも君の言う不良的なことはしていない(極道に厄介にはなってるけど…)」

 

心の中で自分の居候先が極道だと思いつつ、自分の素行は悪くないと思っている忍だった。

 

「まぁいいです。それなら教員室でまでご同行して差し上げます。どうせ、転入生ならわからないでしょうし…」

 

「それはそれで助かる(不必要に匂いを嗅ぐ訳にもいかんからな…)」

 

ある意味で奇行を見られずに済むならそれに越したことはないと、忍は少女の提案を聞き入れる。

 

「それでは参ります」

 

「(しかし、この身の熟し方…何処かの良いとこの御嬢さんか?)」

 

少女の後ろをついていきながら忍は少女の所作を見てそう考えていた。

 

 

 

それから少女に連れられて教員室まで辿り着くことが出来た。

 

「ここが教員室です」

 

「ありがとう。えっと…」

 

お礼を言ったところで忍は相手の名前を聞いてないことに気付く。

 

「そういえば、名乗ってませんでしたね。私はラピス。『ラピス・シルフォニア』と申します」

 

「ありがとう、シルフォニアさん」

 

「ラピスで構いませんよ」

 

「そうかい。俺は紅神 忍。紅神が名字で、忍が名前な」

 

そこで互いに名乗ると…

 

「ベニガミ…変わった名字ですね」

 

「ま、気にしないでくれ」

 

「そ、なら気にしません」

 

紅神という名字の珍しさに少女『ラピス』は少し興味を抱かれたが、すぐに気にしない方向になった。

 

「それにしても…転入生が来るなんて話、聞いてませんけど…」

 

「急に決まったことなんでな。だから噂も立ちようがなかったんじゃないか?」

 

「そうなんですの?」

 

「確証はないが…」

 

「そうですの。なら、せめて私の組に入ることを願いますね。見知った人がいた方があなたも安心でしょ?」

 

「それは確かにそうだが…」

 

ラピスとの会話の中で忍はそう言ったものの…

 

「そろそろ先生方に挨拶した方が良くては?」

 

「そう、だな。じゃあな」

 

「えぇ。では、縁がありましたら」

 

そう言ってラピスは教員室の前に忍を残して去ってしまった。

 

「さてと…じゃあ、俺も行きますか」

 

ガラガラ…

 

「失礼します」

 

扉を開け、教員室へと入る。

 

 

 

教員室に入った後、忍は隣接する学園長室に通されていた。

今では時空管理局の少将であり、此処のОBらしいゼーラの推薦もあって特別に留学を許可されたことを学園長から知らされて、忍はちょっと意外そうな表情を見せた。

あの武闘派なゼーラがこの学園の卒業生とは、と…。

しかし、それで謎が一つ解けた気分だった。

 

また、忍の出身が本当は地球で、書類上はベルカ自治領の出身ということにしていることも学園長以外には知らされていないことも話してくれた。

そのことについては少しホッとした忍だった。

 

あとは学園長から生徒手帳を受け取り、担任の教員を紹介された。

教本などは急なこともあってか、翌日に受け取ることになっていた。

また、デバイスの所持は申請することで可能であることもあり、忍はネクサス、ファルゼン、ライト・フューラー/レフト・フューラー、アステリアの4基の所持を正式に申請していた。

ブリザード・アクエリアスやブラッド・シリーズについては出自が出自だけに隠して所持することになる。

 

そして、朝のSHRの時間が来たので担任と共に教室へと歩いていく。

ちなみに忍のクラスは2-Aであった。

それと、これもお約束だが、転入生は廊下で担任の呼び出しが来るまで待つことになった。

 

「(こういう扱いは何処の世界も一緒だな)」

 

忍は苦笑しながらしみじみと思う。

 

「それと追加の知らせがある。なんと、今日からお前達と共に勉学を共にする新しい生徒がやって来た」

 

『えぇ~~!!?』

 

担任の知らせに教室内が湧くのが扉越しにわかる。

 

「先生、女の子ですか!?」

 

そして、当然とばかりに男子がそんなことを聞く。

 

「残念ながら男だ」

 

『ええ~~…』

 

男子達から明らかな消沈の声が上がる。

 

「(そこまで落胆するか?)」

 

自分があちら側の時はそこまで気にしたことがないので、忍は少し頭を捻っていた。

 

「(今頃、海斗も似た心境なのかね…?)」

 

忍の留学と入れ違いに駒王学園に編入した海斗の事を思い出し、そんな考えが過ぎる。

 

「では、入っていいぞ」

 

担任からのお呼びが掛かり、忍は気を取り直して…

 

ガラガラ…

 

教室の中へと足を踏み入れた。

 

こうして、忍の異世界留学の幕が開いたのだった。

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