魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第五十七話『学年合同授業』

忍がフィクシス魔法学園へと留学となり、最初の登校日。

 

忍が教室の中に入ると…

 

「なんだ、男かよ!」

「でも、結構カッコ良くない?」

「だよねだよね~」

「イケメンは死ね!」

 

男子と女子とで反応がまるで違う。

何処の世界でも転入生というのはこういう扱いなのだろうか?

 

「え~、今日からお前達と勉学を共にする…」

 

「紅神 忍です。紅神が姓、忍が名です」

 

翻訳魔法が上手く機能しているのか、忍はそう伝えていた。

 

「変わった名前だな…」

 

生徒からは当然そんな声が漏れる。

 

「席は…スフィーリアの隣の窓際だな」

 

一番後ろの窓際という生徒から見たら座りたい席の有力候補である。

 

「こっちだよ」

 

わかってるとは思うが、一応と言った感じでスフィーリアと呼ばれた女子生徒が手招きしていた。

 

「ついでにスフィーリア、ベニガミの面倒も見てやってくれ」

 

「は~い、わかりました」

 

先生の頼みを二つ返事で返していた。

 

「よろしく」

 

忍も席に着くと、隣のスフィーリアに一言挨拶していた。

 

「ん、あたしは『ラト・スフィーリア』。こちらこそよろしくね」

 

『ラト』と名乗った少女は胸元辺りまで伸ばした青みがかった銀髪と色素の薄い青紫色の瞳を持ち、可愛らしくも綺麗な顔立ちに、標準的よりも少し豊かに見える体型をしていた。

 

「では、SHRは以上だ。一時限目までの間に紅神への質問は済ませておくように」

 

そう言い残し、担任の教員は教室を後にしていった。

 

それからは女子が早かった。

 

「ねぇねぇ、ベニガミ君って何処から来たの?」

「使ってる魔法体系とかは?」

「好きな食べ物とかある?」

「デバイスは?」

「彼女とかいるの?」

 

即座に女子生徒に囲まれて一気に質問攻めにあった。

 

「あはは…ちゃんと答えるから、そんないっぺんに聞かないでくれ」

 

それに忍は苦笑しながら一つ一つの質問に答える。

 

「ベルカ自治領の方から来たかな」

「古代ベルカ式を使ってるよ」

「う~ん…好きなものか…から揚げとか?」

「一応、4つ所持してるかな。必要に応じて変えてる感じ」

「それは…年上の人がいて今は離れ離れになってるけど…」

 

最後の質問の答えに女子生徒はガッカリしたような声を上げる。

 

「けっ、彼女持ちかよ」

「人生勝ち組ってか?」

「イケメンはなんでも有能か?」

「4つもあって切り替え出来るはずねぇだろ」

 

それを遠巻きに聞いていた男子達がぼやき始める。

 

「(う~ん…なんだろう、これは放課後に何かあるか?)」

 

忍はそう考えていたが、放課後を待たずにちょっとした小競り合いが授業中に起こることになった。

 

………

……

 

時刻は4時限目の魔法実技になっていた。

黒いジャージに着替え、校庭に集合した男子達は対戦形式の個人戦を行うことになっていた。

ちなみにデバイスの使用は無しの魔力を用いた打撃戦オンリーである。

 

「(個人戦か…)」

 

教員の話を聞きながら忍は周囲から向けられる敵意をチクチクと感じていた。

 

「(良い憂さ晴らしと考えているんだろうが、生憎と俺もただでは負けられん)」

 

その敵意を真っ向から受け止め、忍は手加減を間違えないよう考えていた。

 

「まずは転入生の実力を見せてもらおうじゃないか」

 

「はい」

 

ガタイの良い教員に名指しされ、忍は立ち上がる。

 

「じゃあ、相手は…」

 

「先生、俺が相手になります」

 

自ら名乗り出たのは、これまたガタイの良い生徒だった。

 

「おっ、あいつが出るのかよ」

「よっ、我がクラスの男子エース!」

「男子の中じゃ実技が一番得意だもんな」

「こりゃ転入生、怪我確定か?」

 

他の男子からそんな声が上がり、その男子生徒がクラスの男子の中でも実力が高いことが窺えた。

 

「グラフハイトか。いいだろう」

 

男子生徒ことグラフハイトが忍の前に立つ。

 

「よろしく。グラフハイト君」

 

忍は礼儀として握手を求めたが…

 

「良い気になるなよ、転入生。少しばかり女子にちやほやされたくらいで…」

 

「別に良い気になんか…」

 

グラフハイトの言葉を否定しようとするが…

 

「グラフハイト、やっちまえ!」

「転入生のここの厳しさを教えてやれ!」

 

そんな野次が飛び交う。

 

「あいつらもあいつらでうるさいが…俺は俺で転入生、お前の実力を測らせてもらう」

 

グラフハイトはそう言って構えを取る。

 

「握手はその後ね…」

 

「お前がそれに足る人間ならな」

 

「了解」

 

忍も構えることでグラフハイトに応える。

 

「では、始め!」

 

教員の合図で忍とグラフハイトが同時に動く。

 

「チャージ・ブロー!」

 

魔力を込めた強撃を放つグラフハイトに対して…

 

「ふっ!」

 

忍はその一撃を避け、伸び切った腕を捕らえると同時に足払いをしようとする。

 

「ッ!!」

 

が、グラフハイトは腕を曲げて忍の足払いから自らの足を近づけて軸を逸らす。

 

「ちっ!」

 

足払いが失敗するとわかった忍は即座にグラフハイトの腕を放し、足払いに回した足でグラフハイトの足を蹴って横に跳びながら距離を開けようとする。

 

「逃がさん!」

 

それをグラフハイトは忍の足を捕まえてから一気に振り下ろそうとする。

 

「ッ!」

 

忍は体を捩じって捕まれてない方の足でグラフハイトの後頭部を狙って蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

ガタイの良いグラフハイトも後頭部に一撃を貰って少しだけ怯み、忍の足を放してしまう。

それを受け、忍は地面に両手を着いてバク転の要領で再び距離を開ける。

 

「おいおい、マジかよ」

「あのグラフハイトが決めきれてない?」

 

忍の奮戦に他の男子生徒達からも動揺が広がる。

 

「やるな、転入生」

 

「そいつはどうも」

 

どちらも魔力を用いた肉体強化を施しているのでまだダメージというダメージは見受けられない。

 

「(これ、どういう基準で決着を着けるんだ?)」

 

今更ながら忍はそんなことを考えるが…

 

「チャージ・タックル!」

 

そんなことはお構いなしにグラフハイトが魔力を帯びた突進を仕掛けてきた。

 

「(捕まったら厄介か…)」

 

今は目の前のことに集中し、魔力を足に流して加速する。

 

「「「「ッ!? 速い!?」」」」

 

忍の急加速に男子生徒達が驚き…

 

「スピードタイプか…?」

 

教員も忍の速さに目を見開き…

 

「ッ! ならば!」

 

それを見たグラフハイトは魔力を込めた一撃を地面に叩き込んで校庭の砂を一気に粉塵として巻き上げる。

 

「(これなら粉塵の外に出るしかあるまい!)」

 

フィールドタイプの魔力障壁を張って自身の体を守りながら忍が粉塵から出るのを待つ。

 

しかし…

 

「受けになったら無防備だぜ!」

 

"空気を蹴って空に跳び上がっていた"忍がそう言いながら粉塵の中へと一気に降下する。

 

「なにっ!?」

 

思わず上を見上げたグラフハイトの顔面を掴み、その勢いで地面に叩き付ける。

その衝撃で粉塵も収まり、その場には体勢を崩して地面に仰向けに倒れるグラフハイトと、その顔面を抑え付けている忍の姿が残っていた。

 

「勝負あり。勝者、ベニガミ」

 

教員がそう告げると、忍は静かにグラフハイトから手を退け、手を差し出す。

 

「くっ…俺の負けか。強いな、"ベニガミ"」

 

「アンタもね」

 

忍の差し出した手を握って立ち上がりながらグラフハイトは笑っていた。

 

「「「「………………」」」」

 

その光景に男子生徒達は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「よし、転入生の実力もわかったところで次!」

 

教員が次の生徒達を呼び出していた。

 

 

 

その様子は同じく実技であった女子生徒も授業そっちのけで見ていたようで…

 

「あのグラフハイトが…負けた?」

「やっば、ベニガミ君…超カッコいいかも♪」

「でも、今日の男子のやつって魔力による肉体強化でしょ? 魔法の方が疎かになってたらいくら強くても、ねぇ?」

「あ、それは確かに…ベニガミ君、古代ベルカ式って言ってたよね?」

「じゃあ、近接系が得意なのかな?」

 

ミーハーな反応もあれば、冷静な反応も見受けられて賛否両論といった具合か。

その中でも…

 

「へぇ~、面白いじゃん♪」

 

ラトだけはとても楽しそうな笑みを浮かべて忍を見ていた。

 

この4時限目の授業の内容も相俟って転入生の噂はさらに広がることになった。

 

………

……

 

~昼休み~

 

昼飯のことを考えてなかった忍はラトに案内してもらって学食へとやってきていた。

 

「(しまったな…買い物のことを二の次にしてたせいで飯のことも忘れてた…)」

 

とてもじゃないが、そんなことは口に出来ないでいた。

 

「ここが学食ね。流石にわかると思うけど、食券買ってカウンターに持ってって少し待つのね」

 

ラトは苦笑しながらそんな説明も付け加えていた。

 

「あぁ、それはわかる」

 

次元を越えてもやはり似ている部分は似ているんだな、と改めて実感する忍だった。

 

「それじゃあ、あたしは妹と一緒に食べる約束があるから」

 

「あぁ、すまなかったな」

 

「気にしない気にしない」

 

そう言い残してラトは少し早足に学食を去っていった。

 

「さて、何を食うか…」

 

食券販売機の横にあるメニューを見て頭を捻る。

 

「これにしとくか」

 

超無難なカレーを選択すると、忍は食券を買ってカウンターまで順番を守って移動した。

 

「(今日から自炊しないとなぁ…)」

 

そう考えつつ家庭科で習得した技術を思い出しながらカレーを食べるのだった。

 

………

……

 

~放課後~

 

「(やはり、歴史が難点か。他の教科は基礎さえ覚えてれば問題なさそうだが…)」

 

今日一日を振り返って忍が痛感したのは歴史だった。

幸いにも当てられなかったからミッドチルダの基本的な歴史知識の無さが露見することはなかったが、これは早急に手を打たなければと考えていた。

 

「(図書館ならそれらしい本がいっぱいあるだろ。予習か復習と称して読み込めば問題ないはず…)」

 

そんな計画を立てながら忍はラトに図書館の場所を尋ねていた。

 

「あ~、図書館ねぇ…」

 

明らかに嫌そうな顔をするラトだった。

 

「(勉強嫌いか?)」

 

そう思ってしまうくらいにあからさまな反応だった。

 

「あ、そうだ。他の場所も案内しとかないとだよね。図書館には…まぁ、用事もなくはないけど…最後でいい?」

 

よくよく考えれば、学園内の案内もまだだったのでラトはそう提案していた。

 

「それはそれで助かるが…妹さんはいいのか?」

 

昼休みの会話の中でラトには妹の存在が出てたので、それを懸念して忍は尋ねていた。

 

「大丈夫。あの娘ならきっと図書館にいると思うし…」

 

そう言ってラトは忍を連れて学園内を案内しだした。

 

 

 

ラトに連れられての案内。

まずは…

 

「ここが講堂。全校集会とか、大きなイベントは大抵ここでやるんだよ」

 

「そうなのか」

 

「まぁ、普段は閉められてるけど…」

 

講堂前でラトの説明を受けながら忍は周囲を見回す。

 

「校舎からは独立してるんだな」

 

「まぁね。理由はよく知らないけど…あ、でも噂だと対魔力素材で出来てて、何かあった時用の避難シェルターじゃないかって……それに避難訓練とかでもよく使われてるんだ」

 

「へぇ…」

 

言われてみると確かに頑丈そうな造りになっているのであながち間違いでもなさそうだな、と忍は思っていた。

 

「それじゃあ、次行くよ」

 

「あぁ…」

 

2人はその場から次の場所へと移動した。

 

 

 

次は…

 

「ここが部活棟。ここも校舎からは独立してて、なんと屋内プールがあるんだよ!」

 

「そうなのか」

 

「うん。だから水泳部とかは結構プールの管理とかもしてるって話だよ」

 

それを聞き…

 

「スフィーリアは部活とかに入ってないのか?」

 

そう尋ねると…

 

「ラトでいいよ。あたしもシノブって呼ぶから。ほら、ちょっとベニガミって言いづらいし…」

 

ラトはそう言ってきた。

 

「(本人を前にしてそれを言うか…)」

 

ラトの率直さに感心と呆れを半々に覚えていると…

 

「まぁ、入ってないかな…妹がインドア派でね。なかなか家族以外に心を開いてくれないから心配で」

 

忍の質問にそう答えていた。

 

「そうか…野暮なことを聞いてすまんな」

 

「ううん、気にしないで。今に始まったことじゃないし」

 

そんな会話をしながら次の場所へと向かう。

 

 

 

次は…

 

「ここが特殊学科専用棟。ま、実験とか家庭科の実習とか…あとは文系の部活の部屋なんかや教員室、学生会の部屋もあるんだけどね」

 

「あぁ、ここなら知ってる」

 

ラピスに案内された場所でもあるので覚えている。

 

「あ、そっか。ここは来てたっけ」

 

「まぁ、な。他にも色々な部屋があるとは知らなかったが…」

 

「学園でも中心に近いから駐車場は別のとこにあるんだけどね」

 

「道理で…近場にないのは不思議だったが…」

 

「え?」

 

「こっちの話だ」

 

アステリアによるバイク通学のことは話してなかったので、そう誤魔化していた。

 

 

 

最後に…

 

「ここが図書館」

 

「ここも独立してたのか…」

 

「うん。あたしはあんまり寄り付かないけど…」

 

「それはなんとなくわかってた」

 

図書館の前でそんなやり取りをしている。

 

「じゃあ、一緒に入ろっか」

 

「妹さんを迎えに、か?」

 

「まぁね。そのついでにシノブがどんな本を読むのか気になるし…」

 

「別に大したことじゃないが…」

 

そう言って2人は図書館の中へと入る。

 

「うぅ…頭痛い」

 

「(入っただけだぞ?!)」

 

入って早々、そんなことを言うラトに忍は隣で驚いていた。

 

「え~っと…"フィー"はっと…」

 

「(妹さんか…)」

 

妹を捜すラトを放置し、忍は歴史の本が並ぶ区画に立ち入っていた。

 

「(いくつか借りてくか…)」

 

歴史書をいくつか借り出すことにした忍は本を数冊だけ持って入り口横にあるカウンターへと本を持っていき、駆り出し手続きをする。

 

と、そこへ…

 

「うげぇ、歴史書とか読むの?」

 

ラトが1人の少女を連れて合流していた。

 

「復習を兼ねてな。そちらが…?」

 

そう返しながら視線をラトの背中に隠れ気味にしている少女に向ける。

 

「あ、うん。あたしの可愛い妹の『シルフィー』。フィー、この人が今日からこの学園に転入してきたシノブね」

 

そう言ってラトが忍に"フィー"ことシルフィーを紹介し、シルフィーに忍を紹介していた。

シルフィーはラトの妹だけあって似ており、腰まで伸ばした赤みがかった銀髪を白いリボンを使って首の後ろで一纏めに結っており、色素の薄い赤紫色の瞳を持ち、歳相応の可愛らしい顔立ちに、ラト比べると一回りくらい小さくスレンダー気味な体型をしていた。

 

「よろしく…えっと、シルフィーちゃん?」

 

「…………」

 

忍の言葉にシルフィーはラトの背中に隠れるのだった。

 

「もう、フィーったら…初対面の人にもちゃんと挨拶はしなさいっていつも言ってるでしょ? だから友達も少ないんだよ?」

 

「(それを姉が言うか? いや、姉だからこそか?)」

 

ラトの言い分には一理あるものの、それをこんな堂々と言ってもいいものかとも考えていた。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

 

図書館に長居したくないのか、ラトはそう切り出す。

 

「そうだな。もうそろそろ暗くなる頃合いか」

 

ネクサスの時間表示を見て忍も帰ることにした。

 

「それってデバイス?」

 

ネクサスを見てラトが忍に尋ねる。

 

「ん? あぁ、バリアジャケット展開に特化した仕様でな」

 

そう答えると…

 

「って、よく見るとシノブって指輪とか腕輪とかしてるし、それもデバイスだよね?」

 

「あぁ…申請はしたから着けてても問題ないと思うが…」

 

それを聞いて…

 

「シノブって…どこかのお坊ちゃま?」

 

ラトはそう尋ねる。

 

「いや、普通(とは言えないが…)の家…というよりも故郷じゃ居候の身でな。両親がどっかに蒸発してて行方がわからないんだ」

 

「あ、ごめん…」

 

流石に話題のチョイスをミスしたと思って謝る。

 

「気にする必要はないさ。どこかで生きてるならいつか会えるだろうし、会ったら会ったで殴ってやろうとも思ってるしな」

 

そう言いながら忍達は図書館から出る。

 

「……お母さんも…?」

 

そこでシルフィーが忍に尋ねる。

 

「いや、親父だけ殴ってやろうと思ってる。伯父さんとも約束したしな…」

 

シルフィーの問いにそう答える。

 

「シノブも苦労してるんだね」

 

「まぁな。っと、俺はここまでだな」

 

そう言ってから忍は校門とは別方向になる駐車場の方へと歩いて行こうとする。

 

「なんで? そっちは駐車場だよ?」

 

当然の疑問を発するラトに…

 

「これでもバイク通学でな。特別に駐車場を借りてんだよ」

 

「なにそれ!?」

 

「じゃあ、また明日な」

 

驚くラトを尻目に忍は片手を挙げていた。

 

そんな忍の後ろ姿を見送りつつ…

 

「ねぇ、フィー。ちょっと見に行かない?」

 

「………ちょっとだけ、なら…」

 

気になったのか、スフィーリア姉妹は忍を追いかけていた。

 

 

 

そして、駐車場にて…

 

「ネクサスがないと動かないとは言え、よくもまぁ…」

 

そう言いながら忍は目の前の光景を見て呆れる。

 

「くそ、なんで動かねぇんだよ!」

「ストッパーを外そうにも固過ぎだろ!」

「こんな良いバイク、何処の誰だか知らねぇがそいつには勿体ねぇしな!」

 

そこにはアステリアに群がる男子生徒の集団がいてアステリアを動かそうと四苦八苦していた。

見るからに不良グループと思われる粗野な面が目立つ生徒達である。

 

「(ミッドにもいるんだな…当たり前かもしれないが…)」

 

そう思いつつも忍はその集団へと近付き…

 

「俺のバイクに何か用か?」

 

声を掛けていた。

 

「あぁ!?」

「誰だ、テメェは…?」

 

忍に声を掛けられ、少し慌てたように男子生徒達は忍を睨む。

が、すぐに忍が1人だとわかると忍を囲むように広がる。

 

「そのバイクの持ち主だ。これから帰るのに邪魔だから退いてくれないか?」

 

それだけ言うと忍はアステリアに近づこうとするが…

 

「おっと、待ちな」

 

アステリアの前にいた不良が忍の肩を掴む。

 

「テメェが乗るには勿体ねぇよ。俺が使ってやるからさっさとキーを寄越しな」

 

そして、忍を格下だと思い込んで一方的な要求を突きつける。

 

「断る。こちらも足に使ってるんでな。第一、お前達が使うにはアステリアは分不相応だと思わないのか?」

 

そう言って不良の要求を突っぱねる忍に…

 

「テメェ…!!」

 

目の前の不良が忍に殴り掛かる。

 

ガシッ!

 

忍は簡単にその拳を受け止めると…

 

「少し…頭を冷やしたらどうだ?」

 

ギリリッ…!!

 

不良の拳を握り潰すように握力を込めていき、周囲の気温も下げていく。

 

「がぁぁ!!?」

「な、なんだ? 急に寒く…?!」

 

何が起こったかわからない不良達は慌て始める。

 

「往来の邪魔だ。さっさと失せな」

 

不良の拳を放すと、そう言ってアステリアに跨って起動させる。

 

「ち、ちくしょう! お、覚えてやがれ!!」

 

ありきたりな捨て台詞を最後に不良グループはその場から立ち去っていた。

 

「少しやり過ぎたかな? 魔法を使わなかっただけ安心だったが…」

 

そう呟き、忍はアステリアを発進させていた。

 

「(ま、何とかなるだろ…)」

 

あ、買い物してかなきゃな…という呟きを残して…。

 

 

 

その様子を…

 

「見た?」

 

「………うん」

 

ラトとシルフィーが物陰に隠れて見ていた。

 

「あれって魔力変換だよね?」

 

忍が使っていた周囲の温度を下げる様をシルフィーに確認していた。

ただ、距離があったため、不良が急に寒いと言ったので判断しただけだから確証はないが…。

 

「……多分、『凍結』…」

 

シルフィーも少ない単語の中でその可能性が一番高いものを選んで答える。

 

「レアものじゃん。シノブってホント、何者なんだろうね?」

 

「……知らない…」

 

ちょっと楽しそうなラトに対して興味なさそうなシルフィーだった。

 

………

……

 

その二日後。

フィクシス魔法学園でちょっとしたイベントが行われることとなった。

 

「学年合同授業?」

 

忍が隣のラトにオウム返しのように尋ねる。

 

「うん、今日の授業はお昼も挟んでの高等部の三学年合同の授業なんだ」

 

それを聞いた忍は…

 

「……初耳なんだが…?」

 

そう答えていた。

 

「連絡し忘れたんじゃない?」

 

ラトがあっけらかんと言う。

 

「だからってこんなイベント…誰も話題にしないとか…」

 

「あたし達にとってはあんま重要視してないもん。ただ、他の学年の子とも組めるって程度の認識で、実戦形式の授業とあんまり変わらないって感じだし…そのせいか、この機に堂々とサボる生徒も多いんだけどね~」

 

「おいおい…」

 

その説明を聞き、忍は耳を疑った。

 

「魔法制限は特に無し。他の人と組む場合は本人同士の同意と教員への報告だけ。ルールとしてはこんなもんかな?」

 

「随分と緩いルールだな」

 

そう言う忍だが…

 

「ん~…そうでもないよ? 確かに教員の数よりも生徒の数が多いから全部の戦闘を眼で見るのは大変だから監視用自動カメラも総動員して色々な場面の記録をしてから休日とかも使って教員が生徒の実力を把握する感じだし、サボってるのが見つかったら単位が落ちるし…」

 

ラトはそう返していた。

 

「(ま、それ故に抜け道も存在しそうだが…)」

 

自動監視カメラがどのくらいの性能かは知らないが、忍はそう考えていた。

 

「ラトはこのイベント、どう思ってるんだ?」

 

「もち、全力参加するよ。こんな単位の稼ぎ時を逃す手はないしね♪」

 

忍の問いにラトは笑顔で答える。

 

「そうか。ちなみに誰かと組む予定とかは?」

 

ダメ元で聞いてみると…

 

「あたしはフィーと組むかな。遭遇しても手加減しないからね?」

 

意外にもあっさりと答えてもらえた。

 

「そりゃ遠慮願いたいもんだ…」

 

二対一というものそうだが、ラト達の実力が不明な以上、出来るだけ遭遇したくはないというと、女性を相手に本気になれるか心配なのが忍の本心だった。

 

「ちなみに開始は10時から16時の6時間でお昼休みに30分の休憩を挟むの。場所は…人数が人数だから管理局の許可を前から取って無人世界でやるんだけどね。安全のために局員の人も何人か監視役として来てくれるんだよ」

 

「つまり、教員に加えて局員の眼も気にしないとならない訳か」

 

「まぁ、そういうことだね」

 

ラトの説明を聞きながら…

 

「(これにもシュトライクス少将でも絡んでるのか?)」

 

忍はゼーラのことを思い浮かべていた。

 

「そういう訳でそろそろあたし達も移動する時間だよ」

 

「アステリアは…流石に持っていけないな…」

 

それを聞いて忍は学園にアステリアを残すことに決めた。

 

「(解放形態やアステリアの全貌を一般の生徒や管理局員に見せる訳にもいかないしな…)」

 

そう考えながら忍は席を立つ。

 

生徒達は特別次元航行便に乗るためバス移動で次元航行ポートへの移動が開始された。

 

………

……

 

~第47無人世界~

 

ここは温暖な気候と青い空に包まれた森林、荒野、山岳、高地、豊富な水場など自然がそのままが残った世界である。

不思議なことに何度調査しても人が住んでいる形跡や痕跡が見つかっていないため、無人世界ということになっている。

 

到着後、生徒達は管理局員の指導の下に各地にばらける形となった。

生徒達は学年やクラスの垣根を越え、自分の得意とするフィールドへと赴くようになっている。

もちろん、最初にいたフィールドから離れても問題ないが、生徒が遠くに行かないように簡易的な魔力結界も張られている。

結界の外に出れば即座に局員が連れ戻すことになっている。

また、生徒達は極力自然を傷つけないようにとの注意もされている。

 

「良い場所だな…」

 

この世界の空気を吸い、忍はそんな感想を漏らしていた。

 

「(こんな世界もあるんだな…)」

 

ちなみに忍は森林に近い場所に移動して時間を潰していた。

 

すると…

 

「あれ? 紅神さん?」

 

そこに忍の見知った人が現れた。

 

「イリスさん? なんで、ここに…?」

 

ティラミスがいたのだ。

 

「はい。こちらの学園の監視要員として派遣されまして…」

 

「また、派遣ですか…」

 

忍が苦笑していると…

 

「これもお仕事ですから」

 

ティラミスは微笑みながらそう答える。

 

「(健気だな…)」

 

そんな微笑みを見て忍も自然と微笑んでしまった。

 

「あ、ちなみに紅神さんの学年って…?」

 

「俺か? 2年生だが…?」

 

「あ、じゃあ、年上だったんですね」

 

それを聞いて忍は驚く。

 

「私は高等部で言うと1年生になりますから」

 

「ということは…中等部を卒業してすぐ管理局に…?」

 

「はい。進学でも良かったんですが、こういうのは早め早めが良いかなと思いまして」

 

「(人の道は人それぞれか…)」

 

ティラミスとの会話を続けていると…

 

ピピピ…!

 

ネクサスから10時を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「ん、時間か」

 

「では、頑張ってくださいね」

 

「ありがとう」

 

そう言ってティラミスと別れる忍だった。

 

 

開始から10分後。

 

「(とは言え、どうしたものか…)」

 

忍は森林の中、木々の枝を伝って移動していた。

自慢の嗅覚と気配を断つ技術を使って戦闘をやり過ごしているが、いつまでもそうしてる訳にもいかない。

が、忍は生死を賭けた戦闘を経験してるが故に下手に生徒達を相手することを避けている。

 

「(いつまでもこうしてる訳にもいかないし…困った…)」

 

グラフハイトとの戦闘は他の生徒達の手前、手加減していたことを可能な限り表に出さずに勝利したからいいものの、ここでは魔法も無制限で実戦に近い形式を取っているので下手な行動で素が出ないとも限らないのだ。

何より解放形態を使わずに戦うには打って付けなのもそうだが…。

 

「(ここにきてあの2人との訓練が仇になったかな?)」

 

イッセーや木場との戦闘訓練は互いに手の内を知ってるからこその本気度もあったが、今回はそうはいかない。

如何に他の力を抑えつつ素の状態でどこまで戦え、魔法技術の向上も視野に入れているのだ。

それを早々にして行えるこのイベントは嬉しい誤算だが、実際に行うとなると思わぬ誤算でもあった。

 

「(とにかく、今は実力が高そうな3年生を中心に狙って2年生と1年生には牽制を……!?)」

 

と忍が即席プランを構築していると、周囲の空気が凍る感覚が伝わってきた。

 

「(これは…俺と同じ魔力変換資質『凍結』か?)」

 

気になったのか、冷気の漂う方向へと移動する。

 

 

 

森から抜けると、忍の目の前には険しい岩場と、そこから流れるいくつかの滝が佇んだ場所が広がっていた。

 

「あれは…」

 

そこで戦っているのはどちらも忍の見知った存在だった。

 

「相変わらずの魔法の冴えね、シルフィー」

 

「…………」

 

滝の前に浮遊しながら冷気を溢れさせているラピスと、その対岸でいくつもの魔法陣を展開するシルフィーがいた。

 

「頑張れ、フィー!」

 

シルフィーの後ろではラトが応援していた。

 

「マズいな…見つかったら俺も巻き込まれそうだ…」

 

物陰に隠れてその様子を見ながら少し愚痴る。

 

「……っ!」

 

が、シルフィーが何かに気づき、忍の方へと魔力弾を放ってきた。

 

「なぁっ!?」

 

まさか、気付かれるとは思わず、変な声を上げて飛び出してしまった。

 

「あ、シノブ」

 

「あの時の転入生!」

 

飛び出した結果、ラトとラピスに気付かれてしまった。

 

「しまった…(というか、何故わかった?)」

 

シルフィーには高い索敵能力でもあるのかと考えていると…

 

「それにしてもよくわかったね、フィー」

 

「………なんとなく、違和感があったから…」

 

「(なんとなく!?)」

 

その言葉に忍はかなり驚く。

 

「でも、嬉しいなぁ~。こんな早くシノブと出会えるなんて♪」

 

そう言いながらラトは忍の方へと歩き出す。

 

「……お姉ちゃん、援護は?」

 

「ん~、今はパス。フィーもライバルの相手に集中しなさいな」

 

そう答えるラトの眼は完全にやる気満々だった。

 

「……ライバルじゃない…」

 

「なんですって!? 私は眼中にないとでも!?」

 

「……そこまで言ってない…」

 

こっちはこっちで妙に息が合っている。

 

「一応、聞いとくが…拒否権は?」

 

「そんなんないに決まってんじゃん♪」

 

良い笑顔でラトは忍の言葉を否定する。

 

「(やるしか、ないか…)」

 

ここまで来たらやるしかないと判断した忍も臨戦態勢に移行するのだった。

 

 

こうして幕を開けた学年合同授業。

はたして、ラトの実力とは?

そして、シルフィーとラピスの戦いは?

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