魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第六十話『女の修羅場(?)と眷属強化合宿』

学年合同授業で起きた量産型龍騎士兵襲撃事件。

それは特務隊の活躍によって無事収束した。

だが、特務隊以外にも動いていた者がいることを彼女達は知っている。

 

襲撃事件から一日経った昼頃のこと。

襲撃事件もあり、フィクシス魔法学園は数日間の休学になっており、生徒達や教員に一時の休息を与えていた。

その間に話すべきこともあるので、忍はミッドでの仮住まいであるマンションの一室へと少女達を招待することにしていた。

 

「適当に掛けてくれ。すぐにお茶の用意をするから」

 

そう言って忍はキッチンで人数分のお茶を用意し始める。

 

「男の子の部屋って初めてだけど、綺麗にしてるんだね~」

 

「……意外」

 

「というか、殺風景過ぎませんか?」

 

「失礼します」

 

興味津々なのかラトとラピスはあちこちを見て回り、シルフィーはテーブルの横にある座布団にちょこんと座り、ティラミスもシルフィーの向かい側の座布団に座る。

 

「粗茶ですまないが、勘弁してくれよ」

 

人数分の湯飲みに緑茶を注ぎ終えたのか、湯飲みを乗せたお盆をテーブルに置く。

 

「緑色?」

 

あまり見たことのない色のお茶だったのか、ラトが首を傾げる。

 

「俺の故郷の茶だ。美味いぞ?」

 

そう言って自分用に淹れた緑茶を一口飲む。

それを見てラトとラピスが一口飲むが…

 

「「苦っ!?」」

 

やはり慣れてないからかそんな反応を示す。

 

「でも、なんだかホッとして美味しいですね」

 

「……ん」

 

それに対してティラミスとシルフィーは緑茶を気に入ってもらえたようだ。

 

「さて…何から話したものかな」

 

お茶で一服してから忍は湯飲みをテーブルに置くと、本題に移ろうとする。

 

「「「「…………」」」」

 

忍の一言にお茶を飲んでいた4人の緊張感も高まる。

 

「そう、身構えなくていい。とは言え、事が事だからな…身構えない方がおかしいか…」

 

そう言って忍は苦笑する。

 

「じゃあさ」

 

そこでラトが声を出す。

 

「うん?」

 

「シノブって何者なの?」

 

「何者、か…難しい質問だな…」

 

ラトの質問にふむと少し考える素振りを見せてから…

 

「まず俺は人の姿をしているが…その実、人間とは程遠い存在だ。この世界の人間の言葉を借りれば…そうだな。簡単に言えば、魔獣と怪物のハーフ…いや、今は混血か。そういった類の存在だ」

 

そう答えていた。

 

「魔獣…」

 

「怪物…」

 

その言葉に襲撃事件で見せた忍の姿を思い出す。

 

「でも…リンカーコアを持って魔術も扱えてる…」

 

ラピスがそう呟くと…

 

「そうだな。それに人の言葉も介してる。まぁ、そこは翻訳魔法を使ってるが…」

 

「怪物にしては人を襲ったとかの噂も聞かないし…」

 

「そんなことする理由が俺にはない。が、他の世界には人の姿をして人を襲ったりする類の存在も確かに存在しているんだ」

 

忍の冷静過ぎる口調にティラミス達はなんとなくそれが真実なんだとどこかで感じていた。

 

「あれ? それってどっかで聞いたことあるような……なんだっけ…?」

 

「……前に起きた電波ジャックの時…」

 

ラトの疑問にシルフィーが答える。

 

「やはり、この世界でも起きてたか。アレは真実だ。信じられないかもしれないが…」

 

忍は直接見た訳ではないが、話を聞く限りそれが真実であることを知っていた。

 

「多次元世界の事は授業でもやってるからわかるけど…でも…」

 

「……人間以外の他種族の存在」

 

「流石に、信じがたいです…」

 

「でも、目の前にいるんですよね…」

 

現役学生の3人の言葉に対してティラミスは目の前の忍を見ていた。

 

「そういうこった。実際、こういうことも出来る」

 

そう言ってから忍が淡い光に包まれていく。

 

「シノブ?!」

 

「紅神さん!?」

 

その光景にラトとティラミスが驚く。

 

「大丈夫だ。ちょっとした変身魔法の類だと思えばな」

 

その瞬間、カッと光が溢れて忍がいた場所には…

 

『………』

 

黒の混ざった白銀色の毛並みと右は琥珀、左は真紅の瞳を持った大型犬かと見紛う狼の姿があった。

 

「でっかいワンコ!」

 

『だから狼だってぇの!』

 

ラトの言葉に狼こと忍がツッコミを入れる。

 

「ワンコが喋った?!」

 

狼が喋ったことにまた驚く。

 

「この声は…紅神さん?」

 

しかし、この声を聞いてティラミスは狼が忍であると気付く。

 

「え?」

 

「………」

 

ティラミスの言葉にラトは目を丸くし、シルフィーは何か仕掛けがあると思ってそこらじゅうを見回って忍を捜すが、姿が見えない。

 

「……おかしい…」

 

『目の前の狼が俺だって可能性を考えないのか?』

 

そう言うと、狼の体が光り出して今度は忍の姿に戻る。

 

「ひ、非常識です…」

 

ラピスは目の前で起きた現実をなかなか受け入れることが出来なかった。

 

「ともかく…この多次元世界には他種族も多く生存している。それは事実なんだ」

 

忍はティラミス達にそう伝えていた。

 

「他に聞きたいことはあるか?」

 

"忍が何者か?"から始まった他種族のことを話し終え、次の話題に移ろうとする。

 

「それじゃあ…」

 

「……あのデバイスのこと」

 

ラトが悩んでいるとシルフィーが代わりにドライバーのことを聞いていた。

 

「それに触れるか。一応、それなりの機密事項なんだが…」

 

「勝手に見せたのはあなたでしょうに…」

 

「それを言われるとな…」

 

緊急事態だったとは言え、見せたのはマズかったなと今更ながら後悔する忍だった。

 

「はぁ…わかった。が、あまり口外するな。これは管理局内でも扱いに困ってる代物の類だからな」

 

そう前置きをしてから待機状態のドライバーを取り出し、ネクサスからアステリアの画像も表示する。

 

「これらのデバイスは『ドライバーデバイス』と呼ばれる独自の魔力源を基に動く自立支援型デバイスのことだ。そして、俺のアステリアも元はドライバーデバイスで、それを改造して作られた『ライディングデバイス』って新機種だ」

 

「デバイス技術がそこまで進歩しているなんて聞いたことがありませんけど…」

 

時空管理局に務めているティラミスがそう言うと…

 

「あぁ、これはある次元での紛争の間で作られた"兵器"に近いデバイスだからな…」

 

「……兵器…」

 

「実際、その次元世界の技術レベルでは作製不可能だったんだが、ある奴が極秘裏に作ったものをその次元世界に大量に流してな。それが人の命をいくつも失った。その現場を俺は見聞きしたからわかる。この三機はその雛型なんだと思う」

 

「なんでそんなものをシノブが持ってるの?」

 

そこで当然の疑問が浮かび上がる。

 

「元々は…俺の伯父が所有してた物さ。その伯父は…邪狼って名乗ってて次元犯罪者だったらしいな…」

 

「「「「邪狼!?」」」」

 

その名を聞いて4人共反応を示す。

 

「傭兵、殺し屋、殺戮主義者……正直、そんなところか。実際、俺も殺されかけたしな…」

 

知ってるなら話は早いとばかりに忍はそう漏らす。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! え? つまり、シノブって邪狼の親戚?」

 

「甥に当たるな」

 

忍は冷静な口調でこれも話す。

 

「犯罪者の…親族…!」

 

「……」

 

それを聞いてかラピスとシルフィーの警戒心が増す。

 

「で、でも…殺されかけたって…」

 

穏やかな話じゃないとはわかっていてもティラミスはそう聞かざるを得なかった。

 

「ちょっと当時は敵対しててな。伯父を俺の手で殺した。その時の記憶は曖昧だが…確かな実感があるんだ…」

 

そう言ってから右瞼を触れる。

 

「その時に俺は右眼を失ってな。代わりに伯父の眼を移植されたのさ」

 

それに応えるように普段は隠している右眼の傷が浮かび上がる。

 

「っ!?」

 

「伯父の形見として右眼と伯父が使っていたドライバーを俺が使ってるんだ。その上で俺はまだ生き続けてる。俺は今、数多の屍の上に立って生きてるんだ。それだけ俺の業は深い…」

 

遠くを見るような視線を窓に向け…

 

「君達の平和を壊したくはない。これ以上、俺には関わらない方がいい。そう思って今の話をした。まぁ、それを聞いてくれない人が俺の周りには多いんだが…」

 

今は離れ離れになっている眷属達の事を思い出しながら苦笑する。

 

「それじゃあ…紅神さんは、ずっと独りで抱え続けて…?」

 

「まぁ、そうなるかな。それでも支えてくれる人達がいるから平気なんだが…」

 

「………」

 

「俺も近い内に転校手続きを済ませてこの世界から元の世界に戻るつもりだ。もう少しミッドでの魔法を修得したかったが…先の事件で少し目立ち過ぎたかもしれない。知られたのが君達だけというのは不幸中の幸いだったよ。ここでの話は忘れて、残りの人生を平穏に…」

 

そこまで言った時だった。

 

バコッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

ラトのグーパンチが忍の顔面に炸裂する。

 

「……お姉ちゃん!?」

 

ラトの行動に妹のシルフィーも驚く。

 

「そんな話聞かされて、"はい、そうですか"って引き下がれるわけないでしょ!」

 

殴ってから忍の胸倉を掴んで引き寄せながら叫ぶように言う。

 

「ら、ラト?」

 

「そうです。こんな重大な機密を知った以上、他人事ではいられません!」

 

ティラミスも机に乗り出して忍に詰め寄る。

 

「ティラミスまで…?」

 

忍は嫌な予感がしてならなかった。

 

「あたしが共犯者になったげるから!」

 

「私もなりますから、独りで抱え込まないでください!」

 

ラトとティラミスの申し出に…

 

「ちょっ!? 正気ですか!? 相手は犯罪者の親族なんですよ!」

 

「……お姉ちゃん…」

 

ラピスとシルフィーの後輩コンビは賛成しかねている。

 

「だからってこんな悲しい話されて…ほっとけるわけないでしょ!」

 

「私も…紅神さんが悪い人とは思えません」

 

「未だ訳も分からない他種族というだけでも信用出来ません!」

 

「……今回ばかりはお姉ちゃんの考えがわからない…」

 

ここに来て4人の少女達が対立する。

 

「お、おい…」

 

忍が何か言おうにも…

 

「フィー! 人は見掛けによらないんだよ!」

 

「……だからって、安易に信用するのは危険だよ…」

 

「シルフィーの言う通りです!」

 

「でも、こうして私達に事情を話してくれたじゃないですか」

 

誰も聞く耳を持たずである。

 

「……だとしても、信用する根拠にはならない…」

 

「同感です!」

 

普段はそれほど仲良くないシルフィーとラピスがこの時ばかりは同調する。

 

「あたし達に話してくれたのに、あたし達が信じないで誰が信じてあげんのよ!」

 

「先日だって紅神さんが助けてくれたじゃありませんか」

 

ティラミスがそう言うと…

 

「……そんなの結果論で、恩着せがましい…」

 

「助けてくれとも頼んでませんし」

 

シルフィーもラピスもそう言い放っていた。

 

「フィー! ラピちゃん!」

 

2人の態度にラトが怒る。

 

「……そもそも、お姉ちゃんが考えなしに突っ込むから…」

 

「あたしが悪いっての!?」

 

「あなたも局員なんでしょ? あれくらい自分で対処出来なかったんですか?」

 

「そ、それは…」

 

話の矛先がティラミスに向くと…

 

「いい加減にしなさいよ! 2人だって結局はシノブに守られてたでしょ!」

 

ラトが後輩2人を叱咤する。

 

「……っ! お姉ちゃんが一番助けられてたくせに…」

 

「なんですって!?」

 

「……(プイッ)」

 

ラトが怒り気味の声を上げる中、シルフィーはそっぽを向く。

 

「さっきの話だって同情を引くための作り話かもしれませんよ!」

 

「それは言い過ぎです。紅神さんだって辛いはずなのに話してくれたことを…」

 

「それが狙いだったらどうするんですか?」

 

「紅神さんはそんな悪い人じゃありません!」

 

「口では何とでも言えます!」

 

ティラミスの言葉やさっきの忍の話をラピスは真っ向から否定する。

 

そうしてしばらくラトとティラミス、シルフィーとラピスの組で睨み合いが続いたが、話が好転することはなかった。

むしろ、話が(こじ)れて仲の良いスフィーリア姉妹が仲違いする結果になってしまった。

それぞれの帰路に着く頃も、ラトとシルフィーはそっぽを向き合って歩いていたとか…。

 

そして、部屋に残る忍はと言えば…

 

「あ~…また、ややこしいことになってしまった…俺が悪いんだろうな…」

 

自己嫌悪に陥っていた。

 

………

……

 

忍が4人の少女に事情を説明し終え、事態がややこしい流れになってしまった頃…。

中間テストや昇格試験の日が近づいている中、冥界のグレモリー領にあるトレーニング施設では…

 

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」

 

智鶴がアーマー状態のスコルピアを纏って訓練していた。

スコルピアのアーマー形態はポイズンブラッドの効果もあって魔力の感受性や身体機能も向上するので、慣れておいて損はないという判断だった。

そして、その目の前にはスコルピアの武装が並んでいる。

 

「片手用の大剣、連結機構のある刀、自律移動砲台、小型バルカン砲、シザー装備、カッター、加速装備、尾型特殊兵装…さらに固有魔法」

 

それを一緒になって見ているのは…なんと雲雀だった。

 

「エクセンシェダーデバイスというのは武装が豊富ね。けど、その分はやはり使用者の負担になる。私としては主兵装は一つに絞っておき、残りは補助に回すべきだと思う訳ですが…」

 

雲雀が至極まともな意見を述べると…

 

『……お言葉ですが、我々の装備はマスターに使ってもらってこそ真価を発揮します。特に我々生物型は鎧型と違ってマスターの許可さえあれば単体での運用も可能なのです。鎧型が固有魔法のみにコアドライブを注ぎ込むのに対して、生物型は武装などにもコアドライブを注ぎます。これは無尽蔵に吸収し続ける魔力を武装などに分散させて安定させる役目も担っているからです。なので、使うならどの兵装も自由に扱える方がいいと進言します』

 

スコルピアが反論していた。

 

「人はそこまで器用には出来ない生物です。天才も努力を怠れば慢心に繋がります。無理に全てを使うよりもまずは身の丈に合った戦法を学ぶべきです」

 

『……マスターなら問題ないと思います』

 

「それを決めるのは機械ではありません」

 

『……あなたにも決める権利はないかと…』

 

「………」

 

『………』

 

ジジジジジ…!!

 

雲雀の冷たい視線とスコルピアの無機質な複眼部から火花が飛び散る。

 

「2人共、落ち着いてください」

 

そこに当事者である智鶴が口を挟む。

 

「スコルピアちゃん、気持ちは嬉しいけど…私も雲雀さんの意見に賛成なの。しぃ君の足手纏いにならないように、まずはあなたとちゃんと向き合いたいの」

 

『……マスターがそう仰るなら…』

 

智鶴に言われてスコルピアも納得したようだ。

 

「では、まずはそれぞれの武装を一つずつ使ってみてください。その上で一番使いやすい武装を軸に戦術を組み立てましょう」

 

「はい、わかりました」

 

それから智鶴は装備の一つ一つを使い、雲雀に挑んでいった。

当然ながら雲雀はかなり手加減して相手を務めている。

ちなみに一通りの装備を使い終わった頃の結論は…

 

「次元刀、でしたか? それを軸にした戦い方をすべきですね」

 

「日本刀を使ってるみたいな感覚と同じでしたから、比較的使いやすかったです」

 

そう言って次元刀を軽く振るいながら感触を確かめる。

ちょっと待て…日本刀を使う機会なんて………確かに何度か手にしてた気もする…。

 

「あとは連結機構を自由に使いこなせれば問題はないでしょう」

 

「う~ん…何を参考にしたらいいのかしら?」

 

連結機構…つまり、刀の刀身を延長して斬りつけるイメージをどうやって体得しようか智鶴は唸っていた。

 

「それもありますが、補助に回すテイルユニットやフライヤーの操作技術も向上させるべきです。アレは死角を補うためにも使えますから…」

 

追加メニューとしてフライヤーリンクシステムの操作技術の向上も並行して行うことになった。

 

「強くなる道のりは険しいですね…」

 

「当たり前です」

 

智鶴の言葉に雲雀は厳しい一言を漏らす。

 

「それでも…しぃ君の力になるなら…」

 

これも愛する忍のため、智鶴はその刃を磨くことを決意する。

 

 

 

別の場所では…

 

「こ、こうか?」

 

クリスがシアと緋鞠に指導してもらって霊力の出力方法を修得しようとしていた。

 

「はい、そのまま意識を手の平に集中してください」

 

「要は感覚の問題よ。一回でもコツを掴めばあとは楽なもんよ」

 

的確で丁寧な指導をするシアに対して抽象的な表現とどこか大雑把な緋鞠。

使い手によってここまで異なるか。

 

「………」

 

この訓練を始めてから数日ともなると、集中力も高まり次第にクリスの手に淡い光が集まり出した。

 

「(手が温かい…これが、霊力ってやつなのか…?)」

 

それを知覚した瞬間…

 

パァァ…

 

クリスの手の平に霊力の球体が出現していた。

 

「やりましたね、クリスさん」

 

「ま、素人にしては上々なんじゃない?」

 

それぞれ反応は異なるが、クリスに賛辞を送っていた。

 

「これが…忍達が使ってる力の一端…」

 

改めて駒を通して流れ込む霊力を感じていた。

 

「霊力は主に霊体や実体を持たない存在に対して有効です。また、霊力には少なからず浄化の力も備わってます」

 

「それ以外となるとあんまり効果は薄い力だけどね。だから"攻め"よりも"守り"に使うのが通例ね」

 

2人は霊力の特性を改めてクリスに教える。

 

「守るのはあんまり得意じゃねぇんだよ」

 

それを聞いてクリスはそう答えていた。

イチイバルによる広域殲滅戦を得意とするクリスに今更結界を使う気はないようだ。

 

「でも、結界術は修得しておいて損はないと思いますけど…」

 

「そうね。あったに越したことはないもの」

 

「………わぁったよ。覚えりゃいいんだろ、覚えりゃ…」

 

シアと緋鞠の言葉もあり、追加メニューとして今度は結界術を修得することになった。

 

「(忍の奴、厄介なもんを流しやがって……まぁ、結界術ってのを覚えて驚かせてやるか)」

 

ちょっとした意気込みを抱き、クリスはシアと緋鞠から結界術を教わるのだった。

 

 

 

他の場所では…

 

「むぅ…」

 

エルメスは萌莉と共に自分の属性探しをしていた。

 

「ど、どうですか…?」

 

魔力石で作った属性パネルを手に萌莉がエルメスに尋ねる。

エルメスの一族は自らの先天属性を見つけ出し、それを自分独自の魔術体系へと昇華させることで戦闘技能を修得するものである。

 

そのため、自らの先天属性探しは基本中の基本。

それを怠ればオリジナルドラゴニック式の完成は遠のいてしまうのと同義である。

 

「天空属性はわかっているんですが…他の属性がよくわからないんですよね…」

 

エルメスの母であるシルファーは『閃光』、『天空』、『幻影』の三つを合わせ持つ近接系に特化したドラゴニック式になっている。

 

「そ、そう、ですか…」

 

エルメスの問題なのだが、萌莉もつられて落ち込んでしまう。

 

『きゅ!』

 

そんな2人を励まそうと萌莉の召喚獣達が2人の周りを走り回ったりする。

 

「あ、ありがとうございます。励ましてくれてるんですね?」

 

『きゅ!』

 

同じ龍種故か、エルメスはファーストが何を言ってるのか何となくわかるらしい。

 

「みんな、も…ありがと…」

 

そう言って萌莉はサードとフィフスの頭を撫でる。

 

「(先天属性…お母様はどうやって見つけたのかしら…?)」

 

そんな考えを馳せながら徐に属性パネルの一枚を持ち上げる。

 

「そういえば、龍気だとどんな反応を示すのかしら…?」

 

ちょっとした疑問のつもりで、パネルに龍気を流してみる。

 

すると…

 

バチッ!

 

「ふぇ…?」

 

何故か、パネルがエルメスの手から独りでに弾かれてしまった。

 

「い、今、のは…?」

 

それを見ていた萌莉も驚いているようだ。

 

「先天属性…それは何も魔力に限ったことではない…?」

 

そう気づいた時、エルメスは他のパネルにも龍気を流してみた。

 

バチッ!

キィンッ!

 

弾かれるパネルもあれば、同調するような反応を示すパネルが表れ始めた。

 

「これなら…!」

 

先天属性を見つける糸口を掴み、エルメスは一気に自らの先天属性を見極めていった。

その結果…。

 

「これが…私の先天属性…」

 

手元に同調したパネルが揃う。

 

『天空』、『疾風』、『鉄壁』、『森緑』、『封印』の五つ。

 

それがエルメスの先天属性だった。

 

「や、やりましたね…!」

 

「ありがとうございます、萌莉さん! でも、まだまだこれからです。先天属性が判明してもそれを独自の魔術体系に昇華しなければなりませんから…」

 

それでも大きな一歩を踏み出したことに変わりはなく、エルメスのドラゴニック式が完成するのも時間の問題となった。

 

 

 

さらに別の場所では…

 

「…………」

 

暗七が座禅を組んで瞑想していた。

 

「(ドクターから移植された鵺の力…それをもう少し使いこなすには忍みたいに自分の深層世界に入る必要性がある)」

 

暗七が深層世界に入る中、その周りをフェイトと吹雪の2人が結界を張って待機していた。

 

「これで何回目かな?」

 

「数えるのもバカらしいわね…」

 

ここまで何度か深層世界に入って鵺と邂逅した暗七だが、その度に肉体は暴走に近い状態に陥っていた。

 

「ふぅ…相手する身にもなってほしいわね」

 

それを嬉々として相手しているのはカーネリアで、暴走した暗七の体を気絶させて意識だけを呼び戻すことを何度も行っている。

 

「きっと、あの娘が納得するまで終わらないわよ」

 

そう言いながらカーネリアは汚れた服の埃を払い、髪をサラリと梳かす。

 

ドクンッ!

 

そうこうしてる内に暗七の体が跳ねる。

 

「さてはて、今度はどう痛めつけましょうかね」

 

バキ、ボキ…

 

そう言ってカーネリアは拳を鳴らしている。

 

「あまり暗七さんの負担にならないように…」

 

「向こうがそれを望めばね」

 

フェイトの心配をカーネリアは一蹴する。

 

『シャアア…!!』

 

暗七の四肢が変異し、背中から翼も生えて一匹の獣と化す。

 

「さぁ、始めましょうか、妖怪さん。あなたの本体があなたを屈伏させるまで…!!」

 

残忍な笑みを浮かべてカーネリアが結界内に飛翔する。

 

 

 

そして、暗七の深層世界では…

 

「ナイトメア・クライシス!」

 

暗黒系魔法の波動を放つ。

 

『しつけぇんだよ!!』

 

巨躯の獣が腕の一振りで暗七の魔法を一蹴していた。

 

「ちっ!」

 

『いい加減、俺にテメェの体を明け渡しな!』

 

そう叫びながら巨躯の獣は暗七へと攻撃を仕掛ける。

 

「アンタみたいな下品の塊に明け渡すほど安くはないの」

 

そう言って暗七は右腕を異形の腕にする。

 

『その力だって俺のモノだ! だったら…』

 

「うるさいわね…もう聞き飽きたわ」

 

異形の腕を伸ばして巨躯の獣の首を掴む。

 

「私はアンタ、アンタは私…正直な話、嫌だけど…アンタが私の中に入って来た日からそういうことなのよね」

 

『ハッ! なんだ、そりゃ?』

 

「この数日…ずっと考えてたわ。アンタと戦いながらもね…」

 

『だからどうした? 俺はテメェみたいにひねくれちゃいねぇよ!』

 

「アンタは理性が薄いだけよ。でも、これならどうかしら?」

 

暗七の足元から魔法陣が伸び、自分と巨躯の獣を覆う。

 

「グラヴィタス・フォール」

 

ブゥンッ!!!

 

次第に超重力が暗七と獣を押し潰し始める。

 

『テメェ!? 正気か!?』

 

「何を慌てる必要があるの? 一緒に喰らいなさい!」

 

『このクソアマぁぁぁ!!』

 

ガガガガガ!!!

 

互いにダメージを負っていく。

 

『グゥゥ…!?!?』

 

「アンタは私の一部よ。だから力を貸しなさい!」

 

『調子に乗るなよ! 力を得るってことはテメェは俺に近くなるってことだ! その内、テメェの肉体を奪ってやるからな!!』

 

巨躯の獣の遠吠えを聞きながら…

 

「そうしたければそうしなさい。但し、怖い怖い狼の相手がアンタに出来るなら、ね…」

 

暗七は不思議と笑みを零していた。

そうして暗七の意識はブラックアウトした。

 

 

 

次に暗七が目覚めた時…

 

「…………」

 

「まったく…疲れるわね」

 

カーネリアの憎まれ口を地面に突っ伏した状態で聞いていた。

互いにボロボロの姿をしていたが…。

 

「アンタ…また盛大にやってくれたわね?」

 

「あなたが遅いのが悪いのよ?」

 

「ちっ…」

 

「坊やがなんて言うかしらね?」

 

「うるさいわよ」

 

そんな口喧嘩をしていると…

 

「2人共、大丈夫ですか?!」

 

フェイトが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「「このくらい平気よ」」

 

口を揃えて同じことを言う暗七とカーネリア。

 

「で、でも…」

 

「どうせ聞きゃしないわよ…」

 

呆れた様子の吹雪も合流する。

 

「それで?」

 

「鵺に近くなったわ。これで前よりも力が振るえる」

 

吹雪の問いに暗七は短く答えた。

しかし、そのリスクとして暗七は常に鵺に肉体の主導権を狙われることになるが…。

 

「忍もいるし、問題ないわよ」

 

暗七はそう微笑んで呟いていた。

 

 

 

こうして、紅神眷属はそれぞれの形でレベルアップを果たしていくのであった。

次に忍と再会する時、彼女達はどう変わっているのだろうか…?

 

そして、忍は忍で目の前の問題をどう解決するのか?

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