曹操によって壊滅的なダメージを受けたグレモリー眷属、ヴァーリチーム、忍達はホテルの中間地点である30階に移動し、その階層を丸々ルフェイの強固な結界で何重にも覆い、陣地として使っていた。
特にダメージの大きかった忍とヴァーリはルフェイに解呪の術を掛けられていたが、それでもサマエルの毒は強力で、ちょっとやそっとじゃ解けない代物だった。
それでも最善の解呪処置をしたので、あとは本人達から呪いが抜けるのを待つしかない。
その間、忍もヴァーリも呪いの苦痛に耐えなければならないらしいが…。
「不甲斐ないものだな…」
「お互いにね」
そんなヴァーリと忍は同じ部屋に放り込まれていた。
同じ呪いを受けた者同士、少し話しでもしてろとアザゼルに言われていた。
「紅神 忍。兵藤 一誠の成長と共に君の名も聞いていた。最初に会った頃は考えてもいなかったが、君の異常な成長と力の入手を聞き、いずれは戦いとも思っていたんだが…」
「よしてくれ…歴代最強の白龍皇が相手とか…俺もしんどいぞ」
「しかし、太古の龍を喰らったのだろう?」
「あの時は妙な衝動に駆られただけだ。あの後、気分最悪でロキ戦に挑んだし…」
そこでヴァーリは…
「そういえば、あの時ははぐらかされたが、その時のことを聞かせてもらおうか?」
思い出したように尋ねる。
「あぁ、そういやそんなことも言ったな。手短に話すとだな…」
忍は復元率50%にクローニングされた龍騎士との夜の対決を話していた。
「………最後の方はさっきも言ったが、妙な衝動に駆られてな。そのまま、龍騎士を捕食したんだ。文字通り…この口でな」
そう言って自分の口を指さす。
「なるほど。異世界に存在した龍の血を継ぎし戦士か。絶滅していなければ戦ってみたいところだったが…」
「言うと思ったよ。でも、そのせいでこうして呪いに犯されてる訳だが…」
「力の代償と言うものだ」
ヴァーリはそう言ってのける。
「そういえば、紅牙とは上手くいっているのか?」
「多少棘があるけど、概ね良好かな? 未来の兄貴殿は悪魔嫌いもそこそこ治ってきたし、今ならアンタとも良い話し相手になるんじゃないか?」
「ふっ…それは少し楽しみだ。あいつともまた戦いとも思っていたからな」
それを聞き…
「戦いばかりだな…」
忍は呆れたように言う。
「それしか興味が無いのでね」
「そうかい…」
そこまで言うと…
「そういう君はどうなんだ? 戦いは嫌いか?」
「嫌い……じゃない、のかもな。俺に流れる血がそうさせるのか知らないが…でも、俺は守りたい人達がいるから戦えるんだ。今は離れ離れでも…。そして、巻き込んでしまったあの4人も無事に帰さないとならない。守るためなら、俺はこの身を犠牲に出来るよ」
「ふむ、よくわからないな」
ヴァーリは忍の言葉を理解出来ていないようだった。
「仲間想いの天龍なのに、そういうところはイッセー君に似て不器用なのな」
「俺と兵藤 一誠が似ている?」
その言葉にヴァーリはキョトンとする。
「あぁ、似てるよ。力量や考え方は違うのに、そういう不器用なところはそっくりだと俺は思うよ」
「俺が…?」
忍に言われてヴァーリは唸るように考え込んでしまった。
「いつかアンタにも大切な人が出来ればわかるさ…大切な人を守るために出る力ってもんが…」
「むぅ…」
ヴァーリには珍しく難しい顔で悩んでいた。
………
……
…
忍とヴァーリがそのような会話をしてる時、別室では…
「忍のこと?」
先の戦闘で無事だった人達が集まって脱出計画を練ろうとしていたが…
「うん、シノブのこと。教えてよ」
その中にはラト達の姿もあり、イッセー達に忍の事を尋ねていた。
「私達は紅神さんに会って日も浅いんです。でも、紅神さんが悪い人だとは思えません。でも…」
ティラミスがそう言うと…
「犯罪者の親族を全面的に信用なんて出来ませんから」
ラピスが気丈にもそう言っていた。
「犯罪者の親族って…忍はな!」
その物言いが気に入らなかったのか、イッセーがラピスに何か言おうとしたが…
「落ち着け、イッセー。忍も忍で中途半端な話をしちまったんだろうよ」
アザゼルがイッセーを宥めながらそう言う。
「……中途半端?」
アザゼルの言葉にシルフィーが首を傾げる。
「そ、お前さんらはあいつのことでどこまで知ってる?」
アザゼルに聞かれ…
「えっと、確か…シノブ曰く『自分は怪物と魔獣の混血』で、他種族は確かに存在しているって」
「魔界で辺境伯にさせられたとか…」
「邪狼の甥」
「……たくさんの業を背負って生きてきたとか…」
ラト、ティラミス、ラピス、シルフィーの順に忍が話してくれた内容を掻い摘んで言っていた。
「説明下手過ぎだな、おい…」
それを聞いてアザゼルは別室で寝ている忍に呆れ果てていた。
「時間もないが、手っ取り早く説明してやるよ…」
そうして、アザゼルは語り出す。
「まず…あいつには両親がいない」
「「「「え…?」」」」
いきなりのことに4人は驚く。
「正確には探してる最中だそうだ。あいつは小さい頃にある家に預けられた」
「そんな…」
ティラミスは口元を手で押さえる。
「ここの兵藤 一誠の死に際に際したことを切っ掛けにあいつの人生は一変した」
「まるで俺があいつの人生を狂わせたような言い方はやめてくださいよ…」
アザゼルの言葉にイッセーがツッコミを入れる。
「似たようなもんだろ? とにかく、あいつは変わり始めた。俺も最初の頃までは詳しくは知らないが…」
アザゼルが本格的に動き出したのは三大勢力の協力態勢を取り付ける会議があってからである。
それ以前の忍にはネクサスの件もあって注目はしていたようだが…。
「あいつの出自がわかったのは氷に覆われた次元世界でだ。あいつは女系の家の出でありながら男として生を受けた。実際、その世界では初めてのことだったらしくてな。そこからどういう経緯かは知らないが、忍はさっき言った家に預けられ、両親がいないままに育っていた」
「あの人に、そんな過去が…」
「人間誰しも多かれ少なかれ何か背負ってるもんさ」
ラピスが意外そうに言うのでアザゼルはそう返していた。
「それからあいつはこの冥界…正確にはこの疑似空間の外にある本物の冥界で『眷属の駒』というものを授かった。それとあある種族との橋渡しとして辺境伯の地位に就いたりもした。本格的な権限はまだないがな…」
「……それは初耳」
「あたしとティラちゃんは転移前に聞いたけどね…」
シルフィーの反応にラトはそう漏らす。
「眷属の駒については脱出後の落ち着いた時間に話すが、あいつの眷属集めの方針は『自分の手に届く範囲で守りたい奴等を守りたい』って理由だったかな?」
「忍は"全てを守りたいとは思わない。でも、自分の手の届く範囲で救える命は救いたい"、って言ってました」
アザゼルの説明にイッセーが補足する。
「そうか。それはあいつの生き様みたいなもんだな」
イッセーの補足にアザゼルは軽く頷く。
「あいつは…ある事件の最中に伯父である狼夜…お前さんらには"邪狼"と言った方が良いか? そいつと生死を賭けた戦いを繰り広げた」
「あ、その話は聞いた」
「……確か、最後は曖昧だったけど、殺した実感はあるって言ってた」
「右眼も…その、伯父さんのモノだったと…」
「あと、ドライバーとかいうデバイスも」
それを聞いて…
「その辺の話はしっかりしてんのな。ま、手間が省けていいが…」
アザゼルは苦笑する。
「それであいつは紆余曲折を経てまた別次元に渡ることになる。その時は記憶も失ってたらしくてな。その次元で右眼も移植されたらしい」
「そう、だったんですか…」
ティラミスがそう漏らす。
「あいつは色々と命のやり取りを経験した。その結果、今のあいつに繋がる。結果的に巻き込んじまったお前さんらのこともきっと悔やんでるはずさ」
アザゼルからの話を聞いた4人は…
「……だから、先輩は忘れて平穏にって…」
「だからって…無理だよ。だってあたし達はあの時、確かにシノブに助けられたんだもん…」
「そんな過去を持っている人なのに…私達は何も知らなかった…ただ、上辺だけ見て可哀想だと思って…」
「…犯罪者の親族だと決めつけて何も知ろうとしなかった…」
それぞれ忍に対して色々と考えることがあるようだった。
「ま、お前さんらはまだ若いんだから修正も効くだろ。さてと、だいぶ脱線したが、こっからの脱出作戦を立てるぞ。イッセー、お前はそこの小娘共を忍のとこに連れてってやんな」
「まぁ、いいですけど…」
こうしてイッセーは4人を連れて部屋を後にした。
忍の様子を見るついでにヴァーリの様子や黒歌達の様子も見たかったようだ。
忍とヴァーリのいる部屋の前で…
「忍は…あんまり自分の事を話す奴じゃないんだよ。ずっと独りで抱え込んじまう。そういう奴なんだ…。あいつの友人として、これだけは言える。あいつは優しい奴だ。だから、アンタらもそんな忍をちゃんと見てほしい。犯罪者の親族なんかじゃなくて…あいつ自身のことを…」
「「「「……………」」」」
そんなイッセーの言葉に4人は無言だった。
「じゃ、俺はちょっと寄るとこがあるから…後で様子見に来るわ」
そう言ってイッセーは別室の様子を見に行ってしまった。
「……入らないんですか?」
ラピスが気まずそうに言う。
「だって…一応は病人だし…いきなり大勢で押しかけても…」
ラトにしては消極的な言葉だった。
「し、失礼します」
先陣としてティラミスがそう言って扉を開けて部屋に入る。
「ティラミス? それにラト達も?」
ヴァーリと何気ない会話をしていた忍がティラミス達の登場に驚く。
「どうしたんだ? そんな難しい表情をして…」
「あ、あのさ…シノブ…」
ラトが何か言おうとするが言葉が出てこないようだった。
すると…
「……先輩、すみません…」
「申し訳ありません」
シルフィーとラピスの2人が忍に謝っていた。
「急にどうした?」
いきなり謝られて忍も困惑する。
「何も知らないのに、勝手に犯罪者の親族だと決めつけて話を聞こうともしないで…」
「……それで勝手に避けて、お姉ちゃん達とも喧嘩して…」
「フィー…」
そんな2人の姿を見てラトも少し考えてから…
「ごめん、シノブ。簡単に共犯者になるとか言って…あたし達、何もわかってなかったのに」
「ごめんなさい…」
ラトとティラミスも忍に謝っていた。
「ラトとティラミスまで…」
「さっき、アザゼルって人から色々と聞いたよ。シノブがどういう人なのか…」
「…そうか。それで急に……謝るのは俺の方なのにな…」
アザゼルやイッセーの言う通り、忍は4人を巻き込んでしまったことを悔やんでいるようだった。
「シノブが気にすることじゃないでしょ!」
「……あの転移は、誰かの作為的なものだったはずです」
「だから、あなたが悔やむ必要はありません」
「そうですよ」
4人はそう言ってるが…
「そうは言ってもだな…」
忍の近くにいたせいでノヴァの転移魔法陣に巻き込んでしまったようなものだから忍としては気にしない訳にもいかなかった。
「そうやって独りで抱え込まないでよ!」
「っ…」
ラトの言葉に忍は言葉を詰まらせる。
「どんな人かは知らないけど…シノブの大切な人もきっとそう思ってるよ!」
「……正確には人達かもしれないけど…」
ラトに続くようにシルフィーが呟く。
「………そう、だな…」
しばらく考えてから忍もそう呟く。
「もう少し、あいつらに頼ってもいいんだよな…」
そう言ってから…
「だが、今は俺しかいないんだ。お前達は必ず俺がミッドに帰すから安心してくれ」
忍はラト達に約束をしていた。
「そうじゃなくて…あたし達のことも頼ってもいいんだよ?」
「何かお手伝いしますから…」
「……出来ることをやる」
「覚悟は出来てます」
そう言う4人の瞳には確かな決意が宿っていた。
「お前ら…」
それを見て少し困ったような表情になる忍だった。
ちなみに…
「やれやれ、騒がしいことだ」
ヴァーリは完全に蚊帳の外だったが…。
………
……
…
その後、動けるまでに回復したイッセー達を中心に脱出作戦が実行されようとしていた。
「忍、ホントに大丈夫か?」
「動けるなら動いた方が楽なんだよ。これでも眷属を預かる王なんでね」
ダブルフューラーの調子をチェックしながら忍はイッセーにそう答える。
「ヴァーリと似たようなことを…」
イッセーはさっきヴァーリと話した時と同じことを言う忍に呆れていた。
「後方からの支援だけだから平気だよ。それにその方がラト達も守りやすい」
そう呟く忍に…
「あの娘達を眷属にするのか?」
イッセーはそう尋ねていた。
「さてね。それは彼女達次第かな? 彼女達が俺と共に進みたいというなら…俺はその気持ちに応えたい。でも、本心では平穏に暮らしてほしいとこなんだけどね」
カシャッ
レフト・フューラーにマガジンを装填しながら忍はそう答えていた。
「イッセー、そろそろ時間だぞ」
「あ、はい!」
アザゼルに呼ばれ、イッセーは部屋から出ていく。
「忍、生きて帰ろうぜ!」
「無論だ」
イッセーの言葉にそう返しながら忍も部屋から出る。
「(必ず、生きて帰る…)」
そう、心の中で誓い…。
そして、作戦が開始された。
まずはイッセーが『龍牙の僧侶』形態で、屋上と二階ホールに設置された結界の維持装置を30階の位置から砲撃で死神共々吹き飛ばす。
その後、残る駐車場の装置と死神を屠れば脱出することが出来るという寸法だった。
また、この最初の砲撃に合わせてルフェイの転移魔法でゼノヴィアとイリナも脱出し、事の次第を天界や冥界に報告するという大事な任務を背負っていた。
この転移には数が限られているので、一般人であるはずのラト達は一緒に行けず、むしろ彼女達の強い要望で忍の側で一緒に戦うことになってしまった。
作戦の次の段階…第二のイッセーの砲撃後の掃討戦での配置は…
前衛…アザゼル、リアス、朱乃、木場、イッセー
後衛…ヴァーリ、黒歌、アーシア、小猫、レイヴェル、オーフィス、忍、ティラミス、ラト、シルフィー、ラピス
と、後衛組が多い配置となっている。
「流石に攻め手が少ないとそっちに割く戦力の方が多いか」
前線の状況を匂いで察知しながら忍が呟く。
「そのための俺達だ。紅神 忍、外すなよ」
「アンタもな、ヴァーリ・ルシファー」
互いに名前を呼び合うと、ヴァーリは魔力による一撃で多数を屠る攻撃を、忍は双銃による弾数で複数を撃ち抜くスタイルでそれぞれ空中を飛び交う死神を倒していた。
共にサマエルの呪いを受けてるとは思えないほどの貢献ぶりだが…。
一方で、前衛では…
「でやぁ!!」
ジークフリートが連れていた死神を相手にイッセーが一気呵成に攻めていた。
「ッ! 赤龍帝の相手は中級の死神だというのに…ここまでのものか!」
その光景にジークフリートは驚愕の表情をしていた。
「現赤龍帝は強敵との連戦と日々の鍛錬で確実にレベルアップしてるからな。このくらいの死神程度邪束になっても敵わねぇよ。俺みたいにな」
そんなイッセーの横にアザゼルが降り立ち、ジークフリートに言う。
すると…
《死神を舐めてもらっては困りますな》
空間に歪みが生じ、そこから装飾が施されたローブを身に纏い、道化師が被るような仮面を着け、ドス黒い色の刀身の鎌を手にした死神が現れた。
「お前は…!」
《お初にお目にかかります、堕天使の総督殿。私はハーデス様にお仕えする死神の1人…プルートと申します》
「伝説にも残る最上級死神…! ハーデスの骸骨ジジイめ、それほどまでに本気ってことか!!」
《さて、何の話やら…我々はテロリストの首領であるオーフィスと結託し、同盟勢力との連携を陰から崩そうとした。それは万死に値します。しかもそれを主導したのが協力態勢を一番に唱えていたアザゼル総督とは…》
「ちっ…そういう筋書きか! テメェら!!」
プルートの話を聞き、激昂した様子のアザゼル。
《さて、無駄話はここまでに…偽物ということになったオーフィスを頂きましょうか》
そう言ってプルートがフッと消えるようにいなくなった時…
ギィィィンッ!!
「そうはさせるか!」
万全ではないものの、再び人工神器の禁手を解放したアザゼルがプルートとの激闘を演じ始める。
「さてと…それじゃあ、こっちも始めようか?」
既に阿修羅状態の禁手になったジークフリートがイッセーに告げる。
「……………」
イッセーが構えを取っていると、そこへ…
「悪いけどイッセー君。彼は僕がやるよ」
木場がジークフリートに敵意を向けながらやって来た。
木場とジークフリートの対決は複数の魔剣を持つジークフリートが有利に最初は見えた。
しかし、木場は聖魔剣から聖剣に得物を変え、龍騎士団を生み出して対抗する。
その土壇場で自身の不得手を武器にジークフリートの隙を突き、創造系神器で創造が一番困難とされる龍殺しの力を宿した聖剣でジークフリートに確実なダメージを与えていた。
「くっ…」
「
「なら、これはどうかな? これでも君たちは避け切れるかい?」
一度態勢を立て直す意味でジークフリートはゲオルグに合図して大量の死神を呼び出し、物量で鎌を当てようと画策した。
「この物量は…!!」
流石に数を揃えられては少数のこちらが不利。
その時だった。
「せ、先生! 大変なことが起きてる!」
突然、イッセーがアザゼルに向かって叫んでいた。
「なんだ、バカ野郎! こっちは死神様と超絶バトル中だぞ! って、待てよ? この会話の流れ…!! まさか、アレか? アレなのか!!?」
プルートの鎌を掻い潜りながらアザゼルは興奮気味にイッセーに聞く。
「歴代の先輩達がリアスの乳を次の段階に進めようって言ってるんですけど…!」
それを聞き…
「よっしゃ、きたぁぁぁぁ!!! なら今すぐつつけ、揉め、触れ!! ふははははは!! うちのおっぱい夫婦が噂の
アザゼルは狂喜乱舞した。
ちなみに…
「……は?」
「お、おっぱ…!?////」
「何言ってんの、あの人…?」
「下品です」
事情を知らないシルフィー、ティラミス、ラト、ラピスの4人娘の反応はとても冷ややかだった。
「(まぁ、これが普通の反応だよな…)」
そんなことを思いつつ忍は援護射撃を継続していた。
そうして、イッセーはリアスの乳に龍気を譲渡し、新たな進化を果たすのだった。
そう…それは乳のサイズをダウンさせる代わりにイッセーの龍気を回復させるという…なんとも度し難い能力の発現であった。
その力もあり、イッセーはドラゴンブラスターを連射…彼にとって耐え難い犠牲と共に死神共を葬っていた。
その結果、残るはジークフリート、ゲオルグ、プルートの3名のみ。
しかし、ここで事態が大きく変わる。
この疑似空間に英雄派も感知しなかった乱入者が現れたのだ。
その名は『シャルバ・ベルゼブブ』。
旧魔王派のトップにして前ベルゼブブの子孫の登場である。
シャルバは英雄派の1人であり、『魔獣創造』の滅神具の使い手であるレオナルドを拉致していた。
そして、能力を無理矢理解放させ、超巨大なアンチモンスターを創り出したのだ。
それも複数体…。
さらにシャルバはそのアンチモンスター達を冥界に転移させて暴れさせようと目論んでいた。
それを阻止しようにも巨大な体躯を持つアンチモンスターに通常攻撃は蚊が刺した程度にしか効かなかった。
アンチモンスター達が転移した後、疑似空間も崩壊を始めていた。
ジークフリートとゲオルグはレオナルドを回収すると、そのまま撤退。
しかし、その直前…プルートの姿は既に消え去っていた。
だが、シャルバの暴走はそれに留まらなかった。
呪いに犯されたヴァーリを一方的に攻撃しつつ、力の不安定なオーフィスを捕らえたのだった。
オーフィスを協力者の手土産にするとか…。
さらにシャルバは呪いと称し、復讐の怨嗟を冥界の子供達にも加えようとしていた。
それを見聞きしたイッセーは…
「俺がオーフィスを救います。ついでにシャルバの野郎をぶっ飛ばします!!」
そう言って1人崩壊する疑似空間に残ろうとしたが…
「アクエリアス、頼むよ」
『マスターの御心のままに』
何が起きるかわからない以上、1人に出来なかった忍がその満身創痍な体で援護をするために転移魔法陣から抜け出していた。
その身に白銀の鎧を身に纏ってだが…。
「次元を漂流していた経験のあるエクセンシェダーデバイスなら問題なく援護できるはずだ」
「でも、お前…」
「嫌な予感がするんだ。頼む」
「わかった。でも手は貸さねぇからな?」
「わかってる」
言葉を短めに交わすと…
「イッセー!」
「必ず戻ります!」
最後にイッセーはリアスとの言葉を交わし、2人はシャルバを追っていったのだった。
………
……
…
「まさか、貴殿のような天龍の出来損ないと、偽りの魔王が遣わした犬風情に追撃されるとは…!!」
「誰が犬だ! 第一、俺は魔王に忠誠を誓った覚えはないぞ!」
シャルバの言葉に忍が激昂する。
「私を追撃する理由は何だ!? 貴殿らも真なる魔王を蔑ろにするつもりか!? それともオーフィスが目的か!?」
そう叫ぶシャルバを見て2人は思う。
「(こいつ…復讐にしか意識が向いてない?)」
「(血筋だの覇権だの…それしか見てないのか?)」
シャルバの言葉からは重みが感じられないでいた。
「そんな薄っぺらい理屈で冥界の子供達を殺そうってのか!?」
「薄っぺらいだと!? 真なる魔王に言う言葉がそれか!!」
「あぁ、今のアンタからは薄っぺらい復讐の匂いしかしない。そんな奴が…赤龍帝に勝てるとも思えないが…」
その言葉にシャルバは怒り狂う。
「貴殿らは何もわかっていない! 今の冥界に必要なのは真なる魔王の血統とその強大な力なのだよ!!」
「わかってねぇのはテメェの方だ! そんなもんで子供達を殺そうだなんてとんだお門違いだ! 今から俺がテメェをぶっ飛ばす!!」
そう叫んだ後…
「我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」
「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて…」
「「「汝を、真紅に光り輝く天道へ導こうッ!!」」」
『Cardinal Crimson Full Drive!!!』
新たな呪文と共にイッセーの鎧が赤から真紅へと変わりゆく。
「!? なんだ、その鎧は!? 紅…!! あの忌々しい紅髪の男を連想させる…!!」
「勝手に言ってろ!」
シャルバの言葉を蹴ってイッセーが飛び出す。
シャルバを相手にイッセーはほとんど一方的な攻勢を見せていた。
「(これほどまでに差が出るか…これが底辺から這い上がってきた人間と、自らを高みと決め込んで周りを見下してきた者の違いか…)」
その戦いとも言えぬ一方的な光景を見て忍はそう感じていた。
ところが…
「これならどうだぁぁぁ!!」
シャルバが突き出した魔法陣から一本の矢が飛び出した。
「(この匂い!?)イッセー君、それを受けるな!?」
そこから漂う匂いを察知し、忍が回避を促すが…
「え?」
時既に遅し…矢はイッセーの右腕を貫いていた。
「ッ!?!?!」
「フハハハッフハハッハハ!! その矢にはサマエルの血が塗り込んである! いくら貴殿が強かろうが、魔力の程度が低い貴殿ではヴァーリのように耐えられぬだろう!! もしもの時のためにハーデスからもらい受けたヴァーリ対策だったが…よもやゴミクズ同然の貴殿に使うことになろうとは…!!」
イッセーの動きが一瞬、鈍ったのを見てシャルバが高笑いしながらそう言い放った。
「やはり、サマエルの毒か!!(これじゃあ、何のために残ったんだか…!!)」
一度身に受けた匂いを忘れる訳なく、忍は嫌な予感が当たってしまったことと、それを防げなかったことを悔しく思っていた。
しかし…
「うぉぉりゃぁぁぁ!!」
イッセーは毒を受けてるにも関わらずシャルバに向かっていた。
「イッセー君!?」
「バカな!? サマエルの毒は確実に受けたはず!!? なのに、何故動ける!?」
その光景に忍もシャルバも驚いていた。
その後、イッセーは呪いを受けた身でシャルバを圧倒し、崩壊するホテルの屋上でオーフィスに助けを乞うシャルバを追い詰めた。
最後の悪足掻きとして逃げようとしたシャルバをクリムゾンブラスターで葬り去った。
そうしてイッセーはオーフィスを解放し、イッセーはオーフィスと言葉を交わしてオーフィスの初めての友達となった。
あとは脱出するのみ。
だが…
「…………」
「イッセー君! 意識をしっかり保て! 帰るんだろ!!」
『狼の言う通りだ! もうすぐアザゼル達が俺達を呼ぶための
オーフィスと忍に肩を借りてやっと歩けるような状態でイッセーは移動していた。
そんなイッセーを忍やドライグが必死に呼びかけていた。
「あ、ぁ……わぁ、って…よ…」
そう答えるイッセーだが、意識は朦朧としていてもはや限界に近かった。
「ドライグ。この者は呪いが全身に回ってる。限界」
それの現実をオーフィスが付きつける。
『わかっている! だが、こいつはいつだって立ち上がってきたんだ! そうだろう!?』
「そうだとも! いつでもイッセー君は立ってきた。今度も!!」
ドライグに応えるように忍も叫ぶ。
しかし、それでも…
「大好きだよ…リアス…………」
その言葉を最後にイッセーの体から意識と力が抜けていった。
「イッセー君? イッセー君!!」
忍の呼びかけに応じない。
「ドライグ。この者、もう…」
『言うな…』
「ドライグ、泣いてる?」
『…………あぁ…』
魂だけのドライグも悲しみに染まり…
「くっそぉぉぉぉぉッ!!!!」
忍の叫び声が崩壊する空間に木霊する。
その悲しみの慟哭が引き金となり…
ゴオオオオォォォォォォ!!!!
忍から五気の濁流が溢れ出ていた。
『なんだ、狼から溢れ出るこの波動は…!?』
その波動を感じ、ドライグが驚く。
「うわあああああああッ!!!!」
叫び続ける忍の眼はそれぞれ右は漆黒、左は白銀の色に染まり、さらに眼が光り輝いていた。
『暴走? いや、それとは違う。なんだ!?』
忍の様子が尋常じゃないと悟ったドライグは困惑するばかりだった。
すると…
「? なにか、干渉する?」
オーフィスが何かを感じ取っていた。
『なに…?』
オーフィスの言葉にドライグは周囲の様子を窺う。
バチッ!
バチッ!!
崩壊する空間の一部…忍から溢れ出る五気が衝突する上空…がさらに歪み…
『グオオオオ…ッ!!!』
その空間が歪んだ上空に一匹の白銀色に染まる鱗を持った東洋の龍を思わせるような巨躯のドラゴンの姿が映し出されていた。
『なんだ、あのドラゴンは…!?』
「我も知らない…ドラゴン…?」
ドライグもオーフィスもそのドラゴンが何者なのかわからないでいた。
『オオオオォォォォ…ッ!!!』
しかし、よく見ればそのドラゴンは深い傷をあちこちに負っており、綺麗なはずの白銀の鱗が血で汚れていて苦しんでいるようにも見えた。
死の間際…なのかもしれない。
すると…
『グオオオオォォォォ…ッ!!!』
そのドラゴンは何を思ったのか、次元の裂け目から頭部を無理矢理押し込むようにこちら側の空間に干渉したかと思えば…
「あああああああ…ッ!!!」
未だ絶叫を続ける忍の正面まで頭を伸ばしてくると…
『オオオオオオ…ッ!!!』
その巨大な口を大きく開き…
『ま、待て!! 貴様、その男を…!!』
ドライグが何かを察した直後…
バクンッ!!!
崩壊したホテルの瓦礫ごと忍を一飲みにしていた。
『狼!!?』
「喰われた…」
ドライグは驚き、オーフィスも目の前で起きたことを口にしていた。
ジ、ジジ…!!
バチバチッ!!!
忍から溢れた五気の衝突が止まったため、空間が元に戻ろうとしていた。
ズズズ…!
それを感知したドラゴンも頭を引っ込め始めた。
『待て! 貴様は何者だ!? 何故、狼を喰った!?』
何事もなく去ろうとするドラゴンにドライグが問い掛けるも…
「ドライグ…今はこっちが優先」
イッセーの体を抱えてオーフィスが空間に飛び立つ。
『オーフィス!?』
何を思ってオーフィスは崩壊する空間に飛んだのか…?
そして、忍を喰ったドラゴンの正体とは…?
………
……
…
~冥界~
中級悪魔の昇格試験センターの転移魔法陣フロアでは…
『この騒ぎだというのに、わざわざ呼び出されるとは…』
「そう言うな。これもイッセーのバカを呼び出すためだ」
元龍王のタンニーン、アザゼルの持つファーブニルの玉、呪いに耐えながらもその場で協力するヴァーリによってイッセー達を呼び出すための龍門を開こうとしていた。
「よし、これで繋がった!」
ファーブニルの玉が黄金、タンニーンの体が紫、ヴァーリの体が白という具合にそれぞれ光り輝くと、目の前に展開していた巨大な魔法陣から輝きが増してくる。
「(イッセー君…君の力が必要だ。だから、早く帰ってきてくれ!)」
木場もイッセーの帰還を信じて揺るがなかった。
そして…
パァンッ!!
魔法陣の光が勢いよく弾け、そこに召喚していた。
………紅に染まる兵士の駒、8個を…
………………………………
その光景に誰もがポカンとしていた。
ガンッ!!
「バカ、野郎が…ッ!!」
その事態に…いち早く気付いたアザゼルが床を殴りながら絞り出すような声を上げていた。
「シノブは? あいつと一緒だったシノブは!?」
イッセーの駒しか出てこなかった以上、一緒にいた忍の安否も気になり、ラトが声を荒げる。
「それは…」
イッセーが戻らなかった事態も含め、考えがいまいち纏まらないアザゼルは何を言おうか迷っていた。
イッセーと忍が戻らない理由。
それは限られている。
シャルバにやられた…とは考えにくかった。
呪いを受けているとは言え、それに耐えて残っている忍や真紅の鎧と化したイッセーがシャルバに負ける道理が無かった。
ならば、どうしてか?
不測の事態が起きたに違いない。
しかもその事態は2人が帰ってこず、イッセーは駒のみを帰し、忍に至っては痕跡すらも残っていないので、何が起こったのかわからない状況だった。
しかし、これだけは言えた。
イッセーの死と、忍の謎の消失…。
これによってグレモリー眷属、並びに紅神眷属は…。