魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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11.龍魂復活のヒーローズ
第六十三話『赤龍帝と狼の不在』


中級悪魔昇格の試験日から二日が経過した日の昼頃。

 

場所はグレモリー城。

そのフロアの一角に1人の男がいた。

 

「…………」

 

その男は木場 祐斗。

グレモリー眷属の騎士である。

 

『ご覧ください! 突如として現れた超巨大モンスターの進撃は止まる事なく続いております!』

 

フロアに備え付けられている大型テレビでは、トップニュースとして超巨大なアンチモンスターの進撃模様を報じていた。

 

シャルバ・ベルゼブブの外法によって生み出された『魔獣創造』の超巨大なアンチモンスターが冥界に出現後、各重要拠点及び都市部に進撃を開始していた。

そのアンチモンスター群の容貌は様々であり、二足歩行の人型がいれば、四足歩行の獣がいたりもし、さらに言えば各魔獣は合成獣『キメラ』によく似ており、様々な生物や魔獣の各部位を備えているのだ。

その上、超巨大なアンチモンスター群は進撃しながらも小型のアンチモンスターを独自に生み出しているのだ。

 

超巨大なアンチモンスターの数はざっと13体。

その中でも他の魔獣よりも一回り大きな巨体で人型の魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』、残り12体の魔獣は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』とそれぞれ呼称している。

そんな魔獣を相手に冥界の戦士達を始め、各勢力から堕天使の部隊、天界の『御使い』、ヴァルハラから戦乙女たるヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が悪魔と連携している状況だった。

 

しかし、問題は魔獣だけではない。

この混乱に乗じて各地で旧魔王派の残党がクーデターを頻発させているのだ。

さらに上級悪魔によって無理矢理悪魔に転生させられた神器所有者もその怨恨を晴らすべく各地で反旗を翻しているとか…。

 

そのため、現在冥界は深刻な危機に直面していると言っても過言ではなかった。

また、旧魔王派やハーデスに一杯食わされた形となった英雄派の動向もわかったものではないので、各神話体系の神仏や現魔王達も迂闊に動けない状況となっている。

 

不幸中の幸いというか、冥界の各地域の民衆の避難が最優先で行われており、その被害は最小限に留められていることだろうか。

 

「(イッセー君…紅神君…)」

 

木場が考え事をしていると…

 

「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王様方の眷属が出撃されるそうだぞ」

 

「ッ!?」

 

突然の声に木場はそちらを向くと、そこにはライザー・フェニックスの姿があった。

 

「兄貴の付き添いでな。ついでにリアスとレイヴェルの様子も見に来たんだが…やっぱり、状況が状況だけにな………察するぜ、木場 祐斗」

 

その言葉から木場はライザーがイッセーの死を知っているのだと気付いた。

 

先の戦い…この事件の発端である中級悪魔昇格の試験日での英雄派の襲撃と、シャルバの介入によってオーフィスが誘拐された。

それを助け出そうとしたイッセーと、それに同行した忍は元の世界で龍門を開いて彼らを呼び戻そうとした。

しかし、戻ってきたのはイッセーの転生に使用した兵士の駒8個のみであり、忍に関しては姿形もなかった。

つまり、グレモリー眷属はイッセーを、紅神眷属は王である忍をそれぞれ失っていたのだ。

 

特にイッセーの場合、龍門からサマエルの龍気らしき反応も微量に検知されていたため、魔力の扱いが不得手なイッセーではまずその毒に耐えられないだろうとアザゼルも断言していた。

シャルバが裏でハーデスと取引してサマエルの毒を入手し、それが何らかの形でイッセーに発揮したのだという見解に落ち着いてしまった。

そのため、イッセーは帰還出来ず、駒のみを帰したのではないかと…。

駒だけが帰る事例は過去にもあり、駒を主の元に帰すという強い意志を持った眷属がその現象を起こすと…。

その際、帰還した駒は二度と使用出来ず、その駒の持ち主も生きてはいないと聞かされていた。

現在は赤龍帝の魂の行方とオーフィスの行方を捜している状況だった。

前者は使い手が死ねば次の使い手にを探すために漂流するからそれを探っているが、どの機関の調査でもその進歩状況は芳しくない様子だった。

後者に関しては次元の狭間に留まっているのか、サマエルの毒を受けて滅びたか…とにかくシャルバがイッセーに討たれた以上、ハーデスの元に行った可能性は低いとされている。

 

次に忍だが…一切の手掛かりがない状態である。

サマエルの毒を受けた状態なのはヴァーリと同じだが、彼には魔力の他にも霊力や妖力があるため浄化の力と拮抗していたのではないかという仮説があった。

事実、忍は呪いを受けた状態でもイッセーの助けなしで次元の狭間に残っていた。

しかし、それ以上の情報が無かった。

イッセー達と一緒にいたのは間違いないのだろうが、その後に何が起きて龍門を通ってこなかったのか?

少なくとも駒と一緒に彼も帰還してもおかしくはなかったはずである。

そこからイッセーに関する話の詳細も聞けるはずであった。

だが、それが無かった。

考えられる最悪の事態は忍がイッセーと共にサマエルの毒を再び受けてしまい、その毒によって拮抗していた浄化の力が力負けてしまって肉体と魂が消滅してしまったというものである。

特に神器を持つ訳でもない忍の捜索は困難を極めていた。

 

という具合に今も赤龍帝と忍の捜索は続いていた。

 

「若手最強対異例の次元辺境伯のゲーム。わりと楽しみだったんだがな」

 

ライザーは独りごちるように呟いていた。

 

「それは…もう日取りが決まったんですか?」

 

ライザーの意外な一言に木場が尋ねる。

 

「中級悪魔への昇格合格が発表された後って聞いたぞ。だが、この状況だ…それも難しくなるだろう…」

 

ライザーは心底残念そうにしていた。

 

「僕達と紅神君達の試合、か…」

 

木場もこんな状況じゃなければ心から楽しみだと言いたかっただろう。

だが、両眷属の要…イッセーも忍も今はいない。

 

その後、木場はフェニックス家の長男でレーティングゲームのトップテンにも入ったことのあり、最上級悪魔への昇格も近いと噂される男性『ルヴァル・フェニックス』氏からフェニックスの涙を受け取っていた。

木場とも少し話をしてから、ルヴァル氏はライザーと共に戦場へと向かった。

ちなみにレイヴェルはしばらく学友である小猫と一緒にいるように言われており、同じ悲しみを持つ小猫と共にフロアで涙を流していた。

 

その次に現れたのは朱乃の父であるバラキエルだった。

木場は状況をバラキエルに説明しながら朱乃のいるゲストルームに案内していた。

その間に、レイヴェルと小猫に悲しむアーシアのフォローを頼んでいた。

 

「(自分が情けない…僕じゃイッセー君の代わりなんてとても…)」

 

自分の不甲斐なさを悔やみながら、木場はバラキエルを朱乃の元へと連れていき、しばらく親子水入らずにしていた。

 

フロアに戻る途中…

 

「よぉ、木場」

 

「匙君」

 

シトリー眷属の兵士、匙がいた。

 

「ちょいと会長の付き添いでな」

 

ソーナ会長もまたリアスに会いに来たのだろう。

匙はその付き添いらしい。

 

「そっか、ありがとう」

 

匙と共にフロアに戻った木場に…

 

「木場、俺も今回の一件に参加して戦うつもりだ。都市部の一般人を救う」

 

決意の宿った瞳で匙はそう言っていた。

 

「僕達もあとで必ず合流するよ」

 

それを聞き…

 

「リアス先輩達は…大丈夫なのか?」

 

「立ち上がってもらうさ。必ず…僕らは力ある悪魔なんだから…冥界の危機に立ち向かわないとダメなんだ…」

 

「そっか。そうだよな」

 

木場の言葉を聞いた後、匙は…

 

「兵藤を殺った奴はわかるか?」

 

笑みを浮かべてた表情から一変して怖い顔になる。

 

「わかるけど…もう、この世には存在しないよ。その者はきっとイッセー君が確実に屠ったからね」

 

絶対なる信頼と確信を持って木場はそう答えていた。

 

「そっか。相討ち……いや、負けるはずがねぇ! あいつは勝って死んだんだ…そうに決まってる!」

 

大粒の涙を流しながら匙も断言する。

 

「匙君…」

 

「俺の目標だったんだ、あいつは! あいつがいたからこそ俺はここまで頑張れた。同じ『兵士』のあいつがいたから厳しいトレーニングも耐えてこれた! あいつを殺した奴がいないなら、そいつが属してた『禍の団』を焼き尽くしてやる! ヴリトラの黒炎は死んでも消えない呪いの炎だ。たとえ刺し違えてでもそいつらの命を削り切ってやる…!!」

 

そう叫ぶ匙に…

 

「死んでは困りますよ、サジ」

 

ソーナ会長がフロアにやってくる。

 

「会長…」

 

「サジ、感情的になるのはわかりますが、あなたに死なれては困ります。やるなら生きて燃やしなさい」

 

「はいっ!」

 

ソーナ会長の言葉に匙は涙を拭いながら頷く。

 

「私達はこれにて失礼します。セラフォルー・レヴィアタン様から魔王領にある首都リリスの防衛、及び市民の避難誘導を仰せつかっているので…」

 

ソーナ会長は木場に視線を向けると、そう言っていた。

 

「部長にはお会い出来ましたか?」

 

「えぇ…でも、部屋に籠ったきりで、私が問い掛けても反応はありませんでした」

 

「そうですか…」

 

ソーナ会長の反応を見て木場も少し声のトーンが落ちる。

 

「ですが、こういう時にうってつけの相手を呼んでおきました」

 

「うってつけの相手、ですか?」

 

「えぇ」

 

薄い笑みを浮かべると、ソーナ会長は匙を連れて戦場へと向かってしまった。

 

 

 

一方、フロアのテレビでは…

 

『ぼく、怖くはない?』

 

レポーターの女性が子供に質問していた。

 

『こわくないよ! だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンがきてたおしてくれるもん!』

 

それに笑顔で答える子供。

 

『そうだよ! おっぱいドラゴンならやっつけてくれるよ!』

『おっぱい! おっぱい!』

『はやくきて、おっぱいドラゴン!』

 

その質問の答えを皮切りに次々と子供達の笑顔と声が映像に映る。

 

「っ!」

 

その映像を見て木場は必死にこみあげてくるものを抑えていた。

 

「冥界の子供達は俺達が思っている以上に強い」

 

木場がそうしていると、1人の男が現れた。

 

「っ!? あなたは!?」

 

「久しいな、木場祐斗。兵藤 一誠はとてつもないものを冥界の子供達に宿したようだな」

 

その男の名は『サイラオーグ・バアル』。

イッセーと激闘を繰り広げた好敵手の1人だ。

 

「リアスに会いに来た」

 

そう言ってサイラオーグは木場を連れてリアスの部屋の前まで足を運んでいた。

 

「入るぞ、リアス」

 

そして、リアスの部屋へと堂々と入っていく。

部屋を進むと、リアスは自分のベッドで体育座りしていて、目元は赤く腫れあがっていた。

 

「随分と情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

 

それを見てサイラオーグは一言そう漏らしていた。

 

「……サイラオーグ、何しに来たの?」

 

それに対してリアスは不機嫌な表情と口調で聞く。

 

「ソーナ・シトリーから連絡があってな。心配するな、プライベート回線だ。大王側にあの男がどのような状態になっているかは一切漏れてはいない」

 

それを聞いて木場も少しホッとしたようだった。

 

「…行くぞ、リアス。冥界の危機だ。強力な眷属を率いるお前が立たずしてどうする? 俺とお前は若手最有力として後続の手本となるべく戦場に赴かねばならない。それに今まで俺達を見守ってくれた上層部の方々…魔王様の恩に報いるまたとない機会ではないか」

 

そんなサイラオーグの説得に…

 

「………知らないわ」

 

リアスは耳を貸さなかった。

 

「自分の男が行方知れずというだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっと良い女だったはずだ」

 

それを聞き…

 

ぼすんっ!

 

「彼のいない世界なんて! イッセーのいない世界なんてどうでもいいわ! 彼は…あの人は…私にとって大切な人だった。その彼がいないまま、生きるなんて…!」

 

サイラオーグに枕を投げつけながらリアスは再び顔を落とそうとするが…

 

「あの男が…赤龍帝の兵藤 一誠が愛したお前がこの程度の女ではなかったはずだッ! 立て、立つんだ、リアス。あの男はどんな時でも立っていたぞ? この俺を真正面から殴り飛ばした男を、お前は誰よりもよく知っているはずだッ!!」

 

サイラオーグはそう大きく言い放っていた。

 

「それにだ…お前達は本当にあの男が死んだと思っているのか?」

 

「「っ?!」」

 

その一言を言われ、リアスも木場も言葉を失った。

 

「ふっ…それこそ滑稽だ。一つ聞いておこう。お前はあの男に抱かれたか?」

 

「いいえ…」

 

その問いの答えを聞き…

 

「ハハハハハハハ!!!」

 

サイラオーグは盛大に笑ってから強い眼差しをリアスに向けた。

 

「ならばあの男は死んではいまい。愛した女を…あいつを好いていた周りの女を置いて、あいつが死ぬわけがない! 兵藤 一誠は誰よりもお前を抱きたかったに違いない。それが果たされていないならなおさらだ!」

 

そう言ってからサイラオーグは踵を返し…

 

「先に行って戦場で待っているぞ。リアス、グレモリー眷属、必ず来い! あの男が守ろうとした冥界の子供達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』の仲間か!!」

 

リアスの部屋から出て行った。

 

イッセー生存の可能性。

サイラオーグに示された可能性を確信に変えるべく、木場はグレモリー城に現れたというある人物を訪ねていた。

その者は『初代孫悟空』。

ヴァーリの呪いを解くために来訪していたのだ。

その初代に木場は呪いに触れた上で、生き残る可能性を尋ねていた。

初代は肉体の崩壊はまず確実だと言った。

だが、その次…魂と直結した悪魔の駒の帰還の話に移る。

帰還したイッセーの駒からはサマエルの呪いは検知されなかった。

ならば、魂は次元の狭間のどこかでひょっこり漂っているのではないかと…。

 

その後、木場は前線に向かうグレイフィアからサーゼクスとアザゼルからのメモを受け取り、リアス達を連れてアジュカの元へと向かうように言われていた。

イッセーの駒を調べてもらい、僅かな可能性を拾い上げてくれるだろうと…。

そして、グレイフィアはこうも漏らしていた。

 

「私の義弟(おとうと)になる者がこの程度で死ぬなど許されない。早く生存の報を得てリアス達を奮い立たせなさい。力ある若手が冥界の危機に立ち上がらずして次世代を名乗るなどおこがましいことです。私は義妹(いもうと)と義弟がこの冥界を背負える程の逸材だと信じていますから」

 

優しくも厳しい…最強の女王の一言だった。

 

………

……

 

一方、人間界では…

 

「くそっ、やっぱダメだ!」

 

クリスが手の平から霊力を出そうとしているが、一向に発現する様子が無かった。

 

「こっちも、なんか出力が落ちた感じがするわ」

 

そう言って暗七も力の加減を確かめていた。

 

忍の不在と共に眷属達は忍から流れて得ていた力の出力が出来ないでいた。

まるで忍との繋がりが断たれてしまったかのように…。

 

「しぃ君…」

 

忍の行方不明の報はすぐに紅神眷属に知れ渡っていた。

なにせ、忍から流れていた力が急に消えたので、何事かとカーネリアがアザゼルに問い合わせたところ、すぐに白状したのだ。

 

それと同時に…

 

「「「「……………」」」」

 

先の件で一緒に転移させられてしまったティラミス達の身柄を一時的に明幸邸で預かることになっていた。

 

「お茶をどうぞ」

 

そんな4人にシアがお茶を出していた。

 

「ぁ、すみません…」

 

ティラミスがシアに頭を下げる。

 

「ったく…まさか、ミッドから冥界なんて場所に次元転移するなんて…アンタ達もとんだ災難ね」

 

縁側近くに立っていた朝陽が4人にそう言う。

 

「流星さん、その言い方だと忍君に非があるみたいですよ?」

 

その言い方に何か引っ掛かりを覚えたのか、フェイトが朝陽を咎めるような言葉を向ける。

 

「事実でしょうが…あいつに巻き込まれて転移させられたんだから…」

 

「それは…そうかもしれませんけど、もう少し言い方と言うものも…」

 

時空管理局所属の騎士と執務官の言い合いを見て…

 

「あ、あの…そこまで言わなくても…」

 

同じく時空管理局に所属するティラミスが堪らず止めに入る。

 

「アンタ自身の事でしょうに、甘いわね」

 

そんなティラミスの言葉に朝陽は少なからず呆れていた。

 

「す、すみません…」

 

相手が自分よりも階級も年齢も上だと思い、ティラミスも委縮してしまう。

 

「ともかく…坊やの不在はかなりの痛手よね」

 

「わたくし達にも…冥界の危機に立ち向かってほしいとのアザゼル様から連絡がありましたが…」

 

「今の状態で行ったとしても足手纏いになりかねないわよね…」

 

話題を変えようと珍しくカーネリアが発言し、それに続くようにエルメスと吹雪も意見を出す。

 

「まったく、困ったものです」

 

既に戦支度を済ました雲雀がそんなことを言う。

その隣には同じく戦支度を済ました緋鞠が立っていた。

 

「雲雀さん、それに緋鞠ちゃんも…」

 

それに気付き、智鶴が2人を見る。

 

「何のための訓練だったのか…こういう時に備えてあなたは眷属の能力把握、及び自分を高めてきたのでしょう?」

 

雲雀の言葉は厳しかった。

 

「それは…そうですけど…でも!」

 

「でも、ではありません。我々姉妹はあなた方のような狼の眷属ではありません。よって自らの意志で冥界の危機に馳せ参じるつもりです。冥界は私達の故郷でもあります故」

 

忍がいないからこそ、女王である智鶴が紅神眷属の代表として忍の分まで冥界の危機に向かうべきだと雲雀は言う。

 

「悪魔に手を貸す。昔なら考えなかったことですが、冥界の危機となれば話は別です。故郷を守るために戦う。それが我々冥族の誇りに繋がるのならば…」

 

そう言って雲雀は踵を返す。

 

「ま、父様も母様も出るっていうし、あたしだけ待ってるのも嫌だからね。それにこんなことで故郷がなくなるのも嫌だし…」

 

「行きますよ、緋鞠」

 

「あ、はい。姉様。じゃあ、生きてたらまた会いましょう」

 

緋鞠もそう言い残して雲雀の後をついていくのだった。

 

「(しぃ君…私はどうしたらいいの?)」

 

雲雀達の背中を見送りながら智鶴が苦悩していた。

 

「あたしも隊長から特務隊が冥界に行くようなことを言われてるし…相手が規格外な相手ならやらなきゃ仕方ないでしょ」

 

そう言うと朝陽も縁側から転移魔法陣を展開しようとしていた。

 

「あたしは眷属入りしたけど、勝手に動かせてもらうわ。戦場に来るなら早く決断することね。その判断の遅れがどれだけの被害をもたらすか…よく考えてみなさい」

 

そう言い残し、朝陽もまた消えてしまった。

 

「智鶴さん…」

 

心配そうにシアが智鶴を見る。

 

「…………」

 

しばらく考えた後…

 

「私は…私達は…今のしぃ君のいない紅神眷属がどこまで役に立つかわかりません…」

 

「「「……………」」」

 

冥界出身者達は智鶴を見る。

 

「ですが…私達もまた冥界に(ゆかり)のある一つの勢力なんです…」

 

「「「「「……………」」」」」

 

冥界出身者でない者も智鶴を見る。

 

「だから…私達紅神眷属は…冥界に赴こうと思います。何が出来るかわからないけど…しぃ君の…王の帰還を信じてやれるべきことをやろうと思います…!」

 

「「「「………」」」」

 

ティラミス達もそんな智鶴の言葉を聞いて頭を上げる。

 

「しぃ君との繋がりは消えたのかもしれない…でも、しぃ君がいなくなったなんて信じたくない…だから、必ず帰ってきてくれると信じて、私達は私達で出来ることをしましょう」

 

今この時…智鶴が女王として一皮剥けた瞬間かもしれない。

 

「だから、皆さん…私に力を貸してください。お願いします…!」

 

そう言って智鶴は他の眷属に頭を下げる。

 

「ったく、水臭ぇっての」

 

「はい。私はもう決めてましたから…」

 

「わたくしも…まだ未熟な身ですが、ご助力します」

 

「管轄外だけど…悪意ある人の件なら見逃せません…」

 

「ま、父親の勤め先がなくなっても困るしね」

 

「肩慣らしに都合がいいわ」

 

「うふふ…楽しくなりそうね」

 

その場にいたクリス、シア、エルメス、フェイト、吹雪、暗七、カーネリアの眷属達はやる気のようだ。

 

「あ、あの…!」

 

「あたし達にも手伝わせて!」

 

「……私も…」

 

「あの人にはまだ言いたいことが山ほどありますし…」

 

ティラミス達もまたそう言っていた。

 

 

 

ただ1人を除いては…

 

「…………」

 

1人、縁側に隠れるようにいる萌莉である。

彼女は…家族である召喚獣を守るために戦う心優しい騎士…。

いくらアンチモンスターと言えど魔物を倒すのに抵抗があるのだ。

それが足を引っ張り、智鶴の号令に応じられないでいた。

 

「(戦いは嫌い…でも、あの智鶴さんが…忍さんがいなくても、頑張ってるのに…私は…)」

 

そのことで1人、この環に入れない自分に耐えられずにいた。

 

「萌莉ちゃん…」

 

「萌莉さん…」

 

そのことをわかっているのか…智鶴と修行で一緒に行動していたエルメスが彼女を気に掛ける。

 

「私、に…もっと、勇気、が…あれば…一緒、に…行きたい…でも…」

 

そう言ってボロボロと涙を流す萌莉…。

 

『きゅぅ…』

 

泣いている萌莉をファースト達が慰める。

 

「無理をしないでいいの…萌莉さんは私達の帰りを待ってて…」

 

「そうですよ。気に病む必要はありません。人には得手不得手があるんですから…」

 

そう言って智鶴とエルメスも萌莉を慰める。

 

「智、鶴さん…エ、ルメス、さん……ぅ、ぁ…」

 

萌莉は1人静かに泣いていた。

 

 

 

その後、紅神眷属+αは萌莉を明幸邸に1人残してスコルピアのディメンションゲイトを用いてグレモリー城へと赴いていた。

それと入れ違いになるようにグレモリー眷属は地球にあるアジュカ・ベルゼブブの隠れ家の一つに向かっていた。

イッセー生存の可能性を見い出すためだ。

 

その代わり、紅神眷属もまた不完全な状態故にシトリー眷属と同じく首都リリスでの防衛、及び避難誘導に尽力することになった。

 

それぞれの要…イッセーと忍。

その生存を信じ、両眷属は動き出す。

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