魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

71 / 137
第六十五話『真龍と始龍』

グレモリー眷属がイッセーの生存の可能性を見い出していた頃…。

次元の狭間では…

 

『んぁ?』

 

赤い大地の上でイッセーが目を覚ましていた。

 

『起きたか。一時はどうなるかと冷や冷やしたぞ』

 

『ドライグ? あれ? 俺、どうして…? 体の感覚も変な気が…』

 

相棒の声を聞き、徐々に意識を戻していくと自らの体に違和感を覚えるイッセー。

試しにマスクを収納しようとも出来ない。

ならば、と鎧の手の部分だけを解除すると…

 

『ッ!? 無い!? 俺の手が無いんだけどぉぉぉ!!?』

 

そして、さっきから感じていた違和感の正体にも気づく。

 

『ま、まさか…これって全身に及んでるんじゃ…?』

 

『現在、お前は魂だけの状態だ。サマエルの毒を受けた影響で肉体が滅びたからな。その滅びかけた瞬間、お前の魂だけを抜き出し、鎧に定着させたのが今の状況だ』

 

そんなイッセーの疑問にドライグがそう答える。

 

『……え? 体が無い?』

 

その答えを受け…

 

『……なんてこった! これじゃあ、リアスとエッチなことが出来ないじゃないかぁぁぁッ!!!』

 

イッセーは盛大に叫んでいた。

 

『え? そ、それが感想なのか?』

 

そんなイッセーの叫びにドライグは間の抜けた返事をするので精一杯だった。

 

『俺にとっちゃ死活問題なんだよ!!』

 

ああだこうだとエロいことが出来ないと喚くイッセーだったが、すぐさまオーフィスのことを思い出す。

 

「えいえいえい」

 

周りを見てみると、オーフィスは赤い大地をペチペチ叩いていた。

 

『なにしてんだ、お前?』

 

「グレートレッド、倒す」

 

イッセーが尋ねてみると、オーフィスはそう答えていた。

 

『へ…?』

 

それを聞いて赤い大地…と思っていた場所を走り回ってみると、そこはグレートレッドの背中だった。

 

『お、俺…どうして、グレートレッドの背中にいんの?』

 

『やれやれ…俺の話を聞け。お前はシャルバ・ベルゼブブを倒した後、崩壊する空間の中で力尽きた。あのフィールドも崩壊した時だった。グレートレッドが偶然にも通りかかり、オーフィスがお前を連れてグレートレッドの背中に飛び移ったのだ。つまり、ここは次元の狭間だ。ちなみに、アレから数日経っている』

 

『マジか……ん?』

 

そこでイッセーはある事に気づく。

 

『そういや、忍はどうしたんだよ? あいつも一緒だったろ?』

 

忍の姿が見当たらないことを怪訝に思う。

 

『狼は、だな…』

 

それに対して何か言いづらそうなドライグだった。

 

『あ、そういや、先生達からの召喚は無かったのかよ?』

 

『それはあった。だが、お前の中にあった駒だけがあちらに帰還してな。特異な現象だった。悪魔の駒とは謎の多い代物だな』

 

『え゛!? あ、ホントだ!? 駒を感じられない…。あ、でも忍はそれで先に帰ったのかな?』

 

駒を感じられないイッセーは忍が先に帰ったものと勘違いするが…

 

「狼…喰われた…」

 

オーフィスがそう漏らす。

 

『は…?』

 

「謎のドラゴンにバクンって…一飲みにされた」

 

『え…ちょっ…?』

 

オーフィスが何を言ってるのかわからず、ドライグに助けを求めるが…

 

『うむ…お前が力尽きた後のことだ。突然、狼の力が奔流となって溢れ出してな。恐らくはお前を助けられなかったために心の中で何か弾けたんじゃないかと思うが…それが空間に亀裂を生み、そこから俺もオーフィスも知らないドラゴンの姿が見えてな。大きさはグレートレッドにも引けを取らなかったように思えるが、見る限り瀕死の状態だった。そして、そのドラゴンは頭だけをこちらに寄越すと、狼を一飲みにしたのだ。その後、狼とあのドラゴンがどうなったのかは俺にもわからん…』

 

ドライグの説明を受け…

 

『…………』

 

イッセーも信じられない、といった具合だった。

 

『お前達の巡り合わせを考慮すると、相棒はグレートレッドを、狼はあのドラゴンを呼び寄せたように思えてならんが……まったく、他者を引き寄せる己の力で危機を脱するとは、流石に読めんかった………狼の事は残念でならない』

 

ドライグはそう称していたが…

 

『いや! あいつならきっと生きてるさ! 俺だってこうして生きてんだ。あいつが死ぬなんて有り得ない!』

 

イッセーは忍の生存を信じていた。

 

『狼もまたサマエルの呪いを受けている以上、無事…というのも考えにくいが…』

 

『あいつには霊力があるだろ? きっと大丈夫だって』

 

『だといいんだが…』

 

イッセーはドライグにそう言った後…

 

『そういや、お前は元の世界に戻らなかったのか?』

 

オーフィスにそう尋ねる。

 

「元の世界…我にとってはここ」

 

『あ、言い間違えた。地球、もしくは冥界には戻らなかったのか?』

 

「ドライグが共に帰ろうと言った。だからここにいる。一緒に帰る」

 

『お前、やっぱり変な奴だよな。でも、悪い奴じゃねぇし…』

 

イッセーがオーフィスをそう称していた。

 

その後、イッセーは自らの魂が助かったのは歴代の残留思念達によって守られたからだとドライグに告げられ、その別れ際の言葉を貰ったのだが…。

 

『ポチっとポチっと、ずむずむいや~ん』

 

……………おっぱいドラゴンの歌の一節だった。

 

イッセーが軽い絶望感に打ちひしがれていると、ドライグから右奥を見るように言われる。

そこには繭…いや、培養カプセルがあった。

真龍の体の一部と龍神の力によってイッセーの肉体が新たな受肉を果たそうとしていた。

そう、反撃の準備は既に始まっていたのだ。

 

………

……

 

~???~

 

「……………」

 

その空間は静寂に支配されていた。

そして、空間の中央には空中に横たわる忍の姿があった。

 

「ん…ぅぅ…」

 

その空間で忍は目を覚ます。

 

「……ここは…何処だ?」

 

限りなく暗いが、その周りにはまるで星々の煌きのような光点が遠くまで広がっていた。

 

「俺は、何処にいる? ここは一体…」

 

空中で起き上がるような姿勢で忍は周囲を見回す。

 

『目覚めたか…五つの力を宿す者よ』

 

すると突如として何者かの声が忍の脳内に響く。

 

「ッ?! だ、誰だ!?」

 

その声の主を探すように忍は周囲を見回す。

 

『警戒する必要はない。我が命の時間はもはや風前の灯火だからな…』

 

そう語る声はどこか重みを感じさせるような…そんな口調と声音をしていた。

 

「命の時間が風前の灯火? どういうことだ?」

 

その言葉に疑問を抱いた忍は声の主に問う。

当然ながら"はい、そうですか"と警戒を解く気配もなかったが…。

 

『文字通りの意味だ。我は既に永き時を生きてきた。その命もまた我が眷属達の反抗によって尽きようとしているのだ』

 

「眷属達?」

 

怪訝に思って首を傾げる。

 

『我が世界の人の子は、我を始まりの龍…『始龍(しりゅう)』と呼び、我が7体いる眷属のことを『七源龍(しちげんりゅう)』と呼んでいた』

 

「異世界の、龍…!? それも複数体だと…!?」

 

龍騎士の存在も確認されている以上、他にもまだ知らぬ異世界のドラゴンや生物がいてもおかしくはなかったが、いきなり始龍と呼ばれる存在に合わせて7体もの未確認龍の名が出て忍も驚いていた。

 

「その始龍が…なんだって俺なんかを…? いや、そもそも此処は何処だ? 俺は確か…あの異空間でイッセー君が死ぬのを……!? そうだ、イッセー君は!? あれからどのくらい経ったんだ?!」

 

そこでようやく忍はイッセーが力尽きてからの記憶が曖昧なことに気付く。

 

『"イッセー"とは、赤き龍の衣を纏った者か? 次元が完全に閉じる直前、その者は小さき者によって共に異空間に飛び去ったのを見た。それ以上は我も知らぬ』

 

「オーフィスがイッセー君を…? どういうことだ? わからない…材料が少な過ぎる…」

 

いくら考えても答えが出ず、忍は次第に焦り始める。

 

『次に…そこは我の腹の中だ。お主の力が奔流となって流れていた故、我がいた次元と異空間が繋がった。そのままでは危険と思い、残った力の半分を使ってお主を一飲みにした』

 

「一飲…っ!? じゃあ、俺はアンタに喰われたのか!?」

 

『案ずる必要はない。もやは、我にお主を養分にするだけの力は残っておらん。それに我に食事などという概念は存在しない』

 

始龍の言葉に少しだけホッとするが…

 

『一飲みにしてから既に数日は経過している』

 

「なに?!」

 

すぐに取り乱す。

 

「イッセー君がいない以上、グレモリー眷属の皆も苦労しているはず…それに俺の不在によってうちの眷属も情緒不安定になる可能性が高い…早く戻らないと…!」

 

まだ心配な部分がある以上、忍は帰還のことを最優先で考えるものの…

 

『待て』

 

始龍が待ったを掛ける。

 

「なんだよ!?」

 

『我の最期の願いをお主に託したい』

 

「最期の願い?」

 

『うむ。先も言ったが、我の命は永くない』

 

「あぁ、そういえば……その割には余裕を感じられるけどな…」

 

始龍の言葉にそんな感想を漏らす。

 

『そんなことはない。残り半分だった力もそろそろ尽きる頃だ。そうすればお主を外界に吐き出すことも出来よう』

 

「つまり、次元の狭間にほっぽり出されるってことか」

 

『だが、お主の力なら問題あるまい』

 

「何故、そう言い切れる?」

 

その疑問に対して始龍は…

 

『お主の中から神格を感じる。我もまた元の世界では"神"に近しい存在だった故な…』

 

そう答えていた。

 

「(また、神か…)」

 

以前、グレモリー眷属対バアル眷属のゲーム観戦時、ハーデスに邂逅した時だった。

ハーデスは忍の中から僅かな神格を感じ取っていた。

そして、今話し掛けられている始龍にも神格があると言われていた。

これは偶然か?

それとも忍の先祖である古の狼に由来したことか?

 

「で、最期の願いってのは何だよ? 聞ける範囲で善処してやる」

 

先を急ぐ忍だったが、目の前で命が尽きるという存在を見捨てていける程の残忍さは持ち合わせていなかった。

 

『すまない。最期の願いというのは他でもない。我が眷属達のことだ』

 

「アンタに反抗したっていう?」

 

『うむ。眷属にも眷属の考えがあっての事だろう。だが、それでも…我にとっては我が子も同然の存在。それが何故あのような行動に出たのか知りたかったが…もはや我には時間もない。だからお主に託したいのだ。我が眷属達を見守るための…我が力を…』

 

「力…?」

 

『お主の中にある龍の力に我が力を注ぎ込もう。きっとお主の助けになってくれるだろう…』

 

それを聞き…

 

「待ってくれ! 龍騎士の力はまだ制御が出来てない未完成な力なんだ! それにアンタの力を注ぎ込んだりなんかしたら…!?」

 

忍は少し取り乱し気味に言う。

 

『安心しろ。お主に宿る凶暴な龍の力を我が力で制御できるようにしてやる』

 

「そんなことが…!?」

 

『伊達に神格を宿しているわけではない。しかし、それはあくまでも応急処置に過ぎない。お主が己の中の龍の力を御せるように成長せねばならない。それだけは忘れぬことだ』

 

始龍がそう言うと同時に黒く暗い世界が白くぼやけ始めてきた。

 

「ッ…!?」

 

『もう、時間のようだ』

 

それはつまり…始龍の命が尽きるということだ。

 

『お主の名は…?』

 

「紅神…忍…」

 

忍の名前を聞き…

 

『神の名を冠していたか。忍よ…我はこれよりお主の魂と共にある。我が眷属達…我が子らの事を頼むぞ』

 

その言葉を最後に世界は真っ白になりつつ…

 

パァァ…

 

星々のような光点が忍の中へと次々と収束していったのだった。

 

「ッ!? これが…始龍の…!」

 

その星々のような光点から感じる力をその身に受け、徐々に視界が白くなっていく。

 

「があああああっ!?」

 

あまりにも強い力に忍は絶叫を上げる。

 

………

……

 

「はっ?!」

 

忍はその場で飛び起きる。

 

『マスター、目が覚めましたか?』

 

「アクエリアス…? ってことはさっきのは、夢…?」

 

忍は周囲を見回しながら独り言ちに呟く。

 

『夢? 何のことでしょうか?』

 

「いや…俺は、一体…」

 

当惑する忍に…

 

『一からご説明しますと、イッセー殿が倒れた直後、マスターから強大な力が放出されました。その後、その力によって開かれた次元の裂け目から巨大な龍が現れましてマスターを一飲みに…アレから既に二日ほど経った頃です。しかし、どういう訳か龍はマスターを残して先程消失し、私がシェライズを最大稼働でマスターの身を守っている状況です』

 

アクエリアスはそう説明していた。

 

「始龍の言う通り、か。なら、さっきのは夢じゃなく…」

 

『マスター?』

 

忍の反応にアクエリアスも困惑気味だった。

 

「アクエリアス、今の座標はわかるか?」

 

『はっ、龍の腹の中にいたので正確な座標は算出中ですが…正直、次元の狭間は未知の領域です。正確な座標は期待できないかと…』

 

「そうか。なら自力で何とかするしかないか…」

 

そう呟く忍に…

 

『お言葉ですが…先も申し上げた通り、次元の狭間は我等エクセンシェダーデバイスでも未知の領域です。自力で何とかするにも私の装備ではマスターを守るくらいしか……スコルピアなら何とか出来たかもしれませんが…』

 

アクエリアスはそう申し開く。

その口調は少し悔しそうな感じでもあった。

 

「やるしかないだろ。今の俺の力を結集させて、次元の扉を開くしか…」

 

真狼、紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士。

現在、忍が持つ解放形態は五つ。

それらを使い、忍は次元の扉を開こうというのだ。

 

『龍騎士は未だ不安定な上に危険です。それにいくらマスターでも無謀です!』

 

始龍との邂逅を知らないアクエリアスはそう進言していた。

 

「無謀とわかっていても男にはやらなきゃならない時もあるもんさ」

 

そう言いつつ忍は真狼となる。

 

「全てはここから始まった。俺の原点…狼の血筋がもたらす奇跡。今、見せる!!」

 

ゴオオオォォォォォッ!!!!

 

内に眠りし力を今度は自身の意志で解放する。

 

「俺に本当に神格があるというのなら応えろ! 俺に宿りし神格よ! 俺の声に応えて奇跡を起こせ!!」

 

真狼状態の忍の体から霊力が溢れ出し、他の力は別々の形になりつつあった。

魔力と気はミックスされて紅蓮冥王と蒼雪冥王、妖力は吸血鬼、龍気は龍騎士へとそれぞれの解放形態を模ったような影となっていた。

 

「俺を皆の元へ! 愛する者達の待つ場所へ!!」

 

五つの力と四つの影が一瞬だけ忍に重なると陽炎のように新たな姿を見せたが、その姿はほんの一瞬であってすぐに消えてしまった。

 

『こ、この力は一体!? マスター…あなたは……』

 

忍の成長…いや、進化にアクエリアスは言葉を失っていた。

 

「我が速度は神速の領域! その神速を以って俺は次元の壁を越える!!」

 

まるで地面を駆けるが如く次元の狭間を疾駆する。

その様はまるで…黒き閃光を纏いし白銀の流星。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

キランッ!!

 

咆哮と共に忍は次元の壁を越えた。

 

 

 

忍とイッセー。

共に生存し、それぞれの方法での帰還を果たそうとしていた。

それに呼応すべく眷属や仲間達もまた己が行動を起こしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。