魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第六十六話『真紅と白銀の帰還』

冥府。

それは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

そこにサーゼクスとアザゼルが訪問していた。

その護衛には天界の切り札にして神滅具『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の保有者である御使いのジョーカー『デュリオ・ジェズアルド』が同伴していた。

その後衛には堕天使側の神滅具『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の保有者『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』も待機していた。

 

何故、この面子が冥府に赴いたか?

理由はハーデスへの牽制。

先の件で、ハーデスが裏で糸を引いているのは明白であり、今の冥界の混乱に乗じて何を仕掛けるかわからないからである。

そこで冥界は…魔王自らの訪問という手でハーデスを牽制したのである。

 

しかし、相手は神。

いくら魔王と言っても足止めには限界がある。

しかし、サーゼクスの発案とハーデスの言葉からサーゼクスはその真なる姿を顕現した。

圧倒的な滅びの魔力の塊…。

それは魔王…いや、悪魔とカテゴライズしてもいいのかも疑問に持ち上がる程であった。

 

さらにそれに合わせるかのように冥府に現れた一団があった。

ヴァーリチームである。

神を屠る事の出来る牙を持つフェンリルを有し、それぞれが一騎当千とも言える強者揃いであるヴァーリチームの乱入もあり、ハーデスは冥府から離れることが出来なくなってしまった。

これにてハーデスの横槍を心配する必要はなくなった。

サーゼクスとアザゼルはそんなハーデスに私的な言葉を言い放っていた。

 

「冥府の神ハーデスよ。我が妹リアスと義弟兵藤 一誠に向けた悪意…万死に値する。もしもこの場で立ち会うことになったら私は一切の手加減も躊躇も捨ててあなたを滅ぼし尽くす。その時は覚悟していただこう…!!」

 

「骸骨神様よぉ。俺も一応キレててよ。一言言わせてもらうぜ? 俺の教え子たちを泣かせてんじゃねぇよ!!」

 

残る問題は冥界を進撃中の巨獣軍団のみ。

若手悪魔達の本領を見せる時である。

 

………

……

 

アジュカ・ベルゼブブの隠れ家からグレモリー城に帰還したリアス達は首都に向かう準備をしていた。

その途中で天界から帰還したゼノヴィアとイリナ、北欧から帰還したロスヴァイセも合流を果たし、残るグレモリー眷属はイッセーとギャスパーのみとなった。

 

そんな折、首都リリスで活動中だったシトリー眷属の前に英雄派が現れたとの情報がもたらされてグレモリー眷属の出陣の狼煙となった。

 

 

 

シトリー眷属の救援に向かう途中でギャスパーとも合流を果たしたグレモリー眷属一行はシトリー眷属と戦闘を繰り広げている英雄派と接触した。

 

「ぐぅっ!?」

 

「こんなもんかよ? アガレスと良い勝負したって聞いてたから期待してたのによ」

 

そこには巨漢のヘラクレスが匙の喉元を掴みながらソーナ会長の背中を踏みつけているところであった。

 

「ふざけないで! 子供の乗ったバスを執拗に狙い続けたくせに! それを庇う為に会長も匙も実力を出せなかったのよ! そう仕向けたのはあなた達じゃない!!」

 

真羅副会長が珍しく激昂した様子で悔しそうにしていた。

 

「私はやめとけばって言ったわよ? ま、止めるつもりもなかったけどね!」

 

そんな物言いのジャンヌが聖剣を創り出して足場を破壊し、真羅副会長を押し返す。

 

「っ!?」

 

「さよなら、シトリーの女王さん」

 

ジャンヌの聖剣が真羅副会長に襲い掛かろうとした時…

 

ギィンッ!!

 

「いい加減にしてくれないかな」

 

木場がすぐさま動き、グラムを抜いてその聖剣を防いでいた。

 

「ッ?! それはグラム!? まさか、ジークフリートが!?」

 

「あぁ、僕達が倒した。そして、彼の魔剣達は僕を次の主に選んだらしい」

 

そう言う木場の腰には今引き抜いたグラムの他にジークフリートが所有していた4本の魔剣が帯刀されていた。

 

「はっ! こんな連中に負けたんならあいつもたかが知れたって訳だ」

 

ヘラクレスはジークフリートの敗北を嘲笑する。

 

「…英雄派の正規メンバーがやられ続きか。これ以上、グレモリー眷属に関わると根こそぎ全滅しかねないな」

 

そう言って霧と共に現れたのはゲオルグだった。

 

ゲオルグは匙の黒炎の解呪に手間取っていたらしい。

それを見て木場は右手にグラム、左手に聖魔剣を持つと交差するように斬撃を飛ばす。

その攻撃をヘラクレスとジャンヌは容易に回避し、ヘラクレスは回避と共に匙を放り投げる。

木場は龍騎士団を精製すると、ソーナ会長、真羅副会長、匙の3人を仲間の元へと運ぶように指示し、ゲオルグの炎の魔法をグラムで一刀両断にしていた。

 

この一連の流れを見て…

 

「強い…これほどまでの騎士を保有しているとは…侮りがたしグレモリー眷属」

 

ゲオルグは舌を巻いていた。

 

「僕は影でいいのさ。ヒーローはイッセー君だ。僕はリアス・グレモリーの剣でいい」

 

木場はそう言っていた。

 

匙とソーナ会長はアーシアに回復してもらっている。

その間にも動きはあった。

イリナは京都でのジャンヌ戦での雪辱を晴らすために量産型の聖魔剣を携えていた。

新生エクス・デュランダルを持つゼノヴィアと、魔人化を警戒して堕天使化した朱乃がそんなイリナに加勢していた。

ただ、その際にしたゼノヴィアの破壊一筋宣言を聞いて木場が心の中で泣いたのは言うまでもないが…。

エクス・デュランダルは7本のエクスカリバーの能力を合わせ持っているため、使い方次第では曹操と十分…いや、十二分に渡り合えるだろう性能を発揮させられるのだが…使い手が他の能力に目を向けないせいで宝の持ち腐れ状態なのかもしれない。

 

何故、ここに英雄派がいるのか?

それに対する答えは明快だった。

曹操が巨獣軍団がどこまで攻め込めるか見学しに来たからである。

それに同行していたゲオルグ達だったが、ヘラクレスが退屈しのぎでシトリー眷属乗っていたの子供達のバスを発見し、挑発した上で戦闘開始…という流れらしい。

 

さらにここでサイラオーグの登場である。

ヘラクレスの言動を見てサイラオーグは、ヘラクレスは赤龍帝よりも弱いと断じていた。

現にただの拳打だけでヘラクレスは地に膝を着けたが、彼がバカにしていたイッセーはそれを喰らっても立ち向かっていたのだから…。

禁手化となって爆砕ミサイルを撃ち出すヘラクレスだが、サイラオーグはそれを拳一つで弾いていた。

そんなサイラオーグに子供達からの声援が送られる。

最初はキョトンとしていたサイラオーグだったが、子供からも声援されない英雄の魂を継ぐ者に強烈な一撃を加えていた。

魔人化しようとするヘラクレスを見てサイラオーグはそれすらも超えると断言し、最後の最後でヘラクレスは英雄としての誇りを取り戻したようにも見えた。

 

その姿を見て…

 

『なぁ、木場。サイラオーグさんって不思議な人なんだよ。あの人と真正面から殴り合うなんざ正気の沙汰じゃねぇ…誰もが避けて通ると思う。けどさ…頭ではそう考えてても気づいたら殴っちまう俺がいるんだよ。そう言う人なんだよ、あの人は……殴り合いたくなる。そこに理屈なんて関係ねぇのかもな…』

 

木場はいつかイッセーの言っていた言葉を思い出していた。

 

 

 

ゲオルグがヘラクレスを倒したサイラオーグと、ジークフリートを倒したグレモリー眷属を一瞥してから小猫とギャスパーも情報通りではないと予測した。

しかし、グリゴリに赴いていたギャスパーは顔を青褪めるだけであった。

彼は言う。

 

「僕、強くなれなかったんです…!」

 

嗚咽を漏らしながらそう告白するギャスパーは泣き崩れる。

その告白にグレモリー眷属の誰もが驚いていた。

 

「亡き赤龍帝もこんな後輩の姿を見ては浮かばれないだろう」

 

それを見てゲオルグはそう漏らした。

 

それを聞いたギャスパーはイッセーの死を初めて知る。

しかし、それは誤りだとリアスが言おうとした時、それをサイラオーグが止めた。

何か切っ掛けがあれば化けるのではないかと…何かに目覚めるのではないかと、2人の王は考えたのだ。

 

だが、その結果…。

 

その区画を覆う程の暗黒が広がっていた。

それは暴走とも禁手とも違う、異質な力であった。

ギャスパーから広がった闇は周囲の空間を支配し、暗黒に染めていった。

 

「な、なんだ、これは…!?」

 

その闇は全てを喰らい尽していた。

ゲオルグの魔法も、霧も…何もかもを赤い眼で停止させながら侵食していったのだ。

 

「くっ!? ここは一時撤退を…!!」

 

転移用の魔法陣を展開した直後だった。

 

ボアアアッ!!

 

ゲオルグの体に黒い炎が蛇のように巻き付いていた。

 

「逃がすかよ…お前らは、俺のダチをやったんだ。ただで済む訳ねぇだろ!!」

 

アーシアの回復で意識を取り戻した匙がゲオルグに呪いの黒炎を巻き付けていたのだった。

 

呪いの黒炎と異質の闇によってゲオルグは倒されたのだった。

 

 

 

闇の空間から元の空間に戻った時、ギャスパーは道路に横たわりスヤスヤと寝息を立てていた。

ただでさえ悪魔を嫌う吸血鬼に対し、ギャスパーについて詳しく聞く必要性が出てきた。

それと同時に魔法使いにも気をつけるようにと復活したソーナ会長は言っていた。

 

と、そこに…

 

「あらら、ヘラクレスがやられちゃってる。ゲオルグも…? これは参ったわね…」

 

小さな男の子を小脇に抱えたジャンヌが戻ってきた。

 

「待て、ジャンヌ!」

 

そこに戦いを優勢に進めてたであろうゼノヴィア達も合流する。

 

「卑怯だな」

 

サイラオーグの言葉に…

 

「悪魔に言われたくないわね。でも、仕方ないじゃない。あなた達、強過ぎるわ。私が逃げの一手になるなんて……とりあえず、この子は曹操が来るまでの人質よ。OK?」

 

そう言ってからジャンヌは…

 

「それにしても…意外に静かね、ボク。怖くて声も出せないのかしら?」

 

人質にされている男の子の様子にそんな感想を漏らしていた。

 

男の子は言う。

夢の中でおっぱいドラゴンが約束したという。

もうすぐそっちに行くから泣かないようにと…。

その夢はその男の子だけではなく、他の子供達も見ていたという。

そして、男の子が彼を慕うあの曲を歌い始めると…奇跡は起きた。

 

首都上空に次元の亀裂が入り、そこから懐かしいオーラを木場達は感じ取っていた。

子供達の英雄(ヒーロー)の帰還である。

 

………

……

 

次元の狭間より現れたグレートレッド。

その背にはイッセーとオーフィスの姿があり、その眼前には超獣鬼(ジャバウォック)がいた。

超獣鬼を相手に立ち回っているのはサーゼクスのルシファー眷属。

ルシファー眷属の力を持ってしても未だ超獣鬼はダメージを受けた様子はなかった。

 

そうしている内に超獣鬼はグレートレッドを視認し、敵意を剥き出しにする。

それを『ガン付けられた』と認識したグレートレッドの怒りに触れ、イッセーに手を貸すから倒そうと持ち掛けていた。

イッセーは困惑する一方だったが、グレートレッドの体が神々しく光り輝くと同時にそれは起きた。

なんと、グレートレッドサイズにイッセーの体を再現した巨大化合体である。

 

『なんで俺、でっかくなってんのぉぉぉぉ!!?』

 

当然、イッセー自身もその巨大化に驚いていた。

しかし、超獣鬼との体格差は頭二つ分くらい低いまでになったので十分に戦闘可能となった。

グレートレッドサイズでも動きはイッセーに任せる形になっていたので、イッセーが戦いを優位にしたものの決定打に欠けていた。

そんなイッセーにグレートレッドからドライグを通して決め技があるという朗報がもたらされる。

そこでイッセーはグレイフィアに協力を仰ぎ、超獣鬼を空へ飛ばすように願い出ていた。

グレイフィアはそれを承諾し、ルシファー眷属の力を合わせて超獣鬼を上空へと上げる。

そして、本来は得てはならない力『ロンギヌス・スマッシャー』を以ってイッセーは超獣鬼を粉砕していた。

 

その後、グレートレッドと分離したイッセー。

グレートレッドの別れの言葉は……『ずむずむいや~ん』であった。

それを聞き、またしても軽い絶望感に苛まれるイッセーとドライグ。

 

「ずむずむいや~ん」

 

そして、いつの間にか隣にいるオーフィスまでもそれを口にする。

 

「なんで、伝説のドラゴンやそれに関わった連中はそんなにそのフレーズが好きなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

そう叫ばずにはいられないイッセーだった。

 

 

 

禁手状態のイッセーの背にオーフィスが乗って空を飛び、首都リリスの上空を巡っていると、オーフィスが西の方からアーシアとイリナの気配を感じると言い、それを頼りにどうにかグレモリー眷属に合流したものの…。

皆、狐に抓まれたようにキョトンとするばかりだった。

そして、『おっぱい』の一言を言わないと存在を認識されないという非情な現実を目の当たりにしたイッセーだった。

 

その後、木場が隙だらけのジャンヌから人質の子供を解放し、イッセーがジャンヌを下してからアレからどうなったかの経緯を説明をすることになった。

当然ながら忍が謎の龍に喰われた事も含めてだ。

 

「オーフィスの力を借りて…グレートレッドの体の一部で体を再生させた!?」

 

その中でもロスヴァイセが素っ頓狂な声を上げる。

他の皆も驚いていたが、魔法に秀でたロスヴァイセの反応は当然かもしれない。

 

「生きているとは思いましたが…ここまで非常識というか、常軌を逸した助かり方をしてるとは…」

 

「紅神君が謎の龍に食べられたというのも…少し智鶴に言いづらい事実ね」

 

「でも、忍は無事ですよ! あいつだってこんなところで死ぬような玉じゃないし…!」

 

すると…

 

「強者を引き寄せる力…ここまでくると恐ろしい。まさか、モンスターの進撃を見学しに来たというのに、グレートレッドと共に君が現れるとは…」

 

第三者…曹操が登場してそう言っていた。

 

「僅かな間に超えたというのか…業魔人を。恐ろしきはグレモリー眷属の成長率…」

 

倒れている仲間を一瞥した後、曹操は異質なものを見るかのような視線をイッセーに送る。

 

「帰ってきたというのか、兵藤 一誠。シャルバの奸計から…!」

 

「あぁ、サマエルの毒を受けて体が一度ダメになったけど…先輩達やオーフィス、グレートレッドが力を貸してくれて体を再生させてもらったぜ?」

 

「信じられない…。あの毒を受けて君が生存出来る確率はゼロだったはず。それが真龍との邂逅と力によって自力で帰還など…! 真龍との遭遇だって偶然では済まされないレベルなんだぞ…!!」

 

イッセーの帰還に曹操は信じられないという表情になっていた。

 

その隙にイッセーは再びリアスから駒を受け取り、眷属として復帰。

そうしてると、今度はプルートが現れてオーフィス奪取を企てるが、そこにヴァーリが参上する。

異空間にて曹操やサマエルにやられた鬱憤をプルートで晴らすという。

そして、ヴァーリが見せるのは新たな覇龍の形…。

 

「我、目覚めるは…」

 

「律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く…」

 

「我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

 

「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」

 

『Juggernaut Over Drive!!!』

 

ヴァーリが編み出した彼だけの強化形態『|白銀の極覇龍《エレンピオ・ジャガーノート・オーバードライブ》』。

その破壊力は最上級死神であるプルートをも一瞬の内に消滅させてしまう程であった。

 

その後、イッセーはヴァーリから曹操の禁手に宿る残り三つの能力を聞かされ、曹操との一対一の勝負をすることになった。

それを察して他の皆は動かない。

曹操もまたそれに応えるべく禁手を発現させて赤龍帝を相手にする。

 

………

……

 

イッセーが曹操と戦い始めた頃。

 

「逃げ遅れた人は…もういませんね?」

 

『周囲の動体反応…我々以外、感知出来ず』

 

智鶴の声にスコルピアがそう答える。

 

「それにしても…さっきの衝撃はなんだったのかしらねぇ?」

 

近くの瓦礫に座って空を見上げながらカーネリアがそう漏らす。

その空は未だ紅く染まっていた。

 

「冥界の空は紫色です。それがあんなに真っ赤になるなんて…」

 

シアもこの光景には不安を抱いていた。

 

『先程の次元反応と何か関わりがあるのでは?』

 

スコルピアがそう伝えると…

 

「グレートレッド、ね」

 

ビルの隙間から見えていたのか、カーネリアが言う。

 

「あんなでっかいドラゴン、あたし初めて見たよ」

 

「……お姉ちゃん。ドラゴン自体、初めて見たから」

 

「ホントに管理外世界なんです、よね…?」

 

「もう無茶苦茶よ…」

 

グレートレッドの巨体やらその後の巨大化した人型(イッセー)を見させられてミッドから飛ばされた4人はそれぞれ何とも言えないような反応を示していた。

 

「(そういえば、アレって確か…第一級の特別指定危険生物だったような気が…)」

 

多次元世界の非常識にだいぶ慣れつつあったフェイトもグレートレッドの出現には驚き、内心で特別指定危険生物などが掲載された資料の事を思い出していた。

 

そうしていると、遠くから何やら戦闘音が響き渡ってくる。

 

「この力の波動…赤龍帝ね。相手は……聖槍かしら?」

 

力に関しては敏感な感性を持つカーネリアが遠くの戦闘音を聞き、そんなことを言う。

 

「兵藤君が帰ってきた? なら、しぃ君のことも…」

 

それを求めて智鶴が戦闘音が聞こえてくる方角を見る。

 

「今、あっちは戦闘中よ。そんな暇があると思う? 第一、こっちも仕事がまだ残ってるんだから」

 

暗七が愚痴るように言う。

 

「っ…そう、ですね…」

 

ホントは今すぐにでも行きたい衝動を抑え込み、智鶴は次の地点に向かうように指示を出そうとする。

 

すると…

 

「あっれ~? 狼眷属じゃん。なんで冥界なんて関係なさそうな場所にいんの?」

 

「旧魔王派の雑魚共の悪足掻きを見物に来たつもりだったが…これは面白い連中と出くわしたようだ」

 

龍騎士軍団を引き連れたディーとグリードが現れていた。

 

「あなた達は…!」

 

直接的な面識こそなかったが、例の映像で見た紅神眷属は警戒する。

 

「てか、狼は? いなくね?」

 

死神の鎌を地面に突き立てながら忍の姿を探すディー。

 

「奴がいないなら俺達が出張る必要もないだろう。おい、貴様らの出番だ。そこの女共を血祭りにあげろ」

 

忍がいないとわかると退屈そうにグリードは背後の龍騎士軍団に指示を送る。

 

『グルルル…』

 

それを受け、龍騎士軍団が紅神眷属へと仕掛けようと飛翔したり、地面を走ったりして接近する。

 

「「ふざけんな!」」

 

それに激昂したのはクリスと吹雪であり、クリスは腰部アーマーを展開してミサイルを撃ち、吹雪は魔力をレーザー状にしてそれぞれ龍騎士軍団に放っていた。

 

「エルメスさんはラトちゃん達の防御をお願いします! シアちゃんとクリスちゃんは後方支援に徹してください。暗七ちゃん、カーネリアさん、私で前線を務めます! フェイトちゃんと吹雪ちゃんはエルメスさんのフォローえを…!」

 

両騎士が不在の中、智鶴は忍がいない間に勉強したことを実践するべく皆に指示を出していた。

 

「「はい!」」

 

「はいはい」

 

「わかりました!」

 

「ま、ほどほどにね」

 

「了解だ!」

 

「了解よ!」

 

智鶴の指示に従い、それぞれが行動に移る。

 

前線では智鶴が次元刀、カーネリアが光の槍、暗七が手を異形と化して龍騎士と渡り合い…。

後衛ではクリスがイチイバルでの射撃が火を噴き、シアによる多彩な魔法や霊術、妖術が繰り出される。

ラト達の防衛を任されたエルメスは自らの龍気を魔法陣と組み合わせて鉄壁の防壁として展開し、近付く龍騎士はフェイトと吹雪が迎撃していた。

 

「フィー! この間の借りを返すよ!」

 

「……うん!」

 

智鶴に指示を貰えなかったラトとシルフィーが勝手に動く。

 

「あ、2人共…!?」

 

それを止めようとティラミスが声を上げる。

 

「はぁ…また無鉄砲な…」

 

そう言いつつもラピスも足元にミッド式の魔法陣を展開していた。

 

そんな戦況を見て…

 

「女のくせに龍騎士軍団に抗う、か」

 

「いいねぇ~、俺は殺し甲斐があると思うよ?」

 

グリードは目を細め、ディーは楽しそうに鎌をグルグルと回していた。

 

すると…

 

『ッ!? 高エネルギー反応、来ます!』

 

スコルピアが驚いた様子で叫ぶように報告する。

 

「えっ!?」

 

「これは…聖なるオーラを攻撃に転用したものかしら? ちょっとマズいわね…」

 

スコルピアの報告に前線にいた智鶴とカーネリアが驚く。

 

それはビルを次々と倒壊させながら智鶴達の方へと向かってきていた。

 

「皆、逃げ…」

 

『マスター、ダメです。間に合いません!』

 

智鶴が他の眷属に逃げるように言おうとするが、スコルピアは間に合わないと判断する。

 

「(しぃ君…!)」

 

智鶴が目をつむって想い人のことを考える。

 

と、その時…。

 

『次元反応増大? 何か、来る…?』

 

今まさに聖なるオーラが迫ろうとした時、智鶴達の上空に次元の裂け目が現れ…

 

バリィンッ!!

 

ガラスが砕けるような効果音と共に次元が裂け目が開き…

 

「ッ!! 五重結界(ごじゅうけっかい)ッ!!!」

 

ズガァァァンッ!!!

 

そこから現れた人物によって絶大な聖なるオーラの攻撃を五つの力が障壁となって防いでいた。

 

『この反応は…!?』

 

スコルピアがその反応を捉えたのと同時に智鶴の前にシュタッと着地する人影。

それは…

 

「しぃ、君…?」

 

それを見上げるようにして智鶴はその人影の名を呼ぶ。

 

「ただいま。智鶴、皆」

 

それは紛れもない…忍の帰還だった。

 

「次元の裂け目から狼が現れただと?」

 

「ありゃりゃ…何処に行ってたか知らないけど、これで面白くなってきたじゃん♪」

 

グリードは右腕に籠手を出現させ、ディーも鎌を忍に向ける。

 

「絶魔勢力? どういうことだ?」

 

既に真狼状態の忍は目の前の絶魔勢力を見て怪訝に思う。

 

「それに…ここは冥界? なんでこんなところに智鶴達が…?」

 

疑問が尽きない忍だったが、今は…

 

「この場を切り抜けるか…」

 

そう言って鎌鼬は発生させるグリードとそれに紛れて斬り込むディーを一瞥し…

 

「アクエリアス」

 

『シェライズ、展開します』

 

忍の一言でアクエリアスはシェライズを展開し、鎌鼬を防ぎ…

 

ギィンッ!

 

ディーの斬撃をファルゼンで受け止める。

 

「ッ!!」

 

斬撃を受け止められた瞬間、ディーの表情が一気に険しくなった。

そして、そのまま宙を蹴ってグリードの真横に着地すると…

 

「こりゃなんか知らないけど…また強くなってるよ、この狼…」

 

そう低い声音で呟くティー。

たった一度の交錯だけでディーは忍の中に何かを感じ取っていたようだ。

 

「(こいつがそんなことを言うとは珍しい…が、こいつの観察眼は間違いない)」

 

それを聞き、グリードも警戒を厳にする。

 

「グリード、ここは退こうよ。どうせ見学ついでの性能テストだったんだし…悪魔相手に出来なかったのは残念だけど、他の連中がきっとそれを果たしてる。俺らはノヴァ様に狼の変化を伝えないと、ね」

 

「……わかった。お前が珍しく退くというのならそれも仕方あるまい」

 

グリードが手を挙げると、他の眷属と交戦中だった龍騎士軍団の残りが退いていく。

 

「狼。何があったか知らないけど…ここは退かせてもらうわ。お前、なんか危険だわ。今の俺らじゃちょっと厳しいかもね。束になっても、かもだけど…」

 

「(なんだと…?)」

 

ディーの言葉にグリードは細めていた目をさらに細めていた。

 

「ほんじゃま、グッバイ。次、会える時はその変化、見極めさせてもらうわ」

 

いつもの飄々とした態度の中にも警戒の色を濃くしながらディーは鎌を振るって次元の裂け目を作り出す。

そして、その中へと消え去るようにディー達は消えていった。

 

「……………」

 

ディーの危険という言葉に少しばかり思い当たる節があるものの、忍はもう戻れないと考えていた。

 

「しぃ君…?」

 

そんな忍の背中を見て智鶴は何かを感じていた。

 

 

 

その後、事態は収束していく。

曹操と戦っていたイッセーは奇策を用いてからくも曹操に勝利したのだった。

冥界を進撃していた他の豪獣鬼も他の勢力の元に殲滅していった。

こうして冥界の危機はとりあえず去ったと言っても差し支えなかった。

 

ただ、アザゼルはオーフィスを勝手に連れてきたことが問題となり、神の子を見張る者の総督を更迭された。

だが、その殊勲や功績は多く、特に異常な成長を見せる現赤龍帝と歴代最強と称される現白龍皇を指導したことが何よりも大きいだろう。

 

また、先日の中級悪魔昇格試験の結果は…。

イッセー、木場、朱乃の3名は無事に昇格を果たし、中級悪魔となった。

 

そして、イッセーと忍も無事に帰還したことで(かね)てより決まっていた対戦が実現する。

若手ナンバーワンとなったグレモリー眷属と、冥族との和解の切っ掛けを作った紅神眷属とのレーティングゲームである。

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