魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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これは決して別作品の話ではありません。
ちゃんと意味のある話です。


12.邪神降臨のパラレル
第七十一話『極めて遠く、極めて近い…』


~???~

 

それは不思議な光景であった。

 

戦場の中、一組の男女が1人の少女を魔法陣の中に閉じ込めていた。

 

「義兄さん!!」

 

少女は男のことを義兄(あに)と呼んで、魔法陣の円に沿うように張り付けられた障壁をドンドンと叩く。

 

「お前は生きろ。そのための道は用意した。例え、世界が変わろうと俺達の義理の兄妹(きょうだい)としての(えにし)は消えないはずだからな」

 

「でも、あたしだけだなんて! だったら義兄さんと義姉さんも一緒に…!!」

 

男の言葉に、少女はポニーテールに結った黒髪を揺らしながら涙を流して懇願していた。

 

「それは出来ないの。これはたった1人のための…私達が一緒に作れる最初で最期の時空転移魔法だから…」

 

女性の方も涙を流しながら少女に笑顔を向けていた。

 

「でも…でも…!!」

 

義姉と呼ばれた女性の言葉に少女は崩れ落ちるようにその場に座り込む。

 

「お前は生きるべきなんだ。この戦いは俺と『桐葉(きりは)』が必ず終わらせる。だが、きっと無事では済まないだろう。そんな戦いに大切な義妹であるお前を巻き込みたくはないんだ。それは桐葉とて同じなんだが…」

 

男は桐葉と呼んだ女性を見る。

 

「あなたがいない世界なんて考えたくないわ。だから一緒に戦います。それであなたが死するようなら…共に逝きましょう」

 

「頑固者め…」

 

男は諦めたように桐葉から少女へと目を移す。

 

「『夜琉(よる)』。お前がどのような世界に行っても…幸せになることを願っているよ」

 

男は優しい笑みを浮かべて『夜琉』と呼ばれた少女に最後の言葉を送り、魔法陣に魔力を注ぎ込む。

 

「っ!!?」

 

それに応えるように魔法陣の上空に次元の裂け目が発生し、そこに吸い込まれるようにして夜琉の体が浮かび上がる。

 

「義兄さん!! 義姉さん!!」

 

夜琉は最後まで2人のことを追い求めようとしたが、それも叶わなかった。

 

「さらばだ、義妹よ」

 

「元気でね」

 

2人は…夜琉が吸い込まれる最後の時まで笑顔でいた。

 

「いや…いやあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

泣き叫ぶ夜琉の意志に反して次元の裂け目は夜琉を吸い込むと同時に、その口を閉じたのだった。

 

それを見届けた後…

 

「っ…ごめんね…夜琉ちゃん…」

 

桐葉はその場で泣き崩れる。

 

「すまない…お前に余計な業を背負わせてしまって…」

 

泣き崩れた桐葉に近寄ると、男はそっと彼女を抱き締めた。

 

「いいえ…私が決めたことだから…あなたの罪を一緒に背負いたかったから…」

 

泣きながらも桐葉はそう訴えていた。

 

「ありがとう…桐葉…」

 

そう言ってくれる桐葉を強く抱き締めながら男は誓う。

 

「(必ず…守ってみせる。もう二度と泣かせないためにも…)」

 

しかし、この誓いが果たされることはなかった…。

 

………

……

 

~???~

 

場面は変わり、戦場の最前線。

 

「俺達は決して負けないッ!!」

 

桐葉と共にいた男が味方を鼓舞しながら敵兵を斬り捨てていた。

 

「例え、相手が"神"であろうと…それが悪に染まり、闇に堕ちたのならば、それを打倒するのが我等の役目! 皆、俺に続け! 俺達が人類最後の希望になるのだ!!」

 

「「「「オオオオオオオオオッ!!!」」」」

 

男の言葉に味方も雄叫びを上げていた。

 

「(この戦いが終われば、人はまた平和な世界を取り戻す…! そのために俺達は立ち上がったんだ!!)」

 

男はこの戦いの後に平和な世界が広がるだろうと思っていた。

 

その世界は"神"によって平和を保っていた。

しかし、その神は堕落し、人を害する存在へと変貌してしまった。

その経緯は人間達も知らない。

しかし、人間達はそんな神の横暴に振り回されるだけであった。

 

だが、1人の青年が立ち上がり、神に対抗するだけの力と組織を築き上げ、神を打倒しようと動き出したのがこの戦い…戦争の発端であった。

最初は劣勢だった青年達だが、1人の女性…神側からの離反者との協力によって徐々に攻勢を強めていった。

 

その女性とは、桐葉である。

彼女は若くして聖女と奉られる程の高位の神官だったが、神の堕落を嘆いて青年の組織へと近付いた。

最初こそ周りの人間に信用されなかったが、青年は彼女を信じた。

人と人とが疑心暗鬼になっては神を倒すなど夢のまた夢であると説いて…。

その甲斐あって桐葉は青年と並んで組織の重要な人物となった。

 

彼女が持ち出した資料を参考に人々は神の勢力に対抗する武器を作り出し、戦い始めた。

その効果は劣勢だった人々に希望を与えていき、徐々に組織は拡大していった。

4年という歳月の戦いの果てに…人類は遂に神の喉元まで肉薄した。

 

それは現在の最終決戦に繋がる長い月日だった。

 

「(長かった…。だが、これで最後だ!!)」

 

男は長かった戦いの終止符を打つべく、神の待つ天の城へと駆けようとした。

 

だが、その時…

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

味方の1人が何を思ったのか、男を背後から手に持っていた剣で突き刺そうとしていた。

 

「危ないっ!!」

 

ザシュッ!!

 

それを庇い、桐葉がその凶刃を受ける。

 

「なっ!?」

 

その光景に男も立ち止まるしかなかった。

 

「ちぃ! 外したか…だが…!!」

 

見方が何か言う前に…

 

「貴様…!!!」

 

桐葉から剣を引き抜こうとした味方を男は即座に斬り捨てた。

 

「がぁ!?」

 

そして…その男が味方を殺す瞬間だけの光景が戦場に映し出される。

 

『見よ、人の子等よ。お前達が英雄と称える男もまた人間。愛する者を傷つけられたら、その者を始末する。そのような男が我を討ったとしてもお前達を支配するだけではないか?』

 

それは神の声だった。

 

ざわざわ…ざわざわ…

 

戦場の味方が神の声に(ざわ)めき出す。

 

「っ!? 騙されるな! これは神が仕掛けた罠だ! 俺が斬った奴は俺に明らかな敵意を向けてきたんだ。それに気付いた時には桐葉が俺を庇ってくれて…」

 

男はそう弁解する。

しかし、一度芽生えた感情は払拭されることはなかった。

 

『人の子等よ。選べ…貴様らが英雄と呼ぶ男を奉るか、我を奉るか。それとも奉る存在など最初から存在せぬ方が良いか?』

 

「今更何を言うか!!」

 

神の言葉に男は激昂する。

 

『人の子よ。貴様の勇猛には敬意を払おう。だが、我がいなくなったらその後はどうする? お前が新たな指導者になって皆を引っ張るのか? 我と同じように邪魔な奴を排除しながら…』

 

「俺はそんなことはしない! 第一、俺はそんな指導者になんかなるつもりはない…!!」

 

『ここまで来て逃げるのか? やはり、人の子よな。自分勝手である。お前が先導した者達を最終的には捨てるのであろう?』

 

「違う! これからは人と人とが手を取り合って世界を回すんだ! 俺が先導しなくても世界は回っていく。それは貴様がいなくとも同じことだ!!」

 

そのような舌戦を繰り広げる間、味方達は男の背中を見ていた。

 

『浅はかな…。我がいなければ、祈りも成就されぬ。厄災も防げぬ。人の子は脆くか弱い。だからこそ我が守っているのだ。それが出来ぬのであれば、貴様は何のために我に立ち向かったのだ?』

 

「それは…!!」

 

『女1人が倒れただけで立ち止まる者の言葉を信用などできるものか?』

 

「「「「ッ!!!?」」」」

 

その言葉によって味方の感情が傾く。

 

すると…

 

「だ、め…相手にしちゃ…神の、お言葉は…人心を…操る…」

 

桐葉が苦しそうに言葉を発する。

 

「桐葉!?」

 

男はすぐさま駆け寄り、桐葉の容体を確かめる。

 

『見よ。これがこの男の本性だ。こやつが本気ならば女など構わず、我の元に来るものであろう?』

 

ざわざわ…

 

神の言葉に味方が徐々にその敵意を男に向け始める。

 

『さぁ、この数年間を戦争で費やしてきた男を断罪する時ぞ。勇気ある者はその男を討て』

 

ザ…ザ…

 

神の言葉に操られるように味方が男の背後に迫る。

 

「ッ!? よせ! あんな神の戯言に耳を傾けるな!!」

 

だが、時は既に遅し…。

 

斬ッ!!

 

味方の1人が剣を振り下ろしていた。

 

ギィンッ!!

 

男は寸でのところでそれを防ぐが、これまで一緒に戦ってkチア仲間に刃を向けられて感情がコントロールできなくなってきていた。

 

「逃げ、て…私を、置いて…」

 

「そんなこと、出来るはずがないだろう!!」

 

そう叫んだ刹那…

 

ザシュッ!!

 

別の味方が剣を振り下ろして、男の右肩を斬り裂き、右腕を落としていた。

 

「ぐわあああああっ!!?!?」

 

それからは悲惨であった。

 

男は桐葉を背負いながら、味方だった者達の間を掻い潜りその場から逃げたのだ…。

その間、味方だった者達はそれぞれの武器を振り下ろして男を攻撃していた。

 

戦場からやっと離脱し、深い山奥へと逃げ込んだ男の体は血だらけになっていた。

それは自らが負った傷と桐葉から流れる血の両方であった。

 

「くそっ……なんで、なんでこんなことに…!!」

 

英雄だった男は味方だった者達の裏切りに遭い、最愛の人も亡くそうとしていた。

 

「あ、なた…」

 

「桐葉…!!」

 

人気が完全になくなったちょっとだけ開けた場所に桐葉を寝かせ、血の気が引いた青褪めた顔を見る。

 

「ご、めん…なさい…神の、御言葉が…あれほどの、力を持って…いた、なんて…」

 

「お前が謝る事じゃない。待ってろ、すぐに治療して…」

 

ふるふる、と力弱く顔を振る。

 

「もう…手遅れ、です……ここまで、息が出来てるのが…不思議なくらいで…あなたの…お顔も、見えないのに…」

 

「ッ!?!?」

 

それを聞いて桐葉の双眸を見れば、完全に輝きを失い、虚ろになっていた。

 

「そ、そんな…!!?」

 

男は絶望する。

 

「あなた…本当は、戦いの後に…話す、つもりでしたが…あなたは…父親に、なれたんですよ…?」

 

「なっ!?」

 

このタイミングでの衝撃の告白に男は言葉を失う。

 

「ですが…私達の…小さな、命の灯火は…消えて…しまいました…」

 

その告白と共に死を悟り、涙を流す桐葉。

 

「…俺は…俺はぁ!!!」

 

男は大粒の涙を流しながら慟哭する。

 

「ごめ、ん…なさぃ…あなたよりも…先に逝く、不幸を…お許し、ください…」

 

「っ! 死ぬな! 死ぬんじゃない! 俺達の未来はまだ…!」

 

男はそう言って桐葉を抱き寄せるが…

 

「愛してます…あ、な…た…………………」

 

コトリ、と力なく瞼を閉じて桐葉の全身から力が抜けていく。

 

「桐葉? 桐葉……!!!」

 

「……………………」

 

揺さぶっても反応を示さない。

 

「う、うう…うわああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

男の声からは絶望しか感じ取られなかった。

 

………

……

 

桐葉を失っから数日。

 

男は変わった。

 

自らの名を捨て、自分と桐葉を裏切った世界を恨み、憎しみ、呪った。

そして、桐葉の亡骸と共に山奥へと籠り、元より使っていた技を殺人技へと昇華させていったのだ。

その実験として村を壊滅させるという…以前では考えられない暴挙へと打って出ていた。

人々を信じ、戦ってきた男は…今では殺人鬼となり果て、世界を呪いながら戦う戦闘狂と化していたのだ。

 

そんなある日。

男は桐葉が持ち出していた資料の中にあった禁術を用い、桐葉の死体を素体にして殺戮に特化し、自らの武器にもなる人形を作ることにした。

闇に堕ちきった男に捨てるモノなど、もはや何もなかった。

 

「我が求めるは最凶にして絶対なる剣…」

 

村一つを犠牲にし、村人の血で塗られた魔法陣を描き、供物として生け捕りにして虐待の限りを尽くして口を封じた女子供を用意し、その中心に桐葉の死体を置いた。

 

「贄を喰らい、我が最愛なる者だった体よ、転生して我が剣となれ…」

 

血の魔法陣から暗黒の瘴気が立ち昇り、女子供を喰らい始める。

 

「生まれ出でよ。我が右腕となりしモノ…。我が呪いと憎しみを以って昇華せよ!!」

 

夥しいほどの血が流れて魔法陣に吸い込まれると、桐葉の死体が宙に浮かび、瘴気を吸い込み始める。

 

「恨め、怨め、憎め、呪え…!! 我が魂魄の呪詛を聞き入れ、地獄の底より這い出て我が力となれ!!」

 

カッ!!!

 

その呪詛に従い、桐葉の死体が暗黒色に染まりきると同時に血の球体の中で新たな受肉を果たそうとする。

 

「世界の全てを呪いし、我が魂魄を喰らいて目覚めよ! 暗黒の傀儡よ!!」

 

男から発生する闇色の生気が血の球体に注がれていく。

 

そして…

 

パァンッ!!

 

血の球体が弾け、中から桐葉の肉体を用いて誕生した人形が現れる。

 

「………………」

 

その肉体は確かに桐葉のモノであったが、闇の受肉を果たす際に若返ったのか、それとも別の要因があったのかは不明だが…少女のような体躯での誕生であった。

 

「桐葉の肉体を使っていようが、貴様は俺の傀儡だ。貴様の名は『オルタ』。それだけで十分だ」

 

「傀、儡……マス、ター……オル、タ……」

 

少女の名は『オルタ』。

男によって生み出された殺戮の人形、闇の傀儡。

まだ、受肉を果たしたばかりで言語も覚束(おぼつか)なかった。

 

「人も神も関係ない。俺は全てを抹殺してやる…!!」

 

「……………」

 

それを聞き、オルタは何を思ったのだろうか…。

虚ろな眼に彼はどう映ったのか…?

 

………

……

 

数日後。

 

男はオルタを用いることで人々を虐殺していた。

オルタの性能は男の想像以上であった。

 

オルタは男の体に漆黒の鎧と化して纏わり着くと同時に失った右腕を一時的にだが異形の腕として再生していた。

そして、その右腕からは憎悪の黒炎が噴き出し、人々を次々と燃やし尽くした。

さらに黒き剣を左手に持ち、人々を斬り伏せていき、その血を剣に吸わせていた。

鎧の背中からは漆黒の翼を生やし、その翼を以って空から死という呪いを撒き散らす。

 

そして、男は再び神の前へと姿を現す。

今度は世界の英雄ではなく、世界の復讐者として…。

 

『禍々しい姿になったな、人の子よ』

 

「黙れ、貴様の戯言など聞きたくもない」

 

神の居城にて神と対峙する男。

 

『かの神官を贄に武器を作ったか。お前もまた邪悪な存在だな』

 

「黙れと言っている!!」

 

堕落した神と深淵の闇に堕ちた英雄…。

 

その戦いは呆気ないものであった。

神は成す術なく男によって葬り去られた。

 

『我がいなくなれば、世界はいずれ消滅する。それが世の理というモノだ』

 

絶命する寸前、神はそう言い残していた。

 

「知ったことではない…世界は滅びようが滅びまいが、俺には関係ないからな」

 

神の死を見てから男はその場から立ち去る。

 

「全てを無に帰す。それがこの世界の末路だ…」

 

男の憎悪は止まらないし、満たされない。

それは神を討ったとしても変わらなかった。

 

………

……

 

荒廃した世界…。

全てが血に塗れ、人間の生を許さない世界。

そんな世界へと変貌したこの世界に、唯一生きる人間…。

 

「…………」

 

ギチッ!!

 

無言のまま人肉を加工した干し肉を食い千切る男。

 

「マスター。これからどうするのですか?」

 

そんな男の背後からオルタが問い掛ける。

 

「人間という生物は死滅した今、マスターのみがこの世界の人間です。この後、マスターは如何なされますか?」

 

オルタの問いに男は…

 

「いや、この世界の人間にはまだ生き残りがいる」

 

「それは…?」

 

「我が義妹…時空の彼方へと飛ばした最後の抹殺対象だ」

 

それは男と桐葉が苦渋の決断で何処か知らない世界へと送り出した義妹の存在だった。

しかし、今の男に愛など欠片もない。

この世界で生を受けた人間は皆、抹殺対象でしかなかったからだ。

 

「しかし、義妹殿は何処へ行ったかもわからぬのであれば…」

 

バシッ!!

 

オルタを殴る男。

 

「出来損ないが俺に意見する気か?」

 

「申し訳ありません…」

 

オルタは闇色のドレスを正して男に謝罪する。

 

「行き先など問題ではない。必ず見つけ出す。それだけだ」

 

そう言って男は魔法陣を作り出す。

 

「(もし邪魔者が現れれば、そいつもまた殺すのみ…)」

 

男はオルタと共に時空の壁を超えて義妹を捜す。

 

その先に、激しい死闘が待っているとも知らずに…。

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