魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第七十二話『時空漂流者』

冥界初の異種対抗ゲーム。

その結末はイッセーが忍と相討ちという形でのグレモリー眷属の勝利で幕を閉じた。

 

しかし、その試合運びを振り返ってみると紅神眷属の思惑によって動いていた面が強かったかもしれない。

序盤で互いの騎士が相討ちになったのも大きな要因かもしれないが、特にここで大きな分かれ目となったのは騎士の質かもしれない。

グレモリー眷属の騎士はエースである木場 祐斗、対する紅神眷属の騎士は戦力の中核を成す流星 朝陽。

それほど違うとは思えないように見えるが、グレモリー眷属にとってテクニックタイプの損失は大きく、パワー傾向がより際立って強まった結果になってしまった。

 

その後はグレモリー眷属の一時撤退、そこへ降り掛かる紅神眷属の砲撃、中盤戦を捨てさせての終盤戦。

それらを経て、湖上での決戦。

チーム戦ではグレモリー眷属が少し優勢であったのだろうが、その状況を作ったのは紅神眷属である。

 

そして、王と兵士の戦い。

始龍によって一時的に制御下に置いた龍騎士の力を発揮させた忍と、真紅となったイッセーの勝負はこれもまた相討ちという形で決着が着き、ゲーム上での勝負はグレモリー眷属の勝利となった。

 

このゲーム結果は各方面で賛否を呼んだ。

 

忍の戦略を評価する者、しない者、グレモリー眷属がまたしてもゲームで赤龍帝を失ったこと、早々にエースを失ったこと、紅神眷属の騎士の1人が全く動かなかったこと、アウトレンジからの陣営砲撃に異を唱える者、唱えない者、忍の最後の勝負は王として必要だったのか?

それはそれは様々であった。

 

そのような議論が冥界の一部で繰り広げられている中、当の本人達はというと…

 

………

……

 

魔獣騒動や異種対抗ゲームから数日が経った日のこと。

 

「魔法使いとの契約?」

 

フィクシス魔法学園の屋上にてラトが忍に尋ねていた。

 

「あぁ、悪魔には魔法使いとの契約期間があり、その目的は様々だと聞く。用心棒だったり、魔力の研究だったり、自らのステータスにしたりと…」

 

アザゼルから聞き及んだ悪魔と魔法使いの関係をそう説明する。

 

「……使い魔とは違うんですか?」

 

「こちらでの使い魔の狭義がいまいちまだわからないが…少なくともそれは違うだろうな」

 

シルフィーの問いに忍もミッド側での使い魔のことをわからないので答えに困っていた。

 

「なんだかややこしいですね」

 

その話を聞いてラピスも首を傾げる。

 

「だが、それは古くから続いてることだからな。イッセー君達もいずれは魔法使いと契約するだろうな」

 

「……先輩は?」

 

忍の語りにシルフィーが尋ねる。

 

「俺は爵位を貰ってるとは言え、悪魔ではないし、冥族にそんな習わしもないそうだからな。関係ないだろう」

 

一蹴していた。

 

「しかし、今夜は地球に戻らなければならない事情もある」

 

「なんかあったっけ?」

 

ラトが頭に?を浮かべる。

 

「駒王学園で吸血鬼との会談が行われる予定なんだ。そこに俺も出席することになる。そこで俺の中に眠る吸血鬼のことを問い合わせるつもりだ。ま、グレモリー先輩に便乗する形になるが…」

 

そう言って忍は吸血鬼の力を知るために動くことを決意する。

 

「まぁ、頑張ってね。あ、その前に宿題写させてよ」

 

ラトがあっけらかんとしてそう言うと…

 

「そこは自分でやれよ」

 

忍はそう言い切っていた。

 

………

……

 

その深夜、駒王学園にて…

 

吸血鬼世界の二大派閥、『カーミラ派』との接触、会談が行われた。

そこに出席したのは悪魔側からグレモリー眷属、シトリー眷属、堕天使側はアザゼル、天界側は四大セラフの一柱ガブリエルのQ『グリゼルダ・クァルタ』、そして各次元や世界にパイプを作り続けてる次元辺境伯こと忍だった。

 

何故、この時期に接触してきたのか…。

このことをリアスが尋ねると、カーミラ派の特使『エルメンヒルデ・カルンスタイン』は答える。

もう一つの派閥『ツェペシュ』側のハーフから滅神具保有者が現れたというのだ。

そして、その滅神具の名は…『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』。

聖遺物(レリック)の一つである。

 

 

 

ここで聖遺物に関して少し触れておく。

聖遺物は大きく分けて二つに分類される。

 

『レリック』と呼ばれる神話系に属する聖なるアイテム。

聖杯や聖十字架などがこのレリックに挙げられる。

 

もう一つは完全聖遺物や聖遺物と呼ばれるシンフォギア装者が身に着けているレリックを見本に超先史文明時代に人の手によって生み出された人工的なアイテムである。

現在は天羽々斬、イチイバル、ガングニール、シュルシャガナ、イガリマ、アガートラームの6種が確認されており、そのどれもがシンフォギアになっている。

但し、アガートラームはコアが無事なだけでシンフォギアを生成することは出来ないでいる。

 

完全聖遺物・デュランダルも、元は聖剣・デュランダルを基に作られた人工物であったことが明かされている。

 

 

 

そのレリックである聖杯がツェペシュ側の手に渡り、吸血鬼が死ににくい肉体を手に入れ、カーミラ側を襲撃してきたのだと言う。

それを受け、カーミラ派はギャスパーの身柄を戦力として扱い、吸血鬼間での争いを吸血鬼だけで解決させようとしていた。

そんな身勝手が許される訳もないが、さらに言えば、エルメンヒルデは休戦条約という外交カードを切ってきた。

要するに吸血鬼側は『和平に応じてやるからギャスパーを出せ』と言ってきてるようなものなのだ。

 

そんな会談を横で聞かされている忍も心中穏やかではなかった。

 

「(吸血鬼の力について問い合わせる気で来たが、クソ胸糞が悪ぃな…!!)」

 

その怒りは他の者も感じていたが、この場での発言は誰もが許されるものではなかった。

その証拠に果敢にもイッセーが口を開いたが、エルメンヒルデは一蹴していた。

 

「なら辺境伯である俺の話も聞いちゃくれないのか?」

 

それに続くようにして忍も口を開いたが…

 

「……あら? 狼という卑しい駄犬如きが辺境伯とは…悪魔社会も人手不足なのかしら?」

 

エルメンヒルデは"今、存在に気付きました"的な言い方で忍の言葉を一蹴していた。

 

「あぁ?」

 

その瞬間、忍の怒りが表に出たかのように双眸が真紅と化し、瞳孔が縦に変化する。

 

「おい、よせ忍」

 

それを見てアザゼルが忍の肩を押さえる。

 

「ちっ…」

 

アザゼルの制止に不本意ながら従う忍だったが…双眸は真紅のままで怒りが収まっていないことを示していた。

 

だが…

 

「……どういうことでしょうか?」

 

エルメンヒルデの表情はさっきよりも冷たい印象をその場にいた全員に与えていた。

 

「…何がだ?」

 

アザゼルもエルメンヒルデの変化に何があったのかわからず対応する。

 

「その瞳…何故、駄犬如きが吸血鬼の…それも高位の瞳を宿しているのか、ということです」

 

「なに?」

 

その問いにアザゼルも忍を見る。

 

「知るかよ。俺は異常な学者に吸血鬼の血を注がれただけだ。今は力の一端を使ってるに過ぎない」

 

イラついて言葉遣いが雑になったが、事実のみを答えることにした。

 

「バカな…高潔な吸血鬼の血が駄犬などの体内に…」

 

少しばかり狼狽していたエルメンヒルデだったが、すぐに平静を取り戻して会談を続行した。

 

その後、エルメンヒルデが退室した後に決まったことは…

 

一つ、リアス(木場の護衛付き)がヴラディ家に訪問してギャスパーの事を聞くこと。

 

二つ、アザゼルもまた吸血鬼の世界でカーミラ派に接触すること。

 

三つ、残りのグレモリー眷属はここに待機して有事の際に備えること。

 

以上の三つの事が決まった。

 

ちなみに忍は留学中という建前のため、目立った動きが出来ない。

というよりも今回ばかりは同行が難しかった。

狼と吸血鬼の関係はそれほどまでに険悪だったりする。

しかも忍はその狼なのに吸血鬼の血を後天的に宿した上に力の一端を使っているから余計に悪目立ちする可能性が高いのだ。

 

その後、イッセーはアザゼルの診断を受け、そこで邪龍の話を聞いていた。

 

龍種の中でもとりわけ危険で邪悪な存在『邪龍』。

共通してしぶとく、他の龍種でも相手をするのを避けたとされる存在である。

 

そんな邪龍の中でも凶悪な筆頭だった3匹。

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ。

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。

原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプス。

 

その他にも北欧のニーズヘッグ、初代ベオウルフが倒したグレンデル、初代ヘラクレスが試練で倒したラードゥン、日本の八岐大蛇などがいる。

 

ちなみに診断を受けた理由だが、イッセーの体やドライグの調子を診てもらう為である。

先の異種対抗ゲームまでは問題なかったが、それからというものドライグの調子があまりよろしくなかった。

眠る時間が極端に増えたというか…本調子ではないのだ。

その原因はイッセーの体をグレートレッドとオーフィスの力を借りて新調したことにあった。

だから今のところ禁手化も出来ると言えば出来るが、トリアイナや真・女王にはなれないでいた。

 

その後、アザゼルはリアスと今後のスケジュールを決めるべく話し合いをした。

その際、アザゼルはアーシアに個人的な話があったそうなので、同席したという。

 

こうして吸血鬼との会談は不穏な空気を纏って終わった。

 

………

……

 

吸血鬼との会談より数日が経った頃。

地球ではリアスと木場、アザゼルがルーマニアの山奥へと出発する日となっていた。

 

一方で…

 

「時空転移反応?」

 

フィクシス魔法学園の屋上でゼーラからの通信を受けた忍は頭に?を浮かべていた。

 

『うむ。次元転移反応は知っているだろうが、稀に時空間を超えて検出される反応があるのだ。その反応がある次元にて観測された。我々、特務隊はそれに調査に駆り出されることになった。もちろん、嘱託騎士のお前にも出張ってもらうことになる』

 

「それは構いませんが…学園の方には?」

 

『既に話は通してある。アステリアで急行せよ』

 

「(手際がホントに良いな…アザゼル先生並みに…)了解。紅神 忍、ただちに向かいます」

 

ゼーラの手際の良さをアザゼルと比較しながらぼやく様に了承する忍だった。

 

「(しかし、時空転移反応か。具体的にはどういうことなんだ?)」

 

そう考えながら忍はアステリアを停めている職員用の駐車場へと急ぎ、アステリアを発進させていた。

 

………

……

 

~第61無人世界~

 

荒廃した大地と乾いた風の吹く次元世界。

何処もかしこも枯れ果てた印象を与える世界だった。

人が住むにはあまりにも荒れ果てているので、入植調査もされずにいた。

 

そんな世界で時空転移反応が起きたのは…あまりにも危険だった。

もしも人がいるのであれば早急に保護しなくてはならない。

 

ヴェル・セイバレスを拠点に各方面に機動力の優れた者が捜索に当たっていた。

 

「(こうも空気が悪いと匂いも感知しにくいな…)」

 

その中の1人、アステリアを駆る忍は鼻が利かないことを気にしていた。

 

「(ともかく、何とかその時空転移反応の原因を見つけ出さないとな…)」

 

そう思って一旦アステリアを停めた時だった。

 

『動体反応を確認。こちらに向かってきます』

 

アクエリアスからの報告が上がる。

 

「当たりか!?」

 

『おそらくは…味方ならば念話の一つもあって然るべきかと…』

 

「動体反応ってことは…生き物だな。方角は?」

 

『北北東より移動中』

 

それを聞き…

 

「こちら紅神。動体反応を確認した。合流を求む」

 

オープンチャンネルで各方面に散った特務隊メンバーとヴェル・セイバレスで待機してるゼーラ達に連絡を入れる。

 

「さて、何が出るかな」

 

そう言って忍はその場に魔力マーカーを打ち込むと、動体反応のする北北東の方角へとアステリアを走らせた。

 

 

 

しばらくして…

 

「女の子?」

 

動体反応が停止したことから急行した忍の目の前には倒れている少女がいた。

歳は忍達とそれほど変わらないように見えるが、背中まで伸ばしただろう黒髪を白いシュシュでポニーテールに結っており、目と閉じているから瞳の色はわからないが、顔立ちは可愛らしいもので、スレンダーながらも少し筋肉質な肉付きをしており、服装は軽装で上着が道着を改造したような動きやすい形状をしていた。

また、黒髪は癖っ毛なのか、猫耳の様に見えなくもない形状をしていた。

 

『生体反応はあります。ですが、このままでは危険かと…』

 

「そうだな…」

 

アクエリアスの意見も聞き、忍はヴェル・セイバレスに治療と検査の準備を要請していた。

 

「(この匂い…妖怪?)」

 

この距離になって忍も分かったが、少女からは妖怪特有の匂いと妖力を感知していた。

 

「(それも人間とのハーフ…だが、何かが違う気がする。もし、仮に彼女が妖怪とのハーフなら次元転移反応でもいいはず。それが時空転移反応? わからない…)」

 

時空転移反応という未知の出来事もそうだが、少女から感じる微妙な違和感を忍はどう説明していいのかわからなかった。

 

その後、合流した他のメンバーと共に少女をヴェル・セイバレスに搬送してから特務隊は第61無人世界を後にするのだった。

 

………

……

 

~ヴェル・セイバレス艦内~

 

「時空漂流者か」

 

忍の報告を聞き、ゼーラはそう漏らす。

 

「また、レアなケースね…」

 

ゼーラの言葉に朝陽がそう付け足す。

 

「いまいちピンと来ないんだが…次元と時空…何がどう違うんだ?」

 

忍がそんなことを尋ねると…

 

「"次元"とは我々のいるこの多次元世界のことを指す。"時空"とは時間を超えた世界、もしくは時間と空間が異なる世界のことを指す。つまり、我々のいる時間軸とは異なる時の流れと歴史を持つパラレルワールドが無数に存在するという考え方だ。パラレルワールドからの漂流者…即ちそれが時空漂流者ということだ」

 

教官らしくエリザがその問いに答える。

 

「わかるか?」

 

「全っ然」

 

ラルフとジェスが管理局員とも思えない発言をする。

 

「バカはほっとくとして…その時空漂流者の扱いは結構難しいのよ。なんせ、時空間が異なる…要は根本的な世界観の違いよね。こればかりはどの国、どの世界、どの次元にも言えることなんだけど…それに加えて時空間を渡る術は管理局だって持ってないし…」

 

朝陽が呆れたように補足する。

 

「なるほど…」

 

その説明に忍も頭の中では理解していた。

 

すると…

 

『失礼します。彼女の身体検査、及び治療が完了しました』

 

医務室のシェーラから通信が入る。

 

「ご苦労。漂流者の容体は?」

 

『はい。バイタルは安定してます。目立った外傷も少ないですが、微かな外傷や筋肉の付き方から見ると何かと戦っていたことがわかりました。あと、血液検査なんですが…通常とは異なる血液反応も検出されました』

 

シェーラの報告に…

 

「それは彼女が妖怪とのハーフだからだろう。妖怪の血液を人が調べたってわからないことが多いからな」

 

忍が付け足すように言う。

 

『妖怪、ですか?』

 

ミッド出身のシェーラにはあまりピンと来ない響きだった。

 

「要は異種族ということか。時空漂流者の上に厄介なものも付け加えられたな」

 

忍の発言にゼーラも顔を渋らせる。

 

「ともかく、そちらに向かう。紅神、流星、ついて来い」

 

そう言って席を立つとゼーラは少女との面会をすべく移動を開始する。

 

「了解…」

 

「なんであたしまで…」

 

あまり乗り気ではない2人を連れてゼーラは医務室へと向かった。

 

………

……

 

・医務室

 

医務室に入ると少女はベッドの上に横になっていた。

その横にはシルヴィアが看病するように座っており、シェーラも少女の顔色を窺っていた。

 

「シェーラ、漂流者は?」

 

「寝ています。いつ起きてもおかしくはなのですが…」

 

「そうか。なら、その間に検査結果の詳細を聞く」

 

「わかりました」

 

ゼーラがシェーラとコンソールパネルに向かったのとは逆に…

 

「年下かしらね?」

 

少女の顔を覗き込んで朝陽がそう漏らす。

 

「そうですね。それで戦闘を経験してるなんて…あまり想像したくない世界です」

 

シルヴィアもそう言って少女の顔を見ていた。

 

「どんな世界でも戦いは起きている、か…違うとすればそれが多いか少ないかくらいだろうな」

 

忍が壁に背を預けながらそう漏らす。

 

すると…

 

「義兄さん…義姉さん…」

 

少女の口が動く。

 

「起きたか?」

 

その声に反応するようにうっすらと少女は目を開く。

 

「? ここは…?」

 

見知らぬ部屋に少女は疑問を浮かべていると…

 

「シュトライクス少将、シェーラさん、彼女が起きました」

 

忍がコンソールパネルで会話していた2人を呼ぶ。

 

「義兄、さん…?」

 

その声と忍の姿を見て少女が反応を示す。

 

「ん?」

 

視線に気づき、忍も少女の方を見る。

 

「義兄さん!?」

 

少女はバッと起き上がると、忍へと近付く。

 

「は?」

 

言われた本人には何のことやらサッパリだったので、素の反応をしてしまう。

 

「なんで、義兄さんがここに…? というかちょっと若返った?」

 

訳のわからないことを言う少女だった。

 

「なによ、またアンタの知り合い?」

 

朝陽が呆れたように言うが…

 

「言ってる意味が分からんが…俺に妹なんていないぞ?」

 

当然ながら忍も知らないものは知らないとキッパリした態度を取る。

 

「…………違う……義兄さん、じゃない…?」

 

忍の物言いや纏っている雰囲気からやっと少女も正常な判断が出来たようで、人違いだと気付く。

 

「(でも…この人からは…確かに義兄さんの面影が…する気がする…)」

 

急に動いたせいか、少女がよろける。

 

「っと…急に動くからだ。もう少し安静にして…」

 

忍が少女を支えると、ベッドまで連れ戻す。

 

「いや、起きたのならちょうどいい。色々と事情を聞きたい」

 

やってきたゼーラが少女の前に立つ。

 

「お前の名前は?」

 

「…………(くれない)夜琉(よる)…」

 

ゼーラの迫力と物言いに警戒しながらも少女…夜琉は名乗る。

 

「紅 夜琉。名前の感覚からすれば紅神や流星と同じ地球の日本に近しい世界かもしれんな」

 

「何言ってんの? 地球っていうか…世界には…あの胸糞悪い"神"が居座ってるじゃない!」

 

ゼーラの言葉に夜琉は反射的にそう答える。

 

「"神"? 聖書に記された神なら当の昔に死んでいる。まぁ、その他の神話体系の神々は別にいるが…」

 

「"神"が複数? なに? アンタこそ何を言ってんの?」

 

会話が噛み合わず成立しない。

 

「ふむ。これは一から説明せねばならないな…」

 

夜琉の言動からゼーラはこの"世界"について話すことにした。

 

「まず最初に…ここはお前の属していた世界ではない。時空の境界線を隔てて存在する並行世界だ」

 

「並行、世界…?」

 

「そうだ。世界は時空という壁を隔てて無数の可能性の中で様々な世界を作っている。お前の属していた"世界"もその一つに過ぎず、我々のいるこの"多次元世界"もまたその一つだ」

 

「………………」

 

夜琉は胡散臭そうな話に眉を顰めていた。

 

「信じられないか? まぁ、当然の反応と言えばそうだな。いきなりこのような話を聞いて信じる者は余程の愚か者か、楽観主義者か、はたまた高度知性生命体のどれかだ」

 

「(何気に酷い言い様だな…)」

「(例えが極端ね…)」

「(まぁ、確かに信じるには理解も必要ですが…)」

「(あまり無理はさせないでほしいんですけど…)」

 

ゼーラの説明を横で聞いていた一同はそれぞれ別の感想を抱いていた。

 

「だが、事実は事実だ。お前は荒廃した世界にいたはずなのに、このような施設にいる。おかしいとは思わないか? あれほど荒廃した世界にこのような設備があるのは不自然だと…それは当然だ。あの世界はこの多次元世界の次元世界、その一つでここは次元航行艦という船の中なのだから」

 

「船? あんな場所に海があるなんて思えないけど…」

 

「そうだ。あの世界の海は既に枯れている。我々が"海"と呼ぶものはもう一つある」

 

パチンと指を鳴らすと、投影ディスプレイが表示されて次元の狭間…いわゆる次元空間が夜琉の前に映し出される。

 

「それがこの次元空間だ」

 

「ッ!?!?」

 

見たこともない光景に夜琉も驚く。

 

「我々はこの海を渡る術を持って様々な次元世界にコンタクトすることもある。だが、それは同じく次元航行技術を持つ世界に限る。その他の未開の地や文明はあれど次元航行技術を持たない世界に対しては静観する姿勢を見せている。それが我々、『ミッドチルダ』という次元世界に存在する『時空管理局』という組織だ」

 

「………………」

 

ゼーラの言葉に夜琉は呆然としていた。

 

「紅神」

 

「なんですか?」

 

「地球生活が長いお前にこの娘の面倒を任せる。"兄"とも呼ばれていたみたいだし、ちょうどいいだろう」

 

「何となく嫌な予感はしたし、言うと思ったよ!」

 

ゼーラの言葉に忍はそう返す。

 

「というか、俺には妹はいないってさっきも言ったし、勘違いだともわかったはずだろう?」

 

そう言って忍は渋るが…

 

「だが、勘違いだとしてもその"兄"とやらにお前はそれだけ似ている可能性が高い。もしくは…」

 

「もしくは…なんだよ?」

 

「いや、憶測の域を出んからこれはいいだろう」

 

「はぁ?」

 

ゼーラの言いたいことがわからず、忍はさらに顔を顰める。

 

「ともかく、娘の面倒はお前に任せる。地球で降ろすから娘に多次元世界の実態を見せてやれ」

 

「(それならミッドに降ろした方がいいんじゃねぇか?)」

 

そんなことを言ってもゼーラはどうせ聞かないと思い、内心で文句を言う。

 

「(地球で降ろす?)」

 

夜琉は夜琉でその言葉を不審に思っていた。

 

「まぁ、確かに百聞は一見に如かずとも言うか…」

 

頭をポリポリと掻きながら忍も仕方ないと割り切ることにした。

 

「夜琉ちゃん、だっけ? 一旦俺が居候してる家に来てくれ。そこで地球の現状を知ってもらうから」

 

「はぁ…」

 

こうして夜琉は一時的に忍の保護下に置き、明幸邸で預かる事となった。

 

………

……

 

・明幸邸

 

「本当に"神"との戦いなんてないの?」

 

「だから何度も言ってるだろう? 確かに神と戦いはあったと言えばあったが、それは北欧神話のロキという悪神であって、それ以外だと過去の大戦で聖書に記された神は死んだことくらいしかわからないって…第一、君の言う"神"の存在なんてこの世界ではいないんだ」

 

明幸邸の居間で集まれる眷属だけで夜琉に現状の地球での状況を何度も繰り返し説明していた。

 

「だから、こんな平和な…」

 

「確かに宗教はある。が、それは色々な国にあったり、人それぞれに信仰してたりと様々だ。まぁ、俺は特に信仰してるものはないが…」

 

「争いだってある。この国の表側では滅多に無いけど、遠い国とか、裏の世界では様々な思惑を持つ奴がいるからな」

 

忍の言葉に続き、クリスも争いについて話す。

 

「しばらくはここに留まって駒王学園に来てみない? そこで平和な時間を過ごすというのもありだと思うの」

 

「学校、か…」

 

智鶴の申し出に夜琉は小さく呟く。

 

「リアスちゃんはもう出発しちゃっていないから…後で書類を用意するけど…今はこの世界について学んでほしいかな」

 

優し気な智鶴の言葉に夜琉は…

 

「わからないことばかりだけど…あたし、義兄さんと義姉さんの覚悟を無駄にしたくない。だから少しの間…ここで色々なことを見聞きしてみたい」

 

そんなことを口にしていた。

 

「そうか。なら、この世界だけでなく、そっちの世界のことも教えてもらわないとな」

 

夜琉の言葉に忍達は彼女を迎え入れようとしていた。

 

 

 

その後、与えられた部屋で布団に潜り込んだ夜琉は…

 

「(義兄さんや義姉さんも…この世界なら幸せに暮らせてたんだろうな…)」

 

夜琉の安全のために時空転移を敢行した2人の事を思い出していた。

 

「(でも、きっと勝ってるよね。義兄さんがあんな"神"に負ける訳ないもん)」

 

そう思いながら窓のカーテンの隙間から微かに見える夜空を見ながら眠りにつくのだった。

 

だが、この時の夜琉は…何も知らなかった。

彼女が時空転移した後、あの世界で何が起きたのかを…。

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