魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第七十三話『邪龍と邪神』

リアス達が日本を発ってから数日後のこと。

 

イッセーのクラスが体育の授業でグラウンドにいた時にそれは起きた。

魔法使いの集団が現れたのだ。

一般生徒はコスプレ集団だと認識していたが、イッセー達はそうはいかなかった。

何故ならそれは本物の魔法使いの一団だったからだ。

 

その存在に気付いたイッセーはすぐさま行動に移す。

松田と元浜に逃げるよう言ってから自らも人気のない場所へ移動したのだ。

 

そこでイッセーはドラゴンの体となった身で戦い、魔法使いを相手にしたが、魔法使い達はすぐさま撤退した。

彼らの目的は…レイヴェルだったからだ。

そして、レイヴェルは小猫とギャスパーと共に別動隊の魔法使い達にさらわれてしまった。

 

この一連の事態はアザゼルの残していた生徒の記憶を司るシステムが働き、『変質者が構内に侵入し、学園が臨時休校になった』ということに記憶が置き換わったので、問題はない。

また、破壊された学園内の箇所は緊急の補修作業が重なったということになっている。

 

残ったグレモリー眷属にシトリー眷属、さらに紅神眷属も加わって今後の対策が行われようとしている時に敵の一団より連絡が入った。

『一年生組の3人を返してほしければ、地下のホームまで来い。但し、来るのはグレモリー眷属、紫藤 イリナ、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属のみ』

というものだった。

 

グレモリー眷属とシトリー眷属、イリナはともかく…何故、紅神眷属と紅牙が率いる神宮寺眷属まで指定したのか?

禍の団が絡んでる可能性がある以上、紅牙に対する復讐かもしれないが…。

 

そのためミッドにいる忍達にも招集が掛かり、地下のホームへと向かう最寄りの駅へと集まっていた。

 

「まさか、昼間に襲撃を受けていたとは…」

 

集合して事情を聞いた忍は顔を顰めていた。

 

「まぁ、魔法使いなんて連中は…特にはぐれなんて常識に囚われてないだろうからな。そんなことも平気ですんだろ」

 

元いた組織の一派とは言え、秀一郎もそう言いながらまた難色を示していた。

 

「というかロキ戦以来だな、お前ら。元気してたか?」

 

かれこれ秀一郎とは魔獣騒動で紅牙が眷属にする以前では、ロキ戦で静観してたくらいの面識なので改めて挨拶が行われていた。

 

「確か…元禍の団の…」

 

「おう。元冥王派所属、雇われ傭兵だった識上 秀一郎ってもんだ。今は紅牙の戦車になったんでよろしく」

 

イッセーの言葉に秀一郎が自己紹介する。

 

「そういえば、雪女の里にもいたな」

 

「赤龍帝や狼とはそこが初対面だったか」

 

当時の事を…と言っても数か月前だが…思い出すように秀一郎はニカッと笑う。

 

「アンタ、よく顔出せたわね」

 

吹雪は吹雪で当時のこともあるのか、秀一郎を睨んでいる。

 

「っと、こりゃ旗色が悪ぃな。ま、今は味方なんだから水に流してくれよ。俺だって仕事だったんだし」

 

「なんか釈然としないわね」

 

そんなやり取りをしてる横では…

 

「そういや、お前らも事故って眷属になってたんだっけか?」

 

クリスが調と切歌の2人と顔を会わせていた。

 

「まぁ、これも成り行きデス」

 

「……一応、紅牙の兵士になってる」

 

「まぁ、あたしも兵士だし…来年からは先輩だし…面倒見てやっか」

 

後輩が出来たことに少し嬉しそうなクリスだった。

 

「こちらも新しい眷属が2名ほどいます。こちらが駒王学園大学部に在籍する大学生の方で、シトリーの新しい戦車です」

 

そう言いながらソーナ会長が見知らぬ大柄の男性を紹介する。

 

「……ルー・ガルーと呼んでくれ」

 

「私達はルガールさんと呼んでいます。皆さんもそう呼んであげてください」

 

真羅副会長がそう言っていると…

 

「「…………」」

 

忍と男性…ルガールが視線を交わし…

 

「よろしく」

 

「……こちらもな」

 

ガシッと握手を交わしていた。

 

「な、なんだ? この妙な組み合わせは?」

 

「あ~、もしかしたら…」

 

イッセーの当惑に匙は心当たりがありそうだった。

 

すると…

 

《マスター、周辺の準備は整ったようですぜ》

 

駅の天井からシトリーの魔法陣が出て、そこから死神が出てきていた。

 

「グ、死神(グリム・リッパー)!?」

 

イッセーが驚いていると…

 

「彼女が私の新しい騎士の…」

 

《あっしはベンニーアと申します。元死神であります》

 

死神少女が自己紹介をする。

 

ソーナ会長や匙が言うにはベンニーアは最上級死神・オルクスと人間との間に生まれた半神であり、人間の血の方が濃いので騎士の駒一つで賄えたのだとか…。

また、本人が言うにはハーデスや父親のやり方が気に入らないので出奔してシトリーに自らを売り込んだのだとか…。

しかし、相手が死神ということでソーナ会長も少し疑心暗鬼になっていたが、ある一点において信じることにしたらしい。

それは……おっぱいドラゴンのファンであること。

その証拠にマントの裏地にはおっぱいドラゴンの詩集が入っていたり、イッセーにサインを貰うなどそれは明らかだった。

 

「ベンニーアとルガールは外でのバックアップをお願いします」

 

「……あぁ」

 

《了解ですぜ、マスター》

 

ソーナ会長が言うと、ルガールは歩いて、ベンニーアは魔法陣を潜ってそれぞれ持ち場に向かった。

 

「大事な作戦前に眷属の紹介になってしまいましたね」

 

「必要なことだろう。それにこれで少しはリラックスも出来ただろうしな。とは言え、月読と暁はノイズ以外を相手にすることになるが…」

 

ソーナ会長の言葉に紅牙がそう付け加えると…

 

「……装者同士の戦いなら何度か経験してる」

 

「生身の人間でも何とかしてみせるデス!」

 

2人は大丈夫だと言い張る。

 

「クリス、あの2人のフォローを頼むな」

 

「わぁってるよ」

 

それを見て忍がクリスに調と切歌のフォローを頼んでいた。

 

「しかし、3人の王がいる訳だが…指揮系統はどうなんだ?」

 

秀一郎が率直な疑問を口にする。

 

「グレモリー眷属は私の指揮で動いてもらいます。紅神君や神宮司さんはどうしますか?」

 

「俺は…そうだな。会長の指揮に入らせてもらおうかな? 会長の指揮を直に体験して糧にしてみたいし」

 

「俺もそれでいい。まだ人数も少なく王としての経験も浅いからな」

 

ソーナ会長の質問に2人の冥王もその指揮下に入ることにしたようだ。

 

「わかりました。では、両眷属の皆さんにも私の指示に従ってもらいますね」

 

そこで忍と紅牙はソーナ会長に自軍の戦力情報を伝えていた。

 

「………そうですか。わかりました。即席ですが、作戦に組み込んでみましょう」

 

眼鏡をクイッと軽く上げながらソーナ会長はそう言っていた。

 

こうしてソーナ会長の下に自前の眷属以外にもグレモリー眷属の居残り組とイリナ、紅神眷属、神宮寺眷属も加わる事となった。

 

………

……

 

地下へと降りた一行。

なかなかの大所帯となってしまったが、それでも作戦や犯人グループの要求もあるので仕方なく前に進む。

そして、しばらく進んだ先の前方の空間から不穏な気配を察知し、一行は陣形を整えることになる。

シンフォギア装者もそれぞれシンフォギアを纏う。

 

前衛…忍、朝陽、カーネリア、暗七、ラト、秀一郎、ゼノヴィア、イリナ、匙、巡、由良

 

中衛…フェイト、シア、吹雪、紅牙、調、切歌、イッセー、朱乃、ロスヴァイセ、真羅副会長、仁村

 

後衛…智鶴、エルメス、萌莉、クリス、ティラミス、シルフィー、ラピス、ソーナ会長、アーシア、草下、花戒

 

配置についてから兵士の駒を持つ者はイッセーを除いて王の承認を得てから女王へと昇格する。

イッセーはリアスがいなくても昇格が可能なので…。

 

最終確認をアイコンタクトで取った後、通路を抜けてひらけた空間に出る。

 

そこで待ち構えていたのは百は超えるだろう魔法使いの集団に加え、召喚魔法で呼び出したであろう魔物などもいた。

それと…

 

「裏切り者の神宮寺兄妹!」

 

魔法使いとは違った装いの集団もいた。

 

「冥王派か…」

 

それを確認して紅牙が少し顔を顰める。

紅牙という旗頭を失い、禍の団の残党と化している若い冥王達の姿もあったのだ。

 

「ならこの件には禍の団も関わっていると見るべきかね?」

 

「でしょうね」

 

忍の呟きにソーナ会長も同意する。

 

「あなた達の目的はなんですか? フェニックス? それとも私達でしょうか?」

 

そして、一行を代表してソーナ会長が冥王と魔法使いの集団に問い掛ける。

 

「どっちもだな。まぁ、フェニックスのお嬢さんはリーダーの命令で丁重に扱ってるけどね」

 

一歩踏み出した魔法使いがそう言う。

 

「「「(リーダー?)」」」

 

忍、紅牙、イッセーを含めてその場にいた何人かはそのリーダーという言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「とりあえず、フェニックスの件はOKなんで、次はアンタ達との件だ。気になって仕方ないんですよ。メフィストのクソ理事とクソ協会の評価したアンタ達の力がね。それにそっちの狼眷属はあのグレモリーに負けはしたが、優勢に事を進めてたらしいじゃないか。あと、裏切り者が作ったっていう眷属ってのも気になってさ。試したくなるんだよ、俺達は魔法を乱暴に扱うからよ!」

 

そう言って前に出た魔法使いがパチンと指を鳴らした途端、他の魔法使いは魔法陣を展開し、冥王派は冥王と化したりして臨戦態勢に移る。

 

「やろうぜ! 悪魔と冥王! 魔法と魔力の超決戦ってのをよ!!」

 

それが開戦の合図となり、魔法使い達は一斉に様々な属性の魔法を放ち、魔物も突っ込ませていた。

 

「では、見せてあげましょうか。若手悪魔の力を…。それと駒王学園の悪魔を敵に回したことを後悔させてあげましょう」

 

「俺は学園の生徒でも悪魔でもないが…身内に降り掛かる火の粉くらいは払ってやろう」

 

「ま、俺も悪魔じゃなく今は駒王学園を離れているが、駒王学園の生徒であることには変わりないんでね。落とし前はつけさせてもらう」

 

ソーナ会長の言葉に紅牙と忍が続きながらそれぞれ紅と蒼の冥王の力を解放させていく。

それと同時にゼノヴィアが前に出て、エクス・デュランダルの聖なるオーラで魔法を叩き落としていく。

また、ロスヴァイセもまた魔法のフルバーストを放って魔物を迎撃していたが、如何せん数が多いため撃ち漏らしもある。

その残った魔法や魔物は由良の人工神器『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』によって防がれていた。

ちなみに生徒会メンバーにはアザゼルより人工神器が与えられているのだ。

 

「オフェンスに入ります」

 

ソーナ会長の言葉で攻勢に転じる。

 

「一番手はもらうぜ!!」

 

シュティーゲルを起動させた秀一郎が前に出る。

 

「雪白さん、彼に合わせて反射魔法をお願いします」

 

そこにソーナ会長から中衛に位置していた吹雪に指示が伝わる。

 

「なんであたしが…!」

 

「吹雪!」

 

「あ~もう! 仕方ないわね!」

 

忍の声もあり、吹雪が秀一郎の周りに氷で出来た鏡を作り出す。

角度や向き的には魔法使い達をちゃんと捉えている。

 

「殲滅の稲妻! エレキトリック・ハマー!!」

 

ピガガガガガッ!!!

 

秀一郎の両腕から迸る雷撃が周囲に拡散していき…

 

ピシャアァァァ!!

 

それが氷の鏡にも反射してさらに拡大していく。

 

「うぉっ!?」

 

「意外と拡散するもんね…」

 

思った以上に拡散したので魔法を使った秀一郎とアシストした吹雪も驚いていた。

 

「紅神君。例の砲撃準備を」

 

「了解。ブリザード・ファング!」

 

ソーナ会長の指示で忍もブリザード・ファングを放ち、いくつかの地点で収束させる。

 

「流星さん、ハラオウンさん、イリスさん。お願いします」

 

「「はい!」」

 

「仕方ないわね…」

 

呼ばれた3人が収束したブリザード・ファングへと魔力を込めた一撃を加える。

 

「エクシード・スラッシュ!!」

 

朝陽の魔力斬撃によってブリザード・ファングが巨大な氷の刃となり…

 

「エクシード・セイバー!!」

 

フェイトのハーケンセイバーによってブリザード・ファングが巨大な円環状の刃となり…

 

「エクシード・シュート!!」

 

ティラミスの魔力弾によってブリザード・ファングが一筋の光線状になってそれぞれ魔法使い達や魔物に襲い掛かる。

 

「神宮寺さんは重力制御を。それに合わせて月読さんと暁さんは中距離攻撃を」

 

「わかった。グラヴィティ・スフィア」

 

無数の極小重力球を前方に展開した紅牙の横から調と切歌が飛び出す。

 

「行くデスよ、調!」

 

《切・呪リeッTぉ》

 

「……うん、切ちゃん」

 

《α式 百輪廻》

 

それを合図にそれぞれ鎌の刃を三枚にしたブーメランと無数の小型丸鋸を射出していく。

 

「曲がれ」

 

紅牙の重力制御により、それらのブーメランと丸鋸はまるで意思を持ったかのように軌道を変幻自在に変えていき、魔物達を屠っていく。

ちなみにこの攻撃は紅牙の配慮によって魔物群に対してのみ操作されており、人の姿をしている冥王や魔法使い達に対しては他のメンバーが攻撃を仕掛けているので問題ない。

 

その後も匙のラインによる吸収や呪いの黒炎による呪撃を始め、イッセーの譲渡、ゼノヴィアのパワーだけではない剣技、朱乃やソーナ会長の魔力攻撃等など、数の差を感じさせない圧倒的とも言える戦力を持って魔法使いと冥王の混成集団を撃退していた。

 

その結果…。

 

「はぁ……わかったわかった。俺らの降参だから。それとリーダーが来いってよ」

 

魔法使い達が降参とばかりに両手を上げたのだ。

そして、そう言った魔法使いの視線の先に転移魔法陣が出現する。

 

「その先にアンタらの後輩と今回の襲撃のリーダーがいる。さっさと行けよ。但し、赤龍帝、ヴリトラ、デュランダル使い、雷光の巫女、癒しの聖女、ヴァルキリー、ミカエルのA、狼、紅の冥王だけは確実に来いってさ」

 

まるで不貞腐れたような反応を見せるはぐれ魔法使い。

その態度に匙もイッセーも怒りを露わにしていたが、結局のところ魔法使いと冥王達は上に待機していた同盟中の方々に捕らえられることとなった。

 

………

……

 

魔法使いの要望通り、グレモリー眷属とイリナ、シトリー眷属からはソーナ会長と匙、紅神眷属からは忍と智鶴、朝陽、フェイト、神宮寺眷属からは紅牙と秀一郎がそれぞれ転移魔法陣を通ってだだっ広い白い空間へとやって来た。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

そこには装飾の凝った銀色のローブを深く被った人物がいた。

声からして若い男だということはわかったが…

 

「(なんだ…? この匂いは…悪魔? それにどこかで嗅いだことのあるような…?)」

 

忍は男から漂ってくる匂いを感じ…

 

「アンタ、悪魔だな?」

 

そう端的に尋ねていた。

 

「流石は狼。噂以上に良き鼻を持っておりますね。その問いにはイエスと答えておきましょうか」

 

男はそれを否定することもなく自分が悪魔だと認める。

 

「悪魔? ならば旧魔王派の残党?」

 

「さて、それ以上はお答えいたしかねますね。それよりもあなた達にはもっと優先すべきことがあるでしょう?」

 

ローブ男がそう言った時…

 

「イッセー様!」

 

レイヴェル、ギャスパーを背負う小猫の姿があった。

 

「彼女達を返しましょう」

 

3人と合流する一行に対してローブ男は何も仕掛けてはこなかった。

 

それからローブ男の話と会長による推察によって今回の件の全貌が明るみになる。

 

禍の団内部は旧魔王派と英雄派という二大勢力を失い、乱れに乱れており、比較的少数であった冥王派残党と魔法使いの派閥、さらにその魔法使いの派閥と交流があったはぐれ魔法使いの集団の意見が通りやすくなっていたそうだ。

その好奇心を満たす対象として挙がったのが、協会より発表された若手悪魔の実力と眷属が揃いつつある紅神眷属と裏切り者である神宮寺眷属であったらしい。

それが今回の襲撃に繋がる理由の一点目。

 

二点目の理由は…フェニックスの涙である。

最近、闇マーケットで出回っているという本物の効果に匹敵するという偽物の正体が、魔法使い達がクローニングした悪魔フェニックスを大量に用意し、培養カプセルの中で涙を大量生産して闇マーケットで取引する。

最近、フェニックス家の者が狙われていたのもその精度を上げるために本物のフェニックス家の者の生体魔力データを得ることが目的だったようだ。

そうして集めた資金で何をやらかすのか…考えただけでおぞましい限りである。

 

そして、もう一点気になることもある。

『クローニング』という手段は絶魔陣営も使っている手法である。

"もしかしたら裏で繋がっているのでは?"という疑念が忍の中で生まれていた。

 

最後に…

 

「まぁ、魔法使い達の用事など"些細な事"です。私の主目的は本来これなのですよ」

 

まるで他人事のように言いつつ、ローブ男と一行の間に巨大な魔法陣が現れる。

だが、それは…

 

「あなた達のような強者と戦いたがる者がいまして…その相手をお願いしたいのです」

 

龍門(ドラゴン・ゲート)であった。

門の色は一見して緑に見える。

 

「緑…って確か、五代龍王の一角、玉龍(ウーロン)か!?」

 

イッセーがそう言うが…

 

「いえ、あれは緑色ではありません…もっと深い、緑色…」

 

ソーナ会長がそれを否定する。

そう、龍門の色は"緑"ではなく"深緑"。

 

「深緑を司るドラゴンなんていたっけ?」

 

イリナがぽつりと呟くと…

 

「いたのですよ。過去に深緑を司るドラゴンがね」

 

ローブ男がそれに答えるようにして言った瞬間…

 

『グオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

龍門より現れたのは、浅黒い鱗、太い手足に鋭い爪と牙と角、スケールの違う両翼、長く大きい尾を持った二足歩行型の巨大なドラゴン。

その銀色の双眸と眼光は鋭く、ギラギラとした戦意と殺気に満ちていた。

 

「伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

ローブ男の呟きを受け、ドラゴンが牙の並んだ口を開く。

 

『グハハハハ。久方ぶりに龍門なんてものを潜ったぞ! さぁて、俺の相手はどいつだ? いるんだろ? 俺好みのクソ強ぇのがよぉっ!!』

 

突然の謎のドラゴンの出現に絶句する一行。

 

『……グレンデルだと!?』

 

匙の横に黒い蛇、ヴリトラが現れて驚いたような声音を出す。

 

『……あり得ぬ…奴は暴虐の果てに初代ベオウルフに完膚なきまでに滅されたはずだ…』

 

グレンデルの視線がイッセーとヴリトラを捉える。

 

『ッ! こいつは面白ぇ! 天龍、赤いのか! それにヴリトラもいやがる! なんだなんだ、その格好は?』

 

「二天龍もまた滅ぼされ、神器に封印されていますよ」

 

『グハハハハ!! なんだよ、お前らもやられたのかよ! ザマァねぇな!! だが、目覚めの相手にはちょうどいいか!』

 

ローブ男の言葉にグレンデルは哄笑する。

 

「それはそうと、赤龍帝。鎧を纏わないのですか?」

 

グレンデルが臨戦態勢を取ってるのも関わらず、一向にイッセーが禁手化しないのを見てローブ男が尋ねる。

 

「悪いが、ちと調子が悪くてな」

 

ドライグが万全ではないため、イッセーも禁手化になれずにいた。

 

「それは困りました。本題の一つがあなたとグレンデルの戦いでしたから」

 

そう言われてイッセーもドライグに呼びかけたのだが、そこからが問題だった。

 

『…………お兄ちゃんは誰?』

 

なんとドライグが精神を幼児退行させていたのだ。

 

「えええええええええええええええ!!?」

 

この幼児退行は単にイッセーのおっぱい関連で気疲れした結果ではないかと…。

 

その光景に龍を宿す2人とそのライバルの知り合いは…

 

「天龍が幼児退行だ!? どうすりゃそこまで伝説のドラゴンを追いつめられるんだよ!?」

 

「………これは、酷いな。主にイッセー君のせいなんだが…」

 

「ヴァーリ。お前には同情するぞ…ライバルがこんなんじゃ、な…」

 

匙、忍、紅牙の順にそのような酷評が飛び交う。

 

「ヴリトラ。何とかできないか?」

 

友人の危機でもあるので、匙はヴリトラに尋ねる。

 

『……もう一体、龍王がいればドライグの意識を引っ張ってこれるやもしれぬ』

 

この場で龍王クラスと言えば…目の前にいる絶対に協力しそうにないグレンデルと、隣にいる神に近しい始龍を取り込んだ忍しかいない訳だが…。

そう思い、イッセーが忍を見るが…

 

「すまんが、俺もまだ完全に龍騎士の力を掌握してる訳じゃないから期待しても無駄だぞ?」

 

となると手立てがない。

と思われたのだが…意外な救世主が現れた。

 

「私に任せてください!」

 

アーシアである。

オーフィスの加護を受け、アザゼルより契約を引き継いだ黄金の龍王『ファーブニル』を呼び出したのだ。

しかし、この龍王…度し難い契約の対価をアーシアに要求していた。

その契約の対価とは……女性用の下着、所謂『パンティ』だった。

 

ともかく、ドライグを治すための対価(これもパンティ)を支払い、ファーブニルとヴリトラのオーラを受けてドライグは幼児退行から脱したのだった。

事の真実はとてもドライグには言えないが…。

 

「アーシアの気持ちを無駄にはしない! 禁手化!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

そして、嬉しいことにカウント無しで禁手が発動するようになっていた。

 

『ッ! グレンデルだと…? どういうことだ? こいつは俺よりもだいぶ前に滅ぼされたはずだが…』

 

イッセーがグレンデルの目の前に立つと同時にドライグも驚いたように呟く。

 

『グハハハハ。酷ぇ有り様だったな。でもこれでようやく殺し合えるってわけだ。さぁ、来いよ! ドライグ!!』

 

そう叫ぶグレンデルは態勢を低くして突撃する格好となる。

 

『相棒。奴は暴れることにしか興味のない異常なドラゴンだ。やるなら徹底的に情けを掛けることなく倒せ』

 

そんなドライグの言葉に…

 

『言ってくれるじゃねぇかよ! 天龍なんて呼ばれやがって。ドラゴンに天も神も(まこと)もねぇんだよッ!!』

 

グレンデルは咆哮する。

 

その後、グレンデルの提案によってイッセーとの一対一での勝負となった。

通常の禁手から龍剛の戦車へと駒を変えて拳をグレンデルに叩き込むイッセーだが、その一撃はグレンデルを仰け反らせるだけで大したダメージにはならなかった。

その結果を受け、グレンデルも愚痴を零す始末。

その愚痴を受けてイッセーとドライグもまた『真紅の赫龍帝』となってグレンデルと打ち合いを始めた。

イッセーはドライグの助言もあり、左腕に収納されているアスカロンの龍殺しの力を付与した龍剛の戦車の一撃をグレンデルへと見舞った。

しかし、それでもグレンデルは血反吐を吐きながらも嬉々として立ち上がり、殺し合いを楽しもうとしていた。

 

その光景に…

 

「確かにイカレてやがる」

 

「異常なドラゴンというのもあながち間違いでもないか」

 

「戦闘狂みたいなもんか?」

 

忍、紅牙、秀一郎の順に意見を述べる。

 

と、そこへグレンデルの吐き出した火炎弾が飛来してくる。

 

「んな他人事みたいに言ってる場合かよ!」

 

匙が3人に叫ぶと共に眷属達が迎撃する。

 

「イッセー君、もう一対一に拘る必要はありません。全員で掛かりましょう!」

 

「了解です!」

 

火炎弾を迎撃したソーナ会長の言葉にイッセーも答え、全員でグレンデルを相手にしようとした。

 

が、ここで異変が起きる。

 

バチッ!バチッ!

ボタッ…ボタッ…

 

白い空間の天井から見たこともないどす黒い魔法陣が出現し、そこから黒い液体のようなもの滴り落ちてきた。

 

『なんだぁ?』

 

「ふむ。この反応は…なんでしょうか?」

 

この事態はローブ男とグレンデルも想定外のようだった。

 

『これって…!』

 

『時空転移反応、確認』

 

セイバーとバルディッシュが時空転移反応を検出する。

 

「時空転移反応ですって!?」

 

「こんな時に、なんで…!?」

 

その事実に朝陽とフェイトも驚く。

 

「時空転移反応…これはまた興味深い現象が起きたものですね」

 

時空管理局所属の2人の言葉を聞いてローブ男もこの現象に興味を抱く。

 

「なんだ…この血の匂いは…!!?」

 

黒い液体から感じる血の匂いに忍は天井の魔法陣を見る。

 

そして…

 

ズゥゥ…

 

一際大きな黒い液体の塊が出てくる。

 

ボタンッ!!

 

それが白い空間の地面に落ちると、地面を黒い液体が飛び散って汚し、その中心から一組の男女が現れる。

 

「なんだ。ここは…?」

 

男の方は…身長2mはありそうな無造作に切られた短めの黒髪、琥珀色の瞳、渋く壮年な顔立ちに全体的に筋肉質な体格で、ボロボロになった服の隙間から見える体中には無数の傷痕を持っており、何よりも右肩から先は無かった。

 

「マスター。ここはどうやら特殊な空間のようです。魔法に近しい…ですが、何らかの結界系の応用かと…」

 

女の方はまだ少女とも言えそうな背中まで伸ばした黒髪、深紅の瞳、可愛らしい顔立ちに全体的に華奢でスレンダーな体型で、闇色のドレスを身に纏っていた。

 

「ふんっ…時空転移の先がこんな場所とは…」

 

男は戦場の真っただ中に転移したというのに、そのことに関してまるで興味がないように少女の言葉に耳を傾けていた。

 

「こんな場所に『夜琉』がいるとは思えんが…」

 

その呟きを聞き…

 

「夜琉だと…?」

「夜琉ちゃん?」

 

忍と智鶴が同時に声を漏らす。

 

「!!」

 

夜琉のことを口にした忍と智鶴を男のギラついた眼が捉える。

 

「っ!?!」

 

その眼光と男の顔を見て智鶴は二重の意味で驚く。

 

「ククク…転移先で早々に夜琉の情報を得るとは僥倖だ」

 

「(しぃ、君…?)」

 

その残忍で凶悪な表情は…まるで数年後、歳を取った忍のように智鶴には見えていた。

 

「夜琉の奴は何処にいる?」

 

圧倒的な殺意を抱き、呪詛のような言葉を吐く。

 

「ッ…それを聞いてどうする気だ?」

 

その殺意に押されながらも忍が問う。

 

「知れたこと。奴を葬ることで俺の"世界に対する復讐"は幕を閉じる。もしそれを邪魔すると言うのならば…」

 

ブンッ!!

 

「貴様らも殺すのみ…!!」

 

言い終わる前に男は瞬時に忍の間合いへと入り、左拳を心臓に向けて振り抜こうとしていた。

 

「ッ!?(速い!? それにこの歩法は!!?)」

 

男の使う歩法に自分の神速を重ねつつ忍は本能的な反射速度でそれをバク転で回避していた。

 

「ほぉ…?」

 

回避された事に驚きつつも男は振り抜いた左拳を素早く引き戻すと、今度は智鶴を狙う。

 

「ッ!!」

 

それを見て忍はすぐさま空中で魔力球を作り出し、それを足場にして男へと肉薄する。

 

「猛牙墜衝撃ッ!!」

 

滅牙墜衝破(めつがついしょうは)ッ!!」

 

ゴオォォォッ!!!

 

忍の掌打と男の拳がぶつかり、激しい衝撃波の余波を生む。

 

「烈神拳…それも四力使いか。夜琉からでも教わったか?」

 

「ッ…(こいつ、やっぱり夜琉の関係者か? それにこの技は…烈神拳…?)」

 

忍が少し苦しそうにしているのに対し、男は余裕そうな表情でそんなことを尋ねていた。

 

「だが、所詮は烈神拳…俺の『邪神拳(じゃしんけん)』には及ばん」

 

男がそう言った時…

 

「しぃ君から離れて!」

 

「紅神はやらせん!」

 

「忍! 離れろ!」

 

『俺の得物を横取りすんじゃねぇよぉぉぉ!!!』

 

側にいた智鶴から次元刀による攻撃、紅牙による火炎砲撃、イッセーの腕が龍剛の戦車状態による拳打、獲物を横取りされたと勘違いしたグレンデルの火炎弾が男に向かう。

 

が…

 

ビシッ!!!

 

「え…?」

 

「なっ!?」

 

「にぃっ?!」

 

『あぁ?』

 

それらの攻撃は全て"黒いライン状の魔力"によって止められていた。

 

「匙?」

 

「お、俺じゃないですよ!?」

 

グレモリー眷属やソーナ会長もその攻撃方法は匙かと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「マスター。この空間自体がそろそろ限界のようですが…如何致しますか?」

 

そう尋ねた少女の足元から黒いライン状の魔力が伸びていた。

 

「ふんっ…脆いな…」

 

興醒めでもしたのか、男は少女の元へと再び神速に似た歩法で移動していた。

 

ベシッ!!

 

「余計な真似をするな、出来損ないが…」

 

そして、何を思ったのか、男は少女の頬を殴る。

 

「申し訳ありません。マスター」

 

それを受けても泣きもせず淡々と謝罪する少女。

その頬は殴られて赤く染まっている。

 

「テメェ! 女の子を殴るとか最低じゃねぇか!」

 

それを見て憤怒するイッセー。

 

「ガキがほざくな。"道具"をどう扱おうが俺の勝手だ」

 

「なにぃっ!?」

 

男の言動にイッセーの意識がグレンデルから男へとシフトしていく。

 

「今の言葉…流石に聞き捨てならねぇな…」

 

「反吐が出る」

 

「同感だ」

 

「そんな横暴、ミカエル様だって許さないわよ!」

 

忍、紅牙、ゼノヴィア、イリナもまたグレンデルから男へと敵意が向く。

 

「皆さん、冷静に。ここにはまだ敵もいるんですから」

 

「そうですわよ。いくら言動が許せなくても今は禍の団を優先しませんと…」

 

ソーナ会長と朱乃が怒りを抑えながらグレンデルへの警戒を怠っていなかった。

 

「でも!!」

 

何か言いたそうなイッセーだったが、真・女王状態も長くは続かないことに若干の焦りを感じていた。

 

「良いものを見せてもらいました。実験も一先ずは成功したので、今日は退きましょうか」

 

ローブ男はそう言うが…

 

『あぁ!? 不完全燃焼のまま退けってのか!? 俺はまだ戦えるぞ!!』

 

グレンデルが不平不満を口にする。

 

「また『骸』と化したいのならそれでもいいですが…?」

 

『チッ…クソが。それを持ち出されちゃ敵わねぇな…』

 

ローブ男の言葉に矛を収めるグレンデル。

 

「そうそう…先程、報告がありまして白い方で苦戦してるとのことなのでそちらに行きますよ」

 

『おほっ! 今度はアルビオンか! ならいいぜ!!』

 

次の戦いの場があると聞いてグレンデルはそちらに意識を向けていた。

 

「マスター。この世界に目的があるのなら、いずれ機会は巡ってきます。なので、ここは一旦退くべきかと…」

 

「出来損ないが…こんな弱い連中相手に退けというのか?」

 

「はい。それに時空転移の影響で相応の魔力消費もしましたので…」

 

「ふんっ…いいだろう、『オルタ』。今日はお前の言う通りにしてやる」

 

少女…『オルタ』の進言に耳を傾け、男は転移魔法陣を用意した。

 

「待ちやがれ! テメェの名前はなんだ?!」

 

イッセーが男に名前を聞くと…

 

「俺の名は……牙狼。『邪神(じゃしん) 牙狼(がろう)』とでも覚えておけ」

 

男は少し考えら素振りを見せてからそう答えていた。

 

「邪神…牙狼…」

 

男が名乗った名前を口にする忍。

 

「次に会う時は夜琉の奴も呼んでおけ。"貴様の義兄(あに)が会いに来た"とな…」

 

「なに…?」

 

それを最後に牙狼はオルタと共にその場から消えてしまった。

 

その後、ローブ男も自らの素性を明かした。

『ユーグリット・ルキフグス』。

グレイフィアの弟であり、禍の団の現トップの配下でもあるという。

同じ家の者ならば町の結界も通り抜け、魔法使い達を招き入れたのも彼なのだとソーナ会長は推測した。

 

最後にユーグリットはこう残して転移魔法陣の中に消えていた。

 

「グレモリーの従僕に成り下がった姉、グレイフィア・ルキフグスにお伝えください。"あなたがルキフグスの役目を放棄して自由に生きるのならば、私にもその権利はある"、と」

 

それを機に白い空間も崩壊していく。

その崩壊から脱出する寸前、レイヴェルとソーナ会長は魔法陣を停止したカプセルへと放っていた。

 

こうして一連の騒動は一先ずの幕を引くことになった。

 

だが、新たな敵の襲来に予断は許されない状況であることは変わりなかった。

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