魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第七十四話『もう1人の狼』

魔法使い達の襲撃から数日が経った。

 

イッセーは自宅でレイヴェルと共に契約する魔法使いの書類に目を通していた。

しかし、心此処に在らずといった具合である。

先日の騒動の主犯が滅んだはずのルキフグスの生き残りがグレイフィア以外にもいたからだ。

その件でグレイフィアは査問に掛けられているという。

こればかりはどうしても政治的な話になるため、考えても仕方ないと思うのだが…。

 

そんな中、思わぬ来訪者が兵藤家にやって来た。

ソーナ会長とベンニーアである。

ソーナ会長は朱乃達と今後の話し合いをするというのだ。

ベンニーアは…まぁ、おっぱいドラゴンの自宅に行けるというファンならではな理由だったが…。

 

それからイッセー達は気分転換も含めて自宅地下のプールに移動していた。

そこにヴァーリに呼ばれていた黒歌とルフェイが帰ってきた。

黒歌曰く、ヴァーリチームの相手は滅んだ邪龍の一匹『アジ・ダハーカ』だという。

黒歌はイッセーにあんなドラゴンにはならないようにと忠告を送っていた。

 

それから新たな来訪者も来た。

シスター・グリゼルダと2人の男性。

1人は金髪にグリーンの瞳の神父服姿の端正な顔立ちの青年で、天界の切り札こと"ジョーカー"『デュリオ・ジェズアルド』。

もう1人は日本人にして曹操以外でヴァーリに覇龍を出させた"人間"『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』こと『幾瀬(いくせ) 鳶雄(とびお)』。

奇しくも三大勢力の滅神具所有者が勢揃いした形になった。

そして、刃狗とジョーカーも交えた訓練が…話し合いの後に行われることとなった。

 

………

……

 

時を同じくして、明幸邸では…。

 

「え…? 義兄さん、が…?」

 

先日の騒動の中で、牙狼が現れたことを夜琉に伝えていた。

 

「あぁ…"貴様の義兄が会いに来た"ってな…」

 

その場にはあの時現場にいた忍、智鶴、朝陽、フェイト、紅牙、秀一郎がいた。

 

「あはは、何かの間違いだよ。だってあの義兄さんが"神"との戦いで勝ったんだろうし、義姉さんと一緒に平和に暮らしてるはずだもん………あたしは決戦前にこの世界に飛ばされたからあの後のことはわからないけど…」

 

夜琉は笑ってそれを否定していた。

その笑みは…どこか悲しげでもあったが…。

 

「これを見ても…そう思えるか?」

 

そう言って忍はネクサスをテーブルの上に置き、そのディスプレイに先の戦闘光景を映し出していた。

 

「…………………」

 

その映像を見て夜琉の表情が見る見るうちに驚愕に染まっていく。

 

「う、そ……これが、義兄さん…?」

 

そのあまりの禍々しさを目の当たりにして夜琉は言葉が出なかった。

 

「な、なにが…あったの…?」

 

「それはこちらが聞きたいくらいだがな」

 

夜琉の言葉に紅牙が言う。

 

「あの拳からは負の感情…特に"憎しみ"が強く感じられた。一体何に対する憎しみなのかはわからないが…」

 

実際に拳を受けた忍がそう漏らす。

 

「それにあの女の子からは…相当な魔力を感じたよ?」

 

牙狼の隣に映るオルタからフェイトはかなりの魔力を感じたという。

 

「あんな子、あたしも見たことないよ。強いて言うなら…義姉さんに似てる気もしないけど……でも、それはそれでおかしいし…」

 

夜琉も見たことが無いと言うオルタの正体も不明なままである。

 

「いずれにしろ、情報が少ないわな…」

 

胡坐を掻いてた秀一郎がもっともな意見を言う。

 

「一体、牙狼に何があったのか…」

 

「牙狼?」

 

「あいつ自身がそう名乗ってたんだよ。『邪神 牙狼』ってな」

 

「義兄さんの名前…」

 

忍の言葉に夜琉が思考を巡らせる。

 

「(考えなかった訳じゃないけど……もしかして…)」

 

そして、夜琉は自分の記憶にある牙狼と目の前にいる忍を横目で見比べていた。

 

「夜琉ちゃん?」

 

その視線に気づき、智鶴が声を掛ける。

 

「あ、いや…何でもないよ…うん、何でもない…」

 

そう言うものの明らかに何かあるようなニュアンスである。

 

「以前の話の続きだが…夜琉の世界について聞かせてくれ。確か、"神"と呼ばれる存在がいたんだよな?」

 

牙狼の素性を探るため、夜琉の世界について改めて聞く必要性が出てきたので、忍は夜琉に説明を求めていた。

 

「そうだよ。"神"…あたし達の住んでた世界の唯一にして絶対の存在。人間の誰もが崇拝していた存在…」

 

夜琉は忌々しげに語る。

 

「だけど、"神"は堕落して害悪を振りまく存在になった。それに立ち向かおうと立ち上がったのが…あたしの義理の兄である………『(くれない)』の義兄さんだった…」

 

「じゃあ、あの『牙狼』ってのは便宜上の名前になるか…」

 

「義理の兄なら本来の名前くらい知っていて当然だろう。その名前は?」

 

夜琉の説明に忍はそう漏らし、紅牙が夜琉に問いただす。

 

「それは……」

 

何故か、牙狼の本当の名に関して夜琉は言い淀んでいた。

 

すると…

 

「ひょっとして……『(しのぶ)』、じゃない?」

 

不意に智鶴がそんなことを言っていた。

 

「え?」

 

夜琉は驚いた表情で智鶴を見る。

その顔には"なんでわかったの?"と書いてあった。

 

「"忍"って…」

 

その言葉を聞き、紅牙、秀一郎、朝陽、フェイトが一斉に忍を見る。

 

「俺と、同じ名前…?」

 

そう呟いて忍もまた驚いた表情で夜琉を見る。

 

「うん…。『紅 忍』。それが義兄さんの名前だよ…」

 

諦めたように夜琉はそう答えていた。

 

「なんで…智鶴はわかったんだ?」

 

そんな忍に疑問に…

 

「それは…あの人の顔…なんだか、しぃ君に似てたから…もしかしたらって…」

 

「それはあたしも思ってた。最初に会った時、あたしは忍さんのことを義兄さんと間違えたし、あの時は深く考えなかったけど…」

 

智鶴と夜琉はそう答えていた。

 

「パラレルワールドから来た…同じ名前…同じ顔……まさか、隊長があの時濁した言葉って…」

 

朝陽もまたゼーラがあの時濁した言葉の真意に気付いたようだった。

 

「流星さん?」

 

「どういうこった?」

 

朝陽が何かに気付いたことにフェイトと秀一郎が頭に?を浮かべる。

 

「つまり、あいつは…」

 

朝陽の言葉と重なるように…

 

「「並行世界での同一人物」」

 

夜琉もそう答えていた。

 

「「「っ!?」」」

 

2人の言葉に智鶴、フェイト、秀一郎も驚く。

 

「なるほど。そういうことなら辻褄が合うこともある」

 

「確かにな…」

 

実際に技や歩法を間近で見たこともあり、忍と紅牙も何となくだが理解していた。

ただ、忍に関してはあまり納得した様子ではなかったが…。

 

「あの歩法…俺の神速に近かった」

 

「"滅牙墜衝破"と言ったか。あの技も紅神の使う"猛牙墜衝撃"に似ていたしな」

 

忍と紅牙はそう分析していた。

 

「義兄さんもあたしと同じで烈神拳を使ってたから…そのせいだと思うよ。けど…滅牙なんて技…烈神拳にはない」

 

2人の分析に夜琉もそう言う。

 

「牙狼は…邪神拳と言っていたが…」

 

「ううん。邪神拳なんて聞いたこともないよ」

 

夜琉も邪神拳については知らないようだった。

 

「他に奴が使っていた技や流派はないか?」

 

「義兄さんは…刀術にも優れてたよ。それで天使とか使徒とかを斬ってたりするのを見たことあるし…」

 

紅牙の質問に夜琉はそう答える。

 

「ますます忍に近いわね。格闘技に剣術…これで魔法戦も得意とかならほぼ確定的ね」

 

忍と牙狼の類似点の多さに朝陽が面倒そうに言う。

 

「魔法戦は…そんなに得意じゃなかったかな? どちらかと言えば、素早く動いて敵に接近、そこから一気呵成に仕掛ける、みたいな感じの戦法を多用してたよ」

 

それを聞いて…

 

「「あぁ…」」

 

なんかそれっぽい戦法、忍もしてたな…的な空気が朝陽とフェイトから漂う。

 

「それにあの腕じゃ、やれることもかなり制限されるだろうしな」

 

今更ながら牙狼の片腕が無いことに秀一郎も気づき、そう付け足す。

 

「それを差し引いたとしてもあの技量…かなりのものだぞ」

 

「そりゃまぁ、確かに…ありゃ"何年も"使い込んでた感があるしな」

 

紅牙の言葉に秀一郎も頷く。

 

「"何年も"?」

 

秀一郎の何気ない一言に夜琉が反応する。

 

「つまり、夜琉が時空転移してから向こうではそれなりの時間が経ってると…?」

 

「片腕失くしてアレだけの技量だ。可能性としては高いだろうな」

 

とは言いつつも…

 

「そもそも義兄さんがあんな"神"相手に腕を失くすとか…あたしには信じられないんだけど…」

 

夜琉はそこが納得いかないようであった。

 

「その、"神"との決戦時に何かあったという可能性は?」

 

「それは……あるかもしれないけど…あたしにはわからないもん」

 

決戦前に転移してきた夜琉にあの決戦時に何が起きたのか、知る由もなかった。

 

「こういうのは本人に直接聞いた方が速いだろうが…」

 

「そんな簡単に口を割るかね?」

 

紅牙の意見に秀一郎も難色を見せる。

 

「それに何処にいるのかも見当がつかないし…」

 

あの白い空間から転移した以上、この世界にいるのは確実だろうが…如何せん情報が無い。

 

「情報か…」

 

「とりあえず、このことは隊長にも報告しとくわ。忍、さっきの映像記録を添付しとくからセイバーに送っといて」

 

「わかった」

 

朝陽の言葉にすぐさまネクサスを操作してセイバーに映像を送信した。

 

『ほいほ~い、受信完了』

 

セイバーからも受信完了の言葉が飛ぶ。

 

それから朝陽はゼーラと通信を行い、並行世界の忍こと牙狼が来た事を伝えていた。

しかも何故か理由は知らないが、牙狼は同じ世界から来た夜琉を狙っているということも含めて…。

 

それを聞いたゼーラの反応はというと…

 

『そうか…』

 

あまり驚いた様子が無かった。

可能性として考えていたことが当たった程度の認識なのだろうが…。

 

とは言え、悪意を持って夜琉に接触することがわかっているので、十分に警戒するようにとの指示を受けていた。

 

昔の牙狼について夜琉からの話を聞いたくらいで、収穫はそれほどなかった。

だが、牙狼が夜琉を狙っている以上、いつかは対面することになるだろう。

その時に真実を知るか、それとも…。

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