魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第七十八話『結成! チームD×D』

ツェペシュとカーミラの城下町で起きたテロによる壊滅的な被害、並びに2人の"忍"の死闘と同化から5日が過ぎた頃…。

 

ルーマニアへと旅立っていた一行が日本に戻り、各神話勢力の出方を待っていた。

事が事だけにどの神話体系も大混乱となっている状態である。

 

当然と言えば当然だろう。

『禍の団』改め『クリフォト』の首領は前ルシファーの息子『リゼヴィム・リヴァン・ルシファー』。

聖杯の力によって滅びた邪龍を蘇らせて使い、量産型邪龍なんてものも作り出し、世界に混乱をもたらそうとしている。

その上、伝説の魔獣『666(トライヘキサ)』を復活させ、グレートレッドへとぶつける。

果ては各次元世界への侵攻を行い、本格的な次元戦争を引き起こそうとしているのだ。

 

さらにそのクリフォトと同盟関係にあるのは『絶魔』と呼ばれる謎多き種族組織。

 

この事態に各神話体系の主神達は過去最大の危機レベルと断定し、各神話体系において史上初の宗教や思想を超えた国際問題に発展しようとしていた。

 

………

……

 

そんな中、深夜の駒王学園では…

 

オカ研メンバー、生徒会メンバー、アザゼル、シスター・グリゼルダ、ジョーカー・デュリオ、刃狗・幾瀬 鳶雄、サイラオーグ、シーグヴァイラ・アガレス、初代孫悟空、ヴァーリチーム、紅神眷属代表兼次元辺境伯・紅神 忍、神宮寺眷属代表・神宮寺 紅牙、時空管理局代表代行・ゼーラ、特異災害対策機動部二課代表・風鳴 弦十郎、フィライト三国同盟代表・シルファーといった具合のメンツが集まっていた。

 

これはこれで第二回次元サミットを開けるくらいの規模である。

 

「……それで、上の反応はどうなっているの?」

 

顔合わせもそこそこにリアスがアザゼルに問う。

 

「流石に今回の件は軽視、無視出来ないとして今まで非協力的だったところも話し合いに応じると言ってきている」

 

全員の視線がアザゼルに注目する中、アザゼルは話を続ける。

 

「リゼヴィムの野郎は危険な思想でこの世界や他の多次元世界を混沌に陥れようとしている。現に、無視出来ない規模の破壊を吸血鬼の領土で出してしまったからな…」

 

吸血鬼の領土で起きたテロ事件。

それが約5日前の出来事である。

 

「しかもリゼヴィムは絶魔と結託している。どういった理由で結託したまでかは定かではないが、少なくとも次元戦争の本格的な開幕を狙っての事だろう」

 

次元戦争。

それはノヴァが各次元世界に対して電波ジャックした際に発していた次元間抗争のことである。

 

アザゼルは仮にグレートレッドと666が戦った場合の被害について語った。

 

「ハッキリ言って、どれくらいの被害が出るかは想像が出来ん。少なくとも戦いの余波だけでこの世界や隣接する冥界や天界とかは崩壊するかもしれん」

 

『……ッ!!』

 

アザゼルの分析に全員が言葉を失う。

 

「話の規模がデカ過ぎて実感が湧かないぞ…」

 

「確かにな。我等ミッドや各次元世界への被害も考えると、それだけでは済まないと思うが…」

 

アザゼルの言葉を聞き、最初に口を開いたのは弦十郎とゼーラだった。

 

「まぁ、人間の尺度で測ればそんなもんさ。かく言う俺も実例を見た訳じゃないから、何とも言えないんだが……ま、そんな実例なんて起きないことが一番なんだがな」

 

とは言うものの、そうも言ってられないのが現状である。

 

「そこで一つ、各勢力の首脳から提案がされた。これは以前の次元サミットでも出た議題ではあるが…これを機に本格的に設立することになった対テロ組織のチームだ」

 

その言葉に前回の次元サミットに参加していた数名を含め、その場にいた者の多くが勘づく。

 

「そう、この場にいる者達、もしくはその部下達などが対テロ組織の混成チームとして名が挙がっている。冥界の『若手四王(ルーキーズ・フォー)』。天界の御使い。堕天使からは俺や刃狗チーム。人間界からは装者と呼ばれる聖遺物の担い手達。時空管理局からは特務隊や"エース"と呼ばれる娘達。二天龍や龍王達。初代孫悟空。次元辺境伯や冥王が率いる新たな眷属チーム」

 

アザゼルが名前を列挙していくと…

 

「うちには若いのがいなくて悪かったね」

 

機嫌悪そうにシルファーがそっぽを向く。

 

「混成チームとしちゃ破格と言っていいだろうさ。何よりも物凄く動きやすい」

 

アザゼルの言うように各勢力から猛者が集っており、一部学生という肩書きに目をつむれば動きやすさとしても十分である。

 

「私は結成に賛成よ。こういう時だからこそ力を合わせないと」

 

そのリアスの発言を筆頭に…

 

「問題ないでしょう。俺もリアスや兵藤 一誠と共に戦わせてもらおう」

 

「異論はありません」

 

「こちらも。私共は主に後方支援になりそうですが…」

 

「特務隊ならいつでも貸してやる。任務とでも言えば、どうとでもなる。小娘達の方は…まぁ、何とか伝手を探ってみよう」

 

「子供ばかりに戦わせては大人のメンツに関わるが…超常的な存在との戦いではかえって俺の方が足手纏いになりかねないしな。わかった…こちらからも装者を預けよう。うちの組織ももっと身軽になれればいいんだが…」

 

(わし)も別にないぜぃ。年寄り一人よりも若いのとやった方が楽じゃい」

 

サイラオーグ、ソーナ会長、シーグヴァイラ、ゼーラ、弦十郎、初代と概ね賛成意見が占めていた。

 

「う~ん…」

 

そんな中、デュリオが腕を組んで唸っていた。

 

「どうした、何か不満か?」

 

デュリオの態度を見てアザゼルが問う。

 

「あ、いえ。結成には賛成なんですけど、名前とか必要なんじゃないかな~って思ったり」

 

「名前か…」

 

デュリオの発言を受け、皆が名前について考えていると…

 

「『D×D(ディーディー)』」

 

小猫が何気ない一言を漏らす。

その呟きに室内にいる全員が小猫を見る。

 

「いえ、その…異形達の多い混成チームだったので…つい、そう感じてしまって…」

 

小猫曰く『デビルだったり、ドラゴンだったり、堕天使の堕天…ダウンフォールだったり』との事だった。

 

「まぁ、Dから始まる単語で無理矢理こじつけてもいいんだけどな。しかし、なるほど…『D×D』か。『D×D』たるグレートレッドを守るという意味や次元戦争を防ぐという意味でもわかりやすいかもしれん。他の連中はどうだ?」

 

アザゼルが他の者に尋ねる。

 

「まぁ、変な名前じゃなきゃいいんじゃないんスかね。無難だと思いますよ~」

 

「儂はどうでもいいさね。若いもんに任せるわい」

 

「次元という"海"を守るのも管理局の仕事だ。特に異議はない」

 

「俺達は生粋の人間なんだが…まぁ、名前が必要なのは確かだし、そちらの方が数が多いのも確かだからな」

 

「はいはい。いいんじゃないの?」

 

「女王陛下、そこまで拗ねなくても……次元辺境伯としても問題ありません」

 

言い出しっぺのデュリオを始め、初代、ゼーラ、弦十郎、シルファー、忍という具合に賛成のようだ。

 

「よし、各方面も納得したところで、ジョーカー。お前がリーダーをやれ」

 

アザゼルはそう言ってデュリオを指差す。

 

「………………」

 

一瞬、指を指されてポカンとするデュリオだったが…

 

「えええええええええ!? じ、自分ですか? なんで!? どして!? いや、マジでなんでなんスか!?」

 

一拍開けて盛大に狼狽していた。

 

「今後、人間達に対しても俺達の存在が明らかとなった場合、テロ対策チームのリーダーが悪魔や堕天使とかだと体裁的にマズい。どう逆立ちしても悪役のイメージで固まってる。その点、天使なら良いイメージで満載だ。やっておいて損はない。それに人間から天使になったというのもポイント的に高い。人間にもイメージがいいぞ」

 

「そ、そんなんで…? いやいや、俺、そういうのはちょっと…というか、そういうことで言うなら、そこの冥王さんとか、人間で戦える装者の人とか、時空管理局の人とか、狼君とか…」

 

そんなアザゼルの説明にデュリオは明らかに困った様子で代案を導き出すが…

 

「冥王という存在はどの神話にも記述されていない。そんな見知らぬモノよりも天使の方が適任かと思うぞ?」

 

「装者達は基本的に顔バレしないように細心の注意を払っているからな…」

 

「うちの部隊にこのチームのリーダーを張れるような人材はいない。どいつも専門分野はあるが…」

 

「狼も…個人的に思うよりも、体裁的に悪に属してそうでな。リーダーは天使に譲りますよ」

 

紅牙、弦十郎、ゼーラ、忍はそれぞれの理由からリーダー役を辞退していた。

 

「と、いうことらしい。いい加減、腹を括れ」

 

「そうですよ、デュリオ。これは大変名誉なことです。歴史に名を残せるかもしれないのですよ? やっておきなさい。いえ、やりなさい。『切り札』を体現した役職にいる以上、やるべきです」

 

妙な三段活用を用いながらグリゼルダさんがデュリオに言う。

 

「……あ~、はい。わかりました。やりますです!」

 

こうして天界のジョーカーがチームのリーダーとなった。

 

「サブリーダーには初代でいいだろうか? 副職で大変申し訳ないが…」

 

「ええよええよ。若いもんが頭になるのは当然じゃて。儂はせいぜいケツ持ちとして機能させてもらおうかのぅ」

 

サブリーダーも決まったところでアザゼルはヴァーリの方を見る。

 

「俺はリゼヴィムが行った今回の計画の抑止力としてお前達ヴァーリチームをこの混成チームに参加させるべきだと主張する。それによって、お前達にかかっていた不信感を少しでも払拭させるつもりだ」

 

ヴァーリ達は禍の団に所属していた時期もあり、体裁的にはあまり印象がよろしくなく、不信感を抱かれている。

 

「……それは俺も同じだと思うがな」

 

紅牙もまた冥王派の首領として禍の団に参加していた時期がある。

 

「紅牙…」

 

そんな紅牙の言葉に忍が心配そうな視線を向ける。

 

「そのことで、一つ提案がある。全てを承知した上でオーディンの爺さんがお前達2人を養子に迎えたいと申し出てきた」

 

驚きの提案にその場の何人かはアザゼルを見る。

 

「先生じゃダメなんですか? 育ての親なんでしょ?」

 

思わずイッセーが口を出す。

 

「俺は堕ちた天使の頭やってた身だ。さっきも言ったが、堕天使や悪魔は体裁的にイメージが悪くてな…」

 

やれやれと言った具合に肩を竦めた後…

 

「だが、オーディンの爺さんなら話は別だ。あの爺さんは古い神の一角。そのオーディンが養子に迎えたいと言ったなら他のアースガルズの神族も他の神話の神々もおいそれとは文句は言えない。条件と制限は付くが、今よりもずっと身軽に動けることになる。ヴァーリ、紅牙、お前達はオーディンの養子になるのは嫌か?」

 

ヴァーリと紅牙は互いに視線だけを交わしていた。

 

「お前と義理の兄弟か」

 

「ふっ…それはこちらの台詞だよ」

 

軽口を叩き合った後…

 

「お互いに利益が出そうな時は協力しよう。あとは独自にやらせてもらう」

 

「今の生活でも十分だが、動けるに越したことはないか。俺も独自に動かせてもらう時はそうさせてもらう」

 

明確な答えではないにしろ、2人共概ね了解と見ていいのだろうか?

 

そうこうしてる内にチームの基本方針も決まった。

基本は普段通りの生活を送りつつ、事件が起きた時に動ける者同士で連絡を取り合いながら協力して事件解決に尽力すること。

 

「さての。若いもんで強くなりたい奴はおるかねぇ?」

 

「!? それはどういう事でしょうか?」

 

初代の言葉にリアスが尋ねる。

 

「これよりお前さん達を儂が一から鍛えるでな。全員、上級悪魔クラス、上級天使クラスにまでなってもらわんとこれを結成した意味もなかろうて。まぁ、ゆくゆくは最上級クラスになってもらうわけじゃぃ」

 

初代孫悟空による鍛錬。

それが意味することは何か…?

 

初代やアザゼルは今回のリゼヴィム達によるテロもそうだが、もっと未来を見据えているようだった。

 

………

……

 

その翌日。

 

「………………」

 

忍は朝早くから屋敷の縁側で座禅を組んで考え事をしていた。

 

「(牙狼の魂は桐葉さんの魂と共に逝った。だが、その際…残った牙狼の器は俺という存在と同化した。それがどういう反作用、もしくは副作用をこれから引き起こすかわからない。それに解放形態もまた深層世界の壁を無理矢理に壊してしまったからもう今まで通りにはいかないはず…いくら時間が無かったとはいえ、かなり無理をしてしまったことには変わりないからな…)」

 

約5日前の牙狼との死闘で崩壊してしまった深層世界は現状、牙狼の残した"人"としての器に残されたモノで補強して正常を保っているが、あくまでもそれは同じ存在だからこそ出来た芸当と言える。

再び同じようなことをしてしまったら今度は取り返しのつかないことになりかねない。

それだけ危険な橋を渡っていたとも言える。

 

それに深層世界で忍と共にあった解放形態もまた深層世界の無理矢理な破壊という事態を受け、急遽別の器が必要となっていた。

これは忍の中に巣食っていたそれぞれの解放形態の力の源が今の忍の中では共存出来ず、新たな受け皿を必要としていたのだ。

現在、各解放形態は子供ならば昔は集めていただろう"あるモノ"の中に封印という形で閉じ込められ、その中でそれぞれの力の再構築作業を行っている。

無理矢理とも言える方法で一つに束ねられた影響で、それぞれの解放形態にどのような影響があるのか未だ不明瞭であるので、忍も解放形態を使うことを今は控えている。

 

「(それに、魂は逝っても牙狼の記憶は俺の中に残っている。あいつの行ってきた業も、使っていた技も…)」

 

牙狼がこれまで行ってきた悪逆非道な行いもまた忍の中で渦巻いている。

その深き業もまた同化した忍が引き継いだ形になってしまっていた。

その中にはオルタを創造した時のものもあり、牙狼の業の深さがハッキリとわかる程であった。

普通ならこのような負の記憶を押し付けられた場合、無意識の内に封印されるのが当然だろうが、忍は牙狼と記憶を共有していたこともあり、ある程度の耐性が出来ていた。

が、全てを受け入れることは今の状態では不可能なので無意識内でセーブはしている。

それでも牙狼が行ってきた虐殺の記憶が消えた訳ではない。

 

また、牙狼の使っていた邪神拳や紅流・羅刹剣術は忍の中にしっかりと記憶として引き継いでいるが、忍がこれらを使うかと問われれば…正直、考えている最中らしい。

どれも殺人に特化したという点を除けば、技としての完成度は忍の使っている烈神拳や叢雲流魔剣術を軽く凌駕しており、完全に切り捨てるにしてはもったいないと言わざるを得なかった。

 

「(清濁併せ呑むことも時には必要か…だが、その前に夜琉やオルタのことか)」

 

あれから夜琉は1人で無茶したことを眷属の大多数から心配したと怒られていた。

それは忍も同様でいくら夜琉や雲雀を助けるためとは言え、無茶が過ぎると特に智鶴からは涙ながらに怒られていた。

雲雀についても連絡の一つもあって然るべきだと年齢を気にしない朝陽や暗七などから苦言を呈されていた。

 

「(夜琉はともかく、問題はオルタの方か…)」

 

オルタについては…牙狼がいなくなり、茫然自失気味になっていたので忍が明幸の屋敷で預かっている。

人造魔導兵器である彼女は食事や睡眠が無くても有り余る魔力によって活動が出来る。

しかし、彼女は牙狼の世界に対する憎しみや怨みといった負の感情で生まれた存在だから故に他にも色々な感情があることを知らない。

さらに生来の性格からそれらに対する興味が希薄で、牙狼という絶対の存在の喪失もあってか非常に閉鎖的になってしまっている。

 

「駒は残り一つ。なら、ついにアレの出番か…」

 

今まで使わなかった代物を使う時が来たようだった。

 

「正直、未だわからない部分もあるが、四の五の言ってる場合でもないか」

 

そう言って忍が懐から取り出したのは…狂戦士の絵が描かれた眷属の絵札であった。

 

………

……

 

その日の夜。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない。夜琉とオルタについてだ」

 

眷属を招集し、夜琉とオルタも集めた忍はそう告げた。

 

「俺は2人を我が眷属に迎えたいと思っている」

 

そんな忍の言葉に…

 

「でも、しぃ君。眷属の駒はあと一つだけじゃ…」

 

智鶴が現状の事実を言う。

 

「あぁ。だから、これを使うことにした」

 

そう言うと忍は絵札の一枚を取り出していた。

 

「絵札か。まぁ、駒が足りてない以上、そうなるでしょうけど…」

 

「絵札の効力はまだ不明瞭だったはずでしょ? それをいきなり使うなんて…」

 

「まぁ、埃を被ってるよりもマシじゃないかしら?」

 

「そうね。使えるものは何であれ使うべきよ」

 

暗七や吹雪が難色を示す反面、カーネリアや朝陽は肯定的だった。

 

「そういう訳で、駒は夜琉。君に与える」

 

そう言うと忍は最後の兵士の駒を夜琉に渡す。

 

「でも…あたしはこの世界の人間じゃ…」

 

駒を受け取ることに躊躇する夜琉。

 

「俺は牙狼から…あいつからお前とオルタを託された責任がある。その責を果たさせてくれ」

 

真剣な眼で夜琉に語り掛けていた。

 

「……………」

 

「無論。その責任だけじゃなく、俺自身が夜琉を守りたいとも思っている。これがどのような気持ちに起因しているかは関係ない。俺が最終的に決めたことだから信じてほしい」

 

たとえ、その感情が牙狼と同化したことによって芽生えた感情だとしても、それを肯定して受け入れたのは間違いなく忍自身の意思なのだと、そう言っていた。

 

「………わかった。あたしはもう天涯孤独の身…身寄りもいないし、元の世界にも戻れない。だったら、この世界で義兄さんや義姉さんの分まで生きようと思う。きっと2人もそう願ってると思うし…」

 

夜琉は改めてそう決意していた。

 

「…ありがとう」

 

「お礼を言うのはこっちだよ。あ、でも…呼び方どうしよう? 一応、義兄さんとも同化したんでしょ?」

 

「好きに呼べばいい。俺は俺でもあり、あいつでもあるんだからな」

 

「そう…じゃあ、"義兄さん"って呼ばせてもらうよ」

 

「わかった」

 

トクン…

 

互いの了を得たことにより、駒は夜琉の中へと溶け込んでいた。

 

「これで駒によるメンバーはフルになったわね」

 

「あぁ、そうだな…」

 

夏休みに駒を受け取り、今は二学期も終わりに近付いている頃。

そう考えると長いようで短い間で、15人もの女性を眷属にしたことになる。

 

「さて、待たせたな」

 

「……………」

 

話を振られたオルタは…無表情であった。

 

「夜琉にも言ったが、オルタ。君の事もまた牙狼から託されている」

 

「私は…マスターに捨てられたのですか?」

 

「そうじゃない。君には新しい道を歩めるようになっただけだ」

 

「新しい、道…?」

 

「あぁ…そうだとも」

 

首を傾げるオルタの頭を優しく撫でる。

 

「君は牙狼の負の感情から生まれてきた。だが、世の中には憎しみや怨み以外にも感情はたくさんあるんだ。俺は君にそれを知ってほしい」

 

「………?」

 

忍の言っていることがいまいちわかっていないようだった。

 

「百聞は一見に如かず、だ。これを受け取ってほしい」

 

そう言うと忍は眷属の絵札をオルタに手渡す。

 

「………」

 

それを両手で受け取った瞬間…

 

「っ!?」

 

絵札を通してオルタに忍がこれまで感じてきた感情…喜び、哀しみ、愛しさ、怒り、楽しさなど…本当に様々な感情が彼女の中に流れ込んでいた。

 

「……………」

 

その感情の波にオルタは当然のことながら困惑した。

 

「戸惑うのも無理はないか。君は今まで牙狼の側にいてその復讐しか見てこなかったんだから…」

 

忍は苦笑しながらオルタに語る。

 

「でも、これからは違う。君は多くのものを見聞きしてその中で"自分"というものを確立していくんだ。ただの人造魔導兵器じゃない"オルタ"という普通の女の子に…それは牙狼も望んだことだ」

 

「マスター、が…?」

 

「あぁ…最後に言っていただろう? "モノ扱いして、すまなかった"と…それは謝罪と同時に君に新たな道を歩んでほしいという表れだったんだ…」

 

少なくとも忍はそう感じていた。

 

「………………」

 

それを聞き、オルタは自然と涙を流す。

 

「これは…?」

 

「涙という。生きてる者なら誰でも流すものだ」

 

「涙…?」

 

「そう。悲しい時や嬉しい時、涙は自然と流れるものだ。君はきっと嬉しかったんだろうさ。牙狼に本当は大切にされていたことを知って…」

 

「私が、マスターに…?」

 

「あぁ…俺が保証しよう。君は牙狼に大切されていたんだ」

 

たとえ、酷い仕打ちをされていたとしても、その根っこの部分では大切に想っていたに違いない。

そう、忍は感じていた。

 

「………………」

 

しばらく涙を流し続けたオルタは…

 

「私は…マスターのいない世界で、生きていいのでしょうか?」

 

「生きることに資格なんていらない。君は君の道を歩み、牙狼のことを忘れないでやってくれればいいんだ」

 

忍はそう言っていた。

 

「ぁ…」

 

そんな忍の姿と牙狼の最期の姿がオルタには被って見えていた。

 

「はい……主様(あるじさま)

 

オルタがそう答えると…

 

トクン…

 

絵札もまた駒と同じようにオルタの中へと溶け込んでいた。

 

「主様、しばし休息を頂きます…」

 

そう言い残すと、オルタはその場で態勢を崩してしまった。

 

「オルタ!?」

 

オルタの様子を見れば…

 

「すぅ…すぅ…」

 

どうやら眠ってしまったらしい。

 

「寝ただけか…」

 

人造魔導兵器と眷属の絵札…その組み合わせがどのような結果になるのか…?

 

 

こうして忍は眷属の駒によるフルメンバーを揃えることが出来た。

そして、絵札による眷属も最初の1人を得ることとなった。

 

これから先、まだまだ予断は許されないが、今は一時の平和に身を寄せるのもいいかもしれなかった。

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