魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第八十一話『再会』

フェイタル学園に潜入を果たした忍は、そこで『雪白探偵』と呼ばれる私立探偵の娘と幼馴染みだという『天崎 ユウマ』と出会った。

思いがけない出会いではあったが、早々に事件の事を知る必要があったため、忍はユウマを頼りに雪白探偵に会うことにしたのだった。

 

 

・放課後

 

「急な話ですまなかったな。ユウマにも予定があるだろうに…」

 

忍は帰り支度をしながら隣の席にいるユウマに謝る。

 

「ううん、気にしないで。今日はパンドラの定期メンテナンスの日だったから…」

 

そう答えながらユウマも鞄を持つ。

 

「あ、でも雪絵ちゃんを紹介したら僕は帰らないとかな。今日はスーパーの特売日でもあるから…」

 

「買い物か? にしてはまるで主婦みたいな発言だな。両親はいるんだろう?」

 

「うん。でも…なんというか、ちょっとお母さんには任せておけないというか…」

 

何と言っていいのか、困っているような様子を見せる。

 

「? まぁ、無理には聞かないが…家の手伝いをしてるのか」

 

「そんなところ」

 

忍の言葉に誤魔化すように頷くユウマだった。

 

「そうか。なら、今度その辺も教えてくれ。俺も今は1人暮らしだから少しでも安いものを買いたいしな」

 

「うん。そういうことなら喜んで」

 

そんな会話をしながら2人は教室を出て、一年生の教室へと赴く。

 

「すみません。雪白さんっていますか?」

 

下級生の生徒に尋ねるユウマ。

 

「(何度聞いても落ち着かないな…)」

 

『雪白』という名字は忍にとってはそれなりに意味深いものであるため、別の次元世界で同じ名字を持つ家があるとは考えてもみなかったのもあってか、少し落ち着かなかった。

 

と、そこへ…

 

「ユウマ先輩。どうかしたんですか?」

 

1人の少女がやってきた。

 

「あ、雪絵ちゃん。今日はちょっとお願いがあって…」

 

そう言って忍の方を見るユウマにつられて少女もそちらを向くと…

 

「ぁ…」

 

「君は、昨日の…」

 

それは昨日ゲーセンでナンパを受けていた少女であった。

 

「あれ? 忍さん、雪絵ちゃんのことを知ってるんですか?」

 

「あぁ、昨日ちょっとな」

 

敢えてナンパの件は出さないようにして忍はそう答える。

 

「なら、話が早いかも…雪絵ちゃん、この人は紅神 忍さん。今日から僕達のクラスに編入してきた人なんだ」

 

「『雪白(ゆきしろ) 雪絵(ゆきえ)』です。昨日はありがとうございました」

 

ユウマの紹介に少女…雪絵も丁寧にお辞儀しながら忍に挨拶する。

 

「紅神 忍だ。今日はちょっと不躾な頼みをしに来たんだ」

 

「不躾な頼み?」

 

忍の言葉に雪絵は首を傾げる。

 

「あぁ、実は君のお父さん…雪白探偵に会いたいんだ」

 

「お父さんに?」

 

「ちょっとした事情があってね。話を聞きたいと思ってるんだ」

 

忍の真剣な表情に…

 

「わかりました。多分、家にいると思うのでご案内しますね」

 

雪絵も了解していた。

 

「ありがとう」

 

これで捜査の第一歩が踏めるなと内心で思っていると…

 

「それじゃあ、僕はこれで…」

 

「ユウマもありがとうな」

 

「気にしないで。また明日ね」

 

「あぁ、また明日な」

 

足早にユウマが帰路についてしまった。

 

「(確か、今日はスーパーの特売日だって言ってたな…)」

 

心なしか少しウキウキしてるようにも見えたそうな…。

 

「(そういえば、微かだったが…ユウマからも魔力の匂いがした。でも、本人は気付いてないのか?)」

 

そんなことを考えつつ、忍は目の前にいる雪絵という少女の存在にも気を配っていた。

 

「(この娘からは本当に懐かしい匂いを感じる。何故なんだ?)」

 

名前に雪白が付いていたり、懐かしさを感じることに忍はなんだか不思議な気持ちにしていた。

 

「? どうかしましたか?」

 

「あ、いや…大丈夫だ。そろそろ行こうか?」

 

「はい」

 

そう言うと、忍は雪絵の歩調に合わせて移動を開始した。

 

………

……

 

・雪白探偵事務所前

 

「ここが…」

 

「はい。私の家でもあります、『雪白探偵事務所』です」

 

「一軒家なんだな…」

 

「はい。そうなんですよ」

 

そう言いながら雪絵の先導で家の中へと入れてもらう。

 

「ただいま」

 

すると…

 

「あら、雪絵ちゃん。お帰りなさい」

 

背中まで伸ばした白銀色の髪と瑠璃色の瞳を持ち、可愛らしい部類に入る顔立ちに肌は色白で細身の平均的な体型の女性がやって来た。

ちなみに浴衣の上にエプロンというちょっと割烹着を思わせるような恰好をしている。

 

「お母さん、お父さんは?」

 

「あの人ならリビングでお仕事してるけど…あら?」

 

そこで女性は雪絵の後ろに控える忍の姿を捉える。

 

「(雪女…?)」

 

その匂いを嗅いで忍は驚く。

 

「(雪白姓の…雪女…)」

 

どこか引っ掛かる単語に忍の動悸は無意識の内に速くなっていく。

 

「あら、あらあら…もしかして、雪絵ちゃんにも彼氏が出来たの?」

 

「ち、違います…!////」

 

母親らしき女性の言葉に雪絵は赤面しながら否定していると…

 

「なんだ、騒がしい。雪絵に男がどうしたって…?」

 

リビングの方から資料を持った、背中まで伸びたボサボサ気味の白銀色の髪と真紅の瞳を持ち、渋めのワイルド系な野性味溢れる顔立ちに全体的な線は細くもなく太くもないという感じの男性がやって来た。

 

「あなた、あなた。雪絵ちゃんが男の子を連れてきたの。しかも結構なイケメン君よ!」

 

男性に駆け寄り、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる女性を見て…

 

「男だぁ? あの雪絵がか? おいおい、何の冗談……だ…?」

 

男性が忍の方を見るのと同時に驚愕したような表情と目となり、手にしていた資料をバサリと落としていた。

 

「(この匂いは……俺と同じ、狼…?)」

 

男性から感じる匂いに忍の中で何かが溢れる。

 

「し、忍…なの、か…?」

 

「え…?」

 

男性が恐る恐るといった感じで呟くと共に、女性の方も驚いたように忍を見る。

 

「? どうしてお父さんが"紅神"先輩の名前を…?」

 

疑問を抱いた雪絵が発した一言で…

 

「「っ!!!」」

 

『紅神』という名字を聞き、男性と女性の表情がいよいよもって穏やかじゃなくなる。

男性はバツが悪そうに、女性は口元に両手を当てて今にも泣きそうな表情になる。

 

「お、お父さん? お母さん?」

 

その見たこともない表情に雪絵は困惑し、無意識に忍の制服の袖を掴んでいた。

 

「……………」

 

そんな3人とは対照的に忍は…どこか冷静だった。

だが、その沈黙はかえって重く、嵐の前の静けさのようにも感じられていた。

 

そして…

 

「俺の名前は…紅神 忍。あなた達の…"息子"でいいんだな?」

 

そう、静かに確認するように呟いていた。

 

「え…?」

 

その言葉に雪絵が忍を見上げる。

 

「お兄、ちゃん…?」

 

それは親子の再会ではなく、家族の再会だった。

 

 

 

場所を雪白探偵事務所のリビングに移し、リビングにあるソファーに座る一同。

座った位置は大型テレビに対して横向きに配置された大きめのソファーに男性と女性、その横にある大型テレビを正面から見れる小さめのソファーに雪絵、男性と女性の反対側のソファーに忍である。

その中心にはソファーがコの字状に囲われているような形で少し大きめのテーブルが置かれており、さっきまで男性がそこで仕事をしていたのか資料が散らばっている。

また、資料に零れないようにお茶が出されている。

 

「「「「………………」」」」

 

何とも言えない空気が漂い、誰一人喋ろうとしない。

 

それはそうだろう。

片や捜してきた両親が別次元で探偵業などやってるのだから対応に少し戸惑っている。

片や結果的に地球に置き去りにしてしまった実の息子になんて説明したらいいのかと悩んでいる。

片や昨日助けてくれた恩人が実は兄だったなんて…普通に考えて誰が思うだろうか?

 

「(そういえば、"あの人"から伝言を預かってたな…)」

 

深層世界ので出来事を思い出し、忍は口を開くことにした。

 

「ある人から親父に伝言を預かってる」

 

「あ、ある人…?」

 

実の息子に何を言われるかと思い、男性もおっかなびっくりに聞き返す。

忍は自分の左目を右手で隠し、右目を男性に向けると…

 

「『悪かったな…先に逝ってるぜ』」

 

そんな忍の言葉と姿に…

 

「ッ!!?」

 

男性は兄である狼夜の姿を忍に重ねていた。

 

「兄さん…なのか…?」

 

右手を顔から離しつつ忍は頷く。

 

「遺言だよ。伯父さんのね…」

 

「遺言、か………そうか…兄さんはもう…」

 

それを聞いて男性は…天井に顔を上げて…静かに目を閉じていた。

その眼尻にはうっすらと涙が溢れていたのを忍はもちろん、隣に座っている女性や雪絵も見逃さなかった。

 

しばらくしてから…

 

「お前を地球に置いてっちまった時以来だから…俺らの名前なんて忘れてるよな…」

 

気を取り直したのか、軽く眼を擦って涙を拭うと男性はそう言っていた。

 

「正直…両親の名前すら憶えてなくて申し訳ないと思ってる」

 

そのことに関しては忍も居心地が悪そうだった。

 

「別にいいさ。お前はまだ小さかったからな。俺の名は『狼牙(ろうが)』だ」

 

「えっと…私の名前は『雪音(ゆきね)』だよ…」

 

男性は『狼牙』、女性は『雪音』とそれぞれ名乗った。

親子なのに改めて自己紹介するというのもなんだか変な感じではあるが…。

 

「しかし、なんだな…何から話していいのやらわからねぇな…」

 

「それは俺も同じだよ」

 

狼牙の言葉に忍も苦笑しながら同意していた。

 

「ね、ねぇ…忍君は、私達のことをどう思ってるのかな?」

 

おずおずと雪音が忍に尋ねる。

 

「やっぱり、私達がいつまでも迎えに行けなかったから…恨んでる?」

 

雪音は雪音なりに気にしているらしい。

 

「……正直、わからない。とりあえず、会ったら親父は殴ると決めてたんだがな…」

 

「おい…」

 

忍の殴る宣言に狼牙が声を上げるが…

 

「実際に会うと、なんだかわからなくなった……なんで俺の前から突然いなくなったんだろうとは思ってはいるが…」

 

忍自身、どうしていいかわからなくなっていた。

 

「それは…」

 

「俺が話す。当時、俺達は明幸家に世話になってた。お前はお嬢のお気に入りだったから放っておいたんだがな。ある時、当時の幹部が俺達の存在を疎ましく思ってたらしくてな。悪魔の力を借りて転移魔法陣を敷いて、俺達をそこに誘き出した。だが、その魔法陣は不完全だったらしくてな。何の因果か、俺と雪絵を身籠ってた雪音は次元跳躍して、このストロラーベに飛ばされちまったんだよ」

 

そう簡潔に説明したのだが…

 

「つっても悪魔だの転移魔法陣だの言われてもピンと来ないか…」

 

説明の後にあはは、と力なく笑う狼牙だった。

 

しかし…

 

「なるほど。だからアレ以来、あの人の姿を見なかったのか。きっとケジメをつけさせられたんだろうな…」

 

忍は妙に納得したような様子だった。

 

「あれ!? 通じてる!?」

 

忍の反応に逆に狼牙の方が驚いていた。

 

「俺もここ数ヵ月の間に色々とあったからな…」

 

しみじみと思い返してみて、遠い眼をしながら乾いた笑いを浮かべる。

 

「というか、お嬢とはどうなんだよ?」

 

そんな様子の忍を見て、狼牙は話題転換として冗談半分でそう聞きながらお茶を(すす)る。

 

「智鶴と? 既に将来を誓い合ってるが…?」

 

平然と言ってのける忍に…

 

「ぶっ!?」

 

狼牙としては予想外の答えにお茶を噴き出してしまう。

 

キィン…

 

ある程度、予想していた忍は資料にお茶が掛からないように冷気を使ってテーブルと自分をきっちりとガードしていた。

 

「汚ねぇな…というか、自分から振っておいてその反応はどうなのよ?」

 

呆れた物言いで忍は冷気を収束して凍った狼牙の噴き出したお茶の一点に纏めると、キッチンの流しに移動させていた。

 

「忍君…今のって妖力…?」

 

「あぁ…まぁ、どちらかと言えば、魔法なんだが…」

 

雪音の驚いた様子に忍はちょっと困ったようにそう答える。

 

「今のが魔法…実物を初めて見ました…」

 

雪絵がパチパチと拍手を送る。

 

「そんな大層なもんじゃないんだがな…」

 

雪絵の反応に若干の気恥ずかしさを感じる忍だった。

 

「げほっ、げほっ……まさか、お嬢とそこまでの関係になっていたとは…」

 

咳をしながら狼牙は忍と智鶴の関係性に驚きを感じていた。

 

「あと、これもかなり言いづらいことなんだが……俺の他にも今の明幸家には堕天使や雪女、冥族等などが居候として暮らしてる。あと、義妹も出来てしまった」

 

「はぁ!?」

 

あまりにあまりの衝撃告白に狼牙は思わず叫んでしまう。

 

「さらに言えば、俺は彼女達を守ると誓っている」

 

「あら、まぁまぁまぁ♪」

 

その発言に今度は雪音が嬉しそうに声を上げる。

 

「いやいやいや、待て待て待て!! 一体全体、何があったらそうなる!? 三大勢力的に悪魔の領内に堕天使がいるのはマズいだろう!? ていうか冥族ってなんだ?!」

 

「親父よ。情報が古いぞ。この数ヵ月の間に今や三大勢力は協力体制を敷いている。しかもそれを先導したのは堕天使前総督のアザゼルだ。各神話体系にも協力体制を仰いでる」

 

「なにぃぃぃ!?」

 

その事実に狼牙は絶叫していた。

 

「というか母さん」

 

「なぁに?」

 

忍に『母さん』と呼ばれて雪音はちょっと嬉しそうだった。

 

「俺に従姉妹の許嫁がいるとか知らなかったぞ」

 

「あら? なんでそのことを?」

 

「氷姫さんから聞いたからだよ」

 

ここで氷姫の名を出す。

 

「氷姫ちゃんに会ったの!?」

 

「あぁ。おかげで俺がどういう存在なのかわかった。雪女の血を引いていながらも男として生まれた雪女の里でも初めての事だったんだろ? そこで吹雪…氷姫さんの娘さんとも会って今は明幸家に居候中だ」

 

「あ、だからさっき雪女も居候してるって…」

 

「そういうこと。ちなみに俺達の遠い先祖に冥族っていう種族がいてだな。俺達がリンカーコア…雪女の里流に言えば、魔力玉か? それを遺伝してるのはその種族の血が流れてるからなんだよ」

 

「へぇ~。魔力玉にそんな秘密があったんだぁ」

 

冥族の祖先がいる事を雪音に教えたが、どうも雪音は忍と話せてることが嬉しくて頭にあまり入ってないように見える…。

 

「この数ヵ月、お前の身の回りで一体どれだけのイベントが起きたんだよ…?」

 

頭を抱えた狼牙は忍にそう問いかけていた。

 

「それはもう色々と…俺の身にも色々と起きたしな…」

 

そうして、忍は自分の身に何が起きたのかを話すのだった。

 

一学期、悪魔や堕天使、時空管理局との邂逅。

マッドサイエンティストに異種族の血を二種類も注入させられたこと。

聖剣騒動、フィーネとの戦い。

三大勢力の会談と、テロ組織『禍の団』との開戦。

 

夏休み、冥界入りに眷属の駒の入手。

雪女の里での戦い。

 

二学期、狼夜こと邪狼との死闘。

箱舟を巡る装者の戦い、邪神ロキとの戦い、修学旅行での英雄派との戦い、別次元の世界で起こった動乱への介入。

辺境伯の地位を受け取ったこと。

学園祭で旧友との出会い。

ミッドへの留学、友人の中級悪魔昇格で起きた襲撃事件。

始龍との邂逅、友人達とのレーティングゲーム。

伝説の邪龍達が復活し、吸血鬼の領土が壊滅的な被害を被ったこと。

前ルシファーの息子が『クリフォト』を組織し、多次元世界に攻めようと企んでいること。

時空を越えたパラレルワールドからやって来たもう1人の自分との死闘と存在の統合。

対テロ組織『D×D』の発足。

 

そして、一族の仇敵『絶魔』の暗躍と、今回の件で調査にやって来たこと。

 

をれを聞き…

 

「なんというか…過密だな」

 

狼牙はそう言うだけで精一杯だった。

 

「「………………」」

 

忍の体験してきた様々な出来事に雪音と雪絵は言葉を失っていた。

 

「話の流れでわかったかもしれないが…狂気に満ちた伯父さんにトドメを刺したのは、俺だ。その時に本来の右目も潰れた。その後、別世界で伯父さんの右眼を移植してもらって今に至る。その際に伯父さんの残留思念が俺の中で留まり、助けてくれた。そして、最期には一族のことや"真なる狼"の情報も教えてくれて、遺言もその時に聞いたものだ」

 

「そう、だったのか。あの兄さんが…」

 

喧嘩別れのまま、遂に二度と会うことのなかった兄の最期を息子に聞かされ、狼牙は複雑な心境だった。

 

「……今日は驚くことの連続だ。不本意とは言え、地球に置いてきちまった息子を娘が連れて来るわ。兄さんは息子の手で死に、その息子はここ数ヵ月で色んなことを体験してるときたもんだ」

 

ソファーにぐったりと体を預けながら独り言ちに呟く。

 

「そうだね…」

 

雪音もまたなんだか疲れたようにソファーに体を預ける。

 

「俺も…まさか、こんな形で両親に出会えるとは思わなかった。それに妹がいたってのも驚いたんだが…」

 

そう言いながら忍は最初から冷めていたお茶を啜る。

 

「お兄ちゃんのことは…お父さんとお母さんから聞いてましたから…」

 

雪絵は忍の隣に移動すると…

 

「こんなに素敵な人で、良かったです…」

 

ピトっと寄り添い、忍に肩に頭を乗せていた。

心なしか雪絵の表情も上気しているようにも見えなくもないのだが…?

 

「あ~、雪絵のブラコン化が加速していくな…」

 

「いったい俺のいない間に雪絵に何を吹き込んだ?」

 

狼牙の言葉に忍は何やら悪寒を感じた。

 

「えっと…『あなたにはお兄さんがいるの。ここにはいないけど私達の大切な家族だから会えたらちゃんと挨拶しましょうね。きっと素敵に育ってくれてるはずだから…それに釣り合うようにあなたも素敵な女性になってお嫁さんになってあげてね』だったかな?」

 

思い出すように雪音が答える。

 

「それを雪音は赤ん坊の頃から幼稚園か、小学生の頃まで言い聞かせてたからな」

 

狼牙もほのぼのとした感じでお茶を啜る。

 

「雪女の里の癖というか風習は直ってないのな…つか、血の繋がった妹に何を吹き込んでるんだ!?」

 

サラッと流しそうになったが、忍はさっきの雪音の発言にツッコミを入れる。

 

「え? 実家にいた頃はそういうのも当たり前だったけど…?」

 

「マジか!? どんだけ深刻だったんだ、雪女の里の婿事情!!? つか、親父も何とか言ったらどうだ!?」

 

雪女の里の深刻な婿事情を聞きながら、お茶を啜る狼牙に矛先を変える忍だったが…。

 

「兄さんが死んだ以上、俺達霊狼の血はかなり貴重だからな。実の兄妹だろうと血が濃くなって未来に繋がるなら別にいいだろ?」

 

こちらもサラッととんでもないことを言い出す始末。

 

「おおぅ…ここにも身内の貞操に関して緩い考えの奴らがいた…!!」

 

氷姫といい、雪音といい、狼牙といい…何故、忍の親族は身内に対してこうも貞操観念が破綻してるのだろうか?

事情が事情だからか?

 

Case.1『雪女の里の婿事情』。

雪女は基本的に女系。

生まれてくるのは基本が女(忍という例外は除く)。

よって外から婿を探さないとならない。

しかし、極寒の世界に順応出来る男が一体どれだけいるだろうか?

なら、男が複数の女性と関係を持つしかない。

狼牙やセラールは共に1人の女性と添い遂げてるため、除外するが…。

その点、雪女の血を引いていながら男である忍は種の存続のために複数の女性と結ばれるべきだと考えられる。

それがたとえ、従姉妹や実の姉妹であろうと…。

 

Case.2『霊狼』

地球によく似た惑星の神の使者として繁栄していた。

しかし、絶魔によって衰退し、絶滅の危機にまで瀕してしまった。

その中で、生き残ったのは神を捕食した狼の直系である狼夜と狼牙のみ。

しかし、前者は死亡。

後者は雪女との間に二児を設けることに成功。

しかし、3人しかいない霊狼が果たしてこれから子孫を残せるだろうか?

だったら、身内だろうと血を濃くするために実の兄妹だろうと関係を持ってもいいんじゃないか?

という危ない考えに至る可能性が高い。

 

(以上の2つは勝手な憶測に基づいた推測の域を出ない不確定な情報なので、信憑性はかなり低いとされるので悪しからず)

 

そんな風に忍が頭を抱えていると…

 

「お兄ちゃんは…私がお嫁さんになるの…ご迷惑ですか?」

 

うるうるとした瞳で忍を見上げる雪絵はそう問う。

 

「あ、いや、別にそういう訳じゃないんだぞ? 世間的に考えてだな……雪絵みたいな可愛い子がお嫁さんになってくれると言ってくれるのは大変嬉しいんだが、俺と雪絵は実の兄妹な訳であって、それを世間様が許すかと言われれば…多分、絶対に許されないと思う訳で…」

 

今にも泣きそうな雪絵を見て忍はしどろもどろになりながら世間体の話をする。

 

「お前らが自分から兄妹だなんて言わなきゃバレねぇだろ?」

 

「そういう問題か!?」

 

「この世界の戸籍上は忍は家族じゃないからな。実際は家族なんだが…」

 

"この世界"と限定した場合ならそうかもしれないが…。

いや、事実を非公開にしたままなら忍と雪白探偵事務所は無関係を貫けるのか?

 

「アンタら、どうしても俺と雪絵をくっ付けたいのか?!」

 

再度言っておくが、忍と雪絵は血の繋がったれっきとした兄妹である。

……………その事実は現在、この4人家族以外知らないが…。

 

「だってなぁ。変な男に引っ掛かるよりも狼の血を濃く残せるお前の方がまだマシに思えてな」

 

「そうだよ。家族なんだから一緒にいても不思議じゃないのよ?」

 

狼牙と雪音の言い分は何とも言えないモノだった。

 

「外では紅神先輩か、忍先輩って呼びますから…家ではお兄ちゃんって呼んでもいいですよね?」

 

雪絵も雪絵で別方向の心配をしていた。

 

「こ、この家族は…」

 

本当に困ったように頭を抱える忍だった。

しかし、忍もまたこの家族の一員であり、眷属という形で自分の身を呈してでも守りたい女性を囲っているので、完全に人の事は言えないのである。

 

「あら、もうこんな時間」

 

すると、雪音が時計を見て既に暗くなってることに気付く。

 

「今から作るから待っててね♪ あと、忍君の分も用意するからね♪」

 

「あ、なら私も手伝います」

 

雪音と雪絵がキッチンに移動し、"4人分の夕食"を準備する。

 

「いや、流石にそれは…」

 

そう言ってソファーから立とうとする忍を…

 

「ば~か。家族なんだから遠慮なんてするんじゃねぇよ。つか、一家全員揃っての飯が食える日がくるなんてな…」

 

狼牙が無理矢理に座らせてそんなことを言う。

 

「………そっか…そう、なんだよな…」

 

狼牙の呟きに忍も感慨深そうにそう漏らす。

 

「(やっと…見つけることが出来た、俺の家族…)」

 

そう改めて考えると、忍は泣きそうな気持ちになるが、食事前ということもあってグッと堪えていた。

 

 

 

こうして忍はずっと探し続けていた両親…いや、家族との再会を果たした。

一家団欒の食事をしながら忍は家族の味なんだと、ちょっと冷たい食卓を前に思っていた。

時間が時間だったので、今夜は泊めてもらうことにした。

忍は1人で帰るくらい大丈夫だと言ったのだが、雪音がそれを許さなかった。

せっかく会えたのに、明日起きたらこれが夢だったんじゃないかと思ってしまいそうで怖いから泊っていってと…。

その熱意に当てられ、忍も結局は折れてしまって泊まることが確定した。

そして、案内された部屋は…もしも、忍と再会出来た時のために空けていた部屋だったらしい。

つまり、忍の部屋があったのだ。

ベッドと蒼いカーテン、勉強机しかない簡素な部屋だったが、それでも自分の部屋があったことに忍は少なからずの驚きを覚えた。

そして、忍はその部屋で一夜を過ごすこととなった。

 

今回の事件の概要を聞くのは明日になりそうだ。

だが、それ以上に大切なモノを忍は取り戻したのかもしれない…。

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