魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第八十三話『乙女の祈り』

雪絵のファンクラブらしき集団を難癖をつけられた忍は向こうの提案でパンドラで勝負をすることになった。

 

パンドラへの登録を済ませ、初の電脳世界にログインを果たした忍。

装備を調達し、いざ勝負の場へと赴く。

 

しかし、忍は現実世界と仮想世界との違いを思い知ることになる。

 

 

 

『パンドラネットワーク・コロシアム』

 

円形状の闘技場らしき場所の中央広場、その中心で待っていたのは…

 

「逃げずによく来たな」

 

重厚な騎士甲冑を身に着け、左手に大型の五角盾、右手にバスタードソードを保持する如何にも重騎士といった風貌のスポーツマン的な奴だった。

 

「生憎と、逃げるなんて選択肢を選ぶつもりはないんでね」

 

それに対峙するように忍は立つ。

ちなみにユウマと雪絵は観客席から戦いの様子を見ることになっている。

 

また、新着情報で挑戦状を出したせいか、観客もそれなりに集まってしまっている。

 

「公衆の面前で恥を掻く前に降参したらどうだ? 初心者」

 

「降参なんてしてたまるかよ」

 

そう言いながら忍は鞘に収めた二刀を抜く。

 

「ふんっ、そんな初期装備で俺に勝つなど…!」

 

相手は盾を構え、後ろ側に剣を保持する形を取る。

 

「(相手は防御の型か…ならば、一気に加速して懐に入ってから手数で勝負だな)」

 

そう考えた忍は…

 

『デュエル・スタート』

 

その表示が出た瞬間に一気に加速する。

 

が…

 

「(っ!? 思ったよりも速度が出ない!?)」

 

現実感覚で足を動かすものの、アバター自身の速度はそれほど速く動く訳ではなかった。

言うなれば、最高でも神速の一割程度か、それ未満の速度しか発揮できていないという感じであった。

それに気付いた忍は、即座急停止しながらバックステップで後退した。

 

しかし…

 

「その程度の速度で俺を翻弄する気だったのか?」

 

動いていたのは相手も同じであり、速度は忍程ではないが、確実に距離を詰めていた。

 

「ッ!?」

 

そして、距離がそんなに開いてないことに忍も気付くが…

 

「遅い!」

 

後ろに構えていた剣が忍に襲い掛かる。

 

「ちぃっ!!」

 

その剣を忍は左の刀で受け止めるが…

 

グググ…!!

 

攻撃力のステータス差から来る力によってじりじりと押されていく。

 

「(お、重い…!?)」

 

いつもの"現実世界"の忍ならば軽く受けられる剣も"仮想世界"の中では重く感じてしまっていた。

 

「(こ、これが仮想世界での感覚なのか…!?)」

 

今更ながら忍は現実世界と仮想世界の違いを痛感していた。

その戸惑いは相手にも見抜かれているらしく…

 

「ふんっ、やはり初心者だな。この程度の感覚差異で自分の動きが出来なくなるとは」

 

「ぐっ…」

 

忍は右の刀を鞘に収めると、両手で左の刀を持って相手の剣の軌道を逸らす。

弾き返すのではなく、軌道を逸らすことがステータス的に限界なのだ。

 

「このくらい想定内だ!」

 

剣を逸らされたことを意に返さず、相手は忍に回し蹴りを食らわしていた。

 

「ぐっ…!?」

 

思いの外、重い一撃を食らって忍の体力が1/3くらい減ってしまう。

これは単純に相手の攻撃力が忍の低い防御力を上回り、装備の違いもあって弾き出されたダメージ量である。

 

「随分と減ったな? さっきの速度を見る限り、スピードタイプか? なら、他のステータスが低いのも納得できる。が、俺相手には相性が悪かったな!」

 

「くっ…(言いたい放題言いやがって…!)」

 

とは言え、今回の言は相手側の方が正論だろう。

 

速度を最大値にして他を低ステータスにした忍に対し、相手は重騎士という風貌から推測するに体力、攻撃力、防御力の三つにステータスを多めに割り振っている可能性が高い。

忍が貸し出し用の初期装備に対して、相手はランクに応じた相応の装備を揃えている。

忍はパンドラに登録したばかりの素人で、相手はパンドラ歴もランクから考えてそこそこ長いのだろう。

さらに言えば、相手の指定した場所で忍は戦っている。

これほどまでに不利な状況も珍しいものだと思う。

 

これが現実世界となれば、また話は違うのかもしれないが…ここは仮想世界である。

現実の感覚で戦えるほど仮想世界の戦闘は甘くないということなのだろうか…。

 

「(とにかく、相手の隙でも突かないことには厳しいか…)」

 

そう考えて忍が再び右の刀を抜いたところで…

 

「ふっ…シールド・バッシュッ!!」

 

相手はそれも織り込み済みといった感じで盾を突き出したままの突進を仕掛けてきた。

 

「(マズいっ!)」

 

忍はその突進を両手の刀をクロスさせて防御しようとするが…

 

「忍さん、それは悪手!?」

 

ユウマの叫びも虚しく…

 

ガッ!!!

 

「ぐぁっ!!?」

 

忍はその突進を受けてコロシアムの壁際まで押し込まれてしまう。

 

「やはり、所詮は初心者! この程度のことも読めないとは!」

 

「ぐっ!」

 

壁際に押し込まれたことと盾によって壁に押し付けられていることによるダメージが忍のただでさえ少ない体力に蓄積されていく。

 

「こ、の…!!」

 

忍はありったけの力を使って押し返そうとするが、スピードタイプの非力さがあって少ししか押し返せないでいた。

 

「無駄だ。スピードタイプの貴様では抜け出せまい」

 

相手の言う通り、元々のガタイの良さも相俟って重騎士の押さえ込みから忍は抜け出せないでいた。

そうしてる内にもダメージは蓄積していき、危険ゾーンに突入した証としてレッドアラートが忍の耳に響き渡っていた。

 

「(くそっ…完全に甘く見てた…心のどっかでゲームだからと油断してたのか? これって、慢心だよな……そうだよな…よくよく考えればわかることじゃないか。この仮想世界では、現実の肉体で得た能力が十分に発揮出来るわけない。何故なら、ここは"仮想世界"なんだから…いくら感覚があってもそれを活かすための能力は今のアバターには備わっていない。俺は登録したてなんだから…)」

 

レッドアラートを耳にしながら忍は考えていた。

 

「(そうか…ここでは俺は…"ただの人間"なのか。特別な能力も無ければ、嗅覚も人並み、叢雲流の先読みも無い、五気の存在も無い……そう考えると、俺って…最近は能力に頼り過ぎてたんだな……昔は物覚えだけが取り柄だったにな…いつの間にこんな能力に頼るようになってたんだろう…?)」

 

そんな意識が別の所にある様子を見て…

 

「戦意喪失か。ならば最後くらい、俺の手で葬ってやる!」

 

そう言って相手は盾の向こう側から剣を忍の顔目掛けて突き立てようと構えていた。

 

「忍先輩!!」

 

雪絵の叫び声が聞こえた瞬間…

 

「ッ!?!」

 

ギィンッ!!!

 

左の刀で相手の剣の軌道を逸らし、顔も逸らしてダメージを受けずに済んだ。

と、剣の刺突に邪魔だったのか盾も離れていたため、その隙を突いて忍はその場から脱出し、コロシアムの中央へと移動していた。

そして、考える。

 

「(俺は…あいつに勝てるのか?)」

 

体力も残り僅か、これ以上のダメージは致命傷になりうる。

アバターの感覚もやっと掴み始めたところだが、忍の状況としては圧倒的な不利と敗北の確定といったところだろう。

 

「(俺が負ければ…雪絵と距離を置くことになる。せっかく会えた家族から離れることになる…?)」

 

そう考えた瞬間…

 

「(そんなの御免だ。やっと出会えた家族だぞ? そう簡単に諦められるわけにいくかよ…!!)」

 

だが、相手との力量の差は歴然。

 

「ふんっ、九死に一生を得たところでこの戦いの結末は変わらん」

 

そう言って再び相手は盾を前に突き出し、剣を後ろ側に回す構えを取る。

 

「(あの構えは…剣を後ろに回すことで一見防御に見せているようで実は攻撃にも転用可能な構えか。攻防一体を体現してるのか…?)」

 

そこでふと忍は気付く。

 

「(相手の事をよく見て冷静に分析し、攻撃を回避し続ければ…もしかしたら…)」

 

しかし、それは難易度で言えばかなり難しいことである。

一撃でも見誤れば、そこで負けが確定してしまうのだから…。

 

「("物覚えだけが取り柄のただの人間"、か………いいじゃないか、それでも…勝てる可能性があるなら、俺はなんだって…)」

 

そう考えを纏めると、忍は相手の一挙手一投足に己の全神経を集中させて注視する。

 

「もう抵抗も無駄だと感じたか。ならば、潔く散るがいい!!」

 

相手の勝負を決める一撃が忍に襲い掛かる。

 

が…

 

ヒュッ!

 

聞こえてくるのはデュエル終了の合図ではなく、風を斬る音だった。

 

「なに?!」

 

その出来事に勝利を確信した攻撃を放った本人も驚く。

 

「………………」

 

忍は黙って次の相手の動作を見る。

 

「こんなの、ただのまぐれに決まっている! 次で仕留める!!」

 

そう叫びながら相手は刺突の構えを取る。

 

「(刺突、動きから見て3秒後…)」

 

忍が相手の動きを注視してその動きを予測する。

予測通り、その3秒後に刺突が繰り出され、忍はそれを最小限の動きで回避してみせた。

 

「ッ!? これも避けられただと!?」

 

まぐれは二度も続かない。

しかし、相手は忍が初心者だということもあり、今のは偶然が重なっただけのことだと割り捨てる。

 

「次こそは!」

 

そう意気込んで忍に仕掛けるが、結果は先と同じ。

 

何度も繰り返される攻撃の雨だったが、その全てが回避され続けていた。

 

「(何故だ!? 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ…!!!)」

 

たった一撃を与えるだけで勝敗が決するというのに、相手の攻撃は一向に忍に当たる気配が無かった。

その事実に相手の動きは散漫になっていき、攻撃も大振りなものが多くなってきていた。

 

「凄い…」

 

その光景にユウマを始め、観客席で観戦していた者達も驚愕を覚えていた。

 

ランク3の重騎士相手に初心者がその攻撃を回避し続けている。

それも当たれば、即終了という現状でだ。

最初の試合運びから見て、皆重騎士が勝つと確信していたし、初心者には気の毒だが、面白半分、興味半分、話のネタになるかと思って見に来た野次馬も多かった。

だが、今の状況はその絶対的な勝利条件を覆そうとしている初心者に注目が集まっていた。

 

「(だいぶ動きに隙が出てきたか…)」

 

相手の動きが散漫になってきたのを見て、攻撃を回避し続けていた忍が攻勢に転じようとしていた。

 

「(しかし、相手を一撃で仕留めないともう後がないしな…)」

 

そう考えながらもしっかりと攻撃を回避するくらいに余裕が出てきていた。

 

「(あ、そういえば…入る前にユウマに教わったことがあったな…)」

 

そこで忍は決闘前にユウマに教わったことを思い出す。

 

………

……

 

・決闘前のコロシアム前

 

「スキル?」

 

「はい。冒険者には初期ステータスを割り振った時点で、そのステータスに合ったスキルがランダムに選定される仕組みになってるんです」

 

「へぇ、そうなのか」

 

「だから、戦う前に確認しといた方が良いと思いますけど…」

 

「必要ない気がするが…」

 

この時の忍はそう言っていたが…

 

「忍さん、油断してると手痛いことになりますよ? 相手は格上の相手なんですし…」

 

ユウマに窘められる。

 

「(ゲーム内では格上だけど、現実ならまず負ける気はしないが…)」

 

そう思ったのだが、ユウマに窘められた手前、確認しない訳にもいかずにステータス画面を開いて与えられたスキルを確認する。

 

「えっと…俺のスキルは、『逆境の牙』?」

 

ステータス画面に表示されたスキル名を見て忍は首を傾げる。

 

「カウンター系ですね。相手との体力差が開いてる状態で、相手の攻撃を逆利用して攻撃を放つカウンター系の中でも難易度の高い部類に入るスキルですよ」

 

「ふ~ん…」

 

ユウマの説明を聞きながら忍は"まぁ、使うことはないだろう"と考えていた。

 

「このスキルで気をつけることは相手との体力差です。忍さんの場合は攻撃力と防御力が最低限しか備わってませんから…それに体力も少なめですし、無理に体力差を広げるとかえって一撃で倒されてしまう可能性も高いんですよ。でもその分、体力差が開いてる状態なら最低限の攻撃力でも狙う部位によっては格上のランク冒険者相手でも一撃で倒せる可能性もあるんですよ」

 

「狙う部位?」

 

「はい。部位によって発生するダメージ量も変動するんです。例えば、胴体よりも手足の方がダメージ量が多くなります。そして、一番ダメージ量が高いのが頭なんです」

 

「なるほど」

 

「使うスキルと狙う部位、武器の特性、防具の相性など…パンドラの対戦ではそういう細かいことも気にしないといけないゲームなんですよ」

 

この時、忍はユウマの言葉を話半分で聞いていた。

 

………

……

 

・現在

 

そんなことを言っていたユウマの言葉を今になって痛感した忍は…

 

「(真面目にしっかりと聞いて作戦を立てればよかった…)」

 

後悔の念を強く抱いていた。

 

「(だが、今はこのスキルに感謝しないとな)」

 

体力差は十分開いている。

さらに言えば、相手の動きも散漫になって付け入る隙はある。

あとはスキルを使うタイミングと、相手の攻撃をどう利用するかに掛かっている。

 

「くそぉぉぉぉ!!!」

 

相手は苛立ちの末、再び盾を正面に構える。

 

「シールドバッシュッ!!!」

 

盾を正面に構えての全力突進。

 

「(ここだ!)」

 

ここが勝負所と踏み、忍はスキルを発動させる。

 

『スキル発動・逆境の牙』

 

忍の体を赤いオーラが覆い、忍は直線に突進してくる相手に対し、一気に駆け抜けてギリギリ当たらない程度の距離を保ちながら相手の横側に移動し、二刀の刃の部分を相手の盾に向けていた。

 

そして…

 

ギィンッ!!!

 

盾が刃に激突した瞬間…

 

グルンッ!!!

 

忍の体が一回転するように回り…

 

ゴスッ!!!

 

相手の後頭部に二刀の峰が当たり…

 

「ッ!!?!?」

 

相手の意識を刈り取ると同時に一気に体力ゲージを逆転させていた。

逆転と言っても忍よりも体力ゲージが低くなった程度だが…。

それでも相手の意識を刈り取ったのは大きく…

 

『ブライアン、意識不明により戦闘続行不可能。よって勝者をシノブとする』

 

そのような画面がコロシアムの観客席にも見えるように大きく表示されていた。

 

「(電脳世界でも気絶とかするんだな………てか、あいつ、"ブライアン"って言うのか…)」

 

勝ったというのに忍はそのようなことを考えていた。

 

『………………』

 

一旦の静寂の後…

 

『うおおおおお!!!!』

 

観客席から歓声が上がる。

 

「あのブライアンっての、確かランク3だったよな?」

「相手のシノブってのは初期装備から見るに初心者だろ?」

「それが上位ランクの冒険者に勝つなんて…」

「こりゃ期待のルーキー現るってか?」

 

色々と噂されている。

 

「うわ、なんだこりゃ…?」

 

いつの間にか歓声の上がる観客席の状態に忍は当惑する。

 

「忍さん、こっちです」

 

コロシアムの出入り口に来ていたユウマが手招きする。

 

「さっさと退散するに限る、か」

 

そう呟き、忍はユウマの元へと走る。

そこからユウマの先導で別のエリアへと移動する。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・ショッピングモール街』

 

ユウマに連れられてやってきたショッピングモール街の一角で忍は盛大な溜息を吐いていた。

 

「やれやれ…危ないとこだった…」

 

さっきの決闘内容を思い返しているようだった。

 

「本当ですよ。こっちも見てて冷や冷やしましたから…」

 

ユウマもまた忍とブライアンの決闘を見ててかなり冷や冷やしたらしい。

 

「すまん…」

 

色んな意味を込めて忍も謝る。

 

「でも、後半の回避は凄かったですね。なにかコツでもあったんですか?」

 

後半の回避率の凄さに思わずそう聞いていた。

 

「いや、相手の挙動を見て相手の攻撃パターンを読んだ上で回避しただけなんだが…」

 

「………………」

 

それを聞いてユウマは開いた口が塞がらないようだった。

 

「物覚えだけは得意だからな」

 

「い、いやいや…物覚えだけで回避できるような動きじゃなかったような…」

 

事実、ブライアンの攻撃はランク3ということもあってそこそこ綺麗で鋭い軌道を描いていた。

 

「あいつも途中で攻撃が散漫になってただろ? その隙を突いただけだよ…」

 

「それは…だって、あそこまで当たらないと逆に焦って混乱しちゃいますよ…」

 

例え、それが自分だったとしても焦るとユウマは感じていた。

 

「意図せずしてそうなってくれたのが今回は幸いだったかな」

 

「意図してなかったんですか!?」

 

その言葉に驚くユウマ。

 

「あぁ、あの時はとにかく回避だけに集中して他の事には気を配ってる余裕が無かったからな。途中から余裕は出てきたが…」

 

「す、凄い集中力…」

 

忍の集中力にユウマは舌を巻いていた。

 

「それにしても…忍さんって現実世界で何かしてたんですか? こういうのを聞くのはあまり良くないんですが…ちょっと気になって…」

 

「まぁ…そうだな。剣術や格闘技とかをちょっとな」

 

ちょっとどころではないが、やってることは事実なので軽い感じで頷いていた。

 

「剣術…ならファムさんとも話が合うかも…」

 

「ファム?」

 

知らない名前に首を傾げていると…

 

「あ、僕達のクラスメイトで風紀委員なんですよ。あと、僕の作ったチームの一員でもあるんです」

 

そう答えていた。

 

「クラスメイトか。しかし、チーム?」

 

また知らない単語が出てきて首を傾げる忍。

 

「はい。パンドラ内で作れるチームのことなんです。今、僕達のチームは僕を含めて3人の弱小チームなんですが…」

 

「そうなのか。ちなみにユウマ達のランクやステータスはどうなってるんだ?」

 

合点がいったように頷きながら忍はユウマに尋ねる。

 

「僕のランクは"6"です。それでこちらが僕の基礎ステータスです」

 

そう言って見せてくれたユウマの基礎ステータスは『体力:25、魔力:10、攻撃力:15、防御力:20、速度:30』という具合だった。

 

「………………ちなみにここの最高ランクっていくつなんだ?」

 

ブライアンの倍ものランクに驚いた忍はそんな基礎的なことを尋ねていた。

 

「最高ランクは、"7"ですね。あ、ちなみにファムさんとアイリさんはランク5なんですよ」

 

と平然と言うユウマだが…

 

「(上級者!!?)」

 

忍は目の前にいるのが、ゲームの上級者だということに初めて気付く。

 

「全然弱小チームじゃないだろ…」

 

ユウマの言葉にそう返す忍だったが…

 

「でも、大きなイベントだと数の暴力とかで大変なんですよ。3人しかいませんから…もう何人か知り合いを誘いたいとは思ってるんですが…」

 

そう言ってチラッと忍を見るユウマ。

 

「悪いが、俺はソロでやるつもりだ。パンドラに入ったのもちょっと用事があったからなんだし、こっちには短期留学って形だからな……ぁ」

 

そこまで言って忍は口を押さえる。

 

「短期…留学? 編入じゃなくて?」

 

不思議に思ったユウマが口を挟む。

 

「(しまった…つい口が滑った…)」

 

勝利への余韻と、これでまた雪絵や狼牙、雪音と離れずに済むという事実が忍の油断を招いたようだった。

 

「(し、仕方ない)…詳細は現実世界で話してやる。今日のところはログアウトしようか」

 

そう言って忍はエントランス方面に歩き出した。

 

「あ、忍さん」

 

「忍先輩…」

 

それを追って2人も忍の後に続き、エントランス方面に行く。

 

エントランスに着くと、3人は電脳世界からログアウトするのだった。

 

………

……

 

・現実世界

 

電脳世界から現実世界に帰還した忍達はゲーセンから出て近くのカフェに移動する途中のこと。

 

「おい、そこの編入生」

 

明らかにガラの悪いヤンキー然とした連中が忍達の前に立ち塞がる。

 

「(またか…)」

 

内心でうんざりしながら忍は雪絵とユウマを背にして一歩前に出る。

 

「何か用か?」

 

「おう、パンドラでブライアンに勝ったからって調子に乗んなや。所詮ゲームはゲーム。現実世界では違うってことをきっちり教えてやるってんだよ」

 

集団のリーダー格がそんなことを言う。

 

「ちぃっとツラ貸せや。さもないと…」

 

リーダー格が目配せした仲間の1人がユウマの背後に回る。

 

「ダチが危険な目に遭うぞ?」

 

「(脅してるつもりか? しかし、ユウマを巻き込ませる訳にもいかないが…)」

 

魔法を使おうにも人目が付き過ぎて言う事を聞くしかなさそうだった。

 

「……わかった」

 

「忍さん!?」

 

「忍先輩?!」

 

忍が承諾したことにユウマも雪絵も驚く。

 

「なら、こっちだ。おっと、妙な真似できんようにお前も来い。雪白さんはここで待っててもらおうか」

 

「うっ…」

 

その場に雪絵を置いていき、ユウマを人質にして路地裏へと消える一団。

 

 

 

人気の無い路地裏。

あるのは忍を囲うヤンキー然とした連中と、ユウマを人質にその後ろにいるリーダー格だった。

 

「で、集団リンチなんかで俺に何を要求する気だ?」

 

至極面倒そうに忍はリーダー格に尋ねる。

 

「決まってるだろ。雪白さんへの接触禁止だ。あの人に近付かないようにたっぷりと体に教え込んでやる」

 

「そんな一方的な!?」

 

リーダー格の言葉にユウマが反発するが…

 

「お前は雪白さんの幼馴染みだから特別に無視してるんだ。それを忘れさせないように見せしめも必要だろうが?」

 

ギロリとユウマを睨みながらリーダー格はそう言い放つ。

 

「見せしめだなんて…そんなの雪絵ちゃんが知ったら…!」

 

そんな睨みに怯まないようにユウマも声を上げる。

 

「いいんだよ。別に俺らは好かれようと思ってる訳じゃない。ただ、影から見てるだけでも幸せなんだよ。表の連中は知らないが…」

 

ファンクラブ内にも裏と表というものがあるらしい。

 

その様子を見て…

 

「はぁ…くだらない」

 

忍は一蹴していた。

 

「なに?」

 

その言葉にリーダー格が眉をピクリとさせる。

 

「"くだらない"と言ったんだ。俺から言わせたら表も裏もそんなに変わりない集団だ。こんなことをしても雪絵は喜ばないし、悲しむだけだ。それがわかってない時点で表も裏も関係ない」

 

忍は思ったことを口にする。

 

「テメェ…この状況でよくそんなことが言えたな…!」

 

「あぁ、言うとも。人質を取らないと男1人、呼び出せない連中に語る言葉は本来ないが…」

 

忍の言葉に囲んでいた連中も殺気立つ。

 

「いい度胸だ。なら遠慮なくぶちのめしてやる! やっちまえッ!!」

 

『オオオオ!!!』

 

囲っていた連中が忍に向かって一斉に飛び掛かる。

 

「忍さん!?」

 

その光景に思わず目をつむるユウマだった。

 

しかし…

 

ガッ!

ドスッ!

ベシッ!

バタバタッ!!

 

「は…?」

 

聞こえてくるのは軽い打撃音や複数の倒れる音、そしてリーダー格の間の抜けた声だけだった。

 

「え…?」

 

その音を不審に思ったユウマが目を開けると、そこには…

 

「加減はした。次はお前の番だ」

 

囲っていた連中の全員が地に伏せ、平然とした様子の忍がユウマとリーダー格の方へと歩いてくる光景だった。

 

「て、テメェ、い、いったいなにを…??」

 

「ゲームは確かに初心者だが…現実世界(こっち)ではお前達よりも修羅場を潜って来てるからな…」

 

困惑するリーダー格の前に立ちながらそう答えていた。

 

「こ、この野郎…!!」

 

激昂した様子のリーダー格が忍を殴ろうとした瞬間…

 

ゴスッ!!

 

「がっ!?!」

 

「攻撃が大振りで隙だらけなんだよ」

 

忍に腹パンを食らって地に伏せるリーダー格。

 

「大丈夫か? ユウマ」

 

「は、はい。でも…」

 

忍の問いに答えたユウマはリーダー格を見る。

 

「ぐっ…ぅぅ…」

 

他の連中と違い、腹を押さえながら苦しんでいた。

 

「少し加減を間違えたか?」

 

リーダー格の様子を見てそんなことを呟く。

 

「仕方ない。この場で治療して…」

 

そう言って忍が右手に魔力を集中していると…

 

「大丈夫ですか?」

 

リーダー格の近くにしゃがみ込むユウマを見て…

 

「おい、ユウマ。何をして…」

 

声を掛ける忍だったが、次の瞬間、予想だにしなかったモノを見ることになる。

 

「『ハートネス』」

 

鞄の中から"乙女座のシンボルとハートの意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサードニクスを携えた白銀色のチェーンブレスレット"を取り出すと、それを片手に持ちながら両手をリーダー格の方に向け、サードニクスオレンジ色の魔力を放出していたのだ。

 

「なっ!?」

 

その光景に忍は驚き…

 

「あ、あれ? 痛みが…???」

 

リーダー格も何が起きたのかわからないでいた。

 

「ユウマ、お前…」

 

"まさか、魔法が使えたのか?"と尋ねようとした時…

 

『やはり、君だったんだね。"ヴァルゴ"』

 

忍の左手首に巻かれたアクエリアスがその名を呼ぶ。

 

「ヴァルゴ…乙女座!?」

 

アクエリアスの言葉に忍はさらに驚く。

 

『お久し振りですね、アクエリアス』

 

「え…? やっぱり、忍さんのそれも…ヴァルゴと同じものだったんですか?」

 

驚く忍を前に新たな選定者が現れた瞬間だった。

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