言い訳は活動報告にて行います。
とりあえず、年内最後の日に年内最後の投稿を行います。
雪絵のファンクラブを退けた忍と、裏のリーダー格を手当てしたユウマは足早に路地裏から出ていき、雪絵と合流を果たす。
エクセンシェダーデバイスのことを説明するべくユウマもまた雪白探偵事務所へと同行することになった。
そして、雪白探偵事務所へと向かう途中のこと。
ピピピ…!
忍の鞄の中からネクサスの通信受信音が響く。
「っと、誰からだ?」
鞄の中からネクサスを取り出して画面を見ると、そこには紅牙の名が…。
「あ…マズい…」
紅牙の名を見て冷や汗を流す。
「忍さん?」
「忍先輩?」
その様子にユウマと雪絵も首を傾げる。
「いや、ちょっと知り合いからな…」
目を逸らしながら恐る恐るといった感じにネクサスを操作して通信回線を開く。
「はい。こちらしの…」
『紅神ぃぃッ! 貴様、どこで油を売っているッ!!』
答える間もなく、紅牙の怒りの表情と怒声がその場に響き、周囲の人は何だろう?と忍の方を見る。
「お、落ち着け、紅牙。こっちは人だかりがあるんだから…」
『これが落ち着いていられるか! 拠点には荷物しかなく一向に帰ってくる気配が無いとはどういうことだ!?』
「そ、それは…こっちにも色々と事情があってだな…」
傍から見れば、妙にハスキーな声の女性に何やら言い訳してる男の図が出来上がってしまう。
「(わぁ、綺麗な人…この人が忍さんの彼女さんなのかな?)」
「………………」
ユウマはそんなことを考え、雪絵は少し不機嫌そうな表情になっている。
「と、ともかく、こっちが指定する座標に来てくれ。ついでに荷物も持ってきてくれると助かる、かな?」
『はぁ!? 何故、俺が貴様の荷物を運ばんとならんのだ!』
「だから、その事情も諸々含めて説明するから…まずは合流しよう。な?」
『ちっ…これは貸しにしておくからな?』
「……あぁ、うん…」
この貸しは少し高くなりそうな予感がしてならない忍であった。
通信終わりに忍は紅牙へと雪白探偵事務所の座標を送り、そこで合流することとなった。
………
……
…
・雪白探偵事務所前
「(さて…紅牙達には家族のことを話すとして、ユウマにはどうするかな…)」
雪白探偵事務所の前で紅牙達の到着を待つ忍はそんなことを考えていた。
「(流石にユウマは一般人…こちらの事情に巻き込む訳にもいかないな…エクセンシェダーデバイスのことだけ話して帰ってもらうのが一番か…)」
いくらエクセンシェダーデバイスを所持していたとしてもユウマを巻き込むことはないと判断する。
「(幸い、ユウマの魔力はかなり低い。俺も微かにその匂いを感じたくらいだし、深く触れなければ多分大丈夫だろう)」
ユウマから感じた魔力のことが心配ではあるが、忍はあまり触れないようにしようと考えた。
「(それにしても…この世界で一体何が起きてるんだ?)」
狼牙が事件の資料を準備しているから後でもわかることだが、この平和な世界で何が起きているのか、忍は考えていた。
すると…
「忍く~ん!」
手を振ってこちらにやってくる執務官の制服を着たフェイトと…
「紅神、貴様というやつは…!!」
「まぁまぁ、そう怒らんと…」
その後ろから忍の荷物を持った怒れる紅牙と、それを宥める苦笑気味のはやての姿があった。
幸いにも荷物はまだ荷解きしてなかったので、そのままスーツケース二つを持ってきた形である。
「フェイト、紅牙に八神さんも…勝手に拠点からいなくなった上にこっちの事情で呼び出してすまない」
忍はやってきた3人に対してまず謝っていた。
「それはいいけど…」
「よくあるか!」
フェイトが許しそうになるのを紅牙が怒声で止める。
「というか、なんだってこんな場所に呼び出した?」
紅牙が忍に一気に詰め寄る。
「それは、だな…」
忍が何か言おうと考えている横で…
「雪白探偵事務所?」
「雪白?」
はやてが探偵事務所の看板を読み、その最初の名字らしき名にフェイトが首を傾げる。
「探偵…確か、シュトライクスも言ってたな。しっかりと使えるんだろうな?」
「その点は安心していいと思う。今、今回の事件の資料を纏めてもらってるとこだ」
「忍君はもう探偵さんに会ってるの?」
「昨日、クラスメイトになった奴の紹介でな…」
「クラスメイト?」
「その話も中でしますよ」
そう言うと、忍は紅牙から荷物を受け取り、雪白探偵事務所の中へと入っていく。
中に入ってリビングに移動すると…
「おかえり、忍君♪」
上機嫌な雪音が忍を出迎えていた。
「「「「おかえり?」」」」
先にリビングに来ていたユウマを始め、忍の後ろにいた紅牙達も雪音の言葉に首を傾げる。
「…………」
出鼻からこれか、と忍は少し頭を抱えたい気分だったが…その気持ちを押し込んで…。
「この人は雪白探偵…雪白 狼牙さんの奥さん、雪音さん。そして…」
幼馴染みのユウマはともかく、初めて会う紅牙達にそう紹介した後…
「……"俺の、実の母親"でもある」
少し躊躇しながらも真実を打ち明ける。
「「「「………………」」」」
その言葉に4人はしばらく反応出来なかったが…。
「え…? はい…?」
それを聞いたユウマは意味が分からないとばかりに困惑していた。
「ど、どういうことなん?」
同様にはやても困惑気味だった。
しかし、忍の事情を知る残りの2人の反応は少し違った。
「おめでとう、忍君」
「ということは、ここの探偵がお前の…?」
フェイトからは祝福の声、紅牙は確認の声を上げる。
「あぁ、"ずっと捜していた俺の父親"だ」
その確認に忍も頷く。
「殴れたのか?」
「残念ながら…実際に会うとどうしていいかわからなくなってな…」
紅牙の言葉に忍は肩を竦めてみせた。
「ふんっ…そうか」
そんなやり取りをしていると…
『おんや? ヴァルゴじゃないか。おっひさ~♪』
サジタリアスがユウマの持つヴァルゴに反応する。
『あら、サジタリアスもいらっしゃたんですね』
それに答えるようにヴァルゴもサジタリアスに挨拶する。
「ヴァルゴ……乙女座か?」
『うん、そだよ~』
紅牙の問いにサジタリアスは軽い感じで答える。
『これで我々を含め、こちら側のスコルピア、敵陣のカプリコーン、中立のジェミニ…6機のエクセンシェダーデバイスが出揃いましたね』
アクエリアスが感慨深そうに呟く。
『まぁ…スコルピアやカプリコーン、ジェミニにも選定者が…?』
『あぁ、いるよ。残りの半分に関してはまだ情報はないが…エクセンシェダーデバイスも集まり始めたのかもしれないね』
『集まったら集まったでまた騒がしくなりそうだけどな~』
エクセンシェダーデバイス達の会話を聞く限り、エクセンシェダーデバイスが作られた次元世界の崩壊後に散り散りとなったエクセンシェダーデバイスが集まるのはこれが初めてなのかもしれない。
しかも現在判明している6機には既に選定者がいる。
「え、えっと…?」
デバイス間の会話の意味がわからず、さっきから頭に?が無数に浮かび上がってるユウマは忍と、サジタリアスの声が聞こえてきた紅牙の方を見る。
「エクセンシェダーデバイスの所有者なのに貴様は何も知らないのか?」
その反応にギロリとユウマを睨む紅牙に対し…
『申し訳ありません。我が主は平和な世で暮らしてきましたので、その辺りの説明を疎かにしてました』
「それは仕方ないって…何も、所有者全員が俺達みたいな"特殊な人間"じゃないんだから…」
ヴァルゴと忍が紅牙を説得する。
「ちっ…それはそうだが…ここまで何も知らないとなると、無闇には話せんぞ?」
「わかってる。だから、ユウマにはエクセンシェダーデバイスの事と俺がこの世界に来た理由を話して出来るだけ関わらないように釘を刺すつもりだしな」
「"この世界に来た理由"…?」
忍の言葉にユウマも身構える。
「あぁ…俺は時空管理局の特務隊という特殊部隊に嘱託騎士として登録されてる。まったくもって遺憾だが…」
ゼーラのやり口がやり口だったために忍の表情は苦虫を噛み潰したようなものになっていた。
「この世界で変な事件があると聞き、その調査に駆り出されたんだよ」
「変な事件…って」
ユウマが何か言おうとした時…
「パンドラに登録してる奴が次々に失踪してるっていう怪事件だよ」
資料を纏めたらしい狼牙がリビングにやって来た。
「あ、おじさん…」
狼牙の姿にユウマも軽くお辞儀する。
「親父、資料の方は?」
「出来てるぞ。つか、なんだ…管理局の制服組とも知り合いなのかよ。うちの倅は顔が広いな」
やれやれといった感じで狼牙は忍の顔の広さに呆れていた。
「知り合いと言っても、フェイトは俺の眷属の僧侶だし…八神さんは修行の時に何度か顔を合わせたくらいだし…紅牙に至っては結構本気で戦った仲だからな…」
そんな何気ない会話をしていると…
「は、初めまして。フェイト・T・ハラオウンと申します。忍君とは、その…」
「忍君とは…?」
キラキラした目でフェイトを見る雪音。
「母さん…」
「お母さん…」
実の母親のミーハーな一面に忍と雪絵は恥ずかしそうにしていた。
「ん? そこの娘は?」
今更気付いたように紅牙が雪絵のことを聞く。
「俺の妹だ。雪絵という。こっちに来て初めて会ってな…」
「お前にも妹がいたのか」
「あぁ…まぁな」
少しだけ、ほんの少しだけ複雑そうな表情を見せたが…。
「?」
その一瞬の表情の変化に紅牙は気付くが、その意味はわからなかった。
「雪絵ちゃんが、忍さんの妹…?」
ユウマは忍と雪絵を交互に見比べる。
「ま、急には信じられんよな…」
肩を竦めた後、忍は真剣な表情になると…
「それはともかく、お前が持っているヴァルゴは俺のアクエリアスや紅牙のサジタリアスのような『エクセンシェダーデバイス』という管理局でもロストロギアと呼ばれる類の代物の12機ある内の1機でな。それを狙ってくる奴もいるかもしれないという事だけでも知らせておきたかったんだ」
「ヴァルゴを…狙う?」
忍の言葉にユウマは首を傾げる。
「あぁ…エクセンシェダーデバイスの持つ半永久魔導機関『コアドライブ』はブラックボックス化されているが、見る人が見れば、かなり魅力的なものなんだ。幸い、と言っていいのかわからんが…選定者はユウマを除いて自衛の手段を持ってる者が多い。とは言え、カプリコーンという機体は俺達にとっての敵対勢力に利用されているのが現状なんだが…」
「そのカプリコーンという機体のデータから兵器型デバイスなんてものも作られ、ある次元世界では大量投入された事例もある」
忍の説明に紅牙も事実を付け加える。
「だから、ユウマも気をつけてほしいんだ」
『特にヴァルゴの固有魔法は我々の中でも唯一待機状態でも扱えますからね。気に留めていただくだけでもかなり違いますよ』
忍とアクエリアスの忠告に…
「………………」
ユウマはどう返したらいいのか困っていた。
それはそうだろう。
今まで平和に暮らしていたのに、いきなりエクセンシェダーデバイスだの、狙われる可能性があるだの言われてもピンと来ないだろう。
「僕は…」
ヴァルゴをギュッと握り締めながら何か言いたそうだったが…
「………すまん…いきなり色々と言い過ぎたな」
その様子を見て忍はユウマに謝罪する。
「俺は俺で今回の事件を探るためにフェイタル学園に潜入したつもりだが…学園では普通に接してくれると助かる」
「少し…考えさせてください…」
「それはもちろんだ」
「失礼します…」
色々な話を聞かされながらも、ユウマはその場にいる全員に一礼してからリビングを出る。
「……いいのか?」
「あぁ…あいつは一般人なんだ。こちら側の世界に足を踏み入れさせるわけにはいかない」
「そうか…」
紅牙の問いにそう答えながら忍は狼牙に向き直る。
「それじゃあ、事件の大まかな概要を聞かせてくれ」
「あいよ」
そして、狼牙による事件概要の説明が始まる。
………
……
…
「………………」
雪白探偵事務所を出てから帰路に着いたユウマの表情は…少し複雑だった。
「(忍さんは…管理局の嘱託騎士で、事件の捜査でこの世界に来た。その事件は…噂になってるパンドラ登録者の謎の失踪……狼牙おじさんでも解決には至ってない難事件…)」
少し前…具体的に言えば、先のノヴァによる次元放送ジャックの頃くらい…から噂になっている怪事件。
パンドラに登録している者が謎の失踪をしているというのだ。
それも複数人であり、失踪する場所や時間はバラバラ、失踪した人物に共通点などパンドラに登録している以外は何も無く、パンドラ内での交流もない場合の方が多い。
警察はもちろん捜査を続けているが、少しでも手掛かりが欲しいと狼牙にも要請が出ていた。
しかし、捜査系に強いはずの狼牙でさえ、未だに誰一人も見つけられていないのが現状である。
だが、それはあくまでも噂話の範囲でのことだ。
ユウマの周りや知っている範囲では失踪した人物はいなかったし、ただの噂話なんだと…。
でも、あの場にいた忍や狼牙の表情は真剣だった。
つまり、噂ではなく本当に起こっていることであることに違いなかった。
「(もし…本当に失踪者が出てるなら…それはなんでだろう…?)」
パンドラは仮想世界での冒険や戦闘をメインにしてるところが大きい。
普段は出来ないようなことを電脳世界で体験できるのが最大の売りであり、醍醐味と言ってもいい。
それなのに、現実世界で謎の失踪を遂げる人物の心理がイマイチわからない。
「(って…僕が考えても仕方ないよね…)」
何か思うところはあるものの、無理矢理に割り切ると少し早足に家への帰路を歩くのであった。
………
……
…
・翌日
「はぁ…」
登校中のユウマはちょっと憂鬱気味に溜息を吐いていた。
「(忍さんはああ言ってたけど…気になってあんまり眠れなかったな…)」
昨日の件が気になってあまり眠れなかったようだ。
「(エクセンシェダーデバイス、か……ヴァルゴのことは凄いとは思ってたけど、そんな貴重なモノだったなんて…)」
いつもは鞄の中にしまっているヴァルゴのことを考えていた。
「(雪絵ちゃんも…捜査に協力するのかな? 流石にそれはないか…)」
雪絵のことは小さな頃から知っているが、そういうことに狼牙が巻き込むようなことはしなかった。
それは忍も同様だろう。
「(でも…忍さんやあの人達は危険を承知で動いている。噂話のはずの事件を…)」
ユウマが難しいことを考えていると…
「ユ・ウ・マ・ちゃ~ん!」
バシィンッ!!
ユウマの名を呼ぶ声と共に、ユウマの背中に鈍い衝撃が走る。
「っ!?」
驚いて後ろを振り返るユウマ。
そこには…
「おっはろ~♪」
腰まで伸ばした亜麻色の髪、頭の左右に白いリボンをアクセント程度に結い、エメラルドグリーンの瞳、可愛らしくも綺麗な顔立ちの全体的に均等の取れていながら出てることは出て引っ込んでるとこは引っ込んでる体型の少女がユウマに笑顔を向けて挨拶していた。
ちなみに制服姿は学園指定のブレザーではなく、薄めの黄色いカーディガンを羽織っていた。
「で、デヒューラさん?!」
その少女の登場に驚くユウマ。
「なによ、そんなに驚いて。ちょっと傷ついちゃうな~」
少女…『デヒューラ』は本気で言ってる訳ではないのだが…
「わわっ、そ、そんなことは…」
ユウマはそれを真に受けてしまう。
「ふふっ、冗談だよ。もう、可愛いなぁ~、ユウマちゃんは」
「うぅ…からかわないでくださいよぉ」
そんな風に若干涙目になっては弄りたくもなるという心境もわからないでもない。
「ごめんごめん」
デヒューラもユウマのその姿を見て軽い感じで謝る。
「あと、ちゃん付けもやめてください」
「それは無理♪」
そんなやり取りをしながら登校していると…
「よっ、ユウマ」
「おはようございます、ユウマ先輩」
昨日の今日ではあるが、まだ忍達との付き合い方を決めかねているユウマの前に忍と雪絵が現れた。
忍の方は至って平然とした対応をしているが…。
「ぁ…お、おはようございます。忍さん、雪絵ちゃん」
「紅神君、おっはろ~」
少しだけ戸惑いを見せるユウマと、それに気付かずに忍に挨拶するデヒューラ。
「あぁ、おはよう。ユウマと…えっと…」
忍もまたユウマ達に挨拶を返しながらデヒューラの名が出てこずにいた。
先日編入してきて質問攻めにあった時、ユウマのことをちゃん付けで呼び、その理由の説明にユウマの髪の毛をかき上げた女子のクラスメイト、というのは思い出せるのだが…。
「あ、そういや、名前は言ってなかったっけ。私はデヒューラ。デヒューラ・スイミランだよ。よろしくね~」
デヒューラは忍に簡単な自己紹介をしていた。
「あぁ、スイミランさんか。よろしく」
デヒューラに対して普通の対応を見せる忍の姿に、昨日忍が見せた裏の顔を垣間見ていたユウマは少しだけ怖くなっていた。
「(こんな風にしていても…忍さんには裏の顔がある。僕は、それを昨日見てしまった…)」
昨日のことを思い出しながら少しだけ歩調が遅れるユウマ。
「そういえば、紅神君と雪白さんって同じ方向から来たけど、家が近いとか?」
「あぁ、引っ越した先がたまたま同じ方向らしくってな」
一時的とは言え、同じ家に住んでいるとはとても言えないので、そういう噓を吐く。
「(そっか。忍さんと雪絵ちゃんが兄妹だってことは秘密なんだ…)」
その嘘を聞き、ユウマは今更のように気付く。
事情を知るというのは案外、難しいものである。
「へぇ~、そうなんだ。それにしては親しげに見えるけど…?」
「この前も言ったが、探偵に興味があってね。ユウマの紹介で探偵と会ったから満足してる。まぁ、その娘さんとこうして登校してるってのもなんだか不思議な感じだけどな」
「忍先輩には先日助けてもらいましたから」
「助けてもらった?」
「まぁ、ちょっとな」
先日、雪絵がナンパされた時のことだが、あまり言っても仕方ないので適当に濁しておく。
「ふ~ん」
デヒューラも深くは追究しなかった。
そうこうしながらも登校していく一行はフェイタル学園へと到着する。
「では、先輩方。私はここで…」
校舎の入り口前で雪絵が一礼してから一年の下駄箱へと歩いていく。
「ぁ、僕もちょっと図書室に用事があるので、これで…」
ユウマもデヒューラと忍にそう言うと、そそくさと上履きに履き替えると図書室がある方角へと早歩きに移動してしまう。
「? どうしたんだろ、ユウマちゃん」
「さてな…(ま、昨日の今日じゃそりゃ答えなんて出る訳ねぇか)」
そんなユウマの様子にデヒューラは首を傾げ、忍は内心で仕方ないと割り切っていた。
………
……
…
・フェイタル学園、図書室
今更だが、フェイタル学園の構造をお教えしよう。
このフェイタル学園は三階建ての中等部の校舎と三階建ての高等部の校舎があり、向かい合うように並列している。
それを北側に設置された特別教科用の教室や教員室、学園長室などが密集した四階建ての特別校舎が中等部と高等部の校舎を繋いでいる。
言わば、
入り口はそれぞれ南側にあり、左側が中等部、右側が高等部となっている。
ちなみにΠの中は中庭として機能している。
校舎裏に当たる東側と西側にはそれぞれ体育館が設置されており、北側には中高共通で使えるように広いグラウンドがあり、グラウンドの東側にプール、西側に部室棟がそれぞれ設置されている。
図書室は中高共有となっており、特別校舎の二階は丸々図書室として機能している。
その図書室にユウマがやってきていた。
「(………嘘、ついちゃったな…)」
忍の前から逃げるように図書室にやってきてしまい、ユウマは少し居心地が悪かった。
どうせ教室に行けば否が応でも隣の席に座る忍と会うというのに…。
しかし、それも仕方ないことかもしれない。
出会って間もない、それも裏の顔を持つ人物に恐怖心を抱かないというのも無理な話である。
かと言ってせっかく出来た友人といきなりよそよそしく接するというのも相手にとって失礼なのではと考えてしまっていた(決して友達が少ないという訳ではないが…)。
「はぁ…」
そんな風に考えていると、軽い溜息を吐いてしまう。
ともかく、どうしたらいいのかわからないのがユウマの本音だった。
…………傍から見れば、図書室の一角に佇み、苦悩する美少女の絵になる…(制服は男物だが)。
そこへ…
「ユウマさん」
「ユウマ先輩…」
2人の少女が顔を出す。
片や学園指定の高等部のブレザーをキチっと着こなした背中まで伸ばした桜色の髪をポニーテールに結い、空色の瞳、凛とした雰囲気を有する綺麗な顔立ちの全体的にほっそりしているスレンダー気味の体型の少女。
片や学園指定の中等部のセーラーが少しだけ窮屈そうに見える腰まで伸ばした黒髪、ブラウンの瞳、まだ幼さを残す可愛らしい顔立ちの低身長に対してアンバランスな凹凸を持つ何とも悩ましい体型の少女。
ちなみに黒縁ビン底眼鏡を着用しているので一見したら顔立ちはわかりにくいのだが…。
もっとも素顔を知るユウマからしたら何の問題もない。
「ぁ…ファムさん、アイリさん…」
声を掛けてきた少女達に気付き、ユウマもそちらを向く。
「どうかしたんですか?」
2人の少女にどうかしたのかと尋ねるユウマ。
「どうかしたじゃないです。昨日はどうして顔を出してくれなかったんですか?」
そう言ったのはポニーテールの少女『ファム』だった。
「………ぁ」
言われて気付く。
そういえば、昨日は色々あってチームへの顔出しをしてなかったのだと…。
「ユウマ先輩…珍しく、その…何も連絡がなかったので…」
心配そうな声音で眼鏡の少女『アイリ』も呟く。
「すみません。ちょっと昨日は急用があって連絡する暇もなくて…」
事実、昨日はパンドラに入ったものの忍や雪絵に合わせて早々にログアウトしてしまい、チームメイトに連絡する暇もなかったのだ。
「それなら仕方ありませんけど…」
ユウマの言葉を聞いて仕方ないと漏らすファム。
そんなファムに対して…
「あれ? ファムさん、今日部活の方は?」
思い出したようにファムに尋ねる。
「今日は珍しく両方ともお休みです」
ユウマを安心させるようにそう答える。
「そうなんですか」
それから3人は他愛のない話をしていたが、予鈴が鳴ったのでそれぞれの教室へと向かう。
ちなみにアイリは制服の通り中等部なので図書室で別れ、ユウマとファムはクラスメイトなので同じ教室へと向かうことになる。
………
……
…
・昼休み
時間は過ぎて昼休みとなる。
「はぁ…(また逃げてきちゃった…)」
昼休みになった途端、ユウマはお弁当を持って教室から逃げるように出てきてしまっていた。
「(どうしようかな…)」
とりあえず、1人で考えるために屋上へと向かうユウマだった。
フェイタル学園の屋上は特別校舎が四階建てという都合上、多くの生徒達が容易に出入りするためか、学園側も思い切って屋上を開放していたりする。
そんな感じに特別校舎から中等部側、もしくは高等部側の校舎の屋上には出入り自由なので、気分の重めなユウマも何の気兼ねもなく扉を開けて屋上へと出る。
季節が季節だけに少し寒いが、それ以外は何の変哲もない高等部側の屋上…
「……………?」
のはずだった。
屋上の扉を開いたユウマの目の前に広がったのは、屋上の中心地で乱雑に置かれたお菓子の袋や菓子パンの袋があり、さらにその中心には…
「……………」
肩まで伸ばしたボサボサ状態のくすんだ茶髪に全体的に細身でスレンダーな体型の少女が横たわっていた。
制服は学園指定の中等部のセーラー服なのだが、とにかく適当に着た感が半端ない上に乱れており、スカートも風に煽られて今にもその中が見えそうである。
「っ!?!?」
まさか、自分の学園でこのような事態に遭遇するとは露とも思わずフリーズしていたユウマだが、それがただならぬことだと思い至って再起動する。
「だ、大丈夫ですか!?」
お弁当を落としながらも少女に駆け寄り、体を揺する。
「う、う~ん…」
少女から呻き声が聞こえてきたので、ひとまず安堵するユウマだったのだが…
ゴチンッ!!
「はぅあ!?」
いきなり額に重い何かがぶつかり、変な声を上げて尻餅をついてしまう。
「…うるさい…」
そんな声と共に少女が薄く眼を開け、その琥珀色の瞳がユウマに向けられる。
ちなみに少女の顔立ちだが、綺麗というよりも可愛い部類に入るタイプであったりする。
バサッ!
そして、ユウマの額に直撃したモノの正体は…辞書だった。
「……誰?」
上体を起き上げた少女は不機嫌そうな目つきでユウマを見ながら問う。
風に舞いそうなスカートを押さえるとかいう行動はしてない。
「え、えっと…ぼ、僕は天崎 ユウマ。き、君は…?」
少女の目つきに若干怯えながらも答えるユウマを見て…
「あ、そ」
それだけだった。
「あの、君の名前は…?」
「はぁ? なんであたしがアンタに名乗らないとならないの?」
「(えぇ~…)」
少女の横暴な態度にユウマは困惑した。
「そ、それよりも…何かあったの? こんな状況で寝てただけなんて思えないし…」
が、気を取り直して周りの惨状を見てユウマは少女に尋ねる。
「はぁ? 二日振りに食事を取ってただ寝てただけなのに大袈裟な…」
周りを見ながら少女はそう言い放つ。
「二日振り!?」
ユウマとしては寝てた云々よりも"二日振りに食事した"という事実の方が衝撃が大きかったようだ。
「成長期なんだからもっと栄養のあるモノを食べた方が良いような…」
そう言いながら律儀にも少女が食べ散らかしたと思われるゴミを回収して屋上にあるゴミ箱に捨てるユウマ。
「エネルギー摂取できれば別になんだっていいわよ」
これまでの言動からどうも少女は食事に関しては特に頓着しないようだった。
いや、それにも限度というものはあるが…。
「あと、女の子なんですから身支度ぐらいちゃんとしましょうよ…」
そう言いつつユウマは少女の制服を正していく。
心なしか手際が良いように感じる。
「……………」
そんなユウマを冷めた眼で見る少女。
「はい。あとは髪ですね」
ボサボサの髪を手入れしようとするユウマに…
「アンタ、ホントに男?」
少女は切れ味の鋭いツッコミを入れる。
ユウマの服装から男だと認識していたようだが、その手際の良さから疑い始めたらしい。
グサッ!!
「う、うぅ…」
そのツッコミに胸を抉られるような感覚に陥ったユウマはしくしくと涙を我慢する。
「まぁ、いいけど…」
そう言うと少女は立ち上がって屋上から出ようとした。
「あ、ちょっと…」
その後ろ姿を追い掛けようとするも…
「
「へっ?」
「あたしの名前」
『燦瑚』と名乗った少女はそのまま屋上から出て行ってしまった。
…………ユウマのお弁当を蹴飛ばして…。
「あぁ!?」
悩んでいたユウマに追い打ちをかけるようなこの少女との出会いは、後日思わぬ形で再会することになる。
が、それはまた別のお話で…。
………
……
…
・放課後
時間はさらに過ぎて放課後となる。
部活に行く者、帰宅部な者、教室に残って駄弁ってる者等などが見られる。
「はぁ…」
そんな中、昼休みの出来事…幸いにもお弁当は無事だったが…でさらに心労を重ねたユウマは重い溜息を吐いていた。
「じゃあな、ユウマ」
「……ぁ、はい。また明日…」
軽い挨拶を残して教室を後にする忍に遅れて返事をすると…
「何してるんだろ、僕…」
机に突っ伏して独り言ちるように呟く。
「今日は…どうしようかな…」
パンドラに行けば忍と遭遇する可能性も高い。
しかし、それではまたファムやアイリに心配をかけてしまうかもしれない。
けど、行ったら行ったでまた誰かに絡まれてしまうかもしれない…。
そんな思考の悪循環に陥っていると…
「あ、いたいた。お~い、ユーマ~」
教室前の廊下からユウマを呼ぶ女生徒がいた。
その女生徒とは学園指定の高等部のブレザーを着崩した腰まで伸ばした銀髪、サファイアブルーの瞳、ほんわかとした雰囲気の綺麗な顔立ちの大人顔負けの豊満でスタイル抜群な体型の少女だった。
「ミーシャ先輩…?」
机から顔を上げて呼ばれた方を向くと、ユウマは相手の名を呟く。
「もう、ユーマってばノリが悪いな~」
そう言いながらミーシャと呼ばれた少女はユウマの机までやってくる。
「早く行こうよ~」
「行くって、何処に?」
「決まってるよ。遊びに、ね♪」
「えっ…」
答える間もなく、ユウマは自分の鞄を持たされてミーシャに手を引っ張られる。
「レッツゴー!」
「わわっ…」
こうして問答無用で連れ去られたユウマだった。
………
……
…
・ゲームセンター
「見てよ。このゲーム、私とユーマの独壇場だったのに、誰かが更新したんだよね」
「ぁ、本当だ」
それは三日前くらいに忍がやったこの世界でのガンシューティングゲームであり、それ以降の更新はされていなかった。
「むむむ、『S.B』。何者なのかしらね?」
「『S.B』…(もしかして、忍さん?)」
その文字を見て『紅神 忍』かもしれないという疑問が浮かび上がり、知らない内に表情が暗くなってしまう。
そんなユウマの表情を見逃さなかったのか…。
「知り合い?」
ミーシャはそう尋ねる。
「ぁ、いえ…多分、違うかと…」
そう答えるユウマに対して…
「う~ん……えいっ」
ミーシャは何を思ったのか、ユウマを抱き締める。
「み、ミーシャ先輩!?///」
その行動にユウマは驚き、顔を赤くする。
「やっぱり、ユーマには暗い顔は似合わないよ」
「ミーシャ、先輩…?」
言われて初めて気づいたようにユウマはミーシャの顔を見上げる。
「今日のユーマはなんだか見てて暗くなるよ。それでもって本人は気付いてないみたいな感じだったし」
「僕、そんなに暗かったですか…?」
「アザカが心配してたくらいだよ」
「鮮花先輩が…」
鮮花という先輩から見ても今日のユウマは全体的に暗かったのだろう。
事実、授業もノートは取ってたが、どこか上の空のようにも見えていたはずだ。
「何か悩みでもあるの?」
「それは…」
流石にこの悩みは人には言えない。
言ったら…もしかしたら巻き込んでしまうかもしれない、ということもユウマの頭の隅にあったからだ。
「ふむ。ま、誰しも言えない悩みはあるよね。なら深くは聞かない。でも、ユーマ自身はどうしたいの?」
「僕自身…?」
「そ、ユーマ自身の心はなんて言ってるのかな?」
「僕は…」
そこでユウマは改めて考える。
ユウマはこれまで忍とのこれからの付き合い方を考えていた。
でも、それ以上に…楽しいはずのパンドラが誰かによって楽しめないようになっているのではないかと…。
そんな事件を事情はどうあれ知ってしまったのには変わりない。
そんな誰とも知らない人が行方不明、それもパンドラに関係があるなら放っておけないとも感じていた。
パンドラが閉鎖してしまっては困るというのもあるが、何より楽しいゲームなのだからそれを悪用する人が許せなかった。
それにあのメンバーを見たら、1人くらいパンドラに詳しい人がいた方が良いとも思った。
そんな風に考えを纏めると…
「……ありがとうございます。ミーシャ先輩」
ミーシャのホールドから抜け出すと、頭を下げていた。
「うん?」
「僕、ちょっと行ってきます」
ミーシャはちょっとポカンとしてユウマのお礼の言葉を聞いていたが…
「ん~、いってらっしゃい?」
とりあえず、そう言っていた。
ミーシャに見送られてユウマは雪白探偵事務所まで走った。
そして、雪白探偵事務所にやってきたユウマは…
「はぁ…はぁ…」
走ってきたので息切れしていたが…
ピンポーン!
それでもとインターフォンを鳴らす。
「は~い、どちら様?」
そう言って出てきたのは雪音だった。
「あら、ユウマ君。どうしたの? そんなに息を切らせて…」
ユウマの姿に雪音は驚く。
「雪音さん…おじさんや忍さん達はいますか…?」
「え? えぇ、リビングでお話してるけど…」
「そう、ですか。なら、お邪魔します」
そう断りを入れると、ユウマは雪白探偵事務所へと入っていった。
「あ、ユウマ君?」
慌てて雪音もその後をついていく。
「? なんだ?」
「ユウマ? どうかしたのか?」
リビングで事件の話をしていた忍や狼牙達がリビングの入り口にやってきたユウマの方を見る。
「僕にも…事件解決のために捜査の協力をさせてください!」
意を決したように叫んでいた。
その言葉に忍を始め、狼牙も目を見開いて驚いていた。