魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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新年あけましておめでとうございます!

これが今年最初の投稿となります。


第八十五話『電脳世界での闇』

事件への捜査協力を申し出たユウマ。

それには忍を始め、小さい頃から知っている狼牙や雪音、そして雪絵も驚いていた。

 

「正気か?」

 

それにまず疑問を抱いたのは紅牙だった。

 

「いくらヴァルゴに選ばれたからと言っても今回の件、素人に口出しできるような問題でもないだろ?」

 

「そうやねぇ。こればっかりは民間人を巻き込むわけにもいかへんし」

 

紅牙の言葉にはやても同意するように頷く。

 

「でも、この中でパンドラのことをよく知ってるのは僕だけです!」

 

そんな2人の物言いに珍しく真っ向から意見を述べる。

 

「それは…まぁ、確かに…」

 

先日、登録してユウマのランクを聞いていた忍はそれを認めていた。

 

「そうなの?」

 

フェイトが忍に尋ねる。

 

「あぁ、最大ランクは7というパンドラのゲーム内でユウマはランクが6だってよ。チームメイトもランク5らしいが…」

 

「かなりやり込んでいるのは確かか。というか、紅神。貴様、どっちの味方だ?」

 

忍の弁護的な言い方に紅牙は眉を顰める。

 

「いや、どっちの味方も何もないんだが…事実としてユウマの言い分も正しいっちゃ正しいしな…」

 

頭を掻きながら困ったように狼牙の方を見る忍だった。

 

「俺に振るな、俺に…」

 

こっちもこっちで困ったように頭を掻く狼牙。

その動作はやはり親子なのか、そっくりである。

 

「(なんだか、そっくり…)」

 

「(やっぱり、親子だねぇ)」

 

その様子を見ていたフェイトと雪音がそんなことを思う中…

 

「お願いします! きっとお役に立ちますから!」

 

ユウマは懸命に頭を下げていた。

 

「……ユウマ。お前さん、どうしてそこまで捜査に協力したいんだ?」

 

そんなユウマの姿勢に何かを思ったのか、狼牙が尋ねる。

 

「パンドラは…楽しいはずのゲームなんです。でも、それが失踪事件に悪用されてると思うと悲しくて…それに我慢できないんです。楽しいはずのゲームを悪用する人達が許せなくて…」

 

「要はゲーム惜しさか…」

 

ユウマの言葉に紅牙は辛辣だった。

 

「そう思われても仕方ないですよね…。でも、今のが僕の本心です」

 

目に涙を溜めながらもユウマは一歩も退かなかった。

 

「(あの坊主が頑張って主張してるたぁ、時間が過ぎるのも早いもんだな…)」

 

その姿を見て狼牙は時間が経つのは早いと感じていた。

 

「……ま、いいだろうさ」

 

そう言って狼牙はユウマの加入を認める姿勢を示していた。

 

「親父?」

 

その判断を下した狼牙に視線が集まる。

 

「ユウマのことは小さい頃から知ってるが、こいつがここまで主張するのも珍しくてな。その心意気を信じてやろうと思っただけだ」

 

「じゃあ…!」

 

狼牙の言葉にユウマは嬉しそうに何か言おうとしたが…

 

「但し」

 

狼牙は手を前に出して告げる。

 

「無茶な真似だけはするな。お前に何かあればお前の家族が、友が悲しむことになる。だから協力するということも出来るだけ他の人間には伏せておけ。お前の行動一つで家族や友に被害が及ぶかもしれないからな。それだけは忘れるな。いいな?」

 

「…っ、はい!」

 

狼牙の言葉にユウマは強く頷く。

 

「そうなると、今回の事件概要をユウマにも説明しておくか」

 

そう言うと狼牙は資料の一部を軽く纏めてユウマに差し出す。

 

「今回の事件は簡単に言えば、失踪事件。しかも規模がやけに大きいのが特徴だ」

 

「規模が大きい?」

 

「ハッキリ言ってこのストロラーベという次元世界規模だ」

 

「えっ!?」

 

狼牙の口から語られた規模の大きさに驚く。

 

「特に首都であるこの地域での失踪件数は他の地域よりも多い。パンドラを運営し、パンドラネットワークのメインサーバーのある本社が近いからこの辺りのパンドラユーザーは他の地域よりも多いことが由来してると俺は睨んでいる」

 

狼牙の見解を聞き…

 

「で、でも…僕達の周りで失踪者が出たなんて噂は聞きませんよ?」

 

ユウマは疑問をそんな抱く。

 

「確かにフェイタル学園を中心にした地域での失踪者はまだいない。が、他の地域からきた噂はお前も聞いたことがあるだろ?」

 

その疑問に狼牙はそう答える。

 

「それは…はい、たまに話題になったりしてます」

 

他の地域に友達のいる生徒達が会話してるのを聞いたことがあるらしい。

 

「失踪した奴の共通点はパンドラをやってた若い連中だけ。失踪者間のゲーム内や現実世界での交流は一切なく、若いってだけで趣味趣向やプレイ内容などに共通点は見られていない。また、何の前触れもなくいなくなったって点も共通はしてるが、失踪に気付いた時間もバラバラで何処に行ったのかも見当がつかない」

 

「匂いの痕跡も消えてたんだったな…」

 

昨日聞いていた忍がそう付け加える。

 

「匂い?」

 

その言葉にユウマが首を傾げる。

 

「ま、俺や忍の十八番でな。匂いには敏感なんだが、一回失踪した奴の1人の自宅まで行って匂いを嗅いだんだが…これがまた部屋から移動した形跡がないんだわ。微かな魔力の匂いを残して…」

 

「それってどういう…?」

 

狼牙の言葉にさらに首を傾げるユウマに…

 

「おそらく、転移系の魔法か何かが使われた可能性がある、ということだ」

 

忍が簡単に説明する。

 

「魔法、ですか?」

 

管理世界でありながら魔法とはあまり縁のない世界であるため、いくらパンドラで身近に感じていても実際に現実の話となるとユウマもあまりピンとは来ていないようだった。

 

「あぁ。しかし、この世界に魔法を扱える奴なんて…ほとんどいないだろ? それに魔法を扱う部署もないと思うんだが…」

 

「そうだな。そんな部署がありゃ話が面倒にならずに済むんだが、そうもいかないからな」

 

どうもこの事実を狼牙は先方の警察機構には伝えていないらしい。

 

「とは言え、今更管理局に任せるってのもこっちの面子に関わるからな…そうそう公表は出来ないんだよ」

 

やれやれといった感じに狼牙は肩を竦めてみせる。

 

「そんな…!」

 

そのことにユウマは当然の如く驚く。

 

「何処の世界でもそういうところは変わらんな」

 

吐き捨てるように紅牙が呟く。

 

「人間の社会なんてそんなもんさ。で、それはともかくとして…問題は失踪した連中は何処に転移したか、だ」

 

狼牙も呆れながらも話題を元に戻す。

 

「何処に転移したか?」

 

「いくら俺の嗅覚でも何処に転移したかまではわからん。魔力の残り香を探れてもそこまでなんだよ」

 

ユウマの疑問に答えながらお手上げ状態とばかりに手を振る狼牙だった。

 

「親父でそれなんだから、俺が探っても似たような結果だろうな」

 

忍もまた苦虫を嚙み潰したような表情で答える。

 

「だからこそ、失踪の共通点であるパンドラ内での捜査も必要だと話し合ってたんだが…」

 

「タイミングが良いのか悪いのか、お前が来て捜査の協力をしたいと言ってきたわけだ」

 

ユウマ的にはタイミングが良い時に来たようだ。

 

「俺は既にアバターを取得してるから中から捜査してみるが…他の連中はどうする?」

 

ユウマの協力を得られたからか、忍もパンドラ内での捜査を行うために他のメンバーに確認を取ってみる。

 

「俺はパスする。そのパンドラとかいうもので体の自由を奪われたらいざという時に動けんからな」

 

「わたしも遠慮しとこうかな…」

 

「私も…流石に仕事とはいえ、ゲームに入るのは抵抗があるかな…?」

 

「俺も今時のもんはわからんからな…」

 

紅牙、はやて、フェイト、狼牙の順に忍の申し出を断っていた。

 

「なら、パンドラ内での捜査は俺とユウマの2人でやることにするか」

 

ある程度、予測していたのか…忍はそう言ってユウマを見る。

 

「は、はい。頑張ります…!」

 

「そう力むなって…」

 

そんなユウマの姿に忍は苦笑する。

 

「じゃあ、俺とユウマで明日から中を調査してみる。ま、簡単に尻尾が見つかるかどうかは怪しいが…」

 

「頼む。俺ももう一回資料を見直してみる」

 

忍の言葉に狼牙も頷きながらそう返す。

 

「なら、俺はゲームに入っている貴様らの護衛でもしてやる」

 

万が一のことを考え、紅牙はそう言っていた。

 

「頼む」

 

「あぁ」

 

忍と紅牙はそれだけ言葉を交わす。

今では互いに信頼しているからこそ出来る意思疎通である。

 

こうして捜査チームにユウマを迎えた忍達はパンドラ内での調査を行うことになった。

 

………

……

 

・翌日

 

それは登校時に発覚した。

 

「おい、編入生」

 

フェイタル学園の校門に着くや否や、二日前に現れた雪絵の裏親衛隊のリーダー格が待ち構えていた。

但し、今回は1人だけである。

 

「……なんか用か?」

 

雪絵とユウマの前に出て忍が対応する。

 

「そう構えんな。今日はお前に聞きたいことがあるだけだ」

 

「聞きたいこと?」

 

裏リーダー格の言葉に首を傾げる。

 

「あぁ。お前、ブライアンの奴を知らないか?」

 

「ブライアン……あぁ、あの重騎士スポーツマンか」

 

初のパンドラでの対戦で戦ったあの重騎士のことだとわかり、納得するが…

 

「知らないが、どうかしたのか?」

 

新たな疑問が生じる。

 

「そうか。知らないか…」

 

忍の言葉を聞き、神妙な面持ちになる裏リーダー格。

 

「「?」」

 

その会話を忍の後ろで聞いていたユウマと雪絵が顔を見合わせて首を傾げていると…

 

「まさかとは思うが…連絡が取れないのか?」

 

嫌な予感がした忍がド直球に尋ねる。

 

「……………」

 

朝早くだからか、人通りがないのを確認すると…

 

「あぁ…表の連中が昨日から捜してるが、見つからないそうだ」

 

「「っ!?」」

 

裏リーダー格の言葉を聞いてユウマと雪絵が驚く。

 

「(この学園でも遂に出たのか…)」

 

新たな失踪者が身近で現れたのだ。

 

「時間を取らせて悪かったな」

 

そう言って裏リーダー格は踵を返していた。

 

「あと、先日の借りはいずれ返させてもらう」

 

忍に背を向けたまま裏リーダー格はそう言っていた。

 

「それはユウマへの礼のつもりか?」

 

少し苦笑しながらそう問うが…

 

「……………」

 

裏リーダー格は黙って去っていった。

 

「この世界にも律儀な奴もいたもんだ…」

 

肩を竦める忍の後ろでは不安な表情のユウマと雪絵がいた。

 

「忍さん…」

 

「忍先輩…」

 

忍を呼ぶ声を聞きながら…

 

「わかってる。放課後、即行でパンドラに行くぞ」

 

表情を引き締めた忍が静かに呟いていた。

 

………

……

 

・放課後

 

忍とユウマが揃って近場のゲーセンに向かってる途中のこと…。

 

「そういや、協力してくれるのは助かるが…チームはいいのか?」

 

「ぁ…」

 

言われて気付いたように間の抜けた声を漏らすユウマ。

 

「な、何とか誤魔化してみせます…」

 

「ま、無理せずにな」

 

元々ソロで行動するつもりだった忍はそうユウマに言っていた。

 

すると…

 

「ユウマ!」

 

後方よりユウマを呼び止める声が響く。

その声に聞き覚えがあるのか…。

 

「ぁ、フィーナ先輩」

 

ユウマが振り返りながら答える。

 

「どうかしたんですか?」

 

「どうかしたじゃないわよ! なんで最近顔を出さないのか問い質しに来たのよ!」

 

やけに高圧的な態度のその人物は…腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪、切れ長な眼、トパーズイエローの瞳に凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちのスタイル抜群な体型の女性だった。

制服は学園指定の高等部のブレザーであるため、同じ学園の生徒だとわかる。

 

「……誰だ?」

 

その女性を知らない忍はユウマに尋ねる。

 

「あ、忍さん。ご紹介しますね。こちらはフィーナ・フェルテッシェ先輩。高等部三年生の先輩で、僕や雪絵ちゃんの幼馴染みでもあるんですよ」

 

「へぇ~」

 

「それとフィーナ先輩のお家はパンドラの運営会社にも投資してるんですよ」

 

「出資者の娘…つまり、結構なお嬢様か?」

 

「まぁ、世間一般で言うと、そうなりますかね」

 

「そんなのと知り合いとは…お前もお前で顔が広いな?」

 

「そうですか?」

 

そんな風な会話をしていると…

 

「あなた達、わたくしを前に世間話とはいい度胸ね?」

 

女性こと『フィーナ・フェルテッシェ』がちょっとキレ気味である。

 

「(なんでこんなに怒ってんだ?)」

 

その姿に忍は疑問でしかなかったが…

 

「す、すみません…。あ、フィーナ先輩、こちらは紅神 忍さん。四日前に編入してきた僕の新しいお友達です」

 

ユウマは慣れているのか、忍をフィーナに紹介していた。

 

「あなたが噂の編入生? なんか、パッとしないわね」

 

目の前の忍に対して失礼であるが、フィーナは構わずに続ける。

 

「四日前ということは…あなたのせいね! ここ最近ユウマが来なくなったのは!」

 

そう言うとフィーナは忍に指を突きつけていた。

 

「え…なんのことだ?」

 

何故、指を突きつけられたのかわからず、聞き返してしまう。

 

「パンドラのことよ! 待っても待っても顔を出さないからこうして探してたんじゃないの!」

 

「(えぇ~…そんなことのためだけに因縁をつけられたのか~?)」

 

フィーナの言葉に思わず、露骨に表情に出てしまったのか…

 

「なによ、その顔は!」

 

指摘されてしまう。

 

「あ、いや…」

 

とりあえず、弁明しようとしたところ…

 

「ま、まぁまぁ…フィーナ先輩。今日はちゃんと顔を出しますから…許してください、ね?」

 

ユウマが2人の間に入ってフィーナを説得する。

 

「………本当でしょうね?」

 

「はい」

 

フィーナの睨みにも怯まず、笑顔で返すユウマ。

その姿を見て…

 

「(なんか、手慣れてるな…)」

 

忍はそんなことを思っていた。

 

「そう、ならさっさと行くわよ」

 

そう言って2人を先導するかの如く前を歩き始めるフィーナ。

 

「あ、待ってくださいよ」

 

それに遅れないようにユウマが追いかけ、忍も後に続く。

 

「(なぁ、ユウマ)」

 

「(はい?)」

 

忍はユウマに小声で話し掛ける。

 

「(あのお嬢様っていつもああなのか?)」

 

「(そうですね。当たりはキツイですけど、根は優しい人なんですよ)」

 

「(とてもそうは思えねぇけどな…)」

 

ユウマの言葉に忍は頭を捻る。

 

「(そんなこと言っちゃダメですよ。それにフェルテッシェ家と狼牙おじさんって古い付き合いらしいですよ?)」

 

「(なにぃ?)」

 

それを聞いて軽く驚いたようだ。

 

「(おじさん、昔はフェルテッシェ家の護衛だったらしくて今でも付き合いがあるって雪絵ちゃんも言ってました)」

 

「(マジか…)」

 

新たな事実に忍は少し頭が痛くなっていた。

 

「何をこそこそ話してるのよ!」

 

前を歩いていたフィーナがお怒りの声を上げる。

 

「ぁ、いえ…」

 

「なんでもないです」

 

ユウマは控え目に言うのに対して、忍は平然と返す。

 

「というか、なんであなたまでついてくるのよ?」

 

ユウマはともかくとして忍がついてくるのが疑問だったらしい。

 

「俺もパンドラをやるからですよ」

 

平然と答える忍に…

 

「そうなの?」

 

キッとユウマを睨みながら聞く。

 

「はい。忍さんは初心者ですから…色々と教えようと思いまして」

 

「そう。なら仕方ないわね。でもランク6のあなたがなんでこんな初心者を直々に教えるの?」

 

ユウマの言葉に疑問に思ったフィーナはそう問いかける。

 

「忍さんが編入してきたのは僕のクラスで、僕は忍さんの隣に座ってますから…その縁と言いますか…」

 

「ふ~ん…」

 

ユウマの答えにあまり興味なさそうにフィーナは相槌を打つ。

 

 

 

そうこうしていると目的地であるゲーセンに着く。

 

「やっほ~、ユウマちゃん。それとお嬢様にイケメン君」

 

そこでは何かのゲームのキャラなのか、いやに露出が多めな衣装を着たアイビスが接客してきた。

 

「あ、アイビスさん…////」

 

その姿にユウマは顔を赤くして目を逸らす。

 

「相変わらず品のない格好ね」

 

フィーナはアイビスの姿を一蹴していた。

 

「(こんな格好の接客によく許可が出たもんだ…)」

 

忍は忍で大いな疑問を抱いていた。

 

「にゅふふ、今日は『フォルトゥーナ』のメンバーが揃ったね」

 

そう楽しげに言うアイビス。

 

「『フォルトゥーナ』?」

 

その単語に忍は首を傾げる。

 

「あ、僕達のチーム名です。なんでも異世界から漂ってきた本に書かれてた女神様の名前だって、アイリさんが言ってました」

 

「なるほど…(確か、地球の神話にそんな名前の運命を司る女神がいたような…? 偶然か?)」

 

ユウマの説明を受け、忍はそんな考えを巡らせていた。

 

「ファムさんとアイリさん、先に来てたんですね」

 

「ユウマちゃん、昨日も来なかったから心配だったんじゃないの?」

 

「あ…」

 

アイビスに言われてユウマはバツが悪そうな表情になる。

 

「とにかく謝っておきなよ?」

 

「…はい…」

 

アイビスの助言に素直に頷き、二階へと続く階段を目指す。

 

「そいじゃ、ごゆっくり~♪」

 

アイビスの声を背に忍達は二階のパンドラ専用の個室へと移動して電脳世界へとダイブする。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・エントランス』

 

エントランスで合流した忍とユウマの前に…

 

「やっと来ましたね、ユウマさん」

 

少し不機嫌そうな表情の軽装タイプの騎士甲冑を身に纏い、腰には刀とレイピアという異なる剣を帯刀したファムと…

 

「あの…ユウマ先輩…そちらの方は…?」

 

そのファムの背に隠れるように忍に視線を向けている、セーラー服の上から魔導師が纏うようなローブを羽織って大きな辞書みたいな本を両手で抱えるアイリが待っていた。

 

「あなたは…確か、編入してきたベニガミ君? 随分と派手な格好ですね」

 

同じクラスのために知っていたのか、ファムは今の忍のことをそう評する。

ちなみに忍の格好は以前の貸し出し装備のままだったりする。

 

「えっと…ユウマ、彼女達が?」

 

確認するように忍はユウマに尋ねる。

 

「はい。前衛を務めてくれる同じクラスの風紀委員のファムさんと、二つ年下で後衛を務めてくれるアイリさんです」

 

そう答えていた。

 

「ファムさん、アイリさん。最近はなかなか顔を出せなくてごめんなさい」

 

そして、最近来れなかった謝罪としてファムとアイリに頭を下げる。

 

「まぁ、来てくれたならいいんです」

 

「はい…」

 

そう言うファムに続き、ホッとしたような感じのアイリ。

 

「それよりもなんでベニガミ君と一緒なのですか? まさか、チームに入れるなんてことは…」

 

訝しげにユウマを見るファムだが…

 

「いえ、それは断られたんですが…」

 

そこは素直に答えるユウマだった。

 

「流石にランク1で変な目立ち方をしちゃいましたから1人じゃ危ないと思って、今日はパンドラでのプレイを教えるために一緒にダンジョンを進もうかと…」

 

「変な目立ち方………あぁ、あの決闘ですか…」

 

それを聞いてファムも合点がいったようだ。

どうもあの決闘のことを噂で聞いていたらしい。

 

「ネットでの、書き込みも…その、凄いことに、なってましたね…」

 

アイリもアイリでネットの書き込みを見たらしい。

 

「至らないこともあるが、今日はよろしく頼む」

 

忍はファムとアイリに頭を下げる。

 

「じゃあ、忍さんはファムさんと一緒に前衛をお願いします。僕はアイリさんを守るので…」

 

そういうフォーメーションを決めてからダンジョンへと足を向ける。

 

「二刀流ですか。足を引っ張らないでくださいね?」

 

「善処はする」

 

同じ剣士タイプと思ったのか、ファムはそう言い、忍もそう答える。

 

「大丈夫、なんですか…?」

 

「うん。忍さんならきっと大丈夫ですよ」

 

アイリが一抹の不安を抱いているが、ユウマは大丈夫だと言う。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・カフェスペース』

 

「何度味わっても味気ないわね。やっぱり、ユウマが淹れてくれる紅茶の方が良いわね」

 

そう愚痴りながらデータの紅茶を優雅に楽しむ…とは言い難い様子のフィーナがテーブルに設置された画面に目を移す。

 

「本当に同行させるなんて…正気かしら?」

 

そう言って画面に映るフォルトゥーナ+忍というメンバー構成に眉を顰める。

 

すると…

 

「あ、フィーナだ。お~い」

 

カフェスペースにやってきたミーシャがフィーナを見つけるなり、大声で呼んでいた。

 

「ミーシャさん。そんな大きな声を出さなくても…」

 

そんなミーシャを咎めるように1人の女性が言葉を紡ぐ。

 

「あぁ、ゴメンゴメン。アザカは耳が良いもんね」

 

ミーシャもその女性に謝る。

ちなみに先日ユウマとミーシャの会話の中で名前が出た『鮮花(アザカ)』と呼ばれた女性は、背中まで伸ばした金髪、黒い瞳、優しい雰囲気の綺麗な顔立ちのミーシャに負けず劣らずの豊満な体型だったりする。

 

「あら、鮮花さんにミーシャさん。相変わらず仲がよろしいようで」

 

そう言ってフィーナは視線をミーシャと鮮花に向ける。

 

「うん。だってアザカは私の親友だもん」

 

「もう、ミーシャさんったら…」

 

ミーシャの言葉に鮮花も少し照れたような表情を見せる。

 

「ところでフィーナはユウマの観戦?」

 

「えぇ。お邪魔虫が1人いるけど…」

 

「お邪魔虫?」

 

フィーナの言葉に首を傾げるミーシャに…。

 

「これよ」

 

今見ていた画面を2人に見せる。

 

「男性の方が1人増えましたか?」

 

「新しいチームメイト?」

 

そんな2人の疑問に…

 

「いいえ、ただの初心者よ。ユウマが面倒を見るから今日は一緒なんですって」

 

フィーナは不機嫌そうに答える。

 

「へぇ~。見るからに前衛だけど…名前は?」

 

「さぁ? 自分で調べたら?」

 

本当に興味がないのか、そう言って紅茶に口をつける。

 

「それよりも立ってないであなた達も座ったら?」

 

そして、同席を進める。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「失礼します」

 

フィーナの右隣にミーシャ、左隣に鮮花が座る。

こうして3人は(主に)ユウマ達のダンジョン攻略を見物することになった。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・洞窟型遺跡ダンジョン』

 

「はぁ!」

 

下級のモンスター相手に一対一を挑むファムは左手に持つレイピアによる鋭い突きを繰り出していた。

 

『ギャアアッ!!?』

 

その突きで体力を奪われたモンスターは塵状になって消えていく。

 

『シャアアッ!!』

 

別方向から別の下級モンスターがファムに襲い掛かるが…

 

「っ!」

 

バンバンッ!!

 

後方のユウマによる援護射撃が火を噴き、その下級モンスターの体勢を崩す。

 

「はっ!」

 

その隙を見逃さず、ファムは右手に持つ刀でその下級モンスターを斬り裂く。

 

「ファム先輩…次は、右から来ます……ベニガミ先輩は、そのまま…ファム先輩の、取りこぼした敵を、叩いてください…!」

 

ユウマの背に隠れるようにしながらも指示を出すアイリは防御魔法を使って前衛の2人を援護していた。

 

「了解(しっかし、流石は上級者チーム。見事な連携だ。ファムは独特の二刀流だし、アイリもオドオドしてるようで的確な指示を出す…。しかもそれを的確にサポートしてるユウマも凄い…普段の姿からは考えられんな)」

 

そう答えつつ、忍は忍で左手の刀で防御しつつ右の刀で下級モンスターを斬り伏せていく。

まだ初心者が通うようなエリアのため、忍でも容易に倒せるモンスターが多い様だ。

そして、忍はこのフォルトゥーナというチームの連携や個々の技量にも舌を巻いていた。

 

そんな具合にそのエリアで忍の経験値を集めている中…

 

「(あれ? あれって…)」

 

ユウマは奥に続く通路の先で、亜麻色の髪を見たような気がした。

 

「(デヒューラ、さん…?)」

 

もしかして、という思いがあったので…

 

「すみません。ファムさん、アイリさんの護衛をお願いします。忍さんはそのまま経験値を集めててください」

 

そう言ってその場から離れるユウマ。

 

「ちょ、ユウマさん!?」

 

いきなりのことに動揺しながらファムがアイリの近くまで下がる。

 

「これを俺一人で捌くのか?」

 

目の前に群がるゾンビ型モンスターを見て忍がぼやく。

 

 

 

そして…

 

「えっと、確かこっちに…」

 

奥に続く道から少し逸れ、ユウマは普段から人が来ないような細い道を進んでいた。

 

「(というか、こんな道…この場所にあったっけ?)」

 

何度かこのダンジョンに来ていたが、こんな道があったかなと疑問に思うユウマだが…

 

「(そっか。この間のメンテナンスで新しく増えたのかも…)」

 

ならば知らないのも無理はないと、そう結論付けていた。

 

しばらく歩いていくと…

 

「(あ、ちょっと明るくなってきたかも…)」

 

薄暗い道の先から光明が見えてきた。

 

すると…

 

「------」

 

「------」

 

誰かと誰かが話をする声が、微かに聞こえてくる。

 

「(この声…やっぱり、デヒューラさんかな?)」

 

そう思いながら光明の先へと進もうとした時だった。

 

「本当に…これで本当にこの世界から出られるのね?」

 

「えぇ、そうですよ。この世界から飛び出して新たな世界に旅立てるのです」

 

「(え…?)」

 

聞こえてきた会話の内容で、光明n発生源となる小さな空間の手前の壁際でユウマは立ち止まることになった。

 

それはそうだろう。

いつも明るいはずのデヒューラの声が、今は別人のように冷え切っていたのだから…。

 

「本当に…こんな世界から飛び出せるのね?」

 

もう一度、確かめるような声が聞こえてくる。

 

「はい。その魔法陣はゲーム内から現実世界のあなたの持つパンドラの端末へと自動的にインストールされます。そして、それを現実世界で起動したならば、あなたを素晴らしき世界に連れて行って差し上げましょう」

 

それを聞き…

 

「あの両親から離れられるならなんだっていいわ」

 

冷め切ったような口調が聞こえる。

 

「それでは、現実世界でその時を待っていますよ。デヒューラ・スイミランさん」

 

そんな会話の後、2人の人物はその場から転移魔法を使い、エントランスへと戻ってしまった。

 

「デヒューラ、さん…?」

 

物陰から出てきたユウマは1人、困惑の極みに立っていた。

 

何かが起きている…。

 

「(どういうこと? あの両親から離れられるなら…? 新しい世界って…?)」

 

それはわかっているのに…うまく言葉に出来なかった。

 

そして、数分間その場で考え込んだ末に辿り着いた結論は…

 

「(もしかして…これが…失踪事件の、前触れ…?)」

 

とても嫌な予感が…電脳世界だというのに悪寒が走り、背中に冷や汗を流しながらユウマは忍の元へと急ぐ。

 

「(このままだと…デヒューラさんが、いなくなっちゃう…!)」

 

クラスメイトが消えるかもしれないという考えが…ユウマを焦らせる。

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