ユウマが聞いた怪しげな内容の会話。
それがパンドラ内で失踪者を次々と出している可能性が高いと思ったユウマは急ぎ、忍と合流するべく走っていた。
「(デヒューラさん…どうして…)」
急いで走っていきたため、すぐに忍達と合流することが出来そうである。
ユウマのステータスもどちらかと言えば、サポートに徹するためにスピードを少し重視しているのでそこそこ速いのである。
「はぁ…しんどい…」
ゾンビ型モンスターの群れを1人で相手するという経験値及び装備調達の資金稼ぎを知らぬ間に課せられてしまった忍であった。
ちなみに忍が討ち漏らしたゾンビ型モンスターはファムがしっかりと処理しているので、アイリは無傷である。
と、そこに…
「ぁ…ユウマ先輩」
アイリが奥の通路から走ってくるユウマに気付く。
「ユウマさん! 一体何処に…」
ファムがお怒りのようで、小言を言おうとしたが…
「ごめんなさい! 話は後でしますから!」
そう言うと、ユウマは忍の腕を掴んで無理やり引っ張ってしまう。
「うおっ!?」
ゲーム内だからかどうか知らないが、ユウマに引っ張られた勢いで忍の体が浮いてそのまま引きずられていく。
「ユウマさん!?」
「ユウマ先輩…!?」
「ユウマ!?」
ファム、アイリ、忍とユウマの行いに驚いていると…
「エントランスに転移後、そこから現実世界に戻ります!」
「ちょ、待て!? 一体どうした!!?」
そう言葉早に言うと忍の了解も得ず、ユウマは転移魔法が使えるアイテムを取り出してそれを前方の地面に投げつける。
その行動には忍も理解が出来ず、説明を求めていたが…。
「行きます!」
余程慌てているのか、忍の声も聞かずに一緒にエントランスへと転移してしまう。
「ユウマ、さん…?」
「???」
その行動がわからず、置いてけぼりを食らったファムとアイリはただただ呆然としてしまっていた。
………
……
…
『パンドラネットワーク・カフェスペース』
「どうなってるの?」
「さ、さぁ?」
観戦組が見ていた画面はフォルトゥーナを中心に映っていたため、ユウマが何故急に離脱したのかまではわからないでいた。
つまり、ユウマが1人で行動していた映像は見れていなかったので、何が何だかわかっていないのだ。
これはパンドラの観戦がソロでプレイしているプレイヤー以外は登録しているプレイヤーの所属しているチームが優先となるために起こる現象である。
今回の場合、ユウマが抜けた後のファムとアイリの姿がフィーナ達の元へと届けられていたので、ユウマが単独で何をしていたかまでは映されていなかったのだ。
そんなことで途中から見ていなかったフィーナも事態の把握が出来ないでいた。
「(ユウマったら、何を血相変えてたのかしら?)」
一瞬しか見れなかったユウマの表情を思い返しながらフィーナは席を立つ。
「フィーナ? どこ行くの?」
それを見てミーシャが尋ねる。
「ユウマに会いに行くのよ」
そう言ってエントランス方面に続くゲートへと歩いていく。
「そっか。なら、ユーマによろしくって伝えて~」
「気が向いたらね」
素っ気ない返事とは裏腹にフィーナの足は急いでいた。
………
……
…
・現実世界
「で、急いでログアウトしたのはなんでだよ?」
個室から出た忍は先に出て待っていたユウマに訳を聞いていた。
「あの…もしかしたら、デヒューラさんが失踪しちゃうんじゃないかって思って…だから居ても立っても居られなくて…」
動揺しているのか、かなり端折った説明を忍にしていた。
「はぁ? なんで、そんなことがお前にわかる? しかも名指しだなんて……つか、もう少し落ち着いて状況を教えろ」
一番大事なとこが抜けているため、忍も訳が分からなかった。
「えっと、その…さっき、奥の通路で僕も知らない道があったんです。そしたら、その奥で怪しい会話が聞こえて…」
「怪しい会話?」
「はい。えっと、確か…新しい世界に旅立てるとか…あの両親から離れられるとか…魔法陣が端末にインストールされるとかどうとか…」
かなり慌てていたため、会話の内容もあまり覚えてないようだが…
「なに…?」
忍は"魔法陣が端末にインストールされる"という部分に引っ掛かりを覚えた。
「魔法陣をインストールだと…? パンドラにそんな機能があるのか?」
「し、知りません。というか、そんな機能があったらもっと騒ぎになってると思いますし…」
魔法があまり普及していない世界だからこそ、その話題性は高いはずである。
しかし、そんな話題は今まで出てこなかったし、ユウマも知らない様子であった。
「それもそうか。なら、外部からのハッキングの可能性は?」
「パンドラを運営してる会社のセキュリティがしっかりしてるからまず不可能かと…」
「とは言え、ハッカーがいない訳じゃないだろ?」
「それは、そうですけど…」
忍の言葉にユウマも頷くしかなかった。
「今から片っ端からハッカーを探すわけにもいかねぇしな…」
これからどうするか頭を捻っていると…
「とにかく、デヒューラさんを探さないと…!」
ユウマはさっきの会話でデヒューラのことが心配で仕方ないらしい。
「とは言ってもな…彼女の匂いなら多少は覚えているが…ここにはそれらしい匂いはないから、別の施設でアクセスしてたんじゃないか?」
「そんな…!」
そんな言葉にユウマは軽いショックを受ける。
「せめて彼女の家が何処かわかれば、先回りでもできるんだが…」
「デヒューラさんの家の場所…」
その一言にユウマは…
「あ…!」
何かを思い出したように声を上げる。
「どうかしたのか?」
「僕、知ってるかもしれません!」
「なに?」
「前にデヒューラさんが休んだ時に届け物を頼まれたことがあって、確かマンションの入り口まで行った記憶があります。結局、入り口の近くでデヒューラさんに会ったのでそこで渡しましたけど…多分、あそこのマンションで間違いないはず…」
そう言ってはみるものの、あまり自信はなさそうな様子だった。
「今は時間がないんだろ? だったら、その記憶に賭けてみろ」
「っ、はい!」
忍に言われ、ユウマも自分の(曖昧な)記憶を信じようと考えた。
「じゃ、案内は頼む。俺はこっちの地理に疎くてな」
「はい、わかりまし…」
ユウマと忍が歩き出そうとした時だった。
「ちょっと待ちなさい!」
その前にパンドラからログアウトしてきたフィーナが立ち塞がる。
「ふ、フィーナ先輩…!?」
「(また厄介な時に…)」
ユウマの話から考えると、ここで時間を掛ける訳にはいかないと感じた忍は念話を使って外で待機してるだろう紅牙に連絡することにした。
「何処に行こうっていうの?」
「そ、それは…」
フィーナの質問にユウマは言葉を詰まらせる。
「(フィーナ先輩を危ない目に遭わせる訳には…)い、言えません…!」
ユウマはユウマでフィーナを危険な目に遭わせたくないからこそ、そう言うが…
「わたくしにも言えないことなの!?」
逆に火に油を注ぐ結果になる。
「だ、だって…」
危ないから、と続けようとしたが…
「………」
それを予期した忍から軽く肘で小突かれる。
「(言ったら余計にややこしくなるから言うなよ?)」
一応、念話でそう釘を刺しとく。
「っ!?」
頭の中で忍の声が聞こえたので驚き、忍の方を見る。
念話自体も初めてなのだから仕方ないのだが…。
「ユウマ!」
話をしてる最中なのに忍の方を見たのが、お気に召さなかったらしいフィーナが詰め寄ってくる。
「(ど、どうしよう…)」
場合によっては一刻を争う時なのに、ここでフィーナを突き放すことが出来ない様子のユウマであった。
「(仕方ない。心苦しいが、こうなったら強硬手段もやむなしか…?)」
それを見てか…最悪、フィーナをこの場で気絶させることを考え始めた忍だった。
「(でも、ここで躊躇してたら…デヒューラさんが…)」
そんな忍の考えを知ってか知らずか、ユウマも決心する。
「フィーナ先輩。ごめんなさい!」
謝りながらユウマは回れ右して二階の非常用階段へと向かって走っていく。
「なっ!? ユウマっ!!」
ユウマが逃げるとは思わず反応が遅れたが、それでもユウマを追い掛けようとするフィーナ。
「ユウマ。紅牙と一緒に先に行け!」
が、それを遮るように忍がフィーナの前に立ちはだかる。
「忍さん!?」
忍が追ってこないのを感じたのか、ユウマが振り返るが…
「いいから行け!」
そう言って忍はフィーナの前から退こうとしなかった。
「すみません!」
それを見てユウマも振り切るようにして走る。
「退きなさい!!」
護身術でも習ってるのか、鋭いパンチが忍に襲い掛かる。
「悪いが、こっちにも事情がある!」
ユウマのさっきの必死さから感じたものを信じ、忍はフィーナの拳を手の甲で受け止める。
「どんな事情があろうが、わたくしとユウマの間で起きたことよ! お邪魔虫は退いてなさい!!」
「(そうか…彼女はユウマを…)」
パンチから伝わってくる怒りと悲しみを感じ、忍はフィーナがユウマのことを好いているのだと理解する。
「お嬢様!」
一階に続く階段の方からわらわらと雪崩れ込んでくる護衛役らしい人間達。
「このお邪魔虫を排除なさい!」
拳を引きながら護衛役達に忍の排除を命令するフィーナ。
「ちっ…」
今更ながらこんな場所で騒ぎを起こしたことを後悔し始める忍。
「(親父には悪いが…ここはユウマの意思を尊重させてもらう…!)」
この世界で出来た友人のため、敢えて汚名を被ることを選んでいた。
………
……
…
一方、ゲーセンの外では…
「状況は紅神から念話で聞いている。さっさと行くぞ」
「は、はい…!」
忍からの念話である程度の事情を聞いた紅牙がユウマと合流していた。
多少、息切れしているが…。
「こっちです…!」
ユウマの先導でデヒューラの家があるマンション方面へとさらに走っていく。
そして…
「ここか?」
「はぁ…は、はぁ…は、い…」
あるマンションの前に到着する紅牙とユウマ。
ここまで一緒に走ってきて息切れしない紅牙にユウマは軽く自分の体力に自信をなくしていたが、現在進行形で鍛えている紅牙と一般人よりも少し体力のあるユウマを比べるのは酷というものである。
「紅神のように匂いがわかる訳ではないが…この不自然な気の流れは、魔力によるものか?」
紅牙の中に流れる天狐としての血が周囲から感じる異変を告げていた。
「はぁ…はぁ…き、気の流れ…?」
「説明する時間が惜しい。俺もこういう索敵系に慣れてる訳じゃないから期待はするな」
ユウマの疑問に答えず、意識を集中させて異変の中心点となる場所を探り始める。
こういうことはシアに任せてきたため、紅牙は少し苦戦しているようだった。
「…………あそこか」
しばらくして紅牙の視線の先に異変の中心点となっているだろうマンションの一室が映る。
「冥王化して飛べば楽なんだが…如何せん人目があってはな…」
そう呟きつつ周囲にいる一般人の存在が紅牙の行動を阻害する。
暗くなり始めた夕暮れということもあり、帰宅途中の学生や主婦などがちらほらと目立つ。
「(こういう世界では極力目立つな、というのも仕方ないが…このままではみすみす情報を見逃すことになる。それは避けなければ…)」
多少の危険を承知で冥王化することを考え出す紅牙を他所に…
「デヒューラさん…!」
息を整えたユウマはマンションへと向かって走っていた。
「あ、おい!」
それを見て紅牙もユウマを追う。
「おっと、見ない顔だね。お嬢ちゃん達、何かご用かい?」
と、そこに警備員らしきおじさんが立ちはだかる。
「誰が…!」
"お嬢ちゃんだ、ゴラァ!"と怒鳴ろうとした紅牙だが…
「すみません、通してください。友達に会いに来ただけなんです!」
紅牙よりも先にユウマが警備員のおじさんに問いかけていたので未遂に終わった。
「友達ぃ? そのお友達の名前は?」
その問いに対して…
「デヒューラ・スイミランさんです」
ユウマはフルネームで答える。
「え、スイミランの嬢ちゃんの…?」
が、警備員のおじさんはかなり驚いた様子であった。
「? それが、何か…?」
その驚き様に違和感を覚えたユウマが尋ねる。
「いや、こりゃ失礼したね。なんせスイミランの嬢ちゃんのとこに友達が訪ねてくるなんざ初めてでね」
そんな警備員のおじさんの言葉に…
「え…?」
ユウマは信じられないような感じの声を漏らす。
「どういうことだ?」
イマイチ話が繋がらない紅牙が警備員のおじさんに尋ねる。
「いや、これはプライバシーにも関わるからオフレコで頼みたいんだがね」
そう言うと、警備員のおじさんは周囲にユウマと紅牙しかいないのを確かめてから口を開く。
「スイミランさんとこはね。なんていうか、その…家庭が冷え切ってるんだよ」
誰の耳があるかわからないため、小声で切り出す。
「冷え切ってる…?」
その言葉の意味がわからず、首を傾げるユウマに…
「あぁ。スイミランさんとこは両親共に仕事人間でね。どうして子供なんて作ったのかってくらい忙しいんだわ。だから昔からスイミランの嬢ちゃんの面倒はベビーシッターがやってたね。でもって、幼稚園か小学生くらいの時にはもう寂しそうに1人で帰ってくるのを見てきたよ…可哀想なことにな。たまに俺とは喋ってくれてたっけかな」
警備員のおじさんはそう説明していた。
「それって…」
「あぁ、察しの通り。学校での行事なんてのも家族で一緒に出掛けるってことも俺が記憶してる限り、ほとんど無いな。スイミランの嬢ちゃんは両親に関心を持たれないままここ十数年を1人で生活してきたんだよ」
警備員のおじさんもバツが悪そうに説明を続ける。
「…………」
「高校生になってからだっけかな? あの娘が雑誌に載るようになったのは…? その雑誌をたまに見て思うよ。きっと無理してあんな笑顔を作ってんだろうなって…正直、見てて痛々しくなるよ。モデル仲間なんてのを連れてくるなんてことはないし、帰ってくる時はいつも1人で、冷たそうな表情だったからな。こうして友達が訪ねてくるなんて思いもよらなかったのさ」
言葉を失うユウマに更なる追撃とばかりに警備員のおじさんは言う。
「……………」
それを聞いていたユウマの拳は無意識なのか、ギュッと握り締められてプルプルと震えていた。
「スイミランの嬢ちゃんに初めて家まで会いに来てくれた友達だ。黙って通してやりたいが…俺も仕事なんでね」
困ったように警備員のおじさんは言うと…
「とは言え、俺もずっとここにいる訳じゃねぇし…そろそろ飯でも買いに行こうかと思ってたとこだ。その間に誰かが、六階の友達ん家に行っても気付けねぇわな」
わざとらしく口笛を吹きながらユウマと紅牙の横を通り過ぎる警備員のおじさんだった。
「……………」
ユウマは振り返って警備員のおじさんに一礼してから…
「行きましょう!」
紅牙よりも先にマンションに入っていく。
「…不器用なおっさんだ」
そう言い残して紅牙もユウマを追いかけていく。
マンションの六階。
「気の乱れが強くなってきたな。近いぞ」
六階の通路を歩きながら紅牙がユウマに注意を促す。
「(ゴクッ)は、はい…」
今になって怖くなってきたのか、少し震えながら答えるユウマ。
「……引き返すなら今の内だぞ。これは本来お前のような民間人が関わっていい案件ではないんだからな」
その様子を見た紅牙が最後通告のようなことを言う。
「で、でも…」
「ここまで来ただけでも大いに助かった。後は俺達に任せてお前はお前の日常に帰れ」
そう言いながら紅牙はユウマを追い越していく。
それは震えるユウマのことを紅牙なりに案じての言葉だった。
「だ、大丈夫です…! デヒューラさんが危ない時に黙って見過ごすなんて…できませんから…!」
しかし、気丈にもユウマはそう言って自分を無理矢理にでも奮い立たせる。
「何故、そこまでして関わろうとする? さっきの警備員の話を聞いて、その女に同情でもしたか?」
そう尋ねる紅牙に対して…
「違います!」
ユウマは即否定する。
「デヒューラさんは…明るくて、社交的で、いつも僕のことをからかってきますけど…そんな、あの明るい人の姿が嘘だったなんて思いたくなくて…そんなずっと辛い状況だったのに、笑って僕達と話していたなんて知らなくて…それが僕は、自分自身が許せなくて…っ」
紅牙に訴えかけるようなユウマの眼からは大粒の涙が流れていた。
「聞いていた限り、誰にも教えていないのだから仕方のないことだろう?」
ユウマの涙を見ても紅牙はそう言い切るが…
「でも…それでも…! 僕はデヒューラさんの味方でいてあげたいんです…! あんな悲しい話を聞いた後だから、余計にそう思えてならないんです…!」
「(感受性の強い奴だ…)」
ゴシゴシと涙を拭うユウマを見て紅牙はそう感じていた。
「なら、もう何も言わないから好きにしろ…」
そう言って先を歩いていく。
「っ、はい…!」
目を赤くさせながらも紅牙の後についていく。
そして、2人は『スイミラン』の表札のある一室の前に立つ。
「電子錠相手に解除魔法が効くかわからんが…やるだけやってみるか」
そう言って紅牙は扉の前に右手をかざすと、魔力を集中させて解除魔法を発動させる。
「…………ちっ…」
流石に電子錠を外すことは出来なかったのか、舌打ちする紅牙…。
「流石に中の魔力の質も高まってきている。時間も惜しいか…」
「ど、どうするんですか?」
紅牙の様子を後ろから見ていたユウマが尋ねると…
「こうする」
右足を上げてそこに妖力と気を集中させて…
「ふんっ!!」
ガラガッシャァンッ!!!
思いっきり扉を蹴破った。
元々、紅牙はこういう短気なところがあったりする。
というか、ここまで色々と騒ぎにならないように頑張ってきたのに最後は力技か…?
「わわわ…!?」
流石のユウマも驚き、あわあわと慌てだす。
今の音で隣に住んでいる住民も何事かと出てきそうではあるが…。
「行くぞ」
そんなことはお構いなしとばかりに紅牙がスイミラン一家が借りている一室へとズカズカと入っていく。
「ま、待ってください!?」
ここにいても色々と誤解されそうなので、急いで紅牙の後を追っていく。
「この部屋か」
先に土足で踏み込んでいた紅牙はある部屋の前に立っていた。
「な、なんなの!?」
部屋の中からはその主であるだろう少女の声が聞こえてきた。
「デヒューラさん…!」
その声を聞いてユウマが声を上げると…
「え、その声って…ユウマちゃん?!」
中から動揺したような声が聞こえてくる。
「今開けますから…!」
「ちょ、待っ…!!?」
デヒューラの許可なしに部屋のドアを開けると…
「これは…!?」
その部屋の床には黒と蒼の混ざったような未知の魔法陣が展開されており、その中心にデヒューラが立っていた。
「(紅神の言っていた魔法陣…絶魔勢のものか!)」
その魔法陣を見て即座に忍の言っていた絶魔が使う魔法陣だと理解した紅牙だった。
「デヒューラさん! 行かないでください!」
既に臨界点に達していた魔法陣が輝きを増していく中、ユウマが魔法陣の中へと飛び込む。
「待て、天崎!?」
それを止める間もなく…
キィィンッ!!!
バッ!!
魔法陣の転移が発動し、その場からデヒューラとユウマの姿を消していた。
「くっ…しまった!」
ユウマを止めることが出来なかったことを後悔する紅牙は…
ウゥゥゥン!!!
「ちっ…あいつらにどう顔向けすればいいんだ…!」
警察機構の車がやってくる音を聞きながらその場から転移して雪白探偵事務所の庭へと消えていく。
「(天崎…無事でいろよ…!)」
………
……
…
~???~
デヒューラ、とユウマが転移した先は…
「ここが、新しい世界…?」
「ここは…?」
多次元空間に隠れている変貌したフロンティア内部の遺跡だった。
「おや、招かれざるお客様がいるようですね。デヒューラ・スイミランさん」
そこに現れたのは…上に蒼いワイシャツを着て、下に黒いスラックスを穿き、黒の革靴を履いて、その上から白衣を羽織った姿という出で立ちのノヴァであった。
そう言いながらノヴァはその濁り切った瞳をユウマへと向ける。
「っ!?」
その瞳で見られ、ユウマは背中がゾッとするような感覚に見舞われる。
「この子は違うの! 勝手に付いてきただけで…!」
デヒューラがノヴァに言い訳をするが…
「問題ありません。不慮の事故とは言え、お客様はここの存在を知ってしまいした。なら、"処分する"までです」
つとめて平静に人の命などどうでもいいような感じに言い放つ。
「なっ!?」
ノヴァの一言にデヒューラは言葉を失う。
「ユウマちゃん、逃げて…!!」
「ッ!?!?」
デヒューラの叫び声で我に返ったユウマは一目散にその場から逃げだす。
「ふむ、困りますね。デヒューラ・スイミランさん」
そう言いながらも全く困った様子には見えないノヴァは白銀のチェーンブレスレットを取り出すと…
「カプリコーン。お客様を排除してきなさい」
それを起動させ、白銀の山羊ことカプリコーンを出現させて命令を下す。
『了解よ、マスター』
それを聞き入れたカプリコーンはその場の床を蹴ってユウマを追い掛け始める。
「な、なによ…今のは…?」
他の次元世界でも使われているデバイスの実物を見たことのないデヒューラが自律稼働することが可能なエクセンシェダーデバイスを見て驚くのも当然である。
「あなたも手にする"デバイス"という代物ですよ」
「あなた、"も"…?」
ノヴァの言葉に疑問を抱くデヒューラ。
「ふふふ…」
微笑んでる様にしか見えない彼の表情は、邪悪でしかなかった。
一方のユウマはというと…
「はぁ…はぁ…んっ…はぁ…はぁ…!!」
カプリコーンの追撃から必死に逃げ回っていた。
『ちっ…ウロチョロと小賢しい…』
カプリコーンは山羊形態から人型悪魔形態『バフォメットフォーム』となってユウマを追い掛けていた。
「な、なんなの…あれは…?!」
追ってくる白銀の山羊の頭を持つ人型悪魔を少しだけ振り向き様に見てしまったユウマは独りごちるように呟く。
『アレは…私と同じエクセンシェダーデバイス。山羊座を司る生物型の一機です』
「アレが…!?」
ポケットにしまっていたヴァルゴからの説明でさらに驚く。
『やっぱり、ヴァルゴ。アンタがいたのね』
『やはり、気付いていましたか』
曲がり角を曲がりながらカプリコーンが確認するように音声を出し、それに答えるようにヴァルゴも音声を出していた。
『お互い…長い付き合いだからね』
『そうですね』
その間にもユウマは次の曲がり角を曲がっていく。
もはや元の場所に戻るのは不可能なくらいで逃げ回っていた。
「(もう、ここが何処かもわからないけど…もし捕まったら…)」
『処分する』という言葉の意味…普通に考えれば、口封じのために殺されるということだろう。
「(そんなの…絶対に嫌だ…!)」
デヒューラを連れ戻さないといけないし、家族に心配をかける訳にもいかないし、まだまだやりたいことや将来のことも考えないとならない年頃のユウマはそう頭で考えてはいるのだが…
「はぁ…っ…は、はぁ…!!」
もう何分も逃げ回っており、デヒューラの家に行くまでにも大量の体力を消費したこともあってか疲労がピークに達していた。
「(も、もう…げ、限界…!)」
フラフラと走っていると…
『いい加減、鬼ごっこも飽きてきたし…これで消えちゃいな!』
道が直線的になったと見るや、カプリコーンは右手側に位置するリデュースユニットの前部中央から大型砲門を出現させてユウマに狙いをつける。
キュイィィィ…!!
『ファイア!』
ゴォォ!!
リデュースユニットから発射された魔力砲撃がユウマへ目掛けて飛来する。
『マスター!』
ヴァルゴの悲鳴も叶わず、ユウマに直撃しようとした時…
「あっ!?」
足がもつれてその場で転んでしまう。
チュドォォンッ!!
そのおかげか、砲撃は目標を失って前方の壁へと直撃して爆発する。
『あ、ヤバ…(確か、この辺って…)』
カプリコーンのそんな呟きをよそに…
「(い、今の内に…)」
土煙が舞って視界が悪くなる中、ユウマは這ってカプリコーンの開けた壁の穴へと入り込む。
「(ここ、は…?)」
そこもまた遺跡の施設だろうが、ユウマには何の施設かわからないでいた。
「(と、とにかく…隠れなきゃ…)」
疲れた体を引きずりながら何処かに隠れようとするユウマの前に…
「ひっ…!?」
何処からか落ちてきたのだろう、身長約26cmの小さな女の子が恐怖に満ちた表情で怯えていた。
「え…?」
その女の子の存在にユウマもキョトンとした表情になる。
「どうして、こんなところに…女の子が……? というか、あれ? 疲れてるのかな…小さく見えるけど…」
そう言って手を伸ばすと…
「ぃ、いや…怖いこと、もう…しない、で…」
ユウマの伸ばした手の指を弱々しく押し返す女の子。
「え…???」
女の子との距離は遠近法だとばかり思っていたユウマはさらに混乱していた。
それよりも…
「怖い、こと…?」
女の子が発した言葉の意味を考え、ユウマは女の子を観察する。
「ひっく…えぐっ…」
女の子の外見は足先まで伸びた銀髪、金色の瞳、可愛らしい顔立ちの華奢なスレンダー体型だった。
しかし、よく見ると女の子の身に纏っているのはまるで入院してる患者に着せるような薄着だけであり、そこから見える肢体は青白く痩せ細っていてあまり生気が感じられない。
さらに所々に傷がそのままにされているのか、青い痣も見え隠れしていた。
『この子は…もしかして、ユニゾンデバイス?』
「ユニゾン、デバイス…?」
ヴァルゴの言葉にユウマはまた疑問が増える。
『今は時間がありませんので、説明は後で致します。今はその子を連れて逃げるべきかと…』
「そう、だね…」
ヴァルゴの言いたいこともわかたため、ユウマは頑張って立ち上がると…
「よい、しょ…」
女の子を優しくすくい上げるようにして持ち上げる。
「ひっ…! 怖いのは、いや……もう、いやなの…!」
何かと誤解してるのか、女の子はユウマの手の平の中で後退る。
「大丈夫。怖がらなくても僕は何もしないから…」
疲労困憊でいながらもユウマは笑顔を女の子に向けると、右にあった扉から外に出てまた走りだす。
この小さな出会いによってユウマの運命は大きく変わることになる。