~ストロラーベ・雪白探偵事務所~
ユウマが1人、変貌したフロンティア内を彷徨っている頃…
「バカ野郎!!」
「「ッ…」」
ここでは今、忍と紅牙が狼牙に叱られていた。
「よりにもよって一番気をつけなきゃならない奴を一緒に転移させちまうとは…!」
珍しく狼牙が怒ってるせいか、雪音と雪絵は少しビックリしている。
「悪い…」
「面目ない…」
忍と紅牙は狼牙の前で正座させられながら縮こまっていた。
「つか、お前らは…加減というもんを知らんのか!?」
ユウマを止められなかったこともそうだが、狼牙は忍と紅牙がやらかしたことにも怒っていた。
「いや、十分に加減はしたんだが…その…変に目を付けられたというか…」
あの後、忍はフィーナの警護役達から逃げたものの、外にもいたらしい警護役達に囲まれてしまい、大立ち回りをする羽目になったのだ。
しかも加減して撃退したらしたで、今度は警護役から勧誘を持ち掛けられてしまい、それを断るのに苦労してしまった。
結局、フィーナの一言で勧誘は無かったことになったが…。
とにかく、フィーナの機嫌を損ねたという時点で狼牙としてはフェルテッシェ家に対して気まずいことこの上なかったりする。
これが忍のやらかしたこと。
「時間が惜しかったので、つい…」
紅牙の場合は言わずもがな。
スイミラン家の玄関を蹴破ったことである。
普通の人間ではまず不可能なことをやってしまったこともあるが、その時の監視カメラの映像が不幸にも夕方のニュース速報で取り上げられてしまい、絶賛手配中だったりする。
すぐさま転移して逃げてきたので、幸いにもまだ見つかってはないが…一応、匿っている狼牙からしたら当然のお冠ものである。
「つい、でやらかすことじゃねぇだろうが! あと、忍もなにフィーナ嬢ちゃんの機嫌を損ねてんだよ! こっちの事情を知らないとは言え、俺からしたら心労が増えるわ!!」
かなり私情も挟んでいるように聞こえるが…。
「とにかく! テメェらはしばらく大人しくしてろ!!」
と狼牙は言うものの…
「それはいいんだが、その…すまないが、親父…明日明後日はこっちの用事に付き合ってもらいたい」
正座させられたままの忍が申し訳なさそうに狼牙に言う。
「はぁ? なんでだよ?」
突然の申し出に狼牙は当然の反応を示す。
「実は…D×Dからの要請で俺と紅牙は眷属を連れて冥界に行かないとならないんだよ」
「それならちょうどいい。ほとぼりが冷めるまで雲隠れしてろ。幸いにもそっちの小僧は学園とかに行ってないから問題はないだろう」
忍の言葉に狼牙はそう言っていた。
「で、なんだって俺が付き合わにゃならん?」
「いや、正確には親父と母さん、雪絵にも冥界に来てほしいんだ」
「だからなんで?」
再三の聞き返しに忍は…
「その…智鶴にも久々に会わせたいし…雪絵にもちゃんと会わせておきたくて…」
そう答えていた。
「う゛っ…」
それを聞いて狼牙は露骨に嫌そうな表情をする。
「智鶴ちゃんかぁ。そういえば、どんな風になってるか見てみたいかも」
「お兄ちゃんの、恋人…」
狼牙の反応とは裏腹に雪音は興味津々といった感じで、雪絵は複雑そうな表情をしていた。
「母さんもこう言ってるし…良い機会だから、会ってくれないか?」
怒られていた側から一変し、忍は狼牙に詰め寄っていた。
「お嬢に何を言われるかわからないのに、ノコノコと行くと思うか?」
「事情を話せば、智鶴もわかってくれる」
忍に言いくるめられそうになり…
「ゆ、雪音はどうなんだ?」
新たな逃げ道として妻に尋ねる。
「私は別にいいけど…」
「雪絵は!?」
「私も…特に予定はないので…」
「ぐぬぬ…」
妻と娘に見放され、いよいよ狼牙も焦り始めた。
「親父よ、腹を括れ」
その一言に…
「…………くっ…わ、わかったよ…」
遂に狼牙も折れた。
「あと、泊まりになるからちゃんと準備しておいてくれよ」
それを確かめてから忍がそう言うと…
「わぁい♪ 初めての一家揃っての家族旅行だね♪」
「別に遊びに行くわけじゃないんだが…」
雪音の言葉に忍は苦笑しつつも…
「(ユウマ。絶対に見つけてやるからな…!)」
行方の知れないユウマを見つけるべく、忍も忍なりに冥界で情報を集める気のようだ。
………
……
…
~変異フロンティア内部の遺跡~
一方、ユウマはというと…
「はぁ…はぁ…ふぅ…」
カプリコーンから逃げること早数時間。
あれからなんとかカプリコーンの眼が届かないところまで逃げてきたはいいものの…
「なんだか…不気味だな…」
遺跡の内部が様変わりしてきていた。
ユウマがいる場所は通路なのだが、通路のあちこちにまるで生きているような脈動を打つ木の根のような物体が不規則に張り巡らされているのだ。
「ヴァルゴ、どう?」
『今のところカプリコーンの反応は見られません。しかし、彼女の性格を考えるとまだ私達を探している可能性が高いかと…』
だいぶ遠くまで逃げてきたが、カプリコーンのことを知るヴァルゴはそう告げる。
「そう…なんだ」
ヴァルゴの言葉からカプリコーンがまだ諦めてないと知り、ユウマは少し憂鬱となる。
『反応があればすぐに知らせますので、ご安心を。それよりも…』
「?」
『そろそろユニゾンデバイスの説明をさせていただきたいのですが…よろしいですか?』
ヴァルゴが小さな女の子…つまりはユニゾンデバイスについての説明をするらしい。
「ぁ…そうだね。この子がその、ユニゾンデバイス…なの?」
『はい。おそらくですが…』
「っ…」
自分の事が話題に挙がったためか、女の子はユウマの手の平の中でビクビクと震えていた。
「大丈夫だよ。僕は何もしないから…」
そんな女の子を怖がらせないようにユウマはそう言ってみるが…
「ほん、とう…? こわい、こと…しな、い…?」
女の子は今にも泣きそうな顔でそう尋ねる。
「うん。何も怖くないからね」
そう言いながら人差し指を使って女の子の頭を優しく撫でる。
「っ!?」
撫でられたことに対して女の子は最初こそビックリして怖がっていたが…
「…………」
何度も撫でられる内にそれが女の子の言う"怖いこと"ではないと徐々にわかっていき、少しずつだが安堵したような表情になっていく。
「(頭を撫でただけなのに…こんな表情になるなんて…いったい、この子に何が…)」
女の子の心配をするユウマに…
『マスター』
ヴァルゴからの声が聞こえる。
「あ、ごめん…」
『いえ、その子が落ち着いた方が話もしやすいでしょうし…』
ヴァルゴがそう言ってからしばらくして…
「それでユニゾンデバイスって? 前に忍さん達から聞いたヴァルゴ達みたいな…えっと、エクセンシェダーデバイスだっけ? それとはまた違うの?」
女の子を撫でつつ通路を進みながらユウマはヴァルゴに尋ねる。
『はい。私達エクセンシェダーデバイスは黄道12星座と呼ばれる地球の天体をモデルに作られております。ですが、ユニゾンデバイスは一つの生命体としても創造されております』
「一つの生命体としても…?」
『はい。"デバイス"という魔導師が魔法使用の補助に用いる機械の一面と、生命体としての一個体という人格や性格などを兼ね備えた存在だと言えます』
「う、うん…?」
ヴァルゴの噛み砕いた説明にユウマは首を傾げる。
『マスターはあまりデバイスが普及した世界で生活してきませんでしたので、理解に苦しむのもわかります。ですが、後学のためにも知識を有していただけると幸いかと…』
「が、頑張ってみるよ」
そう意気込んでみるが、少々頼りない。
『とは言え、私もユニゾンデバイスの実物…と言っていいのかわかりかねますが……とにかく、彼女のような存在を見るのは初めてなのです』
「そうなの…?」
『はい。ですが、見たところマイスターもロードもいないような…』
「ま、マイスター? ロード?」
またわからない単語が出てきて困惑するユウマ。
『失礼しました。"マイスター"とは、ユニゾンデバイスの創造主。つまりはこの世に生んだ人物を指します。それに対して"ロード"とは、ユニゾンデバイスの所有者のことを指します』
その様子を見てヴァルゴはすぐさま補足する。
「じゃあ、この子は誰かの…?」
ユウマが女の子を見ると…
「マイスター…ロード…」
その単語に女の子が反応する。
「何か言いたいのかな?」
その反応を見てユウマが話し掛けると…
「もう…いない、の…」
「え…?」
「マイスターも…ロードも…いない、の…」
ユウマの聞き返しに女の子はそう呟く。
「そ、そうなんだ…(なんだか、悪いこと聞いちゃったかな…?)」
バツが悪そうなユウマだったが、ふとあることに気付き…
「そういえば、君のお名前は…?」
最初に聞くべきだったことを尋ねていた。
「な、まえ…?」
「そう。君のお名前、聞かせてくれるかな?」
「なまえ…」
そこでユウマはまた別の事に気付く。
「ぁ、その前に僕が名乗らないとね。僕は天崎 ユウマって言うんだ。それとさっきから僕と話しているのは…」
『ハートネス・ヴァルゴと申します。ヴァルゴとお呼びくださいませ』
「ゆうま…ばるご…」
ユウマとヴァルゴの名前を聞いて女の子はそれを繰り返す。
「うん、そう。それで君は…?」
「わたしは…」
女の子から出てきた答えは…
「『Y-77』」
名前とはかけ離れた、まるで型番のような感じの名称だった。
「え…?」
「みんな…わたし、そう、よんでた…ひけんたい、Y-77、って…」
「…………」
その言葉を聞いてユウマは足が止まってしまった。
それと同時にユウマの中でふつふつと何かがこみ上げてくる思いがあった。
『……ユニゾンデバイスは私達のような特殊なデバイス群を除けば普及していない稀少な存在です。もし、オリジナルのユニゾンデバイス…仮にレプリカだとしても、その稀少性から研究対象にされる場合が多いかと…』
ヴァルゴの悲痛な言葉がユウマの耳に入る。
「そんな…!」
"じゃあ、この子も…"と言いかけて、ユウマはその口を閉ざす。
気付いてしまったのだ。
この子の言う"怖いこと"が指す行為と、他の人物から言われてきた被験体という言葉から…。
「…………」
そして、それと同時にデヒューラや他の失踪者達にもそんな非道なことが行われていると考えてしまい、ユウマの顔が青褪める。
「…………ッ!」
すると、ユウマはその場を回れ右して元来た道を戻り始める。
『マスター!?』
その行動にヴァルゴも驚く。
「戻らなきゃ…デヒューラさんが…危ない…!」
そう呟くユウマの瞳には…明らかな怒りの感情が宿っていた。
『いけません! いくら私の所有者だとしても、戦闘が苦手な私ではカプリコーン相手に…単独での撃破など無理です! ましてや生身での実戦経験のないマスターでは殺されに行くようなものです!』
ヴァルゴは正論でユウマを引き留めようとするが…
「それでも…! 僕はデヒューラさんを助けに行きたいんです…!」
ユウマはいつになく感情的になっていた。
「デヒューラさんだけじゃない。もし、本当にそんなことが他の失踪した人達の身にも起きてるなら…僕は、それを放っておいてなんか出来ないんです…!」
『マスター…!』
ヴァルゴの言葉は聞き届けられることはなかった。
「ごめんね。また怖いところに戻るかもしれないけど…絶対に君のことも守るから…!」
ユウマは手の平の中の女の子にそんなことを言っていた。
「……まも、る?」
女の子はきょとんとした表情でユウマを見上げる。
「うん。絶対に…もう二度と、怖い思いはさせないから…」
そう言うユウマの表情はさっきの青褪めたものと違い、覚悟を決めた男の顔をしていた。
とは言え…
「流石に丸腰じゃ…」
覚悟も決まって行動に移ろうにも、まずは武器になりそうなモノを探すところから始まっていた。
『私を纏えば最低限の防御にはなりますが…申し訳ありません。武器の類は一切無いのです』
ヴァルゴは他のエクセンシェダーデバイスと異なり、支援特化型とも言える代物なので所有者の魔法センスや戦闘技能に依存する欠点があるのだ。
「何かないかな…?」
そうは言うものの、未だに長い通路を歩いてる状況なので武器らしいモノは見つかっていない。
というか、来た道を戻ってるだけなのであるなら最初から気付いてるはずである。
まぁ、周囲を見る余裕があったとは言い難いが…。
それからしばらく歩くこと数十分近く…周囲の風景がさっきの通路よりも最初の石造り風なものになってきた辺りだろうか。
「ここは…?」
通路の途中で扉を見つけていた。
『動体反応なし。しかし、魔力とは別のエネルギーを検知。入るのは危険かと…』
「でも、通路に武器なんか都合よく落ちてないし…こういうところも探さないと…」
ヴァルゴの助言も耳にしつつ注意しながら扉の中へと入る。
そこは…
ガポッ…
ドクンッ…
『……………』
大量のカプセルが並び、その一つ一つの中には培養中であろう量産型龍騎士兵の姿があった。
覚醒前なのだろうか、眼は白目を剥いているので余計に気味が悪い。
「「ひっ…!?」」
その姿を見てユウマと女の子は同時に短い悲鳴を上げる。
『これは一体…?』
ストロラーベにいたユウマ達では量産型龍騎士兵を知らないので無理もないが…。
「と、とにかく…奥に進んみます…」
そう言うとユウマは勇気を振り絞ってカプセルの横を通り過ぎていく。
「ゆうま…こわい…」
「だ、大丈夫…動いてないから…多分、大丈夫…」
女の子が手の中で震えている中、ユウマも震えながら答える。
「行き止まり…かな?」
結局、広い空間を歩いて行き着いたのは行き止まりらしい壁だった。
『真っ直ぐ来ましたから…横も確認した方がいいのでは?』
「そ、そうだね」
少なくとも量産型龍騎士兵の眼を見ることはないので、ヴァルゴの進言通りに横…ユウマから見て右に行ってみることにした。
しばらく歩いていると…
「あ…」
隣の部屋か、はたまた別の通路に続くだろう扉があった。
「今度は何が…」
戦々恐々としながら扉を潜ると、そこには…
「ここは…?」
さっきの量産型龍騎士兵培養プラントとは異なって一、二回りくらい小さな部屋であり、中央には実験台のようなテーブルのようなモノが複数並んで鎮座しており、その上には何やら機械的…というよりも何かの武具やら装飾品といった類のモノが置いてあるが、どれも作ってる最中なのか未完成の品が多い印象を受ける。
「ここなら何かありそうだね」
パッと見の判断だが、ユウマは少し安心したような感じで手前にあるテーブルの上のモノを確認する。
「これは…短剣…?」
そこにあったのは紛れもない短剣だった。
しかし、その鍔には禍々しい蒼と黒の混ざったような色の宝玉が備わっており、不気味な感じを醸し出していた。
だが、武器を探していたユウマは無いよりマシという判断で手を伸ばそうとする。
『お待ちください、マスター。その武器からは先程検知した未知のエネルギーが微量ながら発生しております』
が、それにヴァルゴが待ったを掛けた。
「え?」
それを聞いてユウマは反射的にスッと手を引く。
『無闇に選ぶのは危険かと…どんなデメリットがあるかわかりませんので…』
「そ、それも、そっか…」
今度はヴァルゴの忠言に耳を傾けたユウマは他のテーブルも見て回る。
他のテーブルにあったのは刀剣類、長物、弓、銃器、盾や鎧といった防具、アクセサリーなど人が装備出来そうなモノばかりだったが、全て最初の短剣と同様に青と黒の混ざったような色の宝玉がどこかしらに備わっていた。
「一体、これってなんなんだろう?」
一通り見て回った後、一番気になったハンドガンタイプのモノのテーブルで立ち止まりながらユウマは独り言を呟く。
すると…
「困りますね。ネズミ風情がここまで迷い込んでいるとは…」
ヴァルゴ以外に返ってくるはずのない答えが返ってくる。
「っ!?」
驚いて声のした方を向くユウマの視線の先に…
「とは言え、何も知らないまま死ぬのも可哀想ですし…慈悲としていくつかお教えして差し上げましょうか」
ユウマが入ってきた扉とは違う扉の前にノヴァの姿があった。
「あ、あなたは…!?」
「私の名はノヴァ。ノヴァ・エルデナイデ。短い間ですが、お見知りおきを…ヴァルゴの選定者」
『マスターの手を煩わせるなんて…申し訳ありません…』
自らの名を名乗ったノヴァの傍らには山羊の姿に戻ったカプリコーンが控えていた。
「しかし、驚きました。まさか、迷い込んだネズミがヴァルゴの選定者だったとは…」
合流したカプリコーンから聞いたのか、ノヴァは少しだけ興味深そうにユウマを見る。
「しかし、不思議ですね。何故あなたのような非力な存在が私の仕組んだ転移魔法陣に気付けたのですか? 参考までにお聞かせ願いたいですね」
ユウマがデヒューラと共に転移してきたことは、つまりユウマがその存在に気づき、その場に居合わせたからという結論に至っていたノヴァはその当人であるユウマに尋ねる。
「………パンドラで…ゲームの中でデヒューラさんを見かけて…それを追い掛けた先で変な会話を聞いたので…それを陰で聞いてたら、もしかしてと思って…だから、デヒューラさんの家に行って…」
馬鹿正直にも答えてしまうユウマ。
「ふむ。あの会話を聞かれていましたか。やれやれ…五感を投影出来るゲームとは言え、気配を察知出来ないのは不便なものです。これが広がれば無闇に材料を調達することも難しくなりますが…まぁ、些細なことでしょう」
そう独り言ちるように呟くノヴァの言動から…
「あ、あなたが仕組んだことなんですか!? しかも材料って…!?」
デヒューラ達を失踪に導いたのがノヴァなんだとユウマは判断する。
「我々、絶魔にとって人間とそれに準ずる人型生物などは実験材料、もしくは下等生物にしか過ぎませんので…」
「なっ…!?」
ノヴァの物言いにユウマも開いた口が塞がらなかった。
「しかしながら人間とは実に面白い。人間やそれに準ずる人型生物には感情というものがあります。その中でも絶魔は『絶望』という概念を好んでいます。それは何故か? 絶望した時に生まれる負のエネルギーが絶魔にとってはとても心地よいからですよ」
そう語るノヴァの瞳に宿るモノは狂気以外の何物でもなかった。
「あ、あなただって…人間じゃないですか…!!」
当然、ユウマはそんなノヴァに対して反発するが…
「姿形こそ人間に近しいですがね。ですが、これが一番動きやすく、人間達に対して絶望を与えやすいのですよ。同じ"人"という形をした者から与えられる絶望は人の希望を砕くのに適しているので…」
まるで他人事のようにノヴァは自身のことをそう評する。
「な、なにを言って…?」
そんなノヴァの言葉の意味がユウマにはわからなかった。
「ふふふ…あなたには少し難しかったですかね? それにしても、研究中のY-77も連れ出してしまうとは本当に困ったものです」
そう言いながらノヴァはユウマの手にいる女の子に目を向ける。
「ひっ…」
「この子に…何をしたんですか?」
怖がる女の子を庇いながらユウマが尋ねる。
「簡潔に言えば…"調査"、ですかね? 古代ベルカの遺跡で眠っていたのを我々の下部組織が見つけましてね。その性能を調べるために体を少し、ね」
嗤いながら答えるノヴァを見てユウマは…
「っ…!!」
人間を実験材料と称するノヴァが人道的なことをするはずもないと感じ、ノヴァのことを無意識に睨んでいた。
「調べている内にオリジナルの融合騎であることは確かだと分かったまではいいのですが、実装されているシステムは未だ解明出来ていないので、返していただけないでしょうか?」
まるで女の子を物のように扱うノヴァに対して…
「嫌です!」
ユウマは即答していた。
「そうですか。では、あなたが屍となってからヴァルゴ共々ゆっくりと回収しましょう」
余裕の様子を見せるノヴァはさらに言葉を続ける。
「そうそう。この場にある道具についてもお教えしましょう。これは『
「セイクリッド…ギア…?」
聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「あなたの世界には存在しない技術で作られた神秘のアイテムです。本来は地球に存在した聖書に記されし神が創造した物ですが…それを人工的に作ることは既に実証されています。私は堕天使側から流出した神器の情報を基に我が絶魔の技術の一端で復活させた龍騎士の力を、この人工神器に宿らせることに成功しました。あなたの目の前にあるモノが試作品であり、"彼ら"に渡す力なのですよ」
ノヴァの説明の大半は理解できなかったが、聞き逃すことの出来ない単語もあった。
「"彼ら"…?」
ノヴァの指す"彼ら"…。
それは…
「あなたの世界の失踪者の皆さんに、ですよ」
「っ!?」
それを聞いてユウマは驚く。
「龍騎士の力の宿った人工神器なら普通の人間でも生身の戦闘を可能にさせます。かのネットゲームさながらの戦いを現実のものとして体感出来るのです。まぁ、架空の電脳世界と現実世界の違いとして、命の保証はしませんがね。そんな些細なことを言う程、私も野暮ではないのですよ。そもそも…」
そこまで言いながらさらに続けようとするノヴァに対し…
「ふざけないでください!!」
ユウマの怒りも限界に達していた。
「あなたは…人を、何だと思ってるんですか!!」
「さっきも言いましたが…ただの下等生物、もしくは実験材料ですよ」
ユウマの怒りの言葉をノヴァは簡単に言い捨てる。
「なら、デヒューラさんにも同じことを…!」
「彼女ならまだ"調整段階前"なのですよ。如何せん、他の方とは少々行動原理が異なっていたようなので、あなたのこともあって非協力的でして…少し催眠魔法を使わせてもらいました。まぁ、お互いに二度と会うことはないでしょうが、ね…」
それを聞いてか…
「っ!!」
ドクンッ!
ユウマの中で何かが鼓動する。
「はぁ…はぁ…!!」
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!!
それは動悸とは異なり、まるで血の奥底から湧き上がるような…そんな感覚にユウマは見舞われていた。
「ほぉ…?」
ユウマの変化を目敏く察したノヴァはさらに興味深そうな眼でユウマを見る。
ユウマの中で時間がゆっくりと流れ始める。
「(あの人を…許しちゃいけない……でも、僕には何の力も無い。きっとあの人の言う通りに殺されるかもしれない…)」
心の中で考えていることが頭の中に浮かんでくる。
「(けど、だからと言って僕が死んだら…家族のみんなが…ファムさんやアイリさん達が…悲しむ。何よりも…)」
その脳裏に家族や友人といった人達の姿が次々と走馬灯のように映像として流れる中…
「(デヒューラさんや、この子が…)」
デヒューラと手の平の女の子の姿で映像が止まる。
「(そんなの嫌だ…! だって、あんな悲しい顔のままでいてほしくない…!)」
止まった映像のデヒューラと女の子の表情は…悲しそうな顔をしてるようにユウマには見えていた。
「(ヴァルゴだって悪用されるかもしれない…)」
忍達が言っていたようにポケットにしまっているヴァルゴを悪用される可能性もある。
特に、目の前のノヴァには絶対に渡したらいけないと思えてならなかった。
「(僕に、力があったら…!)」
この場を逃げ出すだけでもいい。
たったそれだけでも女の子をノヴァから守れる。
デヒューラだって、助け出すチャンスを作れる。
そのためだったら…
「(僕は…力が、欲しい…!!)」
ユウマは強く、願った。
そして…
『ならば、我が血に眠る力を解放しよう』
それは叶った…。
「(っ!?)」
ユウマの頭にダイレクトに伝わってくる声は、ユウマのモノでもあった。
「(あ、あなたは…?)」
ユウマの目の前、ノヴァとの間に陽炎のような、"もう1人のユウマ"の存在が現れる。
周囲は風景は時間が止まったかのようなモノクロとなっており、もう1人のユウマは白髪金眼の背中から3対6枚の真っ白な翼を生やしたような姿をしていた。
その姿はまるで…。
『我はお前であり、お前は我でもある。古き血筋より忘れられた存在…薄まっていた血の奥底より、お前の願いを受けて目覚めた。お前が欲した"力"である』
陽炎はそう答えていた。
「(ち、力…?)」
『そうだ。しかし、心せよ。力…つまり、我を受け入れた瞬間から、お前は闇の住人になるということを…』
「(闇の、住人…?)」
『お前の光の日常を壊したくないのなら、決してこの姿を光の住人に見られないことだ。それが叶わぬ時…お前の居場所は闇の中のみとなる…』
「(……………)」
その言葉を受け、ユウマは生唾を飲み込む。
『臆したか? ならば、我は姿を消すのみ…』
そう言って陽炎が消え去ろうとした時…
「(ま、待って!)」
『…………』
ユウマの言葉に陽炎は待つ。
「(僕には…まだ状況がよくわかってません。でも、僕にそんな力があるのなら…デヒューラさん達を助けられる力があるなら…僕は…)」
ユウマの答えは…
「(僕は…受け入れます。あなたを……たとえ、それで僕が変わったとしても、絶対にデヒューラさん達を助けたいから…!!)」
力を受け入れていた。
その答えを聞き、陽炎は優しい笑顔を見せ…
『安心して…君は…いや、僕は何も変わらない。ただ、肉体が普通の人とは少し違うことになるだで、僕の心は今のまま。僕は切っ掛け。血の奥底に眠っていた力を目覚めさせるための…』
さっきの威厳そうな口調とは裏腹に、ユウマのような口調でそう答えていた。
「(あなたは…?)」
『さっきも言ったでしょ? 僕は君で、君は僕でもある。その優しい心がある限り、きっと力を誤った方向へは使わないよ』
「(あなたは僕で、僕は…あなた…?)」
『そう。そして、忘れないで…優しい心を。僕の力の根源…それは僕の優しさなんだから』
そう言うと陽炎はユウマの元へと移動し、その存在を重ね合わせる。
次の瞬間…
カッ!!
ユウマから溢れ出る"白き魔力光"が部屋内を満たしていく。
「これは…魔力、ですか。ふむ…潜在的な魔力持ちでしたか」
そんな中、ノヴァは冷静にユウマから溢れる魔力について考察を立てていた。
『マスターから魔力が…!?』
対してヴァルゴは選定者から魔力が溢れていることに驚いていた。
いや、正確には"それほどの魔力量があったこと"に対する驚きであった。
忍同様、ヴァルゴもユウマに魔力がある事には気づいていた。
しかし、それは微々たるものであり、日常生活では特にあってもなくても変わらないものだとユウマには知らせていなかったのだ。
だが、現在…ヴァルゴの計測値よりも遥かに多い魔力量がユウマから放出されている。
これはどういうことなのか、ヴァルゴにも理解出来ていなかった。
「しかし、魔力があったところで問題ありません。それだけでは私に殺される未来は覆せない」
実働は六天王に任せているが、ノヴァ自身もカプリコーンを扱うだけの技量は備えている。
たとえ、ヴァルゴを纏ったところで支援特化型のエクセンシェダーデバイスを纏ったド素人に後れを取る訳がない、と…。
しかし…その認識はノヴァにしては甘かった。
何故なら…
バリィンッ!!
白き魔力光の中から現れたユウマの姿は…
「……………」
金髪に近かった茶髪は白髪へと変色し、制服を中から破って背中から3対6枚の真っ白な翼が生えていたのだから…。
「…!」
その姿にさしものノヴァも少々驚いたような目を向けていた。
「………」
ゆっくりと眼を開いたユウマの瞳は黄金色に染まっていた。
「まさか、冥王…!」
ノヴァの呟きに…
「冥、王…?」
ユウマもオウム返しのように呟く。
「ふふふ…ふはははは…」
その光景に心底可笑しそうに嗤い出すノヴァ。
『マスター?』
「ふふふ…他の次元世界で冥王の末裔がいたのは知っていましたが、まさかあの世界にもいたとは驚きです」
カプリコーンの訝しげな問いにノヴァはそう答える。
「予定変更です。あなたも我が実験材料になってもらいましょうか。冥王の血も多いに越したことはないですしね」
そして、ユウマを殺すのではなく捕獲することにしたらしい。
「お断り、します…!」
ユウマは女の子を左手に移してから、右手を軽く薙ぐと…
ピシャアアア!!!
白き雷撃が周囲を焼き払う。
「冥王への覚醒で、魔力変換資質にも目覚めましたか。しかも『電気』、ですか…」
蒼と黒の混ざった防御魔法陣を展開しながらノヴァはユウマの身に起こったことを分析する。
「今の内に…!」
一番近かった後ろの扉を破壊しながらユウマは逃走していく。
『待て!』
それを追おうとするカプリコーンだが…
「放っておきなさい」
ノヴァはそれを制止していた。
『でも!』
「いいのですよ。どうせ、ここからは逃げられないのですから…」
『くっ…了解』
カプリコーンはノヴァの命令に従い、追撃を止めた。
「ふふふ……しかし、次の合同作戦までに捕獲が間に合えばいいのですがね」
そう言いながらノヴァは破壊された試作品を一瞥し、興味を失ったかのようにその場を後にした。
ノヴァとの邂逅によって冥王へと覚醒したユウマ。
この後、彼はどのように行動するのだろうか?
そして、ノヴァの言う『合同作戦』とは…?