魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第九十一話『白き冥王、戦場で愛を叫ぶ』

学園防衛組が邪龍軍と龍騎士達の猛威に晒されている一方で…

 

「こ、ここは…?」

 

ユウマもまた結界内へと転移に成功していた。

 

「おそら…まっしろ…」

 

女の子が結界内の空を見上げて呟く。

 

「ぁ…」

 

その声につられてユウマも空を見上げて息を漏らす。

 

「ここが…異世界…?」

 

初めて異界の地に足を踏み入れた感慨からしばし空を見上げたままだったが…

 

『グオオオオオッ!!!』

 

遠くから聞こえる量産型邪龍の咆哮により、それもすぐに中断されてしまう。

 

「「っ!?」」

 

その咆哮にユウマと女の子は同時にビクッと驚く。

 

『マスター。お気を確かに…ここは既に戦場となっているようです』

 

ヴァルゴからの忠告で気付く。

 

「……………」

 

そして、感じる…今この場が戦場と化しているということを…。

 

「(ごくっ)」

 

その戦場の空気に当てられたのか、生唾を飲み込む。

 

「こんなところに…デヒューラさん達が…」

 

戦の空気漂う町の中でユウマは心苦しそうに右拳を胸の前で握り締める。

 

そんな中…

 

「あ、こっちに女の子がいるぞ!」

 

町の方で動いていた父兄の1人がユウマを見つけて声を上げる。

 

「君、大丈夫か!?」

 

「え…?」

 

その声に間の抜けた声を出すユウマ。

 

「避難勧告を聞いてなかったのか? とにかく、ここは危ない。さぁ、我々と一緒にアウロス学園に避難しよう」

 

「え…で、でも…僕には…」

 

まだやることがあると言おうとして…

 

「っ!? 隠れて!」

 

父兄の人に物陰に押し隠されてしまう。

 

「わっ!?」

 

その直後…

 

『グルルルル…』

 

群れから離れたのか、邪龍一匹が飛来する。

 

「じゃ、邪龍め…こんなところにまで…!」

 

父兄の人は魔法陣を作って防御の姿勢に入る。

 

「(じゃ、邪龍…? って、それよりもあの人だけじゃ…!?)」

 

慌ててユウマも飛び出そうとするが…

 

「大丈夫か!?」

 

別の父兄の人達も応援に来た。

 

「退け!!」

 

そして、何よりも…

 

霊獣牙(れいじゅうが)!」

 

ズシャアア!!

 

『グオオオオオッ!?!?』

 

腕の一振りで邪龍を倒す猛者がいた。

 

「す、凄い…」

 

その光景を見てユウマも驚きの声を漏らす。

 

「ゆ、雪白さん…」

 

「ありがとうございます…!」

 

父兄の人達はその人物にお礼を述べていた。

 

「良いってことよ。アンタらを無事に帰すのが俺の仕事みたいなもんだからな。それよりも…」

 

ちなみにその猛者はユウマも良く知る人物…

 

「よぉ、どうやら何とか無事だったみたいだな? ユウマ」

 

狼牙であった。

 

「お、おじさん!?」

 

別の意味でまた驚くユウマだった。

 

「ったく、神宮寺の小僧から事情を聞いた時には肝が冷や冷やしたが…無事で何より…と言いたいところだが」

 

そう言いながらユウマに近寄る狼牙は…

 

「無茶した挙句、こんな危ないとこまで来やがって…少しは反省しろ!」

 

ユウマのこめかみに両拳を当ててグリグリとし始める。

 

「い、痛い!? 痛い痛い痛い!?!?」

 

「テメェの家族になんて説明していいのか結構悩んだんだぞ? わかってんのか、あぁ?」

 

「す、すみません…! ごめんなさい!?」

 

その光景を父兄の人達はポカンとした表情で見ていた。

 

「あ、あの…雪白さん? その子は一体…?」

 

父兄の1人が痺れを切らしたのか、狼牙に尋ねる。

 

「あぁ、こいつは悪魔じゃなく人間…のはずなんだが、なんか変な匂いが混ざってんな? どういうことだ?」

 

変異フロンティアでの出来事など知らない狼牙もわからないようで、ユウマに説明を求める。

 

「人間が冥界に…? しかし、どうやって…?」

 

「さてな。そこらの事情も聞きたいが、それは後回しに今はこいつを学園に避難させっぞ。そしたらこの辺も取り残しはいないしな…」

 

「は、はい!」

 

そう言って移動を開始しようとする一行だが…

 

「ま、待ってください! 僕にはまだやることがあるんです」

 

「やることだぁ?」

 

ユウマの一言に狼牙が訝しげな表情をする。

 

「僕はデヒューラさんを助けなきゃならないんです!」

 

「デヒューラ?」

 

「僕や忍さんのクラスメイトの女の子です!」

 

「あ~、お前が行方不明になる切っ掛けになった」

 

紅牙から聞いていた事情を考え、そう結論付けた。

 

「うぐっ…僕が不用意だったのは確かですけど…」

 

そんなユウマに…

 

「だが、諦めな。もう手遅れかもしれん」

 

狼牙は現実を突き付ける。

 

「っ!? 手遅れって、どういう…?」

 

「忍から連絡があってな。行方不明になってた連中が知らずの内に絶魔の手先となってこの冥界に送り込まれた。そして、連中の持ってた装飾品によって『龍騎士』って存在に成り果てたそうだ」

 

「龍、騎士…?」

 

「要は人の姿に近いドラゴンみたいなもんだとよ。行方不明だった連中が神器らしきものの禁手を発動させて変身したらしい。しかも悪いことに禁手の解除方法がわからない」

 

「神器…?」

 

そこでユウマは変異フロンティアの中でノヴァが語っていたことや、培養カプセル群の中にいた存在を思い出す。

 

「人工、神器…」

 

「なに…?」

 

ユウマから口にした単語に狼牙が眉を顰めるが…

 

「それって人工神器のこと…? じゃ、じゃあ…デヒューラさんも…?」

 

「おい、ユウマ?」

 

どんどん青ざめていくユウマの表情を見て狼牙が声を掛ける。

 

「っ! 退いてください! 僕は何としても行きます!!」

 

それに反応してか、ユウマが弾かれたように動き出す。

 

「あっ、こら待て! 誰か、そいつを取り押さえろ!!」

 

子供だと思い、他の父兄の人達に呼びかけるが…

 

「ごめんなさい!」

 

ピシャアア!!

 

その瞬間、ユウマの体から白い稲妻が迸る。

 

「なっ!?」

「があ!!??」

「し、痺れる~~!?!?」

 

その光景に誰もが息を呑む中…

 

「デヒューラさん、今行きますから…!!」

 

バサリッ!!

 

ユウマの姿が白髪金眼になり、背中から3対6枚の白い翼が生えて飛び去って行く。

 

「おいおい…なんだよ、ありゃ…」

 

その場に取り残された狼牙はそう呟き、痺れさせられた父兄の人達を担ぐことになった。

 

………

……

 

・南地域

 

「なに、ユウマが!?」

 

狼牙からの連絡を受け、忍は驚いていた。

 

『あぁ。どういう訳か、この世界に来てた。逃がしちまったが…』

 

そういう狼牙の話を聞き…

 

「話を聞く限り、冥王の可能性が高いだろうな…流石に天使ってのは考えにくいし…」

 

忍はそう答えていた。

 

「しかし、まさかユウマが冥王だったとはな…」

 

そう言いつつ忍はやってくる量産型邪龍を吹き飛ばしていく。

 

『そういや、気になることも言ってたぞ』

 

「気になること?」

 

『人工神器…聞いたことあるか?』

 

「人工神器? 確か、アザゼル先生が研究してたな…」

 

『堕天使元総督の研究物か…どういう経緯で流れたか知らんが、どうもそれが今回出回った代物らしいな』

 

「今回の件が一段落したらアザゼル先生にも報告しとかないとな」

 

少し険しい表情を見せながら次の標的へと砲撃を放つ。

 

『しかし、あいつ…大丈夫か?』

 

「こっちでも気に掛けるが、正直余裕が無い。それにこの乱戦の中、意中の相手と出会う確率の方が低いと思うが…」

 

『しかも最悪、龍騎士になってる可能性も捨てきれん。他の連中が捕獲する前か、変身する前に出会わないと認識だって難しいしな…』

 

「だよな…」

 

親子揃って同じような結論に至ったらしく、かなり表情を険しくしていた。

 

「ともかく、ユウマのことは了解した。そっちは引き続き、避難の遅れた民間人の捜索を頼む」

 

『あぁ、そっちも気張れよ』

 

それを最後に通信は切れて…

 

「とは言え、何とかしたいが…」

 

そう呟きつつ迫ってくる量産型邪龍の顎を殴ってから回し蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「無駄に数が多くて手が空きそうもないからな…」

 

次々に飛来してくる量産型邪龍に対して流石に嫌気が差していた。

 

「(ユウマ…悪いが、自分で何とかしてみせろよ…)」

 

………

……

 

一方、その頃…

 

「は~あ…つまんないの~」

 

混乱渦巻く戦場の中、ある一軒家の屋根の上に寝っ転がっている奴がいた。

 

「なんだって俺がこんなののお守しなくちゃならないんだか…」

 

そう言ってそいつは視線を近くに待機している少女へと向ける。

 

「……………」

 

そこにいるのは瞳から光が失われているフェイタル学園の制服姿のデヒューラだった。

ご丁寧にその首には蒼と黒の混ざった宝石のペンダントが掛けられていた。

 

「は~…暇だな~」

 

そうぼやくそいつは…六天王の1人、クーガ・ブラスティだった。

 

「(ノヴァ様の指令だと、この戦場に新しい冥王が現れるだろうから、こいつをぶつけろって言われてるけど…その前に味見してもいいのかな~?)」

 

どうやらユウマの行動はノヴァに予測されているらしく、デヒューラはその餌として使われているようだった。

 

「(う~ん…冥王の血はあっても困らないし、良い研究材料と俺のコレクションになるけど…こいつはどうせ使い捨てだしな~)」

 

デヒューラを使い捨てと言い切るクーガはその場でゴロゴロと転がっていた。

屋根の上なのだが、決して落ちることはない。

 

「ん~…………ま、いっか。考えるのはロンドとかノヴァ様に任せて俺は俺のお仕事をしますかね、っと。それに来たっぽいし…」

 

そう呟くと器用に首の力を利用して跳び起きると、奇しくもこちらに向かってくる飛翔体を眺める。

 

「アレかな? 飛ぶのぎこちないし、白いし…少なくとも大きさから邪龍や禁手龍騎士でもなさそうだし」

 

遠目で見た感じからそう判断したクーガは…

 

「とりあえず、味見しても罰は当たらないよね?」

 

覚醒した冥王の血ということもあってか、クーガの眼は少し細くなっており、舌なめずりをしていた。

 

「よし、そうと決まれば…」

 

クーガは右親指を噛み切ると、そこから溢れた血で円を描いてミッド式の魔法陣を作り出し…

 

「ブラッディ・レイン!」

 

飛翔体に向けて血の雨の如き血の弾丸を放っていた。

 

 

 

そして…

 

『前方より魔力反応を確認!』

 

「え!?」

 

そんなヴァルゴの警報を聞いて驚いたユウマはというと…

 

「ど、どど、どうしたら…!?」

 

かなり慌てていた。

 

『とにかく回避運動を! 幸いにも真っ直ぐ来ますので地面に降りて回避するのも手です!』

 

「わ、わかったよ…!」

 

ヴァルゴの指示に従い、慌てて地面へと降下するユウマだったが…

 

ポケッ!

 

「はぅわっ!?」

 

着地に失敗して盛大に転んでしまう。

 

「だ、大丈夫?」

 

「う、うん…」

 

転んだユウマだが、女の子はちゃんと守っていた。

 

すると…

 

「ひゃ~はっはっはっは♪ だっせ~~の!」

 

ゲラゲラと品の笑いをあげてさっきの攻撃を仕掛けてきた人物がユウマの前方にある屋根に降り立つ。

 

「あ、あなたは…!?」

 

その人物を見て慌てて立ち上がるユウマ。

 

「俺はクーガ。クーガ・ブラスティ。ま、別に覚えなくてもいいよ~」

 

その傍らには…

 

「………」

 

デヒューラの姿もあった。

 

「デヒューラさん!」

 

「へぇ、この使い捨ての知り合いってことはお前がノヴァ様の言ってた冥王で間違いないっぽいか。にしても女々しい顔の奴!」

 

人が気にしてそうなことをズバリ言うクーガ。

 

「め、女々しくなんかありません! ちょっと女の子っぽくて気にしてるけど……って顔のことはどうでもいいじゃないですか!?」

 

それについつい本気で返してしまったユウマはすぐさまそう返していた。

 

「ひゃはは。ま、細かい事は確かにどうでもいっか」

 

本当にどうでもいいのか、クーガは簡単に受け流す。

 

「それよりも…デヒューラさんが使い捨てってどういうことですか!?」

 

気を取り直したユウマはクーガの言ってたことが気になって声を荒げて聞いていた。

 

「使い捨ては使い捨てだよ? ま、この女に限ったことじゃないけど…」

 

「それってどういう…」

 

「そんなん、お前が気にすることじゃないって…」

 

クーガの意味深な言葉にユウマは嫌な予感がしてならなかった。

 

「あ、忘れてた。お前が連れだしたY-77も回収しないとだっけか」

 

そして、思い出したように女の子をコードで呼んでいた。

 

「ひっ…」

 

その視線に気づいて女の子は怯える。

 

「この子は絶対に渡しません!」

 

それを庇うように右手で胸ポケットにいる女の子を隠す。

 

「別にお前の許可なんて必要ないんだよ。第一、お前が勝手にY-77を連れ出したんだし、こっちとしては被害者よ? だから、お前がなんと言おうとY-77は俺達が回収するんだよ。ノヴァ様もまだまだ解明し足りないだろうしさ」

 

まるでユウマなど眼中にないかのような物言いに…

 

「っ!」

 

ユウマから少しだけ怒りの感情が表れたらしい。

 

「お? なに、怒ったの? 弱っちいくせに生意気~」

 

クーガがゲラゲラと笑う中…

 

「デヒューラさん! 僕です! ユウマです!」

 

ユウマはクーガを無視してデヒューラへと声を掛けていた。

 

「………………………」

 

しかし、ユウマの声に反応することもなく、デヒューラはただただその場に立ち尽くしていた。

 

「無駄無駄ぁ。こいつは今、精神制御を受けてる状態だし、お前の声なんて聞こえない聞こえない」

 

そんなユウマを見てクーガはさらに笑う。

 

「デヒューラさん…!」

 

デヒューラに向かって飛ぼうした時…

 

「おっと、させないよ?」

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?」

 

屋根から飛び降りながらクーガがユウマを蹴り飛ばしていた。

 

「弱い弱い。冥王になっても元がただの人間って話だし、こんなもんかな?」

 

そう呟きつつ、クーガはユウマの元へと歩いていく。

 

「じゃ、その被験体はいただいてくわ」

 

そして、女の子へと手を伸ばそうとした時…

 

「っ!」

 

バチッ!!

 

「おろ?」

 

クーガのその手が雷撃で焼かれ弾かれる。

 

「へぇ~…」

 

焼かれた手を見てから、クーガは目を細めてユウマを見据える。

 

「っ!?」

 

その視線にはれっきとした殺気が乗せられており、それを受けたユウマは体を硬直させてしまう。

 

「いい度胸じゃん。そんなに死に急ぎたいんだ?」

 

スッ…!

 

焼かれた手を自らさらに傷つけ、血を流すとそれを凝結させて鋭い爪を作り出す。

 

「(血が…!?)」

 

「お前を殺した後で被験体を回収すりゃいいよね?」

 

そう言ってユウマにその凶爪を突き立てようとして…

 

「っと、いけね。その前にあの使い捨てをお前に使わないとか」

 

思い出したかのように未だ屋根の上にいるデヒューラを見上げる。

 

「まぁ、どっちにしろ…どっちも死ぬんだから俺が直に手を下す必要もないか」

 

そう漏らしてクーガは屋根の上へと跳び上がり…

 

「さぁ、その力を解放してあいつを殺せ! 死体からでも血は回収できるしな! ひゃ~はっはっはっは!!!」

 

狂気に満ちた笑い声をあげてデヒューラに命令を下す。

 

「……禁、手…化…」

 

デヒューラはクーガの命令の下、ペンダントに手を掛けてからその禁断の言葉を紡ぐ。

 

ゴオオオオッ!!

 

その瞬間、デヒューラの足元から蒼と黒の混ざった炎が渦巻き上がり、龍気が膨れ上がる。

 

「デヒューラさん!?」

 

その場にユウマの叫び声が虚しく響く。

 

『グウウウッ!!!』

 

そして、炎の渦が消えると、そこには亜麻色の龍鱗が特徴的な龍騎士がいた。

 

「デヒューラ、さん…!?」

 

その光景にユウマは絶句していると…

 

「さぁ、存分に殺し合いな!!」

 

クーガが喜々として煽る。

 

『ガアアアア!!!』

 

その命令に従うように龍騎士と化したデヒューラがユウマに襲い掛かる。

 

『マスター!!』

 

「っ!?!」

 

ヴァルゴの声に慌ててその場から空に飛んで逃げようとするが…

 

バサッ!!

 

デヒューラもまた背中の龍翼を広げてユウマを追撃する。

 

「やめてください、デヒューラさん! 僕はあなたと戦いたくなんてありません!!」

 

ユウマの必死の叫びも…

 

『ガアアアア!!!』

 

今のデヒューラの耳には届かないでいた。

 

ブンッ!!

 

無造作に放たれたデヒューラの右ストレートがユウマの頬を掠める。

 

「っ…!」

 

掠っただけだが、硬い龍鱗で覆われた拳によってユウマの頬の皮は切れてしまい、そこから血が流れる。

 

『戦ってください、マスター! でなければマスターの身が…!』

 

それを見兼ねてヴァルゴが進言するも…

 

「い、嫌だ…! たとえ、姿が変わったとしても…デヒューラさんを…女の子を傷つけるなんて…僕にはできないよ…!」

 

『しかし…このままでは…!』

 

譲れない想いがユウマを縛る。

 

「ゆうま…」

 

そんな苦悩するユウマを胸ポケットの中から女の子が見上げる。

 

「(何か…何か、手はあるはず…! その鍵は、きっと…)」

 

そう考えてからユウマは大振りな攻撃を仕掛けてくるデヒューラの隙を突いて、クーガへと向かう。

 

「(あの子にあるはず…!)」

 

狙いとしては悪くない。

しかし、相手が悪いことこの上ない。

 

「俺との力量差、わかってるのかな、っと!!」

 

そう言ってクーガは向かってくるユウマを迎撃すべく跳んで、その腹を思いっきり蹴飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

理性のない獣と化してるデヒューラと違い、確実にユウマへと打撃を当てたクーガは…

 

「ほ~ら、しっかり狙いな!」

 

ユウマを蹴飛ばした方向にはユウマを追い掛けるデヒューラがおり…

 

『ガアアアア!!!』

 

両拳を組んでユウマの背中へと思いっきり振り下ろす。

 

ゴスッ!!

 

「っ!?!?」

 

普通なら有り得ない力によって背骨が折れるような錯覚に見舞われながらユウマは地面に激突する。

 

『マスター!?』

 

「ゆうま…!?」

 

ヴァルゴと女の子の悲鳴が上がる。

 

「が、は…ぁ…ぐぁ…!?!」

 

胸ポケットの女の子を庇いながらも懸命に立とうとするユウマ。

 

「助け、なきゃ…デヒ、ューラ…さ、んを…」

 

ズリッ!

 

しかし、その気持ちとは裏腹に体の言う事は聞かず、手が滑って再び地面に崩れ落ちる。

 

「ぐぅ…ぅぅ…っ…」

 

力を求めても、力があっても…それを使うための修練をしないまま、体を動かすための体力もなくなりかけている。

そんな今の自分が情けなく思い、ユウマは静かに涙を零す。

 

「(僕は…なんて、無力なんだろう…)」

 

その事実にユウマは己の無力感に打ちひしがれる。

 

「(力を手にしても…僕は、女の子一人、助けることが出来ないの…?)」

 

ユウマがそんな考えを巡らせていると…

 

ゆさ、ゆさ…

 

「ゆうま…! ゆうま…!」

 

胸ポケットから抜け出した女の子がユウマの頭をそのか弱い力で揺さぶろうとする。

その表情は既に涙で濡れていた。

 

『ガアアアア!!!』

 

その間にもデヒューラが地上に降り、ユウマにトドメを刺そうとその歩を近づけてくる。

 

「(もう…どうしようもないの…?)」

 

そんな考えがユウマの脳裏を過ぎる中…

 

ポタッ…

 

「(あれ? 何か、聞こえて…)」

 

ポタッ…ポタッ…

 

音のする方に顔を向けると…

 

『ガアアアア!!!』

 

そこは咆哮を上げながらも、その眼から赤い涙を流していた。

 

「(デヒューラ、さんが…泣い、て…?)」

 

その姿を見て…

 

「(デヒューラさんも…苦しいんだ…苦しんでるんだ…)」

 

そう考えたユウマは…震える体で立ち上がる。

 

「(だったら…助けなきゃ…! だって…僕は、デヒューラさんのことが…!)」

 

しかし、立ったところで今のユウマには避ける体力がない。

このままでは…

 

「ゆうま…!」

 

『ガアアアア!!!』

 

心配そうにユウマを足元から見上げる女の子と、襲い掛かってくるデヒューラ…。

 

「僕が…僕が、彼女達を…守るんだ!!」

 

気合を込めてそう叫ぶが…

 

「ひゃはは!! お前なんかに何が守れるってんだよ!!」

 

クーガがゲラゲラを屋根の上で笑い転げる。

 

「デヒューラさん…っ!!!」

 

両手を広げ、その一撃を受け止めようとするユウマ。

 

その姿に…

 

「だ、だめええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

女の子が絶叫を上げる。

 

カッ!!

 

その絶叫をキーに女の子から光が溢れる。

 

「え…?」

 

『ガアアアア!!!』

 

その光はユウマとデヒューラを包み込む。

 

「なんだ?」

 

予想外の出来事にクーガも眉を顰める。

 

………

……

 

~???~

 

「っ…」

 

白き空間に漂うユウマが目を覚ます。

 

「ここは…?」

 

周りを見ても白が続いている。

 

「僕は…死んだの…?」

 

あの状況下ではそう錯覚しても仕方ないのかもしれないが…

 

「だいじょうぶ」

 

ユウマの近くに白銀の球体がやってきてそう呟く。

 

「君は…」

 

その球体の中にはあの女の子が入っていた。

 

「ゆうま。まだ、しんでない。ここは、せいしんのせかい…」

 

「え…?」

 

目の前の女の子からは出会った頃か感じていた気弱なものを感じられず、ユウマは少し困惑していた。

 

「あのひとと、ゆうまのせいしんを、わたしがつなげた。だから、ここにはあのひともいる」

 

「あの人?」

 

困惑気味なため、女の子が言う"あの人"というのがピンと来ない様子だ。

 

「ゆうまが、"でひゅーら"っていってたひと」

 

「デヒューラさんが、ここに…?!」

 

そう言われて慌てて周りを見るが、デヒューラらしき人影は見当たらない。

 

「でも、ここはせいしんのせかい…だからあのひとをたすけるには…」

 

「助けられるの!?」

 

女の子の言葉に食いつく。

 

「うん。わたしの"ちから"をつかえば…もしかしたら…」

 

「力…?」

 

「でも、せいこうするかはわからない…」

 

そんな女の子の言葉にユウマは…

 

「僅かでも構わない。そこに、デヒューラさんを助けられる可能性があるのなら…僕はやるよ…!」

 

その瞳に確かな力を宿してそう言っていた。

 

「……わかった。いま、あのひとは"した"にいるから…」

 

「下?」

 

下を見れば…遠くに小さな黒い点があることに気付く。

 

「あのひとのこころは…かなしみでしずんでて、くらいやみのなかでくるしんでる……だから、このずっとしたでふさぎこんでる。それをどうにかできるのは…ゆうまだけ」

 

「僕、だけ…」

 

「あのひとをすくえれば、わたしもゆうまにちからをかせるから…」

 

「君は一体…?」

 

「いまはわたしよりもあのひとを…」

 

「……うん。わかったよ」

 

しばしの逡巡の後、ユウマは大きく頷いて下の黒い点へと向かって降り始める。

 

「がんばって…わたしの、あたらしいろーど…」

 

そのユウマを見送りながら女の子はそう呟いていた。

 

………

……

 

~???~

 

「(暗い…こんな場所に本当にデヒューラさんが…?)」

 

女の子の言葉を信じない訳ではないが、あまりにも真っ暗な闇の世界にユウマだけがその存在を切り取ったような感じでクッキリと見えていた。

さっきの白い空間とはまた違う感じである。

 

「(でも、捜さなきゃ…きっと、どこかにいるんだから…!)」

 

そう思い、ユウマは方向感覚が失われつつあるものの、下へと降り続ける。

 

「(深い…もしかして、これがデヒューラさんが抱えてた心の深さなの…?)」

 

もし、そうだとしたら…

 

「(本当に、僕に救うことが出来るのかな…?)」

 

不安に駆られるユウマ。

 

と…

 

「あ…」

 

膝を抱え、その膝に顔をうずくめるような状態で暗い空間の中を漂うデヒューラの姿を見つける。

 

「デヒューラさん!」

 

それを見てユウマはすぐさまデヒューラも元へと向かう。

 

「…………」

 

しかし、ユウマの声を聞いても反応はない。

 

「デヒューラさん! 僕です、ユウマです!」

 

近付いて叫ぶユウマに対して…

 

「……うるさいな…わかってるわよ、そんなこと…」

 

デヒューラの声は酷く冷たいものだった。

声音はいつもユウマが聞いてる通りなのだが、その声の質は酷く冷たく刺々しい感じであった。

 

「で、デヒューラさん…?」

 

その声質にユウマは驚く。

 

「なによ? いつもの明るい私じゃなくて驚いてるの? ま、猫被ってたから仕方ないか…」

 

膝から少しだけ顔を上げ、ジトッとした目でユウマを見る。

 

「なんで私の家に来たの?」

 

地の底から響くような冷たい声でユウマに問う。

 

「え…だ、だって…デヒューラさんがいなくなると思ったら…いてもたってもいられなくて…」

 

そう答えるユウマに…

 

「余計なお世話よ。私がどうしようとアンタには関係ないじゃない」

 

デヒューラの反応はあくまでも冷たかった。

 

「で、でも…!」

 

「第一…アンタ、お節介なのよ。それにお人好し過ぎ…」

 

「え…?」

 

「頼んでもないのに助けに来た? 余計なお世話なのよ。それで一緒に知らないとこに行ったら行ったで殺されそうになってるし…あの後、私がどれくらい辛かったか知ってるの? アンタの安否もそうだけど、あのマッドサイエンティストに変な催眠術を掛けられて身動きは取れなくなるし、意識はあるのに体は言う事を聞かず、あの血マニアに同行してアンタと戦う羽目になって…挙句の果てに使い捨てにされて死ぬ? アンタがいようがいまいが結果は変わらないじゃない。なのに、性懲りもなくまた助けに来たとか…うざったいのよ!!」

 

「うぅっ…」

 

デヒューラの言葉が心に刺さったらしくユウマが項垂れる。

 

「てか、人の心にまでずけずけ入り込んできて…ホンット、お節介よね」

 

「そ、それは…」

 

言い淀むユウマに…

 

「いいから、私のことなんてほっておいてさっさと逃げなさいよ。どうせ、私なんか助けたってアンタには良い事なんて一つもないでしょ」

 

デヒューラは拒絶の一言を放つ。

 

「っ…!」

 

その言葉にカチンときたのか…

 

「ほっておける訳ないじゃないですか!」

 

ユウマはデヒューラの目の前に移動する。

 

「なんでよ?」

 

冷めた目でユウマを見る。

 

「警備員のおじさんに聞きました。デヒューラさんの家庭のこと」

 

「あのおっさん…また余計なことを……で、なに? それ聞いて哀れに思ったから助けに来たの? そういうのがうざいっていうのよ。第一、アンタに関係ないでしょ?」

 

心底うんざりした様子でデヒューラは言い放つ。

 

「確かに関係ないかもしれません。でも、デヒューラさんを哀れと思った事なんて一度もありません」

 

「じゃあ、何よ?」

 

「僕は…デヒューラさんの両親と、僕自身に怒りを覚えました」

 

「は…?」

 

百歩譲ってデヒューラの両親に怒りを覚えるのはわかるとして、何故自分にまで怒るのか?

それがデヒューラにはわからなかった。

 

「学園であれだけ親しくしてくれたのに…僕はデヒューラさんのことを何一つ知らなかった。知ろうともしなかった…その事実が無性にイライラして、情けなくて…泣けてきました…」

 

「意味わかんないんだけど…」

 

「学園ではいつも明るくて気さくなデヒューラさんが…本当は孤独だったって聞いて、僕は思いました。この人の力になりたい、この人には本当の意味で笑っていてほしいって…」

 

「え…?」

 

デヒューラもキョトンとする。

 

「そしたら、僕の中で一つの感情が溢れてきました。これは紛れもない僕自身の明確な意思であり、想いです」

 

すぅ、っと息を吸い込むと…

 

「好きです。デヒューラさんのことが愛おしいんです…!」

 

ユウマはその真っ直ぐな瞳で告げていた。

 

「………はぁ!?」

 

まさかの告白にデヒューラも困惑して思わず顔を上げる。

 

「あ、アンタ、何を言って…?!」

 

「本当です! この気持ちに嘘偽りはありません!」

 

「いや、そういうことじゃなくて…!」

 

「好きなんです! だから、あの家を出て僕の家に来てください!」

 

「はぁぁ!?!?」

 

かなりぶっ飛んだ告白になってきた。

 

「僕達はまだ学生ですけど、居候からなら一緒に始められるじゃないですか。それに冷たい家庭にいるよりも僕と僕の家族と一緒にいた方がデヒューラさんのためになります!」

 

「あ、あの…」

 

そのぶっ飛んだ思考にはデヒューラも度肝が抜かれたらしい。

 

「大丈夫です。絶対に両方の家族を説得してみせますから…だから」

 

徐にユウマはデヒューラの手を取り…

 

「僕と一緒に暮らしましょう、デヒューラさん」

 

そう告げていた。

 

「…………無理よ」

 

だが、デヒューラはそう呟いていた。

 

「無理なんかじゃありません!」

 

「無理よ。だって、私達はもうすぐ死ぬのよ?」

 

「まだ僕達の意識は死んでいません。だったら、体の方だって何とか…」

 

「無理よ! 仮にアンタが無事でも私の体はもう…」

 

龍騎士へと変貌した自分の体が無事ではなくなるのはデヒューラ自身が一番よく知っていた。

 

「それでもです! 僕が何としても助けますから!」

 

「なんで、そんなに…私に構うのよ…?」

 

今にも泣きそうな表情でデヒューラが問い掛ける。

 

「さっきも言いましたけど…好きだからです。好きな女の子一人助けられないようじゃ…僕は男失格になるでしょうから」

 

そう言ってユウマはデヒューラの顔に自身の顔を近づけ…

 

「んっ…」

 

「っ!?」

 

そっとその唇を奪った。

 

「絶対に、この手は放しません。だから一緒に生きていきましょう。デヒューラさん」

 

「……………バカ…」

 

その言葉を皮切りにボロボロと涙を流すデヒューラ。

 

「ユウマちゃんの、バカ…」

 

デヒューラの涙が流れると共に黒い闇が少しずつ剥がれ落ちていく。

 

「私だって…まだ、死にたくない…!」

 

今のデヒューラの真っ直ぐな気持ちが闇を払い…

 

「ユウマちゃんと…生きたい…!」

 

白き空間へと変貌する。

 

すると…

 

「いま、ふたつのたましいが…つながった…」

 

ユウマとデヒューラの頭上から白銀の球体が舞い降りてきた。

 

「君は…」

 

「なに?」

 

頭上を見る2人に女の子は言う。

 

「となえて。"トライユニゾン"と…」

 

と…

 

「デヒューラさん。今はあの子を信じて」

 

「う、うん…」

 

ユウマの言葉を信じ、デヒューラと共に唱える。

 

「「トライ、ユニゾン」」

 

その瞬間…

 

カッ!!

 

光が空間を満たす。

 

………

……

 

・南地域

 

「!?」

 

南地域で量産型邪龍と戦っていた忍の鼻がある匂いを察知する。

 

「(なんだ、この匂いは…?)」

 

………

……

 

・北地域

 

「(この、まるで魂が重なったような波動は一体…?)」

 

紫炎のヴァルブルガと戦っていた紅牙もまたその異変に気付いていた。

 

………

……

 

・民家付近

 

「なんだ? 何が起こってんだ!?」

 

目の前で起きた現象がわからなくてクーガも慌てていた。

 

ユウマとデヒューラを包み込んだ光は収縮していこうとしていた。

それに伴い、あり得ない現象も引き起こしていた。

それは…

 

『グガアアアアッ!!!!』

 

亜麻色から漆黒の龍鱗へと変貌した龍騎士が光から弾かれるようにして出てきたのだ。

 

「どういうことだ!? こいつは禁手龍騎士…いや、"中身の女"が感じられねぇ!!?」

 

クーガの言が正しいのならば、禁手の媒介となったデヒューラが龍騎士という殻を脱ぎ去ったということになる。

ならば、そのデヒューラは何処に行ったのか?

 

シュウゥゥ…

 

そして、光が収束した地点に立つのは…

 

「……………」

 

冥王化したユウマだが、その細部は些か異なっていた。

白髪の毛先には亜麻色が帯びており、その背には薄い桜色のオーラに包まれた半透明の女性がユウマの首に手を回してその頭をユウマの頭の横に置いていた。

その女性というのは…もちろん、デヒューラである。

 

「テメェ…一体何をしやがった!!」

 

いつもの陽気な人格からは想像できないような怒声を上げてユウマを睨む。

それくらい常識外れな現象が起こったとも言える。

 

「…………」

 

クーガの問いに答えない。

正確には、今の状態を自分でもよくわかっておらず、答えに困っているのだが…

 

「(ギリッ)!!」

 

そんなことクーガの知ったことではないので、無視されたと勘違いして殺気を膨らませる。

 

「いいぜ…そんなに死にたいなら今から殺してやるよ! 殺れ!!」

 

『グガアアアア!!!!』

 

クーガの命令に龍騎士が呼応し、ユウマへと一直線に向かう。

 

「っ!」

 

そんな龍騎士の突進を前に身構えるユウマに…

 

『だいじょうぶ。あれはぬけがら…ゆうまがきおうひつようはもうないから…』

 

ユウマの頭の中に女の子の声が響く。

 

「で、でも…」

 

生物を殺めることに対してユウマは戸惑いを隠せないでいた。

 

『やさしいゆうま。なら、あいてのうごきをとめることだけにしゅうちゅうして…』

 

「う、うん…」

 

そう言われ、ユウマは相手を動けないようにするイメージを頭の中で想像する。

 

「(相手の動きを封じる……鎖で腕や足を縛るとか?)」

 

そんな考えを浮かべていると…

 

『ユニゾンレアスキル、はつどう』

 

ジャキンッ!!

 

次の瞬間、突如として地面から現れた光の鎖が龍騎士の四肢を縛る。

 

「ふぇ!?」

 

「なにぃ!?」

 

『ガアッ!?』

 

ユウマを始め、屋根から見ていたクーガと自身の身に何が起こったのかわからない龍騎士が驚きの声を上げる。

 

「(バインド系の魔法か? いや、魔法陣は見当たらねぇし、魔力の流れもなんか不自然だ…何がどうなってやがる!?)」

 

その現象をクーガは分析しようとするが、一向に答えが出ないでいた。

 

「こ、これって…どういう…?」

 

当のユウマ自身もよくわからないでいたりするが…。

 

『ゆうま。いまがこうきだよ』

 

「え?」

 

『あっちのひとをおいはらおう』

 

「で、でも…どうやって…?」

 

『なんでもいいからいめーじして。あっちのひとをおいはらうような…』

 

「そ、そんなことを言われても…」

 

今がどういう状態なのかもわからないのに、クーガを追い払うイメージだと言われてもパッとは思いつかない。

 

「(う~ん…せめて武器でもあれば違うんだろうけど…そんな都合よく落ちてるはずもないし…)」

 

そう考えて思い浮かべたのは…パンドラ内でいつも使ってるハンドガンのイメージだった。

 

ボムッ!

 

「え!?」

 

すると、今度はそのイメージしたハンドガンがユウマの手元に現れる。

 

「はわわっ!?」

 

慌ててそれをキャッチすると何故か手に馴染むような感覚がユウマの手から伝わる。

 

「これは…?」

 

『それはゆうまのいめーじをぐげんかしたものだよ』

 

「僕の、イメージを…?」

 

『うん』

 

「よくわからないけど…これなら!」

 

初めて手にしたはずなのに、いつも使ってるような感覚でハンドガンを構える。

 

「なっ!? 物体を創造したのか?!」

 

それを見ていたクーガはあり得ないものを見たような錯覚を覚えていた。

 

「有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ!!」

 

そして、錯乱したようにブツブツと小言を繰り返し…

 

「っ!! そうか、これが…!!」

 

何かに思い至ったような声を上げるが…

 

バンッ!!

 

ユウマの発砲した魔力弾がクーガの顔面を捉え、クーガの頭が仰け反る。

 

「あ…」

 

ゲームのノリでヘッドショットを決めてしまい、これが現実であることを思い出す。

 

「だ、大丈夫ですか~?」

 

いくら敵対してるとは言え、殺してしまったのではないかと心配になって声を掛けてしまう。

ハッキリ言って間の抜けた場面とも言える。

 

が…

 

ぐぐぐ…

 

「危ねぇな…!!」

 

仰け反った頭が元に戻ると、魔力弾を噛んで受け止めていたクーガが憤怒の表情でユウマを睨む。

 

バリンッ!!

 

魔力弾を噛み砕いたクーガは…

 

「興が削がれたし、ノヴァ様に報告しないとならないことも出来たから帰るわ」

 

そう言って結界内から出るための魔法陣を展開する。

 

「しばらくの間、そのY-77は預けといてやるよ。次に会った時は必ず殺してやるから覚悟しとけ!!」

 

それだけ言い残すと、クーガはこの空間内から姿を消した。

 

「お、終わった、の…?」

 

『たぶん…』

 

「はぁ~……」

 

緊張の糸が切れたのか、その場にへたれ込んでしまうユウマ。

 

『お疲れ様です。マスター』

 

『ゆうま、だいじょうぶ?』

 

ヴァルゴと女の子から労いの言葉を受けたユウマは…

 

「うん、ありがとう。デヒューラさんも大丈夫ですか?」

 

未だにユウマの首に手を回し、頭の横に己の頭をくっつけてるデヒューラに声を掛ける。

 

『……………』

 

「デヒューラさん?」

 

『……すぅ…』

 

聞こえてきたのは静かな寝息だった。

 

『たぶん、はじめてのトライユニゾンだったからつかれたんだとおもう』

 

「ぁ…そう、なんだ…」

 

女の子の説明を受け、ユウマはデヒューラの髪をそっと撫でていた。

 

「本当に、無事で良かったです。デヒューラさん…」

 

心の底から安堵したような言葉を口にするユウマ。

 

これでユウマの戦いも一先ずの幕を閉じた。

 

しかし、これはユウマにとっては始まりでしかなかった。

ユニゾンデバイスである女の子の持つ謎の能力『トライユニゾン』。

そして、女の子が戦闘中に発した謎のキーワード『ユニゾンレアスキル』。

ユウマもまたこの大きな戦いのうねりへと巻き込まれてしまったが、今は考えまい。

今は愛する少女を取り戻したことへの達成感を胸にユウマは結界内の白い空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

ただ…

 

『グガアアアア!!』

 

まぁ、龍騎士がさっきから鎖から逃れようともがいているが…

 

「あ…この、人? どうしよう…?」

 

ユウマは龍騎士を前にどうしたらいいのか困っていた。

 

だが、この偶然にも捕獲してしまった抜け殻の龍騎士が後に役立つとは知らずに…。

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