第九十三話『余波と近況と、そして…』
アウロス学園襲撃事件より数日が経った。
ストロラーベで行方不明者となった者達。
つまり、龍騎士へと変貌した者達はアザゼルの手によって一命を取り留めた。
しかし、龍騎士化は依然として解呪されていない状態である。
現在、龍騎士化したストロラーベの住民達は冥界の堕天使領にある研究施設で保護されている状態にある。
そして、ストロラーベにおける行方不明者達の扱いは、探偵・雪白 狼牙が発見したものの、皆無事とは言い難く現在は面会謝絶の上である隔離病棟で集中治療を受けているという発表が政府からなされた。
これはノヴァによるある種の精神制御を完全に取り除くことと、ノヴァの元にいた時や龍騎士化した時などの記憶をいくらか操作するためである。
下手に野放しにすればまたいらぬ混乱が生まれる可能性もあるからだ。
当然ながらこの決定を下した政府に対し、行方不明者達の縁者から非難が殺到した。
行方不明者達の今がどのような状態かも知らされず、一方的に面会謝絶を言い渡されたのだ。
そりゃ抗議の一つや二つもしたくなるというものだ。
そして、その影響は狼牙にも及んでいた。
第一発見者である(ということになっている)狼牙にも機密保持のために黙秘を貫いており、行方不明者達の縁者から非難が少なからずやってきているのだ。
雪音や雪絵にも取材の手が伸びているが、実際の事実を知らない2人は困っていた。
そんな中、デヒューラとユウマはというと…
行方不明になった時期が比較的早く、見つかったのも早期だったために行方不明ということにはならず、"駆け落ち"という形で少しばかり雲隠れしていたことになっている。
何故、このような筋書きになったかと言えば…
ユウマや紅牙があの警備員から聞いた事実を加味し、ユウマによるデヒューラの救出劇を基にアザゼルが(面白半分に)脚本を仕立て上げた結果だったりする。
そして、駆け落ちした張本人である(ということになっている)ユウマは、両家族の前で…
「僕は…デヒューラさんのためを思って行動しました」
何の迷いもなくそう言い切っていた。
ちなみに場所は雪白探偵事務所のリビングを貸してもらっており、狼牙も立会人として見守っている。
それに対して…
「子供の戯言など聞いていられるか」
「そうね。こんなことで貴重な時間を費やしたくはないわね」
「今は行方不明者の子達も見つかったそうですが、物騒なのは変わりありませんしね…」
「でも、2人が無事で良かったです」
前半のデヒューラの両親からは時間の無駄だとばかりの言葉が投げかけられ、後半のユウマの両親からは子供を心配したものであった。
「…………」
その言葉を聞き…
「ご心配をかけて申し訳ありませんでした」
ユウマは形式上の謝罪をデヒューラの両親に告げながら頭を下げる。
「ふんっ…さっさと帰るぞ」
「ほら、行くわよ」
そう言ってデヒューラの母親がデヒューラの手を掴もうとすると…
「…………」
スッと、デヒューラの前に立ち塞がる。
「ユウ…?」
「何の真似かしら?」
デヒューラの母親が怪訝に思っていると…
「………いい加減にしてください…!」
意を決したようにユウマが言葉をぶつける。
「は? 何を言って…」
「時間がないんだ。さっさと連れてこい!」
「わかってます! けど、この子が…」
デヒューラの母親がモタモタしてるのを見てデヒューラの父親が口を出す。
「何のつもりか知らんが、小僧。私達には時間がないんだ。いいから、そいつをこっちに寄越せ!」
「っ! それでも親ですか!」
デヒューラの父親の物言いにカチンときたユウマが珍しく怒気を含んで叫ぶ。
「なんだと…?」
その言葉にデヒューラの父親は眉を顰めるだけだった。
「デヒューラさんは物なんかじゃない! それにあなた達の子供のはずでしょう!? なのに、さっきの言い方はあんまりじゃないんですか!?」
「ふんっ…人の家族のことに余所者が口を出すなど…お宅の息子さんは教育がなっていないようだな」
「いやはや、すみませんね…」
デヒューラの父親の言葉をユウマの父親は軽く受け流していた。
「それにしてもユウマ。なんで彼女と駆け落ちなんてしたんだい? 理由を教えてくれないかな?」
やんわりとした態度でありながらユウマに尋ねるユウマの父親の眼は真剣だった。
「はっ…それこそ時間の無駄だ。どうせ、子供の幼稚な出来心が働いたに過ぎない!」
その問いをデヒューラの父親はそう断じる。
「ん~、僕はユウマに聞いているのですがね…」
困ったように頭を掻くユウマの父親。
すると…
「僕は…最近までデヒューラさんの家族事情を知りませんでした」
おもむろにユウマが語る。
「いつも明るくて、友達も多くて、僕に悪戯することもあるけれど…そんなのは、デヒューラさんの一面に過ぎなかった。
その言葉に…
「ふんっ…何を言い出すかと思えば…」
「私達は忙しいのよ。その子に構ってる暇なんかないわ」
デヒューラの両親は冷たい…冷酷とも思える言葉を発していた。
「じゃあ、どうしてデヒューラさんを産んだんですか!?」
ユウマの悲痛な叫びは…
「そんなもの出来たからに決まってるでしょ。それにいちいち構っていられないわ」
その一言で片づけられる。
「子供が何をしようが勝手だが、こちらに迷惑だけはかけてほしくないな。時間の無駄だ」
「そうね。出来れば家で大人しくしててもらいたいのに…この子は雑誌に出たりして…」
「まったく、いちいち出版社に確認を取られたらこちらの貴重な時間が…」
その無責任とも言える言葉を聞き…
「そんな風にしたのは、あなた達じゃないですかッ!!!」
ユウマは我慢の限界らしく吠えていた。
「こんな子供の心配もしない親に育てられたら、悲し過ぎます!! だから僕はデヒューラさんを連れ出して一緒に暮らそうと考えたんです!!」
「子供に何がわかる? "心配"してるからこそ、この場にいるというものを…」
「そんなの"心配"なものか!!」
珍しく感情的なユウマを見て…
「なるほど。それが理由ですか」
その様子を見ていたユウマの父親が口を開く。
「あの大人しくて人様に迷惑を掛けないユウマが…しばらく見ない内に立派に成長したものだね」
「そうね」
ユウマの父親の言葉にユウマの母親も微笑んでいた。
「成長だと? こんなのが成長のはずがない!!」
「そうですかね? 狼牙さんはどう思いますか?」
すると、これまでのことを一部始終見ていた狼牙に話を振る。
「ん? まぁ、俺は探偵であって弁護士じゃないから何とも言えないが…少なくとも、女のために体を張る男を成長してないとは言えないわな…同じ男として立派だと思うぜ?」
狼牙はそう返していた。
「アンタは関係ないだろ!」
「ここは俺の家なんだがな…」
デヒューラの父親に狼牙は即座に言葉を返す。
「とにかく、これ以上はアンタ達には関係ない話だ! もういいだろ。さっさとそいつを渡せ!!」
「デヒューラさんを"そいつ"呼ばわりしないでください!! 僕はそんな人達の元なんかにデヒューラさんを帰したくありません!!」
ユウマの怒りに対してデヒューラの父親は…
「ほぉ? じゃあ、どうするというのだ? 子供に何ができる?」
勝ち誇ったような顔でそう尋ねる。
「デヒューラさんは…僕の家で暮らしてもらいます。もし、それが許されないなら…僕は、デヒューラさんを連れて…!!」
その決意に満ちた表情を見て、ユウマの両親は…
「まぁ、いいんじゃないかな?」
「家族が一人増えたくらい、あなたが何とかしてくれるでしょ?」
「あはは…耳が痛いなぁ…」
概ね賛成の意を示していた。
「なっ…?!」
思いがけない言葉にデヒューラの父親は言葉を失っていた。
「ふざけるな!」
「その子はうちの娘なのよ!」
が、すぐさま母親と共に抗議していた。
「そんなことを言うくらいなら…もっと前からデヒューラさんに関心を持っていてください!」
至極もっともな言葉をユウマに言われる。
「っ…この…ガキが!!」
頭に血が昇ったのかデヒューラの父親がユウマを殴ろうとするが…
「はいはい。心証最悪だな…」
デヒューラの父親を狼牙が羽交い絞めにしながら呟く。
「暴力はいかんよ、暴力は。それも他所様の子供に暴力は、心証としては最悪だね。これで裁判なんか起こしてもアンタらに勝ち目ないから…」
やれやれといった感じで狼牙はぼやく。
「さ、裁判だと!?」
「そりゃそうでしょうよ。こういうのを家庭内裁判とか言うのかな? アンタらが何を言おうと、証拠や証言が物語ってる」
「ぐっ…!!」
「アンタらに『親』を名乗る資格はないのさ…」
狼牙に言われ、拳を収めるデヒューラの父親だった。
こうしてデヒューラの両親は結局は何も言わずに雪白探偵事務所から去っていった。
残ったデヒューラはというと…
「あ、あの…その…」
こういう時、なんて言えばいいのか…ちょっと悩んでいた。
「いやぁ…しかし、この歳でもう将来を誓い合うとは…若いとはいいものですね」
「ま、無鉄砲とも言えるがな。しかし、早い内に身を固めておくのもそれもまた一つの選択だろ」
ユウマの父親と狼牙が何やら言葉を交わしていた。
「デヒューラちゃんだっけ? うちのユウマ君をよろしくね♪」
「え? は、はぁ…」
ユウマの母親にそんなことを言われ、デヒューラは少し困惑してしまう。
「そうだ。空いてるお部屋のお片付けしないとね。それに嫌かもしれないけど、デヒューラちゃんのお家から家具や服とかも持ってこないとならないわよね…」
「…………」
今後のことを考え出すユウマの母親にデヒューラも何と言っていいのかわからなかった。
「大丈夫ですよ。僕がいつまでもついてますから…」
そんなデヒューラの手にユウマはそっと自分の手を重ねて言っていた。
「…………えぇ、そうね…」
デヒューラにとっては新たな門出であった。
………
……
…
そのようなこともあったストロラーベでの生活も一旦の終わりを告げる。
一応の事件解決を受け、忍もまた任務を終えたこととなり、そのまま地球へと帰還することになったのだ。
「それじゃあ、俺達は行くよ」
荷物を纏めた忍達は雪白探偵事務所の前にいた。
「本当に行っちゃうの?」
「まぁ、向こうの学園にも行かないとだしな。それに俺にはまだまだやらないとならないこともたくさんあるし」
雪音の言葉に忍はそう返していた。
「うぅ…せっかく一緒に暮らせると思ったのにぃ~」
そんなことを言う雪音は今にも泣きそうだった。
「やれやれ、事件も一応は一段落したってのに忙しないな」
「ノヴァの野郎を放置するわけにはいかないからな…」
「絶魔か…」
その単語を聞き、狼牙も難しい表情をする。
「我が一族の仇…向こうの神が目覚めつつあるのかもしれんな…」
「我等が神が封じた絶魔の神、か…」
「あぁ。遅かれ早かれ、お前はそんな巨大な奴とぶつかる可能性が高い。忍、死ぬんじゃねぇぞ?」
「死ぬ気はない。まだやり残してることだってたくさんあるしな」
「それでこそ、俺達の子だ」
言葉を交わしながら互いの拳を軽く合わせていた。
「う~ん…それにしても、わたしは今回もあんま役には立たなかったな~」
そんなやり取りをしている忍達の後ろではやてがぼやく。
「仕方ないよ。私は忍君の僧侶として一緒に行ったけど、はやてまで冥界に行くわけにはいかなかったでしょ?」
「そりゃそうなんやけど…なんか、仕事らしい仕事もせずに帰還っていうのも納得いかないというか…」
「相手は量産型とは言え邪龍の大軍や伝説に残る程の邪龍を率いている悪魔の筆頭とも言える存在だ。管理局の人間をホイホイと連れて行くわけにはいかん。第一、そんな異形との戦い…お前達は経験したことがないだろうが」
はやての不満げな言葉に紅牙が釘を刺す。
「ぶ~ぶ~、紅牙君のいけず~」
「俺は事実を言ったまでだ」
すると…
「そなら、わたしも紅牙君の眷属にしたってぇな」
「なんだと…?」
「は、はやて!?」
突然の言葉に紅牙もフェイトも驚く。
「駒、まだ残ってんのやろ? なら、わたしに似合う駒をくれたってええやんか」
そのはやての言葉に…
「はぁ…」
紅牙は溜息を吐いていた。
「眷属になってどうするつもりだ。生憎と僧侶の駒はあと一個しかないし、お前は騎士の駒でもないだろう」
「む。失礼やな。わたしかて魔導騎士の称号を持ってるんやで?」
「魔導騎士…」
「確か、ベルカの称号の一つで、今ははやてしか名乗れてないよね?」
「そうやで」
フェイトの解説にえっへんと言いたげに胸を張るはやて。
「で、具体的に何が出来るんだ?」
紅牙が鋭いツッコミを入れる。
「えっと…そうやね。攻撃魔法は遠距離や広域、遠隔発生が多くて…あとは支援系の魔法が主体かな?」
「それと私から見ると、はやては指揮官向きかなって思うよ?」
「ふむ…」
はやての自己申告とフェイトの意見を加味して出した紅牙の結論は…
「仮に…あくまでも仮にだが、駒を渡すとなるなら…女王になるだろうな」
そう言って紅牙は懐から女王の駒を取り出していた。
「俺はどちらかと言えば、指揮官には向かないだろう。サイラオーグ・バアルのように自ら前に出るタイプだ。もちろん、最低限の指揮能力はあるつもりだ。これでも冥王派のリーダーをしていたからな」
若干自嘲気味に語る紅牙は女王の駒を手の中で遊ばせながら続ける。
「しかし、それは本当に最低限のものであるし、俺は王が前に出て皆を率いる。少なからずそのような考えがあるからかもしれない。だからこそ、俺の女王の駒を与える人物は…指揮能力に長けた人材であり、俺の補佐をしてほしいと考えているんだ。それに女王という立場上、王に最も近しい人物…それこそ紅神のように……いや、俺には過ぎた願いか…」
「「?」」
最後の部分は声のトーンが小さくなったのでフェイトとはやても首を傾げていたが…
「要するに、紅牙君を補佐して尚且つ指揮能力のある人を探すと…」
「ま、そういうことになるな」
はやての言葉に頷きながら紅牙は駒を懐に仕舞い込もうとするが…
ひょいっ!
「む?」
はやてが素早くそれ(女王の駒)を手に取ってしまっていた。
というか、完全に紅牙の手から強奪したような…。
「おい! 何の真似だ!?」
紅牙がはやてに詰め寄ると…
「まぁまぁ、そう怒らんと…わたしが紅牙君の女王になってあげるから」
まるでそれを狙っていたかのような物言いに…
「はぁ!? 何故そうなる!?」
当の紅牙は困惑する。
「紅牙君。本当は寂しいんと違う?」
笑っていた表情から真剣な表情になるはやて。
「はぁ? お前、何を言って…」
「フェイトちゃんから少し聞いたけど…紅牙君、ご両親はもういないんだよね?」
「おい、執務官…!」
それを聞き、怒る対象をフェイトに移行させようとするが…
「それに妹のシアちゃんやて。紅神君のとこに行ってもうたし、本当は一人で寂しいんじゃないかなって…」
その言葉を聞いて…
「……別に、そういうのは無い。姦しい部下もいるし、お節介な奴等もいる。それに妹にもたまに会っているしな。完全な孤独という訳じゃ…」
「わたしもね。昔は独りぼっちやったんよ」
「はやて…」
当時の事を知るフェイトは少し表情を曇らせる。
「でも、今は家族や友達もいっぱいおるから寂しくないんよ。でも、紅牙君を見てるとな…なんだか他人事とは思えないんよ」
「独りぼっち、か……詮索はせん。人にはそれぞれの過去があり、それぞれの未来に向かって歩むのが人生だからな。それを俺は、紅神から教わった」
「でもな。人間……人は一人では生きていけないんよ。それは冥族だって同じじゃないかな?」
「それは………」
はやての言わんがしていることを理解し、紅牙は言葉が続かなかった。
「だから…わたしが一緒にいてあげようか?」
「そんなことをしてお前に何の得がある?」
「損得の問題じゃないよ。少なくとも、わたしは紅牙君のこと…その、気になってるんだから」
一緒に行動した回数も少なく付き合いも短いが…はやてはその数回の接触と紅牙から孤独感を感じ取り、いつしかそれは"気になる存在"へと変化していたようだ。
それが興味から来るものなのか、同じ孤独を知る者としてなのか、はたまた恋なのか…現時点で立証する術はない。
「………………」
紅牙は黙ってはやての眼を見る。
「……………」
その視線を真正面から受け止め、はやても紅牙の眼を真剣に見つめる。
そこには…確かに迷いはなく、真剣な眼差しそのものだった。
「…………はぁ…」
再度、大きな溜息を吐くと…
「好きにしろ」
紅牙は根負けしたようにそう言っていた。
「うん…!」
トクン…!
それを受けてか、女王の駒ははやての中へと溶け込んでしまった。
「あとは…天崎の返答も近い内に聞かないとか…」
あのアウロス学園襲撃事件の直後、紅牙はユウマに僧侶の駒を渡していた。
しかし、まだ答えを聞いていなかった。
現在の冥界の悪魔の制度から始まり、悪魔の駒や眷属の駒の概要を大まかに説明した後、駒を与えた上でしばらく考える時間を設けていたのだ。
もちろん、ユウマにはそれが如何に危険なことか、それを踏まえて考えてもらっている。
だが、その一方で力を発現させてしまった以上、遠からずユウマは狙われる可能性がある。
その筆頭となるのが、おそらく絶魔である。
理由はユウマが冥王であることと、ヴァルゴの選定者であること、そして何よりも…あのユニゾンデバイスの女の子のシステム『トライユニゾン』を発現させたから…というのが忍や紅牙、アザゼルといった人達の見解だからだ。
日常を選ぶか、敢えて危険な道を選ぶか…。
ユウマは今…大いに悩んでいる時期でもあった。
紅牙がユウマの回答のことを考えていると…
「あ、そうだ」
「なんだ?」
はやてが何か思いついたように手をポンと叩き、それを紅牙が問う。
「せっかく紅牙君の眷属になったんやから、紅牙君にはわたしの家族にもちゃんと挨拶してもらわんとな」
「な、に…?」
それはつまり…ヴォルケンリッターに挨拶することになるということであって…
「(なんだか嫌な予感しかしないんだが…)」
その予感はある意味で的中することになる。
「紅牙の眷属もついに女王を得るか。ただ、ちょっと大変そうだが…」
「あ、忍君」
そこに家族との別れがやっと終えたらしい忍がやってくる。
「すまん。雪絵を宥めてたら時間が経ってた。また会えるんだから大丈夫だと言ってはおいたが…」
「お疲れさま。でも、ちゃんと会いに来ないとダメだよ?」
「あぁ、わかってるさ」
フェイトの忠告に答えながら忍は紅牙を見る。
「(兄に幸せが訪れるかもしれないと知ったら…シアも喜ぶかな?)」
そんなことを思いながら忍達はストロラーベを後にするのだった。
………
……
…
そして、地球。
駒王学園。
二学期の終業式の日のことだ。
「いやはや…終業式までにこっちに戻れてよかった…」
久し振りの地球の空気と、駒王学園の制服の袖に腕を通し、忍は帰ってきたのだと実感していた。
「なんだか色々あったみたいだね」
そこに同じく駒王学園の制服を着た海斗が話しかける。
「ま、本当に色々とな……それにしても、だ」
「なんだい?」
「また、こうして海斗と一緒に学園に通えるなんてな」
忍は海斗とこうして話せることが嬉しそうであった。
「それは俺がお礼を言うべきなのかな? 次元辺境伯殿」
「その名は一般の前であんま口にするなよ?」
「わかってるよ」
海斗も海斗で忍と話せるのが嬉しそうだ。
「入れ違いになるように海斗は転入、俺は留学したからな…」
「確かにね」
ははは、と笑い合う忍と海斗。
「「………………」」
ひとしきり笑い合った後、しばしの沈黙が支配する。
「それで…真面目な話、お前はこれからどうするんだ?」
「そうだね…」
忍の問いに海斗は…
「本来なら国に帰って王位を継ぐつもりだったけど…次元大戦なんてものが各次元世界に迫っている状況だ。あの叔父がそれに対して動かない、なんて保証もないしね…」
「そう、か…」
「とにかく、今は俺の臣下となりうる海龍神の痣を持つ者を探すのが先決かな。それを以って、俺自身が正当な王位継承者だと民に伝えたいと思ってるよ」
「早く見つかるといいな。その臣下って人達…」
「あぁ、そうだね…」
そんな真面目な話をしていると…
「お~い、忍に海斗~」
イッセーが2人を呼びに来ていた。
「皆待ってんだから、さっさと来いよ!」
「あぁ、今行くよ」
イッセー達の所へと小走りで向かう忍と海斗だった。
………
……
…
終業式の終わった後の午後。
グレモリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属、紅崎姉妹、シスター・グリゼルダは兵藤家のVIPルームへと集まっていた。
来たるクリスマスで、駒王町にプレゼントを配って回るための作戦会議のためだ。
それも都市伝説ぐらいに留めた内容でだが…。
ちなみにシトリー眷属はアウロス学園の修復、修繕のためにギリギリまでこの会議には参加できないそうであった。
その後、イリナとシスター・グリゼルダの先導の下、一行は天界へと赴くことになったのだ。
ただ、人数が人数だけに今回は人数分の天使の輪っかが作れておらず、代表としてグレモリー眷属の他には忍と紅牙の二名だけが天界に赴くことになった。
その間、地上に残った紅神眷属と神宮寺眷属は神宮寺眷属の新たなメンバーである女王のはやての紹介を受けることになっていた。
一方で天界に行ったメンバーはセラフの住む天界の中枢である第六天『ゼブル』でミカエルと面会していた。
その夜、兵藤家ではイリナの父親『紫藤 トウジ』が来訪していた。
ミカエルからの手土産を持ってだが…。
その話はまた別の機会に…。
その一方で、紅神眷属は明幸の屋敷、神宮寺眷属はマンションへと既に帰宅していた。
そして、その真夜中のこと。
「……すぅ………すぅ…」
自室にて既に就寝していた忍の枕元に忍び寄る影が一つ。
「………………」
その者は、漆黒のローブにその身を包み込み、その手に白銀の長剣(刀身は白銀、刃渡り70cm、柄は空色、鍔はV字状、柄頭に小さな輪っかが付いた両刃の片手剣)を逆手に持って忍の喉元に向けて何の迷いもなく突き刺そうと長剣を振り下ろしたのだった。
この者の正体とは?
そして、忍の運命は…!?