「それで秋乃さん、どうして一緒にデュエマ甲子園に参加できないのか、理由を教えてくれる?」
「……わかりました。正直に話しますわ」
対戦を終えて、僕は秋乃さんに問いかける。
さっきのデュエマの影響か、あるいは僕の言葉に観念したのか、秋乃さんは溜め息をついてから、僕の問いに答えてくれた。
「実はあの夏祭りの後、お父様から連絡がありました。内容は急ぎ海外に行ってきてほしい、と」
「……それとデュエマ甲子園に参加できない理由と、どう関係があるの?」
「関係はあります。まず、その海外に行くと、わたくしは暫く、そこに滞在することになります」
「うん。それはわかるよ。けど、その滞在期間はそんなに長くなるわけないよね?」
「いいえ。今回の海外への滞在期間は未定、と、言われました」
「え?それって……」
「はい。わたくしは海外に行った後……いつ日本に戻るかわかりません」
「……」
それを聞いて、僕は口を止め、言葉を失い、なんて返すか、考えるも、すぐには言葉に出なかった。
ふっと、僕達の話を静かに見守っていたマリちゃんが秋乃さんに問いかけた。
「海外に出発されるのはいつなのですか?」
「……明日の昼に出発します」
「っ……」
マリちゃんの質問にエリカが答える。それを聞いて、僕は驚き、どうしたらいいか、わからなくなった。
──なんだよ。何が受け止められる、だ。
結局、僕は秋乃さんの言葉に受け止められていないじゃないか。
そう思った時、僕はこの場から逃げ出したくなった。けど、逃げ出せない。逃げ出したら、秋乃さんとは、もう会えないかもしれない。そう思った時、何か言葉にしないといけないと思った。
──その時、だ。
「なるほどな。そちらの家の事情はだいたいわかった。それで?お前の気持ちはどうなのだ?」
「……え?」
また、黒崎レオンこと、兄さんが僕と秋乃さんの話の
そのまま、流れるかのように、兄さんは秋乃さんに問いかけた。
「聞こえなかったのか?お前の気持ちはどうなのだ?より具体的に言うのであれば、お前は弟と離れて、寂しくないのか?辛くないのか?どうなのだ?ハッキリ言ったらどうなんだ?」
「……」
途中から、やや言葉遣いが荒くなってきたけど、兄さんが言いたいことはなんとなく、僕には伝わった。それは秋乃さんも同じだと思う。
「……寂しいに決まってます。辛いに決まってます。けど、仕方がないのです。わたくしには焔財閥の後を継ぐ夢があるのです」
「それはお前の夢ではなく、親の夢……家族の夢だろう?お前はそれとは別の夢があるだろう?それなら──」
「──いいよ、兄さん」
「……勝」
僕は兄さんの言葉を遮った。
あまりにも、秋乃さんがいたたまれない気持ちで、僕は兄さんの言葉を遮り、止めた。
「……ありがとう、兄さん。僕のために、秋乃さんに色々聞いてくれて。けど、それ以上は秋乃さんが可哀想だよ?」
「……弟よ。男には時には言うべきことがある。言わなければ、想いは伝わないのだ。わかるか?」
「わかるよ。けど、それは……僕が言うべきことであって、兄さんが言うべきことじゃないよね?」
「……フッ、それもそうだな」
そう言って、兄さんは椅子から立ち上がった。
「余計なことをしたな。俺は仕事に戻る……」
そう言って、兄さんはその場から立ち去った。いや、正確には、レジまで戻った、かな?まぁ、今はどうでもいいことだけど。
「……秋乃さん」
「はい。なんでしょう、勝様?」
「さっきは勝手に決めつけたり、兄さんが色々聞き出したりして、ごめん」
「構いませんわ。わたくしも、勝様に自分の気持ちをちゃんと伝えられなかったのですから……それで勝様、これからについてお話《はな》ししたいのですが……よろしいですか?」
「うん、良いよ。それと今の状況とお互いの気持ちの再確認をしようか?」
「はい、そうしましょう」
お互いに軽く謝罪し、今後、どうするか、話し合うことにした。
「まず、秋乃さんは明日の昼から海外に行く。滞在期間は未定でいつ帰ってくるかわからない……ここまでは良い?」
「はい」
「了解。それじゃあ次に、秋乃さんは僕と離れるのは寂しい?」
「当たり前ですわ。一度でも勝様と離れて寂しくないと感じたことはありませんわ」
「了解。そこは僕も同じ気持ちだ。だけど、財閥の後を継ぐなら、これはきっと、すごく大事なことだと思う」
「はい。それはわたくしもわかっています。お父様の気持ちも、今回の海外に行く理由も……」
「……そうだね。だから、ここで考えられる案は二つだ。一つ、今すぐ、秋乃さんのお父さんに会って、海外に行く
「わたくしが
「そうだね。だから二つ目の案がなるべく早く、秋乃さんが日本に帰ってくる、だ」
「……まぁ、そうなりますわね」
うん。正直、これしかないと思う。考えられる案としてはこれが最適解だと思う。
僕も一緒に海外に行く案もあると言えばあるけど……多分、親が許してもらえないと思う。
「秋乃さんへの負担が大きいけど、大丈夫?」
「そこはご心配なく、私もお嬢様の使いとして、一緒に行くことになっています」
「そうなの?」
突然、エリカが割って入ってきて、思わず、秋乃さんに質問してしまったが、秋乃さんは「はい。メイドとして、わたくしのサポートをするように、と、エリカにメールで送っていましたわ」と、答えてくれた。
「なるほど。それなら、ある程度は秋乃さんの負担が軽減されるから、そこは問題がないね」
まぁ、同時に、エリカも海外に行くということは、デュエマ部から二人いなくなる、と言うことだ。
「……あの、勝様は今後どうするのですか?」
「僕?僕は……」
ふっと、秋乃さんの質問に僕は返答しようとしたが、すぐには返答できなかった。
理由はここまでの話の流れで、僕は何一つ、手伝えることがない。何なら、全部秋乃さんに任せている。
「アレ?もしかして僕、無能では?」
「無能ではありませんわ、勝様」
あ、心が漏れてた。まぁ、良いや。現状、僕は何もできない無能であることは変わりないからね。
「……勝様、一つ……いや、二つ、お願いをしても良いですか?」
「……?」
ふっと、秋乃さんは何かを思いついたのか、僕にお願いをしてきた。
「一つ目はデュエマ甲子園でデュエマ部の優勝。二つ目は彼女との因縁に決着をつけてほしい、ですわ」
「……わかった」
秋乃さんからの二つのお願いに僕は承諾した。
部活の皆でデュエマ甲子園に優勝は勿論、彼女……結衣ちゃんとの因縁はそこで決着をつけるつもりだ。
秋乃さんにお願いされるまでもない。
「話がまとまったみたいだな」
「……兄さん」
またしても、兄さんは僕達の会話に割って入ってきた。
あの、ちゃんと仕事してる?いくら兄さんが自分で経営してるとはいえ、ちゃんと仕事してる?弟として、少し心配になってきた……。
「そう言えば、会計がまだだったね」
「それは問題ない。彼女達が二人の分を支払っていた」
「え?そうなの?」
「はい。実はこっそりと」
僕の質問にマリちゃんが答えた。
大丈夫?確かこの店、結構高かった気がするけど……いや、ここは聞かないでおこう。
何故だか知らないけど、エリカが僕を睨んでいる。
「……二人とも、ありがとう」
「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ」
そう言った後、秋乃さんが立ち上がった。
「さてと、今日のデートはここでお開きにしましょう、勝様」
「そうだね。秋乃さんは明日の準備もあるし、僕もデュエマ甲子園に向けて、色々と準備をしないとね」
そう言って、僕も立ち上がり、マリちゃんとエリカも同時に立ち上がった。
「それじゃあ、兄さん。僕達はこの辺で失礼するよ」
「ああ、またいつでも来い」
「またのご来店、お待ちしてます♪」
一番最初に出迎えてくれた店員のお姉さんがそう言った後、僕達は喫茶・クロ咲店を出て、そのまま解散することになった。