「マリちゃん、デッキを持ってきてたの……?」
「え?ええ、そうですね。一応というか、なんというか……」
ひよりちゃんの問いかけに、マリちゃんは歯切れが悪く、そう言った。
「それにしても……」
「人が多いですわね……」
「だね……」
祭りの中に入ると、僕達は真っ先にそう思った。
周囲は
「予想はしてたけど、ここまで人が多いのは予想外だ……」
「無理もありません。祭りのイベントの一つとはいえ、今日はデュエマの大会がありますし、それを目当てで来ている人も多いと思います」
「なるほど。
いくらデッキの入れ替えがアリだと言って、大きいリュックを背負って、祭りの中をウロウロされるのは周りの人に迷惑だ。
……まぁ、僕らもあまり、人のことは言えないけど。
「なんか……迷子になりそうです」
「そういう時は誰かと手を繋いで、動いた方が良いよ」
「と、言いつつ、サラッとわたくしの手を掴むのはどうかと思いますよ?勝様?」
「……嫌だった?」
「……いえ、嫌ではありません」
「「……」」
自分達は何を見てられているのだろうか?と、ひよりとマリは口には出さないが、内心、そう思った。
「おーい!勝!」
「……?」
突然、誰かに名前で呼ばれた。とても聞き慣れた声だ。
僕は声の方に振り返えると、そこにはツンツン頭の少年──親友の拓真が居た。
「勝もこの祭りのイベントに参加してきたのか?」
「も、ってことは拓真も?」
「……まぁ、息抜きがてら、な。と言っても、3回目で身内に当たったから、今から屋台を回りに行くつもりだ」
「そうなんだ……因みに相手は?」
「……」
僕がそう質問すると、突然、拓真は黙り込んだ。
何だ?急に黙り込んでどうしたんだ?
「……いやー、相手がよ、結衣なんだ」
「──え?」
結衣ちゃんが、この祭りに来ている……?
「《ザーディクリカ》でダイレクトアタック……」
「ッ、何もない。俺の負けだ……」
「決まったぁぁぁぁぁッ!結衣選手、これで5連勝だぁぁッ!」
実況が
「凄えな!あの子!」
「とても、女の子とは思えない実力だわ!」
「結衣ちゃーん!こっちにウィンクしてー!」
その中には感動する者、女子とは思えない実力を見せられた者、彼女のプレイングに魅了された者、などなど、色んな人が彼女の勝利を喜び、讃えた。
──しかし、彼女を良く知る者は、彼女がこの程度で喜ぶ訳でもなく、笑う訳でもなく、ましてや、彼女の心に眠る飢えを満たされる訳ではない。
「今度はオレが相手だ!」
「……」
──ああ、またつまらない相手だ。と、彼女は思った。
目の前にいる挑戦者に、結衣は深い溜め息を吐いた。
「……どうぞ。つまらないデュエマなら……許さないから」
「ッ!?そう言っていられるのも、今のうちだ!吠え面を吐かせてやる!」
「はいはい。吠えるだけなら、犬でも猫でも猿でも誰でもできるわ……」
「んだと……!」
対戦相手を煽る結衣。
対戦相手の男性は彼女の煽りに嵌められ、そのまま勢いよく、「デュエマ・スタートッ!!」と、言って、彼女と対戦を始めた。
そんな二人を──否、結衣を遠くから眺める二人の少女、花宮黒江と猫崎瑠璃。
そして、黒江は結衣が少し荒れていることに気づく。
「結衣のやつ、荒れてんなぁ……まぁ、仕方がないか……」
「最初に身内とやってからだよね?何があったの?」
「さーな……ん?」
ふっと、視線を右に向けると、そこには結衣が最初に対戦した少年、拓真と、見知った顔が数人──勝達の姿があった。
「何で
それを見た黒江は勝達がここにいることに疑問を抱き、様子見がてら、勝達に近づき、それを見た瑠璃、もとい、キャルは黒江の後を追いかけた。
「本当に結衣ちゃんがいる……」
会場に着くと、目の前にいる少女、赤羽結衣がそこに立っていた。
しかも、ここに来る直前、すでに5連勝をしている。
「まさか、勝達もこの祭りに来ているとはな……」
「ッ、黒江!?それに……キャル!?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると、黒江とキャルの二人がいた。
「けど、悪いなー、勝。このイベントの商品は結衣が持っていくぜ?」
「……二人も来ていたんだね」
「それりゃ、結衣がいる所に、私らがいない訳ないじゃん?」
「……それもそうか」
軽く会話をした後、僕は会場で戦っている結衣ちゃんの姿に、視点を向けた。
「──ダイレクトアタック……」
「ッ……参りました」
「決まったぁぁぁぁぁッ!結衣選手、これで6連勝だッ!7連勝まで後一歩だぁぁ!」
その後すぐに実況から声が上がり、それを聞いた僕は小さい鞄の中からデュエマのデッキケースを取り出した。
「……勝様」
「ッ、秋乃さん……」
会場に足を運ぶ直前、秋乃さんは僕を心配してか、右手で僕の服の
……いや、これは僕を心配して、というより、秋乃さんはこれ以上、僕に傷ついてほしくなくて、僕の歩みを止めているんだ。
そう思った僕は結衣ちゃんから視線を外し、秋乃さんに視線を向けた。
「秋乃さん……」
「勝様……わたくし……勝様にこれ以上、傷ついてほしくありません!」
やっぱりか、と、そう思った僕は、今の自分の気持ちを秋乃さんにぶつけた。
「……ありがとう、秋乃さん。だけど、これは僕の……僕達の問題だ。だから、止めないでほしい」
「ッ……!」
それを聞いて、秋乃さんは掴んでいた僕の服の袖を放し、僕はそのまま前へと、歩んでいった。
「久しぶりだね、結衣ちゃん……」
「!?勝!?なんで……?」
何食わぬ顔で、僕は結衣ちゃんの前に立ち、デッキケースをデュエマ台に置いた。
「悪いけど、ここで止めさせてもらうよ、結衣ちゃん」
「……なるほど、そういうことね」
何かを察したのか、結衣ちゃんはデュエマ台に置いてるデッキを一度、デッキケースに
「貴方には、このデッキで相手をしてあげる。このイベントで、まだ一度も使っていないデッキよ。今の貴方に勝てるかしら?」
「……やってみないとわからないだろ?」
そう軽く会話をした後、僕達は対戦の準備を始めた。
その時、何を心配してか、禁断竜王が僕に
(主、大丈夫ですか?)
(大丈夫だよ、禁断竜王。君も心配性だな、全く……)
(ハァー、違います。ワタシが心配しているのは、今の主のデッキで、彼女に通用するかどうか、です)
(……大丈夫だよ)
何が言いたいのか、
(今のこのデッキでどこまで戦えるか、試したいんだ。だから……)
(わかりました。ワタシはもう何も言いません。主のやりたいようにやってください)
(ありがとう、禁断竜王……)
(そのかわり……必ず勝ってくださいね!)
(……わかったよ)
いつも間にか、結衣ちゃんは対戦の準備を終えており、それを見た僕は急ぎ、対戦の準備を終えた。
「……お二人とも、準備はよろしいですか?」
「はい!」
「いつでも……」
対戦の準備を終えた僕達を見て、ジャッジの人が僕達に確認をとり、僕と結衣ちゃんは、それぞれ返事を返した。
それを見た実況者さんは軽くマイクを叩いて、音が鳴ることを確認した後、マイクを持って、立ち上がった。
「それじゃあ、皆さん!一緒にデュエマ・スタート!と、言いましょう!対戦のお二人も、観客の皆さんに聞こえるように、大きな声でお願いします!」
「ええ、面倒……」
「まあまあ、そう言わない」
「わかったわよ……」
実況者さんの提案に、結衣ちゃんは渋々同意し、僕は深呼吸をした。
「それじゃあ、皆さん!いきますよ!デュエマぁぁ……──」
『──スタートッ!!』
その言葉を合図に、僕と結衣ちゃんは対戦を始めた。