「まさか、先輩が同じ相手に二度負けるなんて……」
「仕方がないわ。相手は中学から勝のことを知っている結衣ちゃんよ。そう簡単に勝てる相手じゃないわよ」
「そう、ですが……」
夏祭りで開催された連勝チャレンジを終えた後。ひよりは勝が結衣に二度負けるとは思わなかった。
そんな彼女を、先輩である咲恋は中学から勝のことを知っている結衣だから仕方がないと割り切り、ひよりを慰めるも、ひよりは納得できず、売店で購入したフランクフルトを頬張る。
「それはそうと、その勝がどこにもいないんだが、どこ行ったんだ?」
「そう言えば、焔先輩もいませんね……?」
ふっと、連勝チャレンジを終えた勝の姿が見当たらないことに気づいた想はそう口走り、それを聞いた翔は秋乃が居ないことに気づく。
それを聞いた咲恋は深い溜め息を吐き、マリとエリカに視点を向けると、二人は首を振った。
「全くもう!あの二人、どこほっつき歩いてるのよ!」
「──あの二人なら、祭の近くにある川沿いに向かったぞ」
『!?』
突然、二人の行方を知る人物──結衣が通う
「話って何かな?結衣ちゃん?」
連勝チャレンジの後。勝は結衣に呼び出され、祭の近くにある
「……それよりも、何で貴女がいるの?」
「わたくしは勝様の今の彼女ですわ。故にわたくしが一緒にいるのは当たり前のことですわ」
「……」
秋乃の説明に、結衣は深い溜め息を吐いた。
同時に、結衣はこう思った。
(この女、絶対それだけじゃないでしょ……)
以前、結衣はジャシン帝を復活させるために、秋乃のメイドのエリカに手を出している。
その際、秋乃はどれだけ傷つけられたか、想像に
故に、秋乃にとっては結衣は彼女の身内を傷つけたことに、内心、腹が立っている。
「……ハァー。本当は勝と二人きりで話したかったけど、仕方がないわ。貴女にも一応、関係ある話だし」
「え……」
「?それはどういうこと?結衣ちゃん?」
突然、勝と二人だけで話そうと思っていた結衣は秋乃がいることを諦め、二人にあることを告白する。
「近いうちに、貴方達は大事なものを失うわ」
「「──え?」」
その告白に、二人は驚き、その場で固まるも、秋乃はすぐに否定した。
「な、何を言ってのですの?そんなことを言って、わたくし達を惑わそうと──」
「──本当のことよ。そして、その
「ッ……」
突然、秋乃の言葉を遮り、これから起こる出来事をまるで見てきたかのように、結衣は強く言い切った。
それを聞いて、秋乃は黙り込み、勝はどういうことなのか、結衣に問いかけた。
「どういうことなの?結衣ちゃん?」
「……少し前に夢を見たわ。目の前で貴方達が
「そんな話、信じられるわけありませんわ!」
「僕は信じるよ」
「「!?」」
突然、結衣の話を信じると言い出す勝に、二人は驚き、秋乃は叫び声を上げた。
「勝様は彼女の話を信じるのですの!?いや、それ以前に!彼女はわたくし達を散々傷つけたのですのよ!そんな人を許せるのですの!?」
「別に許してないよ」
「だったら……!」
勝は秋乃の気持ちは痛いほど、わかっている。
だが、それ以前に、勝はあの合宿で出会った自分と、合宿に行く前に見た夢を思い出す。
自分の中では、これらはもう起こった後、あるいは、起こる前に回避したとばかり、と、ずっと思っていた。
──だが、実際は違った。
結衣の話で、それらはまだ起こっていない。
ましてや、近いうちに、自分と彼女である秋乃の前に現れることに、勝はどう
──ただ一つ、疑問がある。
(……何で結衣ちゃんなんだろう?)
こういった出来事は大抵、同じ現象にあう人物しか見れない、あるいは、知らないはず。
結衣とはジャシン帝の復活以降、一度も関わっていない。
──故に、不思議である。疑問である。
だが、今はこれから起こる未来を回避するため、敵である結衣に、勝は彼女に協力を仰ぐのであった。
──ジャシン帝の復活を抜きにして、だ。
「……正直言って、君がキャルを巻き込んだこと、ジャシン帝を復活させるために、エリカに手を出したこと……これらの件を僕はまだ許してない。けど……これから起こる未来を回避できるなら、君に協力を仰ぎたい。ダメかな?」
「……(難しい言葉を使うようになったわね。けど……)悪いけど、私が協力できるのは、この情報を提示することぐらいよ。後は貴方達で何とかしなさい」
「……わかった。一応、お礼を言っておくよ。ありがとう」
「お礼ならいらないわ。今の私は、それを言われる筋合いがないわ……それじゃあこれで」
「待って、結衣ちゃん」
この場から離れようとする結衣を、勝は待ったをかける。
「何よ?まだ聞きたいことがあるの?言っとくけど、本当にこれ以上の情報を提示できないわよ」
「わかってる。ただ君に言いたいことが一つある……今回は負けちゃったけど、次は……僕が勝つ」
「……そうね。次があるとしたら、デュエマ甲子園の決勝戦ね」
「ああ、そうだね……」
「……それだけ?」
「うん。それだけ……」
勝の返事を聞いた後、結衣は今度こそ、その場を後にした。
結衣が去ったことを確認した後、秋乃は勝に詰め寄り、突然、怒鳴り声を上げた。
「勝様は何故彼女を信じるのですか!?」
「!?急にどうしたの?秋乃さん?」
「どうしたもこうしたもありません!彼女はわたくし達を
「別に全部を信じているわけじゃないよ……ただ、僕もその夢を見たんだ」
「……!?」
──夢を見た。
その言葉に、秋乃は更にブチギレ、先程よりも激しく、怒鳴り声を上げた。
「それを……それを何故黙っていましたの!?何故、わたくしに言ってくれませんでしたの!?」
「!?秋乃さん……?」
突然、怒鳴り声を上げる秋乃に、勝は訳がわからず、困惑する。
それを見た秋乃は……。
「勝様の馬鹿!最低!もういい!知りませんわ!」
「秋乃さん!待って……!」
この場から立ち去ろうと秋乃を、勝は手を伸ばし、彼女の腕を掴み、待ったをかける。
「触らないで!」
「……!?」
しかし、秋乃はその手を払い、勝に拒絶する。
秋乃から拒絶された勝は足を止め、再び、手を伸ばし、足を動かすも、また彼女に拒絶されるかもしれない、と、そう思った勝はまた足を止め、そこから先動けず、彼女が立ち去る姿を眺めることしかできなかった。
「……」
やがて、秋乃の姿が見えなくなり、完全に一人になった勝は、その場で立ち尽くし、自分はどうすれば良いか、わからず、その場で悶々と考えた。
「僕は……どうすれば良かったんだ?秋乃さん……」
一方で、誰もいない公園の中で一人の少女──赤羽結衣はベンチに座り込んでいた。
「……なーにが次は勝つよ。バッカみたい」
勝と秋乃と別れた後。結衣は先程、勝との会話を思い出していた。
毒舌を吐きながらも、子供みたいに負けず嫌いな所は相変わらずだ、と、脳裏でそう思い、結衣は少しイラついていた。
だが、内心、どこか嬉しそうな表情をしている結衣の顔を察して、デッキケースの中から、Drache der'Zenが声を掛ける。
『その割には、さらっと再戦の約束をしているではないか?』
「茶化さないでよ、ドラッヘ。アレは……その場の流れよ!深い意味はないわ!」
『そうか……』
深い意味はない、と、結衣はそう言い切る。
それを聞いたDrache der'Zenは、そこまでハッキリ言わなくても良いだろうに、と、口には出さないが、主人である結衣に、少し呆れていた。
(こういう時、女は未練がましく、面倒なんだよなー。まぁ、少し面白そうだから、泳がせておくか。水だけに……)
「……今、変なこと考えてない?Drache der'Zen?」
『!?ハハハ、そんなことはないぞ!僕がそんなこと、考えるわけないだろ?』
「どうだが……」
『……それよりも、ユイ。君に話したいことがある』
「?何よ、
突然、話したいことがあると言い出すDrache der'Zenに、結衣は問いかける。
次の瞬間、Drache der'Zenは思いがけ無いことを結衣に言い出した。
『……ユイ。聞いて驚かないでほしい。今はまだ僕達が勝っている。だが、いずれ彼に負けるだろう。そうなる前に手を打っておきたい』
「……」
ふっと、結衣は先程の連勝チャレンジで勝とデュエマをしたことを思い出す。
あの時はシールドの中に、《
──だが、もしも、《ヒメカット》がなかったら?
──もしも、《
──もしも、《
と、あらゆる可能性を考え、あの場面で総攻撃を受けていたら、間違いなく、結衣は負けていた。
そう悟った結衣はDrache der'Zenに問いかける。
「……どうすれば良いの?」
『何、簡単なことだ。僕達が今以上に強くなれば良い』
「……具体的には?」
『わからない。けど、先程の対戦で、僕の中に何かが目覚めかけた。否……火がついたような感じがした』
「感じがしたって、かなり曖昧ね……」
『仕方がないさ。なんて、僕ですら感じたことのない感覚だ。故に感覚でしか、君には伝えられない……』
「……あっそ。それなら一つだけ、手はあるわ」
『……え?』
先程のDrache der'Zenとの会話で、結衣は何かを掴めたのか、デッキケースから《瞬閃と疾駆と双撃の決断》と《
突然、その2枚を取り出した結衣にDrache der'Zenは問いかける。
『……ユイよ。その2枚をどうするんだ?』
「前から思ってたけど、貴方達、マジック・クリーチャーって、火文明のカードと何かと
『ん?それがどうかしたのだ……?』
「……これは私の可能性の話で、もしもの話だけど……」
『……』
ふっと、Drache der'Zenは結衣の瞳を覗いた。
それは真実に辿り着こうとする探究者、あるいは、真実に気付いた名探偵に近いものだった。
──そして、結衣は口を開き、Drache der'Zenに問いかける。
「……Drache der'Zen。私がこれから質問することに正直に答えてほしい。火文明のマジック・クリーチャーって存在する?」
『……存在はする』
──即答だった。
一瞬、黙っておこうかと思ったDrache der'Zenは結衣の目を見て、彼女が本気で強くなりたい、と、強く願っていた。
その強い意思を感じたDrache der'Zenは結衣の気持ちを尊重し、即答で答えた。
『存在はする。だが、今はまだその時ではない。けれど、近いうちに君はその力を手にする。故に今は力を蓄える時だ。僕も……否、オレも、その力を持っているからな……』
「……!?」
一瞬、Drache der'Zenの影に別のクリーチャーの姿が浮かび上がった。
それを見た結衣は驚き、小さく、笑みを浮かべた。
「……そう。私は……否、私達は強くなれるんだね、Drache der'Zen?」
『──ああ。時がくれば、な』
それを聞いて、結衣は2枚のカードをデッキに仕舞い、無邪気な子供のような表情で、その時が来るの楽しみにした。