お気に入りがいつの間にか200を越えていて大歓喜!です。
皆さま、これからもよろしくお願いします。
「キリト、お前ギルドに入ったんだな」
ボス討伐後、新しい階層に行くのはひとまず後にしてキリトやクライン達と酒場へ入った俺は、もう逃げること叶わぬ状況ゆえに仕方なく、ほんとに仕方なくキリトと再びフレンド登録した。
攻略の鬼が後ろで睨み付けてくんの。マジ怖い。
「ああ、月夜の黒猫団っていうギルドにいる。高校生の友達ギルドらしいんだけど、攻略組入りをしたいっていうんで、今鍛えてるよ」
「やり過ぎに注意しろよ。そういうのは定期的に無理したくなるのが多いからな。ソースは俺」
「お前なのかよ……」
「レベル上がりまくってやれること増えて、結構無茶なダンジョンとか挑みたくなるだろ?
でも、このゲームでそれをやったら、死んでおしまいだ。キリト、そうなったときは多少きついこと言ってでもやめさせろ。それ、全部お前に乗っかることになるからな」
「……わかった。絶対にあいつらは死なせない。一緒にクリアしようって言われたんだ」
「良かったじゃねぇか。ギルドの連中はお前が攻略組なのは知ってるのか?」
「言ってあるよ」
まぁ、攻略組を目指すギルドならキリトが攻略組のプレイヤーってわかったら大歓迎か。
キリトがどれほどのプレイヤーか知ってるかは怪しいが。
「……と、そういやこいつどうするか」
「どれ?」
「今見せる」
ストレージから先ほどボスドロップした武器を取り出した。
ラストアタックボーナスで獲得したあのボスが持ってた刀だ。俺の持つ刀よりも刀身は長く、反りは少ない。
「要求が足りてないんだよな。敏捷でいいからそこまでじゃないけど……」
「名前は……雷切丸って。平安時代の刀かよ。茅場は陰陽師でも見てたのか?」
しかもあれ、こんな見た目じゃなかっただろ。
……って、ゲームにそこまで求めるもんでもないだろうけどさ。
「まぁ、しばらくはお蔵入りだな」
ストレージに戻して、それから一息つく。
それなりに短い時間でボスを倒せたことは大きく動くのか、新規攻略組、増えると便利にはなるが。
「攻略組、増えるといいよな」
「でも、軍の動きには注意しないと」
クラインの言葉に少し神妙な顔でアスナが答えた。
軍……キバオウのところだな。
「元々ディアベルの取り巻きで、見る感じ自己顕示欲も高い。装備もプレイヤースキルもまぁまぁなんだろうが、少なくともディアベルの代わりにはならないな。いろいろ足りなすぎる」
軍の古参。という強みだけしかないくせに、余計なことをしないでくれるといいが。
「さて、と。俺は宿に戻る」
「え、もう行くのか?」
「クライン、ぼっちは一人の時間が愛おしいんだよ」
ヒラヒラと手を振って、俺は酒場を後にした。
外に出ると解放感を得て思いきり息を吐いた。まず今の宿を引き払って新しい階層に移動するか。
……わりとぎりぎりまで行ったからな、精神的にも疲れてるし、今日は早めに寝るようにしよう……
「……なんなんだろうな、ほんと」
危機的状況だから、ある種のつり橋効果なのだろうか。遊んでる場合じゃないなんて俺自身が言ってるしな。自分からこんなに話すのも珍しいし、話しかけられるのも珍しい。
……まぁ、俺はそれなりの腕もあるから、実力がものを言うこういうところだと話しかけられるのかもな。
……だめだ全然嬉しくねぇ。が、俺と友達になりたいと言ったキリトの言葉は、話し半分くらいには聞いておくことにした。
クリアしたら会うこともないだろう。っていう保険にも似た考えが、俺を予想以上に積極的にしてるのかもしれないが。
―――――
あれから一ヶ月ほどで、攻略の様相はかなり変わった。 攻略組へ参入したい中位ギルド達も安全性を重視した上で迷宮の攻略。ボス戦には参加しないものの、ネットワークの広がりや強さの水準が軒並み上がりながら順調に進んでいた。敵も強くなり、まだ足並みが揃ってこそいないものの、落ち着けば攻略スピードは増すことだろう。
かくいう俺も、25層のボス部屋探しとレベリングの為に迷宮を徘徊していた。パーティ? ばっかお前、ソロに決まってるだろ。キリトはギルドを鍛えつつ攻略、アスナはそもそも知らないし、クライン達もギルドで動いている。そして俺はぼっちなりの動きかたでやらせてもらってるわけだ。
「よっと」
着実にレベルは上がっている。俺はあの雷切丸を装備する為にとにかく敏捷を上げることにしているんだが、ますます速くなってるらしい俺はあの黒歴史時代にでも自分に付けそうな二つ名が定着しそうになっていた。
「キリトとかアスナの方が派手で目立ってるが、な」
あいつらは別格だ。23層のボス攻略でラストアタックを取ったヒースクリフってタンクもか。あれも俺らにはない防御面での強みがあるしな。
ちなみに攻略組で戦ってみたくないプレイヤーで晴れて一位を取ったのは俺らしい(アルゴ談)。相変わらずの嫌われものである。……別にいいし、ぼっち万歳。
「おや、ハチマン君か」
「……うす。お前もマッピングか、ヒースクリフ」
「そんなところだ。お前も、ということは君もか?」
「まぁな。レベル上げがてら、適当にな」
「ふむ。では、パーティでも――」
「それは断る。ボス戦ならいざしらず、な。俺はこれが気楽なんだ」
即答した俺に嫌な顔一つせず、ヒースクリフは笑みを浮かべた。人の良さそうな奴に見えるのに、何故か裏がありそうに見えるのは、まぁ、俺だからか。基本的に信用とかしないしな。
「なら、次のボスでは君とのパーティを望もう。キリト君やアスナ君にも興味はあるのだがね」
「……後ろからフレンドリーファイアはするなよ?」
「はは、君は本当に面白いことを言う。やる気もなく、捻くれた物言いで、辛辣な言葉を平気で投げ掛ける。なのにいざ戦闘が始まれば誰の目に止まるよりも速く攻撃をしかける」
「何が言いたいんだ?」
「知っているかね? キリト君やアスナ君もだが、君も攻略組、引いては攻略組を目指す者にとって目標の一人なのだよ。
誰よりも速く、真っ先に攻撃を与えるその姿は勇敢に映るものだ」
「そりゃつり橋効果って奴だな。確かに俺はボス戦でそれなりに仕事してるつもりではいるが、この速さの大元はソロで敵に囲まれたときに逃げれるようにして振ってたものだし、勇敢てのもおかしい話だ。適材適所だろ? 俺は速いから真っ先にヘイトを取って後続に殴ってもらう。ヒースクリフ、お前が盾を持って守りに徹してくれてるのと同じだ」
「……君という男は、大人びているのか子供なのか、わかりづらいな」
「少なくとも、アンタよりは年下だろうよ」
「それは違いない」
何が面白かったのか、楽しそうに笑うヒースクリフ。
……まぁいいか。そろそろ行こう。話すの疲れたし。
「パーティの件は会議の時に勝手に申し出てくれ。決まったらそれに従うから。じゃ、俺は行くぞ」
「うむ、では、またな。ハチマン君」
ヒラヒラと手を振って、迷宮を歩き出す。そもそもあいつ、俺とパーティ組むのは構わんがタンクで俺と足並み揃うのか? 最近キリトやアスナでもこと移動に関しては俺と足並み揃えるのきつそうなことがあるってのに。
「……ま、そのときに考えるか」
ひとまず湧いたモンスターを倒すために刀を抜く。さて、やるとするか――
「あ、あのっ」
「あ?」
なんか、聞き覚えがありそうな、なさそうな声が聞こえて振り向くと、そこには黒い髪に白い防具、そして槍を両手で持った女が立っていた。
ヒースクリフが出たり、わかる人は最後の少女は誰かすぐにわかるのではないでしょうか(笑)
さらっと黒猫団全滅のフラグを排除していく立ち回りな八幡さん。
キリト、ビーターの後ろめたさがないので素直に自分のことを説明していたりと、ハッピーエンドへの階段は地道に昇っている……はずです。
ではでは、また次回で。