エピソード間でポン。と時系列は飛ばせるのですが……
と、始まり始まり。
「つまり、パーティメンバーとはぐれて、俺が一人でモンスターに囲まれてたから声かけた、と」
「うん、そうなの。その、攻略組の人だったんだね」
「そうでもなきゃこんなところにいないだろ。お前は攻略組ではないのか?」
「うん、まだね……ギルドメンバーに一人、攻略組の人がいるけど。私達はいわゆる中位ギルドだから」
この雪ノ下に声が似てる女はパーティメンバーとはぐれて、咄嗟の善意で俺を助けようとしてくれたらしい。いや、まぁ心意気はいいとは思うが。
「ずいぶん無茶してるもんだな、レベリングかなりきついだろ? 俺が弱かったら二人して死んでたぞ?」
「それは……」
あー、雪ノ下の声でガチ落ち込みはやめてもらいたい。なんか嫌な感じになる。
「まぁいい。他のメンバーは大丈夫そうなのか?」
「今日は攻略組の人もついててくれてるから、安全なマージナリングでやるつもりだったの。はぐれちゃったけど」
「追跡スキルは?」
「……取ってない……」
「……はぁ」
なんともまぁ、間の抜けているというか。声が雪ノ下に似てるだけ、か。
いや、あいつがここにいても困る。由比ヶ浜がここにいても困る。いたら絶対前線になんか出させない。
「わかった。見殺しにするわけにもいかねぇしな。メンバーと合流できるか、入り口に戻るまでは同行してやる」
「ありがとう。私、サチっていうの。あなたは?」
「ハチマンだ」
サチと名乗った女は俺の名前を聞いて神妙な表情を浮かべた。
なんだよ、まさか名前知れ渡っちゃってるの? え、なにもしかして大量の良からぬ噂が――
「もしかして、キリトの友達?」
「あ?」
思いがけない名前に、俺は思わず固まった。キリトの友達……キリト……ってことは、
「もしかして、月夜のなんちゃらの奴か?」
「うん。月夜の黒猫団のサチっていうの。ってことはやっぱりキリトの友達の――」
「あいつとはフレンドだな、確かに。ってことは来てるのか、あいつ」
友達とはまだ認めてない。フレンドと訂正して、俺はキリトへメッセージを送った。
このお守り、思ったより早く終わりそうだ。
―――――
「ハチマン!」
「よう、キリト」
「助かった。悪い」
「監督するならしっかりしておけよ。こういうとき、責任を負うのはお前になるんだぞ。だから俺はそういう立ち位置は嫌いなんだ」
少ししてキリトが何人かの男を引き連れてやってきた。
少しきつめに言って、ちょっとだけ凹ませておく。
……なんでこんな偉そうなんだ俺。
「まぁ、気を付けてやれよ」
「……うん、気を付ける」
反省してるのか、いつもの男らしさはナリを潜めて素直に頷いていた。
……小町もこれくらい素直に話を聞いてくれればいいんだけどなぁ。
「これでこの話はおしまいな。じゃ、俺は行くぞ」
「あ、待ってくれよハチマン。その、ギルドメンバーの紹介くらいさせてくれよ」
ええー……
「あ、俺は月夜の黒猫団のリーダーのケイタだ。よろしくな。
で、そっちのメイスを持ってるのがテツオ。ソードを持ってるのがササマル、槍を持ってるのがダッカーだ」
「……キリトから聞いてるだろうが、ハチマンだ」
「影纏いのハチマン、だよな?」
「おいやめろキリト。それ恥ずかしい」
「なんでだよかっこいいじゃないか」
……あ、こいつの年齢はそういうのドストライクか……
「さっき見せてもらったけど、ハチマンって本当に早いんだよ? いつの間にかいなくなって攻撃してて」
「スピード重視だからな。そこのバカ力とは違う」
「んなっ、酷くないか!?」
「キリト、お前の背負ってる剣の重量って確かソードとほぼ同じだよな?」
ほら、後ろの二人もそれ聞いて引いてるぞ。
「ハチマンだって、いつも瞬間移動して後ろから斬りかかってるだろ。なんだよあれ、反則だろ」
「ばっかお前、俺は影が薄いんだよ。ステルスなの。わかる?」
……あれ、なんか俺も引かれてる?
「ところでサチはどっちがメイン武器なんだ?
剣と盾を振り回すのも構わないが、槍の方がまだ使えてるぞ?」
「あー、それなんだけど」
ケイタの説明では、キリト加入によりパーティ内での装備を見る限り、サチは盾を持って動いた方がいいのではないか、ということだった。
本人達が納得済みなら別にいいんだが。
「私……ちゃんと前でキリトの背中を守りたいから、盾、頑張る」
ヒューヒュー。なんて声が入って顔を赤くするキリトとサチ。ふむ、つまりあれか。
「リア充爆発しろ」
「ハ、ハチマン!」
キリトの奴、やっぱりぼっちじゃねぇじゃねえか。
……悔しくなんかないからな。
「……ん?」
不意に、ピコン。とメールが届く音がした。
アスナからだ。どうしたんだろうか、あの攻略の鬼が寄越すメールなんて、基本的にレベリングか、よくわからん連携の練習か、と攻略のことばかりだ。
またそれらの依頼かと思ったら、キリトにも来てるのか、あいつもウィンドウを開いていた。
「キリト、お前もアスナからか?」
「ああ」
俺ら二人に……ってことはまた違う用事か?
そう思ってメールを開いて俺は絶句した。
――それは、アインクラッド解放軍が見つけたボス部屋に自軍のみで参加して、壊滅したという内容だった。
はい、そんなわけで黒猫団登場。まだゲーム感覚があるように書いてますが、徐々に現実を知っていってもらいましょう。
八幡は結構辛辣で、海老名さん曰く「どうでもいいと思ってる奴には素直」なので、わりときついことを誰彼構わず言いそうです(笑)
次回、初のクォーターポイント攻略。この階層の攻略を以て、このエピソードは終わりになります。
ではでは、また次回に。