八幡のユニークスキルは抜刀術となりました。大変申し訳ありません。
「っは」
24層の雑魚モンスター相手に今日も今日とて熟練度上げ。それなりにこのスキルの方向性とか、長所と短所を理解してきた。
まず、速い。剣速に関しては斬るという行動では最速クラスだろう。突くになると細剣という特化には敵わないだろうが、こと斬ることに関しては間違いなく最速だ。あとは、鞘から抜き放つとスキルが刀へ戻るので刀のソードスキルへのコンバートがとてつもなく速い。まぁ、抜刀術なんて言うくらいだから、抜いてしまえばただの刀なんだろう。理屈には合ってる。抜刀術はあくまで納刀状態でのみ発動するユニークスキルなわけだ。
「それなりに慣れてきたな……」
次は短所。まぁ、わかりやすく隙が大きい。当たればほとんどお陀仏な故に、思いきりすかせば絶大な隙を晒すことになる。一応、連撃技もあったりはするがどこぞの流派のように全部が全部隙を生じぬ二段構えってわけでもない。
ついでに言えば、抜刀術の際に左足で更に踏み込んでみたけど特に速くもならないし威力も上がらなかった。すかっても真空空間できて相手を引き寄せるとかなんなんだろうなあの流派の奥義は。
「どっちかって言えば瞬天殺の方ができてる気がするな。縮地してるわけじゃねぇが」
体術スキル持ってないから壁走りとかできないしな。取っても良かったが今さら面倒だ。
「……っと、誰か来るな」
俺の索敵スキルにプレイヤーが引っ掛かった。迷わずこっちへ歩いてくるそいつは……
「お前か、アスナ」
「こんにちは、ハチマンくん」
白と赤を基調とした服やマント……ヒースクリフの作り上げたギルド、血盟騎士団のユニフォームを着込んだアスナが立っていた。
現在56階層。55階層にホームを買ったヒースクリフは宣言通りギルドを作った。50人ぐらいの中規模ギルドだが、その全員が攻略組のハイレベルプレイヤーで出来上がってる、攻略に関しては最強のギルドだ。
リンドがそれを意識してか56層に改めて聖龍連合のホームを立てたのにも思わず笑ったが。
とにかく、これで四強の中で無所属は俺だけになっちまった。いや、いいんだけどさ。ギルドとか、面倒だし。
攻略組を支えてるギルドは血盟騎士団と聖龍連合。そして後続や新規の攻略プレイヤー達の為にと動いてもいる風林火山や月夜の黒猫団がある。クライン達も充分に攻略組のハイレベルプレイヤーだから、そんな奴らの支援を受けれるのは新規の攻略プレイヤー達にはありがたいだろう。月夜の黒猫団も、あのキリトを有しており、団員も少し増やしたからか14人くらいのギルドになっていた。まったくもって、みんな攻略に一生懸命で嬉しい限りである。
「……ねぇ、聞いてる?」
「いや、まったく」
アスナが何か話していたらしい。少しムッとした表情になったが、俺が聞く意思を見せたのに溜飲を下げたのかすぐに口を開いた。
「迷宮探索もせずに、どうしてこんなところにいるのかって聞いたのよ」
「あー、それな」
この攻略の鬼は俺が迷宮を回ってないことに小言を言いに来たらしい。
副団長ってのは鬼になりやすいのかね。そのうち敵前逃亡は士道不覚悟とか言い出しかねん。
「しかも雷切丸じゃなくてコモン武器の刀なんか持って、どうしちゃったの?」
「……クエスト中だ。条件付きのでな、刀の装備レベルも決まってるんだ。レベル的にももう足りてるし、迷宮探索もそれはそれでやってるからあまり関わってくれなくていいぞ」
抜刀術のことはまだ言えない。いくらこいつとは言え、今ではギルド所属で、こいつの上司は同じユニークスキル持ちのヒースクリフだ。
面倒な絡みになりそうなのはわかりきっている。
「……なら、いいけど」
「……なぁ、アスナ」
まだ不満げなアスナに、俺は頬を掻いてそっちを見据えた。
目とか合わせたら死にそうだからそこはそらしたままで。
「ゲームクリアしたいお前の気持ちはわかるし、心からそれには賛同してやる。が、あまり先走り過ぎても誰もついて来ないぞ。何をそんなに焦ってる」
「っ、キミがそれを言うの?」
「生憎、俺はもう開き直ってる。絶対に向こうに帰る気だし、その手段についても、現実的なモラルに基づいてさえいればなんだってする。けど、それとこれとは話が違うだろ。
……お前、肩肘張りすぎてそのうち疲れきるぞ。寄り道したっていいじゃねぇか。このゲーム、間違いないくらいのクソゲーだが、案外褒められる所もあるもんだ。今日だって晴れてるし、モンスターさえいなければ昼寝日よりじゃねぇか」
「……そう」
アスナの表情は、とてもわかりやすいものだった。
絶望してからの、諦め。……なんだ、こいつ俺に何かしらの希望でも抱いていて、それでいて多分、俺があいつの思う俺ではなかったんだろう。
勝手に期待して、勝手に失望すんな。と言いたいところではあるが、俺もかつて雪ノ下に同じことを思ったことがあるからわからなくもない。曲がりなりにも四強とか呼ばれちまってるしな、お互い。
もっとも、こいつは俺と違ってそんな自分を嫌悪してるわけじゃなさそうだが。
「結局、あなたもそうなんだ。クリアしたいなんて口だけで――」
「おい、あまり言うとお前をフレンドから消すぞ」
誰が口だけだ誰が。おそらく年下だろうアスナは……これが若さってやつなんだろうか、真っ直ぐなのはいいが、それを全てにされても困る。
あれ、俺にそんな若いときってあったかな? ……ああ、黒歴史があったわ、死にたい……
「いいか、俺は攻略には付き合う。ちゃんと役に立ってやるし、指示にも従ってやる。四強なんて不本意な位置にもいるし、それなりに仕事はしてやる。だけどな、お前の特攻に付き合う気はない。あまりぼっちを縛り付けようとしてくれるな」
……珍しく、苛立ってたのか結構な言葉を言ってしまった。
こっちに来てから俺もところどころおかしいな。いちいちこんなこと言うような奴でもなかったはずだ。
……良くも悪くも、命がけのこの生活で俺も変わってきちまってるってことか。まぁ、いつも通りがなにも通用しないからな。問題は解消も先送りにもできない。解決するためには、適した状態になるしかない。
雪ノ下や由比ヶ浜が今の俺を見たらなんて言うだろうか。雪ノ下は変わらず罵倒してきそうだが……ああ、そんな状態ですらなかったな、今の奉仕部は。
「……まぁいい。俺は行くぞ、じゃあな」
少なくとも俺自身の変化のことはまだ先送りにできる。
けれど最後のリアルでのやり取りは、案外俺を縛り付けているらしい。あの二人が俺を見限らない限り、俺は俺らしいやり方を取れない。……いや、命がけなら小町がいる限り無理か。それ以外でなら、こいつらとはこのゲームまでの関係だから、いくらでも切り捨てたりできるんだが。
目の前の、どういうわけか泣きそうな顔で俺を睨み付ける女に対して、俺は文字通り、逃げることにした。
そんなわけで、今回からアスナさんとはちょっと不仲に……
アスナ好きな人にはしばらくごめんなさいと言っておきます。
八幡もだいぶ変わってはきましたが、本質は八幡のままですので、こういう人間対人間の内面的な話は凄く難しいですが、頑張りたいと思います。
ではでは、ありがとうございました。