ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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Episode3,part3

――side アスナ――

 

 

「……なによ」

 

 

結局、自分だってゲームを楽しんでるじゃない。クリアしたかったんじゃないの?

だから最前線で、最速で、あんなに危ない役目を背負っていたんじゃないの?

 

 

「私は焦ってない。焦ってなんて、いるもんですか」

 

 

それになによ、あの顔。全部わかってるような……目が濁ってる癖に!

 

 

「……結局、私だけ。やるしかない……」

 

 

私がやるしかない。絶対に立ち止まらない。

このまま、進んで、クリアしてみせる。

 

 

――side 八幡――

 

 

「隣、いいかね」

 

 

「……お前か、ヒースクリフ」

 

 

56層のレストランで、隣に最強プレイヤーが座った。

あー、そろそろ本気でサイゼが恋しい……MAXコーヒーも飲みたい。起きていきなり飲んだりしたらだめかな? だめだろうな……

 

 

「56層のボス部屋、そろそろ見つかりそうだ」

 

 

「そりゃ良かった」

 

 

「今回、私は指揮と前線に出られない。たからアスナ君に全て任せるつもりだ」

 

 

「……おい、さすがに危ないだろ、それ」

 

 

「危ない、とは?」

 

 

「聞き及んでないとは言わせねぇぞ。ここ最近のあいつ、マジで攻略するだけの機械と化してる。血盟騎士団の評価にも繋がるぞ?」

 

 

さすがにわかってはいるらしい。ヒースクリフは珍しく困ったような顔をして、一度ため息を吐いた。

 

 

「彼女のクリアへの意思は本物だ。頑なだとも言える。が、私は彼女の意思を尊重したいのだよ」

 

 

「取り返しのつかないことになったら、あいつはおしまいだろうけどな」

 

 

今のアスナからは、どこか昔の雪ノ下に似た感覚を覚える。

立ちはだかる物は陽乃さんよりも強大で、追い詰められ方もあちらと違って命がけだが。

 

 

「珍しく、彼女のことを気にかけるな」

 

 

「そりゃ、下手うって攻略遅れたりしたら困るからな」

 

 

「それだけかね?」

 

 

「あ?」

 

 

ヒースクリフとは、わりとこうやって飯食ったりする。大人の距離感というか、俺が話を打ち切りたい時には乗ってくれるからか、話しやすく、思慮深い奴だからか、話しやすいというのもあった。

が、珍しく話を切らずに続けてくるヒースクリフ。思わず見ると、こちらを見て笑っていた。

 

 

「君は、どうでもいいと思うものにはとても素直な印象を受ける。だから平気で糾弾できるし、躊躇わずに辛辣な物言いもできる。おそらく、普段はそんな言動すらしないのだろうが」

 

 

よくわかってるじゃねぇか。ま、普段は空気となってひたすらに場を流しているだけだからな。

クラスの負担にならない俺まじステルス。

 

 

「あとはあれだな、君は感情に鈍感だ。理解はしているが、理解しているだけで感じてるわけではないと思われる」

 

 

「そうでもないと思うぞ」

 

 

まるで平塚先生みたいな物言いだ。ヒースクリフは俺に何が言いたいのか。

 

 

「知らぬは本人ばかり、だ。

そのくせ君は、自分が身内に線引きした相手には甘そうだな。そういう人間には、自分を隠してでも上手く回そうとしそうだな」

 

 

「……」

 

 

「当たらずとも遠からず、といったところかね?

しかし、君も難儀だな。初めて会ったときに比べて表情が豊かになった」

 

 

ヒースクリフは満足したように言うと、まだ話を続けるらしい。水を飲んでコップを置いた。

 

 

「賞賛、尊敬、嫉妬、対抗心。君の言動が本当なら、今までこういった感情とは無縁だったろう。もしかすると、感情を向けられることすら、ね。否が応でも変わらざるを得ない、この環境はどうかね?」

 

 

……言い返せない。最近、俺に話しかけるプレイヤーが増えた。

迷宮を歩けばパーティにも誘われる。敵を倒せば褒められ、ボス討伐に参加すれば期待され、討伐すれば労われ。まるで、俺が俺でない扱いを受けている。

違うだろ、そうじゃない。俺が受けるべき扱いでないはずで、それは全てキリトやアスナ、ヒースクリフに行くべきもののはずで。

 

 

「君はある種、"完結"している人間だ。下手な大人よりもよっぽど大人びている。しかし、君は"未完成"だ。出来上がりには程遠い。大いに感情に振り回され、悩むといい」

 

 

「お前、教師か何かかよ」

 

 

「いや、そんなものではないよ。まぁ、簡単に言えば年上からのちょっとしたアドバイスだ。それと、仕返しも兼ねている」

 

 

「仕返しって、何のだよ」

 

 

「ちょっとしたことさ。君は自分の知らずのうちに私のプライドを傷つけた。だから愉快な仕返し、と思っていてくれ。少しでも、君の成長に繋がることを」

 

 

ニヤリと笑って、ヒースクリフは椅子から立ち上がった。

俺の返答より先にレストランを出ていく。

 

 

「……何がしたかったんだ、あいつ」

 

 

ぼそりと、俺は自分のめちゃくちゃな心の内を誤魔化すように言ったのだった。


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